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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
その29.5 『断章2017/身を焦がし焼き切れても』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

その29.5 『断章2017/身を焦がし焼き切れても』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――大まかな話は終わった。

とりあえず分かったのは、蒼凪の対処が相当イレギュラー……まさしく魔法と言うべき領域ってことだな。

あそこまで求められることも早々ないし、あってもできるタイミングは限られる。それが分かっただけでも、俺達はまだ救われる。


……同時にメモリの厄介さも強く刻まれたわけだが……まぁそこは上手く対処していくとしよう。

とはいえ俺達の衝撃はまだ消えなかった。特に俺とユージはな。


「だがガイアメモリを作るって……おいおい……!」

「滅茶苦茶だよなぁ!」


実は当時の戦闘映像、いろいろな形で撮影していたんだよ。

せっかくだからとアルトアイゼンに再生してもらい、見てみたら……もうなぁ……!


(まさか鳴海荘吉をボコった下りでやったメモリ製造が、デフォルト能力として出てくるとは)


しかも記憶に共感した上で全てを直し、作り変える力まであるとか……究極形態もビルドファイターってどんだけ拘っているんだよ!


「ですがそれも必然です。
ウィザードメビウスは、蒼凪の三尾モード……妖怪としての能力を完全解放した姿でもあるので」

「なんだってぇ!」

「そういえば、マントが三つ叉で……尾みたいに動いているよな……!」

≪ザラキエルの要素もありますからね。だから腕としても使えるんですよ≫

「あ、だから帽子もなんか猫っぽいの!? 顔というか……目の辺りも!」


ユージと雨宮の言葉で、俺もハッとする。そうだ……それまでのウィザードとは、デザインラインが全く違うんだよ。色もそうだけどさぁ!


「更に言えば、フルバックとしての恭文君……その完成形でもあるんだ。
記憶をベースにした具現化能力は、物質のみならず身体の再生や復元にも使えるし」

「……天さん!」

「伊佐山さんの壊す能力を無効化していたやつ! いや、あっちはヴァリアントだけど……それに物質変換で体治すのも!」

「それもメビウスの能力を応用・フィードバックしつつ仕上げている感じだ」

「でも特別なことじゃない。全てやすっちと蒼姫ちゃんの中から引き出す普遍的な力だよ」


そこまで言って、リーゼロッテは深く……深い息をこぼす。


「それも鳴海荘吉や他の連中が言う“普通”に流されて、自分というカードを信じなかったら……何一つ手に入らなかった力だ」

「…………」

「絶望も、希望も、その全てを受け入れ使い尽くす……蒼凪君が描いた“魔法使い”そのものなんですね。メビウスは」

「だが六歳の身でそこへ到達するには、代償も大きかった」


変身解除した途端に、重傷で倒れたからなぁ。

風花を見やると、その通りと……『むやみやたらに使わせないで』と懇願するように、頷いてくれて。


「……普通の人間なら、変身解除した段階でショック死していた。お医者さんが顔面蒼白でそう言っていて」

「あんな無双していたのに……!? 苺花ちゃんの攻撃も、一発だって食らっていないよね!」

「だからダメージのほとんどは“自傷”だったんです……!」

≪この人が人間としても、妖怪としても不安定だったから、致命傷を避けられたんですよ。
もちろん蒼姫さんも多大な消耗を強いられ、しばらくは実体化も、こういう形での対話も不可能になった≫

「更に言えば、やすっちのリンカーコアと魔術回路も強制的な休眠状態になっていた。異能も二週間ほどは完全封印状態だ」

「ザラキエルも出せなくなっていたから、本当に……全部ありったけを削りに削って、命を賭けてやる変身なんだよね……!」

「…………」


そのあまりに大きいリスクには、伊藤も言葉を失いかける。

つまり、メビウスへの変身そのものが……たとえ蒼凪と蒼姫が無事だったとしても、しばらくは戦闘不能を強いられるリスクを持つわけか。

まさしく最大最強……究極の“禁呪”。なんでもメビウスならOKって疑問すら吹き飛ぶレベルだ。


まぁ、でもそうだよな。あんな滅茶苦茶な能力を持つ変身に、なんのリスクもないわけがない。むしろそれだけで済んでよかったと思ってしまうほどだ。


「とはいえ、それは六歳当時の話。
今はそこまでのダメージを受けることはありません。……滅茶苦茶疲れるので、戦闘不能にはなりますけど」

『特に三尾モードは、獅子路様指導で今も修得に向けて修行しているしね』

「うん……だったら私達も、あんまりこれ使えばーとか言っちゃ駄目なんだろうけどさぁ。
でも、そんなパワーアップがほいほい使えないの……不安じゃないのかな」

「なんでもかんでもメビウスでは解決できませんから」

「……それで君はやっぱり冷静なんだなぁ……!」

「一ミリもぶれていないよね」


そして田所と伊藤が唖然。蒼凪が拘った様子もなにもなくぶった切るからなぁ。


「でもこれ、やっぱいいかも」

「にゃあ……?」


かと思っていたら、雨宮がなにか、蒼凪をじっと見始めて……。


「あたしが一番好きなタイプの蒼だし……それに、あの本気のスターライトもやっぱ奇麗だし」

「にゃあぁああぁああぁああ……!」

「それにそら……そらだもんねー♪ そこは未完成バージョンと同じくなんだねー♪」

「にゃああああああ!」


あ、そういえば詠唱に入っていたな。……って、それを自分と思っているのかコイツ! 知り合ってもいないときに作ったはずだろ!


『からかっているなら、その辺りにしてほしいんだけどなぁ……! 本気にしちゃう子だし』

「本気だよ?」

『え……!』

「そこ引かないでよ! というか……うん、だからさっき、それならやってみようーって言ってくれて、ホッとしたんだ」


かと思うと……照れまくる蒼凪に苦笑し、そう優しく声をかけてきた。それで蒼凪も、顔を真っ赤にしたまま……そのほほえみを見上げて。


「あたしやみんなの歌を聴いて、素敵だなーって思って……それで、作りたいものがあったんだなって」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


作りたいもの……そんなの、決まっていた。


「……そうです。決まっていました。というかめーさま、もしかしてこう、最初から……」

「ん、なんとなく気づいていたよ? ステージを見ているときの様子とかで」


そこだけは……そこだけは、ぼんやりと決まっていて……。


「でも、ステージならこれまでもいっぱい見てきたし、急に変わるきっかけはなんだろうなーって」

「……舞宙さん達に、爆弾解体のとき助けてもらってから、改めて感じたんです。歌の力って……やっぱり、凄いんだなぁって」

「あ、それか」

「「「え」」」

「それで、伊佐山さん相手に刃を打ち上げるときも……アリーナに詰まったたくさんの想いを感じて、助けてもらって」

「ん……」

「やっぱり、難しいのかなって……自然と引いちゃっていたけど、でも……」


そこでちらっと、麻倉さんを見ちゃう。するとすぐ気づいて、笑いかけてくれて。


「ん……」


……怖いことも力にって、分かっていたはずなのに……うん、そうだよね。

できることだけに閉じこもってちゃ駄目だ。得意不得意なんてすっ飛ばして、やりたいことに飛び込む勇気だって……必要だ。


「やっぱり僕は『ビルダー』だから。作りたいものから逃げたくないなって」

「そうだよね。それが君の戦いで、魔法なんだから」

「……はい」


つい、自然とそう言っていた。というか否定できるはずがない……。


「でも、オーディションやビジュアルを生かせないのは惜しい……!」

「そここだわりますか!」

「拘るよ! そっちはやっぱ……無理?」

「いろいろキャリアを投げ捨てるので……」

「蒼凪君の場合、現時点でも特練員……伊藤さんも触れた特別枠での採用が決定しているしね。まずその点で生活の糧を捨てることになる」

「現時点でも……って、そりゃあそうかぁ! 生身で怪人ボコれるなら、あたしだって教わりたいし!」

「もちろんメモリ絡みの身辺保護や、発達障害絡みへの配慮も必要です。
そういう仕事に限らず、一般社会の職に就く場合は……現状では問題も多いかと」


そうそう。赤坂さんの言う通り。僕、やっぱりいろんな人に助けられてなんとかーって感じだしね。それを放り投げるのは……。


「あと……その、なんと言いましょうか……」

「……やっちゃんって寄らば斬るな武術家マインドな上、運勢最悪でトラブルにもちょいちょい巻き込まれるわけでしょ?
それでそういう荒事なしの声優さんって……本当にできるのかなぁ……!」

「しかも蒼凪君がメモリや数々の異能をここまで制御できているのは、その時代錯誤な精神面が大きいです。
それを、仕事が変わるからと放り投げれば……投げさせて当然とする環境に身を投じて、一体どうなるか」

「……もちぃ……!」

「泣きつかないの。というか分かっていたはずだよ?」


あれ、めーさまが嘆いているんだけど。というか赤坂さんや大下さんも震えているんだけど。どうしたんだろう。


「というか……あたしがやりたいー! ゲームとかしたいー!」

「こらー?」

「めーさまの欲望ですか!」

「あの、ごめんね? うちの事務所、その辺りがいろいろ厳しくて……」


麻倉さんが謝る必要はー! というか何が……そこも相談に乗らなきゃ駄目かなぁ! ガードの範疇に入るようならさ!

でも、それなら僕でも……探せる、よね。ううん、探したい。


だって、作りたい……作ってみたいって、やっぱり気持ちが燃え上がっているもの……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なにやら最終決戦とは関係ないところで、滅茶苦茶盛り上がっちゃったけど……まぁいいか! ようやく話進められそうだし!


「でも、なんでそこまで……」

「……君のことが気になるから……じゃ、ダメ?」

「にゃあ!?」

「ただビルダーさんな君が作ったものが好きなのか……あたしにもシェアさせろーって意味の好きなのか……今はよく分からなくて」

「で、でもあの、きっかけらしいものはなにも!」


……そこでなにもって言っちゃうんだぁ。伊佐山さんのこと……あたしのこと助けてくれたのに。

ううん、違うよね。そういうので恩に着せて当然ってしたくないんだ。それは大きいことかもだけど、そういう……あたしの人生を決めちゃうような重さじゃないって。


そう思ってくれる気持ちはありがたく受け止めつつ、だったらなにがあるのかと……混乱している蒼凪くんにアドバイス。


「何度も言ったでしょ? 魔法を見たから」

「え……」

「蒼凪くんも、あたしの歌を聴いてくれて……みんなの歌も好きになってくれたよね。
だからね、あたしも今までとは違うこと……もっと頑張ってみたいなーとか、そういう気持ちいっぱい燃えちゃっているの」

「……」

「それが、伊佐山さんの痛みに気づかなかったあたしの……償いにもなるかもだしさ。
……だから……うん、きっかけはちゃんとあるんだよ? そこは自信を持ってほしいなぁ」

「………………にゃあぁあああぁあああぁあ……!」


あ、顔真っ赤にして……というか猫耳と尻尾まで真っ赤になっちゃった。これはやっぱ可愛いなー♪


「……恭文君を食べていいのは、あたしだけだから。横取り禁止」

「にゃあ!?」

「さすがにそれはねぇし!」


まいさん、よこからぎゅうっとしなくていいの! さすがに……いや、本当だよ!? だから警戒……する以前の問題だからぁ!

……蒼凪くん、メリッサさんのこととか、自分の障害絡みで……そういうこと、すっごく慎重で、意思疎通が取れないと駄目―ってタイプだし。


「……舞宙さん、お説教がまだ足りないんですか?」

「というか、メイドのアタシ達やフィアッセさん、レティ提督をすっ飛ばすとはいい度胸だねぇ……」

「私達がしっかり説教しないとね。ご主人様は全部受け入れちゃうし」

「ちょ、風花ちゃん待って! リーゼさん達も……これは立派なガードでー!」

「雨宮さん、舞宙さんは私達でシメておきますので……どうぞお好きなように。シェアならOKですので」

「あ、うん」

「歌織ちゃんー!」


ほらー! 風花ちゃん達がお怒りになったし! まいさんは本当もうなぁ!


「あの、なんか……うん、君が中途半端っていうなら、あたしもやっぱ同じなんだ。
だから、やっぱり違うってなるかもしれないし…………」

「そ、それは僕も同じなので。あの、えっと……うぅ……!」

「……ねぇ蒼凪くん、本当に爪食い妖怪でいいの? 考え直した方がいいんじゃ」

「もちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「あ、お姉さんと雨宮さんは完全に別人ですから、大丈夫です」

「そこさくっと答えないでよ! それ絶対同一視したくないってことだよね! 察したよ!」


と、とにかく……そこもうん、ちゃんと考えて伝えないとだね。

……いずれにせよあたし、あの蒼を刻まれちゃっているし。うん、そこは変わらない。


(あ……今のうちにフィアッセさんに、メッセしておこうと)


その辺り報告しないと、心配させちゃうだろうし。というか、心配し続けているだろうしね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……うたうたいとして、蒼凪の表現……戦いに感じ入るものがあったわけか。

いや、これも今更なんだが。


(だからああいう話を……全く気づかなかった)


それで蒼凪も……というか、蒼凪もそういうビルダーなら、ジャンルは違えど雨宮の歌に……おい、そういうことなのか?

本当に恋愛感情なんて一切なくて、純粋に歌が好きで……というか好きすぎて逆に混乱して。

更に爆弾解体で舞宙達に助けられた経験も相まって、心境が変化した直後だったから余計に……。


雨宮もそこんところは気づいているから、一歩後押ししようと。


「……」


するとそこで、麻倉が笑ってしーのポーズ。俺やユージに向けていたので、すぐ気づいた。

……そこは当人にいろいろ考えさせろと? なかなかにスパルタだ。


「でも……覚悟しておいてくださいね! 僕だって、本当に責任取ってもらわなきゃ気が済まないんですから!」

「それはこっちの台詞。
というか、なに……あたしに責任を取らせるって、どうしたいのかなー?」

「まずは罰ゲームの処理からですね。
いたずらと赤ちゃんキャラ、更にお酒を未来永劫……は可哀想だから、一年禁止とかです」

「蒼凪くん、これからまいさんともどもよろしくね! あたし、シェアする以上は絶対君を幸せにするから!」

「………………って、なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「コイツ即答しやがったぞ! それならハーレムする方がいいと!」

『えぇ……うそでしょ……』


……だが大丈夫かなぁ! コイツら、いちごと違うベクトルで油揚げっぽいんだが! その前に蒼凪がヤバい!

いや、この場合は雨宮か!? それらの一年禁止がそんなに嫌なのか! だからそっちに突っ走ったのか!

ショウタロスも顎外れるくらい驚いているし……というか俺達も驚いているし!? 蒼姫も恐怖でガタガタ震えているよ!


「というか駄目です! それは駄目!」

「どうしてかな! まぁ、自分と付き合うのを罰ゲームにされるの嫌っていうなら分かるけど!」

「雨宮ちゃん、分かるならどうして提案しちゃったのさ……!」

「だ、だから、それは……」

「うん?」

「……それでも、きっかけならいいかなって……一瞬、思っちゃったから……!」


蒼凪ぃぃぃぃぃぃ! お前そこでちょっと流されかけたのか! そういえばちょっと考えていたな! やっぱ本気なのか!


「……そっかぁ。それなら作戦失敗……いや、半分成功なのかなー♪」

「にゃあ!?」

「うん、でもそこは、蒼凪くんの気持ちも大事にしなきゃだよね。納得する。
……だったらそれ以外! それ以外でほら……先輩と仲良くなれるよう協力するとか!」

「私を巻き込むなぁ! それはあなた達だけのお話! 私、関係ない!」

「でも先輩も負けましたよね? だったら敗者必滅だし……あ、問題ないや」

「私、あのお試し的なので滅されるの!? 怖いんだけど!」


蒼凪、お前正気か! お前とのじゃんけんで負けた奴全員に罰ゲームを課すつもりか! 本当に怖いよ! 高利貸しだってまだ人の心があるよ!


「とにかく他の! なにかないの!?」

「じゃ……じゃああれですよ。913(カイザ)ジャケットの再整備と点検に付き合ってもらうってことで」

「カイザ……?」

「前に僕とヒロさん、サリさんで作った変身アイテムです。
仮面ライダーカイザっていうのを模した物理装甲込みのジャケットなんですけど」

「君達ほんとなにしているの!?」

『もっと言ってやってよ……。趣味でファイズとかゼロノス、電王のジャケットも作っているんだよ』

「え、なにそれ! 私使いたい!」


伊藤が食いついたぞ! というかそういうのって魔法社会的にOKなのか! 俺よく分からないけど……あ、でも意外と普通。


「やすっち、そこであれ持ち出すかぁ……!」

「質量兵器ギリギリなんだけどなぁ」


ギリギリのラインを攻めているんだな! 察したよ! リーゼ達が苦笑気味だしさぁ!


「でも、カイザって……」

「あ、これです」

「カイザって……え……!」


あれ、伊藤がなんかぎょっとしているぞ。どうしたんだ。

蒼凪がスマホで見せた……仮面ライダーか? なんかロボコップみたいな鎧を着けているが。とにかくそのXが入りまくった奴は普通にかっこいいぞ。


「へぇ……なんか鎧みたいでかっこいい」

「かっこいいんですよー。しかも平成ライダー史上最強と言える超人気キャラです」

「人気なの!?」

「変身者の草加雅人が、滅茶苦茶人気なんですよ。
なにせ灰のように燃え尽きるまで、劇中怪人のオルフェノク殲滅のため……母になってくれるかもしれない人を守るため、戦い抜いた信念の男ですから」

「なにそれかっこいい!」

「主人公のファイズともたびたび衝突し、相容れない一線はありますけど、いざ戦闘となれば極めて息の合ったところも見せるんです。これがかっこいいんですよ」

「いいないいなー! 滅茶苦茶ヒーローじゃん!」

「いや、嘘は言っていないんだけどなぁ……!」


おい、伊藤が気になることを言い出したぞ。嘘は言っていない? つまり……なんか正確じゃないところがあるってことか! そうなのか!


「このジャケットはファイズを模した555ジャケットと一緒に作ったんですけど、それから初期稼働テスト以外は放置状態なんです。
……鷹山さん達用に持っていこうかとも思っていたので、手伝ってください」

「でもあたし、メカとか全然だけど」

「変身して、動きやそのデータを取らせてもらうだけでいいです。すぐ終わります」

「……いいの!? あたしがこう、変身って……やっていいの!? 魔法使えるかどうか分からないのに!」

「そこは魔力バッテリーで動く仕組みなんです。好きなだけしてください」

「おっしゃー!」

「で、終わったら本局住宅エリアで何か食べましょう。ラーメンや焼肉、カレー……いろいろありますよー」

「なら焼肉!」


いや、あの……お前ら、盛り上がっているところ悪いんだけどさ。伊藤を見た方がいいよ?


「……でもやっぱ、蒼凪くんって優しいなー♪
あたしに罰ゲームとか言いながら、そんなご褒美みたいなことで済ませてくれるとかー♪」

「僕も助かっているんです。
僕達だと『非魔法能力者の運用データ』……それも一般人に近いものは取れないし!」

「あ、そっか。みんな鍛えて強いから……だったらあたしも、気合い入れてやんないとなぁ!」

「………………」

「あの、えっと……えぇ……」


伊藤の奴、顔を更に蒼くして……蒼凪を凄いガン見しているんだよ……! 風花も同じだよ!

『コイツマジか』って様子なんだよ! 可愛い顔が凄い歪んで、見ていられないくらいにさぁ!


「あの、伊藤……どうした? お前も使いたい……って様子じゃないよな」

「あ、はい。というかあの、カイザって……呪われたベルト」

「なんだって!?」

「ちょ、呪われたってなに! というかみっくるー!」

「……仮面ライダー555の劇中だとね? ライダーのベルトは……怪人のオルフェノク達がある目的で作ったものなの。
だからオルフェノク以外は基本使えないんだ。その中でカイザのベルトは……人間でも使えるんだけど……“使えるだけ“で変身解除したら、死ぬ」

「はぁ!?」

「ただそれとは関係なく、劇中でカイザに変身した人は大体死んでいて……ファンの間で着いたあだ名は、呪われたベルト……!」


あぁなるほど。そりゃあ呪われているとしか言えない……って、納得できるか馬鹿!


「……そんなのを雨宮や俺達に使わせようとしていたのか……!」

「鬼畜の所行ってレベルじゃないだろ!」

「そうじゃん! 蒼凪くん、それは……駄目だよ! 蒼凪くんが好きな子に意地悪して気を引くタイプなのは分かるよ!? でも度を超えているから!」

「うん……よくないね。それならさ? 罰ゲームでも天さんともっと仲良くなりたいーって言うべきだよ」

「山崎さんも……みんなも待ってください! 伊藤さんが言ったことは、あくまでも劇中設定です!
僕達が作ったのは魔法の既存技術で、安全性もきっちり取ったものですから! 変身しても死にません!
というか、初期テストで僕達全員使っていますから! それでぴんぴんしていますから!」

「あ、そうなの? だったらまだ」

≪……よく言いますよ。作ったはいいもののあまりに縁起が悪すぎて誰も彼もテストしたがらず、初手を押しつけまくったくせに≫

「し!」

「「「「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」


コイツなんなんだよ! やっぱり自分もヤバいって思っていたのに押しつけるとか! いや、そんなのだから押しつけやすかったのか! そういうことか!


「というか恭文くん……それで変身解除後にエラーって音声が出るように仕込んでいるんだよね! ときどき! ランダムで!」

「ふーちゃんもし!」

「無理だよ! それでちょっとした運試しだーとか言って……みんな本気で嫌がって変身したくないーって喚いていたもの! 見ていたもの、私!」

「蒼凪くん!」

「いや、でも天さん……これで身長が伸びた世界とかもチャラにできるんだよ? だったら安いものじゃないかなぁ」

「もちぃ!」

「蒼凪くん、ほんと優しいと思うよ? 無茶ぶりしたかなーって切り替えてくれたんだもの」


あぁそうか。それならまっだ……いやいや! 納得できないよ! それで巻き添えがでているんだよ!


「麻倉も納得させようとしないでくれよ!
その後に俺達が控えているんだよ! やめてくれよ! 見殺しはやめてくれよ!」

「嫌だよな! そんな縁起悪すぎるベルトを使うのなんて! というか……やっちゃんはそれを装備した上での現状だぞ!? なにかあるだろ、それ!」

「でも、鷹山さん達って爆弾を踏んづけても、ミサイルが直撃しても、全く死ななかったんですよね?
その蒼凪くんだって足下で核爆弾が爆破してもこの調子だし……だったら大丈夫じゃ」

「……そもそも恭文くんがそんなことになったのは、大下さんとショウタロス君のせいだしね」

「がふ!」

「いちごちゃんもやめてくれてよぉ! そこは俺達みんな等しくって言っていたじゃないかよ! そのはしご落としは残酷すぎるだろ!」


それで麻倉といちごも辛辣だなぁ! 俺達なら問題ないってぶった切りやがったよ! 雨宮も巻き添えなのに!


「それやだやだやだぁ! それ以外! それ以外ならなんでもするからぁ!」

「なら……これはあまりに残酷だし、僕も心が痛いからやりたくなかったんですけど……」

「ヤバい前振りをしないで!? なに、まだ呪われたベルトがあるの!?」

「さっき言った本局住宅エリアの焼き肉屋さんでちょうど、カップル限定のコースがあるんです」

「カップル限定?」

「リーズナブルに、次元世界のブランド牛とか……あと砂鯨とか、ドラゴンのお肉も食べられるんです。稀少なものなんですけど」

「あ……そこにあたしとってこと? いや、だったらいいよ! それなら幾らでも」

「行くのは麻倉さんとです」


……かと思っていたら、蒼凪が更にわけ分からないことを言い出した。


「え」

「麻倉さんと僕がカップルなんですーって偽り、食べに行きます」

「え……」

「その様子を、カップルでもなんでもない一人客として来店した雨宮さんが、覗き見るんです。
……あ、当然全部の代金は、僕が支払うので」

「「「………………いやぁあぁぁあぁあぁああぁあぁあぁあぁ!」」」

「最悪だよ蒼凪……!」

「だな……! 散々麻倉ちゃんに偏愛かました様を見ながら、その罰ゲームとか!」


これは雨宮とそのとき……稀少な肉目的でカップルを偽るよりずっと残酷だよ!

現に山崎も百合だなんだと言っていたから被害受けているし!


「うん……私もドラゴンのお肉は興味あるから、大丈夫だけどさ? でもお金までなんて」

「罰ゲームのためですから。そこは惜しみません」

「あ、うん……」

「えぇ……この子、ほんとヤバ……!」


田所も……俺達も凍り付く程度には、蒼凪はやっぱり覚悟ガンギマリだった。

しかもコイツの場合、自分が負けていたらそりゃあ……受けるだろうなぁ! だって覚悟ガンギマリだもの!


(その29.6へ続く)





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