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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第1話 『新しい血』

ヴェートルという管理世界で起きた、『アイアンサイズ』と呼ばれる二人組のテロ。

それは現地世界のみならず、ここミッドチルダをも震かんさせた。局員も、一般市民も変わらず。


でもその世界を救った人達がいる。

半民間警備組織『GPO』、そして……古き鉄と呼ばれる嘱託魔導師。


特に古き鉄は実質魔物扱いで、最強最悪なんて字名までついている。でもあらゆる経歴が示していた。

古き鉄はその暴力を、その強さを、世界の人々を守るために使っている。


……でも私達にとってそれは、遠い夢物語。

少なくともミッド地上で、救助隊の隊員として働いていた私達には。この時までは、確かにそうだった。


今はそんな事件が収束して……年も越し、春ももうすぐという時期。

私達はミッドチルダ近隣にある、廃棄都市区画へとやってきた。

ここは旧市街地をそのまま局の訓練などに使っている、いわば公共機関の私有地。その使用目的には魔導師ランク試験も含まれている。


相棒のスバル・ナカジマは気合い十分と言った様子で、いきなりシャドーボクシング。それを呆れながらも、アンカーガンのチェック。


「スバル、あんまり張り切りすぎると、試験中にそのおんぼろローラーがイッちゃうわよ」

「えー! ティアー、嫌なこと言わないでよー。ちゃんと油も差してきたー。
そっちこそアンカーガンが」

「アンタと違うのよ、私は」

「嫌な上にヒドいー!」


騒ぐスバルは気にせず、カートリッジの装弾をチェック。

更にモニターで時間も確認……問題ないので、さっと閉じた。


すると入れ替わりと言わんばかりに、私達の前に新しいモニターが展開。そこに映るのは空髪の女の子だった。

私達より年下、かしら。でも立派に陸士制服を着こなしていた。


『おはようございます! さて……魔導師試験の受験者さん二名、揃ってますかー?』

「「はい!」」


すかさずスバルと並び、モニター前で直立。


『では確認しますね。時空管理局陸士386部隊所属、スバル・ナカジマ二等陸士』

「はい!」

『同じく、ティアナ・ランスター二等陸士』

「はい!」

『二人とも保有しているのは、陸戦魔導師Cランク。本日受験するのは陸戦魔導師Bランクへの昇格試験で、間違いありませんね』

「はい!」

「間違いありません!」


というわけで今日は将来にも繋がっていくであろう、陸戦魔導師Bランク……いよいよここまできたと、背筋も必要以上に伸びる。


『……はい! では本日試験官を努めます、リインフォースII(ツヴァイ)空曹長なのですよー♪ よろしくですー!』

「「よろしくお願いします!」」


リイン曹長に合わせ、揃って敬礼。これもまた、お役所仕事の悲しい礼儀作法ってやつよ。階級は二つほど上だし。

でもこの幼さで空曹長……才能あふれるエリートってわけか。まぁ、いつかは追いついてみせるけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私ははやてと一緒に、とあるランク試験を見学させてもらうことになった。

……ただ、現在はやてはヘリのハッチを開き、身を乗り出しながらその子達を見ていた。


「おー、もうそろそろ始まるな。リインもちゃんと試験官をやっとるようやし」

「は、はやてー! 危ないよ、中に入ってー!」

「大丈夫やて、うちは空戦魔導師やし」

「それでも落ちたら危ないよ! モ、モニター! モニターでも見られるんだからー!」


それではやては、しょうがないと言った様子でハッチを閉じる。そうして私の隣に着席。

それにホッとしつつ、モニター展開。試験中は様々なところでチェックが入るので、その辺りのネットワークと繋ぎ……まずあの子達を見てみる。


「えっと、この二人がはやての見つけた子達だよね」


でもスバル・ナカジマ……あぁそっか。この子がギンガの妹さんなんだね。うん、よく似てる。


「そうや。二人ともなかなかに伸びしろがありそうでなぁ」

「部隊の方には……というかこの子達はまだ知らないのかな。一応これ、引き抜きになるし」

「部隊にはなのはちゃんとヴィータが出向いたよ。本人達には今日の様子を見て、そこからよ」

「そっか」

「話がまとまったら、なのはちゃん直属の部下であり、教え子になるわけやからな。
……で、もう二人はフェイトちゃんの部下で……もう研修入ってるんやっけ」

「毎日大変そうだけど……でも充実しているみたい」


小さいし不安もある。その上厳しい状況もたくさん予想されるし……止めたかったんだけどね。

でも小さい頃の私やなのはと同じで、揃って頑固だから……それなら私も、できるだけ支えていこうって決意は決めている。


それで……後一人なんだけど……。


「それで、フォワードはあと一人……だったよね」

「そや。一応明日、魔導師ランクC試験を受ける予定なんやけど……」


はやてがモニターを操作し、その子の情報を出してくる。

…………嘱託魔導師で、経歴は空戦魔導師Dランク。魔力量は私達の半分以下で……近接型の男の子なんだけど。


「…………追試、大丈夫やろうか」

「追試? え、学生なのかな」

「四月で高校三年生やけど」

「学校と両立させるの!?」

「そこは手を考えているってー」

「というか、どうしてそんな子を!?」

「そやなぁ……古き鉄やから?」


…………そのワードは、私にとって……ううん、私と母さんにとって、ある種の傷に近いもので。


「それって……というかはやては……あぁ、そうだよね! だから、シグナムと止めにきて!」

「まぁフェイトちゃんには苦労もかけるけど、うちとしては是非部隊に入ってもらいたいんよ」


だからはやては……ある意味劇薬に近い子のデータを、希望を込めるように見ていて。


「うちらが立ち向かう事件には、絶対……必要な切り札やから」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――そして、ティアナとスバルの試験が一つの結果を迎えた翌日のこと。

同じようにCランク試験を受けに来たその子は……なんというか、その……!


≪The song today is ”Phantom Joke”≫


いきなり大音量で音楽を流したかと思うと、全力疾走――。

腰に付けた尻尾のような……ワイヤーとブレードを組み合わせた装備で、次々と敵性スフィアを撃墜。

同時に幾度も指を鳴らすと、空間が次々爆発して…………かと思うと、大型スフィアには……その、その、その……!


「――――試験結果を伝えます」


試験官を務めた私の親友≪高町なのは≫も頭が痛そうにこめかみをグリグリ。

地上本部の一角……休憩所も兼ねた一室で、向かい側に座るあの子は……とても堂々とふんぞり返っていて。

試験が終わって三十分も経っていないのに……というか、まだ結果を伝えられる前なのに勝利者気取りってぇ!


≪〜♪≫


なお、ロボットっぽいぬいぐりみボディのデバイスも、同じようにふんぞり返り……なぜか黒光りするメイスをフキフキしていた。

その上でこう、ワイヤーの尻尾……というか、その先に付けている刃をひゅんひゅんさせて、明らかに威嚇しているの……!


「合格以外はあり得ないよね。はい、解散解散……お疲れ様でしたー」

≪やりましたね。これでご母堂様達と温泉旅行ですよ≫

「話を聞いて!? というかそれこそあり得ないから! 不合格だから!」

「…………ハラオウン一派はこれだから」

≪ヴェートルのときも邪魔してくれた上、今回もこれですか。
まぁお里が知れてよかったですね≫

「なんて理不尽なの!?」


そう、理不尽……そして傍若無人。

これが古き鉄……ヴェートルの英雄と言われる子と、私達の出会いだった。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七五年――西暦で言えば二〇二〇年。

私達はなんというか、その……本当の意味での狂気というか、狂戦士と始めて遭遇しているかもしれない。


それくらいに私とはやて、なのはの前にいる子は、これまでの常識が通用しない子で。


「というかね……君、試験内容を理解してる!?」

「敵を潰してゴールにたどり着け……でしょ? だから潰したじゃない、全て」

「そうだね! 質量兵器寸前な自作デバイスや音響爆弾で、スフィアをなぎ倒していったよね!
そこまでならいいよ! いや、あんまりよくないけどいいよ! でもその後何をしたぁ!?」

「ドミノ倒しだよね。周辺の地形を利用して、残存勢力を潰す作戦だ」

≪えぇ≫

「あんなドミノ倒しがあるわけないよねぇ! 物質操作で即席の爆薬を作って、残りのスフィアをビルごとなぎ倒すってぇ!」


そうだよそうだよ! 試験会場がこう、廃棄都市群だったはずなのに……更地になっているから!


「ビルが二つ三つってレベルじゃないよ! どうやったらドミノみたいに十二十と倒れていくのぉ!?」

「いやぁ、思っていたよりも密集していて」

「反応が軽すぎるよ! しかもそれで悠々闊歩でゴールとか、前代未聞だよ!
危険行為と連絡不備とかそういう問題じゃないよ! 試験を活用した都市へのテロだよ!」


そう……ここからでも試験会場が見えるんだけど、凄いことになっているの。

報道のヘリとか、局の対応者が引っ切りなしに移動していて……!


「誰も信じられないよ! あの様子を見て、ランク試験で地形を利用した作戦が行われたんだなぁ……とは、誰も信じられないよ!」

「何が問題なのよ。戦いなんて敵を虐殺するのが理想でしょ」

「魔法技能が見られないよね! 魔法中心で、知恵と勇気で何とかしてほしいの! それを見るのが試験なのー!」

「いや、だから最初はそれで切り抜けたでしょ。顔を立てたでしょ」

「全然足りないよ! 終始手抜き気味だったからね!? というか……ふざけているのかなぁ!」

「それはこっちの台詞だよ」


平然と言い切ったんだけど! こっちが……なのはがふざけているって!

あぁあぁあぁあぁぁぁ……なのはがプルプルと震えてぇ! 心から衝撃を受けた様子で打ち震えてぇ!


「…………フェイトちゃんー!」

「よ、よしよし……」


遂にお仕事モードすら保てなくなったかぁ……! とりあえず泣きついてきたなのはを受け止め、よしよしと……頭を撫でて……。


「あの、あなたも……駄目だよ。それに知っているよね、管理局は質量兵器とか基本NGで……だから魔導師にも、ルールと安全を守る技能が必要で」

「ハラオウン執務官は凄いですねー。僕なら分署に砲撃を噛ました時点で、恥ずかしさから魔導師を引退するわ」

「あの、それは……今とは関係が」

「説教をするなら、相応に奇麗な身を保たないと駄目だよね? 説得力がなくなるんだから」

「だったら、せめてなのはの話を……私のこととは関係がないし」

「だって論破されたでしょ」

「あれ、論破って言わないからね……!?」


…………駄目だ。完全に、話を聞くつもりがない……!

ヴェートル事件のときにいろいろ揉めちゃったから……ほぼ初対面なのに敵意むき出しだし。

やっぱり、最初GPOの手柄が横取りされそうになったのとか……それが払拭されても、GPOがヴェートルから出ていったのとかが引っかかっているのかな。


だけど、それは……母さんにとっても、苦渋の決断なのに。


「まぁ不合格なら不合格でいいや。はやて、僕は地球に引っ込むから」

「いや、それはちょお待ってくれるか? まだ話の途中でなぁ」

「受けるだけは受ける……シグナムさんにはリインとのことで世話にもなったし、顔は立てたい。そういう約束だったでしょ」

「それやったら、せめて魔法中心で戦ってほしかったんやけどなー!」

「そ、そうそう……君の技術で、そのままDランクっていうのは……逆に危険だよ」


なのはも引き留めようと復活して、懐から書類と封筒を出してくる。


「これ、本局武装隊への研究申請用紙と推薦状。
そこで三日間の講習を受けて、四日目で再試験の手はずになっているんだ。
……厳しい武装隊の人達に揉まれて、正しく安全な運用ルールを覚えれば、CランクどころかAランク試験だって楽々突破できるよ」

「そう……再試験するんだ」

「そうだよ。……魔導師としてもまだまだ伸びしろがあるよ。その可能性を突きつめるためにも、まずは」

「だが断る」

「…………はい?」

「僕が最も好きなことを教えてあげようか。上から目線で自分が強いと思っている奴に、NOと言ってやることだ」

≪それは私も好きなことですねぇ≫


……………………なんなのこの子ぉ! なのはも資質はあるんだからって言っているのに! 平然と笑って潰しにきたんだけど!


「というかね、いきなり予定を差し込まれても困るのよ。
うちの両親も結婚二五周年がもうすぐだから、温泉旅行をプレゼントしているのよ。明日から山形の方でノンビリするの」

「あ、それなら……それなら大丈夫! 都合のいい日程は申請用紙に書いてもらえば」

「え、ここ二か月は無理だけど。収録あるし、付き添いあるし」

「え」

「……なのはちゃん、この子、星見プロってアイドル事務所さんでお世話になっているんよ」

「アイドルゥ!? え、長瀬麻奈ちゃんがいたとこだよね!」

「はやて、その説明だと語弊があるでしょうが……。
星見プロの中心は今所属している若手十人。そこでバイトみたいに手伝っているのよ」

「あ、そういう……ね」


うん、そっか。アイドルさんの収録や付き添いにってことなんだね。それは分かったけど……いや、でも凄くない!? アイドルさんと知り合いってことだよね!


「バイトとちゃうやろ……Vチューバーとしても出とるんに」

「ちょ、しー!」

「Vチューバー…………え、まさか君、ジンウェンの中の人!?」

「あ、うん……一応」

「えぇ!?」

「あの、なのは……」

「ほら、前に見せたよね! 可愛いイラストのキャラとして喋る動画配信者さん! この子、それで事務所に所属している子なんだよ!」

「えぇ!?」


え、じゃあ自分でもそういうお仕事として喋っているってこと!? そうなの!? なのはも知っているってことは、有名なのかな!


「じゃ、じゃあそこも……配慮するので! それはもう、先約優先だよね! 当然だよね! うん!」


なのはが恐縮している! やっぱり有名なんだ! やっぱり凄いんだ!


「それについてははやての返答次第かな」

「……どういうことかな」

「あのね、はやて……僕は言ったはずだよ?
しばらく局の仕事は受けないって。ヴェートル事件の件で、お父さん達からも頼まれたってさ」

「そうなの!?」

≪そうなんですよ。というか高校もあるので、最後の一年くらいは勉学に集中する予定だったんです≫


つまり、完全に……魔法社会のことや、管理局絡みのことについてモチベーションがない?

…………そんな状態で試験を受けさせるって、どうなのかなぁ! そっちの方が気になってきたんだけど!


「あの、はやてちゃん……!?」

「それ、知っていたのかな……だから黙っているのかな! ねぇ!」

「……そやかて、なんやかんやでノリノリになるかなぁって」

「「こらぁ!」」

「それにほら、高ランク取るーって女神様とも約束したんやろ? ちょうどえぇ機会やって」

「「女神様!?」」

「まぁ、それはね」

「「否定しない!?」」


あぁ、ようやく納得したよ! そりゃあ前提そのものが違っていたら、食い違うよ! のれんに腕押しだったんだから!


「でもそれだって、あの件で反省点ができたから、新装備……作って、テストするためでもあるって言ったよね。
まぁそっちは予想以上に改善点が多くて、危なっかしいから途中で切り上げたけどさぁ」

「あ、そうなんだ………………ちょっと待って! 切り上げた結果があのドミノ倒しなの!? 普通に魔法を使えばいいよね!」

「芸術点を獲得できるかと思って」

「あんなテロに芸術はないよ! 全てにおいて魔法社会への侮辱しか考えられないよ!」

「で……受けたら受けたで、こっちの予定も知っているのに再試験を受けろ? どういうことよ」


いや、そこは無視…………するしかないかぁ! この子からすると、こっちの予定なんてさっぱりだろうし!

それに私も……ようやく理解する。この子の態度が、私達全体への不信感が、どこからきているのか。


「はやて……そこは、ちゃんと説明しないと」

「フェイトちゃん、待って」

「なのは?」

「……どうして、局のお仕事……やめようって思ったのかな」

「……ウンザリだもの。何もしなかった分際で、手柄を横取りする組織やお偉方の小間使いとか。
しかもそのお偉方の一角は、GPOが本来不要とか抜かしやがった。自分は洗脳されて、その邪魔をしてくれたのにさぁ……」


母さんのことだ……母さんが、アイアンサイズ用の特攻兵器を潰したことも、やっぱり根に持っていて。


「あの、待って。……母さんと、それで揉めたのは私も聞いている。
でもそれは、そういう意味じゃなくて……本来局がやるべきことを肩代わりさせているからって意味で」

「同じことだ」

「同じじゃないよ。お願いだから、母さんの……リンディ提督の気持ちも」

「挙げ句アインサイズやらを止めた賞金まで、パーにされかかったしねぇ……!」


…………かと思ったら、いきなりお金の話になった。


「……お金、ほしいの?」

「これだけ稼ぎたいからね」


そこであの子が右指を一本立ててきた……。


「幾ら、かな」

「一億……できれば三億」

「さ……!」

「そのためには、管理局の意向とか邪魔なのよ。
好きにバウンティハンターでもした方がまだマシだ」

≪それもご母堂様達の心配の種になりそうですけどねぇ≫

「そっか。でもね……魔法そのものが嫌いじゃないなら、上のランクは取ってもいいんじゃないかな」

「ランクなんか飾りでいいんだけどねぇ……
甘く見てもらえる方が、すぐ潰せるし」


なのはは嫌みも混じった言葉に頷き、受け取ってももらえなかった申請用紙を優しく撫でる。


「はやてちゃんやシグナムさんからも、君の資質や戦闘スタイル……ヴェートル事件での活躍もいろいろ聞いている。
決して恵まれた資質じゃないのに、それをただ一点に……魔法と武術のハイブリットという形で特化させて、挙げ句オリジナルデバイスも作っている。
……それは並外れた熱意がないとできないことだよ。剣術も、魔法も、好きなんだよね。だからそれで強くなろうとしている」

「さぁね」

「実際それができる魔術師は、局内にはほとんどいない。いるとしたら民間……天瞳流みたいなところかな」

「……天瞳流を知っているの?」

「もちろんだよ。IMCSでもミカヤ・シェベル選手、活躍しているしね」

「あの、なのは……天瞳流って……」

「ミッドにある居合道の道場だよ。精神修行の一環として、魔法に頼らない武術を……居合いを突きつめているところ。
そこの師範代であるミカヤって女の子が、IMCSで大活躍しているんだよ」


そんなところがあったんだ。だからこの子も…………そうか、なのははそれも気づいていたから。


「でも今のでよく分かったよ。
だからはやてちゃんも、シグナムさんも、君を機動六課に誘いたがっていたんだって」

「……機動六課?」

「そや。特定遺失物≪ロストロギア≫捜索が任務の、本局機動課六番目の部隊……活動拠点はミッド地上。
まぁ広域捜査は五課までが担当するから、うちらはレリック専門の対策部隊になるけどな。それも一年限定の部隊や」

「はやて、それは!」

「大丈夫。恭文はレリックのことも、ガジェットについてももう知っとる。
例の空港火災にも、別口で救助活動をしとったからな」

「そうなの!?」


するとあの子は軽くお手上げポーズ……本当に知っているんだ。問題ないって様子だもの。

…………こうして、どうしようもない溝を刻んだ上で……私達は一つのジョーカーを手札に加える。

それが正しいことかどうかは……私には、まだ分からなくて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年四月、ミッド港湾地区――。


市街地から三キロ前後の距離を置いた海沿いの施設。

ここに遺失物対策部隊『機動六課』隊舎はでき上がった。


とはいうものの、敷地や建物はお下がりや。

地上部隊でちょうど使われなくなったところを、本局が借り受けた感じやな。

……それは建物のみならず、設備関係でもそういうものが多い。


シャマルの城となる医務室――。

そこの設備は本局医療施設からやし、ロングアーチが使うメインコンピュータもそんな感じ。


でも新設な設備も多数あって……例えば、左隣にあるリインサイズのデスクとか。
なお妖精モードに合わせとります。


「うふふ……リインにピッタリサイズなのですー♪
……って、どうしてですかー! リイン、大きくなれるですよー!」


予想通りに荒(あら)ぶってるなぁ。そう言えばヴェートルでは、フルサイズやのうて不便やったと……でも。


「リイン、これは省エネや。まだまだフルサイズは燃費が悪いやろ」

「う……そ、それを言われると弱いですけど」

「まぁなのはちゃんも一年一緒やし、時おりコントロールを見てくれるって言うてたよ。頑張ろうか」

「それなら頑張るですよ! それでそれで、恭文さんと……えへへーですー♪」

「それはアカンから!」


くそぉぉぉぉぉぉぉ! リインがフルサイズやら大人モードをデフォにすると、欲望をぶつけていくわけか!

アカン、ずっと妖精のままでいてほしい! でも思考からもう手遅れかもやし……うちはどうすればえぇんや! 教えて偉い人!

……って、うち部隊長やったー! うちより偉い人はみんな本局ー!


「……何を言っているですか」


かと思ったら、リインが冷たい視線を……これは、恭文と出会ってから何度も見てきた目や!


「はやてちゃんは恭文さん専用のエロ狸として、今までのツケを払い続けるですよね……!?」

「そ、それは……まじでやめて……。クロノ君達にもめっちゃ叱られたし……」

「だったらリインがはやてちゃんの分まで頑張ります!」

「それはアカンからぁ! それやったらうちが頑張るからぁ! エロ狸頑張るからぁ!」

「いいえ! ノーサンキューなのです! 元祖ヒロインを差し置いて、ただれた関係とか許されないのです!
ただでさえフィアッセさんやシルビィさん、ゆうひさんとか……パワーのある人が恭文さんラブなのに……! がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


リイン、落ち着いて! そのお気に入りのデスクをどんどん叩かんといてぇ! 早速壊れるから! 初日で修理費が発生するからぁ!


「でもでも、負けないのです! ……リインは恭文さんのお母さんから、直伝の青椒肉絲も教わっているのですー♪ もう嫁なのですよー♪」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


あああ……なんでうちはあんなことをぉ! つい映画みたいなシチュでテンション上がったためにぃ! 若さ故の過ちは認めたくないー!

初っぱなから絶望してると、ブザーが鳴り響く。一応部隊長室やから、面倒やけどインターホン的なもんがついてるんよ。

つまり情事にふけっていても、突如闇討ちされる危険なし……あ、アカン! 情事しそうな奴が隣にいた! それはそれとして。


「はい、どうぞー」

「「失礼します」」


一声かけると、なのはちゃんとフェイトちゃんが入ってくる。

しかも二人揃(そろ)って、いつもとは違う陸士部隊の制服やった。


そう、恭文から……あの美的センスが狂っている恭文でさえ、『ださい、地味』と酷評される陸士制服。

茶色を基調としたそれは、一尉ななのはちゃんと同待遇なフェイトちゃんに合わせ、ちょいデザインなども変わっていた。

それでも……やっぱり地味やった。うら若き乙女がする格好やないと、改めて思う。


「おぉ、お着替え完了やなー」

「うんうん、似合ってるですよー」

「ありがとう、リイン。……あ、それと部屋も確認したけど、かなりいい感じに調整してもらって……それもありがとう」

「相部屋になっとったけど、問題なかったか?」

「ないない。もう……平服しなければならない勢いで」

「そらよかったわー」


デスクから立ち上がり、リインと一緒に二人へ近づきながら思う。

なのはちゃん、気持ちはよく分かるで……まじで管理局の福利厚生、バッチリやしな!


「でもなのはちゃん的にはやっぱ動きにくいやろ。教導隊制服、あんま変わらんように見えて全然違うし」

「まぁそれはね。ただ郷(ごう)に入っては郷(ごう)に従えとも言うし……公の場や事務仕事ではこっちってことで」

「それでフェイトちゃんは……なんか、黒以外を着とると妙に新鮮な」

「そ、そうかな。でも三人で同じ制服……中学校のとき以来だね。……あ、それでは」


おぉそうやった。これでも上司と部下、それなりの通過儀礼は必要で……うちらは揃(そろ)って敬礼。


「本日より高町なのは一等空尉!」

「フェイト・T・ハラオウン執務官、両名とも機動六課へ出向となります!」

「どうぞ、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくお願いですよー」


きっちり挨拶もしたところで、またインターホンが鳴る。初日やから忙(せわ)しないなー。


「はい、どうぞー」

「失礼します」


そこで入ってくるのはグリフィス君……っと、二人はかなりお久しぶりか。ちょっと目を丸くしとるし。


「高町一等空尉、ハラオウン執務官! 御無沙汰しています!」


そんなグリフィス君は、慌てて二人に敬礼。それに二人は帰しつつ、数秒考え


「……もしかして、グリフィス君!?」

「はい」


答えに行き着いたらしい。男子三日会わざればかつ目して見よ――昔の人が言った通りや。

グリフィス――グリフィス・ロウラン君。うちや守護騎士のみんなが、闇の書事件でお世話になったレティ・ロウランさんの息子さん。

レティさんに似て優秀な子で、バックヤードスタッフをまとめるリーダーって感じかな。


四年前、なのはちゃん達も一緒やったとある任務中、シャーリー共々初対面でな。というかそれ以来?

まぁシャーリーはその後フェイトちゃんの執務官になったけど、グリフィス君は事務方なせいもあってこれがなかなか。

ただうちや恭文はちょいちょい関わっとる。そしてグリフィス君は、恭文の無茶(むちゃ)によく泣かされていたわ。


「その節はシャーリー共々お世話に……というかハラオウン執務官には特にお世話になっています」

「う、ううん。でもあの、え……えぇ! シャーリーから背が急激に伸びたとは聞いてたけど、こんなに!?」

「もうなのは達、追い越されてるよ! わぁ、やっぱり男の子だねー」

「あははは、どうも」

「えっと、グリフィスもここの部隊員なの? シャーリーからは聞いてなかったんだけど」

「すみません、実はそのシャーリーにも連絡が遅れまして。ついさっき驚かれたところです」

「グリフィス君はバックヤードスタッフのまとめ役、更に交代部隊の責任者として、うちやリインの仕事をよく手伝ってくれてなぁ」


もはや、実質副隊長と言うべきやった。そやから……なんよなぁ。


「……そやから言う暇がなかったんよ。部隊開設直前の、一番忙しい時期やったから。ごめんなぁ」

「いえ、大したことはしていませんし……あ、報告してもよろしいでしょうか」

「どうぞー」

「フォワード四名及び追加の1名を始め、機動六課部隊員とスタッフ、全員揃(そろ)いました。今はロビーに集合・待機させています」

「おぉそっか! 結構早かったな!」


こりゃあのんびり同窓会をやっとる場合やない! 初っぱなからみんなを待たせるのもアレなので。


「ほななのは分隊長、フェイト分隊長、部隊のみんなに御挨拶や」

「はい!」

「あ、待って……それなら……それなら……」


……そしてフェイトちゃんは突然隅っこへ引き、左手を開き手のひらに『入』と三回書いて飲み込む。それをひたすらに、ただひたすらに繰り返す。


「かぼちゃは駄目かぼちゃは駄目かぼちゃは駄目かぼちゃは駄目かぼちゃは駄目」


しかもなんや呪そみたいな呟(つぶや)きまで……異様な雰囲気にグリフィス君が息を飲み、一歩後ずさった。

でもかぼちゃ……あぁ、アレかぁ。ほんまつい最近のことやから、必死に抗(あらが)ってるんやな。


「……グリフィス君、気にしなくていいよ。あの、フェイトちゃんは最近……士官学校の生徒さん達に、いわゆる講談をして」

「校長さんにお呼ばれして、実務経験などからいろいろお話してほしいーってお願いしてな。
でもフェイトちゃん、昔からそういうのがめっちゃ苦手で」

「にが……え、ですが執務官なら」

「お仕事はまだえぇんよ、自分でそういうキャラを作ったりもしとるし。
ただ講談って執務官として……というより、フェイトちゃん自身でみんなにお話やんか。
もう学生時代からそういうのがホンマに駄目で、毎回ガタガタで……それで、結局そのときも」


そう、そのときも……そやからうちらはただ静かに、無事に挨拶できるようにと両手を合わせた。できるのは……もはやそれだけやった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで疑問顔なグリフィス君を引き連れ、ロビーに登場。

用意された壇上へ上がり、まずは部隊長から御挨拶。

なお部隊は前線メンバーやロングアーチだけで動かすもんやない。


衣食住をサポートしてくれるスタッフさんに、交代部隊のみなさん。

知った顔、知らない顔、それが入り混じったたくさんの仲間達――そこで一気に身が引き締まる。


『あーあー。……よし。えー、機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長、八神はやてです』


マイクテストも軽くしつつ、まずは自己紹介。そして始まる拍手……アカン、引き締まるって言ったのに、ちょっと嬉(うれ)しくなってもうた。


『平和と法の守護者――時空管理局の部隊として、事件に立ち向かい、人々を守っていくことが私達の使命であり、なすべきことです。
実績と実力ある指揮官陣、若く可能性に溢(あふ)れたフォワード陣』


そこで見やるのは――ギンガの妹で、青髪ショートのスバル。

オレンジツインテールで、ツンデレなティアナ。

二人はうちとフェイトちゃんが直々にスカウトした、レスキュー部隊出身のコンビ。


その左隣には赤髪のエリオ。

桃髪ショートのキャロ。

こちらはフェイトちゃんの被保護者で、新人局員さん。


なのはちゃん、フェイトちゃんの分隊へそれぞれ二名ずつ入り、お仕事していく形や。

エリオとキャロはうちとなのはちゃん的にもなじみやし、スバルもうちに限り……姉経由で存在は聞いてた。

なのでそれなりに上手(うま)くやれるとは思う。ティアナが完全初対面やから、未知数やけど。


でも大丈夫、ツンデレの応対は恭文で慣れとる。アレも面倒くさいツンデレに属する奴やから。


『それぞれ、優れた専門技術の持ち主である、メカニックやバックヤードスタッフ。
戦う場所はそれぞれ違えど、全員が一丸となって事件に立ち向かっていけると信じてします。
……まぁ長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長……八神はやてでしたー』


最後に軽くおどけて、また拍手をもらい下がる。次はフェイトちゃんが分隊長として挨拶。

ややたどたどしい足取りやけど、大丈夫や。お仕事モードなら……お仕事モードなら。


「……あ」


壇上へ上がりかけた直前、急にしゃがみこんでまた『入』と……アカン、これ駄目なやつや!

というかそれちゃうで! 人やからな、人! 入って書いてどないするんよ! さっき説明したはずやのに!

……それでもまさか、まさかまたやらかしたりはせんやろう。そんな油断がうちにはあった。だからこそ。


『え、えっと……かぼちゃのお前ら、こんばんは』


フェイトちゃんの大ボケを、うちらは止められんかった。

……次の瞬間全員がフリーズ。


『あ……ふぇ、ふぇぇぇぇぇ……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
あの、違うんです! お前ら違うんです! これはあの、お前らがカボチャじゃなくてもっと違うそれ以下……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


そしてフェイトちゃんは、涙目になってわたわたしながら泣いてしまう。

………………これが、機動六課の始まりやった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……フォワード陣はそれぞれ二名ずつ、なのはさんとフェイトさんの分隊に所属。私とスバルがなのはさんが分隊長の『スターズ分隊』。

それで赤髪なエリオ・モンディアルと、桃髪ショートのキャロ・ル・ルシエがフェイトさんの『ライトニング分隊』に。

コールサインと簡単なスキルも挨拶しつつ確認し、なのはさんに連れられ廊下を歩く。ただ……空気は実に微妙だった。


分隊長がカボチャとか言うから、ちびっ子達は無駄に固いし。スバルは盛り上げようと空回りし、私はついていけずだんまり。

そしてなのはさんは頭を抱え、何やらぶつくさ……何、この連携取れなそうな集団。


「……やっぱこの制服、ダサいわ」

≪私達の美意識に反しますねぇ。なにより常在戦場としてもアウト≫

「お着替えだね」


それで……一番連携が取れないのはコイツよ!

廊下で突如として、襟首掴んで服を引きちぎって……平然と蒼い着物……袴、だっけ? それに着替えちゃうし。


「うん、こっちはバッチリ……」

「…………あの、何を……していらっしゃいますか?」

「アルト、やっぱり僕達って」

≪かっこよすぎますよねぇ。鷹山さん達も草場の影で喜んでいますよ≫

「まだ死んでいないからね、あの人達。元気に横浜を走り回っているよ」

「せめて会話をしてくれないかしら!」

「嫌だよ」

「はぁ!?」


ちょっとー! 初手で会話を拒否されるとは思わなかったんだけど! せめて最初くらいは愛想よくするものでしょ!


「だって会話するってことは、当然さっきの体たらくについて触れるんでしょ……?」


かと思ったけど、致し方ない理由だった……! そりゃそうよね! あんなの触れたくないわ! 私だって目を背けたいもの! できることであれば!


「嫌だ嫌だ嫌だ……というかここ、地球じゃないのに。
なんで瑠依みたいな阿呆がいるのよ……」

≪人間は自分に似た奴が三人はいるって言いますしねぇ。その一人なんでしょ≫

「極力、関わらないようにしよう……! 絶対厄介なことになる」


いや、無理でしょ! 同じ部隊という時点でアウトでしょ! あといるの!? アンタの知り合いにもう一人あんなのが! いや、あんなのって言っちゃ駄目なんだけど!


「な、なのはさん……!」

「ごめん、あの……一つ一つ処理させてもらって、いいかな」


混乱してる! 分隊長なのに混乱しきりで涙声だし! 年下で部下の私達に懇願しきりだし!

でもこれは仕方ない! 私だって同じ気持ちだもの! 設立一時間足らずで、余りに非常識なことが積み重なっているもの!


「えっと、まずフェイトちゃんなんだけど……もう気にしないで」

『は………………!?』


でも……さすがにそのぶん投げ方は予想外で、全員で口をあんぐり。


≪私達はともかく、若い子達に無理を言いますねぇ……≫

「そうだよ。僕達は瑠依の電波でそれなりに慣れているけど、この子達は無理でしょ。拷問でしょ」


いや、本当にそのルイ某は何物なの!? というかその気遣いができるなら、どうしてさっき会話を拒絶したのよ!

というか……そこにフェイト隊長の被保護者二人ぃ! 拷問の被害者二人がいるから差し控えなさいよ!


「分かってるよ! でもね、その件とは関係もなくドジなの! ひたすらにドジなの!
最近も士官学校で講談を頼まれて……同じ失敗をしたの!
それを繰り返さないようにって意識した結果なの! もうどうしようもないんだよ!」

「士官学校!? え、生徒とかをカボチャ呼ばわりしたんですか! こんばんはって!」

「そのときは、こんにちはだったかなぁ」

「その時間経過は必要じゃないでしょ!」


ついツッコんでしまうほど、今の空気とカボチャはあり得なかった。このときだけは上司と部下って間柄をすっ飛ばしていた。


「というか、悪化しているんだよ……! そのときはまだ”みなさん”だったのに、今度はお前らだよ! お前ら以下だよ!
なのはが聞きたいんだよ! どこからそんな見下げた根性が絞り出せたのか、小一時間問い詰めたいくらいなんだよぉ!
というかどこぉ!? あの天然ドジが治る病院ってどこぉ!? それもう一生隔離されるようなレベルの病院にしか思えないんだけどぉ!
なのははあれなの!? 無二の親友をそんな病棟に叩き込めと!? それはもはや地獄だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「なのはさん、落ち着いてください! 言ってることがかなりアレですからぁ! ……ティア、どうしようー!」

「私達が何か言えるわけないでしょ……!」

「……よし、笑え」

「それで済むかぁ!」

「というか……笑う以外に何かしろって、それこそ拷問でしょ」

「いや、それはそうなんだけどね!?」

「仕方ないなぁ……じゃあ励ますよ」


え、できるの!? この状況でできるの!? 凄いわ、やっぱり年上って。


「なのは、雨宮天さん……分かるよね? 活躍中の女性声優さんだよ」

「や、恭文くんの……女神様……」

「……はやてにはあとで説教をしておくとして……その雨宮さんが事あるごとにこう言っているの。
『吐かない・倒れない・戻らない』ができれば、どんなステージでも大成功だと。
おのれも同じ……同じだよ。吐かなきゃいいの。倒れなきゃいいの。逃げ帰らなきゃいいの。そうすればハラオウン執務官が何をやらかそうと、大成功になるから」

『ちょっと!?』


……かと思ったらなにとんでもないことを言っているのよ! というかその声優さんの語録を持ち出すってどうなのよ! 逃げることすら許されない構えは恐怖でしかないんだけど!

というか、それが女神様ってどういうこと!? ちょっとツッコみたい……ツッコんだらまたカオスになるから駄目だけど!


「な、なら……頑張る……!」


それでなのはさん、納得しちゃったし!


「な、なのはさん……え、それで」

「だって、隊長だし! それでみんなを差し置いて、吐いて倒れて、逃げ帰るわけにはいかないし!」

「あ、はい……」

「それ自体は、自分達からすればありがたいのでありますが……」

「複雑であります……」

「はぁ、はぁ、はぁ…………と、とにかく二つ目……お互いの自己紹介は」


更に混乱が深くなっている中、なのはさんは壁に手をつき、咳き込みながらも話を進めてくる。

それでまぁ、着物姿のアホはさて置くしかなくて……でも、絶対コイツとは仲良くなれそうもない……!


「……名前や経験、スキル確認は」

「あと自分達の部隊分けと、コールサインもであります」

「あります!」

「エリオ、キャロ……もうちょっと肩の力を抜こうか」

「ただ、蒼凪さんが……」


……そうだ、コイツがまだだった。というか、と言うか……。


「いや、言ったでしょ。スキルは近づいて斬ることだけだって」

「そうじゃなくて、得意魔法とかあるでしょ……!」

「だって、洗脳されるんでしょ? ハラオウン一派の得意芸じゃないのさ」

「はぁ!?」

「……………………えっと……去年のヴェートル事件で、リンディさんやフェイトちゃんにいろいろ邪魔された関係で、警戒が……凄くてね」


ヴェートル事件…………アイアンサイズの一件!? まさかと思ってなのはさんを見やると……。


「蒼凪君はあの件で、GPOに協力して事件対処していたんだ」

「え、じゃあ…………」

「この子が古き鉄なんですか!?」

「古き、鉄……?」

「魔法やレアスキルに依存せず、数々のオーバーSや局の不正を叩き斬っていた……最強最悪の嘱託魔導師!
ヘイハチ・トウゴウっていうマスタークラスの魔導師から、そのデバイスを受け継いだ凄腕で、ヴェートル事件の解決にも尽力したヴェートルの英雄!」

≪そのデバイスが私ですね≫

「そんな、凄い人なんですか……!?」


嘘……だって、身長もスバルと同じくらいで、女の子にしか見えなくて……というか、完全に行動から頭がおかしいのに!

それが……あのヴェートルの英雄!? ヤバい、現実に絶望しそう! 世界ってこんなに残酷だっけ!


「僕は大して凄くないよ。
全ては地元で年単位の尽力をしていた、GPOがいればこそだし」

「は、はぁ……でも、あの……その件は、フェイトさんも洗脳されていたと、僕は」

「だから嫌なんだよ……!」

「い……!?」

「二度あることは三度あるって言うでしょうが」

「二度目はどこでありますかぁ!」

「カボチャがあったでしょうが」

「「「「「そうだったぁ!」」」」」


ついちびっ子達となのはさんともども、一緒に頭を抱えてしまう……!

いや、だって……そう言われたら否定できないもの! なのはさん自身、頭の病院が必要だって認めたしぃ!


「いや、それもおかしいですからね!? あれ洗脳じゃないでしょ!」

「洗脳でもされてなきゃ言うはずがないでしょ……これから部下であり仲間になる連中をカボチャ呼ばわりって。
明らかに殺し合いとかさせる覚悟だよ。明らかに上から目線で道具扱いする気構えだよ」

「「ご、ごめんなさい……」」

「しかもエリオ達も謝っちゃったしぃ! ティアー!」

「……私達は洗脳されないから……頑張って耐えるから、せめてスキルは教えてよ」

「……………………洗脳される奴はみんなそう言うんだよ」

「どこ統計よ……!」


ちょっと…………距離を、取らないでよ。

疑わしく見ないでよ。いや、確かに……確約は難しいけど! でもそんなこと言ったら誰とも仕事できないし!


「あの、なのはさん……」

「なら詳細なスキル確認のため、身体を動かそう。
もっと言うと早速訓練だよ、いいかな」

『はい!』

「え……僕、お昼までに帰ってドラマの再放送を見たかったんだけど」

≪暴れん坊将軍の第三シリーズですよ? どうしてくれるんですか≫

「残念だけど部隊のお仕事は、フルタイムなんだ……!」


駄目だ……このまま普通にコミュニケーションしていたら、絶対分かり合えなかった。

というか、このチビはなにをしにきたの!? フルタイムな上残業や急な出勤発生もあるのが仕事でしょ!


「え、僕フルタイム勤務無理だって言ったよね。障害の絡みで」

「だったねぇ!」

「障害……!?」

「……恭文君、発達障害の絡みもあって、活動時間に制限がかかっているんだよ。定期的に地球にも戻って、主治医さんの監督も受けなきゃいけない」

「そうだったでありますか……え、でも帰るってどこに」


あ、そうよね! 障害の絡みがあるのはまだ分かるとして……コイツも部隊の寮に常駐よね! 寮に部屋があるわよね!


「そうだよそうだよ!
学校の方も海外留学って形で、単位はなんとかなったのに!」

「いや、ちゃんとセーフハウスは用意したから」

「はぁ!?」

「いつどこで盗聴・盗撮されるか分かったもんじゃないし……そうしてまたデータを敵に送るんだ」

「だから……誰にされたのよ! その悪夢の所業を!」

「GPOのメルビナ長官。こっちも洗脳されて、いろいろ大変でねぇ」

「なんで洗脳された奴ばっかがいるのよぉ!」


というか、GPOも!? あぁ……テロで対処していたから、目を付けられていたんだ!

だからこんな滅茶苦茶警戒しているんだ。だからこんな……何度も捨てられて、不信感全開な子イヌみたいな目をしているんだ!


でもその目はやめてよ! 叱りにくいのよ! 止めにくいのよ!

心が軋んで、なんかこう……守ってあげたくなっちゃうのよ! これこそ洗脳よね!


「アルト、予想通りにここは敵地と見ていいよ」

≪ですね。じゃなかったらお前ら呼ばわりされませんって≫


というか……なんか取りだしたし! 輪っかがついた棒を……盗聴器探すやつを!


「…………なのはさん」

「……やっぱり詳細なスキル確認も含めて、最初の訓練……しようか」

「それで、いいんでしょうか……」

「なのはを許して……」

「あ、はい……」

≪〜〜〜〜!≫

「なのは、早速発見した」

「嘘でしょお!?」


…………それで、なんとかなるんだろうか……。

というか、確信してしまった。私はきっと…………。


きっと、今日というこの日を一生後悔する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――あの場は一旦解散となり、私達はトレーニングウェアに着替え、隊舎脇の海沿いへ。舗装された足場や防波堤……かしら。

……まぁアイツは代わらず着物姿なんだけどね! どういうことかしら!

それらが割りと近くで浮いている。でもそれ以外は訓練をやれるような広さじゃないし、内心疑問。


それでも教導隊制服のなのはさんと合流し、その前に整列。すると見慣れない女性が一人。


「えー、機動六課ロングアーチスタッフ兼メカニックデザイナーの、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。
みんなからはシャーリーって呼ばれているので、気軽に呼んでね。これから一年間、よろしくお願いします」

『よろしくお願いします!』

「シャーリーはフェイト分隊長の補佐官で、デバイスマイスターの資格も持っているんだ。
なので六課では隊長達も含めた、みんなのデバイスをメンテ。必要なら修理・改良も行ってくれる」

「何か気になることがあっても、気軽に話してほしいな」


シャーリー……あぁ、フェイトさんが言っていた人なんだ。明るくて砕けていて、話しやすそうな感じ。

とにかくそのシャーリーさんから、入隊前にあずけていた私達のデバイスが次々返される。

ちびっ子二人も自前。赤髪は青い突撃槍で、桃はグローブタイプのブーストデバイス、だっけ。


……なお、アイツはデバイス関係を一切預けて…………預けて、いたのよねぇ。

なんか万歩計みたいなのをさ! それをさっと腰のベルトに装着して、終了って感じよ。


「みんなのデバイスには、事前に説明した通りデータ収集用のチップを組み込んだんだ。
みんながデバイスをどう扱うかもさっぱりだから、そこを見てメンテなどに役立てる……って感じだね。
というわけで私もちょくちょく訓練は見させてもらうので、やっぱりよろしくー」

『はい!』

「それで……蒼凪君、そのデバイスなんだけど………………もうちょっと、なんとかならない?」

「何が?」

「コンセプトが、殺す気満々過ぎて引いたってこと……! しかも非人格デバイスで」

「当たり前でしょ。おのれらがデバイスを提出しろって五月蠅いから、身代わりとして作ったものだし」


ちょっとー! 平然と言ってきたんだけど! メインのデバイスを出す理由がないし、預けられるほど信頼もしていないって!


「でも対人戦で使うにしても過剰だし……なので今日の夜だけでもいいから、アルトアイゼンを預かってもいいかな。
とりあえずメインはそれで、その子にはお休みしてもらう感じに」

「断る。アルトの記憶データには、現地固有の秘匿能力も絡むものも入っているからね。
僕もそういう人達には内緒にするよう約束もしているし、関わってきた事件のデータもある」

「もちろん扱いは厳重にする。私もそうだし、関わるスタッフも口外しない……というか、それ以前の問題として、殺意度がね!?」

「そう言ってデータを流してくれたんだよ……洗脳されたメルビナさんはね」


だから、アンタはどんだけ洗脳プレイに恐怖があるのよ!

というかヴェートル事件、地獄だったの!? もう聞くまでもないけどさぁ!


それ以前に殺意……殺意! 一体どんな違法兵器すれすれの物を持ってきたのよ!


「あの……シャーリーさんも、フェイトさんも、決して悪い人じゃありません!
フェイトさんは多少ドジですけど……!」

「そうです! 仲間になるんですし、僕達を信じてもらうわけには……いかないでしょうか」

「あいにく、お前達ハラオウン一派と仲間になるつもりはない」


……コイツ、ちびっ子達にまで言い切りった……! 二人とも悪意なんて欠片もないのに!


「ただまぁ、これだけだとおのれらの厚意も踏みにじるから……簡潔に話す。
聞いたことはこの場で、全て忘れるというのならね」

「……それなら……約束します」

「自分もであります。それで、あの……」

「……あれを多少って……そうだよね、遠慮はするよね。
でも、強く生きていくんだよ? お天道様はちゃんと見ているから」


かと思ったら同情している!? いや、スタンスはそれだけどって話か! でも……あぁ、私も泣きそうだからやめてぇ!


「まずおのれら、ハラオウン執務官やリンディ提督への洗脳行為については聞いているよね。でも具体的な洗脳手段は知らない」

「「……はい」」

「僕とアルトはそれを知っている。でね、それは僕達にも生涯の秘匿義務が生じているのよ。
そしてその詳細について、被害者であるハラオウン一派へ教えることも禁じられている」


…………あぁ、そうか……それで……。


”ティア、あの……どうして!? だっておかしいよ! これから仲間になっていくのに!”

”馬鹿! アンタ、禁呪カテゴリーの禁止項目を忘れたの!? 第一項目!”

”……洗脳や暗示の類い……でも、それだけなら!”

”詳細を広めることも禁止されているでしょ! それがレアスキルならより大変よ! 術式の排除だけじゃ済まない!
レアスキル保有者への迫害……虐殺にも繋がる!
……なんの悪意もなく、力を使っていなくても……ただ継承しているだけで”

”でも、でも、でも……仲間なんだよ!? フェイトさん達もいい人なのに!”

”それでコイツが秘匿義務を放棄したって逮捕されても、同じことが言える?”

”言えない、けど……”

”そりゃあ警戒するわよ……ようやく納得した”


確かにそれなら……でも、そんな奴を部隊に入れちゃあ駄目でしょ! どういう判断で加わっているのよ、コイツ!


「……シャーリー、これについては無理を言えないよ」

「……できれば、最初から説明してほしかったんだけど」

「説明したよ……はやてにはね……!」

「「え?」」

≪はやてさんも詳細を知っている一人ですからねぇ。
その辺りの扱いはどうするのかと相談したら、自分が話を通しておくと……え、まさか聞いていないんですか≫

「なにもだよ! ちょっと八神部隊…………空の上だったぁ!」

≪あの狸、また私達を置き去りにしましたね≫


いや、またって何よ! なにかあったの!? こういう扱いが当然な因縁があったの!?


「うわぁ……なんかごめん。僕ももう話が通っているかと……ちょっとちょっと……本当に面倒なんだけど!
何、いちいち説明して回るの!? この面倒な話をさぁ! 何かあるたびにいちいち!」

「それについては、私からも説教するから落ち着いて……!」

「だったらさ、もう僕と仲間になるとか、そういうことは言わないでよ。
あのね、ハラオウン一派ってだけで僕は気を使うの。おのれらに言っちゃいけない爆弾を抱えている分、面倒が続くの。胃が痛いの。
でもそれでおのれらに気を使わせるのもあれだから、僕がアンチハラオウン一派って感じで振る舞うことにしたの」


アンタ、そういう理由!? というか、結局ちびっ子達の手を払っているでしょ! やめてあげなさいよ!


「あの……そんなこと、言わないでほしい! やっぱり私達は、同じ部隊の仲間だから!
大丈夫だよ! フェイトさん達だっていい人だもの! 教えたって変なことにはならないから!」

「……早速洗脳されている奴が…………」

「なんでー!?」

「洗脳されている奴は、みんなお友達だって平気な顔して言ってくるんだよ――!」

≪奴らはそうでしたね……≫


ねぇ、どういうことよ! 確かにスバルはウザいけど、それを洗脳って! なんかのカルト宗教にでも入っていたの、フェイトさん達!


「な、なのはさん……」

「……じゃあ八神部隊長を明日打ち首にするのが決まったところで、訓練だよ」

「「「「無視!? というか打ち首!?」」」」

「そうだよー。なのはも打ち首って見たことないけど、どうなるんだろうねー」

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」


ちょ、なのはさんも怒り心頭!? いや、心が一つになっているから、まだいいのかもしれないけど!


「でも訓練って……」

「ここで、でありますか」

「ここでだよー。シャーリー、今回は廃棄都市部でお願い」

「はい!」


なのはさんが軽く笑って、シャーリーさんをちら見。するとシャーリーさんはさっとモニターを複数展開。

それらを両手で素早く操作……凄(すご)い、よどみなく配置された設定表示に目を配り、指がタッチパネルを精密に叩(たた)いていく。


「機動六課訓練スペース――教導隊完全監修の、陸戦用空間シミュレーター。……ステージセット!」


画面の一部を押すと、浮いていた足場や防波堤が輝きに包まれ、白い粒子が舞い上がる。

それは次々と物質化して、あっという間にキロ単位の廃棄都市部となった。海に……街がそのまま浮いてるの。

そうか、海の上なら……位置的に街からも離れているから、より安全に訓練できるんだ。


でも、この技術は何。新設部隊って、こんなにお金をかけられるものなの!?


「あ……!」

「「す、凄(すご)いであります」」

「凄(すご)いでしょー。……機動六課はみんなも聞いての通り、実働によるデータ収集も目的とした実験部隊。
教導隊で開発中の新設備なんだけど、これについてもデータ収集を頼まれちゃって」

「私達が使い倒すことで、ですか」

「そうそう。まぁ欠点があるとすれば、まだ街の構築しかできないーってところなんだよね。
でも少しずつ、いろんなフィールドを構築できる予定なんだ。森とか、岩山とか……とにかく陸戦の練習になるように」


それでも十分すぎるような……! や、やっぱりこの部隊、いろいろと凄(すご)いのかも。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


陸戦用空間シミュレーター……隊舎屋上から軽く様子を眺め、つい舌を巻いちまう。

データ収集用に借り受けたも同然とはいえ、すげぇもんだよなぁ。まぁ場所と環境への配慮は必要だが。


「ここにいたか、ヴィータ」


そうして後ろからすたすたと近づいてくるのは、シグナムだった。軽くチラ見したら、めちゃくちゃ疲れた顔をしていた。

……原因なら分かる、カボチャだ。フェイトの馬鹿が……! 頭が育つ栄養分、絶対あの胸やら身体に使ってるだろ!


「シグナムか。まぁ……頑張れ」

「いきなり励ますな……! それより、新人達は」

「早速訓練開始。あの中へ入っていったよ」

「お前はつかないのか」

「全員よちよち歩きのひよっこだ、アタシが見るのはもうちょっと後だな」

「確か……最初は現状での連携力強化だったな」

「もっと言えば顔合わせだ」


ようはあれだ、五人でなのは一人なり仮想敵なりに飛び込んで、バラバラなのをすり合わせていくわけだ。

予定では個人スキルの強化やらなんやらもあるが、まずはそこから。……実はかなりハラハラしてる。


「しかしエリオとキャロは一体どうしたんだ。軽く挨拶もしたが、『〜であります』口調で一貫していたぞ。
テスタロッサにもそれだったので、軽くショックを受けていた」

「局員研修で相当しごかれたんだろ。
アタシ達だって同じだったろうが、敬礼やら挨拶の仕方までいちいち細かくてよ」

「……そう考えると、あの年で局員もよろしくないように思える」

「同感だ」


いや、ただ礼儀正しいだけならいいんだよ。上下関係を遵守するならさ。初めての奴も多いし、いきなり砕けて失礼ーってなるよりは。

ただ……なーんかなのはとかもやりにくそうなんだよなぁ。他二人との連携もあるし、そこんとこが心配で。


「あと、蒼凪についてはひよっこから外しておけ」


するとシグナムが何か読み取ったかのように、そう告げてきた。


「連携し辛いという意味では、恐らくエリキャロ以上だろうが……アレはそもそもスタンドアロンとして完成された魔導師だからな」

「どういうことだよ。つーか……アイツはマジでフロントアタッカーなのか?
魔法資質だけ見れば、後衛……それも戦闘に出ない支援タイプだろ」

「…………まぁすぐに分かる」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


廃棄都市部――高層ビルの一つへ上り、その屋上へ。みんなは既に戦闘準備万端。……まずは小手調べ。

まぁまぁみん何はキツいだろうけど、そのキツさも訓練なればこそ。それが実戦では役に立ってくれるはず。


「よしっと。みんな、聴こえるー?」

『はい!』


音声通信越しに呼びかけると、みんなから気合い十分と言った声が響く。うんうん、これなら問題なさそう。


『…………』


いや、約一名……着物姿のクレイジー君は、違うけど。すっごい気だるそうに首をゴキゴキ鳴らしているし……!

まぁ、その態度がただのビックマウスか、そうでないか……すぐ分かるだろうし、ここは何も言わない。


「今日はまぁ、小手調べって感じだね。私達機動六課の任務は、捜索指定ロストロギア【レリック】の保守管理。
実はそれ狙いで、ちょっと厄介な敵が出ていてね。……シャーリー、まずは軽く八体」

「はい。動作レベルC、攻撃精度Dってところですかね」

「うん」


そうしてみんなの眼前に、次々と俵型おにぎりメカが登場。その異様なフォルムに、スバル達は揃(そろ)って身構える。


『な、なのはさん……これって』

「レリックを違法収集、運用しようとする何者かが動かしている、自律戦闘兵器【ガジェットドローン】。
今みんなの前に出たのは、実機から取れたデータを元に精密再現した贋物(がんぶつ)。動作設定から言っても、本物には届かない。
でも……これが倒せないようなら、みんなはフォワードとしての仕事を一切果たせないことになる」

『だから、小手調べと』

「そういうこと。……ミッション目的、逃走ターゲット八体の破壊又は確保。十五分以内……いいね」

『はい!』

「それじゃあ」


シャーリーの操作によって、ガジェット達はティアナ達に背を向け。


「「ミッションスタート!」」


ふわふわと加速――。


さぁさぁ、追いかけっこだよー。みんなの機動性、戦術や連携力も試される。

今ははっきり言うと即席のでこぼこチームだけど、だからこそ衝突し、みんなで決めていけるはずだよ。

そんな自分達でどう連携すればいいのか、どう戦えるのか。それで……誰がリーダーにふさわしいかも。


≪The song today is ”RAGE OF DUST”≫


…………かと思ったら、凄い大音量で音楽が鳴らされる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大音量で音楽を鳴らしつつ、空間サーチ。


「シュヴァンツブレード、出力最大」


更にセットアップした≪悪魔の衣≫からテイルブレードを展開。

地面に切っ先を突き立て、伸長したワイヤーをバネのように動かし、一気に飛び上がる。

同時進行で地面に手をかざし、術式発動――瞬間精製したソードメイスを引き抜き、二十メートルほど上方へ。


「え……なに!」

「なんでありますか、これは!」

「ナーゲルユニット展開」


悪魔の衣から飛び出した球体上パーツが、両肩にセット。そこから粒子変換されていたガントレットユニットが両腕に装着される。

ガントレット下部には外付け式の連装砲。それを構え、逃走するガジェット達に乱射――!

なお質量兵器っぽく見えるけど、一切問題ない。基本は魔力砲……ただ攻撃スフィアとして、鉄球などが使えるだけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『ファイア』


私達がぼう然としている間に、更に空から次々と砲弾が撃ち込まれていく。

それはガジェット達の逃走を止めるほどじゃないけど、確かにその速度を、その進撃を乱す。

かと思うと、その足下から突如空気が爆発。その破裂により八体のガジェットが上へと吹き飛び、落下。

それでもすぐホバリングで体勢を立て直したところで……真上から影と衝撃が襲い来る。


アイツは肘から下に、丸みを帯びたガントレットを装備していた。

鋭い爪も輝く手で、身の丈ほどはある巨大な剣を……ううん、メイスでガジェット二体を唐竹一閃で粉砕。

そして残り五体が粉塵と衝撃で停止したところで、重たい一撃が唸る。


『――――――!』


腰に装着されたスカート型パーツ……スタビライザーのような尻尾が射出。

ワイヤーを引き出し、走らせながらも幾何学的に動き、ガジェット三体の横っ腹を次々射貫き、ボディを両断。

留めに黒塗りの……鉄塊と言うにふさわしいメイスが叩きつけられた。


それは残っていたガジェット全てを次々へし折り、なぎ倒し……一気に吹き飛ばした。

そうして八個の爆発があの子の周囲で起きて…………それを、私達は……ただただぼう然と見ていた。


≪――――幾ら実機より弱いと言っても、アッサリすぎるでしょ≫

「これならもうちょっとタイムを縮められるかな?」


なんなのよ、コイツは。

一緒に連携とかも考えないで、ただ一人で突っ走って……でも、凄かった。

そうだ、凄いんだ。単独で突っ走ったと言えば聞こえはいい。でも私達がそれについていけなかったのも事実。


そして痛感する……。

ガジェットがどういう性能であれ、これくらいできなかったら意味がないんだって……!


「………………恭文君達はお手つきぃ!」

「「…………え?」」


…………まぁ、それとは関係なく説教されるんだけどね! この馬鹿どもは!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ちょっとちょっと……首を傾げてきたよ! 本気で分かっていないって様子だよ!

オルフェンズ!? オルフェンズ!? ガンプラ好きだから!?

というかこれ……バルバトスルプスだよねぇ! いや、テイルブレードもあるからルプスレクス!?


「シャーリー!」

「あの、腰のが……あの子の作った複合兵装搭載型アームドデバイス≪トイフェルクライデゥング≫。
……なお、デバイス審査はランクIIIで通っています」

「嘘でしょお!」


シャーリーが殺す気満々って言っていた意味がよく分かったよ!

え、質量をそのまま飛ばして攻撃する尻尾に、打撃ユニットとして機能するガントレット!?

うん、機能するよね! 爪がすっごい尖って、心臓とか抉るオーラ満々だし!


更にそのガントレットに装備する速射砲ユニット!? 完全に魔法戦じゃないよ! 完全にレベルを上げて物理で叩く構築だよ!

どう見ても違法兵器にしか見えないよ! 非殺傷設定とかすっ飛ばす勢いだもの!


完全にレベルを上げて物理で殺す…………さっき言ったけどね!? しかもこれで審査を通すって、魔法社会のガバガバさに泣くしかないよ!

…………よーし、なら分隊長としてお説教しちゃうぞー! ある意味初仕事だから頑張っちゃうぞー!


『何が問題なのよ』

「意味がないからね!? 一人で何とかしたら意味がないからね!?
いや、それ以前に……この音楽はやめてぇ! 五月蠅いよ!
しかも合図する前に詠唱して、動いていたでしょ! とんだフライングがあったもんだよ!」

『んなわけないでしょ。ちゃんと合図がかかってから飛び上がって、潰しにかかったし』

≪マスター、残念ながら事実です≫


あ、レイジングハートが記録映像を………………本当だったよ!

合図を賭けて、音楽を鳴らしながら飛び上がって……物質捜査かなにかであのメイスを作って!

その上でどがーんだよ! その上でRAGE OF DUSTだよ! でも何一つ嬉しくない!


『何より常在戦場……戦闘者は常に臨戦態勢であるべきだし、殺し合いに号令なんてないじゃない』

「そしてこの速攻蹂躙に対し、とんだ言い訳があったもんだよ!
というかそれ……嘘でしょ!? どうして審査が通ったのかなぁ!」

『なにを言っているのよ……両手槍やタービング付きのナックルがOKなのよ? 非殺傷設定が使えればOKでしょ』

『『い!?』』

「やっぱり魔法社会がガバガバだったぁ!
とにかく…………連携! スバル達と……五人で協力して戦う感じ! OK!?」

『五人…………そうか、四発…………OK!』

「うん、今考えた作戦以外でお願いしたいな! 猛烈に嫌な予感が…………シャーリー!」

「あぁ、よしよし……なのはさんは悪くありませんからね! 一欠片も悪くありませんからね!?」


そうだよね! なのはは悪くないよね! というか、さすがに速攻でベテランが潰しにかかるとか想定していないよ!

普通は協力して、みんなに成長の場を…………与えるわけがないよねぇ! 試験で判明していることだもの!


「うぅ、うぅぅぅぅ……一体、一体、一体全体……」


――――第1話


「どうしてこうなったのー!」


『新しい血』


(第2話へ続く)







あとがき

恭文「というわけで、StSがYouTubeで期間限定配信しているのを見て、思いつきで書いてしまったもしもの日常リマスターVer2020。
第一話はいかがだったでしょうか。……どうせなら実戦でドンパチしたかったのに」

あむ「さすがに初日で訓練もなしの出場は、可哀相だから……! あ、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。さて、このもしもの日常リマスターVer2020はいろいろ差異がありまして……軽く箇条書きしてみます」

あむ「新シリーズ第一話の恒例だよねぇ……」



(※これがもしもの日常リマスターVer2020だ!

・劇場版の時代背景に合わせて、地球の年代は二〇二〇年代に。

・本編と違い、恭文とフェイト達は幼なじみや友人じゃない。なお八神一家(一部)は除く。

・恭文の両親は健在。家族不和はあったものの大事にならないうちに解消され、基本は親子三人で暮らしている。

・恭文は高校に通いながら、魔導師兼忍者として活動。同級生で幼なじみの風花とも仲良くしている。

・本編通り、やっぱりあっちこっちでフラグは立てている。

・本編であった事件(フィアッセさんとの出会いやTOKYO WAR、まだまだあぶない刑事、ひぐらし、メルティランサー)は起きている感じ。
ただし地球の年代が違うため、良太郎達電王組やヒーローワールドとの繋がりは本編とは大きく変化する。

・せっかくのリマスターなので、恭文も新装備を追加。なお劇場版チックにスバルやティアナ達はもちろん、敵方にも一つ二つ追加予定)


恭文「まぁあんまり詳しく説明がいる感じじゃなくて、殺意もりもりにするくらいだから」

あむ「駄目じゃん! ……というか、あたしとかは……」

恭文「おのれらしゅごキャラ組とは、まだ出会っていない感じかな。やっぱりこの翌々年くらいに出会って、おのれはNiceBoatを……」

あむ「令和になったのに!?」


(令和でも変わらない現・魔法少女です)


恭文「といっても、基本の流れはとある魔導師と古き鉄の戦いVer2016とかと変わらずかなぁ。特に後半は……」

あむ「あぁ……それは、ねぇ」

恭文「それはそうとあむ、Twitterで言ったラフムのコスプレが大不評だったから」

あむ「当たり前じゃん……! というか、あれをチョイスするってぇ!」

恭文「今度はラフム高橋さんのコスプレでいこうと思うんだ」

あむ「それただの高橋李依さんじゃん!」


(あの凶器の笑い方だけで、ハロウィンは完全勝利だ!
本日のEDSPYAIR『RAGE OF DUST』)


恭文「というわけで、せっかくのリマスターなので……サブタイトルとかの出し方も、オルフェンズチックに」

あむ「というか、あの新装備も……えっと、トイフェルライデゥングだっけ」

恭文「そうそう」



(※アームドデバイス≪トイフェルライデゥング≫(ドイツ語で『悪魔の衣』)

恭文がデバイスマイスターの資格を生かし自作した複合兵装搭載式ユニット。
今回は有線式遠隔誘導端末≪シュヴァンツブレード≫(尻尾)と近接格闘対応鉄甲≪ナーゲルユニット≫(爪)。
そしてそれらを搭載するスカート型機動補佐システム≪フリューゲル≫(翼)の三つから構成される。

資質的に苦手な中遠距離戦をシュヴァンツブレードで補い、クロスレンジでの攻防力をナーゲルユニットで強化。
更に持ち前の機動力を、フリューゲルのサポートでより高める。

なおフリューゲルという基板に武装を搭載する形式なので、砲撃戦特化やブースト魔法特化など装備に換装も可能。
今回登場したセッティングは、対ガジェット戦に備え、物理攻撃を重きにしたものとなっている)


あむ「でも尻尾って……バルバトスルプスレクスって……!」

恭文「作劇上便利なんだよ、これ。頼りすぎないように注意したい」

あむ「しかもメタいし!」


(おしまい)






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あきゅろす。
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