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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2008年・風都その15 『Vの蒼穹/不安定な神様』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2008年・風都その15 『Vの蒼穹/不安定な神様』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪君はキレていた。というか時空管理局や他組織もキレていた。いや、我々もその一つなんだけどね?

その中で特に蒼凪君はヤバかった……我々に利用される覚悟はともかく、いくら何でも兵糧攻めを許容していたのが……!


「――そして、あれから三か月のときが経った。
苺花ちゃんはその後おじいさんともども餓死し、ミュージアムは崩壊」

「……蒼凪君、残念ながらまんじりとも時は進んでいないよ……」

「会長の言う通りです。もうすぐ日付は変わりますが……」

「まぁまぁ会長……沙羅さんも。大した違いはありませんから」

「「落ち着いて!」」

「……というか、待ってくれ」


おぉ、高町兄君が心から疑問そうに……こめかみをぐりぐりして、悩ましそうだよ。


「……蒼凪君……美澄さんが向こうにいる以上、人質も同然なんじゃ」

「そ、そうだよ! それで向こうが、結界を解けーって迫ってきたらどうするの!?」

「殺せばいいじゃないですか。僕ともども」

「「え」」

「それはとても悲しいことでしょう。でも……それで結界を解く理由ができますか?
厄介なテラーを、戦うことなく、そのまま潰す“最も効率的な陣形”が組めたのに。それで責任を問われるのは地球に存在しない変な組織なのに」

「えぇ……!?」

「…………いづみさん…………」

「それはもうミュージアムに言って! よりにもよって……こんなヤバい子を巻き込んでキレさせるとかさぁ!」


その上で高町兄妹を絶望させているよ。というか御剣君も……相当苦労したんだね! すまなかったね!


「というか、そこで危惧するべきはそっちじゃありません」

「というと……」

「ガイアインパクトです。苺花ちゃんがここまで重用されているのは、ウィザードの能力がその準備期間を大きく短縮する可能性があるからです。
……つまり、向こうは籠城戦を強いられたことで、そっちの計画を強行発動させかねない」

「いずれにせよ長く時間は稼げないってことかな? そうなっても私達や君の負け」

「だから早々に夜討ち朝駆けと思っていたんですけどねぇ。
……ギャラクシーさん、そのソードブレイヴでしたよね? それと持ち主の力を借りられれば……本当に」

「少なくとも今のまま裸一貫よりは確実だよ。幸い君にはトワイライト・ファンタジアに適合する条件もある」

「というと」

「トワイライト・ファンタジアは夢を名に関する剣……つまり、しゅごキャラを生み出せるほどの強い純真さを持っていることさ」


そこでひょっこりと出てくるのは、あの子のしゅごキャラ……というかたまご達。揃ってふわふわと浮かび、愛らしいものだ。


「人は夢を見る……ゆえに神の進化とされた。白夜王ヤイバも、ツルギ・タテワキも……それぞれの信念と夢のために戦い、未来を手にしたんだ」

≪だから夢……『なりたい自分』が形になるほどの力があることで条件は成立する。
たとえソードアイズでなかったとしても、ですか≫

「それもまた、神が定めた古い軛……ソードアイズ達が既に砕いたものだからね」

≪でもそんな刃が埋まったこの土地に、夢をはぐくむ学び舎を建てるとか……ご都合主義すぎませんかー?≫

「…………」


否定はできないようで、ギャラクシーは肩を竦める……が、あの杖はこう、見ているとざわざわするんだが……大丈夫なのか?


「だが力を借りるためには条件がある。
私がソードブレイヴを触媒とし、永遠の眠りについて久しいソードアイズの魂を呼び起こす。一時的に実体化した彼女とバトルし、勝利するんだ」

「そういうことは可能なんですか」

「前例もある。君が来るまでに準備も済ませた。問題ない……というより、今現在世界各国で同様のバトルが行われている」

「……え?」


蒼凪君が私達を見るが、全く聴いていないので慌てて首を振る。


「彼らは地球の記憶にアクセスし、世界を……人を作り変えようとしているのだろう? だがソードブレイヴはその記憶が“改めて”刻まれる以前から存在している楔だ。
……その楔そのものが、彼らによる変革を否定するのであれば……」

「……向こうが強引にガイアインパクトを起こすことそのものができなくなる!」

「ただ、それはやはり緊急手段……外法の類いだ。本来であれば君達今の人間が解決するべきことではあるが……それで人間が神に“退化”しても困るしね」

「あれ、ということは……僕のことがなかったとしても」

「バトルそのものは断行されていた。こっちの担当は私なので……君に押しつけようという話だよ」

「それいいんですか!」

「君の人柄を見た上という条件付きでね」


なんとまぁ、壮大な計画になってきたものだ……! 地球そのものとなっていた刃……その最後の主と言える英雄達とバトルし、その根底から覆そうとは。


「……だったら私達時空管理局サイドの“お節介”も、もうちょっとみなさんの助けになれそうですね」

「じゃのう。少なくともそのバトル、三か月はかからんじゃろ?」

「さすがに地球全土へ優秀なカードバトラーを送るという辺りで、時間はかかるけどね。だが、それでも今頃は――」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


同時刻――中央アジア南西部・共和国トルクメニスタン


恭文が改めてその魂の器を定められているその頃……この国のタルヴァサという村の近辺に、ある男がやってきていた。そう……その男の名は

「ごちゃごちゃうるせぇぞ、ナレーター……儀式の邪魔だ」

あ、すみません!


燃え盛る直径百メートルの穴を見つめながら、術式詠唱――。


(何の偶然か、まさかここが『地獄の門』と呼ばれているとはなぁ)


オレ達が“あのとき”投げ込んだ刃……それらが世界再構築の楔と鳴り、眠る場所。そこをオレ達はソードスポットと呼んでいた。

光の紫についてはまぁ、オレ自身なわけだし……そこんところは一つ解決しているんだが、それゆえに一番面倒なところに回されちまった。


……この穴はな、一九七一年からずっと燃えたまんまなんだよ。

地質学者がボーリング調査中、天然ガスに満ちた洞窟を見つけた……そこまではよかったんだが、落盤事故でさっき言ったサイズの大穴ができてよ。当然ガスは漏れだす。

有毒なもので、その放出を防ぐため……火を放った。


だがガスは地下から延々と吹き出て、四十年近く経った今なおこの状態だ。


「――――」


命の鼓動を示すような炎、その熱に当てられながら詠唱を終え、目の前に現れた男を見やる。

そいつはしっかりと実体化して、俺にまた会えた喜びを伝える……生きてた頃と何一つ変わらない、柔らかい笑みでだ。


そいつはリローヴ・ラルケス……闇の紫なるソードアイズであり、オレの兄貴。旧世界でも腕が立つ錬金術師だった。


「スオウ……随分と久しぶりですね。また会えたこと、とても嬉しく思います」

「こっちはそのために苦労させられたがなぁ……。
まぁ探しやすかったのは確かだが」

「なんの因果か地獄の門……しかし命の根源を映すような、恐怖に近い魅力もあります」


……兄貴と感想が被ってやがる。ちょっと腹が立ってそっぽを向くと、くすくす笑い出しやがった。てーかバレバレかよ。


「さて、スオウ……あなたがわざわざ感動の再会目当てに来たとは思えません。何が起こっているのですか」

「……この星を、オレ達が神を倒す前に戻そうとしている奴らがいやがる」

「ほう……」


こっからはかいつまんでかくかくしかじか……兄貴はこれでも優秀で頭も切れる。少々おかしいところはあるが、それでも冷静に話を聞き、不快そうに口元を抑えた……。


「まぁ、私が言えた義理ではありませんが……白夜王辺りはお怒りになるでしょうね」

「眉間に皺を寄せてなぁ」

「それもおもしろそうですが、ひとまず置いておきましょう。
とにかくソードブレイヴの力を一時的に活性化させ、そのガイアインパクトを阻止しようと」

「できるよな、兄貴」

「“裏技”の範疇で済ませるのであれば」

「そのつもりだ。……つーかすまねぇ」


ついらしくもなく……頭をかいて、兄貴に……旅立っていた奴らに謝っていた。


「もうオレ達がいた時代じゃねぇ。それでも……それでもって、バトスピをもう一度蘇らせてはみたが……遅かったみたいだ」

「……人は無知ゆえに、武力に縋る道を選んだのですね。それも分かりやすい武器や暴力ではなく……常識と正義という、無知を矛盾なく覆い隠せる“武力“」

「この星が記憶も有する生き物だって言うなら、そこんとこも見定めているのかもしれねぇ。正直こんな真似をしてどこまで持つかも」

「構いませんよ、スオウ」


だがそんなオレを見て、兄貴は笑う。なにも問題はない……それでいいのだと、励ますように……つーか頭まで撫でてきて……!


「あなたは懸命に抗い、生きている。それだけで私も……皆も安心して眠っていられるのですから」

「…………分かってるよ! つーか頭を撫でるな! もう兄貴より年上だからな!」

「おっと、これは失礼……つい」


兄貴は突っぱねるオレを見て、また笑って……静かにデッキを取り出す。


「スオウ、あなたの頼みであれば、力を貸すことはやぶさかではありません。……ですが」

「……分かっているさ。改めてオレの魂をアンタにぶつける」

「えぇ」

「絶対に勝つぜ……!」


そう、久々だが思い出した。勝率は五割に留まっているからよぉ! ここで六割に王手をかけてやる!


「では私も……”あなたが勝つことは私の夢”です。その夢を改めて叶えさせてもらいましょう」


そう言いながら兄貴もどう猛に笑う。……それは俺がただ勝つって話じゃない。

俺が全力を出し、兄貴も全力を出す。そんな兄貴を俺が超える……強くなるって意味だ。


だからこそ兄貴は――本当に、心から嬉しそうに。


「望むところだ!」


だからオレも嬉しくて……次の瞬間から、世界もなにも関係なく、ただの兄弟げんかが始まる。

結局オレの本質はそこまで変わらないらしい。この世界と向き合い続けても、仙人はなれなくて……でも、それがオレだった。


……だからきっと、まだ見ぬちびっ子も……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……戦って、戦って……それで笑って、あたしなりの正義を貫いて走りきった人生。もう何も食いはないって感じ?

なお、あたしの正義はただ一つ……美味しいは正義! はい、復唱!


「ウホウホ……ウホー!」

「うんうん……って、そんな場合じゃなくてー!」


すっかりおばあちゃんになって……それで大往生って言えるくらいに生きて、眠りに就いたあたし。

そうしたらまぁ、ツルギ達と戦っていたときの年くらいで、いきなり目が覚めて……そうしたらあの方がいて−! あたしに道を示してくれた、天空三賢者の一人……あの方が!


「とにかく話は分かった! バトルして、あたしに勝てば力を貸す! 駄目なら……でも加減はしない!」

「ウホ!」


あの方は赤いアフロを変わらずに揺らし、問題なしと頷いてくれる。それならばとライフカウンターを取り出し……って、一つ確認。


「ちなみに、他のみんなは」

「ウホウホウホ……ウホー」

「え、これから!? ジャスティスとギャラクシー……スオウの四人で手分けして世界一周!? 時間かかりすぎるでしょ!」

「ウホー!」


ちょ、頭を抱えないで! 泣かないで! 大変なのは分かるけど! 準備が大変だったのは分かるけどー!

……というか、そうだ! その前によ!


「ねぇ、その子……発達障害、だっけ? 大丈夫なのよね」

「ウホ……」


あぁ……あなたも会ったことはないから、そこはギャラクシー任せなんだ。それじゃあ聞いても仕方ない……でもなぁ……。


「……人間は、どうしても誰かと自分を比べなきゃ気が済まないのかな」

「ウホ……」

「それじゃあまるで……ううん、だったら、あたしは」


強いこと、弱いこと、賢いこと、愚かなこと、多才なこと、無能なこと……そして富めることと貧しいこと。人は自分と人を比べる。そして優れることと劣ることを定める。

基準はそれこそ千差万別。それはあたしや仲間達を見下し、奪っていく大人達の姿。そんなものに抗っていたのが生きていた頃のあたし。


……遠い地のあなた……まだ見ぬあなた……この星で今も息づき、戦う小さな命達。

その誰もそんなものに抗っているというのなら……それはきっと、無駄なんかじゃないよ。

あたしが保証してあげる。その声はきっと届く。届かない理由なんてなにもない。


あ……それなら……。


「ね、今回のことが無事に終わったら、また呼び出してほしいな」

「ウホ?」

「その子と直接話して、バトルしてみたいの。それで確かめたい」


そうだ、あたしももう亡くなって久しいおばあちゃんだけど……及ばずながら、声を届けたくなった。


「手にした“裁きの神剣”で世界をどう変えるのか……うん、確かめたくなった」

「ウホ!」


もちろん裁きの神剣なんてもうない。だけど、そこに夢を……願いを込めて、手にする刃はある。ガイアメモリっていうのもきっとそんなものの一つだよ。

それは本来あってはいけないものだったかもしれない。でも手にした以上、見えた可能性から逃げてもいけない。

あたし達だって同じだった。ソードアイズ、ソードブレイヴ……人は、自分の運命から逃げられない。逃げても前に進めない。


だから問いかけ続けなければいけないの。あなたは、世界を変える準備ができているのか……なんてね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


マリアナ海溝の奥深く――連盟がチャーターした潜水艦に乗り、とある男を訪ねる。

彼は闇の青きソードアイズ。傷だらけの身体は筋肉隆々で、纏う青い鎧も力強さで満ちあふれている。

国を愛し、王を信じ、戦う者達に敬意を忘れず、ただひたすらに愚直な生き方を選んだ男。


人によってはそれを、ただ強い者に使えた機械人形……そう例えるかもしれない。本人もそれは否定しないだろう。

たとえ信念に従った上だとしても、彼もまた蛮行に手を染めた一人。それは間違いないのだから。

しかしそれでも……その信念は鋼のように強固だった。その誹りを、傷つけた人達の声を否定せず、それでも王が信じる世界のために戦い抜いた。


――そんな彼は術式に従い、潜水艦のブリッジに姿を現す。静かに目覚め、そして私の姿を見て感嘆とする。


「おぉ……ジャスティス殿! なんと久しいことか!」

「久しぶりだな、ブラウ・バルム」


ブラウ・バルム――元アトランティア近衛仕官。彼は往年と変わらない様子で、しっかりと私に握手を求めてくる。

……私の名はジャスティス立花。元天空三賢者にして、不老のまま世界を見てきた男。


今はバトスピ普及のため、連盟に協力してMCをやっている身だ。なお、これがなかなかに楽しい。


「ただすまないね。悠長に語らっている暇もない」

「えぇ……大体の状況は……あぁ、伝わってきました。
スオウ達がバトルに入ったようで」

「……触媒となったソードブレイヴが活性化したためか」

「しかし、なんと嘆かわしいことか……! 魂の闘争を置き去りにした結果がこれとは!」


ブラウはヤイバ王の正義を、その先にあるものを信じ、支えると誓い……本当にやり通した男だ。

同時に敵対していた光のソードアイズ達とも和解した後は、ヤイバ王の弟であるツルギの臣下としても振る舞い、支えてきた。


それゆえに状況が許せず、怒りのままに掲げた拳を握り締めるのも……まぁ分かるのだが。


「だが、今それを押しつけても神やミュージアムと同じことだ」

「ジャスティス殿……」

「なにより……今この星に問いかけられているのは、我々ではない」

「……魔導師の記憶に選ばれたという子ども達ですか」

「常人と違う色を持つという意味では、以前の君達に近いものがある。
この世界は……この星は、そんな彼らの目を通し、何かを定めているように思えるのだよ」

「この星そのものが、神に成り果てているのでしょうか」

「または、ともに歩むパートナーかもしれない」

「ならば……ぶつかり合うことも仕方ないのでしょう」


そう言ってブラウは不器用に笑う。


「魂の本質は……闘争の本質は、何も変わらない」

「だからこそ、その時間稼ぎくらいはしなくてはいけない」


だから私もその笑みに応え、ライフカウンターを取り出す。


「ならばこのブラウ、全力で挑ませていただきます」

「うん、頼むよ。私もそんな君とバトルがしたい。
――では」

「「ゲートオープン――界放!」」


実は不安でもあった。彼が……彼らが現状を知り、そこで折れるのではないかと……だがそんなことはなかった。ブラウも嘆きはしたが立ち上がり、今の若者達を信じてくれた。


……人には悪性がある。夢を蝕み、未来を殺し、知ることから逃げ、他者を食いつぶす悪性が。

……人には善性がある。夢を育て、未来を守り、知ることに立ち向かい、他者を守る善性が。

その合間で人は戦い続ける。夢を叶え、未来を作るために。自分だけではなく、他者の夢も一緒に。


それが”夢と戦う”ということ――ツルギが、我々が目指した世界だ。

その戦い、未だ終わらず。時を超え、世代を超え、戦いは続く。

だが階は消えない。だから行くんだ、その先へ。


たとえ一歩ずつでも……それが、我々の夢なのだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……すごいすごいすごい! それで世界中を回ってバトルって!」


蒼凪君、目をキラキラとさせてまぁ……いや、いいんだがなぁ。確かに壮大で夢のある逆転劇だ。


≪壮大ですねぇー。でも……え、四人だけなんですか? それで世界中?≫

「……ソードアイズを呼び出せて、なおかつ彼らに勝てるカードバトラーは相当限られるからね……」

「だったら……アリアさん」

「父様達に連絡を取れば、手伝ってあげられるかも。現地への移動くらいはね」

「本当かい!?」

「パスポートなしの世界旅行なので、そそくさと退散するの前提ですけど」

「十分だよ! いや、本当にありがとう! もうとにかくみんなあっちこっちにばらけすぎていて、移動だけでも一日二日かかるような有様で……どうしようかと頭を抱えていたんだよぉ!」


うわぁ……泣きじゃくっているよ。大の大人なのに泣きじゃくっているよ。まぁ世界は広いし、それを飛行機とかでと……なればなぁ……。


「あ、ただ私は大丈夫なので、スオウ会長達の方を優先してもらえないだろうか。
……なにせ私の担当、京都と三重県伊賀市……そこからアマゾンの奥地に行くだけだしね」

「それはまぁ、いいですけど……え、日本に三本も?」

「世界の楔なのに局所的すぎるでしょ……!」

「……一人が忍者なんだよ」

「「他二人は!?」」

「他九人がほぼほぼ辺境だから、それで帳尻を取っているんだと思う……おかげでジャスティス達にも、随分嫌みを……くじ引きだったじゃないかぁ! 平等だったじゃないかぁ! というか元はといえば大陸変動が悪いじゃないかぁ!」

「「どういうことですか!?」」


ギャラクシー氏、苦労していたんだなぁ。頭を抱えて打ち震えているよ。偏った分を引き受けた悩みで混乱しているよ。


「まぁ、ギャラクシーさんもいろいろ大変だったんだよ……。
……それよりも、どうする?」


天河君も苦笑しながら、ギャラクシー氏を諫め……静香に蒼凪くんに視線を向け、問いかける。


「みんな、当然強いですよね」

「もちろんだよ」

「……!」

「しかも君の場合、ギャラクシーさん達のバトル目的と一緒に『ソードブレイヴの所有者として認められること』が付属する。
そちらについては再チャレンジのチャンスなんてない。負ければ美澄苺花さんとのリンク切断も難しくなるだろう」

「………………」


蒼凪君は右手で口元を押さえて示準するが……それもほんの三秒程度だった。


「やります。で、バトルする場所は」

「聖夜学園の地下だよ。そこまでは僕が責任を持って君とギャラクシーさんを案内する。
ただし……バトルするのは普通のテーブルじゃない。今なお現存しているエクストリーム・ゾーンだ」

「……そしてこれが、その鍵でもあるライフカウンターだ。君にプレゼントしよう」

「ありがとうございます。ならお礼は新ブースター購入ということで」

「うんうん、売り上げに貢献する気持ちだけで十分だよ。あ、でもお小遣いと相談の上でね?」

「もちろんです」


ギャラクシー氏から小さなくぼみが空いたカードを渡され、蒼凪君はそれを懐に仕舞う。


「……ただし覚悟しておくことだ。エクストリーム・ゾーンでは、現出したスピリットの攻撃を“直接”受けることになる」

「……ちょっと、あなた」

「命の危険はないよ。そのライフカウンターが彼を守るプロテクターとなる……が、そのとき削られるライフコアは彼の命そのもの。相応の痛みは受ける」

「アニメ的にパリンですか?」

「パリンだね」

「…………!」


蒼凪君、盛り上がっているなぁ。もう目を見れば分かるよ……。


(会長……)

(パリンを受け入れる覚悟満々ですね……)

(今のアニメって、そんな凄いことをしているのかね)

「恭文君、パリンについて私達に説明はできる……!?」

「あとでいいなら」

「蒼凪君、だから待ってくれ……そういうアイテムを使ってなんとかなるなら、誰かもっと別の大人に」

「なので今はやるしかないです! ギャラクシーさん、デッキはありますけど、色の指定とかはあるんですか! 同じ黄色じゃないと駄目とか!」

「話を聞いてくれないか……!?」


……高町君、それは無理だよ。君も分かるだろう? バトルがしたくて堪らないという様子で燃えているじゃないか。


「突然のことだし、そこまでうるさくは言わないさ。……でもいいんだね。
エクストリーム・ゾーンはスピリットだけでなく、人の魂もさらけ出される」

「僕が力を借りるに値しない偽物なら、バトルに負けた上で精神的にもフルボッコと……うん、そっちは問題ない!」

「また言い切るなぁ……」

「必要なことでしょ!? それになにより……そうして過去の英雄とバトルするんでしょ!? それで実際に僕が出すスピリットも実体化して!」

「もちろん」

「僕がデッキに入れているスピリット達とも会えて! その神のカードとか関係なく!」

「実証済みだから安心してくれ」

「そんな機会絶対逃せないし!」


すぐに快活な笑顔と輝く瞳でガッツポーズ。そうして赤いデッキケースを取り出し……。


「みんなと会える……みんなと一緒にそんな場所でバトルできる……しかもそれで困っている人達も助けられて、僕が本当の意味で魔法使いになれるかも試される……もうもうもうもう! 滅茶苦茶わくわくするしかないし!」


その余りに明るい答えには、我々も……ギャラクシーも苦笑する。

が……それは希望に満ちたものでもあった。そこで踏み込める彼ならば、もしかしたらと……。


「あ、でもソードアイズのデッキも楽しみかも!
黄色のブレイヴ……どんなのが出てくるんだろう! ちゃんと調整しないと!」

「うんうん、その気持ちは大事だ。では……その調整の足がかりとまではいかないだろうけど」


そこでギャラクシーが出してきたのは、蒼いバトスピケースだった。彼のイメージカラーと同じそれを見て、蒼凪君も楽しげに藁う。


「バトルしようぜ?」

「よ……よろしくお願いします!
よっし、やるぞー! カリスマとバトルだ! わーい!」

「いや、あの……」

「恭ちゃん、これは無理だよ……」

「それに多分、恭也くんが出張っても……ソードアイズの人は一切手加減しないよ」


そこで仁村知佳君が苦笑しながら、高町君を諫め……私や沙羅君に視線で問いかける。

揃ってテーブルに着席し、準備を始めた蒼凪君とギャラクシー氏はそれとしてだ。


「会長達もそこは確認していますよね? さすがに」

「“さすがに”ね。……魂がさらけ出されるという点から考えても、これは蒼凪君が受けるしかない試練だ」

「……それでも、あの子は六歳の子どもじゃないですか」

「高町君……」

「なぜ、肩代わりすることすらできないんですか」

「……残念だけど高町恭也、そこについてはもう検索している」


そこでぺたぺたと踏み出してきたのは、えっと……。


「ケンタ君」

「……その名前はやめてくれたまえ。というか、彼のネーミングセンスがヒドすぎて大迷惑なんだ」

「ではまたそちらは私達が相談に乗るが……察するにメモリ精製中だね」

「彼はネーミングセンスこそヒドいが、高町恭也が言いたいこともよく分かっている。だから予備策構築も兼ねて調べてみたんだが……結論から言う。彼が対話したメモリの意識は……」


そこでケンタ君(仮)が指差したのは、ロイヤルガーデンの丁寧な舗装路……ではなく。


「この星の記憶そのものだ」

「…………なんだと……!」

「……やはり……」


これは彼という子どもを戦わせないようにする……そんな次元で済む話ではなかった。

彼と美澄苺花は、地球という星に……その一部を担う『魔導師の記憶』から選ばれたのだ。


文字通りの巫女として……地球の未来を占う指針の一つとして。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……恭文君が楽しそうにバトルしているので、ちょっと離れて……というか確保したミュージアムの構成員も改めて拘束。園咲冴子と近い立場の奴以外は全員待機していたPSAの職員達が施設に送る。

それでまぁ、星が奇麗に見える広い中庭の中……冷えた夜風を受けながら、フィリップ君の話を聞くことになって。
もちろん園咲冴子にはしっかりと目と耳を潰し、茫然自失な翔太郎君と鳴海荘吉を引っ張った上……あ、知佳ちゃんは念のため、恭文君と司君達に付いてくれている。


まぁルビーやアルトアイゼンもいるし、大丈夫だとは思うけど……いろいろ興味はあるみたいで。


「もう一度言う。彼が接触したのは、地球のデータベースに存在する≪魔導師の記憶≫そのものだ。
そもそも魔導師の記憶……その能力の“本質の本質”は、地球のデータベースにアクセスし、閲覧し、その力を引き出すこと。
……つまり、ボクと同じ能力を得ることなんだよ」

「ドーパントとなることでか? いや、じゃが……あぁ……!」

「……記憶の再現能力に絡む、自分以外の何かに対しての共感力は“記憶の閲覧”とも取れる。。
能力の行使についてはもっと分かりやすい。ガイアメモリ製造という形でミュージアムがやっていることだ」

「で、検索太郎仮……お前さんは生身でそれを可能とする超人。地球の記憶というか、その能力を体現しているっちゅう意味ではドーパントに近い」

「数少ない正規のアクセス方法……その一つなのだろう。彼には間違いなく、それを実行できるだけの素養があったんだよ」

「それがウィザードメモリに適合する条件の一つ……そうかそうか、じゃから苺花ちゃんのこともあそこまで重用して」

「更に付け加えるなら、坊やにはエクストリームに到達できる素養もあるわ」


ヘイハチさんやアリアさんが渋い顔をしていると、持ち直したらしいシュラウドさんがそう告げる……って、エクストリーム?


「私が想定した超人≪W≫は、二つのメモリを一人の超人に重ね合わせ、より高い汎用性を発揮するものだったわ。最初その変身者の一人として、私は荘吉を見込んでいた」

「テラーへの耐性があるせいか……」

「でもそれだけではテラーやほかのゴールドメモリ達に対抗しきれない。
……そこでWをより強化し、彼と変身者の力を跳ね上げる究極形態も考案していた。それがエクストリーム。
地球のデータベースと直結し、彼の閲覧能力を駆使し、相手の能力を解析・無効化する……ドーパントを制するドーパントとしては最上級の力」

「うん……ちょお待て。それは」

「メビウスメモリは、ウィザードをエクストリームへ到達させる鍵よ。
もし発動できるなら……それだけでミュージアムは潰せる」

「……ではシュラウドさん、その鳴海さんや俺が彼と変身することで、エクストリームのWとなって戦えば……」

「無理よ。エクストリームはWで使用するメモリの力を最大現引き出す必要があるの。そうでなければ無限のデータベース……地球そのものと直結するような力は使いこなせない」

「ですが、それなら彼だって同じでしょう。まだ子どもで」

「……恭文はウィザードの過剰適合者じゃ」


焦りや無力感に苛まれている恭也君を諫め、ヘイハチさんは告げる……その心配はないと。


「その点は問題ないんじゃろ?」

「理論的には可能よ。ただ、やはり負担は大きくなるから……変身できるのは一回限り。それもアナザーウィザード戦のみ。
あと、本当に精神リンクの切断ができたのなら、坊やはハイドープとしての能力も今まで通りには振るえなくなるわ」

「今回のように、テラーを乱用しての制圧は無理ということか……。いや、それどころか蒼凪君の変身そのものもその一回に限定される。メモリの乱用に走るよりはマシと言うべきか」

「戦力ダウンは相当じゃが、超人Wの方は無理……そりゃあそうじゃろうなぁ。
検索太郎仮は引きこもりから脱出したばかりじゃし」

「その上でテラーに対する抵抗力がなければならないしね。今回この手は使えないよ」

「だが、このままでは……!」

「恭ちゃん……」


……恭也君、ちょっと焦れているね。まぁ妹さん……なのはちゃんと近い年の子だし、お兄さんとしていろいろ重ねちゃうんでしょ。

とはいえこの辺りは根性論だけじゃどうにもならない。もう割り切るしかないけどさぁ。


「……シュラウドさん、一ついいだろうか」


ただ、会長的にも引っかかるところがあったのか……一つ問いかけが飛ぶ。


「君はどこでそのエクストリームについての情報を?」

「ミュージアム……というより、琉兵衛が十年間待ち続けた“地球を救う鍵”だからよ」

「つまり、ガイアインパクトに必要な鍵……それは美澄苺花」

「本命は違う。……クレイドールメモリに適合する、園咲若菜……もう一人の娘の成長を、彼は十年待ち続けていた。
今までのことはその余興に過ぎなかった」

「やはり稼げる時間はそう多くないわけか……」

「クレイドール……土人形? え、なんでそんなのがエクストリームっていうのに!」

「……土人形だからだな」


驚く美由希ちゃんに補足しつつ、すたすたとやってきたのは、本局に避難していたはずのウェイバー君と風花ちゃん、ロッテさんで……って、そっか。一度合流って話になっていた。


「ウェイバー君!」

「かの諸葛亮孔明は荒れた海に饅頭(まんとう)……菓子にもある饅頭(まんじゅう)の始祖を投げ込み、鎮めたとされている。人型に作られたそれは神への供物……いわゆる人身御供の代わりとして機能したんだ。
……つまり、人形というのは神……それに等しい超常的なものにアクセスする切符代わりになるってわけだ」

「その通りよ。だから冴子は見捨てられた……琉兵衛にとって、その素養を持つ若菜さえいれば済む話だから」

「……家族相手に容赦がないのう……」

「そして、ウィザードも近い性質を持ったメモリだった。……だから子どもにしか適合しないんだろ?
なにせ努力や成長によって有り様が固定化されていない……つまり、到達しうる可能性が“無限大”だからな」

「または、その可能性を本当に体現した……子どものような純真さを持った大人よ」

「で……その記憶そのものに意志があるのは、どういう了見だ」

「君がウェイバー・ベルベットかい? 少々閲覧させてもらったが、実に興味深いデータが多かった。聖杯戦争についても是非聞きたいが」

「後にしろ。それで……?」

「……質問の答えは至って簡単。セーフティーさ。
悪意ある人間が魔導師の記憶に……その可能性を有する力を悪用しないよう、そもそもの使用制限を厳しくしている」


あぁ……そりゃあそうかぁ。そんな力がほいほい悪用されたら、そりゃあ地球としてもたまったもんじゃない。

だからそういうリスクのある記憶には、より厳しく使用者を見定める……つまりミュージアムで言うところの“ランクが高いメモリ”になっちゃうわけで。


「悪用を防ぐなら、記憶……力そのものに自己判断力を持たせる……利口なやり方だと思うよ。
実際アタシらが手を焼かされた闇の書とかもそうだった」

「だね……」


リーゼさん達はその辺り、あっさり受け止めている様子……って、当たり前か。次元世界のロストロギアもぶっ飛んでいる。その点から考えると納得できる要素は大きいんだよ。


「言うならその子は門番だ。恭文君レベルの適合をして……初めて意識に触れられる存在。
だからその子を説得するのも恭文君にしかできないし、その子の力なしではアナザーウィザードの安全なメモリブレイクも不可能ってわけだ」

「でも、だったらなんで苺花ちゃんまで変身できるんですか。ウィザードの格としては恭文君が上なんですよね」

「いづみちゃん……それなんだけど、一つ思い当たる節がある」


アリアさんはそうつぶやき、神妙な顔で……ロイヤルガーデンの中を見やる。そこでバトルを始めているであろう、恭文君を。


「……揺れているとか」

「揺れている?」

「苺花ちゃんやミュージアムのやり方が正しいんじゃないかってさ。
自己判断するだけの意識があって、この“中途半端”な状況を見ているっていうなら……」

「……君も蒼凪恭文と同じで理知的な人間だ。その通りだよ。
魔導師の記憶は彼と美澄苺花を通し、今の人を……人間の在り方を見ていた。
もっと言えば……」


そこで彼が見やるのは、縛られたまま転がり、何かが壊れたような顔をする探偵と助手だった。


「発達障害というそれまでは認知すらされていなかった“違う色”に対し、普通と呼ばれる人達がどう対応してきたかをだ」

「あぁ……そういう……」

「つまるところ、鳴海荘吉と翔太郎……やすっちのお父さん達がやらかしたと」

「……俺が……俺達が、何をしたと、言うんだ……」


そして鳴海さんは、心へしおれた様子でそう呟く……。


「ただ男として、人の親として……人間として、アイツらを叱っただけだ……それは、嘘じゃない……」

「それが一番まずかった。君は発達障害という未知の色について知ろうとしなかったんだろう?」

「そんなものは関係ない。甘ったれた言い訳だ……人は変われる。努力すれば……できないならその分努力する気持ちがあれば」

「だから……君は知る努力も放棄して、自分の無知から逃げた」

「俺は、確かに、最低な殺人鬼かもしれない……だが、そこだけは嘘じゃない……それは、当たり前のことだ……!」

「だから君は自分が『他者を裁いていい存在』と定義し、散々メモリ犯罪者を殺してきたんだろう? “自分は何一つ変わろうとせずに”」

「………………!」


そしてまた突きつけられる。


「君の当たり前に反するから。君の常識にいらないから……美澄苺花の父親だって同じだ。
アナザーウィザード……“あり得てはいけない別の魔導師”を生み出したのは、間違いなく君達二人の“傲慢さと驕り”だよ」

「違う……それは」

「連続殺人鬼である君が……そして君と同じ行動原理で動いていた彼女の父親が“正気で常識的”だと、一体どこの誰が保証するんだい?」

「…………」


それがまずかったのだと……それすら分からなかったことが、そもそもそれを嘘にしていたのだと。


「もちろんそこの男もまた、人の悪性を十二分に示した」


そして検索太郎仮は容赦がないねぇ! ここで追撃とか……って、そっか。翔太郎君もそれじゃあ……。


「翔太郎は、あれじゃな。この阿呆の非合法私刑を肯定しとったから……」

「その非合法私刑に助けられた一人だからね。でも……法律に反しているのは彼も同じだ。それを知り、正すことから逃げた。
もちろん風都市民も同じくだ。その非合法私刑を当然としてきたのが自分達なのに、その責任を問われないよう、彼を囲んで責め立てていたわけだろう?」

「それもまた無知からの逃避が生み出す歪み……たとえ恐怖の記憶に煽られていたとしても、かい」

「むしろ煽られていたからかもしれないよ? そっちの方が楽だからってさぁ」


ロッテさんの言葉がまた突き刺さる。煽られれば、被害者ぶれる。痛みを背負わなくて済むと……ははは、私にもブーメランとして突き刺さりそう。


「しかし難しい問題だ。
魔導師の記憶が一側面だとしても、我々は地球そのものから見捨てられかけているとはな」

「これまでとは違う色を持つマイカ・ミスミとヤスフミを“眼”として選んだことは、偏りも激しいと思うけどな……」

「違うからこそ、人が隠している悪性をおびき出すのは十分かもしれない」

「まぁな」

「……だから、あなた達が苺花ちゃんを怪物にしたし、恭文くん達を戦わせているんだよ……!」

「風花ちゃん……」


そこで怒り混じりに呟くのは、風花ちゃんだった。なおその手には……よかった! 今回は包丁を持っていない! さすがに没収されていたか!


「ねぇ、どうしてくれるの? あなたが言ったこと、全部嘘っぱちだよね。
ウィザードにも変身できない……。
やせ我慢でミュージアムを倒すこともできない……。
あげくあなた達のせいで、魔導師の記憶はそんな考えを捨てられない……
ほら……なに打ち震えているの!? なんとか言ってよ! アリアさんの顔を立てて、殺さないであげるから!」

「だったら、頼む……俺に、償わせてくれ……。
そのだだっ子と話す……そうして人間の道理を教えれば、俺がウィザードになることもできるはずだ」

「あなたに人間の道理なんて分かるわけないよね! 分かっていたら法律を遵守するはずだもの!」

「俺は、確かに変われなかった……だが、せめてそれだけは……アイツが負け犬のような奴らにならない道を、男として示させてくれ……!」

「そうして踏みつけてくれたんだよねぇ! その“負け犬”を自分と一緒に見下すことが正しいんだと! 寄り添って、道を示す方法がないかと探すあの子に!」

「俺が間違っていると思うなら、それでもいい……だが今だけは言う通りにしろ!
……その後なら、殺してくれても構わない」

「お断りだよ! ……あなたには、今まで犯してきた非合法私刑を全部吐いてもらわなくちゃいけない。もう死ぬ権利なんてどこにもないんだから」


それで包丁を持ってきていない理由もそこにあった。……風花ちゃんも分かっていた。恭文君はそれで、隠されていたことを明かすために頑張っていたんだってさ。

だから怒りを飲み込む。我慢する……憎悪を達成するのではなく、それを乗り越えた先にあるものをこの子は見据える。


「それでもう二度と恭文くんや苺花ちゃんに近づかないで。声をかけようとしないで。
あなたも、翔太郎さんも、自分が人を裁いていいと勘違いしていた異常者なんだから。そんな人は私達には“いらない”」

「………………」

「……荘吉……」

「…………ただ子どもを叱る権利すら……俺には、ないのか…………」

「私にもね」

「なら、俺が……俺が戦ってきたこの十年は、一体……なんだったんだ…………!」

「知らないよ。それは私達より勉強して、偉い立場にいる人達が裁くことだもの」


そうして鳴海さんのすすり泣きが響く。風花ちゃんはその様子をつまらなそうに一瞥し……静かに息を吐いて。


「……会長さん、苺花ちゃん……いえ、アナザーウィザードとテラーは、恭文くんが絶対に止めます。だから」

「彼からも改めて“それ以外は”あらかた押しつけると頼まれたからね。変わりなく任せるつもりだよ。……だがいいんだね」

「私は恭文くんを信じるととっくに決めました。……会長さん達が危ない目に遭うのも、それで誰かが死ぬのも当たり前にする……一緒に選んで背負うって……だから、大丈夫です」

「……そうか……精神リンクなどなくとも、君は彼の支えなんだね」

「そう、なれたら嬉しいんですけど……中々変われないです」

「変わらなくてもいいかもしれないよ?」


すると検索太郎仮君が、不思議なことを言い出して……。


「実際彼は、ボクに変わることを要求してはいない。ボクの疑問を解くなら外に出るのが一番だとは言ってくれたけどね」

「……恭文くん、そういう子なんです。全部受け入れちゃうというか……そのままを見ちゃうというか」

「だからこそ過剰適合に至ったんだろうね。
……彼は殺人が最悪手になることも、かなり理論的に教わったんだろう?」

「えぇ。御影先生が……曖昧な感情論が分かりにくい恭文くんに寄り添って、いっぱい向き合って……」

「つまり、彼に変わることを要求するのではなく、一つの視点……側面を提示した」

「そう、なります」

「やはりそうか……それこそが適合率を上げる隠し条件なんだよ。
もっと言えば、共感する記憶の力を使うのに、共感する対象の一つである相手をどうして攻撃できるかという矛盾。
――なぜ人を殺してはいけないか――その余りに使い古された人道に関する問題へのアンサー」

「それは…………」

「武術家としての心得……ミカゲの奴が持たせた覚悟と強さが、その条件を満たしとったわけか……」


そうだ、思えばその話そのものも矛盾だった。そこから恭文君が美澄苺花や鳴海荘吉達とは違う道にいることは察していけた。

あの子はまぁ、悪党だけど……それでも武術家としての規範を強く持っていた。それが“正義になり得るわけがない”と。だから鳴海荘吉の妄想にも一切付き合わなかった。揺らぐこともなかった。

……あの子にとって鳴海荘吉は、犯罪者が更正する可能性を……そこから生まれるなにかを、自分一人の判断だけで踏みつぶした悪魔だから。


そこでその辺りを話したときのこと、思い出しちゃうんだよね……印象的だったもの。


――先生、ラーメン屋にたとえてお話してくれたんです――

――ラーメン屋?――

――池袋、ラーメン激戦区じゃないですか。うちも近所なので、それに寄せて……繁盛店なら百杯以上。一か月二十五日営業なら二千五百杯、一年なら三万杯前後。
十年続ければ三十万……まぁ単純計算ですけど、それだけの人がラーメンを食べて、お腹を満たすんです。でも……もしそのラーメン屋さんが若くして亡くなれば、それだけの人に届くはずだった“仕事”が消える――

――うん……――

――たとえばそれで落ち込んでいた気持ちが持ち上がって、またなにかを頑張れた人がいるかもしれない。
たとえばそれでラーメン屋になろうと思って、また別のお店を立ち上げて、たくさんの人を幸せにする人がいたかもしれない。
たとえば……そこまでいかなくても、お腹いっぱいになって、午後の仕事や勉強が調子よく進められた人がいるかもしれない。
……そんな“かもしれない”も全部消える……もちろん罪を犯したからって、更正できないようにしても同じ。僕の頭や目では見通せない小さくて遠いものが、丸ごと消える。これは大損で非効率だって――

――……なぜ人を殺してはいけないか……それは、誰かがそんな可能性を持っていることから否定するのが悪だから?
もちろん更正するとか、そう言う人がいるかっていうのはたとえ話だけど……でも、それを聴いている私もそれが“絶対にない”とは否定できないわけだし――

――だから、僕が最初に暴れたのも、きちんと裁いてもらわなきゃ困るんです――

――恭文君……――

――正義であるはずがないから――


……なかなかできることじゃないよ。

相手の命やその未来を見下げず、それを壊すことに言い訳もせず、ただ悪と戒め……それでも刃を抜くべきときは迷わない。矛盾どころの話じゃないもの。

しかも自分もまたその可能性を持つ命なのだから、それを守るためにも戦い抜く覚悟までしなきゃいけない。うん、楽な道なんかじゃないよね。


だけど大事なことでもあった。


「私達はその矛盾を、自分が痛みを払わない他者に押しつけ、解決しがちだけど……あの子は自分が無知で無力だと、“自分を下げて”……ううん、そういう側面もあると受け入れることで解決したんだね」

「うむ……ようするに限界値とどう向き合うかって話じゃわい。発達障害で、いろいろと制限もかかるあやつだからこそ嫌でも向き合う必要があったこと」

「つまり、自分の色に対しても受け入れる構えがあったんだ。その御影という師匠が彼の色を受け入れ、寄り添った姿からそれを学んだ。
だから彼はウィザードメモリの意識にもアクセスすることができた。鳴海荘吉や父親と近い答えを出した美澄苺花と違ってね」

「御影さん……!」


風花ちゃんは瞳に涙を浮かべる。まさかそんな置き土産までなんて……そりゃあ想定しないよね。できたらまさしく未来予知……できていたのかな? ちょっと気になった。

まぁとにかく、これで改めて納得した。だからあの子……魔法や魔術、メモリの力なんかに飲まれないんだよ。その無知や無力もまた、一つの色……一つの側面だと学んでいるからね。

色を受け入れ、その価値を認め、見下げず、自分の側面として取り込む……そりゃあ普通の人間には適合できないはずだよ。少なくとも自問自答するタイミングがなかったら絶対に無理だ。


「――これは予測段階だけど、魔導師の記憶はそんな彼の人間性に触れて……それゆえに繋がっていく人々を見て、そういう揺れる感覚になったんじゃないかな。
その勝敗によって、人が滅ぶべきかどうかを見定めようとしているようにも思うんだけど」

「……でも、それだけじゃあ『助けて』という悲鳴の意味と繋がらんじゃろ」

「または、それが苦痛で、どうしていいか分からないのかもしれないね」

「その記憶もまた、無知ゆえに裁きを……権利を正当化していた一人と感じ、迷っとるとかか?」

「やすっちはそれを放っておけないよ。すれ違っただけのお姉さんにぞっこんだし?」

「……その記憶も貸しとるわけじゃし……ああもう、手が焼ける奴じゃのう」

「だから、俺達では肩代わりはできない……そもそもウィザードを止めるだけで考えても意味がないと……?」


……恭也君は悔しげに拳を握る。


「だったら俺達は、なんのために」

「……それも図に乗った驕りだよ、恭也君」

「ちょ、いづみさん!」


さすがに見かねて、ちょっとお姉さんとして制止しておく。


「あの子、言ったでしょ? 自分にしかできないところ以外は押しつけるって。
……六歳の子どもである自分が、組織を潰せるわけがない……だからって気持ちを拒絶するの?」

「……」


恭也君は大きく息を整える。

それでも妹さん……なのはちゃんのことも思い出して、引っかかっていたけど……それもぐっと飲み込んで。


「すみません。子どものような駄々を……君もすまなかった」

「……いいんです。そういう気持ちは、私も……恭文くんも感謝はしていますし」

「まずは、我々が押しつけられた分を……それでもという覚悟を受け止めていこう。他のことはそれからでいい」

「――――はい」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バトルは続く……続いていく。年若いながら、なかなかに腕が立つ。読みも深い。デッキ構築もよく練られている。

……ミカ君やアラタ君が言っていた通りだ。この子は強くなる……もっともっと強くなれる。


ただその前に、老婆心ながら改めて彼に……少し難しい話をしてみたくなった……というところで、すさまじい怒号が響いて、ちょっとビクついていました。


「外、大丈夫かなぁ……なんだか凄い叫びがしたけど」

「大丈夫ですよ、司さん。流血沙汰ならもっと騒がしくなっている」

≪というか、うちのマスターやいづみさん達もいますしね。大抵の事はどうとにでもなります≫

「……そうだったね。みんなプロの方々だし」

「いやぁ、それでもあの怒号を聴いて平然とするのは……なかなかできないと思うよ?」

「うんうん……彼女のいう通りだよ」


まぁ私とのバトルを楽しんでくれているという意味では、実にありがたいんだが……うん、そうだな。その前に話といこう。


「さて、蒼凪恭文君」

「はい」

「単刀直入に聞こう。
君が欲しい未来は……世界はなにかな」


スピリットでアタックしながらの問いかけ。お互い硬化処理を済ませ……。


「……差別や偏見……無知と無理解、自分以外の色を認めない閉じた常識……それを壊したい」


彼がスピリットの一体でブロックしながら、そう返す。


「僕、発達障害……ASDとADHDの合併症なんです。体調や精神状態……睡眠も薬なしじゃ安定しないし、人間の機微もよく分からない。表情から読み取れない。
今、そういうぱっと見じゃ分からないものに対して、差別や偏見が横行している。……ローウェル事件っていう悲しい事件を理由に、そういうものが言い訳だと抜かすクソ野郎も多くなったし」

「……あぁ」

「それは発達障害だけの話じゃない。ぱっと見では分からない障害や怪我、病気なんてたくさんあるもの。病気じゃないけど、それこそ妊婦さんとか……お腹の出方もそれぞれらしいし」

「……」


とても聡い子だ。いや、この年にして悟らされてしまったと言うべきかもしれない。だから彼女も、なにかを重ねるように悲痛な表情を浮かべる。


「でも誰も、そういう見えないことに恐怖しない。
自分が分からない……分かっていないという大前提を踏まえない。
誰も分からないことに恐怖しない。
ただ信じる価値観が、信念が、神様が違う……その違いを受け入れない。認めない。
自分の信じているものが絶対なのだと閉じて、逃げていることにすら目を向けない」


もう一度アタック……今度は、彼はライフで受ける。その途端にバーストが発動……っと、これはまずいな。


「そうだね……人は未知に、違うものに恐怖する。
恐怖するから暴力を、正義を持ち出し、その鎧に怯える心を隠す……その根源は変わっていないのだろう」

「だから風都の末路も、鳴海荘吉の姿も、これからの世界そのものだ。
……無知は……人をたやすく悪魔に変えて、世界を食いつぶす」


私のスピリットが破壊され……彼はデッキ破壊を受けたが、それでもターンを受け継ぎ、スタートステップ、コアステップ、リフレッシュステップ、メインステップと段階を踏む。


「でも、そういう連中をただ唾棄し、排除しても……結局同じ差別や偏見だ」

「恭文くん……」

「そこから変わる誰かの可能性すら踏みつける。
だから僕はミュージアムの……苺花ちゃんのやり方も気に食わない。それを砕くなら、もっといい救い方を示さなきゃ無理だ」

「その救い方が、さっき言っていた通りだろうか」

「――――信じる神様、理念、帰属する国家……それが差別や偏見を生み出すというのなら、常識を変えるしかない。
自分とは違う思想も一側面に過ぎず、そしてまた自分も数ある思想の一部に過ぎない……それが常識の世界なら、みんなは自分と違う誰かを否定せず、認め合える。
たとえ誰かが間違えたとしても、違う道もあるはずだとそんな常識が……世界が教えてくれる。世界が人に道を示してくれる」

「…………」

「それなら、御影先生が教えてくれた可能性も守れるかもって……次元世界の様子とか……リーゼさんやアルトアイゼン、ルビーを見て、思うようになったんです」

≪まぁ恭文さんの周り、種族さえ問わないフリーダムですしねー≫


彼はキースピリットを召喚。それにより呼び出した古竜達が雄叫びを上げ、強くなる……その姿が見える……。


「……多種多様な理念が共存し、共栄し合う世界……確かに実現できるなら理想郷だね。
でも、それは意識の変革だ。それも世界レベルの……それを成すのは間違いなく」

「僕の一生を費やしても不可能です。
……鍵が必要だ。誰とでも繋がるための鍵が……そう考える僕の想定外すら繋げて、膨らませる鍵が」

「……君は本当に聡い子だ。
自分の常識もまた、可能性を狭める檻……そう見方を変えられる子は、早々いない」

≪というか、その次元世界だって長い闘争の果てになんとかって感じですしね……。
しかもまだまだその闘争の事後処理でごたついている部分もある。完璧じゃない≫

「でも、諦めたくない」


そうして彼は、キースピリットでアタック。


「きっとそんな連鎖は、損で非効率だから」

「ならば余計に、君は自分が何者かを知らなくてはいけないね」


それをなんとか残っていたスピリットでブロックするが……即座にマジックが飛んできて、排除される。


「そして覚悟が必要だ。価値観の変革は相応の痛みを生み出す。
君が言う分からないことを分かっていない方が得……楽だという人間にとっては、その変革した世界は地獄かもしれない」

「だから徹底的に、そっちの方が得って示さなきゃいけない」

「あぁ、そうだ。君は世界を背負う……彼らの目的が救済だと言うのなら、君はそれで“救われる人々”をも踏みつける。ひとまずは園咲家……そして美澄苺花を」

「ギャラクシーさん、それは」

「残酷だと思うかな、レディ」

「……いえ、必要なことだと思います」


彼女の……仁村知佳の真摯な応えに感謝している間に、次のアタックが襲いかかってくる。


「その責任は決して軽くはないぞ。
君は一生、自らが壊し、変えた世界と向き合い続ける義務がある」

「最初からそのつもりだよ」


そして、最後のアタック……。


「僕はおじいさんの夢を引き継ぐ。でももっともっといい形で叶える……そこだけはとっくに決めていたから」

「……そうか。なら、一つ訂正しよう。
その重さは君だけではなく、私達みんなで背負うものだ」

「ギャラクシーさん……」

「君が“想定外”も繋げていくのなら、どうか忘れないでほしい」

「うん、そうだね。きっとみんな一緒の方が楽しいよ」

「……はい」


そうして私のライフは、一気に二つ削られ……息を静かに吐く。


「……ありがとうございました」

「ありがとうございました。いいバトルでした」


しっかり彼と握手し、剣闘をたたえ合う……しかし負けたなぁ。はははは……これは彼女も苦戦するぞー。


「でも強いね。まさかあそこであのコンボが出てくるとは……」

「うん……いい感じで回ってくれた。ちゃんと応えられたみたいです」


応えられた……スピリット達が封じ込まれてもいない紙のカード。それらを纏めながら、彼は表情を緩める。

……スオウ会長、どうやらいらぬ心配だったようだよ。


「その心持ちであれば、エクストリーム・ゾーンでのバトルも問題ないだろう」

「次はいよいよ……楽しみだー!」

「ははははは……蒼凪くんは相変わらずだね」

「相変わらずなんだ、この調子……」


彼は戦うことが好きなんだ。こんな思い通りにならない世界で、なんの罪もないのに、重たいものを背負って……それでも戦っていく勇気がある。

……そんな子が、この世界の可能性を信じて、守りたいと願っている。すれ違っただけの女性も、まだ見ぬ知らない誰かも守られる未来を欲しがっている。

だから私は力を貸してやりたいと思う。


(この子は……この子が信じる輝くなにかは、間違いなく)


あのとき白夜王ヤイバやツルギ・タテワキ達が……ソードアイズ達が願い、夢見た『神様の進化』だから。


(その16へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、改めてとまかの再開の前に……その時間稼ぎの前にこっちから……。
続きの半分は書き上がっているんだ。あともう半分なんだ……お肉食べて元気だそう」


(ワードパットと向き合う毎日やるぞー)


恭文「えー、それと先日(2022/04/28)、アイプラのメインストーリー(東京編)が更新されました。
そうして明かされる想像以上にヤバいスリクス……」

あむ「え、何がヤバかったのあの人達」

恭文「主にミホなんだけど、長瀬麻奈を抹殺したいんだって」

あむ「…………はぁ………………?」


(※これがスリクスの目的だ!(ざっくり版)

・長瀬麻奈、事故死で伝説化しとるわ。

・そや! プレタポルテの権力で長瀬麻奈の楽曲権利を買い取って、それでだーれもかれも長瀬麻奈のことには触れられんようにして、忘れさせたろ!

・そうしたら伝説的なエピソードで居残っている奴なんか消えるやろ! その後やりたいことやったるわ!)


あむ「…………え、なにこれ。引くんだけど。舞さんショックじゃないんだけど……三人揃ってこれなの!?」

恭文「長瀬麻奈が大嫌いなのはミホ中心だけど、他二人もそれぞれ目的を達するのに、伝説のアイドルを超えたトップアイドルーってネーミングが欲しいみたいだね。だから呉越同舟でレッツゴー」

あむ「完全に悪役じゃん! というか黒井社長や美城常務達だってここまでじゃあなかったよ!?」

恭文「揃ってやり方が偏っているだけであって、アイドルという仕事に対してもそれぞれのやり方で本気だったしねぇ。美城常務については『あくまでも美城の一方針』って扱いに収まる感じだったし。
……でもスリクスの場合それも危うい」


(とはいえ、まだまだバックボーンは不透明なところもあるので……今後に注目です)


あむ「…………じゃあ、瑠依さん達は……そうだ、そこでこてんぱんに」

恭文「プレタポルテ、クビになったよ」

あむ「え」

恭文「朝倉さんの横領に娘の瑠依が絡んでいるってことにされて……トーナメントも辞退。八百長もはね除けたから、体よく利用されただけでポイ捨てだ」

古鉄≪しかも大々的に報道もされたから、実質芸能界追放ですよ≫

あむ「えぇ……!? じゃ、じゃあ……あのお通夜ムードは」


(そうして現・魔法少女が見やるのは……今にも身を投げ込むような勢いの三人と、我らが天草さん)


天草「……完全に、あなた方はピエロですね。例のライブバトルトーナメント一回戦でLizNoirの四人と当たったのももはや陰謀確定でしょう」

優「うちら以外やと、リズノワは優勝候補の一角……そやから一回戦で潰しとこうと……」

天草「仮に一回戦であなた方が負けたとしても、似たような手段でLizNoirを大会から追いだしていたでしょう。彼女達も元々バンプロ組です」

すみれ「私達がそれでもと頑張ってきたことは、全部……無駄だったって……ことですか……!?」

天草「はっきり申し上げれば……あなた方には朝倉恭一氏と天動さんの関係という“ネック”があり、そして姫野霧子がトーナメントの運営サイドというこの状況が余りに不利すぎた」

瑠依「それで、私は……私のせいで……みんなの夢も……!」

天草「それだけでは済みませんよ。この先勝ち上がれば、間違いなく月ストとサニピ……星見プロも攻撃対象です。なにせ長瀬麻奈の抹殺が目的なのですから」

瑠依「……………………!」

すみれ「私達……どうすれば、よかったんでしょうか……」

天草「結果論だけ……理屈の話になりますが、あなたがたは朝倉恭一氏の娘ということ部分を弱み……汚点のように熱かった。その点は姫野霧子と同じです。ならばそれは“悪い子”の振る舞いです」

優「でも、そこんとこ公表しても……結局」

天草「自分から公表し、父親の無実を信じる……星見プロ移籍の下りなどを説明するなどして、立ち位置を明かすだけでも大分違うと思いますよ?
仮にそれが無理だったとしても……あなた達はそれを由とした。それを当然とした姫野霧子やプレタポルテに下った時点で、この結末は妥当でしょう」

優「………………」

すみれ「それでも、私達三人なら……一緒ならって……!」

天草「そして……そんなことをする非道な人間が、あなた達の決意を踏みにじることに躊躇いなどない……そう想定できなかったことも浅はかだった」

瑠依・すみれ「「……………………!」」

優「うちらは、姫野さんとも渡り合うつもりで……そんなことをする力も、知恵も……最初からなかった……!」

天草「……私も同じでしたよ。生前も、聖杯大戦でも……だから言い切れます。ただ堪え忍ぶだけでは、夢になどたどり着けない」


(………………現・魔法少女、頬をひくつかせ怒り心頭……)


あむ「……天草さん、なんか凄い親身だけど」

恭文「籠城戦で大負けしたからね。まぁ聖杯大戦の方は僕も暴れたけどさ」

古鉄≪同時にその聖杯大戦では、反省を踏まえて半世紀もの間準備を整えてきた苦労人ですよ? 瑠依さん達の現状に思うところもあるんですよ≫

あむ「そっかぁ。でも恭文……これ、どうすんの……!?」

恭文「まぁまぁ喜ぼうか、あむ」

あむ「これで!?」

恭文「向こうは八百長を持ちかけ、スリクスもそれに同意していたことも確認した上で、正々堂々朝倉さんのことも持ち出してきたんだよ?
……これで朝倉さんの横領事件が根も葉もないえん罪だとか……スリクスやプレタポルテが真っ黒ってバレたら、そりゃあもう……一気に状況がひっくり返るよ」

あむ「そうだね……このままにはしておけない……!」

恭文「するわけが、ないでしょうが――」

あむ「うん」

恭文「で、優……会話を録音とかしていたのかなー。それをバラせば一発解決だけど」

優「…………どうなるんやろうなぁ、そこのあたり……ちなみに、もししてなかったら」

恭文「アイドル引退パーティーだけは開いてあげるよ」

優「あっさり見捨てんといてよ!」

あむ「ほんとじゃん! そこは抗おうよ! そこはなんとか抗おうよ!」


(はたして東京編の結末はどうなるのか。そして新章は本当にどうなるのか。アイプラからはまだまだ目が離せません。
本日のED:Suara『不安定な神様』)


恭文「まぁ後書きはとまかの再開の準備を進めていますーって報告と、衝撃だった東京編の話中心になったけど……04/29となれば状況は変わる!
今日は大神環の誕生日! 環、おめでとう!」

環「ありがと、おやぶん! 今日はたまきといーっぱい遊んでくれるんだよね! たまき、楽しみー♪」

童子ランゲツ「ランゲツも遊ぶのー」

白ぱんにゃ「うりゅー♪」

恭文「うんうん、みんな一緒だ。でもその前に……バースデーライブだ!」

環「うん! 環、やるぞー!」

童子ランゲツ「童子ランゲツもお手伝いするのー!」

白ぱんにゃ(人間体)「わたしも遊ぶよ! うーりゅー♪」

フェイト「み、みんなー! 走ったら転んで危ないよ! 落ち着いて−!」(あたふた)


(ざざー!)


恭文・環・童子ランゲツ・白ぱんにゃ「「…………あめー!」」

フェイト「シ、シアターは……ほら、屋内だから……うん」


(おしまい)







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あきゅろす。
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