小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作) 第6.5話 『その個体の名は』 魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020 第6.5話 『その個体の名は』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 蒼凪恭文……実はまぁ、シグナム姐さんから話だけは聞いてたんだよ。 俺と同じ……もとい、以前の俺と同じワンスキルホルダーに数えられる魔導師で、あえて苦手な領域≪クロスレンジ≫で天下を取りに来る大馬鹿野郎とな。 武装局員として言わせてもらえば、あまり見習えない魔導師だ。だが……一人の男としては理解できる範疇でもある。 自分の力で……鍛えた技と信頼できる刀≪デバイス≫一つで、世界最強になろうってんだ。男として燃えないわけがないだろ? そう、世界最強だ。シグナム姐さんはこう言っていたんだよ。 ――蒼凪が常に見上げているのは、ヘイハチ殿だ。 もしヘイハチ殿が次元世界最強のマスターでもなく、剣術使いでもなければ、あそこまで徹底はしないだろう―― ――師匠と同じ領域で、上に行けたら……っすか―― ――その上お前も知っている通り、マスター級にはテスタロッサや高町教導官のような……資質的な天才魔導師というのは一人もいない―― ――分かりやすぜ。技術でスペックを覆し、一騎当千すら圧倒する……それが達人≪マスター≫の意義―― ――そう言う意味ではワンスキルホルダーもマスターの領域ではあるな。 ラグナは今もそんなお前を……っと、すまん。これは禁句か―― ――いえいえ……他ならぬシグナム姐さんですから―― まぁ若い身分や仕事の絡みもあって、いろんな可能性を試している最中って感じではあるが……なかなかに面白い奴だと感じていたところだ。 ……なにせ模擬戦での賭けもどこからか聞きつけ、乗っかってきたからなぁ……! おかげで事前情報のあった俺とアルト、リイン曹長は大もうけだ! もう神様仏様古き鉄様って気持ちだよ! ただまぁ、問題があるとすれば…………。 「………………なにやってんだ、坊主」 「見て分かりませんか?」 …………海からの風も心地がいい中、隊舎の内玄関脇に、デカい檻が付けられ……その中に坊主が入っていたことだった。 「さらし者ですよ」 ――猛獣危険。飼育員以外餌を与えないでください―― 「どうしてそうなったかを聞いてるんだよ……! つーか牢屋の中じゃねぇだろ! ジュースやお菓子もあるし、テレビまでよぉ! ジョジョか! ジョジョ第三部冒頭か! お前はスタンドでも使ってんのか!」 ”安心してください。賭けはバレていません” 俺の悲鳴……その根源を察した坊主が、さっと念話に切り替える。 「恭文くん、マシュマロ……アーン」 「アーン」 なぜか駐機スタッフの制服を着た、オッドアイ美女にマシュマロを……檻越しにあーんとされながらな! しかも中身がそんな状態だから、もう笑えねぇ! 実はそれで、数十万という儲けもパーなのかと打ち震えかけたところだよ! だが見抜いてくれた! 坊主はよく見抜いてくれた! それは素晴らしいことだぞ! その調子で生きていてほしい! ”模擬戦で心理戦を持ち込んだ結果、なぜか僕にも罰ゲームが加えられまして……” ”あれを心理戦と言い切る時点で、テメェがいろいろ悪いのは理解できたぜ……!” ”何を言っているんですか。そのおかげで大もうけできたでしょ?” ”そりゃあまぁな! だが、マジで気をつけろよ……! 特にシグナム姐さんは” ”だからこそ、スピードレーシングも盛り上げたんじゃないですか” ”抜け目ねぇなぁ!” 勝負を受けたのはバラエティー好きってだけじゃなくて、第一線から目を逸らすためか! よく考えてやがるよ! だが恐ろしいよ! 俺は末恐ろしいよ! 一体どうしたらここまで冷徹な策略を仕掛けられるのか……鬼の血族かよ、コイツは! 「いや、それ以上に最高な環境だけどな!? つーか飼育員がそんな美人ってどういうことだよ!」 「あ、紹介します。地球でモデルをやっている、高垣楓さんです」 「初めまして。えっと……確か、ヘリパイロットの方なんですよね。アルトちゃんからお話は」 「ヴァイス・グランセニック陸曹です! 初めまして!」 ≪初めまして、レディ≫ すると首元にかけていたドッグタグ型インテリジェントデバイス≪ストームレイダー≫が中心のクリスタルを点滅。それに彼女も目を見張る。 「その子もデバイスなんですね」 「えぇ。ストームレイダー……操縦のサポートなんかをしてくれるんですよ」 「魔法が使えるとやっぱり凄いんですね」 「いやいや、俺は前に出てドンパチもできないので」 「……魔導師なマドンナ……マドンナ……」 ……………………そのとき、絶対零度のブリザードが襲いかかった。 心が……体が……凍り付いて砕けそうな気持ちになった。 ”…………楓さんは、モデルとしては有能なんですけど……二一才児と呼ばれるくらいにお茶目さんでして” いや、これ……お茶目ってレベルか? というか二一才児……よく見ると大人っぽいが童顔だしなぁ。分からなくはないが。 だとしてもこのダジャレは……しかも凄まじく楽しげに……! 駄目だ、俺はこの絶対零度に耐えられない! 「し、しかし楓さん……またよく似合ってやすぜ。さすがはモデルさん」 「ありがとうございます。でもちょっと申し訳ないような……飼育員っぽい服ってことでお借りしちゃってますし」 「いいんですよ。まぁ坊主のことも割りと無理矢理借りてますしね。 六課の一員としては、これで活動に理解を示してもらえりゃあ安いもんですよ」 「アルトちゃんやシャーリーちゃんも同じことを仰っていました。みなさん、とてもいい人達ですね」 「ありがとうございます。で……飼育員からして坊主の様子はどうですか」 「圧政に立ち向かった者の末路と言い張って、反省なしですね。 フェイト隊長という神輿を下したことで、奴らはとんだ逆ギレを……と」 「でしょうね!」 この様子を見ていればバッチリすぎて、笑えねぇよ! いや、これくらいふてぶてしくなってくれないと、賭けもバレそうで逆に怖いけどよぉ! ”だからふてぶてしくしてるんですよ。付け入る隙がないように” ”…………平然と心を読むなよ” ”顔に書いています” ”そりゃやべぇな!” 「……でもそのフェイト隊長と、さっきまで隊舎を凄い勢いで練り歩いていたよな、お前……!」 もう隊舎中で噂になってるぞ……。あのフェイト隊長をスリングショットにして、リードも就けて練り歩いたとか……とんだ痴女プレイを強いたってな! しかもそれが隊長陣公認というのがもうあり得ねぇよ! まさかそれも賭けを誤魔化すためのブラフとか……言いそうだなぁ、この坊主だと! 「しかも……あのわがままボディでスリングショットだとぉ!? その上幼なじみもダイナマイトボディの美人だとぉ!? お前ら、隊舎にこもっている男どもの欲求をなんだと思ってんだ!」 「え……」 「なんで引くんだよ! とんだエロリズムを仕掛けた分際で!」 ≪部隊開始から一週間も経っていないのに、もう臨界点なんですか? 死にますよ、あなた達≫ 「言ってやるなよ! 俺はまだいいが……若い連中からしたら、みんな目に毒なんだよ……!」 「あぁ……隊長陣もそうだし、スバルやティアナ、シャーリー達もきれいどころですしね」 「それだ!」 仕事はきっちりするんだよ。頑張ろうとするんだよ。でもな、男だから……いろいろ考えるんだよ。 俺にも覚えがあって……シグナム姐さんでいろいろと……っと、この話はやめておくか。 とにかく、それによりスリングショット……フェイト隊長のスリングショットは、そりゃもう魔力爆撃くらいの威力はあるわけだ。 「しかもアレが罰ゲームってなんだよ! あんな苛烈でうらやまけしからんことをしていいのか!」 「いいんですよ。だって部活の罰ゲームですから」 「そ、そんな……素晴らしい文化が、地球にはあるのでごぜぇますか! お代官様ぁ!」 ≪あなた、本音が出ていますよ?≫ 「でも、正直な男の人は素敵だと思うわよ?」 あ、よかった! 楓さんにはどん引きされるかと思ってたら……二一才児、最高じゃねぇかぁ! 「でもヴァイスさん、負けたら自分がやることになるんですよ? 恭文くんも相当酷い目に遭っていますし……」 「あー、言ってたそうっすね。でも…………それはぁ! 俺も……俺も参加してもいよろしいでしょうかぁ!」 「……正気ですか、ヴァイスさん」 「覚悟の上です先輩!」 「単装砲を見られる危険もありますよ?」 「二言はないです先輩!」 「……よく言いました! 気に入りました!」 そして、俺は手を伸ばし……坊主と格子越しに握手! 「なら、今度一緒に雛見沢へ行きましょう。 元祖部長達に話を通さないと……入部試験もあるので」 「よろしくお願いします!」 「…………仲良しさんで何よりだねー」 ………………だがそこで、左側から圧の強い笑顔と声。 そちらを恐る恐る見ると……。 「ヴァイス陸曹、ああいうことがしたいんだー。やっぱり男の人なんですねー」 「げ……! な、なのはさん!」 「おのれ、化け物か……! 今は気配を感じなかったぞ!」 「打倒マスター級という点では、私も恭文君と同じ……日々鍛えているんだから」 ニコニコ笑いながら答えるなのはさんに、俺達は格子越しに手を取り合い戦々恐々。 まるで恋人同士だとは言わずもがな。マジで気配も何も感じなかったんだよ。 「で、どうなんですか? フェイトちゃんの友達的にはちょーっと認められないですけど」 「…………それでも男ですから! 真摯に見えても心には一匹の狼を飼っているものなんですよ!」 「アッサリ認めるのは予想外なんですけど!?」 「でも僕は満足じゃ……。 ハラオウン執務官、想像以上に素敵なオパーイで最高のスタイル」 そうして坊主は牢屋に持ち込んだらしいスケッチブックに、スラスラとペンシルを走らせる。 「筆が走って仕方ない」 「恭文君も欲望全開のところ悪いけど、分かっているかな! 罰ゲームの最中だって!」 「高町教導官、この猛獣は分かっていません。さっきもマシュマロを食べていました」 「それをアーンしていた楓さんにだけは、言う権利がありません!」 「「「本当にいつからいた!?」」」 おいおいおいおい……割と前の話だぞ、それ! まさか念話とか傍受されてねぇよな! ……さすがに今回は賭けがバレるとか嫌だぞ!? 数十万という金がパーはよぉ! 「ここに罪状も書いているよね!」 だが、なのはさんはそれよりも、この猛獣の処置の方が大事だった……坊主よ、ありがとうと言いたくなる瞬間だった。 「フェイト・T・ハラオウン分隊長に対して、セクハラ同然なゴーレムを作ったこと。 純魔法戦って言ったのに、途中グレーゾーン全開なことをして……フェイト分隊長と私達の恋愛歴を自白させたこと。 よって今日一日さらし者の刑に処す。部隊員は誰一人この者を見習わぬように…………ってさぁ!」 「あれらのどこが駄目なのよ! 自爆したのはハラオウン執務官が悪いし、そのスタイルは上手く表現できているでしょうが! なにより……結局スリングショットで隊舎内引き回しを認めたおのれにだけは言われたくない!」 「だから書くんだよ……始末書をね! アイスの話で仕事時間をぼーっと過ごしたことも含めて、たっぷりとね!」 「そう、大変だね。頑張って」 「恭文君も書くんだよ!? 二十枚くらいさぁ!」 「もう提出してきた。三十枚くらいさぁ」 「いつの間に!?」 てめ、慣れすぎてるだろ! あれか! もしかしてテンプレートでコピペ修正……ありそうだ! サインだけ直筆ってのが局流儀だからなぁ! 「あ、それなら確かに……そこでポチポチ打って、リインちゃんに送ったのよね」 「それです。だからおのれらがあくせく仕事をしている間、僕は余課を楽しめるわけだよ」 「なに、その理不尽な格差! 真面目に働くなのは達の方が苦労しているってどういうことなの!?」 「≪アリとキリギリス≫の話を知らないの?」 いや坊主、それは地球の童話だよな。つーか最後はキリギリスの奴は、遊びほうけたツケを払ってのたれ死に。 「キリギリスは遊んでいるように見えて、不労所得をしっかり確保……そうして働いても貧乏なアリを見下し、ワインを揺らすのよ」 かと思ったら夢のねぇ話に改変しやがったよ! この悪魔! 「おかしい! なのはの知っている≪アリとキリギリス≫は、そんな話じゃなかった! 遊びほうけるキリギリスに、もっと冷たい仕打ちがあったはずだよ!」 「……よし、書けたー」 「そしてなのはの慟哭ガン無視で、筆を走らせないでほしいなぁ! というか、恭文君のセンスで書かれても、フェイトちゃんが泣くだけだよ!」 「……もしかしてなのはちゃん、知らない……って当然よね。知り合ったばかりだし」 「楓さん?」 「恭文くん、さっき書いていた模写の方、見せてあげて」 「これですか?」 「どれどれ……」 話に聞く地獄絵図かと身構えていたら…………そこにあったのは……。 「「……………………うま!」」 スリングショットにリード(首輪)というエロリスト全開なフェイトさんだが、滅茶苦茶……奇麗なんだよ! 胸の形や腰のくびれ、お尻のライン……全てが完璧だった! 恥じらう表情も本物通り……むしろ本物以上! な、なんだこれは……コイツ、センスが壊滅的だったんじゃないのか! 「………………」 あれ、なのはさんが無言で海の方に走って…………。 「おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 吐いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なのはさんがモザイクを吐きやがったぁぁぁぁぁぁぁぁ! 現実を認めきれずに! 吐くしかないほどの衝撃に耐えかねて、モザイクをぶちまけやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 「あがぁぁ…………ウェアがぁぁぁ……げがげげげげあががががあ………………」 おいおいおいおい、嗚咽が過ぎて、口から心臓が飛び出そうな声を出してやがるぞ! エース・オブ・エースが出しちゃいけない声を出しているぞ! いや、エース・オブ・エースは関係ないな! 乙女として出しちゃいけない声だよ! もはやモンスターだよ、あの声は! ど、どうする……どうすれば、この状況を解決できる! 俺はなんて無力なんだぁ! 「恭文くん、美術力はすっごく高いんですよ? ガンプラ作りでもデッサンするし……Vチューバー活動でも自分でイラストを起こすから」 「マジですか!」 …………かと思ったら、救いがあった……あぁ、知り合い(楓さん)がいてよかったぁ……! 「え…………なら、あの……壊滅的なデザインは……」 ≪完全に趣味へ走るとああなるんですよ。こっちはよそ行きモードです≫ 「坊主、これからは模写を心がけていかねぇか? 全てにおいて」 「嫌です。つまらないし」 「いや…………こっちの方が、いいよ…………絶対こっちだよ! なのはは大好きだよ、この絵!」 あ、なのはさんが復活……しきれてねぇ! まだ声がモンスターめいているし、モザイク……口と胸元に、モザイクの欠片がぁ! だがツッコまねぇ! 俺は男としてツッコまねぇぞ……それが紳士ってもんだし、とりあえず全力で頷こう! 「というか、そうだよね! ジンウェンの活動もあるからこれくらいは……いや、この言い方も失礼なんだけど!」 「そうっすよね! エロスながら上品かつ可憐……最高だぞ坊主! しかも表情や角度もこんなに……これ、もらってもいいか!?」 「ヴァイス君!?」 ≪でも……やっぱり面白みはないですよねぇ≫ 「模写だしね」 「「いやいやいやいや……!」」 駄目だ、これについては俺達には余る。なのはさんと手を振りながらも、それだけは痛感して……。 「まぁ夜まで大人しくして、ギンガとお話だね」 「ですね。幼なじみの二人や妻もなんとか……できるでしょ」 「瑠依は妻じゃありません。妻を名乗る不審者です」 「それほんとどういうことだよ……! というか、その不審者、妻だと名乗りながら隊舎を練り歩いてやがるぞ」 「あの馬鹿はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 結局、顔見知りにぶん投げちまった。あぁ、俺達はなんて無力なんだ。 「ああもう、言っても仕方ない! ……憂さ晴らしにGジェネクロスレイズでもやってようっと」 「反省しているような行動を見せてくれないかなぁ……!」 「……嘱託を檻に閉じ込め、さらし者にする……中央本部はともかく、マスコミが知ったらどうなるだろうなぁ」 「平然と取り引きをしてこないで!? 吐くから! また吐くから! 今日の日替わりランチ、なのはも大好きなチキン南蛮なのに!」 「あ、そうなんだ。そりゃ僕も楽しみだ」 「檻に入れられているって自覚、ないのかなぁ……! 今の恭文君はぎゅっと衣に包まれたも同然…………あ、でも……そっか……」 あれ、急になのはさんがぽつりと……一体どうしたんだ。 「なのはさん?」 「いや、今……衣で思い出したんだけど、チキン南蛮って……あるよね」 「えぇ、揚げ物ですからそりゃあ衣は」 「そっちじゃなくて……唐揚げに甘酢とタルタルをかけたタイプ!」 「…………はい!?」 「なのは的にはうちでも一枚肉だったけど、そっちだったらどうしようかと……ちょっと悩んじゃってぇ!」 「そんなのがあるんですかい!」 待て待て、俺は見た覚えがないぞ! つーかそれは唐揚げじゃないのか!? そうなのか! 「……あー、ヴァイスさんは余り触れてないんですね、そっちのルートは」 「なんか道があるのか!?」 ≪こちらが映像になります≫ あ、食べたときの写真か。坊主が空間モニターを展開してくれるので、見てみると…………マジだった。 内装は洋食屋っぽい感じか? 唐揚げデカいのに、どんと……どんと……タルタルがかかって……なんじゃこりゃあ! 「坊主、待て。これは自作とかじゃなくて」 「お店です」 「マジかよぉ!」 「でもこれ! これなの! 私も外で食べて、衝撃的だったのは……これは唐揚げタルタルソースかけと言うのではって、小一時間悩んだの!」 「実はね……」 なのはさんですら悩ませるこの問題……坊主は恐ろしい現実を突きつけてきた。 「この手の唐揚げタイプを出すお店、多くなっているのよ」 「そうね。私もよく見るわ」 「なんだとぉ!」 「やっぱりぃ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 衝撃は受けたが、それぞれ違う意味合いの俺達……そんな俺達に落ち着くようにと宥めながら、坊主は檻の中で軽く腕組み。 「まずチキン南蛮は、地球の日本……宮崎県発祥の地域料理。 鳥肉をフライ的に揚げたものを、甘酢に浸し、タルタルソースをかけたものです」 「だよな。つーかそれが一枚肉で……肉はもも肉。こう、チキンカツみたいに揚げてよぉ」 「一応元来はむね肉を使うサッパリ風味なんだけど、今はそっちが主流ですよね」 「むね肉か!」 「火入れが結構難しいですけど、上手くいったらシットリ柔らかな肉質とタルタルの相性もあって……これも最高です」 「まぁ発祥だとタルタルソースもかけなかったのが本式と言うし、そこは好みの問題でいいわよね」 「タルタルソースもなしだったんっすか……!」 あ、でも……そっか。アジの南蛮漬けとかは……うん、そうだよな。揚げたのを甘酢に漬けて、バリバリとよぉ。 ああいうニュアンスで、鳥の揚げ物を甘酢に漬けたのがチキン南蛮ってことなら、タルタルソースは確かに……! やべ、身近メシはそれなりに食べ歩いてきたつもりだが、地球の飯はやっぱ勉強不足だ! 地元いかねぇと、地元! ……まぁそんな俺の決意は一旦置いて……本題に触れるか。 「だがそれが唐揚げ……まぁチキン南蛮の衣はフライ系とまた違うし、唐揚げでやっても問題はなさそうなんだが……」 「むしろ唐揚げの方が近いですよね。 ……フライは小麦粉・たまご・パン粉の三層ですけど、一般的なチキン南蛮だと薄力粉・たまごの二層ですから」 「あ、それであの食感なんっすか! それなら確かに……」 「でも、違うんだよ…………一枚肉をガッツリ食べるのが、なのはの知るチキン南蛮なんだよ! 唐揚げタイプも美味しいけど、まだ迷ってるの……どう受け止めるべきか、迷ってるのぉ!」 あぁ、なのはさん落ち着いてください。そんなサイドポニーを振り回さなくても……坊主の尻尾攻撃じゃないんですから。 「なのに最近、ランチタイムのご飯とかでもそういうのが増えてぇ! 挙げ句本局の食堂でもだよ!? どうしてこうなったのかって悩んでたの!」 「根が深いわね……ただ、その辺りはいろいろ事情があるのよ?」 「事情!?」 「と言うかおのれの家、飲食業なんだっけ? ある程度は分かるでしょ」 「楓さん……坊主……」 「……想像してください。みんなは定食屋さんの主です。腕利きの料理人です」 楓さんが言われるままに、想像してみる……こう、鍋なんか震っている自分をよぉ。 ……あ、コック服が様になっているな! これならマジで夜の帝王もいけるぞ! 「うん……うん……想像できるよー。なにせなのはは喫茶店の末っ子。お店のお手伝いもよくやっていたし」 「俺は八年前から武装隊一本でしたが、妹相手に料理くらいはしてましたからねぇ……えぇ、こっちもなんとか」 「ランチはかき入れ時で、味もいいのでお客さんもたくさん来ます。 チキン南蛮や唐揚げはコスパもよく、その中でも人気メニューです」 「「うんうん……いいねいいねー」」 「でも似たような料理でも、調理手順や揚げ時間なども微妙に違い、その小さな差がお店の回転率を落としてしまいます。 では……そのチキン南蛮と唐揚げが、同じもも肉のぶつ切りを揚げた物で、違いが甘酢とタルタルソースだけだとしたら?」 「「……………………!?」」」 ……そのとき、俺達の中で電流が走った。 そりゃあ……そりゃあ……楽だろうなぁっと……! 確かにちょっとした手間……違いかもしれない。だがそれを、一日に何十……何百とやる作業だぞ? その誤差が仮に三十秒だとしたら、十回こなせば三百秒……六分……じゃなかった。五分のロスタイムが発生する。 百回なら五十分……営業時間のうち、一時間近くがその作業に取られるんだぞ! 他の注文もあるのにだ! 「わ、分かってしまう……飲食店にとって、回転率は大事! お客さんを捌けるかどうかとか、本当に大事だもの!」 「俺達は、店の都合に踊らされてんのかよぉ!」 ヘリや駐機の整備関係でも言えることだから、俺にもよく分かってしまった……そりゃ大問題だなぁっと! なのはさんについては、頭を抱えて更に混乱しているがな……! 単純に味だけの問題かと思ったら、そこってよぉ! 「そう……回転率は大事。実際つけ麺や油そばがラーメン界わいで流行ったのも、その辺りが大きな要因だし」 「なんだと……! いや、どちらも好きだが」 「まぁ原価厨っぽくなっちゃいますけど……まずつけ麺は、ラーメンと使う材料がほぼ同じ。 でもつけ汁のスープ消費量はラーメンの半分で済み、基本は冷たい麺を啜るものだから食べる時間も早い」 「……他の材料を用意する手間も限りなく減らせるし、食べる時間も……そうだよな! 回転率って、店から出るまでを指すもんな! じゃあ油そばは…………あれもスープレスでズルズル行くタイプだからかぁ!」 「それです。しかも油そばの場合、スープレスなせいで普通のラーメンよりカロリー控えめ。それで女性客が多かったとも……」 「嘘だろおい! 微々たるもんだろ! むしろ麺大盛り無料とかでカロリーがよけいに取られるだろ!」 そうだぞ、俺は知っている……つけ麺の店とかは、大体大盛りや特盛り無料とかが多いんだよ! 食べきれるの前提だけどな!? いわゆるボリューム系で若者受けも狙っているから、流行っていたかと思ったが……店的にも低コスト・高回転率で回せるぼろい商売だったのかよぉ! やべぇ、ゾッとしちまった……つーか飲食業の裏側、想像以上に怖い! 「ただまぁ、そういうお店としての利点だけをツツくとちょっと不公平とも言えるので」 「不公平?」 「”唐揚げタイプのチキン南蛮は美味しいか”どうかも触れるべきだと思うんです」 「そうね、私も同感よ。それで美味しくなかったら手抜きだもの」 「あぁ……そりゃ、そうだよな」 つい内情にビビっちまってたが……大事なのは味だよ。なのはさんもそこは問題なしと、うんうんと頷いてくる。 「確かに、美味しいんだよね。そもそも唐揚げが鉄板メニューだし……でもだからこそ悩ましいというかー」 「さっきのなのはさんじゃありませんが、そこに甘酢とタルタルソースは……えぇ、最強ですよね」 「あと一枚肉タイプと違って個体だから、全体的にタルタルソースを絡めてがっつりいけるとか……肉汁が途中で逃げないとか……かしら」 「あぁ……その絡めてガッツリは、絶対美味しいやつだよなぁ……!」 「自宅で作る場合も、個体として調理した方が火の通り具合も分かりやすく手早いってのはありますよ。 あとは揚げるんじゃなくて、焼き気味のタイプで作るとか……そうすれば油の消費量も抑えられる」 「確かに一枚肉を揚げるのは、熟練って感じが……ちょっと待て」 そこで一つ、スーパーなんかの光景を思い出して……ハッとする。 「それじゃあ……スーパーなんかで売っている、タンドリーとかガーリックオイルとかで味付けされた肉を、フライ調理は……」 「アリです。普通の唐揚げとしても、チキン南蛮みたいなのにしても、ひと味ふた味変わってきます」 「そりゃいいな! 今度酒のつまみに試してみるか……」 「なのはもそういうのなら……でもそれなら、今って唐揚げタイプばっかりなのかなぁ」 「そうでもないよ? 地球のやよい軒や、ミッドのふたば軒……あとはHotto Mottoなんかは一枚肉タイプだし」 「そうだ、ふたば軒があった! 本局の住宅エリアでもお世話になる赤い光!」 ふたば軒はご飯お代わり自由だし、俺も大好きだが……エース・オブ・エースもかぁ。 やっぱなのはさんは庶民的で、親しみやすい人だぜ。そりゃあ好感も持たれまくるってもんだ。 「なのは的には、ふたば軒ややよい軒、Hotto Mottoのチキン南蛮こそ最高なんだよねー。もちろんお母さん達が作るのも美味しいんだけどー」 「分かる。衣がね……ちょっと焦げ気味なところがあっても、サクッと全ていけるのがね」 「うんうん! ……でもそうすると……なのはが食べたアレは……本局のアレは……」 「……私が食べ歩いた印象で唐揚げタイプが多いのは、居酒屋系かしら」 「僕も同じ感じです」 「「居酒屋系!?」」 おい、いきなり酒の要素が出てきたぞ! 今はまだ……午前十一時くらいなのにだ! つーかなのはさんも飲酒……あ、ミッドではOKだったな! だが、だが、そうなると……! 「……なのはさん、一人のみですかい? また剛気な」 「ち、違いますよ! あの……あ、でもそうだ! 居酒屋さんのランチとかで出くわしたこともあります! 唐揚げタイプ!」 「…………あぁ! 昼間にやってる!」 「それです!」 「夜にも流用できる揚げ物系や、煮魚系を中心にすること割りと低価格・ボリューム系のランチが楽しめる……。 ビジネス街で働くサラリーマンとかでごった返すから、やっぱり回転率の面で引っかかるんだよ」 「そうかも……! なのはのときもいっぱい……というか、本局の食堂も設備・人員強化で大型化したし、そのせい!?」 ……サラリーマンの中でチキン南蛮を食べるなのはさんか。 それもまたやっぱり剛気……いや、だが一人飯を楽しめるってのはいいことだと思う……いいことだよな? そうだよな? 「でも……」 ただそんななのはさんにも、まだ疑問はあるようで……それを察し、坊主は右手で軽く制した。 「皆まで言うな。……街の洋食屋さんみたいな、チェーン店以外でも見かけたんでしょ?」 「それ! 唐揚げタイプがあまりに衝撃で、一時期一枚肉を探してさ迷っていたら……尽く引っかかってー!」 「本局勤務で何をやってるんですか……!」 「そういうところって、いわゆるワンオペ……小さめの店で、店主が一人とか……とにかく少人数で切り盛りって感じじゃなかった?」 「なのはちゃん、街の洋食屋さんって言っていたものね」 「えっと…………え、どうして分かるの!?」 ドンピシャだったのかよ! なのはさんもゾッとした様子で震えてるぞ! ……いや、だが……冷静に考えればおかしくはない! なにせこの件については、坊主と楓さんは先駆者だ! 「僕も似た経験があるからだよ」 「やっぱりそうだったか……」 「さっきの写真も、地球の……埼玉県の朝霞市で≪いなもと≫って洋食屋さんで撮ったのよ」 「それで、店主さんが一人……」 「基本一人。でもボリューミーで、出されるコンソメオニオンスープが絶品なんだ。すっごく甘くて美味しいのよー」 「そうか……その手の店だと、付加価値も大事だよね。 ……なのはが居酒屋さんのランチで食べたチキン南蛮も、漬け物が……セリの漬け物がご飯泥棒かって思うくらいに美味しかった」 「そういうのも含めての楽しさよね、食事は」 楓さんの纏めを受けてか、海から爽やかな風が吹く。 それは、黒船だった唐揚げタイプを受け入れるような……優しい文明開化の香りがして。 「……ありがとう……恭文君、楓さん。私はこれで、心して今日のお昼を受け止められるよ」 「別にいいよ。ご飯の話をしただけだし」 「そうね」 「つーか俺も……ここの飯はなかなか美味いから、いずれにせよ楽しみっすね」 「はい! ……あ、それと」 「まだ何か?」 「そこの裏手の格子……中程まで斬れているみたいだから、魔法で修復しておくね」 ……………………そこで、坊主のぴくりと震え、らしくもない冷や汗を軽く流す。 「それでもう一つ……その中に落ちていた小さいのこぎり、拾ってくれたよね。 ありがとー、シャーリーの忘れ物なんだぁ」 「え、そんなのはどこにも」 「あったよね」 有無を言わさない笑顔と迫力に…………さしもの坊主も、汗ダラダラである物を取り出す。 それは手のひらサイズの、小さな……小さなのこぎりで……! 「…………ごめん、忘れていた……これのこと、かなぁ」 「そうそうそれ!」 「…………てめぇ、脱獄を企んでいやがったのか! つーか楓さんの目を盗んで!」 「あ、一緒にギコギコやってました」 「最後までいけると思ったのにね……残念」 「「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」 とりあえずなのはさんがのこぎりを没収したことで、脱獄は失敗。更に修復魔法で傷も治されて……坊主と楓さんの悪巧みは潰えた。 「ヴァイスさん、覚えておくといいですよ。 ……雛見沢では、これくらいできなければ地獄を見続ける」 「梨花ちゃん達が相手だものね。仕方ないわ」 しかも反省がねぇとはどういうことだぁ!? いや、しかし……勉強になるっす、先輩! そうして突きつめた結果が…………あの天国だぁ! 行くぜ雛見沢! 俺はスピードの向こう側へ……ひゃはははははははははー! 「……ヴァイス君?」 「男は狼なんですよ、なのはさん。当然坊主も……」 「でも、ここでは恭文君はいい子だもんねー。脱獄とかしないよねー」 「…………え、なんだって?」 「そのラノベでよくあるスルーはいらないの! ……じゃあお昼まであと一時間……まずはそこまで頑張ろうー。 そっちは亜種やショートカットも認めないからねー。唐揚げタイプとは違うからねー?」 「はーい。あと横馬、一つアドバイス」 「ん?」 「鼻毛、たっぷり出てるよ?」 ……………………そこで、俺も気づいた。 ≪あ、ホントですね≫ 「ゲロったときだねぇ。乙女の顔じゃないよ」 鼻毛が……鼻水塗れの鼻毛が…………故になのはさんは顔を真っ赤にして、俺達に背を向けながら脱兎。 「……………………やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 恭文君に辱められたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「とんでもないことを叫びながら走り去るなぁ!」 「もうお嫁にいけないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! なのはだって……なのはだって夢があったのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 「こら! 待て! 自業自得ってところを認めてから海に飛び込めぇ!」 「さらっと口封じを企むんじゃねぇよ!」 「今のは恭文くんが悪いわね」 「むしろ優しさなのに!?」 その優しさは通用しないと、楓姐さんに同意しつつ何度も頷く。 ……まぁなんにしても、機動六課……なかなか楽しい感じになってきてるな。それだけは間違いねぇ。 ”それよりヴァイス陸曹、例の件は……本当に” ……かと思っていたら、そこで念押し……お前も相当怖いんだな、シグナム姐さんが。 ”さっきも言った通り問題ねぇよ。 ……あ、リイン曹長にも既に返金しているから、安心しろ” ”よくあの倍率で返金できましたね” ”そりゃあもう……フェイト分隊長に賭けた連中が、すかんぴんになりまくったからなぁ……! 奴ら、今月はずーっとモヤシ生活だぜ? まぁその分の見返り(フェイト隊長への辱め)はあったから、文句は言えないがな!” ”でしょうね” やっぱりそこも企んだ上での行動か! 末恐ろしい……だが、それゆえに頼もしい。 あとは雛見沢に連れていってもらえるように……楽しみだぜ! この世の楽園がどんなところかよぉ! ……ゆえに、俺達は一蓮托生と笑う。 ”……ヴァイス屋、お主も悪よのう” ”いえいえ、お代官様こそ……” ””くくくくくく……!”” ”そうして高町教導官も分からないのでしょう。真の勝利者が私達だと……” ――――そう、だから俺達は気づかなかった。 実はもう一つの危機が……既に迫っていたことに。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――それは、正しく青天の霹靂だった。 恭文も暴れている中、相変わらずと笑っていたら……それすら凍り付く羽目になった。 「いやぁ、三佐……今日はほんまありがとうございます。 ギンガについては、あの後スバル達にいろいろアドバイスもしてくれたそうで」 「………………」 八神は応接用のソファーに座り、俺の真向かいでいい笑顔だ。 自分の前にも、それが……異様なそれが漂っているのにだ。 ディープパープル色のそれが、プルプルと……小さな皿の中央で揺れているのにだ。 「それでですね、ちょお三佐には頼みがありまして……本当は後日と考えていたんですが、今お話させてもろうても」 「……一応、聞こうか」 俺も正気を保てそうにないから、一旦……仕事の話に入らせてもらう。 そうじゃないと……皿の中央で……本当に小さく震えるそれを、直視できねぇんだよ……! つーか忘れてぇ! 「六課で追っているロストロギア≪レリック≫……それが運び込まれそうな密輸ルートが幾つかあるんです。 それにガジェット製造についても、かなり大型のプラントが……もちろんそこへの資材搬入の形跡があると思われます。 108の方で、そちらを調べていただけないかと」 「……まぁ密輸やその手の違法資材運搬捜査は、うちの本業っちゃあ本業だが……」 「お願いできますか?」 ……平然と……この異様な状況で話ができるコイツに、軽くこめかみを引くつかせる。 ただ一応の冷静さは保ちつつ、気になる点はツツいておく。 「八神よぉ……本局機動課や他の捜査部もあるのに、どうしてうちに”これ”を持ち込む」 「もちろん他の機動課は広域捜査を継続しとりますし、先日も各地上部隊には改めての協力確約を取り付けました。 でも……三佐が今仰られたように、108は密輸や違法運搬捜査を多く取り扱い、解決してきた実績があります。 その関係から旧市街地みたいな、アングラとも近い区画にも顔が利く……というか、恭文もその辺りで何度か依頼したんですよね」 「アイツは俺達より、そっち方面の奴らと馬が合うしな」 「そういう部隊との綿密な協力体制……更に言えば合同捜査本部を設立して、より能動的な捜査を執り行いたいんです」 「……まぁ、筋は通っているな」 ……妙な予感がしながらも……ある程度の腹は括る。 コイツは言っても聞く奴じゃねぇし、きっとこの場は折れるしかないだろう。 となれば…………ある程度の抵抗くらいはしておくか。 「こっちからの条件は三つだ」 「なんでしょう」 「一つ、ミッド地上でAMFテロが用いられた場合の戦力増強……そういう名目で、うちの部隊の連中にも対AMF・ガジェット戦の稽古を付けてくれ」 「そちらは高町教導官の権限で……本局戦技教導隊にも協力を仰げば、なんとか」 「二つ、恭文の奴だが……遠からず自分で捜査を始めるぞ。つーかここを飛び出す」 「……それは、なんとか止めていきます。捜査担当ならハラオウン執務官もいますし、捜査したいのなら協力し合うよう命令して」 「従う奴か?」 嘲笑混じりで問いかけると……八神は苦い顔で視線を落とす。 分かってはいるが、今回は……そういう感じらしいな。 ……恭文の奴は、いわゆるフィールドワークが得意でな。 面倒臭いツンデレではあるが、聞き込みや情報収集も中々に上手い。 宥和政策で友達感覚になり、それで情報を引き出し……クロなら潰すという、それはもう上手なほどにエグいやり方をする。 とにかく現場百編と念入りな聞き込みが起点……今時珍しく足で稼ぐタイプだからな。そこでハラオウンのお嬢と合うかというのが一つ。 あと……アングラ近辺を調べるとなると、ハラオウンのお嬢は邪魔だ。ここは断言したっていい。 本局のPR活動にも協力している有名捜査官だと、まずそのレッテルで警戒して、情報が集まらない……接触できない奴も出てくるんだよ。 恭文の知り合いには、それこそホームレスみたいだが、裏の裏まで通ずる情報通もいるし……表沙汰にはできないが有名アサシン≪風見鶏や死に神の鎌≫もいる。 そういう奴らの手も借りるなら、ハラオウンのお嬢と一緒になんて無理だ。 まぁそこは正規の……表だった捜査でってことなんだろうが、それで満足する奴じゃねぇんだよ。 とにかく手段に頓着しないし、自分が知りたいと……そうしたいと”心に響く何か”を見つけたら、絶対止まらないからなぁ。 (……確かに、まともな官僚にはなれないな) まともじゃない官僚には二種類しかいない……悪党か、正義の味方か。例の後藤って男は、いいことを言ったよ。 となると、俺ができるのはまぁ……そうしてアイツが暴れた尻ぬぐいを、大馬鹿者と罵りながらやるくらいなわけだ。 そうして憎たらしい弟子もどきが、あまり泥をかぶらないよう配慮する……そのための椅子なんだよ、部隊長ってのはよ。 「なのでアイツが飛び出した場合、すぐこちらの預かりに移行しろ。それ以後の面倒と責任は全部こっちで持つ」 「いや、それはできません! アイツはスバル達と同じフォワードとして、五人で戦えるように調整を!」 「八神、お前は矛を矛として使い切る覚悟もないのか?」 「三佐……」 「守りに入らせるな。持ち味が腐っちまうぞ」 師匠面してそれだけを忠告する。あれは、好き勝手させてこそ生きるタイプだと……。 まぁやっぱり納得はしきれないようだが……それはそれとして、三つ目に行くか。 「それで三つ目。こっちはスバルとギンガの親としての話になるが……」 「……はい……」 「もし今回の件が、”うちのカミさんの件”に関わる話なら……許さねぇぞ」 ……狸に騙されるのも癪だから、サラッと本質に触れたら……八神の目がカッと見開いた。 やっぱりそういうことかと、茶を飲みながら納得する。 今回の件、そういう可能性も出てきているんだと……本局連中はそれで”戦闘機人”に目を付けてもいるんだと……クソが。 「理由は言わなくても分かるな?」 「三佐……」 「それをやるなら、アイツらは局員を辞めるべきだ。俺もそういう覚悟だけは持っている。 だから、いいな? この条件……特に二つ目と三つ目が約束できないようなら、俺は何もできねぇし、縁も切らせてもらう」 「…………分かりました。お約束します」 「ならいい。……まぁそう難しい顔をするな。厳しいことは言ったが、ギンガの奴は喜ぶだろうしよ」 もう一回お茶を……そのまま飲み干し、ほっと息を吐いて……八神の奴を安心させるよう、表情を緩める。 「なにせ命の恩人で、憧れの存在≪ハラオウンのお嬢≫と一緒に働けるんだ」 「……そうでしたね。四年前、ギンガの危ないところを……フェイトちゃんが助けて」 「高町の嬢ちゃんは、スバルをな。……そうすると俺はその恩人達に屁をこきまくった無礼者か?」 「いえ、そんなことは! 三佐は今でも尊敬する師匠ですし!」 そうかそうか……そう言ってくれるのは嬉しいが…………やっぱ、このプルプルについても触れるとしよう。 「…………じゃあ、もう一ついいか?」 「なんでしょう」 「その尊敬する師匠に対し、”これ”は…………どういうことだ」 …………そこで、八神の表情が完全に凍り付き……いや、半笑いしている。 「なんの、ことでしょうか……」 「この、皿に載っているものはなにかと聞いているんだ」 「こ、これは……≪グレープの名残〜プロバンスの風が果実の旨味を閉じ込めて〜≫と言うデザートでしてぇ」 「俗称はなんて言う」 「いえ、ですからプロバンスの」 「なんて言うんだ……!」 睨みを利かせ、このプルプル揺れるもんを指差し……もう一度問い詰める。 すると八神は半笑いで、脂汗をダラダラ流し…………震えながら、唇を動かす。 「……………………グミ…………やったと、思います…………」 「――――――――この……大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」 そうして俺は遂に耐えきれず……立ち上がり、八神を怒鳴りつけていた。 「お茶請けに文句はつけたくねぇよ! 正直ちっちゃい男だと思うさ、俺はよぉ! だがよぉ………………これはねぇだろ! 白い丸皿にグミ一個が……ちょこんだとぉ!?」 「こ、この段階での来客は想定しておらず、リインの私物から拝借をー!」 「せめててめぇの私物で何とかしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ねぇよ! どんな高級レストランでもこれはねぇよ! つーか新手のぶぶ漬けじゃねぇかぁ! これは説教が必要だ……いや、改革が必要だ! 創設して早々やってきた部隊長に対して、お茶請けがグミ一個ぉ!? 本局はどうなってんだぁ! 場合によっては戦争だ……お茶請け戦争の勃発だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! (――本編へ続く) あとがき 恭文「というわけで、十二月ももうすぐでめっきり寒くなった中……今回はメシバナ。 なおグミの下りはめしばな刑事タチバナから……チキン南蛮について、作者が最近気づいて、思ったところをちょいちょいと」 古鉄≪一応この後にせんべい討議がありますけど、それはそれとして……いよいよ始まりましたね、FGOのクリスマス2019≫ 恭文「今回はサンタバトルロイヤルときたもんだ! ひゃっはー!」 古鉄≪ほんとラフファイトだと生き生きしますねぇ。……あ、一応今回ので、アニメStS第6話でやったアレについても触れています≫ (108との協力体制ですね。ついでにやっておきたかった。ちょうど6話だし) 恭文「で、うちも……Twitterでは報告したんだけど」 アストルフォ「ふふーん! セイバーのボクも強くて凄くて可愛い! ヒポグリフは置いてきちゃったけど」 ヒポグリフ「〜♪」 アストルフォ「こっちだといるから問題ないー!」 恭文「そう……セイバーアストルフォが二十連できました」 (できればスペースイシュタルもこの調子で……マイルーム性能が檄高らしいし!) 古鉄≪今度の限定ガチャで頑張りましょうか。話のネタ作りもありますし≫ 桜セイバー「大勝利をパクった怨敵……覚悟を」 恭文「落ち着け桜セイバー!」 アストルフォ「パクってないよ! 本当だよ!?」 桜セイバー「単体クイック宝具もパクって……」 アストルフォ「さすがにそれは理不尽ー!」 (カエサルとかいるしね!) フェイト「えっと、性能に差異はあるんだよね。桜セイバーはやっぱりクイック周りのヒット数とか、NP効率が抜群だけど……」 恭文「アストルフォはその辺りは並だけど、その分スキル≪破却宣言[C]≫で補っている感じかな。 ……まぁ最大レベルだとNP二〇チャージ×三ターンで、そのCTが五ターンだけどね!」 フェイト「それは凄いね!」 古鉄≪後はバスターカードの性能が高いくらいでしょうか……って、宝具の差異もありますね。 クイックカードの性能を三ターンアップしつつ攻撃して、敵単体に宝具封印状態を付与です≫ フェイト「…………あれ、それってつまり……」 恭文「クイックは並だけど、その分スキルと宝具で回して行けって感じだね。 ただライダーのときよりカード性能も上がっているから、使い方次第でそれはもうぐんぐんと……」 フェイト「そっか……アストルフォも成長してるんだね。うん、なら私も奥さんとして負けないように頑張ろうっと」 (閃光の女神、ガッツポーズ……何か勘違いが加速した瞬間だった。 本日のED:野猿『叫び』) 恭文「タルタルソースは偉大だ……ご飯にかけても美味しいよね」 フェイト「太っちゃうけどね、それは……。 でも、分かるよ! だからいっぱい作っちゃうんだよね!」(どぱーん!) どらぐぶらっかー「くぅくぅくぅー♪」 シルフィー「タルタルソースはみんな大好き! 笑顔の源だよー!」 カブタロス「肉揚げるぞ! 肉!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |