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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2008年・風都その14 『Vの蒼穹/Realize』





魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2008年・風都その14 『Vの蒼穹/Realize』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、ステッキを正眼にかざし――!


≪コンパクト・フルオープン! 境界回路最大展開−!≫


光に包まれ、著ていた黒のスラックス、コート……インナーも全部パージ! でも大丈夫! 謎の光で首から下は隠されているから!

それで両手から青色のグローブをぱーん!


≪いいですよ、いいですよー≫


足下もブーツ……ここは贅沢を言わせてもらって、スラックスタイプでバーン!


≪はい、その角度ですー。分かってますねー≫


胸から腰まですらーっと……和服っぽい意匠も組み込んだワンピーススカートぽーん!

首からはマントをどーん!

更に笑顔でウィンク!


≪そうです! そのあざといくらいのかわいらしさこそが、魔法少女ですー♪≫


目の前で回転して現れたルビーをキャッチし、逆袈裟に振るって……一回転しながら変身完了!


≪――新生カレイドルビー! プリズマ☆ヤスフミ――――爆☆誕♪≫


その瞬間発生した魔力の余波……それがフロア全域どころかビル中に吹き抜け、飛来してきたドーパント達から放たれた弾丸やら砲弾全てを受け止め、はじき飛ばす。

いや、それどころか奴らの進軍すらせき止め……それでも魔力は止まらない。いや、魔力とは全く違う何かが……自然発生していた猫耳と尻尾も、歓喜で震え続けていた。


まぁそれはそれとして……。


「……ルビー、凄い楽しい……♪」

≪そうでしょそうでしょー! これぞ真のボーダーレス! それに……感じるでしょう! 身体中から溢れる力を!≫

≪The song today is “moving soul”≫

≪そりゃあ挿入歌くらいどっかの次元から自然と流れますよ! なにせ最善最高の魔法少女なんですから!≫

「……いや、魔法少女であることを受け入れすぎじゃろ! お前男−! その股間に聖剣エクスカリバーついとるじゃろうがぁ!」

≪分かっていませんねー! その聖剣がついてなお魔法少女らしさが消えないから最高なんですよ!≫

「マジか!」


身体中から力が溢れて止まらない。しかも尽きることがない……それが分かる、理解できる。こんな感覚初めてで、つい両手をぎゅっと握る。


≪ふふふ……驚きでしょうー! でもこれは当然ですよ!
あなたの魔法少女力は、私の換算では二千億……いいえ、ほぼ無限大ですからね!≫

≪いや、この人どんだけその力に溢れているんですか……≫

≪じゃあ恭文さん、いきましょう! 無限の魔法少女であるあなたなら、そりゃあもうコネクトでラピスしちゃって、世界を救っちゃうくらいなんて楽勝です!≫

「うん!」


ルビーの声に従い、ふわりと浮かび……イメージのままに飛翔。夜闇へと……悪しき怪人達の陣形に向かっていく。

でも凄い凄い凄い凄い……速度が全然違う! 普通に飛ぶのとは全然違う! これが魔法少女力か!


≪いやぁ、飛べる経験があるとはいえ、イメージだけですいすいいけますねー!≫

「魔法少女は飛べるものでしょ!」

≪……あなた、本当にそれでいいんですか≫

≪その柔軟性、一生大事にしましょうね……っと、きますよ! 急停止!≫


ルビーの指示に従い、その場で停止……。


≪私をかざして意識集中……向こうの攻撃に狙いを定めて、シュート!≫


風を切る弾丸や砲弾……実際はメモリ一つ一つの特性に沿ったものなんだろうけど、そこまで察知している余裕はない。なので……。


「――――シュート!」


杖に集束した魔力でギロチンバースト。蒼い本流がそれら全てを、そして敵の一団……その一部を飲み込み、爆散させる。

咄嗟に大半が散開したけど、それには左翼から周り込み……ハーピィもどきの背後を取って…………あ、ごめん。違った。

ハーピィじゃない。コイツら…………Gだ! 大半がGだ! 羽根の色とか形で分かっちゃったよ! 放たれていたのも弾丸じゃなかった! なんかこう、Gについては粘液だったよ!


できるだけ近づかないで戦おうと決意しながら……。


「スラッシュ!」

『……!?』


袈裟・逆袈裟とルビーを振るう。放たれた斬撃波が一瞬でハーピィ二体を両断し、また爆散。

うし……やっぱり本体の耐久度を超える形の攻撃なら、ドーパントは容赦なく倒せる。神秘の観点から同じドーパントやら異能力での攻撃が通用しやすいけど、それ以外でも問題はないね。


「……悪いけど、この状況だ」

『な、なんだコイツは……空を飛んで』

『怯えるな! HGS患者だ……撃て撃て撃てぇぇぇぇぇぇぇ!』

「命への配慮なんてできないよ――!」


ハーピィやガーゴイルもどき、そしてGどもは僕を一瞬で取り囲み、周囲から遠距離攻撃……それをかいくぐりながら急上昇。更にルビーをかざして、回転しながら弾丸を多数展開……それらを一斉掃射。

奴らも次々と弾丸を撃ち落とすなり対抗するけど、その間にこっちは安全圏に退避。すぐさま反転して砲撃を一発二発と連射


「ファイア! ファイア!」


でも奴らは察してすぐに散開……ち、やっぱり僕のスキルじゃあ遠距離戦は辛いか。でもこの数だと……。


≪あれ……海中から動体反応……≫


それは僕も視界でチェック。……って、なんか海上から飛び出した影が。


≪……アイツら馬鹿なんですか?≫


するとアルトアイゼンが半笑いでそんなことを。


≪巡航ミサイルですよ、あれ≫

「はぁ!?」


慌ててルビーを振りかぶり……反転し、こちらへ直進するミサイルめがけて砲撃チャージ……発射!


「ファイア!」


ミサイルは一瞬で音速域へと迫るけど、狙いが一箇所……みんながいるフロアだったから何より。ミサイルは砲撃に飲まれ、連続爆散……だけどマジかい!

巡航ミサイル搭載の武装潜水艦を都市部近隣に控えさせるとか……すると右翼からローター音。今度は武装ヘリ……発射されるミサイル達に向かって、周囲に魔力弾数発を精製……それを発射。

ミサイルを撃ち落とすと、ヘリは接近しながらガトリングを連射。そうはさせないと魔力砲撃……いや、ハーピィ達が砲弾を……仕方なく急上昇。



≪アリアさん、映像は見ていますね。防護フィールドと退避は≫

『もうやっているよ! でもやばいやばいやばい……引き時だよ! 数がわんさかだし!』

≪舐めてくれますねー! 超テクノロジーをドーパントと近代兵器のごり押しですり抜けるとか!≫

「とはいえこれ以上の無茶は……いや、待てよ」


追撃するヘリ……そのガトリングの掃射をすり抜けながら、一つ思いつく。


「ルビー!」

≪そうくると思って、既に準備していますよー!≫

「お願い!」


そう、僕には一つ手がある。ただの魔法少女で勝てないというのなら……。


≪多元転身≪プリズムトランス≫開始――インストール!≫


更に変身するだけのことだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


妙なふりふりで飛び込んできたかと思い、最初は驚いたが……いくらHGS能力者といえど、しょせんは子ども。ヘリや武装された潜水艦の攻撃に対応できるわけもない。

なによりこちらは空を飛んでいる。ミュージアムの中でも選りすぐり……本当の意味で組織に忠誠を誓ったものだけが入れる空戦部隊。こういう状況も想定し、冴子社長が戦子万雷のアドバイスも受けて編制したのが我々だ。

空も飛べない、地を這う骸骨男など相手にならない。もちろんHGS患者でソードマスターといえど、空を飛べ、数も多い我々には勝てない。


これで奴らは袋の鼠。あとはじっくりといたぶれば……そう思っていた瞬間だった。

ヘリに追い回されていたあの攻撃対象が、蒼い輝きを放つ。それで一瞬我々の進撃が止まったかと思うと……光がはじけ飛ぶ。


≪――インストール、コンプリート≫

「スキルラーニング、完了」


……すると奴は、その姿を変えていた。

機械的なアームやレッグパーツを身につけ、背中にはやはりメカメカしい鋭角的な翼。

薄手のアーマーのようなそれらが夜闇で輝くと、腰に備えられた大きなスラスターやその翼から粒子がこぼれ、唾が一気に開く。


≪「疾風古鉄第二形態≪無限≫――フリーダムスタイル!」≫

≪The song today is “Realize”≫


そうしてどこからともなく二丁のライフルを取りだし、一回転しながらこちらに向き直り……というかなんだ! さっきからこの音楽はぁ!


『なんだアレは……』

『迷うな! 攻撃……攻撃しろ!』


そうだ、数の上では問題ない。だからまずヘリが…………だがその瞬間、奴は振り向きもせず右手のライフルをヘリに向けて発射。

ただそれだけ……たったそれだけで蒼い閃光が走り、ヘリは一瞬で撃ち落とされ、爆散する。


『な……』


それでも攻撃を試みる……が、今度はその二丁のライフルが、前後くっつく形で合体。

そのままなぎ払うようにビームが放たれ……こちらの攻撃は大半が撃ち落とされ、更に何人かは胴体を文字通りに両断されて、爆散……!


それでも背後に周り込んでいたヘリ達が接近する……が、今度はあの翼からクリアブルーのパーツが射出。合計八つのそれらは煌めきながら夜闇を駆け抜け、四機ものヘリへと突撃。

いや……その刃で、ヘリをたやすく両断した。ヘリは乗員ごと微塵に斬り裂かれて、またも連続で爆発……破片となって海へと落ちていく……!


『あーあーあー……聞こえますか聞こえますかー。ドーパントで空戦ができるというだけで、調子づいた素人のみなさんー』


その光景に誰もが呆然となっていると……やけに明るく、人を小馬鹿にした声が響く。


『私の仮マスターは無益な殺生を好みません。全員地上へ降りて、変身を解除してください。そうすれば命だけは助けてあげられます』

『ぶ、部長……』

『馬鹿にしやがって……!』


馬鹿にした声というか、完全に舐めてくれていたがな……!


『なお、最終警告ですよー。攻撃に走った瞬間、全員デストロイする気構えですからシクヨロー♪
……あ、もちろんあなた方が胸と尻ばっか見ている女社長も、どうなっても知りませんからねー?』


その余りに身の程を弁えない言いぐさに、完全に頭の糸が切れた。


『この外道が……!』

『部長!』

『構うことはない! 全員で一斉に飛びかかれぇ!』


相手はたった一人……ならば問題ない。私自身も翼を羽ばたかせ飛びかかり……。


『え…………』


いや、飛びかかろうとした。だがその瞬間、鋭く走った光条に心の臓を貫かれ…………。


『はーい。そちらの声はしっかりとルビーちゃん達の耳に届いていましたよー。
……挑発すれば、当然リーダーにお伺いを立てると思っていましたからねぇ』

『ぁ…………』

『これであなた達は烏合の衆。先ほどまでは上手く統率が執れていたようですけど……どうなりますかねー』


そして、取り込んでいたメモリが爆散……神に等しい肉体はたやすくその耐久度を飛び越え、変身が解除されて…………。


「ばか……なあぁあ………………」


そうして私は……偉大なるミュージアムの一員である私は……冴子社長から見込まれたエリートであるはずの私は、墜落していく。

ゴミのように踏みにじられ、そのまま……海面に…………それでも水の中ならばと、そういう期待があった。死にはしないと……だがそうではなかった。


次の瞬間私を襲ったのは、まるで大地に叩きつけられたかのような衝撃で……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


無限長銃≪インフィニティーライフル≫の合体を解除。後部の接続スリットから一方の銃口を外し、改めて二丁のミドルライフルとする。

その上で射出していたソードビット≪疾風無限刃弐式≫も機動兵装ウイングに戻し……突撃。


『貴様ぁ!』

『良くも部長を!』


まずは飛びかかる二体のGに対処。放たれる粘液をすり抜け、ライフルを一旦リアスカートに。そうして右手で腰部の大型スラスター上部の武装を取り出す。

ビームサーベル型近接武装≪古風刃・零≫を抜刀……蒼いエネルギーブレードを袈裟・右薙と打ち込み切り抜け。


『が……!』

『ア……!?』


フリーダムガンダムが如き一閃で、その首を両断。


(あいにくもう宣言はした……)


最悪手と戒め、それでも刃は振るう。振るうことは躊躇わない。躊躇わない上でよりよい未来を模索する。

その答えは……ミカゲ先生から教わったものは揺らがせない。


『き、貴様ぁ!』


だから進行方向で取り囲んできた他のG達相手に、改めて取り出した無限長銃二丁で連続射撃。


二時・九時方向に一射……。

八時・十時方向に一射……。

〇時・四時方向に一射……。


平行世界の僕から……ISっていうパワードスーツが戦闘用に実用化された世界の僕から、借りた力。経験や知識……その全てに共感し、引き金を引き、立ちはだかる全てを撃ち落としていく。


「疾風無限刃弐式、行って!」


更に疾風無限刃弐式を再射出。死角をこそこそと取ってきた奴らを中心に切り刻み、僕の周囲に爆発の帯を生み出す。


『…………そこだぁ!』


真下から眼前に飛び出てきたハーピィドーパント。それが一回転しながら、右爪で唐竹一閃。それは頭に受ければ間違いなく致死レベルの刃だろう。

……なのでまずは無限長銃二丁を頭上に放り投げ、両前腕部のBT障壁発生装置≪無限障壁(インフィニティーシールド)≫を展開。

そのエネルギーフィールドを両手に纏わせ……素早く打ち込まれる刃を白羽取り! SEED DESTINYでキラ・ヤマトもやっていたカウンターだ!


『な……!』


すかさず両腰の無限電磁砲をバレル展開。二つ折りにしていたスラスター兼用の砲身が一直線となり、そのまま零距離で発射。


『ごふ……!?』


腹部と胸部を零距離で穿たれ、ハーピィの体勢も崩れる。すかさず白羽取りを解除し、古風刃・零を両逆手で取りだし滅多切り。

袈裟・右薙・左薙・逆袈裟……更に順手に持ち替えての唐竹双閃。両手足を斬り裂かれ、残る全身も切り刻まれたハーピィは吹き飛びながら爆散。

古風刃・零はしまい込み、無限電磁砲の展開も一旦終了。落ちてきた無限長銃を受け止め、両横に周り込んだ敵の顔面をそのまま同時に撃ち抜く。


(……大丈夫みたいだね。ドーパント相手でも問題はない。
この疾風古鉄っていう子、どうも神秘を宿しているっぽいしさぁ)


それに安心は……していられないか。


「……っと、またくるか」


そこで≪ハイパーセンサー≫経由で動体反応を感知。またまたミサイル発射ときたらしい……。


≪The song today is “Reborn”≫


あれ、また曲が……玉置成実さんの声だけど、これなに! 知らない曲!

でも、なんだろう……なんか気持ちが盛り上がる!


≪恭文さん!≫

「ルビー、サポートお願い!」

≪お任せあれー!≫


一旦後退……更に急上昇。

疾風無限刃弐式を全て展開。腰部の折りたたみ式レールガン≪無限電磁砲≫も二つ折りの方針を展開。


≪RMS≪リアルタイム・マルチロックオン・システム≫、ドライブ!≫


ISのハイパーセンサーと僕の感覚をリンク。頼るのではなく、甘えるのではなく、受け入れ同調(シンクロ)する――。

資格、聴覚、触覚……空に瞬く星の一粒すらも見逃さない。人だけでは届かない蒼穹を打ち破るための翼。その力と一体化する。

それがこの“僕”の力。その力に共感し、同調し、今は一時だけその“服”を借りている。憑依経験と投影魔術の経験を生かし、ルビーがこの“服”を仕立ててくれた。


「力だけでも――」


そうして呟くのは……そう、力だけでも駄目だ。ミュージアムが……苺花ちゃんがそうだ。

力に溺れ、自分の小ささを……限界を無視して神様気取りになろうとするから、こんなことが起きる。


「想いだけでも――」


だけど想いだけでも駄目だ。現に鳴海荘吉と翔太郎がそうだった。シュラウドさんもそうだった。

想いだけでは誰も守れない。僕もそうだった。人を守るなら、助けたいなら、正しい知識が必要だ。ちゃんと磨き上がられた力が必要だ。


両方がなくちゃ意味がない。どちらかだけで……自分一人だけで貫ける正義なんて、やっぱりたかが知れていた。

それを防ぐなら……抗うならどうすればいい。答えならもう、分かっていることだった。


「お前達が花を何度でも吹き飛ばすっていうのなら」


――御影先生が……風間会長達が、リーゼさん達が道を示してくれたから。


「僕は、それでも種を撒き続ける!」


決意を固めている間に、眼前全ての敵を……そして発射されたミサイル達を全てロックオン。


≪疾風無限刃弐式、ショットモードに切り替え完了!
――――ハイマットフルバースト≫


無限長銃二丁を振り上げ……。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

≪ファイア!≫


そのまま引き金を引き、無限電磁砲と疾風無限刃弐式を一斉発射――!

蒼いライフルビームと金色の軌跡を描くレール砲弾、更にクリアブルーの刃達から放たれる輝き――。

それら迫る敵達を捉え、貫き、斬り裂き、爆散させていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まぁまぁ一体なにをしでかすかと思っていたら……あははは、なにこれ。


「すご……!」


ロッテがいたらはしゃぎそうだよ、これは。

敵方のドーパント……その飛行速度も尋常じゃない。実際最初は初変身ってこともあって押されていた。

……でも、戦い方を……その色を切り替えたら、あっという間にこれだ。きちんとシステム的に敵を捕らえ、引き金を引いているから、奴らは逃れる術を見つけられず撃墜されていく。


一人、また一人と連射され続ける光条達に撃ち抜かれ、斬り裂かれ、ミサイルも爆散……私達の目の前には、いくつもの爆炎が……帯を連ねるように生まれていって。


「わしらが手を出す必要もないって……つーか魔法少女じゃないじゃろ、あれ!」

「あの、ご老体……そもそも魔法少女とは」

「あの性悪ステッキが勝手に名乗っとるだけじゃ! 平行世界の自分にコスプレして、その力が使える着せ替えアイテムじゃしなぁ!」

「…………だとしたら、別世界の彼はその……えっと」

「恭ちゃん、もうそこまでにしておこうか……!」


あぁ、美由希ちゃんが理解を捨てたよ! そりゃあそうだ! あんなの無茶苦茶だもの!

……でも……。


「楽しそうだね、あの子」


すると、知佳ちゃんが苦笑しながら、戦うあの子をじっと見てくれていて。


「でも力に取り込まれているとかじゃない。なにか……違う自分から教わっているような感じだ」

「ん……そういう子なんだ」


未知なことをあの子は恐れない。ううん、恐れても踏み込める。どうしてだろうと知っていける。そういうところは最初から。

だから違う自分の力にも感じ入る。戦う誰かの姿から、その何かを学んでいる。今こうしている瞬間もだ。


(うん、それでいいよ)


それは君だけの強さだ。きっとそういう君だからこそ……他者に共感し、力にする魔法使いになれたんだもの。

それに私もようやく確信が持てた。


(あの子がメモリの力……ううん、異能の万能性に飲まれないのは、本当に幸運だった)


あの子の強さは単純なスペックやスキルじゃない。

マルチタスクが苦手だからこそ、曖昧であやふやな表現が分からないからこそ、あの子は考えることを武器にした。ロジックで分析することをクセにした。

それは障害を患った不運が生み出した、紛れもない幸運。強くなっていくなら絶対に必要な力だった。


自分の力を……その万能性に飲まれず、長所と短所を理解し、使いこなす努力ができる。そういう分析力と解析力……それをクセとして使えることがあの子の強さ。

だからあの子は記憶の魔法も、プログラム式魔法も、魔術も、魔法のステッキによる力も、等しく使える。状況に合わせて解決できる自分に変身できる。

あの子の本領は力の大きさ……スペック任せに殴ることじゃない。どこまでも冷徹にツールを使いこなすデバイサー。


(それがあの子の、魔導師としてのスタイルならば……ロッテ、私達はまだまだ引退できないよ?)


まぁ女としてもいろいろ絆されて、深い付き合いしちゃったのもあるけどさ。でもそれだけじゃない。


(こんなおもしろそうな子の教導を人任せにしてとか……さすがにつまらないでしょ……!)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


艦内は……絶望しか襲ってこなかった。

冴子社長の救出と反乱分子の制圧。そして我々NETの目的を背負い邁進していた、幹部である戦子万雷の仇討ち。

NETの目的を達するためにも、ガイアメモリの力は必須。そのためにあの底知れぬ首魁にも犬のようにへつらい、メモリの提供を条件に協力継続を決めたわけだが……。


「く、空戦部隊……全滅……!」

「馬鹿な…………」


冴子社長が選出したというエリート部隊はたやすく壊滅。そして我々が放ったミサイル攻撃も、悉く撃ち落とされ……なんなんだ、奴は!

ただのHGS患者ではない! そしてドーパントでもない! 明らかに……こちらの想定外なテクノロジーを有して、振るってきている! こんなのは聞いていないぞ!


「――――目標急速接近!」

「く……潜行するぞ!」


我々は部外者ということで、メモリは持たされていない。そしてあんな迎撃装置があるとは聞いていないため、安易に浮上していた。

だが海中に潜れば……深海なら、奴の手は届かない! それに我々はともかく、インビジブルメモリの適合者がいる! それで潜水艦を隠してもらえば!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミサイルとドーパント達を全て撃ち落としたところ、潜水艦は急速潜行……まぁ普通なら手出しができないというところだろうけどー。


≪突撃してください!≫

「もちろん!」


ISは全領域対応! 海中だろうと問題なく移動できるよ! なので……海面を突き破って、潜水艦の後方を取る!

呼吸などなども問題なし! ISの生命維持機能は抜群みたいだし……このまま宇宙に飛び出してもいいくらいだ!


……とはいえ、フリーダムスタイルは光学兵器中心だし、あれだけの大型船体となると打ち崩すのは難しいけど……。


≪疾風無限刃弐式、スラッシュモードセット! 敵潜水艦の解析及び基幹部へのロック完了! 撃っちゃってください!≫

「――――当たれ!」


そういうときには実体武器だ! 疾風無限刃弐式を射出し、更に無限電磁砲を基幹部めがけて連射!

大丈夫、狙いは分かる……ルビーのサポートもあるし、僕の感覚でも捉えている。


だから刃は水中を斬り裂きながら、的確に奴らの急所を抉り抜く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ば、馬鹿な……目標、海中に突入! 我が艦の後方を取っています!」

「なんだと! なら姿は」


それにぞっとした瞬間……船体が大きく揺れて、誰もがその衝撃で床に崩れ落ちる。


「こ、今度はなんだ!」

「動力部に直撃……機関停止!
各所から浸水……あ、駄目です……航行不能! 繰り返します! 航行不能です!」

「………………!」


そうして私達は沈んでいく。脱出も叶わず、深海の奥底に……。

雪崩込む海水に意識を、理想を……理解できない怪物に踏みつぶされる恐怖を味わいながら……もがき苦しみながら、誰もが思うのだ。


私達は、こんな目に遭うような……そこまでの悪党だったのかと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――海中から飛び出し、頭を軽く振って……水は払う。そうして多元転身を解除し、元の魔法少女ルックに。

うん……これもやっぱり悪くない。でも先生が言うオパーイの魂は感じられないから、やっぱり女装にならない方向で頑張りたい。


≪馬鹿ですねぇ……最初の段階で、この人がこれくらいやりかねないヤバい奴っていうのは理解できただろうに≫

≪一体どんな気持ちでしょうねぇ。全く理解できない領域から殴られまくって、部隊全滅とか……ルビーちゃん聞きたい聞きたい聞きたいー♪≫

「地獄に落ちるつもり? おのれ」

≪そんな要因皆無ですよ≫

「だろうねぇ」


もうそこはツッコまないよ。ツッコんでも意味がないし。


≪……でもまぁ、別世界でもあなたは大分試練の道らしいですねー。こんなのが変身形態になるんですから≫

「いつものことだ。
それに……僕はまず僕自身の運命だよ」

≪ですよねー≫

≪で、あなた……答えは得られたんですか≫

「なんとかね」


……そのためにケンタにも僕から接触したし、助力できた。そして敵の戦力も大きく削れた……実にいいことずくめだ。

あとは…………。


「あとは……僕の答えを押し通すだけだ」

≪それはなによりです≫


ふわりと……警戒をしつつもきびすを返し、アリアさん達のところへ戻る。

あとはすぐに退避だよ……退避だよー。退避先もアリアさん達に丸投げしているから、恐らくそこで……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あらかたのことを終えて、日付変更線が変わろうかという時間……あれからミュージアムの追撃もなく、海は穏やか。

ただまぁ……滅茶苦茶疲れたけど……!


「恭文君、大丈夫?」

「えぇ……なんとか……」

≪出力は出せますけど、まだまだ小さい恭文さんには酷って感じですねぇ。長時間で連続の多元転身はやっぱり無理ですよ≫


そう……最高最善な魔王もとい魔法少女な僕だけど、スタミナはまだ低かった。子どもだけど……仕方ないけど、ちょっと悔しい。


「まぁ、すぐ転移して休憩するし、ちょっと待っていてね」

「はい……」

「うし、座標軸固定……超長距離転移、開始!」


アリアさんが術式発動……。

そうして一瞬であらゆる風景を置き去りにしながら、僕達は一瞬の浮遊感とともに、こぎれいな床に着地。


なお園咲冴子とエージェント連中も全員縛り上げまくり、一緒に……目隠し・耳栓で拘束状態にするの、大変だったけどねぇ。


「……転移成功確認……」

「よく無事に戻ったな、みんな!」


そうして僕達を出迎えてくれたのは、風間会長だった。

でも…………ここ、どこ? なんかめっちゃ奇麗な庭園なんだけど! 水路があるんだけど! 中央にはお茶会っぽいテーブル……というか沙羅さんもー!


「でかしたぞ、蒼凪候補生! 想像以上の成果だよ!」

「……ありがとうございます。
でもすみません、すぐ所在が……あぁ……もうバレた……!」


分かる……苺花ちゃんが変身した。邸宅の風景が見える。くそ、やっぱり面倒な……。


「ふむ……では蒼凪くん……いや、美澄苺花くんでいいか。
彼を通して聞こえているだろう? 私はPSAの会長……風間章太郎と言うものだ」

「会長?」

「君がミュージアムに自らの意志で与していることは既に分かっている。
君が入れ替わっていたダミードーパントの男が、うちの優秀なエージェントにより確保されたのもあるからね」


ダミー……偽物……なにかの変身やらが使えるドーパントか! それで苺花ちゃんに入れ替わっていたと!


≪え、待ってください。そっちでドーパントを倒したんですか? また凄いことを≫

「……それが……すさまじく弱かったらしい。擬態能力を除くと身体的強化などは一切なかったそうでね」

≪極端だったんですねぇ≫

「そんなわけで本来であれば“大人しく投降”などなどと言うところだが、それは一切しない。
なぜなら君の現状を考えれば、そんなことがそもそも不可能だからだ。無論君の心情を考えれば、受け入れるはずもないだろう」

『……この人はお話ができる人みたいだね。お父さんや鳴海荘吉とは全然違う……でもそれなら』

「なので近くにいる園咲琉兵衛にもしっかり伝えたまえ」


――――そうして会長は、ぎらりと僕に……僕とリンクしている苺花ちゃんに睨みを利かせる。


「――――ここからは戦争だ。
私達はどのような手段を持ってしてでも、君達を止める。例え彼を殺すことになろうとだ」

「ちょ、会長!?」

『――――!』

「彼もその覚悟を決めてくれている。だから私達は……なんの繋がりも持たなかった私達は、彼という嵐に巻き込まれて一つに纏まった」

『なに、言っているの……あなた……』

「――――ねぇ、苺花ちゃん……そろそろ分かっているはずだよ? 僕がどういう感情をおのれに持っているか」


僕もちょっと黙っていられなくなったので、笑顔でそう告げると……苺花ちゃんは数瞬だまり。


『ひ……!?』


あ、椅子から転げ落ちたね。それでガタガタ震えて、滅茶苦茶怖がって……大丈夫かなー? 僕がボコボコになるまで殴り潰すまで、死なないかなー?

でもいい感じの驚きだよ。おかげで疲れが吹き飛んだ。


「僕をウィザードのスペアに推薦したのは……苺花ちゃんだよね。
僕の遺伝子関係で早死にするかもって話をしたから、それをなんとかしようってさぁ」

『や、や……恭文、くん……あの』

「そもそも幹部クラスのメモリを使い回し前提で実験するってところからおかしいもの。
だから、おじいさんにも一度会いたかったんだ。直接確認したくて……ね……」

『そう、なの。わたし、ただ』

「――――――だから、お前の悉くを否定してあげるよ。もう一度電車に飛び込みたくなる程度にさぁ」

『……………………』


苺花ちゃん、そこで絶望するのはおかしいわー。一度リンクして、僕の感情は読み取ってくれたはずだよ?

僕がこんな馬鹿騒ぎを起こしてくれたことそのものに……お前を百万回殺しても飽き足らない程度には、お怒りだってさぁ――!


「本当に悲しいことだ。だがもう止まらない……これは戦争だ」


すると風間会長が、頭を撫でてくれて……僕、大丈夫なのになー。ほらほら、とっても笑顔でしょ?


「君達が仕掛け、私達が受けて立つ大戦争だ……!
園咲琉兵衛とその関係者ともども八つ裂きにされる様を想像して! 自分がいつ彼ともども殺されるかも分からず! 怯えて眠るといい!」

『あ、ああぁあぁああぁあ…………!』

「貴様らは地球やこの子を救う正義などではない! 社会正義を侮辱し! かき乱す……ただのテロリストどもだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


……そこで苺花ちゃんが……部屋全体を揺るがすような怒号に怯え、変身を解除。リンクが外れて、僕もはっとさせられる。


「会長、もう切れました」

「んお……そうか」

「……これで少しだけ時間稼ぎができた。ありがとうございます」

「なに、これも仕事さ」

「やっぱり皆殺しにしてOKってことですね……♪」

「うん、まぁそういうことだ」

「会長、これは訂正しておくべきでは……!」


まぁまぁ沙羅さん……いいじゃないですか。言質は取ったし……もう加減とかいらないってことだしねぇ。


「なので会長、ウィザードとテラーだけは僕がなんとかします。
他の一切合切は押しつけますので」

「無論そのつもりだ。が……手立てはあるのだな?」

「いづみさん、精製した他のメモリは」

「問題なく持っているよ」


そこでいづみさんが取り出したのは、次世代型のスカルメモリ。……あの施設の設備を使って精製したのは、ウィザードメモリだけじゃない。

それと同時並行で、使えそうなメモリをいくつも作ったんだ。シュラウドさん的にも必要なものもあったから、まぁついでって感じでね。


そうしたらまぁ、いづみさんに適性があるのは……なんの因果かスカルメモリで。


「≪メビウスメモリ≫の素材も大丈夫。組み立ては私とロッテも手伝うから」

「ただ、使えるかどうかはぶっつけ本番よ? それは覚えておいて」

「了解です。……僕はこれから先生と一緒に、園崎本家を襲撃しますので」

「うんうん…………うん……!?」

「おじいさんに、僕の答えを伝えにいかなきゃいけない。
……先生にテラーの耐性があれば楽でしたけど……まぁ仕方ないでしょう。そう上手くはいかない」

「いや、意味分からんのじゃが。え、それだとワシ、テラーの餌食に」

「餌食になってください。園咲琉兵衛を引っ張り出すために」

「なんじゃとお!」


いやいや先生……そんなこの世の終わりみたいな顔をしないで? それが一番手っ取り早いんだから。


「出てこなきゃ出てこないでなんの問題もありません。先生とリーゼさん達の超絶マスターパワー……それに言峰綺礼さんの圧倒的暴力やらPSAの忍者パワーによって、ミュージアムの各施設や戦力が壊滅していくだけですから。
……もちろん僕も自分のテラーで悉くを屈服させていきますし?」

「その二択を迫るって最悪すぎるじゃろ! つーかワシ、生けにえかなにかなんじゃがあ!?」

「先生! 先生は完全に生けにえです! そんなあやふやなものじゃありません!」

「お前そろそろ本気でぶっとばすぞ!? つーかどんな心情でそれを口にしとるんじゃあ!」

「正直であれと御影先生にも教わりました」

「つーかミカゲはまたかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


あぁ、先生が感動の涙を流して……そっかぁ。弟子のために身を張る覚悟で震えているんだね、分かります。


「というわけでアリアさん、諸々のサポートはお願いします。打ち合わせなしですけど、なんとかなりますよね」

「……そう言うんじゃないかと思って、ロッテとウェイバー君でいろいろ考えていたからね。問題ないよ」

「助かります」

「じゃったらなんでワシになんも言わんかったんじゃあ!」

「まぁまぁ先生……これから先生が一番怖くなるのは、園咲琉兵衛なんですから。それ以外のことなんてなにも怖くありませんよ」

「今一番怖いのはお前じゃがな! というかアルトォ!」

≪……まぁ不満は相応にありますけど、代案もないでしょ?≫

「畜生めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


先生、そんなに僕の作戦に感じ入ってくれるなんて……よし、頑張ろう! 先生という貴い犠牲を糧に、おじいさんのことはぶっとばすぞー! おー!


「……作戦があるのは、何よりなんだが……というかちょっと待ってくれ。夜討ち朝駆けは許可できない」

「え……」

「いや……そんな、期待を裏切られたような顔はしないでくれ。ちょっと突き刺さる」

「でもほら、一日過ぎるだけで残暑は終わっていくんですよ。熱中症のリスクも下がるじゃないですか。結界に閉じ込める意味が薄れます」

「危ないピースをちりばめないでくれ……!」


会長、そんな優しく宥めないでください。大丈夫ですよ、僕は。もう皆殺しの覚悟は整っていますし。


「というかだね、君達が頑張ってくれている間に、こちらでもいくつか分かったことがあるんだ」

「……分かりました。ならアリアさん」

「会長、せめてこっちの籠城作戦は実行させてください。そうすればPSAも動きやすくなりますし」

「それは了解したよ。ではまず……」

「……久しぶり、蒼凪くん」


そこでひょっこりと顔を出し、手を振ってきたのは………………あ。


「司さん!」

『『『!』』』

「あ、それが君のたまご達だね。……初めまして、天河司です」

≪……誰ですか、あのうさんくさそうな笑顔全開青年は≫

「天河司さんだよ。ほら、僕にしゅごキャラのことを教えてくれたお兄さん」

≪あぁ……キャラ持ちだって言っていた≫

「え、じゃあもしかしてここ……聖夜市!?」

「正確には聖夜学園初等部……ロイヤルガーデン。僕が少し前まで生徒会長を務めていた場所だよ」


あぁあぁ……そういえばそこに通っていたっけ! でもなんで!? なんで司さんがそこで!


「彼の家……天河家は、魔術協会サイドとも付き合いがあったそうなんです。
それでベルベットさんが協力を仰ぎ……あなたが天河さんと顔見知りだったことから、避難先として申し出てくれました」

「司さん……」

「あとは……」

「山仲さん、そこからは僕が」

「……そうですね」


会長はすっと下がり、僕は司さんに起こされて……あの温和な笑みをすっと見上げる。


「蒼凪くん、君が助けたい子に手を伸ばすなら、命綱が必要だ」

「地球の記憶に近く、しかし君の可能性を……その色を守れる命綱がね」


更に出てきたのは、銀髪に青い装束の……え、嘘……!


「あ、あなたは……」

「命綱の名はソードブレイヴ――夢幻の天剣トワイライト・ファンタジア。
君には、それを掴むためのバトルに挑んでもらいたい」

≪……誰ですか、あの不審人物は≫

「……セクシー?」


すぐにハッとして、拳を振り上げ答える! そう、カリスマを呼ぶ決めぜりふ!


「NO! ギャラクシィィィィィィィィ!」

「恭文君!?」

「え……なんだいそれは。ちょっと教えてくれないかな」

≪いやぁ、多分興味を持たなくていいことじゃないですかねー≫

「…………正解だぁ! いやぁ、よかったぁ!」

≪ルビー、無駄ですよ。振った当人大喜びですし≫

≪ぐだぐだですねー≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


な、なんなのあの人……本気だった。目の前に恭文くんがいるのもお構いなしで、ただ本気で……。

それで驚くおじいさんに、言われた内容を伝えると…………。


「…………ははははははははははは!」

「お、おじいさん……!?」

「いや、すまないねぇ! だが……この私に、ここまで堂々と喧嘩を売ってくるとは……PSAの会長、風間か……噂通りの人間らしいなぁ。それに彼も……いや、楽しいねぇ……本当に……!」


おじいさんは楽しげに笑って、右手で膝をパンと叩く。


「いいだろう……受けて立とう。このまま一人勝ちもおもしろくなかったんだ」

「でも、あの人本気だった……」

「それはそうだろう。だが、それも最悪手……できる限り避けようとするはずだよ」

「それに、恭文くんも……!」

「大丈夫さ、苺花。……彼は私と約束しているからね」

「おじいさん……」

「きっと答えを教えてくれるよ。そこだけは決して違えない」


……そうだ。条件は同じだ。

わたしがいる……おじいさんには、わたしがいる。


それで恭文くんがどんな気持ちでも、もう一度話すチャンスが掴めるなら……!


「……分かりました」


魔導師であるわたしが、おじいさんの……そして、わたしの夢を叶える。


「わたしだって、やっぱり譲れない――!」

「あぁ」


誰にも邪魔させない。わたしは魔法使いになれたんだから。

それで必ずたどり着くんだ。恭文くんが、恭文くんでいられる世界に……誰もわたし達を否定しない、優しい世界に。


…………そう思っていた時期が、私にもありました。


『――――――!』


それがとんだ勘違いだと気づいたときには、もう遅かった。

突如として屋敷を揺るがす振動が響き、私達は椅子に座りながらたたらを踏む……。


「んぉ……」

「な、なに!」


振動は一つ、二つ、三つと届く。そうして大広間の外……窓の向こうからも、いくつもの爆発が……いや、違う。

そもそも空そのものが、全く違う色になっていた。夜闇に近いけど、もっと暗い色……それで屋敷の照明も途端に落ちる。


「…………お父様、苺花!」


慌てた様子で部屋に入ってきたのは、ランタン片手の……寝間着姿な若菜さん。こっちも顔面蒼白で混乱気味だった。


「あぁよかった! お二人とも無事だったのね!」

「あぁ……だが、今のは一体」

「分からないの! メイド達が状況確認しているけど……とにかく電気や水道も止まっているらしくて!」

「電気……そうか、それで……」


……電気、水道……ライフラインってこと? でも自信の類いとは違う……って、まさか……!


「……!」


慌ててスマホを取り出し、適当なところに電話。天気予報を聞くダイヤルだけど……とにかく繋がるか試す。

…………でも通話は繋がらない。ただ静かに、待機音だけが流れて……スマホに届いている電波を示すアンテナも、全く立っていなかった。


「……おじいさん、テラーに変身してください」

「どうしたのかね、苺花」

「やられた……閉じ込められたんです、私達!」

「ほう……」

「なんですってぇ!」


でも恭文君との精神リンクでは……伝わらないものもあるってこと? 精神リンクがあっても、分からないことも……いや、でもまだ手はある。

そうだ、テラーなら……ゾーンメモリだってあるんだ。それで外に脱出すれば……!


『ん……ぐぅ…………んんぅ……?』


でも駄目だった。テラーでも……ゾーンメモリを持って私が変身しても、無駄だった。


『困ったねぇ……テラークラウドによる転移ができないよ……』

「お父様でも駄目なの!?」

『私も駄目です……座標指定ができない……全く、これっぽっちも!』

「だったら、外に……駄目だったわよねぇ! どこまで行っても玄関にたどり着けないって! どうなっているのよぉ!」


まさかこうくるとは思わなかった。ライフラインを経って、周囲との連絡もできないようにして……その上で狙うのは……。

戦国時代によくあるような、兵糧攻め……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


この深夜にせっせと仕事をする私……いい組織人であると同時に、悪い母親だと思うわ。グリフィスにはまた埋め合わせをしないと。

ただ、今回については許してほしい。なにせ恭文君とリーゼ達が、いい感じで成果を上げてくれたもの。


『――レティ提督、閉鎖結界の多重展開、完了したよ。もらっていたデータ通りに作ったから、テラーやゾーンと言った転移メモリでも対応はできない』

『グレアム提督、通信中失礼いたします!
こちら、結界内のサーチャーで先ほど得られた映像です! レティ提督もご確認を!』

『あぁ、ありがとう』


通信中にわざわざ……その意味を察し、現地のグレアム提督ともども映像を確認する。

……するとまぁまぁ……怪物達が黒い沼に入り込もうとするけど、弾かれて失敗。一瞬消えかけるけど、それだけで終わって失敗……見事に狙いが的中している。

そして映像越しであれば、私やグレアム提督だろうと問題ない。そのために恭文君達が暴れている最中に、慎重に園崎本家へサーチャーを仕込んでいたわけだし?


『どうやら上手くいっているようだね』

「えぇ」


そう……実は今回の作戦、最初から二重作戦になっている。園咲来人救出はただの囮なのよ。

まず恭文君が提供してくれた情報により、管理局上層部はメモリの危険性を再認知。テラーの影響を受けたと思われる元捜査員達の救済措置も即時決定した。

それと同時に、PSAと魔術協会の支援という形ではあるけど、グレアム提督子飼いの人員も相当数現地へ送ることが決定した。


そう、支援よ。管理局法の問題もあるけど、やっぱり精神干渉系能力が厄介すぎるし……耐性があるかどうかも分からないのに飛び込むのは愚策。

でも、その対策についても恭文君がもたらしてくれた。ようは“直接視認せず、接触せず、戦えない状態に追い込めばいい”わけだしね。

そこで転移対策も整えた結界魔法で園崎本家を取り囲み、兵糧攻めを敢行することにした。その間にPSAや魔術協会が、向こうで確保した園咲冴子からの情報を元に、各施設を潰し、人員も徹底的に確保するって寸法よ。


まぁ恭文君達を囮にした……利用したというのも確かだけど、こうでもしないと精神リンクの裏を取ることも難しかった。なにせこれは“恭文君が知らない、私達が勝手に取った行動”だもの。

向こうにいる美澄さんには伝わらない。恭文君が鎮圧手段の一つとして考えていたとしても、彼女はそれを成果として汲み取れないの。

……これこそが精神リンクの致命的な弱点よ。双方に伝わる公開情報という点だけではなく、二人が六歳の子どもという点も大きく引っかかる。


恭文君が年不相応に理性的な子だから忘れがちだけど、得られた情報を正しく伝えるだけでも、二人の知識量やコミュニケーション能力に依存している。それは立派に脆弱性よ。

そう……六歳の子どもだから、こんな夜中まで制服を着て働く、遠い世界のお巡りさんが何をしているかなんて理解できない。理解しにくい。だったら隙を突くくらいは楽ということよ。


『まぁ相手が相手とはいえ、兵糧攻めなどよく許可が出たものだ……。
リーゼ達も無茶を言っていると思ったものだが』

「そこは現地の恭文君達に言ってあげてください。彼らが園咲冴子を確保できていなければ、さすがに無理でした」


もちろん、普通であれば暴挙……違法捜査に等しい。でも今回は状況に助けられた。

園咲家がガイアメモリ製造に関わっているれっきとした証拠が、メモリ製造施設に園咲冴子がいたことで……彼女が捉えられたことで、きちんと証明されたから。

今までは恭文君やシュラウドさんの証言だけで、きちんとした物証もなかった。鳴海荘吉もそこまで手を伸ばしていなかったものね。


……でもその彼女がそういう状況で捕まり、メモリも持っていたのなら話は別。もちろん施設には園咲琉兵衛が関わっている動かぬ証拠も出てきている。

だからあの世界から一番遠い私達が……美澄さんだろうと、テラーだろうと、一時的に世界から隔離する。あの世界の誰もが恐怖に押し負けないように……そこだけは組織としても手を貸すと決めたのが今で。


「とはいえ通せんぼしているだけでは足りません。本宅の戦力を精査する必要もありますし」

『そのためにも我々が時間稼ぎ……稼いだ分だけ彼らの安全が保証される』

「えぇ。なのでグレアム提督、久々の現場で大変お疲れでしょうが」

『子どもだけに気張らせるのも申し訳なくなってきたところだ。無理くらいはさせてもらうよ』

「ありがとうございます」


……これで時間稼ぎだけはできる。

ミュージアムの首魁が一時的にでも喪失したんだ。組織内は明日から大混乱……その隙に悉くを潰せばいい。

そうして、あの小さな子がその手で解決すべき事柄だけは……なんとかできそうな道筋を整える。


それがあの子を利用し、解決にこぎ着ける私達大人の購い方だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――蒼凪は確実に正気の沙汰じゃなかった。

テラーとアナザーウィザード以外は全て押しつける気構えだったとしても、正気かと思っていたら……兵糧攻めだよ! 時空管理局ヤバいな!


「え、でも……時空管理局って、そんなことまでするの?」

「先輩、それはないですから」

「え、でも」

「管理外世界の事件に介入するのも理念に反する……なので、グレアムさんも、手伝ってくれたグレアムさんと親しい武装隊の局員さん達も、みーんな“休暇”ということになっていたんです。
その中で、たまたまそういう事件を知って、見過ごせずみんなで正義感を出しちゃった……それでちょっとやり過ぎちゃった“自己責任の範疇”です」

「また大人の詭弁が満載だなぁ」

「グレアムさんの後光に助けられまくった結果ですよ。
……まさしくレジェンドって言える人が率先して動き、利を示すから、慕っている人も信じてついていくんです」

「……一応君もそのレジェンドだと思っていたんだけど、まだまだってことかぁ」

「子どもですしね、僕」


そこんところも絡んで、蒼凪にもあえて内緒にした上で……いや、 だがそうだよな。

直接ドンパチするといろいろ限られるだけで、それ以外の戦い方をすればいいわけか。これこそ組織力と情報戦の勝利だ。


「でもそれ、鳴海さん達も利用したってことじゃ……!」

「大丈夫ですよ、麻倉さん。これで王手に一歩近づけたのなら……僕は幾らでも利用されてかまいません」

「うん、君はそうだろうね。でも自分は大丈夫だからーってちょっとしたモンスターだよ?」

「だったら好きなだけ裏切ればいいんですよ。六歳の子どもである僕がする覚悟はゴミクズ同然だと、あざ笑いながら……当時成人していた翔太郎や鳴海荘吉のように」

「やっぱりやることが悪魔なんだよなぁ……」

「…………ちくしょお……!」

「左、諦めろ。相手が悪い」

「特にこのときの蒼凪恭文はね……。僕も恐ろしい男を敵に回したと震えたものだよ」


そして左達が可哀想だなぁ! 本気で反論すら許されないんだから! 自分の覚悟に報いないのかと迫っていやがる! ヤクザのやり口だよ!


「……というか、あっさり納得って本当にいいの? 引っかかる部分は」

「ないから援護射撃を送ったんです。
苺花ちゃんはこのタイミングで……僕が“自分を殺したいほどにキレている”ことに全く気づいていませんでしたしねぇ」

「……」

「実際苺花ちゃんはショックを受けて、積極的な精神リンクを避けるようになりました。
まぁならなくても想像しますけどね。……ありとあらゆる暴力で、苺花ちゃんを八つ裂きにする素晴らしい未来図を……♪」

「…………えぇ…………それで、殺してやるって断言されて……えぇ……!?」

「あ、蒼凪くん……もしかして、相当お怒り……だったのかなぁ……!」

「嫌だなぁ……刀を抜いたなら必ず殺すって言ったじゃないですか」

「「………………!」」


あぁ……また麻倉が引いている! 伊藤も顔が真っ青だよ! 悲劇のワンシーンだと思ったら、勝利を見据えての精神攻撃だからな! 容赦や躊躇いが微塵もないのは怖すぎる!


「しかも向こうにはフィリップの検索で、こちらの情報を探る……その裏付けを取るということがもうできない。
もちろん対策できるメモリも用意できないし、できていたとしてもこちらについたフィリップがそれを調べられる」

「もっと言えば、ボクの検索は地球上の事柄だけが対象だ。
次元世界……つまり管理局や魔導師のどうこうやら、この世界で起きた事以外は本棚でも閲覧できない。だから対策も限定的にならざるを得ない。
おまけに天河司とギャラクシー渡辺……バトスピ連盟が協力してくれたおかげで、メモリの意識との対話も上手くいきそうだった」

「それで準備はより盤石なのか」

「盤石どころか決定打だね。……メモリの意識もまた、彼らが元祖ウィザードメモリを共同使用している楔の一つだ」

「それが外れて、意識がこっちに力を貸してくれるのなら……」


蒼凪はそう言いながら、ちょうど焼いていた豚バラの一枚肉を……ちょきんちょきんと、食べやすい大きさではさみを使って切り分け、みんなに配膳する。


「リンクは吹き飛び、大前提からゲームの仕組みが変わる」

「……それ、兵糧攻めいらなくない?」

「駄目ですよ。徹底的に苦しめて、勝率を跳ね上げるんですから」

「………………やっちゃん…………」

「空腹で、お風呂にも入れず、水すら飲めず、疲弊仕切った中で戦闘……どこまで全力が出せるんでしょうねぇ。精神リンクがあってもどこまで読み取れるんでしょうねぇ」


そうして蒼凪は笑う。とても楽しげに……天使の笑みを……!


「ま、全部実地で確かめるんですけどね? ――死ぬほどの痛みを伴った上で」

『…………』

「まぁそれもどうだっていいんですけどね」

『え!?』

「奴らを排除するのが大前提ですから」

「やっちゃん……!」

「……ヤバい……私、さっきの笑顔じゃなかった……今本気で膝が笑ってる……!」


蒼凪、だから気づけ! 田所が引いている! いや、みんな引いている! これで、本当の意味で確信してしまった! 田所も恐怖でガタガタなんだぞ!


「タカ……!」

「蒼凪、やっぱりキレてやがったんだな……」

「ハマで追いかけっこしていたときと同じノリだもんな! いや、それ以上!?」

「そりゃあ魔法少女にもなるよ! これだけの怒りをぶつけるためならさぁ!」


そう、蒼凪はキレていた。初っぱなからキレていた。そこに鳴海荘吉も、美澄苺花も追加燃料をぶちまけた。


「あの、蒼凪くん……」

「なんでしょう、雨宮さん」

「もしかしてなんだけど……いや、分かっていたの。分かってはいたんだけどね?
あの、君ってこう、ぷっつんすると……相手とお話しとか、したくない感じかな」

「え、殺すと決めた相手になんで話が必要なんですか」

「じゃ、じゃあだよ? あの、このとき……誰を殺そうと、思っていたのかなぁ……!」

「全員です」

「………………」

「こんな馬鹿なことをして、笑っている奴ら全員です」

「――――――――!」


結果この有様だよ……! だから雨宮も頭を抱えるんだよ!


「……考えてみれば、潜水艦の機関部だけを潰して、乗員が脱出もできないまま沈んでいくのを放置って時点で……うん、まともじゃないんですよ。
鳴海氏に対してもそうでしたが、蒼凪君は彼らとの対話などなどを一切捨てています。最初から」

「アタシらも『これやばくね?』って気づいたのは、やすっちが鳴海荘吉を公開処刑にした辺りだよ……。劉君、腰抜かしたらしいし」

「刃野警部補もねぇ……警察病院でビビりまくったそうなんだよ。恭文君が本気で鳴海さんや自分達を“どうでもいい”と思っているのが伝わって」

「でもあの、伊佐山さんとかあたしには」

「「まだ切れていなかったんだって……」」

「そりゃそうかぁ!」


ここまでバーサーカーめいた行動が多かったのも、全部そのせいだよ! コイツ、悉くを皆殺しにしないと気が済まないんだよ! 最悪だ!


(その15へ続く)








あとがき


ジンウェン(恭文)「――――はい! というわけでみなさんこんばんはー♪ 星見プロ所属のサブカル大好き自由枠! ジンウェンです!
……この挨拶も慣れてきたなぁ。特に星見プロの辺り」


(本日はジンウェンさん、配信業らしい)


ジンウェン「で、今日は最近配信されたばかりの遊戯王マスターデュエル!
この間の視聴者さんとのバトルも楽しかったねー。Vチューバー最強決定戦も楽しみだ!
が……今回はサムネでもでている通り、初心者向けのレクチャー配信! 特別ゲストも登場です。どうぞー」

琴乃「こ、こんばんは! 長瀬コトンおです!」

ジンウェン「琴乃、落ち着いて。日本人かどうかも怪しい名前になっているから……」

琴乃「あ……長瀬、琴乃です! 彼氏はいません!」

ジンウェン「そこも触れなくていいんだよ!? うん、相当緊張しているのはよく分かった! みんな優しくしてあげてね!
……こらそこ! 初恋はいつですかとか聞くな! ギリギリでラインを超えないようにするな!」

琴乃「初恋……あ、小五の頃、赴任してきた先生がかっこ良くて」

ジンウェン「だから答えなくていいんだよ!?」


(そう……アイプラ編ヒロイン登場です)


ジンウェン「えー、琴乃は春先に行われた新人発掘オーディションで、見事に星見プロ入り。
今度月のテンペストっていうユニットでデビューするんだよね」

琴乃「え、それはあなたも知って……実はそうなんです! 私がセンターです! リーダーです!」

ジンウェン「まぁ名字から察している人も多いだろうけど、亡くなられた長瀬麻奈さんの妹さん……ではあるけど、今回の配信ではその辺りは基本触れません! コメントも流すからねー!」

琴乃「え、いいの!?」

ジンウェン「どうせデビューインタビューとかでこれから大量に聞かれるんだし、そこはいいって。
というかね……よし、じゃあまた次の配信でゲストに来てよ。それでそのとき用のテンプレ解答をリスナーと一緒に作ろう」

琴乃「それ牧野さんが許してくれるかな……!」

ジンウェン「いちいち聞かれるのに疲弊して、メンタル琴乃になるよりはマシでしょ」

琴乃「私をメンタル最悪の代名詞みたいに言わないでくれる!? 心遣いとか台なしじゃない!」


(基本的に二人は息も合うようです)


ジンウェン「まぁそれで琴乃のお話なども聞きつつ、一緒に遊ぼうって趣旨だったんだけど……でも琴乃、なんでわざわざマスターデュエル?
僕、手軽に遊べるアソビ大全辺りでゆるーく勧めようかと思っていたんだけど」

琴乃「まぁ私もほとんど触れていない世界だったんだけど、あなたが所属してから対戦動画とかを見て……えっと、環境デッキ? それに制圧されまくっていたのに、そこから大逆転した動画とかで……ルールを調べながら見ると興奮して。
それで、せっかく同じ事務所所属になったわけだし、共通の話でもあればなぁと……駄目、かな」

ジンウェン「ううん、とっても嬉しいよー。この界隈、ご新規様は大事にするのが世の常だもの」

琴乃「ん……ありがと」


(なお配信上では琴乃はイラストですが、当人いい笑顔です)


琴乃「それでまぁ、アカウントだけは作っているんだけど……ジンウェン的にお勧めのデッキとかって」

ジンウェン「そうだなぁ……月のテンペストセンターとしてなら、月光(ムーンライト)デッキ? 獣人のダンサー達が戦うデッキだよ。カードイラストは……こんな感じで」

琴乃「あ、かっこいいかも。みんな月光を背負っているのが素敵」

ジンウェン「でもまぁそういうよいしょ抜きなら環境デッキ。鉄獣かエルドリッチを組もう」

琴乃「その答えで大丈夫!?」

ジンウェン「宣告やうららとセットの特別パック三つを購入して、マスターパックを向く。そこで多く出たカードを使う」

琴乃「本当に大丈夫!?」

ジンウェン「ソロモードをクリアしてもらえる剣闘獣やメガリス、不知火のデッキを強化していくのが分かりやすくてお勧めかな? カードパワーも高いし」

琴乃「本当にそれで大丈夫!? いや、私から聞いておいてなんだけど!」

ジンウェン「まぁまぁ聞いてよ……もちろん王道テンプレとして、使いたいカードを使うっていうのが一番だよ。そういうカードで勝つのがゲームの楽しさだしね」

琴乃「え、えぇ」

ジンウェン「ただ、それってカードイラストで一目惚れしたとか、パックを引いて初めてでたキラキラするカードとか、わりとドラマがある場合なんだよ。で、そういうドラマって始めた後の人が入りやすい。
そういうきっかけがなくて、単純にゲームを始めるって場合は……僕は環境デッキをお勧めすることが多いかな。勝てるからってのもあるけど、最新環境のカードの動かし方とか、そういうのを覚えるのにうってつけだし」

琴乃「……結構動かすのって難しいの?」

ジンウェン「上級者になればなるほど、より高度なことができるようになるゲームって感じだね」


(使いこなせなくては意味がないと、ジンウェン胸を張る)


琴乃「でも、ドラマの下りって……アニメは? 遊戯王ってアニメもやっているわよね」

ジンウェン「あぁ……アニメももちろん入るよ。僕もアニメ二作目の主人公が使っていた、E・HEROデッキから入ったし」

琴乃「あのネオスとかよね。……あれもかっこよかった」

ジンウェン「かっこいいよー。使っていて楽しいよー。好きなカードで戦うデュエルは気持ちから盛り上がる」

琴乃「だったらHEROデッキって勧めないのね」

ジンウェン「カード精製のレアリティが高い……あとHERO収録のパックを複数種類開けなきゃいけないから、パックガチャが地獄……」

琴乃「えぇ……!? あ、いや……でも、そうよね。あのパック開封の配信動画が……」

ジンウェン「OCG……リアルカードだとネオス、いくらか分かる? 中古品で奇麗な奴……一枚四十円とかあるんだよ? それが最高レアなんだよ。原作をプチ再現だよ」

琴乃「うん、見ていた! 動画で見た! 引くの凄い苦労していたよね! だからうつろな目はちょっとストップ−!」


(ジンウェン、結構課金したようです)


琴乃「た、たとえば……私、実はブラックマジシャンって気になっていたんだけど」

ジンウェン「同じくレアリティが高い部類だね。でも、確か必須カードもパック一つに収録されていたはずだから、E・HEROデッキよりは楽なはず……それにブラマジデッキはおもしろいよー。
純粋にエースモンスターを罠・魔法で守りながら戦うし、定期的に強化もくるし」

琴乃「そうそう! そういうのが聞きたかったの! ……じゃあそれで勧めてみようかな。ルールは……ちょっとずつ覚えて」

ジンウェン「うんうん。……あ、それならやっぱりまずはマスターパックが付く汎用カードセット購入からだね」

琴乃「それでいいの?」

ジンウェン「格安でUR汎用カードが手に入り、更にパックが十セット……三十パック向けるからね。それでブラマジ関係のカードが出たら、そのまま入れられるし」

琴乃「うん……じゃあまずは、パックを……け、結構どきどきするわね。ジンウェンが引いていたのは見ていたんだけど」

ジンウェン「うんうん……これもゲームの楽しみだよ」


(というわけで、セットを購入して……二十パックを向いたところ)


アーゼナウス『やぁ』

うらら『やぁ』

増殖するG『やぁ』

エフェクトヴェーラー『やぁ』

禁じられた一滴『やぁ』

無限抱擁『やぁ』

レスキューキャット×3『やぁ』

ジンウェン「…………って、滅茶苦茶神引きじゃないのさぁ!」

琴乃「え、あの……ジンウェン」

ジンウェン「全部どのデッキでも使う汎用カードだよ! いや、アーゼナウスはエクシーズできないと駄目だけど!」

琴乃「じゃあこれらを分解は」

ジンウェン「後悔すること間違いなし!」

琴乃「そ、そう……でもこの増殖だけは、消し去りたい……」

ジンウェン「琴乃、そいつはあれだ、グレムリンだよ。映画見たでしょ?」

琴乃「それも大問題じゃない!」


(あれも増殖するね。水は厳禁だ)


視聴者コメ『これがアイドルか』

視聴者コメ『ジンちゃんのときと輩出率が明らかに違うw』

視聴者コメ『ジンちゃんが爆死デフォルトなのが証明された瞬間』

ジンウェン「おのれらやかましいわ! 僕は爆死なんてしていない! 琴乃がよすぎるだけだ!」

琴乃「でも、ブラックマジシャン関連のカードは……やっぱりごちゃ混ぜ排出だから?」

ジンウェン「いや……その前に琴乃の排出カードだと、鉄獣戦線そのまま組めそうなんだけど」

琴乃「まさかの環境押しなの、私!」

ジンウェン「URが出ていないだけで、複数搭載の汎用SRは揃っているから……というか、レスキューキャット三枚は絶対使うってレベルのカード」

ジンウェン「えぇ……!?」

ジンウェン「あとはもうURリンクモンスターの≪凶鳥のシュライグ≫が出れば……」


(そして十パック目……)


凶鳥のシュライグ×2『やぁ』(ホロできらきらー)

琴乃・ジンウェン「「本当にきた!? しかもなんか滅茶苦茶きらきら!」


(その後琴乃は、鉄獣戦線で初めてみることにしたそうです。
本日のED:玉置成実『Realize』)


恭文「……昨日の配信、盛り上がったなぁ。琴乃がほんと……あんな排出、あるんだなぁ……!」

琴乃「……Wikiとかで調べたけど、私……あの三十連で主要パーツ全て揃えたのよね。うん、あの……チートを疑われるのも当然だと思った」

恭文「まぁでも、鉄銃はともかく汎用カードを大まかに揃えられたのは大きいよ。ブラマジ組むときもそこはポイント消費しなくて済むし」

琴乃「でも今パックを向くのは怖いわ……! 反動で爆死しそう」

恭文「あとは周囲に気をつけることだね。突然のトラブルとか」

琴乃「反動はゲームの外でも襲ってくるの!?」


(おしまい)





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