小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作) その7.6 『断章2017/誰でも師匠には弱い』 魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s その7.6 『断章2017/誰でも師匠には弱い』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……だーれが裏ボスだよ! アンタとは方向性が違うだけだよね!」 「そうそう」 「い!?」 そこで貸し切りなバーベキューフロア……その入り口に声が響く。 するとそこには、白いYシャツにミニスカという姿の……リーゼさん達だぁ! 「アリアさん、ロッテさん!」 「え、どうしてここに! 恭文くん!」 「知らない知らない!」 「……あの使い魔さん達!? いや、写真通りだけど!」 「初めまして−。でもそのワードが出るってことは、アタシ達の説明とかは不要な感じかなぁ」 「初めまして。……というかごめんね、突然押しかけちゃって」 「いえ……あ、なにか飲みますか? もう人数追加する分には大丈夫ですから……ご飯もどうぞどうぞ!」 「ありがと」 雨宮さん、そこで仕切って……いや、幹事として頑張っちゃうんですね。そういうところは見習いたいです。 「えっと……鷹山さんと大下さん、でしたよね。それで公安の赤坂さん。……初めまして、リーゼアリア……あ、姉です」 「アタシが妹のリーゼロッテだよー。よろしくー」 「よろしく……と言いたいが、なんでここに」 「そうそう。ちょうどさ、お二人さんの話も聞いていたんだけど……やっちゃん達も知らなかったみたいだし」 「……すみません。私が教えたんです」 それで出てきたのは……今度は歌織ちゃん!? 「歌織!」 「雨宮さん……みなさんも少しご無沙汰しています」 「うん、ちょっとご無沙汰! え、じゃあ……歌織ちゃんが教えて、このお二人もイギリスから?」 「そっちは元々来日予定があったからだよ。それで恭文君にも改めて挨拶とご奉仕をと思って、サプライズで訪ねたら……ほんと歌織ちゃんとお父さん達から聞いてびっくりしたよ!? 君が核爆弾を解体しただとか! またドーパント事件に巻き込まれて大騒ぎだったとか! 例の助けてくれたお姉さんと再会したとか!」 「しかもあの話もおさらい的にするって言うから、心配になってね。歌織に案内を頼んで、乗り込んだってわけ」 「三番目は違いますよ!?」 「まぁまぁ」 アリアさんは恭文くんを宥めつつ、雨宮さんをちらりとチェック。 …………やっぱり気づくよね。恭文くんの記憶……それに近い風貌だから。 そう、近い風貌だから……田所さんも見るし、舞宙さんも見るし、いちごさんも見るし…………。 「……うーん」 そこで悩まないでください! というか長い黒髪ってところで引っかかっているだけじゃないですか! それなら該当者多すぎますよ! 「まぁいいや。とにかくそんなわけだし納得して」 「また雑な……!」 「いやいややっちゃん、これは素敵なメイドさんで師匠じゃないのさ」 「そうね。私もその領域には到達できないもの」 「歌織!?」 ……とりあえず三人はドリンクメニューを見て、迷うことなく注文。タブレットでそれが送信されてから、適当に空いた場所に陣取る。 「それでやすっち、どの辺りまで話が進んだの?」 「二日目に鳴海荘吉が公務執行妨害をかまし、僕に逮捕された辺りです。 で……そうしたらこちらの田所先輩が、僕をタチの悪い裏ボスだとか言うので、そんなことはないと……ガチ裏ボスはリーゼさん達クラスなんだと説明していて」 「なんか私が悪いみたいな流れを作らないでくれる!? 私、素人! 素人枠だから疑問一杯なの!」 「……アンタはまた悪いくせが……気に入った相手に意地悪しちゃうのは、子どもだから駄目だーって言ったじゃん」 「ちょっとぉ!?」 「やっぱそうなんですね! この子、愛情表現が歪んでいるんですね!」 「障害の絡みで、普通の応対ができないからねぇ。ついつい気を引こうとするんだよ」 「えー、それは駄目だよー。ちゃんと告白しないとー」 「雨宮先輩―!」 恭文くんが早速追い詰められている……。というか先輩を気にしてちらほらとしているよ。 「しかし……その辺りも話しているということは、君達も魔法についてはあまり詳しくない」 「そう、ですね。そもそも蒼凪くんが初めてですし……確かその、はやてちゃんも魔導師さんで」 「資質的にはちょうど恭文君と真逆なんだよ」 「リインとのユニゾンで本領発揮なところは同じだけど……よっと」 ロッテさんは更に自分達のお肉も素早く注文。……猫だから肉食なんだよね。がっつり食べるし。 「はやてちゃんは持っている膨大な魔力を生かした、超長距離・超広範囲攻撃に特化しているの。 ただ近接戦闘スキルやその適性が全くない。術式の処理速度も滅茶苦茶遅いし、その制御も上手くない」 「確かにやっちゃんと逆だね。やっちゃんは近づいて殴るタイプだし、術式も凄く早く処理できる能力があるそうだし」 「はやてちゃんはシャマル達守護騎士に守ってもらいつつ、指揮を執り、その大火力を適切なタイミングでブッパするのが仕事になるの。 リインちゃんがユニゾンするときも、その弱点である速度や精密制御等々のフォローをしてもらう」 「……僕がやり合うなら、まずその守りを抜かないとどうしようもないんですよ。しかも一人一人がエース級魔導師だからもう手に負えない」 「……蒼凪くんが裏ボス同然なのも、一定条件が整った上でってことかぁ」 「もうオフを狙って毒殺した方が早い……」 「暗殺者の気質はちょっと隠してもらっていい!?」 「……聞いていると、対個人で、フィジカル技能が生かせる状況に限りという感じですね。特化している分穴もあるというか……いや、だからこそ暗殺行為のスペシャリストと」 赤坂さんの表現が正しい。だからやっぱり……万能無敵には誰もなれないということで。 ……そこは私にも突き刺さる。恭文くんも自分なりの可能性を追いかけている。だったら私はって……いろいろ考えちゃうんだけど……いや、それは後にしておこう。 「とはいえ、それは剣術家としての技術も使い尽くした上での話。 ……純魔法戦で言えば、やすっちの最適性はフルバック一本だ」 「なんですって。ですが、お話だと」 「僕、前線で殴り合うポジションに必要な“魔力の攻防出力”が平均以下なんです。 つまり魔法で攻撃を防いでも紙だし、魔法のみで攻撃してもナマクラにしかならない」 「ナマクラなの!? なんかこう、気合いでおりゃーみたいな!」 「できません。……デカイタンクに水が幾ら溜まっていても、そこの蛇口が小さければ出せる水の量も限られますよね。それと同じです」 「とどめにやすっちは、瞬間詠唱・処理能力との兼ね合いからか、純魔力弾の多弾生成・制御ができないんだよ……。 誘導系も一発だけならOKなんだけど、それじゃあ中衛として射撃戦を制するのも無理。当然出力が問われる砲撃もアウト」 「で、でも伊佐山さんを助けたときは、どがんって! ぶしゃーって羽広げて! ビームぶっ放して! 星みたいなのを集めて、ぶしゃーって!」 「ヴァリアントで構築した自作AEC装備や集束系でしょ? あれらは地力の魔法運用とは違うし、集束系も肉体の外で魔力を集めてブッパするから」 『なんだって!?』 あ、その前にみなさんだ! 新用語が出まくって混乱している! これは諫めないと! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新用語が出てきて混乱する俺達に、蒼凪がさくっと説明してくれる。 ……実は現在管理局では、魔法を無力化する機能や能力に対しての対策を整えている真っ最中らしい。 その原因の一つは、AMF……アンチ・マギリング・フィールド。 いわゆる結界魔法だが、これが展開した範囲内では、通常の魔力運用ができない……魔法が使えなくなる。 原理としては魔法を構築する魔力……その繋がりをかき消すそうだが、その原理もあって遠方からの魔法攻撃もかき消すそうだ。 元々はかなりの高難易度魔法なんだが、それを機械的に疑似再現する発生装置の存在は昔からあった。 問題は人型サイズなどの……自立稼働する戦闘兵器などに積み込まれた場合、どうなるか。というか、二年ほど前実際に出てきて、現在大慌てしているらしい。 とにかくそういう危機感もあって、本局の戦技教導隊や、先進技術開発センターというところを中心に、様々な試験が行われているらしい。 「CW……カレトヴルフ社という民間のデバイスメーカーと提携して、基礎理論を打ち立てたんです。それがAEC……電磁兵器。 それと平行して、デバイスそのものに対魔導殺しのシステムを搭載した第五世代デバイスなんていうものの開発も進んでいます」 「え、じゃあ蒼凪くんのあの、ライフルとかは」 「ヴァリアントシステム準拠なので、AEC装備寄りです。CW社で作っていた複合兵装≪フォートレス≫っていうのも参考にしつつ」 「フォートレス……!?」 「無線接続のシールドやカートリッジ式の複合兵装……術者を守り、矛ともなり、同時に翼にもなる武装一式です。 それ自体はエルトリア事変で恭也さん達の妹≪高町なのは≫が運用したのもあるので、そのデッドコピーって感じにしています」 「……なんか、魔法じゃない……」 ≪麻倉さん、それも当然ですよ。そう名義されているだけで、実際は自然エネルギーを元とした超科学ですからね≫ その科学の申し子なデバイスが言うと、説得力半端ないんだよなぁ……! だが矛であり、盾であり、翼……なるほど、確かにあれはそう定義できる姿だった。 「でもさ、それならあの、非殺傷設定? そういうのって」 「伊佐山さんを殺さず迎撃できる程度の低威力セッティングにしていたんです。じゃないとボディを打ち抜いて終わりにしかねない」 「……そんなに凄い……いや、レールガンとかもあるしなぁ。それも分かるけど……とにかく、そういう装備がないと、あんなドンパチもできない感じ?」 「あのときやったのはほぼ“苦手項目”なので……」 「だからやっちゃんの最適性は、後ろに控えてサポート……またキツいハンディ抱えて殴り合ってんだなぁ!」 「それで恭文君は、魔力や出力に頼らず、フィジカル技能中心で戦う……前線魔導師としてはかなり異質なスタイルなんですよ。 攻撃は基本避けるか払うかだし、出力任せに相手の多重防御を破らなきゃいけないから」 「舞宙ちゃんの言うこと、思い当たるわ……」 そこでユージが俺を見て苦笑するので、同じくと頷きを返してしまう。 「やっちゃん、魔法が使えてもそれで攻撃を防ぐようなこと、ほとんどしていなかったし」 「奴らがネット中継していたせいだとも思っていたが、元々そういうスタイルだったわけか……」 「舞宙っちに補足するなら、異質でありながら本質のスタイルでもあるよ」 「本質?」 「前衛型のやることはただ一つ。相手との技量・経験・出力差なんて知ったこっちゃない。 磨きに磨いた拳を、如何に相手の急所へ叩き込み、意識を……命を断ちきるか」 ……そこでリーゼロッテの手が閃く。すると蒼凪に手刀が打ち込まれ、その首に刃が当てられていた。 だが蒼凪も負けてはいない。同じように手刀を、リーゼロッテの腹に突きつけていて……瞬きする暇もないレベルで反応し、やり返していたのか。 「考えるべきはただそれだけだからね」 「このときもいっぱい、そう教わりました……」 「でも腕を上げたじゃんー! 女神様の前だからって油断しているかと思ったら……アタシは嬉しいよー♪」 「ちょ、ロッテさん! そこでハグは……ふにゃあーあ!」 「もちろんチューだってしちゃうよ!? んー♪」 「んむぅぅぅぅぅぅ!」 そうして繰り広げられる濃厚なベーゼには、俺達は軽く目を背けて……水音とか聞こえているような気もするけど、きっと気のせいだ。 「で、では、このとき蒼凪君が……そういった攻撃スキルを覚えなかったのは……」 「やるにしても突き詰める時間がないから。 あと、戦える人間のサポートって名目もあったから、補助や回復関係から覚えた方が効率的だったんです」 「ちょっとー! ロッテさん……あたしの前でそれは許せない! ちょっと離れて!」 「んぱぁ……じゃあ、舞宙っちも混ざる?」 「もちろん!」 「ちょ、舞宙さん! あの……ふなやああぁあぁあああ!」 「……ロッテには、後で説教しておくので、気にしないでください……! 舞宙ちゃんもだけど!」 「あ、はい……」 進めるしかないんだよ……! 俺達、アレに突っ込む度胸ないからね! というかがっつり唇って! ほっぺかと思ったら……そりゃあ激しいなぁ! 「なにより、瞬間転送もあるならフルバックとしてはまさしく理想型で突き詰められるので。 ……最後衛の仕事は、まず自分が確実に生き残り、味方を支援し続けることですから」 「……それで蒼凪の奴、やたらと生存スキルは高いのかよ……!」 「自分最優先味方二の次を大前提に、きっちり教えましたから。 回復と補助の知識と技術を持つ以上、最後まで死ぬことは許されないと」 その理屈も分かる。蒼凪がいの一番で倒されてしまえば、誰が回復や補助を担当するのかって話だ。 実際この間だって俺達は、蒼凪のヒーリングやらなんやらに頼りまくっていたからなぁ。もちろんシャマル先生もだが。 「しかも恭文くんには、ザラキエルというもってこいの能力もありますから。 最悪の場合はどこからかエネルギーを補給し、力を取り戻すことだってできます」 「……怖いもんだ」 「さっきのロッテちゃんもそうだけど、アリアちゃんもなかなかスパルタだねぇ……」 「恭文君自身きちんと道筋を立てて、私達も本気だーってことを伝えていけば、ちゃんと受け止めてくれる子なので。 ……ただ、障害特性上自分からコミュニケーションを進めるのが苦手な子だし、認知の歪みもあったから」 「認知の、歪み?」 「役に立てない……弱くて力がなくて、普通になれないのなら誰からも必要とされない。 それが世の中では……普通で、当たり前で、それを疑問にも抱かない。そういう認識ですよ」 「「…………」」 あぁ、なるほど。そういえば蒼凪も初手で、現状には思うところがあると吐き出していたな。その辺りで齟齬が生まれていると。 「だがそういうの、いわゆる優生思想……だよな」 「だから歪みとは言いましたけど、全く間違いかと言われると……私にも否定できません。 というか、優生思想については個人の判断という形で続いていますし」 「……だったな」 「タカ」 「リベラル優生学というのがあるんだよ。 最近なら出生前診断などで、障害の有無なども調べられるそうだが……結果がクロなら中絶も選べると」 「昔のSFかよ……!」 「とはいえ一方的に批判もできない。障害児を産んで育てるというのは、奇麗事でもなんでもないからな」 「そういう意味では、恭文くんも……そんな個人の取捨選択で切り捨てられていたかもしれない命、なんです」 「風花ちゃん……」 ユージが堪らないと首を振る。だから蒼凪は、それが当たり前の社会に対し、決して明るい感情を抱いていなかったのだと。 ……だとすると鳴海荘吉は、そんな必死の叫びすら踏みにじったわけか。それは信頼関係など結べるわけもない。 「……もちろん、自分がまだ恵まれていて、いろいろ幸運だっていう自覚もありましたから。 その上で考えあぐねていた感じです。だったら自分は壊し、殺すなにかと、どう向き合うのかって」 「それを当たり前にはしたくない。したくないならどうするのかって感じ?」 「その上で、それが当たり前な世界とどう向き合うか……。 なので、そこは私達から踏み込み、信頼関係は絶対揺らがせないようにって気をつけていました」 「あんな風にか……?」 「だから人前は避けていたんです。それこそお風呂とか、添い寝したりとかで……ロッテ−! 舞宙ちゃんもそろそろ止まろうか! 恭文君、ちょっと頭ぐるぐるし始めているから!」 よかった! メイドは強かった! 人前を避ける心は教えてくれるわけか! 「えー、久々にやすっちとコミュニケーションしているのにー。というか、核爆弾の下りで滅茶苦茶心配だったのにー!」 「あたしも……昨日はいちさんの家でお泊まりだったから、ちょっとジェラシー」 「それでもやめようか! 話が続かないもの!」 「そうだね。あの、私から見ても蒼凪くん、辛そうだし……あの、大丈夫?」 「は、はい……でもあの、なんか、ドキドキしすぎて……ごめんなさい。ちょっと見られないです」 「ん、いいよ? というか……今は見ても気にしないから。 ほら、私も魂、輝いているわけだし? そりゃあ仕方ないってー」 「伊藤さん……!」 そして蒼凪は救出され、もじもじしながら顔を伏せて……ここは、触れないでやろうか。伊藤もおどけて慰めているしな。 「でも蒼凪くん、それなら僧侶的な感じなんですよね。それで剣術も続けて……」 「いいのいいの。自衛にもってこいのスキルだし、無駄にならない」 「というか、やすっちは将来的に、全部のポジションを担うーっていうのが完成形だから」 「……全部!?」 「前衛、中衛、遊撃役、後衛……それぞれに“これなら誰にも負けない”と鍛え上げたスキルを振るいまくって、味方を支え守り、道を切り開くストライカーの究極系さ」 「スーパーオールラウンダー……兄弟子のサリエルさんくらいしか該当者がいないという、優秀な魔導師に与えられる称号の一つだね」 『えぇ!?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 全部……全部だとぉ! いや、だが待て……そう考えると……! 「……蒼凪は剣術家で、後衛的な魔法も覚えていて、転送魔法もあるから……遊撃もできるよな……!」 「だね! ということは、あと一つだよ! 中衛だよ! それもヴァリアントとかで埋めれば完璧!?」 「障害特性も絡んだ思考能力……戦術家としての一面もあって、恭文君本来の最適性ポジションはそこなんです。 ただまぁ、魔法資質って先天的なものですから。そこに折り合いを付けつつ、それぞれに武器を作って磨くってのは……結構時間がかかるので」 「ほんで蒼凪くん、鍛えまくっていずれはそんな凄いのに……え、でもストライカーって」 「チーム戦の要であり希望……これなら絶対に誰にも負けないと鍛え上げた技能を持って、困難を打ち砕くスペシャリスト。そんな魔導師に贈られる称号だよ。 ……特化した技能はそれ自体が矛であり盾。それを自分とは違うチームメイトとかみ合わせれば、より盤石な体勢が作れるからね」 「……なんか、あたしらのステージや歌みたい」 「そうだね。わたし達も、得意なことをかみ合わせて頑張るし……でもそっかぁ。 蒼凪くんには蒼凪くんなりの“歌い方”があったってことなんだね」 それが全部……それぞれ鍛え上げて、使いこなした上での話ってのも凄いなぁ。 そう考えると蒼凪は大器晩成もいいところだ。その素養を見抜き育てるのも楽しみだと、リーゼ達は笑っていて。 「でも魔法能力だけで、その中衛は……やっぱ難しい感じ?」 「レ、レベルを上げて、物理で殴る方が楽しいので……」 「魔法を投げ捨てないで!?」 「せめて狙撃……狙撃……。 この間の一件で痛感したんです。狙撃なら、数はいらない……!」 「狙撃とか魔法でありなの!?」 「それはアリだよ。人質がいる場合の鎮圧とかでも求められる技能だし」 「実際地上部隊には、地下ですら弾丸を届けてしまう超凄腕ストライカーがいるっていうしねぇ。 うん、悪くないと思うよ? やっぱり後衛よりだけど」 「……近づいたら刀ぶん回してきて、離れていても狙撃で援護してくる僧侶……!」 夏川が羅列したワードに恐怖し、思わず身震いする。というか、俺達も恐怖だよ。 そう言えば蒼凪、足を潰された後、俺達をそうして援護してくれたからなぁ。あれから気づきを得たとしたら……怖すぎる……! 「あとはAMF対策だね。幸い恭文君は、物理的斬撃って武器もあるし」 「あ、そういえばメタ兵器が出ているって……普通の魔導師さんだと辛い感じなんですか?」 「ミッド系……射撃や砲撃などで戦うオールラウンダーは、展開した結界濃度を超えられなきゃ全部無効化。もちろんその中に取り込まれたら無力化だしね。 更に恭文君みたいなベルカ式も、内部では魔力運用や武器の威力強化ができなくなる。素の技能で複合合金のドローンをぶった切れと言われるから、これも難しい」 「なら蒼凪くんは……」 「魔力がなかろうと潰せるよ。……だって、薬丸自顕流だし……!」 「地軸を叩き斬るわけですね! 理解しました! というか蒼凪くん……そっかー! いわゆる環境トップキャラだったわけだね!」 「ようやく僕の時代がやってきたので」 夏川、その環境トップってなんだ! 後でおじさんにも教えてくれ! 蒼凪も自慢げだしなぁ! 「でも自分から、得意分野以外で気づきを得たのはいいことだよー。 無線誘導制御端末を装備させて、オールレンジ攻撃―とか以外にも選択肢があるとさ? 応用が利くし」 「なんだって……?」 「いわゆるビットやファンネルだよ。 やすっち、その操作に必要な空間認識能力が卓越していて……」 そこでリーゼ達が映像を見せてくれる。どこかの訓練場で、蒼凪の周囲には六本の剣が浮かんで……。 『……いけ! セブンモード・クアンタ!』 それが縦横無尽に飛び交い、並べられた標的達を次々と斬り裂く。それはもう……剣閃の残像も含めて、なかなかに美しい映像だった。 「ちょ、リーゼさん! その映像はー!」 「え、蒼凪くんこういうのできるの!? 魔法の弾丸は無理なのに!」 「その弾丸を作って、地力で制御してーってのが苦手みたいで……。 だからあらかじめ端末にサポートのプログラムとか、設備を組み込んでーとかなら、なんとかなるんです」 「というかほら、天ちゃん……恭文君はあのときもやっていたから」 「あ、うん。ちょうど思い出してた。あの、シールドが独りでに飛んでびゅんびゅん……!」 ……あの刃物が出てくるシールドもビビったが、それ自体がビットの類いだったのかよ。 それで伊佐山を滅多斬りしまくったとなれば……そりゃあ対応できるはずないよな! まさしくガンダムの世界だぞ! 「だったらこれいいじゃん! これならその中長距離!? しゅぱーってできるよね! というかできていたよね! ……でも、なんであのときはこのビット? もっとなかったのかなぁ」 「伊佐山さんの能力だと、ぶつけると同時に再構築ですから。さすがにもったいないので、会えて旧式の機動兵装ウィングにしたんです」 「じゃあ最新式はビットでびゅんびゅん!? いいじゃんー! なんかすっごい強そう!」 「あの、また魔法を投げ捨てていないかな! 物理のレベル上げちゃっているからぁ!」 そうだよ……伊藤の言う通りだよ! お前、それで魔法要素ないよ! 明らかに物理で殺す構えだよ! 「……は!」 雨宮も気づけ! 乗っかるより前に疑問を抱いていいと思うぞ!? 剣が飛び交うんだからさぁ! 「それを言われると弱いんですけど……やっぱりこの間分かりましたから。対物ライフル、便利だなって」 「なんだって!?」 「だからヴァリアントで作れる兵装に、対物ライフルっぽいのも組み込みました」 「やっぱり狙撃ですか! でも魔法使い要素をもうちょっと組み込もうよ!」 「でも便利なんです、対物ライフル。 ……このときも作れたら、鳴海荘吉の顔面を砕けたんだけどなぁ」 「怖いよ!」 「殺せるならこのとき殺しても問題なかったので……」 「恐怖を増大させるのはやめてくれないかなぁ!」 駄目だ、蒼凪は手遅れだ! 完全に物理で殺すことに囚われている! 伊藤も頭を抱えちゃったよ! だが……空間認識能力か……。 「空間認識能力……確か、あれだよな。三次元空間で、物体がどういう状態かとか……動きや形も含めた関係を、素早く紐解く」 「そう……空戦を修得するのにも必要なスキルだよ。やすっちがたった三か月ちょいで合気やらも覚えたのは、元々その能力が馬鹿高かったからだ」 「しかも高めるための修行を数年単位でやりまくっていたんです」 「修行……」 「プラモ作りや編み物、絵を描く、瞑想、好きなスポーツ……武術などに取り込む。 あとは療育施設でやっていたボードゲームなどなどですね」 「おいおい……それは……!」 「……鳴海荘吉が否定したものだよね……」 ユージの言う通りだった。つまり蒼凪は最初から滅茶苦茶素養があって強かったわけでもなく、日常的にそういう修行を重ね、成長した結果……ここで戦えているわけか。 だが空間認識能力と言われたら、俺とユージは納得せざるを得なかった。……コイツ、普通に対物ライフルの狙撃を察知し、切り払ってすらいるからなぁ。 「うあぁあ……いたたたたたた……!」 「……って、雨宮はどうしたんだ」 「あ、気にしないでください。天さん、ダンスが苦手で……前に空間認識能力が弱いって指摘されたことがあって。 ……でも……蒼凪くん、歌やダンスとか、人に合わせるのが苦手だって」 「……記録映像とかで見ていたらやすっち、自分で言っているよりもずっと動きとか機敏だしよく覚えているのよ。むしろ周囲の子よりめっちゃ頑張っている。 でもさ、団体ダンスとかって一人で気張って目立っても意味ないわけじゃない? しかも子どもがイベントごとでやるものだから、いろんな意味でバラバラなのが当たり前だし」 「それで指導する先生も基本素人となったら、そりゃあ出る杭を打つ方が楽に決まっているんだよ……。それで苦手意識だけが残っちゃって、今でも引きずっているの」 「り、リーゼさん!」 「えぇ……!」 なんだよそれは! じゃあ蒼凪は完全に被害者……いや、だがそうだよな! 蒼凪、六歳当時から運動能力は高かったんだ! むしろなんでできないのかって疑問は持って当然だぞ! 「で、でもこういうの、日常生活では……気づきにくいですよね。蒼凪くんのお父さん達や御影先生って人は」 「全く分かっていなかった。というか、御影先生からその話もされていたのに、さっぱりだったんだよ……」 「魔法どうこうは特殊としても、あらゆる場面で役立つ分、仕事の選択肢も幅広くなるのにね……。 ……だからちょうど同じ頃、当人達は改めて……説教混じりに会長達から説明されて、滅茶苦茶ビックリしていた」 「やっぱり、いろいろ焦っていたというか、不安だった感じなんでしょうか……」 「希望を持ちたかったっていうことなら、分かるけどねぇ」 親として、努力すれば普通に生活できる……できないはずがないという希望か。 まぁ自分達がいなくなった後などを考えると、不安にはなるだろうがな。 ただそれなら余計に、蒼凪の素養を大事にと言ってしまいがちだが……それもまた他人ゆえの放言。 蒼凪夫妻も当時はそこまで余裕がなかったんだろう。あぁ……なかったんだよ。 「そういう不安を煽っていたのが、ローウェル事件……それを利用して、甘い汁を吸おうとしていた丸居久って政治家とかだよ」 「……その話は、お二人が来る前に少し聞きました。 というかあの、赤坂さんとかが……よく鳴海さんを殺さなかったなと、戦慄していて……!」 「うん、私達も戦慄したよ。あのときの恭文君にとって地雷の一つだっていうのは知っていたし」 「あのクソ親父、そこまで言ったらもう取り返しが付かない……戦争だろうってワードを、容赦なくぶちまけたんだよ……! しかもそれで取り返すとか宣うの! それ自体も更に地雷を爆破させるってのにさぁ! ほんと頭痛かったし!」 「知識もなく、理解しようとする気概もなく、あの子に近づくことそのものが害悪だっていうのにね……! なので私達から改めていづみちゃん……PSA本部にお願いして、恭文くんの周囲には近づかせないことにしたの」 「あの、それって……」 「接触禁止命令だよ……」 「…………」 そこで麻倉も……俺達も痛感する。どうして蒼凪にとってローウェル事件が、そこまで重たい話として絡んでくるのかを、改めてだ。 鳴海荘吉は確かに、悪意などなかったのかもしれない。厳しい言葉だが励まそうとしていたのかもしれない。 ……一人でできることに閉じこもっていた子どもを叱り、そんなものより友達と仲良くしろと……外に楽しさを見つけろと、愛をぶつけたのかもしれない。 だがそもそも、蒼凪を理解しようと……知ることもしようとしなかった奴に、そんなことを言う権利は、あったのだろうか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 鳴海荘吉の愛……厳しさを伴う愛。それは否定されて然るべき悪だった。 そう結論づけられる中、リーゼロッテが肩を竦める。 「まぁそんなやすっちを鍛えた経験からも言えるけど、みんなの疑問はどんな仕事にも言えることだよ」 「確かに……鍛えるための時間も、余裕も、有限ですしね。リーゼロッテさんも、先ほどその点に触れておられましたし」 「しかし難しい問題だよ。組織的なことを言えば、それを当人の自主勉強などに丸投げしてしまうときもある。決してよろしくないことだ。 特に管理局は……武力が魔法資質を持った人間に依存している分、そういうやりくりが大変だったしね」 「それでも景気などに影響されてどうしてもというときはありますよね。 民間の会社さんだとより顕著だ」 「しかも舞宙ちゃん達のように表へ出る仕事だと、速度やマルチタスク的なのも求められる」 「そうですね。やっぱりみんなとするお仕事だし……いろいろ、難しいところはあるなぁって」 そこで舞宙さんが……というか田所さんがちらりと、恭文くんを見て……。 「実はさっき、まいさんや天さん達がいる事務所さん達が、発達障害の新人……社員さんも含めて、どう受け入れようか考えているーって話をしたばかりで」 「そこはまぁ適材適所じゃない?」 「だね……」 「ばっさり!?」 「……先輩、ロッテさんとアリアさんも、いろんな人を見てきた先生ですから」 「それも数十年単位だしね……」 「あ、そっか」 「やりたいこととできることが違うのなら、そっからどう踏み出すかを向き合う……そういう時間を作る。人を育てるのなら、それくらい腰を据えた姿勢が必要なんだよ」 「…………」 外見年齢的には舞宙さん達とさほど変わらない。でも、ロッテさんから出された言葉の重さ……深さに、田所さんやみなさんも目を見開いて。 「逆を言えば、組織として……その時間を確保しない姿勢はやっぱり大問題、ですか?」 「限られた中でどこまでそれを伝えられるか……目的をすり合わせられるかっていうのも、指導する側のテクニックだしね。 ……でもそういうことを言い続けていたら、やっぱり上も“人を育てるノウハウ”が掴めない」 「素人はそこで駄目だししかできないとはよく言ったものだよ……。 改善点の洗い出しも、その解決も、当人に全部丸投げするのが仕事と勘違いできるんだし」 「…………突き刺さります。ポプメロだけじゃなくて、私達みんな後輩とかもできるような立場になりつつあるので」 「どうしよう……リーゼさん達のお話、もっと聞きたいかも!」 「いいよいいよー。まぁやすっちの話を進めつつね」 「「はい!」」 「……いちごさん、先輩と山崎さんが滅茶苦茶目をキラキラさせて……」 「作品のセンターとして、いろいろ思うところはあったんだよ」 いちごさんがそう宥めてきて、恭文くんは納得……なんだけど……。 「え、でも……凄い食いつきですよ? 恭文くんの話、もうダイジェストで終わらせるべきじゃないかって思う程度に」 「うん……それは、思った」 「まぁ、いろいろあるんだよ」 「「いろいろ……」」 あぁそっか。作品とかお仕事絡みで、私達には……この場でも話せないようなこともあるよね。だったらそこは納得しようと。 「というか……そうだ! まず蒼凪くんですよ! がちがちに半殺しな上、傷を治したと思ったらそれも鳴海さんが不利になる形になっていたとか! さすがにどん引きなんですけど! みなさんは止めなかったんですか!?」 「止められなかったんだって……。私達、諸々の手続きで到着が遅れたし……到着したのは翌日朝一番」 「まさかいづみっちも止めずに見ているだけとか……あ、でもやすっちも反省はしたよね」 「そうなの!?」 「この後、ウェイバーとバトスピして負けた……ボロ負けした……。 僕はまだまだ修行が足りない。あんなクソ雑魚ナメクジをいたぶっても自慢にならない。もっと修行しないと」 「私が想定している反省と全然違うんだよなぁ! というか、なんで足を狙った!?」 「嫌だなぁ、先輩は……僕にボコられても“それでも立ち上がる”とか言うから、だったらやってもらおうかーって話ですよ」 「えぇ……!?」 恭文くん、朗らかに返さないの! ほんとそこサイコパスだからね!? 「……やっちゃん、相当陰湿だよなぁ」 「うん、知っていたよ。お前、伊佐山のときも殺さないだけで、インジャリーに縋ったことそのものを間違いだと突きつけまくったしさ」 「だから立ち上がる足をぶった切った上でとか怖すぎるんだけど! 私達、割とびびっているからね!?」 「先輩はなにを言っているんですか?」 「はぁ!?」 「死なないメモリなんですよ? だったら斬っても再生くらいすると思うじゃないですか。普通は」 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「まぁまぁ、田所さん…………別にいいじゃないですか」 もちろん言いたいことは分かるけどと宥めて……つい、怒りが胸の奥から吹き上がった。 「聖職者の魔法でダメージとか、もはや人間じゃないし……人間じゃないなら殺してOKなら、これくらいの仕打ちもOKですよね?」 「風花ちゃんも怖い……って、なにそれ!」 「……ふーちゃん、このときは試していなかったからね? 異能力なしでドーパントを殺す実証がしたかっただけで」 「あ、そうだった……」 「あの、蒼凪くん……」 「プリースト……聖職者の魔法。このとき苺花ちゃんが“肌身離さず持っていたガイアメモリ”であり、苺花ちゃんに最も適合する一本です。 ……フィリップ」 「プリーストの能力はただ一つ。傷や痛みを癒やす能力だが……一つ特性があった。 聖職者という性質から、その能力そのものがある種の浄化作用をもたらす。もっと言えば、オカルトでよくある『悪魔や怨霊の類い』を払いのける力だ」 「悪霊や怨霊……スカルのメタか! ゲームでよくある、回復魔法でゾンビ倒しちゃうやつ!」 「それだ」 ……さすがにそっち関係に近い人間が多いから、雨宮さんも……みなさんもすぐ納得してくれる。 逆に鷹山さん達は小首を傾げているけど。 「ちょっと待て。雨宮、映画はともかく、ゲームではそういうのって多いのか?」 「あります! それこそドラクエとかでも!」 「僕も……ワイルドアームズセカンドイグニッションっていう、超有名タイトルの二作目で覚えたんです。 中盤まで戦っていた敵組織ボスの亡霊が、壊滅させたアジト跡で待ち受けて再戦って展開があるんですけど……」 「それあたしもやった! めっちゃ強くて詰まったんだけど、回復魔法一つかけたらワンパンなんだよね!」 「でした!」 わ、意外な共通点が見つかって仲良しさんだ。私もちょっとそっちは専門外で、聞いてびっくりした方なんだけど……。 「なら、蒼凪が思いついたというのも……そういうところから」 「選択肢の一つとして入りました。そういう浄化というか、概念的な……属性的なものならOKかもだと。 あと、全体的に打たれ強いってだけで、肉体の耐久度を超えるような攻撃には基本無力というのも分かりました」 「腕、ぶった切っていたもんな……」 「それだけじゃなくて、ブレイクインパルスも通じましたし」 「……なんだって?」 「実は骨を折ったのは、魔法なんです。 接触した物質に対して、振動を送って破砕するっていうもので……」 「そこはアタシが教えたんだ。 まぁ物質破砕には固有の振動数があるから、その割り当てにも時間はかかるけどってね」 ロッテさんが言う通りの弱点はあるけど、大型のゴーレムとか建造物相手には強力だし、覚えておいて損はないと教えたそうなの。 ……ただ、問題が二つ。当然ながら人体などにも強い影響を与えることと、恭文くんとの相性が善すぎたこと。 「ただ……やすっちの瞬間詠唱・処理能力は、その割り当ても瞬時に行えるんだよねぇ」 「おいおいおいおい……!」 「で、その辺りの耐久性も調べるのを込みで、全身じゃなくて限定的に……関節をへし折ったってペテンも込みで、使ったんだよね」 「殺してよかったなら、座捕りをやった時点で全身ミンチにしているところなんですけどねぇ……」 「それでやっちゃんは躊躇いなしかよ!」 「まぁでも、有意義な実験ではありましたよ。……スカルの不死性とやらは、あくまでも嘘っぱちで半端者。 種類を問わず物質破砕に特化した攻撃なら通るし、それが無理でもドライバーを一点集中で攻撃することでも倒せる。 もちろん骸骨……不死者に対してのメタにも弱い。こっちは言った通り試せませんでしたけどね」 「それで実験って言い切りやがったし!」 「だが的確だ。ドライバーが変身の軸になっているなら……って、待て。蒼凪、お前まさか」 あ、鷹山さんは気づいたみたい。なんで恭文くんが、このタイミングでここまでしたか……その意味と理由を。本当の目的を。 「確か幹部クラス……園咲家関係者は、全員ドライバーで変身するんだったよな。 ロストドライバーやダブルドライバーも、基本向こうの物と同じで」 「えぇ。だからドライバーを使用したドーパントとの戦闘経験も、詰めるなら詰んでおきたかったんです。最初はズルですし」 「それで鳴海荘吉か……!」 「大量失踪・変死事件の重犯罪者だと知らしめ、奴を助けるような輩に警告し、あぶり出し、孤立させるにもちょうどよかったので。 だからもう、僕は内心大笑いでしたよ。僕の安い挑発に乗って、宣言通りに男の拳とか、愛とか言う暴力を振るってくれたので」 「いやいや……無理に変身させたよね! その上で蹴り飛ばしてさぁ!」 「先輩、そんな証拠はどこにもありませんけど」 あ、そうだよね。そこも大事だ。だから田所さんには、それで問題ないんだと私も頷く。 「鳴海さんが、普通に変身して襲ってきて……だからって感じだったよね。 私もそう証言したし、いづみさんも証言したし。まぁ、翔太郎さんはそれをかばって嘘八百並べ立てていたけど」 「風花ちゃん!?」 「そうそう……証拠がない以上、それらは裁判では事実として扱われないんです。つまり嘘を吐いたのは翔太郎であり、鳴海荘吉なんですよ」 「それえん罪だよね!」 「なにより、それが嘘だったとしても大して変わりませんよ。 重犯罪者の分際で人様の家庭に踏み入り、いろんなものを滅茶苦茶にして反省一つしない人でなしなんですから」 「裁判でも断言されていたよね。その下りが嘘だったとしても、子どもにそこまでさせた鳴海さんに非があるって……裁判長自ら、堂々と」 「えぇ……!」 「スカルを殺しうる記憶……その一つは、この世にしがみつく悪しき魂を浄化する聖なる力。もっと言えば“信仰”だったわけだ。 鳴海荘吉という名探偵にとっても、彼を慕う翔太郎のような人間達はその一種だったわけだ」 フィリップさんもこの下りは知っているから、少し悲しげに目を伏せた。 「まぁこの辺りは、蒼凪恭文の専門だね」 「まぁね」 「なので彼女達への説明は任せていいかな? ボクはどうも無理そうだから」 「持ち上げて押しつけるんじゃないよ!」 「いや、でも分かりやすくなら俺も助かるかも。そこはほれ、やっちゃんの課長パワーで」 「大下さんまで……………あ、そうだ」 早速思いついたらしく、恭文くんは軽く拍手を打って……まずは雨宮さんに向き直る。 「たとえばの話です。雨宮さん達のパフォーマンス……音楽や歌唱、ダンスに使われている技術全部が分からなくても、楽しいって思うのは……悪いことですか?」 「え……」 「その技術を全部紐解けるのなんて、一部のプロだけです。でもそれが“よく分からなくても”、ライブが凄くて、楽しい。また行きたいと思う……そういう気持ちは、雨宮さん達にとって力になりませんか?」 それは嘲りにも聞こえる言葉だった。でも違う。恭文くんはただ真っ直ぐに問いかけていた。 ……だから雨宮さんは……人見知りだというのに……真っ直ぐにその目を見返して、首を振る。 「……そんなことないよ」 その言葉は、恭文くん自身や、恭文くんがよく知る“誰か”も含んだものだと思ったから……ううん、それ以前の話かな。 目的も、夢も、見上げたものだって違う私達だけど……それでも裏切れないものがあるからと、胸を張っていた。 「そういうのが上手く分からなくても、楽しいって……また来たいなって思ってくれたなら、すっごく嬉しい」 「……よかったです……っと、説明が必要ですよね」 「ん」 「今フィリップが触れた信仰……異能の基盤も、同じことなんです。 そういう不思議なことの詳細は、専門家じゃないから分からない。でもそれがある……そう知ることはできる。 その気持ちが世界そのものに見えない作用を生み出して、僕達が振るう異能の根幹……よくある魔力の元になっているんです」 恭文くんは雨宮さんの言葉に……真剣に返してくれたことにどこか嬉しそうな顔をしながら、タブレットにさらさらと図式を書く。それをみんなで覗き込んで……。 「それは、その手の浄化術式やら、専用の武装についても同じです。 ――そういう存在は、この世にいてはいけない……“向かうべき場所がある”という基板がありますから」 「そういう話も、改めて……言峰さんや凛ちゃん達から教わったよね」 「浄化の力もその基板……そういうものを信じる気持ちで動いて、スカルも痛めつけちゃう? その、原理が分からなくても」 「分からなくてもです。 ……そもそもそのメモリに使われる記憶も、地球のデータベースという“基板”に刻み込まれた信仰……神秘の一つ。 だからメモリの力を投影するなんて無茶苦茶もできたんですよ」 「だから魔術協会の人達も、そういうものを悪いことに使っているならーって……怒っちゃっていたわけか」 「当然おじさんもその粛正対象に入っています」 ……それこそが、鳴海さんを殺す理由……風都を壊滅させてでもと、人でなしの世界で生きる人達が出てくる理由だった。当然その思惑も絶望しかないので、雨宮さんもぞっとする。 「繰り返すようですけど、魔術協会や聖堂教会も……いたずらに雨宮さん達が暮らす“普通の世界”を混乱させるつもりはないんです。自分達がその普通とは適合できない『人でなし』って自覚もありますし」 「だから、それで迷惑かけちゃうような人達には……がつんとお仕置きしちゃう?」 「実際僕も、ウェイバーから魔術を教わるとき、その辺りを破れば必ず殺すと断言されました。 そして僕もまた……そういう奴の命を奪うことは躊躇うなと」 「人でなしなりに、きちんとルールを定めて……かぁ。 でも……それなら苺花ちゃんは? そんなメモリを持って、確証の上で暴れて……そこまでやったら」 「……もう魔術協会からも粛正対象として見られてもおかしくない」 「ここでやすっちが潰しにかかったのは、慈悲の心だと思うよ……」 ロッテさんもその点はあきれ果てたと、ため息交じりに首振り……。 「苺花ちゃんが厄介だったところはね、成功体験が“父親を破滅させたこと”……暴力が通ったことなんだよ」 「暴力……」 「そんな相手にあのまま喧嘩を売ったら、腕や足……目が潰れる程度じゃすまなかった」 自分を理解せず、追い詰め、恭文くんっていう大事な子を否定し、夢まで踏みにじってそれが正しいと笑ってきたクズ……それを、暴力で圧倒した。それが嬉しくないはずがない。気持ちよくないはずがない。 あの子は暴力の頼もしさを……素晴らしさを思い知ったんだよ。それも恭文くんみたいに、“力を抜く覚悟”などを教わらずに。 恭文くんも同じ危うさは抱えていたけど、御影さんの教え方がよかったから……それだけじゃない何かも……ぼんやりでも掴めていた。だからミュージアムにも抗えた。 ……だけど、苺花ちゃんは違う。暴力という成功体験に取り憑かれて、それで全てなんとかなると考えて……それに対して鳴海さんは、子どもにげんこつでも打ち込むノリで、叱って止めればいいとタカをくくった。 それも暴力なのに……あの人は嘯いていた。それは暴力とは違う。子どものためを思っての叱責で、伝わらないはずがない。それを理解できないはずがない。できないのは異常だと見くびった。 だから洞察も、想定もしなかった。自分の持っている暴力が劣っているとも、あそこまでズタボロにされるとも……だったら腕や足くらい失っても当然だと思う。 それもまた、苺花ちゃんのお父さんが侵した過ちと同じ。自分の暴力が相手より上だと驕ったからこその報いだもの。 「それは、決していいことじゃないですよね。やり返されて、そのまま新しい成功体験になっちゃったら……」 「アタシらもこのとき改めて勉強したけど……発達障害の支援では、そういう小さなことから支えていくのを基本としているんだよ」 「脳の特性から、自分の意見や発想……そういうものを表に出すことから苦手な人も多いんです。 それを寄り添うこともせずに、自己責任や努力の至らなさってだけで潰して、放り投げたら……そりゃあ“こうなる“ってわけですよ」 「自分の意見……」 「なんか発言が薄っぺらいとか、自分が出ていないとか……よくあるでしょ。そういう抽象的な批判」 「それは、思ったことをそのまま言っていいんだよって感じでも? そういうのなら、演技の上で求められることもあるし」 「よく分からないです」 『………………』 恭文くん自身の実感としても告げられた言葉で、みなさんも沈黙してしまう。……本当に、そういうレベルから寄り添わないと……駄目なことなんだよ。 でもこのときはそれすら無理だった。時勢の問題などなどもあるし……本当に、ちょっとでも違っていたらとは……無駄なあがきと分かっていても、思ってしまうわけで。 「斬ると決めたなら迷わず抜く。 抜いたなら必ず斬る。 斬れなきゃ死ぬ覚悟を定める……それだけですし」 「それはちょっと待って!?」 恭文くんは正気なのかな?! しかも目に微塵の疑いもないよ! 雨宮さんも……いや、全部任せよう! 女神様だし、きっとなんとかしてくれる! 「で、でもこれ、本当に苺花ちゃんが……!? 東京での話し合いも完全に悪手だし」 「……うん、悪手だよ」 「だから苺花ちゃんも斬ります」 「そこで乗っからないで!? 雨宮先輩に甘えてくれていいから!」 「ちょ、いちさんー!」 「鳴海さんをそこまで憎んで潰そうとするなら……まさか…………」 ……山崎さんも気づき始めたみたい。悪手打ち……それがそもそもおかしいってことに。 私も……実はこの辺りから違和感が強くなった。ううん、それは最初からあったんだよ。 「……私もね、話を聞いたとき、妙に嫌な予感がしていた」 「いちさんだけじゃない……わたし達もだよ。 どうして風花ちゃんや恭文くんが、そこまで鳴海さんを毛嫌いするのかって下りにも繋がるところだったし」 「うん、違和感は最初から……一番感じていたのは風花ちゃんだよね」 「……恭文くんの次くらいですけど」 「だから皆殺しにします」 「「「落ち着いて!?」」」 どうして苺花ちゃんと同じく適合する可能性があったからって、同じメモリを差し込もうと……実験台にしようとしたのかな。 そもそもこの事件……そこから、いろんなものがおかしかったんだよ……! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「…………」 いろいろ思い出して胸を痛めていると、雨宮さんが、突然恭文くんの手をマジマジと……改めて見始める。 「雨宮さん…………僕の爪は食べるところもありませんけど……!」 「いきなり怯えないで!? ……蒼凪くんの手、奇麗だけど……タコみたいなのもあるなぁって」 「剣を握って、それだけ打ち込むとどうしてもって感じですね」 「感覚が不安定なときもあるんだよね。それでもあんなふうに、毎日?」 「ザラキエル……というかエナジーフィンの自然吸収で、体調を持ち上げつつですね。とにかく毎日……毎日やれば、一日分強くなる」 恭文くん、それ意味不明だからやめようねって言ったのに……まぁ、雨宮さんは納得してくれた様子だけど。 「そっかぁ。でも……だったら駄目だよ、そんなことに教えてもらったものを使ったら」 「いや、だから教えてもらったとおりに、やるなら殺すという構えで」 「そこじゃないんだよなぁ!」 「もちろんウェイバーからも教えてもらったので、きっちり殺して」 「そこも念押しかぁ!」 「恭文くん、あっさり答えないで……!」 本当にもうなぁ! 一般人の倫理観を鑑みて発言してよ! あとみんなどん引きしているのに気づいて!? 気づいていないとしたら、今気づいて!? 私が止めたことで! 「でも蒼凪君、それじゃあ鳴海氏では相手にならないよ」 「身長があと三十センチ……あ、このときだと七十センチくらいか。 とにかく体格差によるハンデがあるし、いけるかなーと思ったら……一体何をしてきたの? 十年も、戦いに身を置きながら」 「うん……どうしてだろうね。僕も分からないよ……」 「やっぱり根っこが悪魔じゃん、君! 公安エリートな赤坂さんすら引かせるとか!」 「先輩、それはガイアメモリで変身とかしない奴に言ってください」 「ブーメランだよ!?」 「僕はメモリで変身しなくてもぶっ殺せます。というか殺せなきゃ人斬りじゃない」 「同じことなんだよ!」 恭文くん……そこで気合いを入れないで!? そんなに『もっと頑張るー』ってガッツポーズしなくていいんだよ!? 誰も求めていないから! 「私は……今の……身長が同じくらいな恭文くんが、いいなぁって思う……けどなぁ……。ぎゅってされても、あんまり怖くないし……一緒にいろんなものを見られているし」 そしていちごさんも……よし、ツッコまない! 私はこれ、ツッコまないからね!? それより……。 「「「「「身長が伸びるのは駄目!」」」」」 舞宙さんと才華さんはなにしているのぉ! というか山崎さんとロッテさんまで! 「やっくん、それは駄目! やっくんは今がベストサイズだよ! 可愛い服とか着せてあげられるし!」 「だよねだよね! ガーリーなのとか、ゴスロリなのとかも似合うよね! 私も蒼凪くんにあんな服やこんな服を着せたい!」 「え、そんな話しているの!? だったらアタシも乗っかる! もうクロ助は大きくなって、体格的にもかわいげがなくなっちゃったしさぁ!」 「あのね、あたしは恭文君にそのままでいてほしい! 贅沢なのは承知でいてほしい! それにほら、大きさならもう十分だから! あたし、もうぱんぱんってくらいに満たされるし!」 「え、蒼凪くん……やっぱ大きいの? 胸触ったら一回りくらいフィーバーするって聞いているけど……って、そこじゃないよね! というかね、駄目だよ! だってほら……似合わなくなるよ? 猫耳と猫尻尾。今の体型と顔立ちがベストだって。あたし達が保証する」 「なんなんですかおのれらはぁ! 僕の成長期に対して限界を決めないでよ!」 「「「「「でも今が一番可愛い!」」」」」 「ロッテ……アンタまでなにを……!」 アリアさんも頭を抱えちゃって……というか、なにを口走っているのかなぁ! 私もそれは、知っているけど……いや、そこじゃない! 舞宙さん達、その話を雨宮さん達にしているの!? 彼女としてどうなんですか、それ! 「えぇい、もういい! 僕は一人でもすくすく育っていく!」 「だからやすっちは十分大きいって! 通常十五センチで、胸を触りながらそっから一回り……大きい胸だと二回りとかいくんだし! それが繋がりながらだと、中を広げられる感じなんだよ!? マジすごいし!」 「ですよね! あたし、あれでもうとろとろにされたし! 胸だけでイカされるとか初めてだったし!」 「アタシ達も!」 「じゃあいいじゃん! 大丈夫じゃん! 君は十分成長しているって! まいさんは、それと房中術のテクニックでめろめろだそうだしさ!」 「そう、アタシもめろめろなの! それはもう、小さい頃から洗い方のお作法とか手取り足取り教えてよかったと思ったよ!」 「ロッテさんもね!」 「黙れぇ! 揃ってまず黙れぇ!」 そして話を広げないで!? そのハーレムしているがゆえの感覚とか……不要だから! 今は話さなくていいから! どん引きだから! 恭文くんも顔真っ赤だし! 「……お前ら、ふだんどういう話をしているのか取り調べだ」 「鷹山さん、お願いします。もうナンちゃんともども厳しくしてもらって構いませんので」 「私からもお願いします! 彼女の一人としてさすがに認められないし!」 「ロッテのこともお願いします。……ロッテ、面会には行くから」 「「「なんでだぁ!」」」 「ちょ、もちさん! それわたし巻き添えー!」 「それにまぁ、蒼凪もまだ成長期だろ? ここからぐいっていうのはあり得るだろ」 「そうですよ!」 ほらー、恭文くんも不満たらたらだよ。尻尾を逆立てて、ふしゃーって勢いだし。 「いいですか、駄目大人ども! 人間は誰でも成長し、老いて、しわくちゃになっていくんだよ! 誰でもベストなタイミングを維持できないんだよ!」 「そうそう。俺も肌つやとかシワなんてもう……若い頃に比べたらなぁ」 「グレアム父様もそうですよ。食事の嗜好や生活ペースも変化しますし、若い頃のようにはいきません」 うんうん……恭文くんは良いことを言っていると思うよ。その通りだよ。私達だっていずれはしわくちゃのおじいさんおばあさんになるし。 「そうしていずれ僕も核爆弾を落とす肩になるんだよ! ありがサンキューなんてとちりをかますんだよ!」 そうして爆弾を落とす…………ん……!? 「でもそれでいいんだよ! それが人間なんだよ! そうやって誰しも死んでいくんだよ! そのために生きていくんだよ!」 「だなぁ。いや、蒼凪はその年でそういう真理を分かっているとか……ほんとよく勉強しているな。 人間、老いていくあるがままを受け入れる余裕も必要だ」 「そういう心構えだと、私も安心できるなぁ。あ、もちろん父様もね?」 「やっちゃんも止まれぇ! というかタカとアリアちゃんも気づけぇ! 俺と田所ちゃんに被弾させてんだよ! そう思うならどうしてちくちくいたぶるのかって言いたい程度に被弾させてんだよ!」 「ほんとですよね! あと、私達のベストタイミングがもう過ぎ去っているって体で話すなぁ! それを言えば貴様と鷹山さん達のクレイジーさも同じだからな! それがベストなはずないからな!?」 「この駄目大人どもが止まるなら、さしたる問題はないじゃないですか……」 「「大ありだ馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」 「田所、お前……うちのユージ君とそんな仲良しだったっけ?」 というか恭文くんと鷹山さんも駄目だった。……そうだ、とにかく恭文くんは落ち着かせようと、また頭を撫でてあげる。 「はいはい、みんな落ち着いてください! まだ話も大事なところがあるんだし……というか恭文くんは特に落ち着いて……!」 「ふ、ふにゃあ……」 「そこまで冷淡になる気持ちも……うん、分かるよ。 ……実際鳴海さんの報告書……全部暗号化されていたしね! 本当に無駄に面倒なことばかりして……殺して、やりたい……」 「風花ちゃん、また殺意が出ているから! 飲み込んで! 落ち着いて! 彼氏くんは炉端の石だって決めつけているから! そこだけでも見習って!」 「……かばうわけじゃないが、風花が言いたくなるのも当然だ」 「照井さん?」 「鳴海荘吉は事件の報告書……特にドーパントが絡んだものについては、暗号化した報告書を制作していた。それは事実だ。 が……全てではない」 そう、全部じゃなかった……全部じゃないものを、二年とかかけて解読させられたの。 「え」 「事件概要によっては、鳴海荘吉の胸の内に収めていた案件もいくつか存在していたんだ。 ……その中には犯人のメモリを奪い、隠しただけで終わり……えん罪事件を生み出していたものもあった」 「え……!」 「鳴海荘吉は、無実の人間がドーパントの犯罪をかぶり、代わりに逮捕されるのを見過ごしていた」 「代理出頭!?」 「当然大問題だ」 あの人は全然……街を守る名探偵なんかじゃなかった。そんな評価嘘っぱちだった。 結局自分の自己満足を通していただけ。それで……そんな嘘をいくつもいくつも積み重ねていた詐欺師。 ――それこそが鳴海荘吉の正体だった。 (その7.7へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |