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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2017年3月・フロニャルドその1 『Mはいつでも待っている/勇者召喚!』


――雨は嫌いだ。

尻尾の毛並みが微妙になる。更に進軍にも時間がかかってしょうがない。

移動前線内のテントで、玉座に座り酒を嗜むくらいしか楽しみがない。


あとは。


「ゴドウィン、進軍は順調か」

「はぁ! レオンミシェリ閣下ぁ!」


黒い鎧に長髪、ごつい体型な将軍と話すくらいしかない。残念ながら今は政の話。楽しむ余裕はないが。

ここはフロニャルド南中央・ココナ平野。現在我が軍は、快進撃の最中。


「あいにくの雨模様ですが、明日の昼には問題なく」

「そうか」

「全隊が目標の砦にぃ、到着しましょう。ご指示通り、明日の砦攻めに備え……兵士達には食事と休息を十分に取らせております」

「うむ」


近くの台座からワイングラスを取り、さっとかざす。

すると紫髪な側約兼近衛隊長――ビオレがワインを注いでくれる。


「明日はまた、ビスコッティの犬姫に敗戦の屈辱をくれてやるとしよう……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フロニャルドの大地――守護の光に守られた大陸上で、人々は楽しく幸せに暮らしていました。

でも大陸の南方にあるビスコッティ共和国では今年の春、ちょっと困ったことが起きてしまったのであります。

ここはビスコッティ領・フィリアンノ城。ビスコッティという国の根幹であり、シンボル。


現在、ろうそくを照明代わりにした会議室で、騎士団や元老院の方々を集め、その教義中なのであります。


「やはりビスコッティ軍は、イオン砦を攻めにくるようですね」

「ガレットの連中……本気でこの城まで侵攻してくる気でしょう」


騎士団長のロランと、その部下で姫様直属の親衛隊隊長のエクレ――エクレールも、お空と同じくしょんぼり気味。

騎士団としてガレットとの戦には毎回出ていますし、強く責任を感じているようであります。


「ガレット獅子団のレオンミシェリ閣下は、勇猛な方ではあったが……かような無茶をされるお方じゃなかろうにぃ」

「理由はどうあれ、この数戦はひたすら負け戦じゃ。せめてダルキアン卿や、天狐(てんこ)様がいてくれたらのう」

「騎士ブリオッシュやユキカゼにも、それぞれ大事な使命がありますれば」

「ともあれこの戦をしくじれば、最悪このフィリアンノ城まで」

「それは……!」

「させません!」


エクレは前のめりで立ち上がり、元老院の方々へ強く声を上げる。

その表情はやっぱりしょんぼりで、でも焦っていて……大丈夫だと必死に訴えかけていました。


「姫様のためにも、ビスコッティの民のためにも! この戦は我々が」

「エクレ、今はその姫様の御前でありますよ?」

「う……失礼、しました」


優しくたしなめると、エクレは黄緑色のショートヘアを揺らし、シュンとしながら着席するであります。

……とはいえ、打てる手はもうないであります。戦力層から違うでありますし、あとは。


「――ありがとう」


そこで上座に座っている姫様が、小さく声をあげるであります。今まで黙って話を聞いていたのに。


「ビスコッティの苦しい戦況、よく分かりました。今回は、本当に負けるわけにはいかない戦です」


ろうそくの光が姫様の髪、薄紫の瞳、ちょこんと生える耳を照らす。

でも柔らかい色合いのそれに比べて、表情はとても硬いものであります。


「ですから、最後の切り札を使おうと思います。――ビスコッティの代表。
ミルヒオーレ・F(フィリアンノ)・ビスコッティの名において、我が国に勇者を召喚します!」


元老院と我々のざわめきなどかき消すように、外で雷鳴が轟くであります。

勇者、召喚……でもそれは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――ここ二〜三年は、いろいろありました。本当に、いろいろ……特に舞宙さんとは……きゃー!

とにもかくにも、世界はドタバタしながらもなんとか進んで、穏やかな春を迎えた。

裏風都による暗躍やらなんやらもひとしきり落ち着いて、しばらく経って……二〇一七年三月。


「うーん……!」

「ヤスフミ、よかったなぁ」

「裏風都のことも片付いて、無事に学業復帰もできましたし。
これで四月からは三年生です」

「ん……今年こそ、IMCSに挑戦したいなぁ」

「また意欲的……あ、当然か。お気に入りな女神様(雨宮天さん)を見ていると、だからなぁ」

「天原さんも頑張っていますしね。お兄様も影響を受けまくりですか」

「ヒ、ヒカリ! シオンも!」


二〇一七年三月、春……桜舞う中、ゆっくりと歩いていく。相変わらず僕の隣りにはショウタロス達がいて。

終業式を終えた後、定期通院しているクリニックに通い、先生とお話し、更にお薬ももらい、割と手荷物は一杯。


「……まぁ、否定はしないけどさ」


そんな荷物をリュックに詰め込み、背負いながら……優しい春風に目を細める。


「なんか……女神様の歌を聴いていると、もっと頑張りたいなって思うし」

「天原さん経由であって、確かめることもできますよ?」

「それは言った通り、舞宙さんを利用したくないから駄目。なにより……別に、お姉さんじゃなくてもいいしさ」

「…………」

「もうあの夏の日に終わったことだもの。
お姉さんはあそこからもっと先に進んで、今も笑ってうたってくれていたら……いいなってだけ」

「すみません。出過ぎたことを」

「別にいいよ」


……舞宙さんやいちごさん達には、話していないことがある。

それはお仕事仲間でもある雨宮さんが、僕の……初恋だった、歌声の奇麗なお姉さんに似ているということ。

ただ雰囲気や歌声が似ているだけで、そうだって言い切れない。いろいろ緊急時に、すれ違っただけだから。その後にも、いろいろあったし。


それで戸惑わせても悪いから、シオン達やふーちゃん達にも口止めしているくらいで。


(だから、別にいいんだよね)


ガルドスにも言った通りだ。お姉さんはあの日から進んでいる。僕の……僕が取り戻したいもののために、あの日に縛り付けても意味がない。

うん、だから……雨宮さんはお姉さんがきっかけで知って、好きになったうたうたいさんってだけなんだ。

それでもしも、お姉さんが今も笑ってうたってくれていたら、凄く嬉しいって……再認識させてくれたというだけ。


(初恋は叶わないって言うけど、やっぱり定番なのかなぁ)


まぁとにかくだ……そんなうたうたいさんが舞宙さん達とも出演している、ビリオンブレイクのライブももうすぐ!

もちろん長年いろいろなタイミングで邪魔されていた、魔導師ランク試験だってある! 全部楽しむぞー!


「というか、ヒカリの言う通りだったね」

「ん……?」

「あのときの歌とか、お姉さんかどうかは関係なくさ。いつか……そんなときめきに、また出会えるって」

「だろう? 私はいいことしか言わないんだ」

「……」

「なんでそこで黙るんだよ、お前は」

「バウ」


七時方向から、犬の声がした。

そちらへ振り返ると、柴犬っぽいのが短剣を咥えていた。短剣は両刃で、金の鍔……え、なんで犬が短剣?

その両側にピンク色のリボンが巻きつけられていた。


「バウ!」


犬は短剣を器用に床へ突き刺すと、そこから桜色の粒子が展開。


「お兄様、このワンちゃん、見つけたと言っていますが……」

「その前にツッコむところがあるでしょ……!」


半径五十メートルほどを埋め尽くすほどに巨大で、力強い魔法陣を描いた。


「なんかやば」


やばい……と思っている間に、魔法陣の中心部に幾何学色のホールが展開。

それに抵抗する暇もなく吸い込まれ、落下。するとホールの先に光が見える。そこをくぐると……見えたのは緑の大地。

僕は高度数百メートルという高さから落下していた。しかも大地の上には、また別の浮遊大陸が散在。


明らかに異様な光景で、一瞬思考が停止。でもすぐに状況を理解し、らしくもなく絶叫する。


「やばかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なんじゃこりゃああああああ!」

「あらまぁ……」

「シオン! 落ち着いている場合か! 見ろ見ろ見ろ見ろ……!」


そのまま僕はショウタロス達と……光と一緒に空を突き抜け、ヒカリの指し示す方向をチェック。


「どう見ても異世界だぞ、これ!」

「海と大地を貫いちゃったの!? と、とにかく……!」

≪Flier Fin≫


飛行魔法を発動。足首から可愛らしいデザインの魔力翼を展開し、素早く羽ばたかせる。


「よし、魔力素は……あるけど、なんだろう。なんかちょっと、いつもより暖かい感じ……」

≪私も察知していますけど、考えるのは後です。このまま安全確実に着地ですよ≫

「だね」


反転しながら浮遊大陸の一つへ肉薄。石造りの台座っぽい場所になんとか着地する。

とりあえず蒼の和服を軽く払って、身体チェック……うん、問題ナッシング。


≪さて、どういうことでしょうねぇ……。
各種回線は不通。GPS関係も全滅。しかも……見る限り間違いなく異世界ですよ≫

「まぁ何度かあったけど、また次元漂流……ではないよね」

≪エルトリアとかとは全く違っていたでしょ。あの犬のせいで引きずり込まれたんですよ?≫

「……さすがは勇者様です!」


すると僕の三メートルほど前に、いつの間にか女の子が立っていた。ピンクの髪を後ろでお団子にまとめ、白いケープにロングスカート。

手には薄手の白グローブ。全体的に丁寧かつ奇麗な服なので、身分が高そうに見える。

でも問題はそこじゃない。犬っぽい耳と尻尾を生やしていた。いわゆる……獣っ娘だった。


……でも、可愛い。


「まさか輝力を最初からそのように使えるなんて……いえ、これも失礼なのでしょうか。
魔法……でしたよね。それを扱った経験があればこそ……ああもう、どっちにしても凄いです!」

「……はい?」


あれ、というか日本語? ここ思いっきり異世界風味なのに、言葉が通じてる。

これがファンタジーの不思議……え、というか今……。


「……ショウタロス、シオン、ヒカリ……!」


自然と出てきた猫耳尻尾をぴくぴく震わせながら、うちの馬鹿どもを見やると……揃って驚いた顔をしていた。


「勇者って言ったぞ、コイツ!」

「それ以前に、どう見てもあの、獣人というか……お兄様と同じというか」

「やっぱり異世界か、ここは!」

「はい、そうです!」

「認めてきたぞ! おい、どういうことだ!
私は帰りに春限定の桜ラテを飲もうと思っていたんだ! それでこれはどういう仕打ちだ!」

「ヒカリ……おのれ、しゅごキャラの行動範囲を飛び越えてない?」

「……あ、すみません。申し遅れました」


その子は穏やかな声で、こちらに会釈……。


「私、勇者様を召喚させていただきました、ここ――ビスコッティ共和国・フィリアンノ領で領主を勤めさせていただいる者です」

「「「「……領主ぅ!?」」」」

≪それにしては、随分若いような……≫

「実を言うと、任を引き継いだばかりのひよっこ領主なんです。
……ミルヒオーレ・F・ビスコッティと申します。お見知りおきを」

「えっと、蒼凪……恭文」

「勇者……ヤスフミ様ですよね。存じ上げております。
そちらはアルトアイゼンさんに、シオンさん、ヒカリさん、ショウタロスさん」

≪なんでそこまで把握しているんですか……≫


どういうことか聞こうとしたら、柴犬と短剣が僕の左側から落ちてきて、難なく着地。


「……おのれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


柴犬は僕などに構わず、お姫様へ近づきすりすり。お姫様は優しい笑顔を浮かべながら、柴犬の頭と背中を撫でてあげる。

……って、そうじゃない! そうだそうだ、ちょっと、どうなってんのこれ!


「タツマキ、勇者様のお出迎え、大儀でした! ……あ、この子はタツマキと言います」

「名前じゃないよ! 僕達、なにも聞いてないんだけど!」

≪いきなり現れて、魔法陣を展開して、吸い込んで落としてきましたからねぇ……≫

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ! タ、タツマキ! 駄目でしょう、ちゃんとお話しないと!
私、言いましたよね! 勇者様は動物ともお話しできるし、私達と同じ耳や尻尾もお持ちだと!」

「ばう?」


首を傾げやがったよ、このバカ犬! ああぁいや……とにかく落ち着け! 慌てていても話が進まない!

勇者で召喚されて……やっぱりファンタジー世界にしか思えないー!


「えっと……なんか間違いっぽいから帰っていい? というか帰れるのかな」

「お待ちください! あの、勇者様に頼みたいことがありまして!
もちろんそれが終わり次第、すぐに元の世界へお帰ししますので!」

「ほんとに?」

「それはもちろんです!」

「そう言って、実は戻れないーとかもなし」

「当然です!」


そこのタツマキはともかく、お姫様の目に嘘はないみたい。というか、かなり必死に詰め寄ってきた。

目もうるうるさせて……それが見てられなくて、立ち上がって近づく。ハンカチを取り出し、さっと目元を拭ってあげた。


「あ、ありがとうございます」

「ううん」


なんだろう。この子は……こう、嘘がないというか、真っ直ぐというか。初対面だけど、凄く話しやすい……。


「でも頼みたいことってなに。世界を救えとかかな。それで一年くらい旅しろとか」

「いえ、救ってほしいのは我が国ですし、旅をする必要もありません。とりあえず今日だけでも助けていただければ」


そこでお姫様の言葉を止めるように、遠くで花火が幾つも打ち上がる。でもあれ、花火なのかな。

白い光がこう、リング上に幾つも弾けててさ。あんな花火は見た覚えが。


「いけない……もう始まっている!」

「え、なにが。お願いだから全部を説明して」

「我がビスコッティは、今……隣国と戦をしています」


どうやら急いだ方がよさそうなので、お姫様の先導で台座から下りる。

宙に浮いた状態の石版を駆け下り、白くて目張りパッチリなチョコボもどきをチェック。

体毛は白く、くちばしは黄色。手綱のようにリボンが巻かれ、三本の尾羽根はピンク色だった。


「なに、これ」

「セルクルをご覧になるの、初めてですか?」

「僕の世界に、こんな生物はいないので……」

「私のセルクル――ハーランです」


お姫様は跪くハーランの背にさっと乗り、僕に左手を差し出す。


「どうぞお乗りください」


その手を取り、姫様の後ろを取る。姫様の腰に腕を回すと、ハーランが立ち上がる。

翼を広げ、首を落としながら疾駆。一気に風を斬り、大陸のあぜ道を抜けていく。


「……」


タツマキもその後を平然と追ってくる。


「この世界で言うところの馬、なのか?」

「みたいだね……」


ヒカリの言う通りだよ。そう言えば空の色も、僅かに紫が混じってる。でも……奇麗―。


「我々ビスコッティは隣国ガレットと、度々戦を行っています。
ここのところは敗戦が続いていて、幾つもの軍場と砦を突破され」


右下を見ると、数千人という規模の軍隊員が進軍中。平原の中を突っ切る様は、なかなかに壮観。

装備は……軽装だね。レザー製のハーフヘルメットとノースリーブアーマー、それにロングソードと木製の円形シールドか。


「あれがそれ?」

「はい」


進軍する軍隊とは反対方向に進み、姫様が僕へ振り返る。


「ガレット獅子団の団長・レオンミシェリ閣下と、その獅子団に所属する騎士達。
猛者達に対抗できる騎士は、今の我が国にはいません。ですから」

「前を見て!」

「はう!?」


両手で姫様の顔を掴み、視線を強制修正。あぶな……よそ見運転は危ないっつーの!


「というかさぁ、さすがに、命を奪い合う戦争に荷担しろってのは……」

「とんでもない!」


え、なに。なんで僕が悪いみたいな言い方するの? また振り返ろうとしたので、顔を掴んだまま前だけを見てもらう。


「……勇者様の世界では戦というと、そういう血が流れることを指すと思います。ですがここは違うんです」


ハーランがジャンプし、崖の上を足でドリフト。それが停止すると……巨大な湖畔と林、平原が一望できる。

そしてその上空にはキューブ状の空間モニター。オレンジ色でボブロング、背広姿の獣人が映っていた。


「勇者様のお力はよく存じております。だから」

『――さぁ、絶好調です! 熱い戦が進行しております!』

「……え」

『実況はガレット獅子団領国より私、フランボワーズ・シャルレーが! 解説にはバナード将軍と』

『どうも』

『レオンミシェリ姫のお側役、ビオレさんに来ていただいております!』

『こんにちは』


金髪ロングな男と、紫ショートで、襟足が胸元まである美人のお姉さんも登場。

……みんな獣人なので、もう耳があるとか説明しなくていい気がする。


『さぁ、いよいよガレット獅子団戦士達の、進軍が始まっております!
最初の仕掛けを僅か二十分で突破し、獅子団戦士達が挑むのは!』


別のモニターに、挑んでいるらしいものが映し出される。

それは湖畔の上にある岩場で、その上に三角型の台座や、丸太の一本橋などが置かれていた。

兵士達はそれを恐る恐る渡っていくものの、ある者は丸太から滑り落ち、ある者は台座で転げてボーリングの如く味方をなぎ倒す。


少なくともそこに血なまぐさい闘争はなかった。持っているロングソードや槍は、どう見ても本物っぽいのに。


『ビスコッティ戦士達が仕掛ける怒とうの攻撃! フィリアンノ・レイクフィールド!』


一本橋を攻略すると、今度は木で作られたはしごを懸垂で渡る。当然手を離したらドボンだよ。

はしごの先には水面に浮かぶ、木の柱達に直面。それを飛んで渡って、ようやく次の陸地――砦へもうすぐと言ったところ。

ただしフィールド両端と砦周囲には、白い大砲みたいなのが設置されている。


それからピンク色の丸い球体がどんどん発射され、ガレット獅子団達を追い詰める。

ボールに当たった衝撃ではしごから落ち、渡りきったところを狙われやっぱりドボン。

それを避けても、前方にある木造の砦から同様のものが発射され迎撃。


シールドで防ぐ人もいるけど、やっぱり食らって倒れ。


「……あの、ヤスフミ……多分コレ、人とか死なないぞ?」

「あれ、SASUKEですよね? テレビで見たことがありますよ」

≪いや、むしろ風雲たけし城ですね≫

「生き死にがかかっていたら、あんな和やかに実況は、しないよねぇ……!」

「していたら神経を疑うな」


……え、ほんとこれはなに。

しかも水に落ちた人達、近づいてきたボートにすぐ助けられてるんだけど。それに乗っているのは、白衣姿の救護班っぽい方々。


『歴戦の獅子団戦士達も、さすがに苦戦していますね』

『ここを突破されると、後がありませんからね』

『それにビスコッティ側の脱落者救助も、相変わらず迅速です。ビオレさん』

『落ちても諦めず、何度でも挑戦してほしいですね』

『総大将のレオンミシェリ閣下は、まだ出陣なされていません。
ですが名ある騎士達が出れば、すぐに向かってたたき落とすとのことです』


いや、あの……ねぇ、ちょっと待ってよ。なに、このテレビ番組みたいなノリ。

どう見てもアトラクションに挑む参加者なんだけど。戦争って感じじゃ……あ、また別の場面が出た。

こっちはあのレイクフィールド前にある荒野らしい。そこで緑髪・白服の女の子が、片刃ダガー二頭を振るい戦っていた。


迫ってくる戦士達を、右刃の袈裟・逆袈裟・左刃の右薙と斬り抜け、あっさり倒す。

すると斬られた兵士達は、煙を上げながら丸っこいクッションみたいに変化。顔立ちは猫だから、猫クッション……!?


「なにあれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

≪ぱんにゃに似ていますけど……≫

「それはなに!」

≪ときたま見かける珍しい魔法生物ですよ≫


叫んでいる間に、両側から別の兵士達が挟むように突撃。女の子は左刃を逆手に持ち替え、時計回りに一回転。

唐竹に打ち込まれた刃を同時に弾き、その衝撃で襲ってきた二人を吹き飛ばす。

すかさず別の二人が真正面から唐竹一閃。女の子は二刀を交差させ、つばぜり合い。


苦しげにしながらも斬撃をやり過ごし、後ろへ大きくバク転。数メートル距離を取った上で、左ダガーを順手に持ち直す。

それを振りかぶるとメタブルーな光が足元から噴出。背後に鋭角的な紋章が出現した。


二刀を交差させながらバツの字に振るうと、光は収束し斬撃波となる。それが迫っていた一団へ直撃し、爆散。

またあの猫っぽい奴らに変化させた。いや、だからあれはなに。呪い? トード的な呪い?


『そしてバトルフィールドでは、ビスコッティの若き騎士が善戦しております! だが』


そう、だがだった。その隙に別の一団が両横を抜け、更に進む。


『抜けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 第二軍、騎士の両脇を抜けてレイクフィールドへ進む!』


そこでまた別の箇所が映し出される。レイクフィールドと荒野の間くらいか。

甲ちゅうを着込んだ騎士が先陣を斬り、その背後には軽装の槍騎士数十名。

荒野からレイクフィールドへ入りかけ、周囲に緑が見える中、その騎士は両刃の槍を敵軍へ向ける。


左へ振りかぶると、ライトグリーンの光と紋章が展開。そして空間そのものを薙ぐ一閃。

斬撃波によって爆発が起こり、百数名が吹き飛び猫クッションとなる。でもそんな爆炎を突っ切り、一人が突撃。

仲間だったはずのクッションを踏み台に跳躍。ゲートごと騎士を飛び越えようとする。


すかさず騎士は時計周りに一回転。槍の長さを生かし、戦士の進行方向へ唐竹一閃。戦士を地面へたたき落とした。

その瞬間白い煙に包まれ、戦士は黒色の猫クッションへと変身する。槍を上げると、目を回しながらも小さく鳴いた。


『おーっと! これは惜しい!』

『最終バトルフィールドにたどり着いた方にはボーナスポイントが出ます。
惜しかった一名には、更に特別ボーナスを出したいですね』

『とのことです! 戦士さん、良かったですね!』


ねぇ、なにがいいのかな。運ばれていく黒クッションを映してる場合じゃないよ。


『にゃー♪』


嬉しそうに鳴いてる場合じゃないよ。これはほんと、なに。お願いだから、分かる言語で説明して。


「えっと……なに、これ」

「これがフロニャルドの戦――戦興行です。国民参加式で、ご覧になった通り怪我などもありません」

「じゃあ、あの斬撃波は」

「紋章術です。戦興行はフロニャ力の強い場所で行われ、私達が暮らす街も同様の場所にあります。
紋章術はその力を紋章に集め、輝力と呼ばれる力に変換。それを打ち出します」

≪つまり、この世界における自然の力を、ああいう能力に応用していると? あぁ、だからなんですね≫


僕も納得した。魔力素に近いけど、違う力……それで魔法が発動したんだ。それは姫様から見ても紋章術……輝力の扱いに近いと。


「あ、戦士達がけものだまになったのも、フロニャ力の加護があればこそです」

「国民が参加して、体を動かして危険もなく……健康的に対戦するイベント?」

「そう、そんな感じです!」」

「じゃあけものだまになるのも、その……加護のせいで、怪我の代わりに変化するだけ」

「はい! 勇者様、やっぱり聡明なのですね! こんなに飲み込みが早いなんて!」

「だったらそこから戻れなくなるとかは」

「ありません!」

「時間が経ったら戻る感じ」

「はい!」


つまりその、あれ? 国民参加式の大イベントと。ポイントや興行って事は、参加するとなんらかの利益があるんだよね。

その上怪我もしないなら……あぁ、参加しない理由がないわ。けものだまにされても、頑張ったらポイントだもの。


「戦興行は大陸全土に敷かれたルールで、安全に行うのは開催者の義務なんです。
もちろん国と国との交渉事に使われる場合もあるので、熱くなるときもありますが」

「……なら領主様、お兄様を呼び出したのは、この戦興業に参加するということで」

「はい」

「助っ人に勇者って大げさすぎるだろ……!」

「とんでもない! 戦興業において、勇者召喚は切り札! だから勇者様は勇者様なんです!」

「だがよぉ、基本はみんなで競争を楽しむ感じなんだろ? なんだってその切り札が必要なんだよ」

「……はっきり言えば、困っているのです」


姫様は俯き、右手を後ろにいる僕へ伸ばす。そうして僕の手を取り、振り返った。


「敗戦が続いて、我々ビスコッティの騎士達や国民は……寂しい思いをしています。
なによりお城まで攻められたとなれば、ずっと頑張ってきたみんなはとてもしょんぼりします」

「「「「しょんぼり……」」」」

≪そのノリで……いいんですね。死人なども出ないなら≫

「……って、ちょっと待って。お城まで攻められたら? ということはこれって」

「我がビスコッティの本拠……フィリアンノ城侵攻を懸けた試合です。いわゆる正念場です」


なるほど。これで負けたら、城にそのまま攻め込まれると。それはかなりまずいので、切り札に手を出して……。


≪……あなた、どうします?≫

「……ひとまずこの一回だけだよ?」

≪即答ですか≫

「勇者様……!」


姫様が顔を上げ、僕へ振り返る。驚いた様子だったので、笑いながら手を強く握ってあげた。


「困っているのも本当っぽいしね。
でも僕は戦について素人だし、どこまでやれるかは分からないよ? それでも」

「ありがとうございます! では早速」


姫様は笑顔を取り戻してから。


「タツマキ!」


タツマキがジャンプし、姫様の首上へ乗っかる。それからハーランがまた走り出す。


「本陣へ向かい、戦支度を整えましょう!」

≪私もいますけど≫

「だとしても伝えておきたいこともあります! ガレットの騎士達は誰も彼も強敵ですから!」


確かに……こっちの戦い方もあるようだし、まずはそこを整えてと。

でも時間があるのかなぁと思いつつ、姫様の腰に両腕を回した。


「しっかり掴まっていてください――――ハーラン!」


ハーランが翼をより強く広げ、そこに桜色の光を宿す。すると翼が大型化し、ハーランは崖から飛び降りた。

いや……そのまま直進する。


「みんな……凄い、空を飛んでるよ! めちゃくちゃ風が気持ちいいー!」

「ヤスフミ、お前……!」

「まぁいいではありませんか。すぐ帰れるとのことですし」

「ちょっとした旅行だな」

「はい! 旅行を楽しんでくれたら幸いです!
だから飛びますよー! ハーランは飛ぶのが上手なんです!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


我がビスコッティ領はいつも通り……腹立たしいが劣勢。我々騎士の質では負けていない。戦士達の士気だってある。

だが質量が……嘆いてもしょうがないので、手近な奴をどんどん切り払っていく。でも決して後ろへは行かせん。

その気構えのままゲートを守っていると、頭上にいきなり影。慌てて後ろへ飛びのくと、それまでいた場所が鉄球によって砕かれる。


滑りながら着地すると……ちぃ! ガレットのゴドウィン・ドリュール将軍か!

巨大なアックスの柄尻には鎖が伸び、今叩きつけられた鉄球を繋ぐ。

ゴドウィン将軍は笑いながら鉄球を振り上げ、こちらへ投てき。


「うりゃあ!」


野太い声と同時に右へ避けると、鎖が引かれこちらへ薙がれる。

左の側転で鎖を飛び越え着地してから一気に駆け出す。その間に兵士達が両脇……だが構っている余裕はない。

アックスでの刺突を左に避けると、刃が翻り右薙一閃。胸元すれすれでそれを回避し、なんとか懐へ入り込む。


このまま一気に……そこで両手から重たい得物が離され、同時に掌底。

慌てて両腕でガードするも、踏ん張りきれずに吹き飛ばされた。空中で体勢を立て直している間に、鉄球が再び投てき。

今度は短剣でガードするが、やはり質量……いや、その前にシチュか。衝撃に耐え切れず、更に飛しょう。


ゲートの真上に叩きつけられ、そのまま地面へ落下。その間に将軍は笑いながら、こちらへ近づく。

同時に紋章術も発動。鉄球を頭上で振り回し、それに赤黒いエネルギーを蓄積させていく。


「ビスコッティの子犬風情がぁ……潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


そうして鉄球が投てき――また、負けるのか。私は……なぜなんだ。

もっと力があれば、勇者などというものに頼らなくても。


≪The song today is “FREEDOM”≫


……突如大音量で音楽が響いたかと思うと、放たれた鉄球がどこからともなく放たれた砲弾で撃ち落とされる。


「なにぃ!?」


それだけでは終わらない。背後を固めていた兵達が、次々と走る光条や力の奔流になぎ倒されていく。


『にゃああああぁああぁあああぁああ!』


更に空を疾走する蒼い影が、紋章術……なのか。妙な柄しかない刃から光を走らせ、ゴドウィン将軍に一閃。

袈裟の一撃を咄嗟に引き戻した鉄球で受け止め、ゴドウィン将軍が後ろに跳躍……そうして襲撃者と対峙する。


「なんだ……貴様はぁ!」

「決まっているでしょ」

≪――Vestige Form≫


なんだ、あの妙な奴は。いや、そうとしか言えないんだ。

蒼い鋭角的な翼、見たこともないような鎧、左腕に大型の盾を纏うそいつは、ふわりと停止して。


「邪魔者だ」

≪Freedom Pack:Ver1.5――Set Up≫


あの光の刃を閉じて、腰に仕舞ったかと思うと、腰後ろに付けていた……銃、なのか?

やたら長く白いそれを右手で握り。


「アルト、バレットをスタンモードにセット!
各武装の威力も生命維持安全圏内に抑制!」

≪もうやっていますよ。あなたこそ打ち過ぎないでください≫

「了解! フロニャ力の取り込みは問題ないよね!」

≪リコッタさんのサポートもあったので、万全ですよ。あの人天才ですねぇ≫

「だよねぇー。それじゃあ」


右薙に振るう……と同時に、蒼い光条が走った。


「もう一発!」

「なにぃ!」


ゴドウィン将軍は慌てて伏せるが……。


「将軍!」

「なにものだきさ……まぁぁぁぁぁあぁあああぁ!?」


その背後……駆けつけてきた他の兵士達十数人が、一斉になぎ払われる。


『にゃああぁああぁあああぁあ!?』


そうしてけものだまに次々と変化。

更に両サイドの装甲が長く展開し、火花を走らせながら砲弾発射……ゴドウィン将軍は咄嗟に引き戻した鎖と鉄球でそれを受け止め、爆砕の衝撃をなんとか踏ん張る。


「な……!」

「なんだ、貴様はぁ!」


将軍は刃を振り上げ、再び紋章術発動。アックスを地面へ叩きつけ……かと思うと、奴が急加速。

一気に私の横へ飛び込んだかと思うと、そのまま片手で担ぎ上げて……。


「おりゃああぁあああああああぁああぁ!」


打ち込まれた刃……そこから放たれる衝撃波を、急上昇でたやすく避ける……って!


「だからなんだお前はぁ! 離せ! 下ろせぇ!」

「やられてもいいの?」

「……よくなぁい!」


そう私が情けなく叫んだ瞬間、奴の前に光が走る。これは……通信用の画面に似ているが。


「……」


そこに次々と敵の姿が映し出される。ゴドウィン将軍もその一人として映し出され……。


≪――≫


ぴこぴこと、軽快な音を立てながら、まだまだ残っている兵士達一人一人が赤い光点でマーキングされる。

更にまたあの腰の大砲が伸びて、翼が動き……また別の大砲がその中から出てきて……。


「お前、なにを」


そんなのは決まっていた。奴は右手の銃も奴らへと向け、一斉に発射。

蒼い羽根を広げながら、四つの大砲から火花を……赤い力をほとばしらせながら、次々とガレットの兵達を撃ち抜く。


沙羅に、左腕に繋がっていたはずの盾が独りでに飛んでいき……。


「うぬぅ!?」


ゴドウィン将軍は咄嗟に防御の紋章を展開し、砲撃を受け止めるが……それでも一発一発と打ち込まれるごとに、押し込まれ……そこから、別の光が走る。


「ぐ……」


それはあの飛翔した盾。翼を広げ、そこから蒼い光が走り、切っ先のような刃も生まれる。

あの大きさからは信じられないくらいの高速飛行で将軍の脇を……防御の隙を突き、容赦なく抉り斬る。


「がぁあ!」


そこで崩れた将軍の耐性。ここぞとばかりに追撃の砲撃と射撃が連射され……防御が崩れ、将軍に直撃。爆発が起こる。

そうして爆炎の中から、ひときわ大きいけものだまが転がって……あ、あんなのアリか! 容赦なく不意打ちしたぞ、コイツ!


「悪いね。まともにやり合っている時間はなさそうだから」


そう言ってアイツは、戻ってきた盾をガントレットに最装着。私を抱えながらでも平然と……いや、だから待ってくれ。

あっという間に形勢逆転だな。これで我が軍の形成は有利だな。


だが……そもそもコイツは誰なんだぁ! 誰か説明してくれ!


『おぉっと……突然の乱入者が大暴れ!
多数のガレット兵が倒され、ゴドウィン将軍も撃沈だぁ!』

『何者なんでしょうか、あの子……』

『勇者です!』

「姫、様」


そこで、実況に割り込んできたのは姫様だった。

だが勇者……。


「お前が!?」

「なんかそうっぽい」

「軽いなオイ! だったらこれはなんだ!」

「僕が元の世界で作っていた戦闘用装備」

「そんなもん持ち出すなぁ! きちんとこっちの流儀で戦え!」

「仕方ないでしょうが! 練習する時間もなかったんだから! フロニャ力で動くようにしただけでも褒めてよ!」

「逆によくできたな、お前! 天才か!」

「リコッタって子が頑張ってくれた!」


リコッタ……あぁあぁあぁ! リコならできそうだな! なにせ我が国切っての天才だからな! だが時間がないなりによくできたな!

……って、私も結構元気だな! さっきまでピンチだったのに、軽口叩きまくりだぞ! これが勇者の力……そんなわけないかぁ!


「まぁそういうわけで」

『ビスコッティのみんな、お待たせしました! 敗戦続きで苦しい思いをさせてごめんなさい! でももう大丈夫です!
我が国に勇者様が来てくれました!
あの戦装束は、勇者様が元の世界で作ったものです! その名はヴェステージフォーム・フリーダムパック……空を懸け、遠くから数々の敵を狙い撃つ射手の装束!
今回我が国の学院に所属する、リコッタ・エルマールの協力でフロニャルドでも震えるよう調整しています! 怪我などもないのでご安心を!』

「さぁ、ショウダウン」


なにかを言いかけた勇者は、そこで楽しげに笑う。


「もとい、ショータイムだ――!」

≪ついでに言っておきましょう。私達はかーなーり……強いですよ≫


そして奴は、再び各種武装を連射……フロニャ力を取り込んでいるのは嘘ではないようで、誰も彼も傷を負うことなくけものだまに変貌していく。

だが……これ、我が国の流儀とは違うような! むしろパスティヤージュの方では! いや、あそこは今回の戦、何一つ絡んでいないんだがな!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱりだ。私の知っている通り……ううん、それ以上の戦い。胸がときめいて、本陣の中で尻尾をふりふり。

みんなもあ然としています。だってライブみたいに音楽を流しながら、あのゴドウィン将軍を瞬殺しちゃったんですから。


『勇者……いえ、魔法使いの初陣は余りに華麗! そして鮮烈であり強じん! これが伝説の力か!』


実況のシャルレーさんも興奮気味に叫び、右側の将軍達へ勢い良く向き直る。


『どうでしたか! バナード将軍、ビオレさん!』

『気になるのはあの羽根や銃ですね。
今までのビスコッティでは見られなかった工業武装……それも一対多数をコンセプトとしたものです』

『あの空を飛ぶ盾も怖いですよ。ただ死角を突いたのみならず、ゴドウィン将軍の隙をかいくぐり、一撃入れていますから。
しかもそれが勇者殿の自作というのは……これはなかなか新鮮です』

『とはいえ、問題はこれから……我がガレット側も勇者の脅威を認識し、狙っていくでしょう』

『まだまだ勝負は分からないということですね!』


さすがに二人とも、見解は厳しい様子。でも私は大丈夫だと信じています。

えぇ。あとは祈って、願うのみです。


「姫様、あの子は本当に勇者なのですね……」


左隣でリコが、オレンジの長髪と白衣を揺らしながら驚愕していた。


「ヴァリアントシステム、凄いであります! 自分もセッティングがてらいろいろ見させてもらいましたが、フロニャ力にも適応してあそこまで動くなんて!
それを作り上げた勇者様とは、もっと深くお話したいであります! 尻尾ギュインギュインであります!」

「はい! やっぱり、私の目に狂いはありませんでした!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、一段落したので地面に着地。抱えていた子も下ろしてあげる。

すると中指で輝く指輪……姫様から渡されたパラディオン、だっけ。それが一瞬で両刃のロングソードに変化。


「おぉ……本当に武器化した!」

≪あなたのイメージに合わせて変化するデバイスですね。とはいえ、あなたの出番は今回ありません≫

「なんだよねー」


この状況だし、フリーダムパックで戦った方が適切だ。なので指輪に戻してーと。


「おい、お前は……本当に勇者なのか!」

「そうらしいって言ったでしょうが……。というかおのれは」

「……私はエクレール・マルティノッジ!
ビスコッティ騎士団・ミルヒオーレ姫様直属の親衛隊隊長だ!」

「あぁあぁ……おのれか! 姫様が『紋章術のことはエクレに教わってください』って言っていて!」

「姫様、丸投げですか……!」

「やっぱり時間もなかったから……」

「だろうなぁ!」


そう、時間がない。せめて戦が始まる前日とかならまだ……って。


「……散開!」

「え」


咄嗟に飛び上がって退避。エクレールはどうしようかと思ったけど……問題なかった。


「………………!」


エクレールも察して、すぐに後ろへ飛ぶ。実によい反応だった。

その原因は敵の本陣から飛んできた、ミントグリーンの砲撃。恐らく紋章術の一種。


――フロニャ力と術者の生命エネルギーを結びつけ、輝力という力を振るう……それが紋章術です。
基本はこう、イメージしておりゃーって感じなので、コツを教われば勇者様もすぐ使えると思います――


そんなエクレールの雑な説明を思い出しつつも、発射元をチェック……というか、ライフルですぐさま反撃の狙撃。

前方百メートル――ひときわ高くなっている岩の丘上に迫る光条に対し、狙撃手は反応。

左手で持っていたロングボウを放り投げ、脇に突き刺していた巨大な戦斧振るう。


それで……逆風に振るわれた一撃で、こちらの射撃はたやすく霧散して。


「……よい一撃だ。的確にこちらの急所を狙っておる」


それを振るったのは……銀髪ロングで、黒いセルクルに乗った女。

青い軍服っぽいのに、開いた豊かな胸元。そして凛々しい金色の瞳……すっごい奇麗なんだけど! 誰!


「な……レオンミシェリ姫!」

「……どちら様?」

「そんなことも知らんのか!」

「だったら異世界から呼び出すんじゃないよ……」

「それはそうだなぁ! あの、いいか……あちらの方は」

「ち、ち、ち……」


そのまま左人差し指を口元に当て、軽く振る。


「姫などと気安う呼んでもらっては困る。
――我が名はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ!
ガレット獅子団の王にして、百獣王の騎士! 閣下と呼ばんか! この無礼者がぁ!」


後ろでライオンが鎮座する紋章展開。それがエネルギー源となり、赤い爆炎を生み出す。……自分で演出しているのかー。凄いなー。


「……まぁ、そういうことだ」

「あぁ、うん……そうだ、思い出した。姫様から出た名前……大将首」

「それだけ分かれば十分だ」

≪でものうのうと本陣で鎮座もせず、乗りこんでくるとは……よっぽどの大馬鹿か、腕に覚えありか≫

「……レオ閣下ー、早速だけどこれが終わったらお食事でもしましょうよー。それでお互いに仲良くなりたいなーと」

「ほう、大胆だのう。我は敵国の王だぞ」

「いや、閣下は僕の好みどストライクなので」

「おいこら待て!」


まぁまぁエクレール、落ち着いて……。初対面なのになぜそんな全開なのか。


「貴様、敵国に寝返るつもりか! 我が国の勇者だろうが!」

「え、ただの時間稼ぎだけど」

「だったらよけい駄目だろ! そんな時間稼ぎに乗ると思うか!? 初対面なのに!」

「やってみなきゃ分からないかなって……」

「これは分かっていいだろ!」

「ふむ……お前らの漫才も悪くはないが、時間がないからのう」


レオ閣下はセルクルの手綱を引き、僕達に背を向ける。距離があるとは言えまた大胆な。


「先へ行かせてもらおうか。ではさらばだ」


あ、そのまま顔見せだけで走っていった! これは……。


「エクレール、一つ質問! あのまま本陣に奴が攻め込んだら」

「……誰も止められんぞ!」

「分かった! なら追撃しつつできるだけ足止めする! その間に本陣の守りを固めるとか……できる!?」

「誰にものを言っている! それくらいはできる!」

「なら骨は拾ってよ!」

「え」

「僕は結局お客様だもの!」


それだけ言って、機動兵装ウィングを展開……ハイマットモードで加速する。


「……ああもう、分かった! だが無駄死にはするなよ!」


その声には左手を振って答え……さてさてさて……セルクルってのも早いねぇ! こっちも全速力なのに、ちょっとずつ近づくのがやっとだ!


「行かせるか!」

「姫様をお守りするんだ!」


行く手を阻むようにぞろぞろとガレット兵士達が出てくる。なので高度を上げながら、起動兵装ウィングのアグニ砲を展開。

放たれたプラズマ砲撃が一段の中心を貫き、爆発を呼ぶ。そうして生まれたけものだま達をすり抜け、バリケードは突破。


そのまま更に速度を上げて……!


『勇者、凄い速度だ! ガレット兵士達の守りを抜き、レオ閣下に迫っていく!』

『空を飛べるというだけでも大きなアドバンテージですね。とはいえレオ閣下を射砲撃のみで仕留めるのは、なかなかに難しいですが』


なんとかレオ閣下の姿を捉える。距離は大体五十メートル……いや、もっと縮む。

こちらに気づいたレオ閣下が笑っている間に、セルクルの右側を取る。そのままマジックライフルで連射。セルクルの足を止めようとするけど……くそ、平然と加減速ですり抜けてきやがる!


「甘い!」


だったらレオ閣下本体と思っていると、青いサークルシールドで受け止められる。

なのでシールドブーメランを展開・射出。すかさず防御の合間を縫って切り抜け……というところで、レオ閣下が急速接近。

速度を保ったままこちらのブーメランを迂回し、ハルバートを突きだしてきた。


それは左腕のガントレット……そこから発生したエネルギーシールドで受け止め、流す。

同時にライフルをリアスカートにセットした上で、左腰からサイブレードを取り出し刃展開。

再び打ち込まれた槍を斬撃で払い、腰のレールガンで零距離射撃。


レオ閣下は咄嗟にサークルシールドを下げながら、表面に防御の紋章術を展開。黄色い火花を放ちながら放った砲弾が、角度を絶妙つけたそれによって防がれ……逸らされる。

こちらも距離を取り、方向転換しながら右薙の切り抜け。それを会えて防がせた上で、ドリフトしながら再加速して……その間にシールドブーメランが、こちらの無線誘導を受け付け急加速。

すくい上げるように、姫様の背後を狙い、迫っていく。


「ふん!」


でも姫様は手綱を翻し、セルクルとともに跳躍……こちらの突撃を飛び越えながら、高速飛行。追撃で更に狙うものの、それも左右のスラロームでたやすく避ける。

すかさずその滑空……着地点を狙い、アグニ砲を展開し砲撃。

するとレオ閣下は左手をかざし、力を集束……放射する。


それはアグニ砲の砲撃と真正面から衝突し、相互干渉を起こしながら爆発……。


「ちぃ!」


その衝撃で急停止を余儀なくされ、それでも素早く再加速。


「その武装、一対多に特化しているゆえ、実に読みやすい! そんなものでは我らを崩すことなどできんぞ!」


そういいながら、左から近づくシールドブーメランめがけて、戦斧を左薙一閃……たやすく切り崩してくれたよ!


「まだまだ! 刃物は使い方次第ってね!」


サイブレードを収納し、加速しながらシールドブーメランを再生成……周囲の地面からエレメントを分子ごと抽出し、分解・再構築。

その上でライフルの連続射撃。まぁ……たやすくすり抜けてくれるんだけどねぇ! どんだけ練度が高いんだよ!


(でも……いいなぁ!)


それでも直進よりは僅かに速度が落ちる。だからなんとかまた真横に辿り着き……ライフルをしまった上で、サイブレード展開。

レオ閣下が放つ刺突を切り落とし、素早く刺突・右薙。片手持ちなのに柄で器用に流されたかと思うと、お返しに柄尻でのなぎ払い。

顔面めがけての一撃を伏せて避けると、刃が返され振り下ろされる。それを……柄を回転蹴りで蹴り飛ばして回避。


そのまま零距離でフルバースト。レオ閣下も予測していたのか、サークルシールドに多重の防御障壁を展開し……放たれたアグニ砲とレールガンの一斉掃射を受け止め、流す。

セルクルもその衝撃に怯えることもせず、速度を維持して走り続け……ほんと凄い凄い凄い!


「それにその子もいい子だ! 怯え一つ見せず走り続けている!」

「――!」

「ははははははは! そう褒めるでない!」


お互い押し込み、刃と盾が火花を走らせ弾かれる。少しだけ距離を取り、お互い落ちていた速度を上げ直す。


「そういうおぬしもなかなかだ! ようワシについてきおる!」

「当然! 僕、レオ様みたいな“自分より強い奴”と斬り合いたくて、修行しまくっていたし!」

「ははははははははははは! よい……更によいぞ! 我を格上と認めた上で挑む気概! ますます気に入った!
いいだろう! ワシに一撃でも入れたら、食事どころの騒ぎではない! 公式にデートの一つもしてやろう!」

「え、そういうのアリなの!? 王様なんだよね!」

「アリじゃ!」

「異世界すごいね!」

≪……あなた、また……異世界にもハーレムを作るつもりですか≫

“お兄様……あとで話がありますから”


黒いセルクルは翼を広げ、大型化――そのまま飛翔する。僕も川岸から跳躍し、ビスコッティ本陣へと乗り込む。

ビスコッティ本陣は向かい側の岸に入って、すぐのところ。すり鉢状のコロシアムというか、要塞というか。

ここにいる兵士達が一掃されれば、その時点でガレットの勝利は決まる。


(………………)


なので……先手必勝!

コロシアム中央へ……レオ閣下へ跳びかかり、時計回りに一回転しながら右薙一閃。

反撃がされても、全て斬り裂くつもりだった。でもレオ閣下はセルクルの背中を足場に跳躍。


僕の斬撃をすれすれで回避する。


「……!」


大きく距離を取りながら、右手に力を収束させ……一気に放射。

それはシールドブーメランを飛ばし、ぶつけることで相殺。爆炎を払いながらスライド移動しつつ……一気に跳躍。

サイブレードで左薙の切り抜けを打ち込むも、当然レオ閣下は防御。その加速に任せて宙返りして、背中を狙いフルバースト。


「……ふん!」


レオ閣下は竜巻のように回転しながら、こちらの一斉掃射を斬り裂いた。

それでもウィングをハイマットモードに変化させ、レオ閣下の頭上を強襲……唐竹一閃!


「甘いわ!」


斬撃はシールドバッシュによって弾き飛ばされたので、くるりと回転しながら着地。左手でもう一本のサイブレードを取り出し右薙一閃。

レオ閣下はサークルシールドでそれを防ぐので……すかさず踏み込み、カウンターの刺突をすり抜けながらスライディング。

そのまま足払いを打ち込むも、レオ閣下は跳躍して回避。すぐさま起き上がると、レオ閣下がシールドをかざしながら突撃。


そしてその脇から刺突が連続で放たれる。それを左右のスウェーで回避しつつ、六撃目でシールドめがけて右ミドルキック。

レオ閣下にはかざされたシールドごと吹き飛んでもらい、数メートルの距離を開け……というところで、レールガン発射! まぁシールドには防がれるけど……その間に肉薄し、背後を取る!


……そうしながら、一つ術式を詠唱。


「ふむ……! その小さな体で、随分と力もある!」


そのまま右薙一閃……でも背に回したハルバードの柄で斬撃は流され、すかさず振り返りながら唐竹一閃。

七時方向に飛んで避けつつ、すぐさま踏み込むと……今度はレオ閣下の右ミドルキック。

咄嗟に両腕のガントレットから、エネルギーシールドを展開して防ぐ。その上でレールガンを零距離発射……が、砲身が途中で斬り裂かれた。


「ちぃ!」


レオ閣下が足を下げると同時に、戦斧で一閃。そうして砲身が爆散し、僕達は強引に距離を取ることとなる。

……けど!


「……クレイモア、ファイア」

「……!」


こっちも魔法……ううん、紋章術でお返し。辺りに漂う力……フロニャ力と僕の生命エネルギー……それらを掛け合わせ、スフィアをセットしていた。

やり方? 概要は教わったからね。あとはみんなの様子から、試しにやってみたら……できたよ! 凄いよ異世界!

とにかく足下から吹き上げるように生まれた算段が、レオ閣下を襲い……爆炎が生まれる。


念のためにそのまま距離を取ると、レオ閣下は硝煙を払いながら笑ってきて……わーお、咄嗟にフィールド魔法的な奴で防御を固めたのか。傷一つないよ。


「そして一瞬でも、ワシの後ろを取るスピード! 武装を破壊されても動じず、トラップを仕掛ける度胸!
いや、学習能力か!? 貴様、ワシやゴドウィンの様子から……盗んだな! 紋章術の基礎を!」

「これでも元々異能力者でね。この辺りのフロニャ力や、それとかけ合わされるおのれらの生命エネルギー……輝力の生成とその制御は、大まかに分かったよ」

「……いいだろう」


武器を再生成……と思ったけど、中止。そう言った途端、レオ閣下の空気が切り替わった。


「ならば見せるとしよう、ワシのとっておき!」


ハルバードを振り上げ、背後に紋章展開。そのまま刃を地面に叩きつけ、もう一つ紋章を生み出す。

……これはめちゃくちゃやばい感じがする。それが正解だと示すように、レオ閣下の周囲で炎が吹き出した。


「獅子王――炎陣!」


炎は放射状にドンドンと吹き出し、コロシアム全体を埋め尽くす勢いで広がっていく。

でも待って。向こうは僕が空中で飛べるのを知っている。だったら……慌てて左手をかざし、足元に紋章展開。


「大爆破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「コネクト!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さすがの勇者様も、レオ様相手には無双とは行かず……対等に打ち合えてはいるけど、武装を壊されるとかで大ピンチ。

しかも……次の瞬間、レオ様の紋章を中心に大爆発が起こる。あれは……レオ様の最大火力。広範囲へ広がる紋章砲。

それはさっきまでとは比較にならないスピードで、音よりも早くコロシアムを埋め尽くす。


当然勇者様も飲み込まれ、画面全体が真っ赤に染まる。思わず駆け寄り、声を張り上げてしまった。


「勇者様!」

「あわわわわ……あれはマズいのでありますー!」

『決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 獅子王炎陣大爆破!
レオンミシェリ姫が持つ、最大火力の紋章砲! ……ただ』


爆発が収まっていく。そんな中無事なのはレオ様だけで、周囲には数百名のけものだま達。

ちなみにけものだま、我がビスコッティ兵士達はいぬだま、ガレット兵はねこだまとなるんです。

とにかく種類や色の違うけものだまが空から次々と降り注ぎ……でも、可愛いかもー。


「……って、ほんわかしてる場合じゃありません! 勇者様は……」


どこ!? 駄目だ、分からないー!

というか、けものだまになっているなら見分けがつくわけないですー!


『味方を巻き添えにするのが玉にキズ! これはさすがの勇者も無理か!』

『まぁ、そもそもレオンミシェリ閣下に真正面から挑もうというのが無謀でしょう』

『途中まではいい勝負だったんですけどー。……あれ?』

『ビオレさん、どうされましたか』

『いえ、あの空』


ビオレさんが指差した方――ビスコッティの砦上空に、変なものが浮かんでいる。黒い、カラスみたいなの。

こう、翼をパタパタ〜ってさせて……ううん、違う。あれがなにか気付き、私はリコの両手を取る。


「ひ、姫様……どうしたでありますか!」

「勇者様です! あれ、勇者様です!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


爆発の瞬間、コネクトの紋章を展開。……コネクトはものを取り出したりできる魔法。

逆を言えば、どこかへ空間を繋げる、転送能力の一種。紋章術は気合いらしいので、いちかばちかで唱えてみたら……大成功だよ!

遥か上空に出口を作り、通り抜けフープみたいに距離を稼いだ。でもほんと、危なかった……!


「普通に飛んでいたら、間違いなくアウトだった……!」

≪運がいいですねぇ。こういうときだけは≫

「やかましい!」


まぁ問題があるとすれば……高すぎることかな! 来た時と同じ勢いだし! 現在二百メートルはあるし……まぁいいか!


「でもどうしようかー! レオ閣下、ほんと強いわ!」

≪実力だけじゃなくて、精神性も含めてですね。まぁ戦興業というシステムゆえかもしれませんけど、堂々としているというか、ガチ勢でありながらエンターテインメントというか≫

「……このまま殴り合ってもじり貧……」


というか、能力的に相性が悪い。あの大玉をバンバン出されたら、天地人の構えとかでなんとかする余裕もないしさぁ。


≪しかもあの大爆破が狼煙代わりになっているのか、ガレット兵達の進行速度が上がっています≫

「うん……でも、楽しいよね……!」

≪それはまぁ、確かに≫


ここからだと戦場もよく見える。だからいくつかの選択肢を考慮して……。


「……いちかばちかを、楽しみますか」


残り五十メートル――レオ閣下はハルバードを右へ振りかぶり、牙をむき出しにする。


「……!」


こちらへ狙いを定め、準備万端と言ったところ。だから……。


「デスティニーパック……セットアップ!」

≪Destiny Pack――Ignition≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……そこで、勇者様が翼や銃……いろんな武装を解除。

一体どうするのかと思っていたら、それらが……輝く粒子が、形を変えて再集結する。

赤と黒に彩られた大きな羽根に、蒼いガントレット。背中には水色のメイスと、翠色の……メイス?


そして勇者様は翠色のそれをさっと動かし、左脇下から……折りたたまれたそれを伸ばし、脇に出てきたグリップを握り……赤い砲撃を放つ……!


「な!」

「別の武装パックでありますか!」


当然レオ様にそんな砲撃は決定打にならない。即座に片手で防御障壁をはり、防ぐ。それは勇者様も分かっていた。

だから両肩の鋭角的な白いパーツを投げ捨てたかと思うと、あの大きなメイス……ではなく、大砲をしまい、次は水色のメイスを……こっちもメイスじゃありませんでした。

やっぱり折りたたまれていたそれは展開し、鍔元を広げ、そこに蒼い光の刃を走らせる。


そうしてその刃を正眼に構えると、翼が大きく開いて……光が走った。

光が更なる翼に……羽根となり、羽ばたいて……勇者様はあの大きな“刀”を振りかぶりながら加速。

それも、いくつもの……いくつもの幻影を生み出しながら……!


「ひ、姫様ぁ!」

「勇者様が増えましたぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう、デスティニーパックは名前通り……デスティニーガンダムの再現をコンセプトにした武装パック。これもヴァリアントの能力で作り変えられるんだ。

同時にこれは一対一の決戦用装備でもある。まぁ多数も得意だけど……とにかく今の砲撃で目くらましをしつつ、翼から放たれた幻影粒子がいくつもの残像を形作る。

同時に最大加速で飛び込む。その速度はさっきの比じゃない。というか、あんな大技出されたらさすがに困るしね。


だからその前に、全てを斬り伏せる。


『おぉぉぉぉぉぉぉっと! 勇者、真正面から突っ込むつもりか! だが、この輝きはなんだ! 勇者が何人にも増えているぅ!』

「ふん、こけおどしをぉ!」


あいにく、こけおどしのつもりはない。こっちもこんな楽しい勝負……本気にならない理由がないしね!


(――距離、二十メートル)


そこからはほぼ一瞬で射程距離へ肉薄……というところで、本領を発揮する。


「――」


刃はもう、抜いているのだから。


「ふん!」


レオ閣下は溜めた力を吐き出すように、戦斧を振り上げる……だから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……そこで、勇者の気配が増大する。

残像ゆえに捉えにくいが、確かになにかが“切り替わった”

毛穴の全てが……尻尾と耳が逆立つほどの衝撃。それがなんなのか悟るには、余りに暇がなかった。


既に一撃は撃ち込んでいる。奴も打ち込んでいる……いや、いない。

奴はワシより一泊遅れている。まだ抜いていない……まだなにかを見せていない。

本来ならば致命的な遅れ。だが、そうは思えなかった。刹那の間にワシは察した。


……奴はあえて、ワシ相手に……後の後で勝負を決めにかかったのだと。

そして……極光が走る。


「――――きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」


奴があの巨大な……妙な刀を振りかぶったと思った瞬間、『既に打ち込まれていた』。

なにを言うとるか分からんだろう。だが、事実だった。しいて言うなら、余りに鋭い……雷撃のように速い斬撃と言うしかない。

あの身の丈以上はある刀を、平然と振りかぶり……その上で打ち込んだ一撃。それはワシの一撃と正面衝突し……はじき飛ばした。


「な……!」


右半身が千切れたかと思わんばかりの衝撃。そして地面を穿つ切っ先は、それを当然だと言わんばかりに……フィールドを一刀両断する。

そして体が吹き飛びかけ……だが、まだだ。

ワシの体は、心は、まだと叫んでいた。こんな隠し球を持ってきた勇者に対して、例の一つもできんのは……悔しいと笑っていた。


だから左手をぐっと握り、力を込めて……攻撃直後のその隙を狙い……!


「え……」


そんなとき、ワシの四肢を縛る光のリングが展開。それで全ての動きが封じられた。

突然勇者の左手が伸び……ワシの乳房をわしづかみにしてきた。

普通なら痴漢の類いと思うだろう。しかし違う。


手の平には……その奥から、確かに輝力が集束されておって……。


(拘束術からの)


ならばこちらも輝力を全身から放射し、リングを砕こうとする……咄嗟に反応はした。

じゃがそこで、ワシの脇腹を両側から抉り、切り裂く衝撃。ヒカリを放つ角が回転しながら、ワシを挟みながら交差した……!


「はぁ!」

(零距離連続攻撃――!)


そうして押し倒されながら、零距離からの連続射撃。それもただの射撃ではない。

確かにワシの守りを、頑丈な肉体を撃ち抜く……素晴らしい一撃だった。


(あぁ……なるほど)


不意打ち、だまし討ち……そう告げるのは簡単だろう。

だが違う。それは余りに無礼というものだ。


(鍛え抜いた剣術の腕前……それすらも見せ札にできる冷徹さ。
勝利のために手段を厭わぬ覚悟。
なにより……敗北を恐れず……恐れていたとしても、踏み込むその力強さ)


悔しさはある。情けなさはある。

だがワシとして武を尊ぶ端くれ。笑うしかなかった。


(認めるしかあるまい)


ミルヒは、なんと強い勇者を呼び出したものだ……。


(今日のところは、こやつの方が……強かった、のだ……)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……当然デスティニーだから、パルマフィオキーナも搭載している。

さすがに格上相手だからね。これで致命傷を避けること考慮していた。だから反応できたのよ。


もちろん手はまだある。肩に装備しているフラッシュエッジは、エネルギー刃を展開するブーメランでもある。

それで咄嗟の反応を止めるオールウェポンコンボ。それは無事に決まって……。


「がはあぁあ……」


……そこでレオ閣下の服が粒子化。

ミニジーンズっぽいズボンと、胸とその周辺を覆う上着だけしか残らない。


「え……これなに」

『勇者がポカーンとしているので、私が説明を! 騎士クラス以上の兵は、受けたダメージを甲冑が肩代わりしてくれます!』


あ、そうなのね。だからこの対艦刀……アロンダイトでの一撃も、ギリギリでしのげたと。

魔導師で言うところのバリアジャケットなのかな。でもここまでしないと破れないってことは……レオ閣下の地力、恐るべしだ。


「……仕方ないのう……」

「……」

「今回は、ワシの負けじゃ」

『おぉーっと! レオンミシェリ閣下がギブアップ! ギブアップだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』」


実況の声が響いたところで、手を引いて……息吹。

周囲を警戒しつつ、アロンダイトを折りたたんで、無線接続スラスター左側のハードポイントに装備する。


「しかしまぁ、まさかワシの純潔まで奪われるとは」

「え、もしかして初めて負けたの?」

「ワシの乳房を揉みしだいたであろう」

「え?」

≪……しっかり右胸に触れていましたよ。急所狙いとはいえ大胆ですね≫

「え……?」


…………全てを理解した僕は、すぐさま土下座……全力の土下座!


「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あぁよいよい。この責任は結納の儀を執り行うことでまとめるゆえ」

「本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「勇者よ、ここで逃げるのは得策ではないぞ? 我がガレットの民と兵全てを敵に回すのでな」

「申し訳ありませんでしたぁ!」

≪あなた、随分あっさりですね≫

「そこで心を痛めて、本気で謝れる男と分かったからのう」


怯える僕を見て笑いながら、レオ閣下は両手で髪を跳ね上げ、そのままボディラインを強調。

……あ、やっぱり大きくて柔らかそう。魂が輝いている……じゃなくてぇ! 僕はなんて失礼なことをぉ!


「それにこんな格好も視聴者の目には毒じゃ。やっぱり今回はワシの負けとしておこう」

「あの、僕が負けなのではぁ! 反則手だったのではぁ!」

「そこはもうよい」

「よくないのではぁ!」

「よいと言うとるだろう! それよりほれ、立て! まだ試合は終わっておらんぞ!」

「……終わってないの!?」

『そうなんですよ、勇者様ー! では得点表をどうぞー!』


そこで得点表が展開。細かいところは読めないけど、負けている方に大量の点が加算された。

数字関係の作りはアラビア数字と同じだったので、大体でもなんとか読み取れる。


『確かにレオンミシェリ閣下のギブアップで、ビスコッティ側は逆転! ですがタイムアップまではあと数分あります!』

『なのでガレット獅子団のみなさんも、諦めずに頑張ってくださいねー』

『試合の勝敗とは別に個人評価もありますので、ここで腐って止まるのは損ですよ?』

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


すると遠くから歓声――なるほど、時間式なのか。


「というわけで、ワシに申し訳なく思うのなら、最後まで戦い抜け。それでチャラとしよう」

「い、いいんでしょうかぁ……!」

「ワシがよいと定めたからな。
……戦興業を楽しめるのなら、おぬしはフロニャルドで善く生きていける。ミルヒはよい勇者を選出したものだ」


……するとレオ閣下は、どっか遠い目をして……それでもすぐに僕を見て、快活に笑う。


「お主ら、名は」

「あ、蒼凪恭文……。
こっちはアルトアイゼン」

≪どうも、私です≫

「私はヒカリ。こっちはシオン、で、そこのがショウタロス先輩だ」

「使いっ走りだけは得意な先輩です。どうぞこき使ってあげてください」

「やかましいわ! あとショウタロウだ! ショウタロウ!」

「覚えておこう。
ではデートと結納の日程は後日知らせるので……待っていろよ」

「は、はいー!」


――――こうして、勇者として召喚された第一戦……その大きな役割を達成した。


「……」


自然と見上げたのは、いつもとは違う空に雲、風……うん、やっぱり楽しまなきゃ損だよね!

せっかくの異世界渡航だ! こういうの、経験がないわけじゃないし……徹底的に、最後まで暴れてやるぞ! おー!




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2017年3月・フロニャルドその1 『Mはいつでも待っている/勇者召喚!』




(その2へ続く)







あとがき

恭文「というわけで、今回はちょっとした小話。もう最後までできているんだけど……もしもの日常Ver2020でDOG DAYS編。
パラディオンも使わずヴァリアント活用……時間がないからね。仕方ないね」

琴乃「ほんと、よくできたよね……!」

恭文「魔法術式、大まかには流用できたから。あとはリコッタ」

琴乃「頼りすぎじゃないかなぁ!」


(リコッタ様と言うべき大活躍はこれから)


恭文「まぁここから僕の勇者サクセスが始まったわけだよ。始まったと、思ったわけだよ……!」

琴乃「その前に、責任を取ろうか」

恭文「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(後にいろんな因縁を引き連れる初戦でした)


琴乃「それで、恭文……実は今日は」

恭文「おのれと舞宙さんのマンスリーバースデーだよね。でもさぁ……琴乃、おのれはまたストーリーでやらかして」

琴乃「言わないで!」


(そう、琴乃さん、なんとか月ストに戻ってきました。が……どうするんだろう、これから先)


舞宙(メイド服姿)「いやぁ、あたしとしてはどりきゅんが心配だよ。アドリブで引退を懸けたライブとか言い出すし、他のアイドル達もライブバトルしたくないとか引いているし」

恭文「それもあったかぁ」

琴乃「え……でもそれって、どりきゅんの強さを恐れてってことで」

舞宙「だから、ライブバトルという“仕事”で共演NGをかけているわけでしょ?」

恭文「まぁ分かりますよ。……格下で勝てるバトルって見込みが大きい状況で、負けたら引退しろとか言い出す。
事務所もそれを諫めないし、止めても『自分達は本気でやっている』とか言って聞く耳を持たない。
そんな奴ら相手にするなんて、普通にリスキーだし、アイドル達を守るって観点で言えば無視するのが一番ですよ」

琴乃「……そう、言えば……!」

恭文「ちょっとブドウジュース用意してくる」

琴乃「用意しないで!?」

舞宙「まぁそこは明日だね。それより今日は……雨もあって少し寒いし、いっぱい……暖め合おうね? 三人で」

琴乃「それはいいですけど、明日でも愉悦は駄目です! 駄目ですから!」


(果たして愉悦は成立するのか。そうして夜は更けていきます。
本日のED:水樹奈々『SCARLET KNIGHT』)





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その後は何事もなく戦興業終了――ビスコッティ側の勝利となった。その要因はもちろん、勇者恭文。

だが大会サイドがインタビューを行おうとした時、そこに勇者の姿はなかった。

まぁそれはそれとして――勇者召喚の張本人であるミルヒオーレには、とんだトンチキの衝撃が待ち受けていたのだった。


それが判明したのは、久々の勝利で沸き立つ中のことで……。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


このたびの戦は我がビスコッティの勝利。久々の勝利なので、みんな浮き足立っているくらいです。

でも今日くらいは許されると思います。だってだって……久々ですからー♪

そのおかげで私も大忙し。これから勝利を記念した、ライブ準備ですから。


そのためにリコとウキウキしながら、城の広い廊下を足早に進む。ちなみにガレット側が勝利した場合、地酒祭りでした。


「でもよかったでありますね、姫様!」

「えぇ! 勇者様、ライブ見てくださるかしら。あまりお帰りが遅くなると、ご家族が心配されるかもしれないし……あぁ、でもレオ様とあんなことになったし! お話しなくては!」

「帰る? 姫様、どこへ帰るでありますか」

「いえ、ですから元の世界へ」

「帰れないでありますよ」


足を止め、不思議そうなリコの顔をじーっと見る。あれ、どうしてそんな、あり得ないと言いたげなのだろう。

でもほら、召喚ってそういうもので、それならタツマキがやらかしたことも帳消し……。


「え?」

「え?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


軽く伸びをしながら、城へと歩き出す。ヒーローインタビューだとかなんとか言ってたけど、趣味じゃない。

風のように現れ、嵐のように戦い、そしてまた風のように去っていく――それが一番カッコいい……んだけど……!


「どうしようどうしようどうしよう……」

「お兄様、私が思うに……処刑なのでは。一応笑いながら許したけどという体で」

「うあああぁああぁああぁああぁあぁ!」

「よし、逃げるぞ! 私はまだ春限定スイーツを食べ尽くしていないからな!」

「それも最低だろうが! ヤスフミ、とりあえず本気で謝れ! それで多少のことは飲み込め! 命がかからないレベルならな!」

「は、はい……!」


そうだ、謝ろう。さすがに謝らなくては……あぁああぁああぁ! でも処刑とかになったらどうしよう!


「どちらへ参られる、勇者殿」

「ひ!」


そんな僕の後ろから、慌てた様子で槍騎士さんとエクレールがやってきた。


「しょ、処刑への覚悟を整えていたところです……!」

「……それなら大丈夫だ。少なくともレオンミシェリ閣下は、あなたを気に入られた様子だ」

「自己紹介もせず胸を触るような、最低な男をですか!? 神様なんですか、あの人!」

「気持ちは分かるが落ち着いてくれ! とにかく、一旦ヒーローインタビューを」

「あ、あの……それが終わったら、僕は帰れるんでしょうか! 拘束とかされませんか!? 国辱ですよね!」

「本当に落ち着いてくれ! というか」

「……帰る……?」


するとエクレールが、小首を傾げる。


「帰るとは、どこにだ?」

「いや、元の世界に……やっぱり処刑されるんだぁ!」

「お前はなにを言っている。処刑などされなくても、帰れるわけがないだろう」

「………………え……?」


一瞬、なにを言っているのか分からなかった。というか、信じたくなかった。なので笑いながら、暗い考えを吹き飛ばす。


「いや、あの……姫様は元の世界へ帰れるって断言してくれて」

「一度召喚された勇者は戻る事などできん。常識だ」

「でも、そんなことは絶対にないって断言してくれて」

「え?」

「え?」


試しに槍のお兄さんを見上げると、やたら真剣な顔で頷く。

…………ドウイウコトデスカ……!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「勇者様は元の世界へ帰ったりできないのであります」

「どうして!」

「どうしてって……勇者様は契約の上で、ビスコッティに召喚されたであります。
それはもう完了しておりますから、こちらから向こうへ行くことはできないのであります」

「……」

「だからこそ勇者召喚は秘中の秘で、慎重に行わなければならないのであります」

「………………」


そんな馬鹿な。そ、それじゃあ……普通ならともかく、タツマキは勇者様を誘拐同然にこっちへ連れてきてる。

ど、どうしよう。勇者様にはすぐ戻すって言ったし、この一回だけとも……。


「あ、ああ、ああああ、あああ、ああ、あああ、ああ……」

「姫様?」


勝利の余韻なんて完全に吹き飛んだ。とんでもない大嘘をついた事も突きつけられて、血の気がどんどん引いていく。


「まさか姫様……知らなかったのでありますか!」

「全く……」

「嘘でありますよね!」

「こんな嘘、吐くと思いますか……!?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


信じられない様子で、リコが詰め寄ってきた。それをかわしながら確信する。

これは、本当に常識の範囲内だったんだって。


「ほ、本当に知らなかったでありますか! なら勇者様は」

「あの、とりあえずこの件が終わったら、戻っても大丈夫と……」

「契約時に説明は! タツマキを向かわせたでありますよね!」

「勇者様曰く、いきなり紋章に引き込まれて、そのままと!」

「誘拐でありますよ! それでよく協力してくれたでありますね!」

「だから、すぐに戻せるって! 戻せると思って!」

「戻せないでありますよ!」


どうしよう、どうしよう、どうしよう……あ、でも待って。希望を捨ててはいけません。あの、もしかしたら……もしかしたら……!


「そ、そうは言ってもなにか方法が」

「ないでありますよ!」

「――――いやあああぁあああぁあああぁああぁあああぁ!」

「姫様−!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんな馬鹿な話はない。というか、そもそも聞いてない。信じられない様子の二人にかくかくしかじかと説明したところ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ば、馬鹿を言え! 説明もなしで召喚できるわけがなかろう!」

「今説明した通り、されてないんだよ!」

「そうだぞ! どうなってんだよ、フロニャルドはぁ!」

「えぇい、泣くな! 私が聞きたいんだ! 私が泣きたいんだ!
あの……兄上……!」

「……誘拐事件……国際問題……世界間の戦争……!?」

「兄上−!」


あら、エクレールのお兄さんだったんだ。しかもとんでもない事件になりそうだって震えているよ。

でもそんなことはどうでもいい。僕も……僕はもう、腰が抜けちゃってさぁ! もうどうしようもないもの!


あ、でも待って……そうだ、僕にいい考えがある! 今思いついた!


「よ、よし。あの犬を八つ裂きにしよう。それを生贄に道を開いて」

「落ち着け馬鹿者! そんな真似しても戻れるわけがあるかぁ!」

「馬鹿野郎! そうすれば僕の気持ちは落ち着くんだよ! 僕は救われるんだよ!」

「根本的解決になってないだろうが! 馬鹿はやはりお前だ!」

「そういえば……犬の肉って、食べられたよな。だったら無駄にならないんじゃ」

「あら、お姉様にしてはいいアイディアですね。地産地消は素晴らしいことです。……今日は犬鍋パーティーですね」

「「「「……いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」」」」

「貴様らも落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「……待っていてくれ、すぐ城に問い合わせてみる」


お兄さんはきた時よりも慌てて、城のある方へ走っていく。それを見送りながら僕は、頭を抱えた。


「なんでこんなことにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「……なんというかその、頑張れ」

「あれ、なんか急に優しくなった!? 怖い! なに狙ってるのさ!」

「狙ってると言うな馬鹿もの! さ、さすがになにも知らずに呼ばれたなど、予想外なんだ!」

≪それだけしか救いがないって、ほんと末期的ですよ≫


今日――勇者になって、大暴れしました。その結果、舞宙さん達を残して帰れなく鳴りました……嘘みたいでしょ! でも現実だよ! アニメじゃないんだよ!

でも待って! 舞宙さんのことはどうするの! フィアッセさんは!? ふーちゃんは!? 歌織は!? リーゼさん達は!?


もしかしなくても僕、このまま帰れなかったら、とんでもない被害を生み出すんじゃ。


「…………いやあぁあああぁあああぁあああぁああぁああぁあぁ!」


(おしまい)






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あきゅろす。
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