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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
その7.5 『断章2017/空は飛べなくても翼ならあったりする』



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

その7.5 『断章2017/空は飛べなくても翼ならあったりする』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――恭文くんはやっぱり悪党でした。明らかに悪い子でした。それでまた平然としているし!


「鷹山さん、大下さん……蒼凪くんは、本当に……あの、えぇ……?」

「夏川、コイツは元々“こういう奴”なんだよ」

「むしろ六歳当時は躊躇うタイプだったとかだと、逆に違和感あるよね」

「それに先輩とか言われているんですけど、私!」

「それに爪食い妖怪認定されかけているんだけど、あたし! いや、あたしが自業自得だとしても、さすがに怖いんだけど!」

「……田所先輩、雨宮先輩―♪」

「やめろぉ! 今煽りにきているだろ! 私への尊敬の念がカケラもなかったぞ!」

「あ、よかった。さすがに妖怪って呼ぶのは躊躇ったんだよね。
……でもいいなぁ。先輩……三期生ちゃん達にも呼ばせよう!」


はいはい、恭文くんも落ち着いて……! というか、その笑顔が一体どういう心情から出てくるのかが疑問だよ。

あと雨宮先輩は……いや、触れないでおこう。オフレコだしね? オフレコだしね? はい、忘れよう−。


「というかな、蒼凪……俺達、揃って察したからな? ……前に鳴海荘吉は、異能力でボコられ、両目も潰されている。そこを考えれば自然と変身状態を保とうとしてもおかしくない」

「それは結局、おじさんが、変身しても僕一人押さえ込めないくらいに弱いせいでしょ?」

「………………」


また冷淡に答えちゃったし……! みんな唖然としているよ。六歳の時点でそこまでするのかと。


「で、でもさすがにそれは」

「みんなで幸せになろうよー」

「なれるかぁ!」

「え……田所さん、なにか問題があるんですか?」

「風花ちゃん……!」

「あ、あの……だって、ほら……言ったことを自分でも実行できないなら、それはとんでもないハラスメントじゃないですか。だから」

「同じことだからね!?」

「でもあの、恭文くんだって同じなんです! 後々ウェイバーの知り合い……言峰綺礼さんっていう超絶性悪神父さんと、その話で一緒にブドウジュースをごくごく飲んで! それも美味しそうに……幸せそうに!」

「いいじゃん。僕と言峰のおっちゃんは、愉悦部っていう部員仲間だし」


恭文くん、黙るんだよ! それを一般常識みたいに語らないで! あと、性悪神父って言っている時点でアウト! みんなの気持ちも分かってあげて! ……私も引かれている一人だけどー!


「え、というか……神父さんなの? それが……え……」

「……聖堂教会っていう……魔術協会といろいろ因縁のある宗教組織の一員なんです。
しかも異端者……異能で人様に迷惑をかけた奴ら相手に、力で潰しにかかる“代行者”としてはトップクラス」

≪聖堂教会と魔術協会って衝突も多いライバル組織でして。まぁそれでお互い抑止力を見せ合って、上手く折り合おうとしつつ……やっぱり殺し合っちゃうお茶目な仲です≫

「えぇ……!」

「だから鳴海荘吉なんて井の中の蛙なんですよ。
……僕が言うと俺ツエー自慢ですけど」


恭文くんも欠点は多いけど、そんな特化した異能力者の一人。だから自嘲気味に頬をかきつつ、どん引きなもちさんにも“そういうもの”だと纏める。


「……同時に、やっくんの師匠ズを構築する一人だよ。
洗礼詠唱……そういうアンデッド対策の術式……格闘術もいろいろ教わったの。八極拳もね」

「じゃあ蒼凪くんもできるの!? 鉄山靠―とか!」

「覚えましたよー。練習相手とお互い交代で実験台にしながら……えっと、遠坂凛って子で」

「また新しい彼女かー」

「違いますよ!」


恭文くん、天さんの言うことは正しいよ。女の子の名前だし、それはねぇ……! 私もそう思ったし。


≪ちょうどこの後、海鳴市……綺礼さんがいる冬木市のお隣にしばらく滞在したんです≫

「恭也と美由希ちゃんの故郷じゃないのさ」

「……それで、言峰のおっちゃんが魔術師の師匠と仰いでいる……遠坂って家の人達にも挨拶して、そこで凛とも知り合って」

「凛ちゃんも言峰さんからいろいろ教わっていた関係で、自然と練習し合うようになったんだよね。
あと……妹で、別の家に養子へ出た桜ちゃんも」

「ちょっと待て、風花。養子ってのはなんでまた」

「桜ちゃん、魔術師としての才能がちょっと特異的で……そのままだときちんとした教育が難しかったんです。
それで、エーデルフェルトっていう海外の大家が預かることになって……あ、今は揃ってイギリスに留学して、ウェイバーさんの教え子になっています」


それで風花ちゃんが、スマホで画像を見せてくれる。ちょうどみんなで集まったパーティーで撮影した画像だよ。

……黒髪ツインテールな凛ちゃんと、紫髪ロングな桜ちゃん……その美人姉妹を見て、鷹山さんと天さんが眉をひそめる。


「……風花、その……なんというか、あの…………フラグ、立ってない?」

「ですよね。なんかこう、距離感違う」

「写真見ただけでなにを言っているんですか!?」

「……桜ちゃんについては、将来的に嫁ぐ覚悟です。凛ちゃんも意地は張っていますけど、悪くは思っていないようですし……はい」

「え、姉妹でその構えなの? お父さんとかは」

「…………そのお父さんが……“ハーレム、自分でもできるならやってみたかった”って言う人なんです……!」

「えぇ……!?」

「ふーちゃん! というか、時臣さんのあれはもう病気みたいなものだって言ったよね!」


はいはい、恭文くんも落ち着こうねー。まぁ……いろいろ思うところはあるだろうけどさ。

でも、そこもきちんと向き合っていくのが、恭文くんの良いところだった。


ん……そういうところは……やっぱり好き。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――蒼凪くん……もう、屋敷とか建てたら?」

「先輩はなにを言っているんですか……」

「言いたくもなるよ! 遠坂ってところ、凄くお金持ちなんでしょ!? 逆タマじゃん! フィアッセさんもだけどさぁ!」

「遠坂の家が持っているお金や土地は、凛が受け継ぐ財産ですよ。僕が触れていいものじゃありません。フィアッセさんだって……舞宙さん達だって同じです」

「そこばっさりかぁ!」

「大体遠坂の家は、十分に屋敷です。庭も広いし、家もゴシックな洋館ですよ? ドラマとかに出てきそう」

「マジですか!」


恭文くんが滅茶苦茶しっかりしている……。

いや、でもそうなんだよね。実はなにげにいいところなんだよ。


「あははは……蒼凪くん、お金のことも凄くしっかりしているんだ」

≪……何度か遺産相続で揉めた現場っていうのを見てきましてね? その影響でまぁまぁ悟っちゃったんですよ≫

「恭文君、常々言っているんだよね。他人をアテにした資産運用は破滅の第一歩だって。
……だからね、あたしやいちさん達のお財布をアテにしたこと、一度もないの」

「私達の方が収入いいのにね……」

「うわぁ……」


ぴょんさんが同情の視線を向けるのも仕方なかった。だってほら、ね……中学生が言うことじゃないもの。普通に忍者のお仕事で稼いでいるとしてもだよ。


「……なら蒼凪、話を戻すが……メモリを作ったって下りは」

「投影ですよ」


恭文くんは右手を開き、ころあずが持っていたグラスを見て……。


「起動(イグニッション)」


魔術回路を隆起……ほとばしる魔力を編み込むみたいにして、同じグラスを生み出す。それでころあずが自分の手にあるそれと、恭文くんが作った模倣品を交互に見始めて……。


「まず大前提から……僕と苺花ちゃんの精神リンク……その主軸は元祖ガイアメモリです。
その大本の記憶に触れられるのなら、メモリの複製についてもなんとかなった」

「でも、機械とかは上手く作れない……投影なら大丈夫ってこと?」

「ウィザードメモリに限っては問題なかったんです。
なにせリンク状態にあることで、僕自身をウィザードとして定義できたから……あ、ここは条件もありました。
シュラウドさんの出奔によって、ガイアメモリの構造が開発当時から大きく変わっていないこと。つまりドライバーに対応する次世代型の情報を元に、僕の方で解釈を少し変えて形にすれば……」

「メモリを作り出すことができちゃった……!」

「とは言うもの、そのときは“対応できる外側を作った”だけだし、やっぱり無理はあったんですけど」


そして、そのグラスがふわっと……魔力の粒になって消える。それが空に上っていくのを、みんな不思議そうに見上げて……いや、私もなんだけど。


「能力だって本物の半分以下だったし、三分経つとこんなふうに消えちゃうし」

「……ウルトラマンかな?」

「でもこれで確信がまた一つ持てた。……御影先生とお姉さんの記憶……忘れて、壊れたと思っていたものは、ウィザードメモリが持っている」

「うん…………なんだって……!?」

「……実はこのとき恭文くん、御影先生とお姉さんの顔や声……そういうものが断片的だったんです。
メモリを受け入れたことによる弊害……ショックによる記憶喪失だって、最初は思っていたんですけど……!」

『えぇ……!?』


あぁ、みんながどん引きしている! というか困惑している! そうだよね、これからそこに繋がるのは……意味分かんないよね!

……でも……。


「でもそれなら、僕が御影先生に教わった技術を、前と変わりなく振るえるのはおかしいんです」


恭文くんはまた違う感想を持っていて……。


「幸い御影先生に教えてもらったことは、メモや録音があったから、補填できたんです。ふーちゃんもちょいちょいお目付役的に来てくれていましたし」

「いや、だったら…………それも違うってことかぁ」

「おいおい……山崎は納得なのかよ」

「あの、私達もやっぱりいろんなお仕事があるので……ずーっと振り付けとか、歌詞とかを覚えているわけじゃないんです。
ライブ前のレッスンで曖昧ところを思い出してーって作業をするので。
……そこんとこ考えると……なんか、違和感はあるかも。それですぐ補填できるってことは、どっちかというと……」

「自分でも思い出すというか……おさらいしたことで、仕舞っていたデータを引き出して、参照しているというか」

「うん、それだよ!」


そう、思い出せた。思い出すことができた。忘れて、記憶がずたずたなら、そんなことできるはずがなかった。“現にできないことだってあったから”、その差異はすぐ気づけた。


「それに最初のとき、声をかけてきたあの子は謝ってもいた。対価が必要だと」

「それが、先生やお姉さんの記憶……?」

「苺花ちゃんとリンクしているってことは、その間を取り持っているメモリともリンクしているということです。
メモリに意志があるとしたら、記憶は対価としてあの子が持っている。でも壊されたりはしていないので、リンクを通じて無意識にそれを引き出せる……それだけのことでした」

「いや、それだけって……!」

「人の記憶が時間なら、僕の記憶を保有しているメモリもまた“僕自身”と定義されますからね。そりゃあこれくらいできます」

「…………」


恭文くん、ちょっと遠慮してあげて……! 先輩も言葉を失いかけているから。


≪まぁまぁ私達も聞いたときはなんて非常識なとは思いましたよ」

「だ、だよね! だったら」

≪すぐガイアメモリそのものが非常識だという、鋭いブーメランが飛んできましたけどね……≫

「反論すら許されないのは嫌過ぎる!」

「でも確証がなかった。だったらどうやってもう一度あの子と接触するかって考えていたところで、投影魔術……憑依経験を教わったんです」

「物に意識がって下りもツッコめなくなったぁ!」


あぁ……ころあず先輩が絶望して。というかこれは私達が辿った道だよ。

そもそも乞食清光にそこまでの記憶が詰まっているわけだし。実例を出すだけで論破されちゃうんだよ。


「……とはいえ、やっくんがそこまで非常識ってわけじゃないんだよね……」

「サイちゃん!?」

「ほら、付喪神って考えも日本にはあるでしょ? 大事にされた物には心が……神様が宿るって。
……ガイアメモリは地球の記憶っていう神秘の一部なんだし、だったらってことだよ」

「それに……ウェイバーさん曰く、魔術師サイドからも地球の記憶に該当するものは把握していたそうなんです」

「……魔術師さんが?」

「霊脈……地中を流れる星のエネルギーライン。
大規模魔術を使用する場合にも、そういうラインを利用することもあるそうなんですけど、ある特徴を持つそうです。
……ラインは土地によってふとさや広さが変わるし、同時に……流れている魔力そのものがその土地で起こった記憶を含む場合があると」

「魔力……エネルギーに、記憶が……」

「星という生命体の魔術回路……そう定義するなら、肉体に刻まれた記憶と力にしている。そう考えることもできるかもしれないと……。
実際事後の調査では、風都はその霊脈のラインが世界有数レベルだと分かりました」


……みんな唖然としていた。風花ちゃんの言葉が信じられないというより、本当に……ふだんの生活では触れないような領域だからだよ。私も最初そうだった。


「だから、鳴海さんも“あの程度のこと”は飲み込むべきだった」

「え……」

「それなら、やっぱり魔術師としても放っておけない案件になるんです。
そんな霊脈の力を乱用して、ガイアメモリなんてものを使っているなら……それは異能の隠匿を旨とする“人でなしの世界”に喧嘩を売っているようなものですから」

「蒼凪君、ちなみになんだが……もしその制裁が行われれば」

「言峰のおっちゃんレベルな猛者達が群れを成し、風都に乗り込み大暴れですよ。下手をすれば風都ごとガイアメモリは根絶される」

「……それも本末転倒だとは思うけど……」

「しかも、ミュージアムが……おじいさんが理想としていたものは、第二魔法と呼ばれるものに近いものでした」


あ、そうだ……その話もあったと、拍手を打つ。


「魔法……?」

「魔術の世界で定義されている、本物の奇跡……その一つのことらしいんです。今は使用者もいないロストテクノロジーって考えれば……いいと思います」

「あたし達はそう受け止めたしね。……第二魔法の内容は、人間を超次元的な存在に作り変える魔法。それで真理ってのにがーって到達しようとしたんです」

「……地球の記憶……ドーパントがその第二魔法の定義にハマるのなら、彼らは奇跡を乱用している無法者になると」

「ただ、魔術師サイドもあたし達普通の人達には最大現配慮するべきって考えで。それで見極めから動いてくれたんです」

「でも当のウェイバーは魔術師だけど、戦闘力は一般人レベル。魔術の腕前もそこまでじゃありません。
なのでそちらはウェイバーよりも戦える僕が、魔術を上手く忍術的なものだと隠匿して、ドーパント相手にそこも通用するかどうか確かめていくって流れになって」

「いや、それ魔術師の人達にも利用されているってことじゃん!」

「問題ありません。なにせ三千万の協力費が出ることになりましたから」

『三千万!?』


恭文くんは問題なしと頷く……瞳にドルマークを浮かべながらだよ!


「しかも税金対策はばっちり! 障害者手帳の絡みもあって、税金の支払いは控除される!
その上ウェイバーが、僕が投影でコピーできそうな遺物もレンタルしてくれたし、戦力強化で倍プッシュ! おっしゃー!」

「え、そこレンタルなの!? 六歳の君を戦わせるんだし、ぽーんとくれていいじゃん!」

「さすがにそんなこと言えませんって……。一つ数十億とかですよ?」

「はぁ!?」

「やっちゃん、おい……マジかよ!」

「むしろ悪用しない心構えで土下座するべきです。
実際そのとき持ってきてくれたのは、今も……相当役に立ってくれているし」


まぁ、そういう借りもあるから、魔術協会の頼みもできる限り引き受けている感じなんだけど……でも、凄いとは思うんだ。

恭文くんが上げた声で、本当に……仲間になりようがない人達も繋がって、大きな風が生み出せるんだから。それもこれも、恭文くんに利用されてもいいという度量があるせいだよ。


「……なら蒼凪、スカルメモリは結局どうなった」

「いづみさんがドライバーと一緒に持っています。今も」

「御剣家出身の忍者さんが?」

「僕が持っていたら、苺花ちゃんとやり合うときに使われかねませんし……邪魔なので」

「そりゃあキツいだろ……。お前は向こうと同じように、メモリの魔導書を用意できないってことだろうが」

「僕以外の誰かが戦えるようになるだけでも万々歳です」

≪いづみさんは元々鍛えていた人で、スカルの使用適性もあったんですよ。
ただ、鳴海荘吉とはまた違う解釈でメモリを使っている関係から、感覚の消失なども起きていません≫

「なるほど、ね」


それで赤坂さん達も納得は……してくれたみたい。まぁ、ある意味一番安全なところにある感じだしね。誰が忍者から奪えるのかって話だよ。


「なら蒼凪君……ザラキエルというのは」

「……PV-49≪ザラキエル≫。変異性遺伝子障害Pケース・種別XXXのHGS能力……僕の翼です」


すると恭文くんは深呼吸……背中から蒼い虫型の翼を展開する。その輝きに、みんな目を見開いて……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


開いたのは蒼い翼。

恭文くんがずっと悩んで、向き合って……抱えていた秘密。


あの状況でも、使うことを躊躇った輝きだった。


「ザラキエル単体ではサイコキネシスやパイロキネシス、飛行などの……よくあるテンプレ的な能力は一切使えません。
基本固有能力は吸収≪アブソーブ≫と限定的未来観測≪リミットフューチャーヴィジョン≫……後者は天眼に変質していますけど」

「未来観測は分かるけど……吸収ってのはなんだ」

「僕の半径五十センチ以内か、触っているか、展開される光の蔦≪フィンアーム≫で縛った存在を対象として……物理・異能を問わずエネルギー吸収を行うんです」

「それはつまり、君の側にいるだけでも……なにかしらのエネルギーを吸い取られる」

「五十センチ以内であれば、無差別に」

『――――――!』


みんなが一斉に、ぞっとした様子で凍り付く。

……それに心が痛くなるけど……そこで止まる。誰も、一歩も引くようなことがなかった。それにはちょっとだけ安心もしていて。


「…………って、ちょい待って。え……五十センチ?」


そこで雨宮さんが気づき、手を伸ばしたり、下ろしたり……それで愕然とする。


「側にいなきゃ全然大丈夫じゃん!」

「……蒼凪くん……あんまりこういうこと言うのは、駄目だと思うんだよ。
でも……え、五十センチなの? もっと広くて、数メートルとか、数キロとか」

「そんな創作物にありがちな設定は、存在しません」

「えぇ……」


あぁ……麻倉さんがまた引いている! 困惑している! 本当にごめんなさい! たびたび困らせてしまいましてー!


「でも、どうしてそんな能力に」

「元々HGS患者が発生させるフィンには、光や風からエネルギーを得る性質があるんです。そうして取り込んだ力を超能力発動に生かしていくんですけど……ザラキエルはその吸収に特化しているんです。
本質的に言えば無差別範囲生命力強奪能力……エリアエナジードレインと言えるレベルのものです」

≪ただまぁ、そもそも吸収速度にムラがあって、人一人昏倒させるなら三分近い吸収時間が必要なこと……。
フィンアームの拘束も、工夫しないと舞宙さん達普通の女性でも引きちぎれる程度に柔いこと……。
そもそもその無差別範囲吸収についても、五十センチ以内と局所的なため、離れたら特になにも起こらないこと……。
これらの要因から、超能力としては限りなく産廃だと結論づけられました≫

「け、結論がヒドすぎるけど大丈夫……!?」

「もう、慣れました」


恭文くんがまた落ち込んで……! ビビられて、概要を説明してぎょっとされて、憐れまれるってところまでワンセットだから……もうなぁ……!


「でも、数十センチとはいえ無差別型の範囲能力なのは変わらない。
本当に鳴海氏はそれで、投薬治療もなしで制御しろと言ったの?」

「言ってくれましたねぇ。堂々と。
しかもガンプラやバトスピのことまで触れられたら……そりゃあ殺すしかないでしょ」

「蒼凪君……」

「そのときも鳴海荘吉にはきっちり言ったんですよ?
お前は相手が自分より弱く、反撃されることもないと驕って、安全圏からものを宣っている卑怯者だと」

「言っちゃっていたかぁ……!」

≪私のログにも残っていますよ……。
それでこうも言っていましたよね。お前の感情や正しさも、お前を認め心同じくして連む誰かも、お前を守ってくれるお母さんでもなければ警察でもないと≫

「今でも本当に理解できないんだ。どうしてそういう連中は、自分の行動で相手をぷっつんさせて、殺されるかもしれない……そんな怯えを持てないんだろうね。
というかさ、そんなクソつまらないことに対して、愛だのなんだのと付加価値を付け加えられる異常性が理解できない」

≪私も疑問ですよ。というか、碇専務達で思い出しちゃいましたし≫

「やっぱ頭がおかしかったんだね。あのクソ探偵」


恭文くん、そのボールは……いや、分かるんだけどさぁ! でもそれ、さすがにって言ったころあずにもブーメランだから!


「あの、だったら君は」

「先輩、斬れないなら死ぬ覚悟をって言いましたよね」

「いや、それでもほら、鳴海さんだって……本当に、そんな悪気があったとは」

「え、だったら碇専務達だってかばい立てできますよ?
悪気があったわけじゃないんですから。自分達に代わる代わる犯されて絶頂しない女などいないーって本気で思っていたんですから」

「そう考えると最低極まりないけどさぁ! え、でもそのノリでいいの?! 鳴海さんもそれと同じでいいの!?」

「いいんんです
奴は僕を事務所で押し倒し、レイプしようとした異常性犯罪者という噂も流しましたし」

「えぇ……!」


だからやめてあげて! ほら、見て! 恭文くんの大好きな先輩がどん引きしているよ! そこまでなのかってさぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ま、まずい。恭文くんがキレている。当時の記憶と感情が呼び起こされて、ぷっつんしている……!


「え、待って。蒼凪くん……それだとあの」

「雨宮先輩?」

「鳴海さんはこの間で言うところの、碇専務達の……立ち位置なのかな……!」

「えぇ、そうですけど……言っていませんでしたっけ」

「ちょいちょい触れてくれてはいたかな!?」

「あ、ごめんなさい。つい周知の事実だと思っていて……あぁそっか。
だから麻倉さんと先輩もさっき、鳴海荘吉に殺されて喜ばぬ人はいないと宣って」

「「ちょっと!?」」

「待って! 私達、そんなことだけは言っていないはずだよ! そうだよね! ねーってばー!」


駄目だよもちさん! 恭文くん、顔を背けている! 同じなんだよ! 定義は全く同じなんだよ! 揺らぐ必要がないほどに!


「嘘でしょ……本当に、その認識なの……!?」

「先輩……あぁいえ、いろいろヤバい点があるのは説明しますから、落ち着いてください」

「この上まだなにかあるの!?」

「まずですね、奴は『大量失踪・変死事件』の犯人なんです」

「……え……!?」

「奴が殺してきたメモリ犯罪者……と称される被害者達が、どうして殺されたのか。それらが一切明かされていませんでしたから」

「ちょっと待って。だってそれは」


そこまで言いかけて、ころあずは停止する。


「それも、きちんと調べないと分からないから……!」

「全て鳴海荘吉やシュラウドさんだけの言い分ですから。
実際がどうかなんて、その事件を一つ一つ検証しない限りは分からないですよ」

「…………」


もちさんはあまりの言いぐさに絶句する。

ううん、言いぐさは関係なかった。だって、間違ったことは何一つ言っていない。

私達はそういうものがなにを呼び起こすのか、この間嫌と言うほど見たばかりなんだから。分からないはずがない。


なのに、それでも……大人として当たり前のことを言っているだけの鳴海さんが、いつの間にかヒーローみたいに見えて。


「法に預けることなく、犯罪者を殺して裁くっていうのは、そういうことなんですよ。
だから劉さんも、いづみさん達も、何度も折衝したんです。“お前に言う権利はないぞ”と。
そして翔太郎はそんな鳴海荘吉の傍にいる重要参考人……共犯者かもしれない奴です」


更に翔太郎さんについても触れた上で、恭文くんは肩を竦める。


「最初から信用なんてしませんよ」

≪つまり事件の隠匿に協力したご母堂様達も、そんな悪党の共犯者になっているわけです。怖いですねぇ≫

「それもあの、鳴海さんのことを……信じてあげるとか、どうしても無理な感じだったのかな」

≪だったら警察の恩赦を受け入れ、事実を明らかにすればいいだけでしょ。それすら拒むなら無理ですよ。
もちろん大人組も、そんな鳴海さんを信用するなと言うしかない。その時点で余罪もたっぷりでしたから≫

「せめて自分のやってきたことが間違いで、後悔の一つも見せてくれたなら……まだなんとかなったんだけどねぇ。それすらないなら無理だよ」

「そんな……」

「どうして罪を犯したのか……一体どうしたら、そんなことが未然に防げたのか。
鳴海さんがそこを踏みにじったことは、本当に重たいこと……だったよね」


衝撃を受けるもちさんに胸を痛めながら、一つ思い出す。

恭文くんね、私達に打ち明けてくれたときも、そういう話をしていたんだ。


「犯罪者自身の反省や悔恨も交えて、そういう検証が一切できないってことだからって。
だから恭文くんも忍者さんとして、むやみやたらに犯人の殺害はしない」

「素人相手なら、活殺自在もなんとかなりますから。だから……うん、そうなんですよね」

「恭文くん?」

「……この間水橋参事官を殺害したのは、いろいろ失敗だったなぁって。
奴をあの場で確保できていれば、伊佐山さんの一件も未然に防げたかもしれないし」


あぁ、そういう……それも状況的に仕方ないと言っても、無理だよね。

恭文くんは、“殺したいから殺す”って定めた子だから。その真意も知っているから、余計に否定できない。


「勢い任せに突入するんじゃなくて、立てこもらせた時点で結界なりに閉じ込めておくとかすればよかったです。大反省ですよ」

「それについてはやっちゃんだけが背負うことじゃないでしょ……。俺もそうだし、タカも警察官としては大反省」

「自分を守りつつとなれば、できる状況は限られるとしても……だな。
とはいえ、異能力で回避手段があるお前は、その分責任を感じやすいところもあるようだが」

「まぁ僕、二人よりも偉いですしね」

「「なまいきなぁ!」」

「なんですか! 僕は課長ですよ!? 課長として押しつけられたものは相応に処理するんですよ! できなきゃ上に放り投げますけど!」

「「それでもなまいきなぁ!」」


でも……それは一緒に背負うものだと言ってくれる人達がいて。

大下さんも、鷹山さんも、そういう部分にも触れられる距離感で、今も三人でじゃれていて。

それがね、私は本当に嬉しいの。年は離れていても、出会った期間は短くても、もう三人とも仲間なんだなぁって。


恭文くんはいろいろ難しいところもある子だから、そうやって受け止めてくれると……うん、本当に嬉しい。


「……っと、すみません。話が逸れちゃって」

「あ、ううん。でも蒼凪くん……本当になんというか、強いぜおりゃーっていうのが理解できない感じ?」

「そうそう! 強い弱いで言えば、蒼凪くんだって滅茶苦茶強いじゃん!」

「僕より強い相手なんてごろごろしているんですから……」


もちさんと天さんに対して、恭文くんは軽く手を振る。謙遜とかじゃなくて、本当にそれが事実……自分はまだまだ井の中の蛙だと。


「ヘイハチ先生にも未だに勝てないんですよ? そんな驕り持とうにも持てませんって」

≪御影さんも教え方がよかったですしねぇ。初手でこの人を投げまくって、路上での素人喧嘩など子どもの遊びだとしっかり突きつけましたし≫

「それで鼻っ柱へし折ったってこと!?」

「えぇ……そんな教え方するの? 怖いんだけど」

≪普通は初心者にやりませんよ。完全に戦技教導隊のやり方ですし……ただこの人には分かりやすく適切でした≫

「戦技教導隊ってそんな教え方するの!?」

≪そもそも戦技教導って、教導官が要請のあった部隊などに短期出向―ってパターンが多いんですよ。
時間が限られるので、まずは模擬戦などで安全に配慮しつつきっちり叩きのめす。その後は感想戦で反省と修正……その繰り返しですよ≫

「そんな中で、一体どれだけのことを教え、託せるか。そこが教導官の力量であり、矜持でもあるんです」


そう恭文くんも補足しながら、また肩を竦める。


「そもそもある程度基礎を修めている相手向けっていうのもあるので」

「怖……いや、でもそっか。そういえばロッテさんもいきなり実戦形式で教えたって」

「それもありがたいことですよ……。試験も兼ねていたとはいえ、僕の基礎を認めてくれたゆえですし」

「じゃああの、模擬戦? それで」

「二週間の間に、二百回近く負けまくりました」

「……そっかぁ……」


ころあずが頭を抱えちゃったよ! でも仕方ないね! だって分かり合える雰囲気ゼロなんだもの!

しかも恭文くんが調子に乗っているとか、メモリのせいでおかしくなっているとかではなく……!


「駄目だよころあず! 天さん!
蒼凪くん、師匠運もすっごくよくて頑張り屋さんだから……根底を理解できないんだよ!」

「しかも碇専務のことを持ち出されたら、あたしらはなんの反論もできないんだよなぁ! アイツらほんとに気色悪かったし!」

「私達の言いたいことなんてもう話に出ているからって!? じゃあこの戸惑いはどうすればいいのかなぁ!」


ほらほらぁ! ぴょんさんと天さんもビクビクしているよ! いや、いいことだとは思うの! 思うんだけどさぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……さすがに黙ってはいられないから、いづみさん達に説明とかいろいろ任せても……その有様だったんです……! しかもそれは恭文くんだけじゃない!
苺花ちゃんも……自分のHGS能力と向き合って、それでも頑張って制御している人達みんなへの侮辱だよ! フィアッセさんだって!」

「ふーちゃん!」

「ぁ…………」

「……クリステラさんが?」

「……これ、絶対オフレコでお願いします。フィアッセさんも詳細は説明できませんけど、HGS患者……翼持ちなんです。
ただ僕と同じでかなり尖った内容な上、使用には生命力現象や身体的ダメージを伴うので……実際それでこの前年にはトラブルで喉を痛めて、年単位の休業に入っていました」

「なるほど……なら、君と親しくなったのももしかしてその辺りから」

「僕、この辺りから翼のこととかも隠さなくなったし……知り合ったのもチャリティーツアーの護衛絡みでしたからね。まぁ自然と」


そう言いながらも恭文くんは、右拳で私のおでこに軽くげんこつ。

傷やアザが残るほどじゃないけど、それをバラすのは冷静じゃないって……うぅ、ごめんなさい。


「でもそれなら……余計に非常識だけど、蒼凪君の能力もそこまで尖っていたなんて……」

「……え、ちょっと出してもらっても」

「もち……いや、そうだね! だったらやってみようよ!」

「あ、はい……」


恭文くんは左手から、アームを一本ずつ展開……それを雨宮さん達の前に出す。二人とも意を決して触れて……ぐいっと引っ張ると……蔦はたやすく千切れて、蒼い力の粒子となって消え去る。


「……ほんとだ! なんか、悪い意味でやわいうどんみたい!」

「なんの手応えもなかったんだけど! え、力入れてないとか!?」

「デフォルトです。
だからアームを出すとき、その構造からイメージして強度を出すとか……そういう工夫をしないと拘束すらできない」

「じゃあ、蒼凪くんが人型にしたのは……」

「ジョジョのストーン・フリーを見て、これなら応用できるかもと思って……ここから編み物を始めたんです」

「え、編み物できるの!?」

「精神統一……いわゆるゾーンに入りやすくもなるからって」

「あたしにもマフラーとか手袋、くれたことあるんだよねー。今でも大事にしています」


うん、そうなの。実際に糸を編む行程が必要だからって、練習し始めたんだ。

だから恭文くんのザラキエルをよく見ると、目が編み物のそれなんだよね。あれはビックリした。


「とはいえちゃんと形になったのは、リーゼさん達に見てもらってからです」

「それで攫われたときも使わなかった……ううん、使えなかったんだね」

「吸収速度もだけど、無差別範囲吸収も手が届く範囲内に敵を抑えていなきゃいけないから、そもそも多数相手には使えないんだ。
……そういうのも恭文くんがお医者さんと相談しつつ検証して、判明していたから……うん……」

「あたし達も言葉がなかったよ……!」


舞宙さんも思い出して涙ぐむ……。


「だって、ザラキエルって死の天使だよ? そんな名前がついているのに、まさか産廃とか……しかも概要だけなら物騒だし、それで怯えられるのも不憫過ぎて……!」

「しかも未来観測って切り札が付与されそうだったのに、使い勝手の悪い天眼だもの。もう、やっくんはやっぱり夏なんだと」

「才華さん!?」

「いや、サイちゃんの言う通りだよ。やっぱりね、悪党ムーブをちょっと控えて……反省しないと」

「先輩、その同情の視線はやめてください! そこもウェイバーやリーゼさん達に相談して、いろいろ拡張していったんです!」

「できたの!?」

「……フィンアームそのものは、僕の感覚……体の延長として使えますから」


そこで恭文くんが、フィンアームを左腕から展開。揺らめくいくつもの蔦が蒼い粒子を放つ。


「展開射程も五十メートル以上ありますし、それを生かして接触した相手に魔法をかけるとか、電子機器などにハッキングするとか……。
アームを物や人にくくりつけてワイヤーアクションとか……。
天眼と紐付けされているってところも利用して、創作魔術を発動……第三者にも分かりやすくイメージを伝えられるように、念写能力として発露するとか……」

「念写……って、それまんまハーミット・パープルだし!」

「それを見てできるかもと思ったら、なんとかなったんです。もちろん吸収についても、あえて見えないようにして絡め取り、ちょっとずつ……興奮状態の犯人とかからエネルギーを吸い取り、落ち着かせるーなんてこともできます」

「吸収という能力概要だけで押し通すのが無理なだけだったんだね。
……だったら、その翼は蒼凪君にふさわしいものだよ」

「……ありがとうございます」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文くんが嬉しそうに笑う。ぱぁって、明るく……その顔を見て、みんなちょっと意外そうに……でもすぐに意味を察し、表情を緩める。


「でもそこのところ、鳴海荘吉に話してもその有様って……」

「大下勇次の疑問も分かるが……それもやはり、鳴海荘吉が良くも悪くも“普通の人間”だからだろう」

「だとしても、さぁ……」

「……ふざけるなふざけるなふざけるな…………恭文くんがまるで……意識的にザラキエルを悪用しているみたいな言い方をして!」

「風花ちゃん……」

「恭文くん、お父さん達が目を背けても……ずっと自分の翼と向き合い続けたんです! 危険性も理解しなきゃ、制御もできないって!
お医者さんとも何十回と相談して……スタンドモードだってそうして編み出したのに! 他の使い方だって……本当に一つずつ、ちょっとずつ……誰かの助けになれるようにって!」

「……これもまた、風花が鳴海荘吉を嫌悪している大きな理由……その一つだよ」


怒りを……憎悪を吐き出す風花ちゃんに、みんななにも言えなくなっている中……それを諫めながら、フィリップくんがぽつりと呟く。


「我慢と努力という意味なら、その時点で蒼凪恭文は立派にやっていたと思うよ」

≪概要お化けな産廃というわけの分からない評価を受けながら、そこまで使いこなす努力を怠らなかったわけですしね……≫

「……ねぇ、それ……どうしてなの? そこまであれなら、もう使わない方向だって」

「使わないもなにも……メモリと違って切り離せないものですし。使いこなさなければそんな選択肢も得られません」

「そうなの!?」

「じゃなかったら、投薬やら制御装置なんて必要ないですよ……。
なによりそのカードには救える未来があるって……そう証明できるのは僕だけですから」

「……」


そこでころあずが唖然とする。なんの迷いもなくそう言い切ったから……。

しかもそれは、強がりでもなんでもない。恭文くんは本気でそう信じている。来てくれたカードには……必ず意味があるのだと信じているだけで。


「引いたカードには全力で応える。それがカードバトラーの仕事です」

「……そうだよね」


だから、そんな言葉を受けて、自然と頬が緩んでしまって。


「だから恭文くんは、ウィザードメモリも希望として使いこなす……そう思えたんだ」

「……でもそれ、苺花ちゃんには」

「話すタイミングは伺っていたんです。
ただ……産廃ってところを含めて、やっぱり重たいので……ちょっと躊躇いがあって……!」

「だよねぇ……!」

「現にあたし達、そっちの方が衝撃だったからなぁ。うん……段階を踏むのは、大事だって思うなぁ」


それでも……産廃で使い勝手はよくないと認めた上で、使いこなす。なかなかできることじゃない。

だけど、そうして積み重ねたものがあるから、恭文くんは戦うことができた。


その時間はなにも……何一つ無駄じゃなかったんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文くんは羽根を収めて、軽く息を吐く。この下り、話すのは結構勇気が必要だったみたい。……やっぱり概要お化けだしなぁ。

でも、よかった。みんな受け入れてくれて。……実はその、やっぱり……心配だったし。


「別に出していてもいいよ? あたし達は気にしないし」

「ありがとうございます。でも、店員さんをびっくりさせるのもあれですから」

「そっか……」


素の言葉で雨宮さんが、少しだけ苦しげな顔をする。

……それでも、そういう普通に配慮が必要……そんな今が、とても悲しく感じて。


「……でもまぁ、いろいろ納得したよ。
君が六歳当時から……えっと、“あぶない”?」

「「そうそう、あぶない」」

「あぶない奴だった理由。……自分なりに……救える未来っていうのを探していたわけか」

「そうだな。それこそが蒼凪恭文の持ち味……スタイルであり、強さの根幹と言えるだろう」


頬杖を突いた雨宮さんが……みなさんがきょとんとする恭文くんを見やる。

……まぁ、非常識が過ぎるけどね。


≪この人が守られるだけの子どもだなんて、とんだ勘違いですよ。
……そんな能力を制御しようと、試行錯誤していた一秒一秒が……その経験が、無駄であるはずがないんです。
そういう積み重ねが……人の命や安全を脅かしかねない力と向き合い続けてきたことが、武術や魔法、魔術……花開いた才覚を一気に一線級へと押し上げた≫

「それは間違いなくミュージアムにとって驚異だった。そもそも使える異能力も複数あるから、無力化そのものが難しいしね……」


フィリップさんも安堵した様子で、焼かれたタマネギをまたかぶり……。


「ん……ある男の言葉を借りるとするなら……“起爆剤”たり得る暗殺行為≪アサシネイト≫のスペシャリスト。その理由は鷹山敏樹が触れた通りだ」

「敵からすれば驚異というより悪夢だがな……。
そんな無力化もできない覚悟ガンギマリな奴に付きまとわれて、そいつに一度負けるだけで逆転劇を巻き起こされるんだ。
しかも戦闘力は一線級で、頭脳面から戦略で勝つことも簡単じゃない」

「そんなのに始終付け狙われるとか、気がおかしくなりそうだよねぇ……」

「……なら、蒼凪くんをよってたかって囲んで叩くとかは」


うん、雨宮さんの言うことも分かる。基本は一人だしね。だったらがつーんとやれば……とは思ったんだけど……。


「それに戦力を取られているのなら、手薄になるところもあるよね。そこんとこツツけばいいと思うよ?」

「え」

「相手がやっちゃん一人じゃないってときもあるしね。現にこのときはそうだった」

「あ、そっか」

「というか……蒼凪の場合、転送魔法や結界魔法でさくっと逃げられるだろ?」

「あ、やっくんは魔術でも逃げられますよ? 置換……自分と指定した空間や物を入れ替える魔術があるので……まぁ無理ゲーですよね。
しかも転送は引き寄せ能力でもありますから、逃げるときは一気に逃げないと捕まって泥仕合になる」

「……おかしいんだよなぁ。蒼凪がこのとき覚えたいって言ったスキルは、ほとんどが戦闘向けじゃないんだろ? 必殺攻撃とか使えるわけじゃないしさ。
なのにだ、蒼凪を潰そうと思った場合、そのスキルによる生存力が半端ないゆえに殺し切れない。もちろん変に手を出せば自分が返り討ちだぞ」

「……君はなにかの裏ボスなの? 対抗策が全く思いつかないんだけど」


さすがに田所さんもビビっていたところ……恭文くんは穏やかに笑う。


「仕方ないですよ。先輩は戦闘訓練の経験もない素人さんなんですから」

「冷静に返さないで!?」

「あと核爆弾には負けました。一度膝を屈しました」

「あ、うん…………」

「デバイスマイスターなのに、分からなかった……核爆弾、解体の仕方……分からなかった……!
ザラキエルでもどうにもならなかった! さすがに爆発エネルギーとか一気に吸収できないし!」

「やっちゃん、止まれ! それやるとまた吐くだろ! ほら、顔を上げて! 深呼吸して!」

「ユージ君の言う通り! ほら、お月様を見上げてごらん! あんなに輝いて……いないけど! ちょうど雲……雲が邪魔! どけ! お前どけ!」

「そうだぞお前! うちの……蒼凪課長が苦しんでいるんだよ! 助けてやれよ! 月の光くらい浴びせてやれよ!」


恭文くん、そこはいいんだよ。打ち震えないでいいんだよ。鷹山さんと大下さんも慌てているから。

あれで心が折れないというのもどうかしているし。というか、ガイアメモリより核爆弾が上っていうのも……人間が怖すぎるし。


「じゃあ……なにかあるの!? プロなら!」

「な、なろう系主人公がぶっ放すみたいな、弾道ミサイルレベルの長距離砲撃とか……キロ単位の範囲攻撃を食らうと……さすがに、無理です……。核爆弾も似たような、ものだった」

「気分悪くなるなら思い出すなぁ! というか、リアルにできる人がいるの!?」

「リーゼアリアさんと、八神家の家長であるはやてが……あとはやては」

「……その先生達が!?」


あぁ、うん……はやてちゃんなら確かに……ついあの人なつっこい笑顔と、恭文くんにスキンシップが激しい子を思いだして、苦い顔をする。

……胸を触らせるとかそういう約束もしているらしいし……また、機会を見つけて話さないと……!


「というかですね、このお話の中だと……リーゼさん達は一切本領を発揮していません。テラーの能力どうこうは関係なく」

「え」

「リーゼさん達の本領は、主であるグレアムさんとの連携戦なんです。
アリアさんが遠距離を、ロッテさんが近接を、グレアムさんが全体の指揮と二人のサポートに動くことで、チーム戦としては盤石。
三人揃えばヘイハチ先生と真正面から打ち合うくらいはできちゃいます」

「……おかしいなぁ。あの……君を裏ボスだと思っていたら、もっと凄いのが出てきたんだけど」

「管理局引退後も“生ける伝説”として名高い三人ですから。……なので本物の裏ボスはあっち」


恭文くん、イギリスの方を指さないで!? 言いたいことは分かるけど!


「……だーれが裏ボスだよ! アンタとは方向性が違うだけだよね!」

「そうそう」

「い!?」


そこで貸し切りなバーベキューフロア……その入り口に声が響く。

するとそこには、白いYシャツにミニスカという姿の……リーゼさん達だぁ!


「アリアさん、ロッテさん!」

「え、どうしてここに!」


(その7.6へ続く)





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