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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2008年・風都その9 『Vの蒼穹/The Last Chance』





魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2008年・風都その9 『Vの蒼穹/The Last Chance』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


街がおかしくなっていた。

俺の庭が……風都が……俺を敵視する。俺を殺そうとする。

それでも立ち上がり……別の奴……別の奴ならと、訪ねてみると……。


「……鳴海さん、もうアンタとはこれっきりだ」


東京にいたとき、電話でも話した奴は……俺から離れ、物陰に隠れながらそう告げる。


「風都でも、全国区でも、アンタがメモリを使っていた犯罪者って広まっている。もちろん街の連中もみーんな知っている」

「……そんなのは、子どもの駄々に踊らされた忍者どもの暴論だ。間違いだと分かっているだろう」

「そんなもんじゃ済まない。現在風都はPSAと警視庁警部部の人員で閉鎖状態にあるからな」


するとそいつは、更に視線を厳しくしながらそう告げてきた。


「アンタのことを勝手に不起訴扱いとしたことで、連中も断定したんだよ。警察もミュージアムの一員だとな」

「なんだと……」

「その結果連中は顔真っ赤で通達してきた。
ガイアメモリ及びその使用犯の流出・侵入などを防ぐため、事件が“法治国家として納得がいく形で解決するまで”、風都在住の人間及びその関連企業は一切の出入りを禁止するってね」

「そんな無茶が通るわけないだろ」

「現に通っている。今言った風都出典の企業は市内以外からの取引を一切禁じられ大損害。都内に仕事で出向いていた市民達もおまんま食い上げ。
……全部アンタが、あの子どもを変身して襲ったせいだ。松井誠一郎の一件を保身のために黙り続け、クモ型爆弾の起爆条件すら黙っていた……それをバラされたくないから殺そうとしたんだろ」

「おい、ふざけるな。俺は男として……一人の親として、あのだだっ子にげんこつを食らわそうとしただけだ」

「だとしても、アンタがその爆弾の起爆条件を黙っていたのも、ガイアメモリとドライバーを持っていたのも事実だ」


……なんだ、それは。


「もちろんそれで、六歳の子ども相手に殺されかかったのも……それもアンタと違って、ドーパントにもなっていない子どもに」

「あんなのは忍者どもの仕込みだ。それがなければ」

「だったらその仕込みをアテにしてもいいじゃないか。なにせ向こうは公僕様だ。
……しかもアンタのせいで、その子どもの両親は職を失いかけ、退職金まで潰れかけている」

「そんなものは嘘っぱちだ。働き先には俺から事情を説明している。なんの心配もない」

「それだが、向こうはアンタを不審人物として通報したそうだぞ。PSAも受理している」

「なんだと」

「だが危ういところだったようだ。なにせアンタという得体の知れない探偵がいきなりやってきて、なんのツテや後ろ盾もないのに説教をかましてきたからなぁ。それで懲戒免職処分を勧めていたとか」


だから、なんだ……それは……。


「さぁ、分かったら帰ってくれ。
アンタにいられたらこっちまで商売あがったりだ」

「……その方が良さそうだな。お前の頭が冷えたら連絡する」

「言っただろ。これっきりだと」

「おい」

「それでも忠告だけはしといてやる。……すぐに街を出ろ。命が惜しいならな」


男はそう告げて、俺に侮蔑を吐きながら消えていく……。


「はい、そこまでだよー」


だがそこで、坊主の声が……更に呻くような声がする。


「が……お、おい……乱暴……がぁあぁあぁあぁ!」

「鳴海荘吉の協力者……これでもう一人確保っと。じゃあ、そういうことで牢屋へレッツゴー」

「おい、何をしている……やめろ。言ったはずだ、俺は……おい……おい!」


だがすぐに二人の気配が消える。慌てて曲がり角を曲がっても、誰もいない……どこにもいない。

突然どこか……別の空間へ落ちたように……。


「まさか……」


俺の行動を逐一探って、関係者として捕まえているのか。あんな奴らに利用されて、男の意地を貫くこともせず……!


「なぜだ」


なにか……足下が抜けたような感覚を覚えながらも、必死に踏ん張って、事務所に戻る……その道を進む。


「なぜ変わらない……なぜ分からない……」


進めていたはずだ。この街は俺の庭……完全に目が潰れたって、俺には進むべき道が見える。

だが……。


「死ねぇ!」

「晴樹、駄目よ!」


道中、子どもから石をぶつけられる……。


「ガイアメモリを使う怪物が! お前のせいでお父さんが死んだんだ! お前も死んじゃえ! いや……僕が殺してやる!」

「駄目よ、晴樹! こんな人に関わっちゃ駄目!」

「大丈夫だよ、お母さん! 僕と同い年くらいの子にコイツ……情けなく投げられて! ボコボコにされたんだぜ!? こんな奴僕でもやっつけられる!」

「だから駄目! ちょっと……こっちを見ないでよ! 化け物が そのクモが伝染したらどうするの!?」


……それでも歩くと、今度は水をかけられる。よく買い物していたスーパーの店員……そこの中年女性からだ。


「おや、ごめんね。……まぁでも、死んだも同然な骸骨なら問題ないか」

「…………」


するとそいつは……ふだん気持ちがいい対応をしてくれたそいつは、俺の杖を蹴り飛ばし……弾みで俺の体は転げる。


「なんだい、その顔は。怪物を殺せる力で、あんな子どもを殴っておいて……差別したクズの分際で! よくお天道様の前に出られたねぇ!」

「だから、それはあの坊主のために……」


また水をかけられる。バケツに溜まった水を……頭から、派手に……。


「暴力を振るった時点で最低なんだよ!」

「…………」

「もう二度とくるな! しっし!」


あの女性に蹴り出されるようにして、立ち上がり……それでも歩く……歩く……。

だが町中からの声が止まない。その声に耳を閉ざして、歩き続ける。


――六歳の子どもを全力で殴り付けるとか……――

――しかもそれで投げ飛ばされて、ボコボコにされて、情けなく言い訳してたぜ? かっこ悪いよなぁ――

――それどころかドーパントに変身して殴りかかったんだぞ? 子ども相手に……怖すぎるって――

――それも障害者だぞ? 可哀想に……発達障害って、不理解が横行していて苦労しているって言うのに。
しかもそれで忍者候補生になれるなら、滅茶苦茶努力しているよなぁ――

――だから嫉妬して、障害者は役に立たないーって見下して、殺そうとしたんだよ。……ほんと返り討ちに遭っていい気味だよなぁ!――


どういうことだ。


――街の名探偵がガイアメモリを使って、人殺しなんて――

――そうだ、ネットに流れていた姿が変わるところ、見たか? 気色悪いよなぁ――

――しかも十年前の大量爆殺事件……あの犯人、相棒だった奴らしいぜ? そっちはクモ男――

――あれの!? うわぁ……あの頃から怪しいと思っていたのよ。探偵なんてごろつき同然だし――

――あと、そのクモの爆弾……あの人に触ると伝染するっぽいわよ? なんでも条件があるとか――

――条件!? え、なにそれ……知らなかったんだけど!――

――それも隠していたのよ。犯人が助手だとバレたら、自分も身の破滅だもの――


あんなのは、子どもの駄々だ。


――早く消えてくれないかしら。探偵なんていなくても、特に困らないし――

――しかもそのまま死んで当然なのに、傷を治されたんだよな。恥ずかしくないのかよ――


俺は、間違っていない。あの坊主を親父さんに謝らせて、親父さん達のためになる我慢をさせる……そういう男だと見込んで、その勇気を出せと叱っただけだ。

アイツは男として、その義務がある。そうして家族を安心させてやる必要がある。変な力や、妙な翼に頼るようなことはしちゃいけない……そう叱っただけだ。

そのために障害なんて言い訳をして、薬に頼ることもやめろと言っただけだ。そんなことが健全であるはずがない。俺の子どもの頃にそんな奴はいなかった。それが当然だ。


ただ普通に……普通の子どもでいろと……それだけのことが、どうして…………。


「――止まってください!」


やってきたのは、風都市と都内への県境。アイツの言っていたことが事実かどうか確認していたが……もう確認するまでもなかった。


「ねぇ、いつ出られるの!? 大事な仕事があるの!」

「申し訳ありません。現在厳戒態勢中ですので……ですが、相談窓口の方は設置しております。こちらに」

「おい、俺は家に帰りたいだけなんだよ! 入れてくれ!」

「申し訳ありません。現在風都市内への人の出入りは一切禁じております」


市民達がやたらと集まり、いつ出られるのか、どうして帰れないのかと……警官達が厳重にガードし、その声をせき止めていた。

権力が……風都を檻に閉じ込めている。それが許せず、足を踏み出し……。


「止まってください! 現在市内から出ることも、入ることも全て禁止しています! 所用については相談窓口の方で受け付けますので!」

「ただの散歩だ。……どけ」

「それはできません!」

「お前達にも仕事があるのだろう。だが……権力の犬に、風都の心は遮らせない」


若い奴を押しのけ、下らない封鎖線に近づく。こんなものは外す……外してしまえば問題ないと、その手を伸ばし。


「動くな!」


すると奴らは、俺に銃を向ける。


「いいか、両手を挙げて、頭の後ろに乗せろ! そうして両膝から地面に伏せろ! ゆっくりとだ!」

「あの忍者どもの言いなりになるな。アイツらは子どもを戦いに巻き込み、利用しているクズどもだ」

「もう一度言う! 両手を頭に挙げて、頭の後ろに乗せろ!」

「無理をするな。――撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」


撃てるはずがない。撃つはずがない。こんな若造どもに、命を奪う覚悟などできるはずがない。

だから俺がその姿勢を示す……立ち続ける。

そうすればみんなも目を覚ますだろう。風都を愛する心r……それさえあればいいのだと……だから下らない堰を手に取って。


――――――――次の瞬間、激しい電撃が体を焼き……俺の体は情けなく崩れ落ちた。


「が……あぁああぁあ……!?」


一体なんだと……震えながら、背中を見る……。

そこには金属の針らしきものと……ワイヤーで繋がれた、なにかの装置が……それを持った警察官が…………。


「……テーサースタンガン、命中! 各自、確保準備!」

「了解! というかコイツ……鳴海荘吉じゃないか!」

「頭がおかしいのか!? なんかポエム喋っていたしさ!」

「ああぁあ……まだだ……こんなもので、男の意地は」

「大人しくしろ!」


そして再び電流が走る…………それで俺の意識は、情けなく震え続けて。


「AAAAA――――aaaaaaaaaaaaaaaaaa――――!」


もがいてもがいて……必死に電撃を消そうとしても、消えない……俺の罪深さを記すように……。


(…………俺は……)


俺は、アイツを思って……厳しい言葉をぶつけた。

憎まれたっていい。それでもアイツが、障害なんて言えないものに甘えず、普通の子どもとして頑張ってくれるならと……そのためだったんだ。

精神薬なんてものを使うのも駄目だ。そんなものに甘えた結果、人を襲ったクズだっている。そんなクズのようにはなるなと叱った。それだけのことだった。


もちろんそれを甘やかす忍者どもなどいらない。アイツにはただ普通の子どもでいてほしい……その願いを守る義務があるからだ。

下らない力の羽根など出さなければいい。猫耳や尻尾など出さなければいい。たったそれだけの我慢でそれは成立する。それだけのことなのだと、拳を通して伝えようとした。


だがその誠意すら通じなかった。それはこの街からも曲解され、否定されるべき悪となった。


(この街のために……)


俺は……この愛すべき風都を汚す悪として、今まで向き合っていたこの街から………………まさか。


(まさか、アイツは……そのために……)


俺を事務所から蹴り出し、外で……衆人環視の者とで、悪党として……なぜだ。

俺はまだ、坊主に見せていない。男としての姿勢を……他人のための我慢を、アイツに今必要なやり方を教えていない。


(なぜ……ここまで憎まれる……!)


お前のためを思っていた。嘘じゃない……厳しく、傷つけることは、言ったかもしれない。

だがそれは、お前が男として……あの勇気を……我慢を思い出すために、必要なことだった。

お前が生んだたまご達に恥じない男となるために……嘘じゃない……嘘じゃなかった……。


嘘じゃ……なかったんだ…………!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なぜ憎まれる……それすら分からないんだろうなぁ。鳴海荘吉には。


『――先ほど、風都市内での封鎖線を破壊しようとした犯人を逮捕したと発表がありました。犯人は鳴海探偵事務所を営む鳴海荘吉容疑者。
鳴海容疑者は先日違法兵器所有の罪で逮捕されましたが、不起訴処分に終わり、釈放された直後でした。
なお、鳴海容疑者は確保の際に負傷したとのことで、風都警察病院に搬送され、集中治療を受けているとのことです。
……次のニュースです』

「……おいおいおいおい……!」

「……馬鹿なことをしたもんだ」


アホな情報屋をとっ捕まえ、いづみさんとPSAの人達に引き渡してから、セブンイレブンで買ってきたヨモギ大福を持ってホテルに戻る。

それでもぐもぐ……おののくヘイハチ先生や、渋い顔のウェイバーは気にせず、お茶と一緒にのんびりいただく。


≪でもアホですねぇ。どうせ撃てないからと封鎖線を壊そうとするなんて……テーサースタンガンみたいな非殺傷武器が作られているって知らなかったんでしょうか≫

「知らなかったんじゃない? 今までメモリ犯罪者を生かして止めようともしなかったんだし…………もぐもぐ」

「なら恭文くん、ここからのコースは」

「また釈放されるだろうね。風都署の差し金で。もちろん封鎖線のことも抗議するけど、それは“鳴海荘吉と同じ思想”だから余計に疑いを強める。
そこから自然と、鳴海荘吉がミュージアムの差し金で出所したーって判明して、再逮捕。関わったミュージアムの内通者も芋づる式に切り捨て。
……後は相応の人物が入ってくるけど、それは最初から“あっち側”……誰もそれを疑いもしないってわけだ」

「一度膿を出したのに、それで投入した薬が新しい膿だったなんて……普通思わないよね」

「そこの六歳児達はなに冷静に話しとんじゃあ! ちょっとは動揺しろ! ちょっとはおののけぇ! ワシはめっちゃおののいとるぞい!?」

「「クレヨンしんちゃんを見てどうぞ」」

「どういうことじゃあ!」


まぁまぁ……嵐を呼ぶ五歳児が、一体何回世界を救ったと? あのノリだから問題ないんですよ、ヘイハチ先生。


≪で、これはどう収集を付けるんですか≫

「まぁ状況的にはラッキーだけどね。なにせこっちの手間暇もなく、風都を問題視する流れは作れたんだし」

『――!』


すると風を描いたしゅごたまが、怒った様子で僕にガツガツと……はいはい……体当たりしたら壊れちゃうから落ち着こうねー。


『! ――!』

「あ、ごめん。ちょっと殻を破って出てきてくれる? 何言っているかよく分かんない」

『!?』

「というかさぁ……そこまで僕がなんとかするってのはおかしいにもほどがあるでしょうが! アイツ大人! 僕子ども! そして周囲も大人!
なのになーんでそのフォローまで僕がするの!? 大人どもがやってよ! 僕が戦わなくてすむように、真のウィザード適合者とか連れてきてさぁ!」

『………………』

「だからそっちはイヅミやリーゼ達がやっているが……芳しくなかったんだよな。やっぱり」

「もう全然駄目。そもそも自分が『大量失踪・変死事件の主犯』だって自覚すらないんだよ」

『!?』


ちょっと、しゅごたま……そこ震えるのはおかしいからね? ロッテさんが言うことは常識の範疇だよ。

おじさんの私刑で殺されたドーパント……その変身者は、原因すら分からず死亡しているんだよ? 場合によっては遺体すら見つかっていないかもしれない。


「その辺りも翔太郎や刃野さんから聞き出しましたよ。
ドーパントが出始めてから、そういう未解決事件が多くなったと」

「これ、アタシの感覚だけどさ。ここまで火の手が上がったのって……その遺族中心じゃないのかな。
いづみちゃん達もね、裏を返せばってことで予測していたっぽいし」

「おじさんや翔太郎が街の平和を守ってきたーと宣っても、無意味ですよねぇ。だって実際がどうかなんて分からないんだから」

「もちろんそのだんまりを見過ごしても、アタシ達はそんな奴らの共犯者だ。
正直なんの同条もできないよ……」

『………………』


そう、全く同乗できない。助けようがない。自ら望んで死にたがっているとしか思えないもの。


「恭文くん、もうほっといていいよ。助けなくていいよ。あんな人」

『――!』

「ふーちゃん、それなら勘違い。……そもそも今言った点だけでも、助けようがない」

≪だからいづみさん達も必死に警告していたんでしょうしねぇ。“こうなることが分かっていたから”≫

「それすら無視されたら、誰であろうと無理だよ……」

『………………』

「しかも想像以上に風都署が籠絡されているのもあるからな……」

「ん……実はそこが気になっているんだ」


いや、地元シンジケートと言えるミュージアムが、警察と癒着……ずぶずぶの関係っていうのは分かるんだよ。それは納得がいく。

僕が引っかかっているのは、それをどうして“今このタイミングで”ってところなんだよ。

おじいさんは風都を中心とした政治・経済会でも覚えがめでたい名士だし、圧力的なこともできると思う。

でも、ここまで分かりやすく“自分達側”って動きができるなら、今まではどうしてそうしてこなかったのか。


今までもそうだったけど、目立たなかったか……。

または急に籠絡する理由ができたか……。

いや、それを言えば風都外でメモリの実験っていうのもおかしい。


察するにこれは……。


「組織間の世代交代……それを想定した動きなんだろうな」


そこでウェイバーがいち早く答えに行き着く。


「そもそも東京での行動は、事業の行動範囲拡大と言える。やっぱり風都の外を出た組織活動……そのやり方を模索しているんだろう」

「だから足場となる風都の完全掌握に乗り出した。それと同時に、組織の行動範囲拡大に合わせて……問題点の改善も乗り出している?」

「それは分かるな、ヤスフミ」

「テラーの効果範囲が、おじいさんと接触したことに限られる部分。
つまりおじいさんが一個人である以上、影響を及ぼすタイミングというのは限られる」

「正解だ。その場合組織の求心力や統率にはほころびも生まれる。今までとは違う故にな。もちろんお前のように、テラーが通用しない“離反者候補”を大量に抱え込むリスクもある。
だったらどうするか……答えは簡単だ。そういう組織として、相応に悪辣さを見せればいい。メモリの力に頼らない恐怖の形を作ることでな」

「だから苺花ちゃんも幹部候補として……ううん、ミュージアムの跡継ぎ候補として取り込まれている。これはその資格を示すための試験でもある」

「なら、どうする」


……ウェイバー、そこで問いかけないでよ。おのれも対処を放り投げた一人じゃないのさ。


「ボク個人としては、残念ながら奴の破滅は防げない。
だが……お前にも話した暴君なら、それすら小さいと笑うんだろうな」

「…………僕はそんな王様じゃないよ」

「誰でも自分の小ささを噛みしめ、変わろうと思えば王様だとも言っていたな」

「…………」

「恭文くん、大丈夫。鳴海さんのことなら私に任せて。私が全部終わらせるから」

『…………包丁を捨てろぉ!』

「ひゃあ!?」


ふーちゃん、そこで驚くとは思わなかったよ! 驚けるとは思わなかったよ! なにいい笑顔を浮かべているの!? 包丁を手にして笑える顔じゃないよ!

…………いいや、でも待って……包丁……包丁…………。


「……だったら僕も小さい奴だよ、ウェイバー」



仕方ないので立ち上がって伸び……あ、お茶も全部飲み干してーっと。


「ご馳走様でした。……ふーちゃん、付いてきて」

「え」

「そんなに刺し殺したいなら、好きなだけやらせてあげる」

「ちょっと、恭文君……!?」

「えぇ……!?」

「……ヘイハチ……お前も納得しろ。コイツらは元からやべー奴らなんだよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


事務所は散々な有様だった。

窓は割れ、落書きや生ゴミがそこら中に錯乱していた。それはもう、おやっさんへの誹謗中傷……見るに堪えない状況だ。

おやっさんにかけられた依頼は全てキャンセルとなり、電話はあっちこっちからかかってくるいたずら電話やらなんやらで、もはやマトモに使えねぇ。


毎日毎日、ドーパント事件の被害者団体が……出て行けと立ち退きを迫りに来るし、投石やいたずらは幾ら見張っていても消えねぇし……その上告訴状まで届いた。

恭文の弁護士……つーか蒼凪さん達も、蒼凪さん達が勤めている会社も、おやっさんを訴えたんだ。その理由もいづみさんが言った通りで、話もあっちこっちで広まっている。

完全に、蒼凪さん達の安否やその名誉を守るためだ。おやっさんがミュージアムの構成員という形で……おやっさんを生けにえにしたんだ……!


そこまでするのかと絶望しているところ、おやっさんがまた捕まったと聞いて、慌てて警察病院へ駆けつけると……。


「この……馬鹿野郎が!」


刃さん……刃野警部補が、真倉のアホを怒鳴りつけているところだった。おやっさんがいる病室の前で……自然と、俺は角の影に隠れてしまって。


「余計な真似しやがって……」

「すみません……でも、これ以上アイツに関わったら、刃野さんが!」

「だからって警察官が! 新しい犯罪を助長したら意味ねぇだろうが!
あの坊主が先んじて行動して、万が一もないようにって……ぶった切った腕や足を治してなかったらどうすんだよ!」


坊主? そうか、恭文の奴……アイツ妙に頭が回るから、こうなることも予測して……だが治ったのか!? 治したのか、アイツ!


「……まぁな……お前がいろいろ気を遣ってくれているのは分かる。それは……悪かったな」

「いえ……刃野さんの言う通りです。
警察官として考えが……足りませんでした……!」

「……確かにな。つーか、旦那を誰も助けようとしないとか……予想外すぎて笑えないわ」


刃野さんは近くのソファーに腰掛け、いつもみたいに孫の手で肩をぐりぐり……。


「しっかし、どうしたもんかなぁ……」

「というか刃野さん……あの子ども、ヤバくないですか? ドーパントを生身で倒せるって」

「……そこじゃないだろ、ヤバいところは」

「え」

「旦那の腕や足を切り飛ばしておいて、眉一つ動かさないんだぞ?
六歳の子どもが……額面通りに武術の教えを守って、鍛えてさ」

「抜いたなら必ず斬る……斬れないなら死ぬ覚悟を決めろ……でしたっけ」

「……その熱意からマトモじゃないんだよ」


刃さんは憐れむでもなく、恐れるでもなくそう告げる。


「そんなもんを……あの年でそれだけ腹を決めちまうだけの何かを理解せず、親父のげんこつ一つで治せるわけないんだよなぁ」

「泣き言はやめてほしいんですけどねぇ」


……すると俺がいた方とは反対方向から、すたすたとアイツが……風花がやってきて……。


「僕は警告したじゃないですか。釈放したらロクなことにならないと。お目こぼししたら偉いことになると。
なのに時代遅れな情熱系やっちゃうから」

「げ、おま!」

「なんですか、人を化け物……あぁそうか。風都署はHGS患者を差別するのか。ネットに書き込もう」

「ネットを利用してつるし上げるなよ!」

「僕はネット世代ですよ?」

「だとしてもなぁ!」

「……それを堂々と宣言して大暴れするのは、子どものやることじゃないんだよ?」


アイツ、平然とやってきやがったし! しかも真倉まで殺しにかかるのかよ! いったいどういう神経してんだぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……なぁ坊主……この辺りで勘弁」


ずかずかと刃野さんの前を通り、病室のドアを蹴破る勢いで開き。


「ちょ、おい……坊主!?」

「なにしてんだ、お前!」


おじさんが目を覚ましているのもチェックした上で、その首根っこを掴んで、強引にベッドから引きずり下ろす。


「おい……なんだ」

「僕やPSAが引いても、オカルト界隈の連中にミュージアムやおじさんも目を付けられている。このままじゃ家族もろとも皆殺しだ」


そんなごますりは無意味だと、最新情報を……細かいところを伏せた上で教えてあげる。僕を止めようとしていた刃野さん達も戸惑い気味に足を止める。


「え、なにそれ……坊主」

「ガイアメモリはそういうオカルト界隈の技術を悪用している……そういう疑いも出ているんです。で、そっち界隈の人達はそれで人様に迷惑をかけることが絶対許せない」


……ということにしておこう。うん、流れは同じだしね。


「状況次第では僕なんて指先一つで殺せる奴らが群れを成し、風都に乗り込んでジェノサイドです。
なおPSAが取り直しても止まらないでしょう。下手をすれば世界崩壊なんて可能性も……向こうでは見立てているみたいです」

≪封鎖線も、実はその辺りのチェックが中心なんですよ。そうじゃないとろくなことにならない≫

「おいおいおいおい……!」

「嘘だろ、おい…………」

「だったら、そんなのも俺がなんとかする……だからお前は」

「ザラキエル」


左手から展開したザラキエルのフィンアーム……それがおじさんの体を縛り上げ、その首もへし折るレベルで威圧……。


「が……あぁああ……」

「しかもそれだけじゃない。お前の判断でお父さん達を……もちろん収監された米沢さんを危険にさらしている。
お父さん達の通報がお前の口止めで遅れたからね。二週間あっても受刑者の秘密裏な移送ができない。その手続きが取れない。
だから封鎖線を敷くしかなかった。そうしなかったら米沢さんも、風都外にいる狙われそうな人達もミュージアムから守れない」

「……それでか。PSAがやたらと強引だったのは……」

「トドメにコイツ、未だに、僕と一緒に攫われた人達の所在……その情報も漏らさないんですよ。だったら容赦できるはずがないでしょ」

「だから、それは心配することじゃあないと、何度も」


言い訳をするからエネルギー吸収開始。おじさんの生体エネルギーを吸い取ると、その力が……活力がどんどん弱まっていく。


「ぶ……あぁあぁあ……」

「ねぇ、その性根は娘を殺されなきゃ直らないの?」

「亜樹子に、手を出すな……」

「出すよ。お前がこのまま言うことを聞かないなら、僕はあの人を殴る。蹴る。なんなら適当な奴に任せていたぶってもらう」

「お、おい……坊主!」

「亜樹子さんもその覚悟の上だからね」

「どういう、意味だ……」


……実は遅れてくるリーゼとヘイハチ先生には、寄り道を頼んでいた。亜樹子さんがいる大阪方面だよ。


「今亜樹子さんとお母さんは、時空管理局本局……お前が言う変な力を使う人達の本分にいる」

「なに……」

「人質だ。お前がこれ以上ごねるなら、適当な世界に放逐する。二度と地球には帰ってこられないし、お前とも会えない」

「なにを、している……やめろ……」

「駄目だよ。同意の上だから」


そう言っておじさんに手紙を放り投げる。……三人が二人を避難させているとき、受け取ってきてくれた手紙だ。

おじさんは震える手でその手紙を見て……亜樹子さんの字だとすぐ分かった様子で、僕を見た。


「亜樹子に何をした……」

「お前の返答次第だ」

「こんなことが許されると思うのか……!」

「協力するの? しないの?」

「こんなことは非道だ――!」

「――――その非道に対抗する力もない奴には! 批判なんてする権利はないんだよ!」


なにを言っているのかと笑ってしまう。


「坊主!」

「あ、刃野さん……違う違う。止めるのは僕じゃない」

「なにこの状況でおかしいこと言い出してんだ!? 止めるだろ普通! 変な蔦出して、収容者を締め上げているんだから!」

「止めるのは、あっち」

「え?」


……そこでふーちゃんを右手で指差す。するとふーちゃんはスマホをかざし……ある画像を見せていた。

薄暗い一室に、キャミ一枚で……拘束された状態で座らされた亜樹子さんを。


「娘がどうなってもいいの? 私の指示一つでとうとにでもできる」

「待て待て待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇ!」

「なにしてんの君ぃ!」

「コイツの薄汚い遺伝子を、この世から末梢するお手伝いです……♪」

「「怖!」」

「亜樹子……!」

「さて、分かってくれたかな……鳴海荘吉」


なぜか鳴海荘吉は黙る。ザラキエルをはずそうともがきながら、何度も打ち震える。


「北風として、お前を吹き飛ばし滑落死させる。そうして服を全て削り取れば僕達の勝ちだ」

「いや、それどんな北風と太陽!? 旅人殺しにかかる……というかそんな定義で勝ちとする北風とか怖すぎるんだけど!」

「やめろ……俺が絶対に」

「お前は何を言っているの?」


本気で気づいていなかったのかと……つい失笑。


「お前が、“松井誠一郎やドーパントになった人間に“してきたこと”と同じようにする……それだけのことなら、もうやっているじゃないのさ」

「――――!」


そう告げると、奴の表情が一気に凍り付いた。


「坊主、それは……」

「このまま行けば、コイツもやり直しなんてできない。反省したって無駄……そういうレベルで潰される。だからこれは陰謀でもなんでもないんですよ、刃野さん。
……ミュージアムは今までとは違うやり方で、逆らう人間を効率よく潰せるかと模索している。コイツはその実験台だし、それならやり口を返すだけでいいと舐められているんです」

「……だったら問題ないでしょ。旦那はこれでも、街にこの人ありとうたわれた名探偵なんだからさ」


刃野さんが不用意におじさんへ近づくので、ザラキエルでの拘束を解除。おじさんは床に投げ出され、がたりと崩れ落ちるけど……すぐ刃野さんが支える。


「いいや、コイツはただの人殺し。それを裁かれる必要もないと正当化するクズだ」

「坊主……だからそれは」

「そんなクズの方をかばうんですか。警察官なのに」

「……だったら、お前さんはどうなんだよ お前さんだって最初」

「もちろん僕がここにいるのは恩赦も同然! そのあとで裁判です!」

「徹底してんなぁ!」

「というか……そのためにPSAを頼ったんですよ? 一緒にしないでください」

「それは本当にごめんな!?」


……まぁ、時間稼ぎはできた。今の体力なら冷静な判断力もないでしょ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんでだ。俺は、嘘なんて言っていない。

障害なんて言い訳だ。発達障害なんてものはない。精神薬なんてろくなものじゃない。

それで耐えて、立ち上がってきた奴らだっている。そいつらのようになればいい……そう伝える気持ちが、なぜ……!


「……なぁ坊主、それでも……旦那は街を守ってきた。そうは思えないか?」

「僕は以前、あるお姉さんに助けてもらったとき……それで苺花ちゃんの自殺をギリギリで止められたとき、痛感したんです」

「え」

「自分一人で貫ける正義なんてたかだか知れている。そんなものはただの蛮勇で、自己満足と顕示欲の塊でしかない嘘っぱちだ」


違う……そんなものは違う。男の意地でできることはある。一人の……自分の決断で全てを解決することはできる。お前もそれを信じれば。


「もしそうじゃないなら、僕は苺花ちゃんが自殺騒ぎなんて起こす前に全部解決できていた。
お姉さんに助けられて、それでようやく……なんてことはなかった」


だがその声すら届かない。コイツは俺に軽蔑の視線を送る……送り続ける。


「それができなかったのは、僕の努力が足りなかったからだ。でもそれは我慢だなんだって話じゃない。
仲間じゃなくても、利用し合うしかなくても、それすら飲み込んで……苺花ちゃんを助けることが得だって示せなかったからだ。
悪も努力してつるみ、手段を選ばないというのなら、正義を唄う側も手段を選ばず、力を集める覚悟がなかった。だから偶然に助けられるしかなかった」

「……そこんとこをさ、俺達もいるからなんとかってのは、やっぱ無理かな」

「だったらそいつを否定しろよ。警察官として……気持ちは分かるけど、それでもお前は間違っていたと」

「だからそれも、風都の事件なわけだろ? だから地元民な俺達にお任せーって感じで」

「僕も、僕と一緒に攫われた人達も、お前らみたいなローカルの田舎民じゃないんだよ――!
まずてめぇらださい田舎者が! 僕達都会の若者に大迷惑をかけた! そこを頭下げて謝れっつってんだよ!」

「ま、そう……だよな。うん……」


…………そこまで、なのか。


そこまで……俺が男の意地を張っただけで、それだけで……そこまで信頼を損ねているのか。

いや、だがそれでも……もう一度、誠意を持って……男として話せば。


「……あー、もういいや。ふーちゃん、帰ろう帰ろう。
オカルト界隈の人達には、風都の人間は全員ミュージアムの一味ですーって報告しようか」

「そうだね。それが手っ取り早い」


かと思ったら、とんでもないことを言い出しながら、きびすを返し始めて……。


「ちょ、待った待った!」

「そうだぞ! それ大嘘だろ!」

「どこがですか。鳴海荘吉の肩を持って、結局介入を断るなら……もうそうするしかないし」

「……ああもう、そうだな! その通りだよ!
おい探偵……お前、ほんといい加減にしろよ!」


……………………どうして、子どもが……こんな冷たいことを、冷たい目で言い放てるんだ。


「聞いてんのか、お前!」

「真倉。……なぁ旦那、意地の張り合いももうやめましょうよ」

「…………刃野警部補…………だが……」

「どうもこの件、美澄苺花って子が黒幕っぽいですしねぇ。彼女を捕まえるなら、坊主達の協力は必要ですよ」

「そんなはずはない。彼女もただの子ども……ミュージアムが、動くわけが」

「証拠もあるよ? こっちで確保したメリッサさんの事務所スタッフ……その人達からしっかり聞き取った。
苺花ちゃんはウィザードのハイドープ能力を使って……テラーの能力でみんなを支配し、メリッサさんを潰しにかかった」

「だから、俺が……俺がなんとか」

「ふーちゃん、やっぱオカルト界隈の人達に全部任せようか」

「そうだね。即断できない人なんてアテにできないし」

「だからたんまぁ!」


俺に時間を与えるつもりすらない。

今即断しなければ、亜樹子とアイツもどうなるか分からない。

だがそれは、俺の信念に反する。反するが……俺には分かる。


コイツらは、本気だ。本気で亜樹子を……風都全てを見捨てても構わないと思っている。その覚悟がある。

俺にはコイツらの決意を砕く手段がない。力で訴えても押しつぶされる……それが分かっている今では……俺は…………俺は………………!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ち……僕の嫌いな展開だけど、まぁいいや。刃野さんの声と本気が伝わって、奴は視線を手紙に落とし……。


「…………何をすれば、いい」


ようやく……心をポキリとへし折った。


「俺は、なにを…………」


だから……踏み込み、その顔面に右フック。

奴の口から血と歯が吐き出されるのも気にせず、続けて左フック……右アッパー。


「おいおい……坊主!」

「刃野さん、そろそろ気づいてよ。お前に止める権利はない」

「なぁ、頼むよ……旦那は確かに、言葉は過ぎたかもしれない! だがお前のためにって気持ちは嘘じゃないんだよ! それだけは」

「……そんな自己満足! 僕達にはなんの助けにもならないんだよ!」

「――――!」


というわけで、顎が跳ね上がり、崩れ落ちたところを狙い……ボディブロー。

あばらをへし折りながら奴を床へなぎ倒し、拳をバキバキと鳴らす。


「いいか、お前がやることはたった一つだ。……今すぐに舌を噛み切って死ね」

「あ、あがあ、あああぁあああ……」

「お前は僕や苺花ちゃん、お父さん達の幸せをぶち壊したメモリ犯罪者……スカルドーパントに過ぎない。街を泣かせる怪物だ」

「なん、で……」

「人の心をなくした怪物は、殺すことでしか止められないんでしょ? だったらお前という骸骨男もまた死して当然だ。
そうすればお前を一人前の男として認めてやる。それもできないようなクズはいらないんだよ」

「違う……俺は」


話を聞くつもりはない……なら踏み込み顔面に一撃。そのまま鼻っ柱を潰し、顔面を全力で殴り続ける。


「さぁ」

「が、ががぁああぁああ……」

「お前の罪を、数えろ」

「――――!?」


奴の手が伸びても無駄だ。それが届く前に内臓が拳に寄って、あばらごと潰される。そして顎が上がったところでアッパー。


「ごがあぁああぁあ……!?」

「死ね」


そうして何発も何発も……何十発も殴り続ける。なんの抵抗も許さず、なんの救いも与えず。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


殴られ続ける……ただ理不尽に。声を上げることすら許されず、ただ殴られる。

しかも子どもの力じゃない。一発一発受ける度に、脳髄が揺れる。迫る拳に恐怖を感じる。

それでも、それでも押さえ込めば……この哀れな子どもを抱き締めればとまると思っても、あばらが砕かれ、俺の体は……腕は、奴に触れることすらできない。


なぜ俺は、こんな子どもに……もう腕は……体は治っている。なのに…………。


「ごぶぅ!」


俺は、どうして……こいつに殺されかけているんだ……!

そうだ、コイツは俺を殺そうとしている。拳一発一発が急所を抉り、殺意を突きつけてくる。

こんな想いを、なぜしなければならない。俺は確かに、コイツに厳しいことを言ったかもしれない。怒らせてしまったかもしれない。


だが想いがあった。愛があった。土下座して詫びるようなことはしてない……それなのに。


「うああぁああぁあ……」


口から血反吐を垂らしながら、それなら……それならばと、もう一度拳を握る。それを振りかぶり。


「ぶぶべぇ!?」


打ち込む前に、アッパーで顎と頭がまた跳ね上がる。


「死ねよ」


そして横っ面を殴られ……俺の拳は情けなく崩れ落ちてしまった。


「というか、お前だけが法に則って裁かれるなら……お前が殺してきたメモリ犯罪者達はどうなるの?」

「………………!」


そうしてただ見ていることしかできない。迫る拳を、殺意を……。


「というか、生きて罪を償うことすらできないのに、数えて意味があるの?」


脳髄の奥に、刻まれるように……。


「お前はその可能性を奪ったんだ。
街のためにと……相手が怪物になったのだからと。……だったら」


俺が……この街が、存在しているという罪を購えないのなら、死んで償えと……。


「それを正義で……他人のための我慢だと、勇気ある行動だと宣ったお前には、生きて償う権利などない――!」


なぜ、こんなことになってしまったんだ。

なぜ、俺の愛が通じないんだ。

この拳に込めた確信は、コイツに伝わり、コイツのねじ曲がった根性を正す……そのはずだったんだ。


なのに、亜樹子を人質に取られ、力で踏みにじられ……やめてくれ……。

俺は、悪いことなんてしていない。だから否定しないでくれ。


お前達が、俺の拳を……ここに存在する愛を受け入れる。それだけで……それだけで、全部終わっていたことなんだ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうしてトドメに……顔面へのストレート。

顔がいい感じでふくれあがったところで、奴は吹き飛び……後頭部を床に殴打。そこから血を流し続ける。^


「死ねよ。スカルドーパント」

「旦那……!」

「お前は僕達の街を泣かせた怪物だ。死ななければ人に戻れない。ほら、やれ……やれっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!」


頭蓋を踏みつけ、ごきりという音がするまでしっかり踏みしめ……この愚図の顔に唾を吐きかける。


「そんな当たり前のこともできねぇのか! このクズが!」

「坊主、だから……だから、やめてくれ! なぁ、旦那にチャンスをやってくれないか!?」

「……チャンス?」

「あぁそうだ! 一度でいいんだ! 旦那に全部任せてやってくれ!
旦那はただ、お前に信じてほしいだけなんだ! それでこれは、理不尽だろ!」

「コイツが殺してきた奴らは、なんでそのチャンスを貰えなかったの?」

「………………」


……刃野さん、そこで凍り付くのはおかしいわ−。僕がなにを言ってきたか聞いていなかったの?


「というかさぁ、なにをおののいているのよ……。情に流されない鉄の男……それこそがコイツの大好きなハードボイルドでしょうが。
そんなコイツを、お前も信用しているんでしょうが。だったら今まで通り……ドーパントの一人として、自分自身を処断すればいいんだよ」

≪というか、よくそんなことが言えますね……。
元はと言えばそうしてこの人を止めもしなかったあなた達風都市民のせいでしょ≫

「……それは……」

「まぁよく分かったよ。お前やコイツみたいなクズが跳梁跋扈しているから、この街は腐っているんだ」


そう言ってロストドライバーとスカルメモリを投げて預ける。


「帰るよ」

≪ほら、風花さんも≫

「うん」


そのまま言い残し、病室から出て………………そうして違う階に降りて、大きくため息を吐きながら。


「…………さて、これからどうしようかなぁ」

≪そうですね。これで鳴海荘吉をやり玉に、全部押しつけるプランは台なし……いや、ここで止まるならいいことなんですけど≫

「でもそれ、鳴海荘吉がこのまま大人しくしていればって話なんだよねぇ」

≪……やらかすと思っているんですか≫

「八割くらいで」

≪…………≫


……それに頷きながら、壁にすりより……そのまま階段に腰を下ろす。


「キツいなぁ……二割が当たったらどうしよう……」

≪心配はそっちですか≫

「お父さん達への洗脳を解けないもの」


それでつい、そう漏らしてしまっていた。


「でもさぁ、なんで……大人が悉くアテにならないの? 僕だって助けてお巡りさんーで終わると思っていたんだけど」

≪大人はさほど万能じゃないってことですね。年くって仕事しているだけの子どもなんですから≫

「そりゃあそうかー」


アルトアイゼンの言うことは実にもっともだった。

だったら大人主導でいじめや村八分なんて起きるわけもないし、もっとスケールが広がるなら事件や戦争だって起きるわけがない。

本質は子どもと変わらず……それは、子どもの僕にとっては絶望だなぁ。人間は成長しないってことだもの。


「大丈夫だよ。私……一緒だから」

「ふーちゃん……」

「ありがと。巻き込んでくれて」

「関わらせたくなかった」

「いいよ。……二人で背負おう? ずっと一緒に」

「……ん」


あとは……覚悟するべきは、劉さん達からのお説教だなぁ。あはははは、キツいだろうなぁ。本職の人だもの。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……坊主は怒鳴るだけ怒鳴って、去って行ったが……その前に俺は……旦那をまた、ベッドに起こして、座らせて……。

なお坊主については、真倉に任せたし……まぁなんとかなるだろ。いろいろ合うっぽいしな。


「……俺が、なにをしたと言うんだ……」

「…………」

「俺は確かに、厳しいことを言ったかもしれない。だがアイツが、真人間になるため……必要なことをしただけだ」

「えぇ」

「アイツを怖がり、近づこうともしない子ども達がいた。だがそれだって、アイツが勇気を出して、今までのことを謝り、仲直りすれば済むこと……なんだ」

「……えぇ……」

「なのに……なぜだ。なぜこんなことをされる……。なぜ、亜樹子まで人質にされなきゃいけない……」

「旦那……」

「なぜ、俺を……信じて、くれないんだ――!」


旦那はぼろぼろの顔で涙を流し、返してもらっていたスカルメモリとドライバーを……ぎゅっと握りしめていた。例の手紙と一緒にだよ。

それでうわごとのように、ただそれだけを繰り返す。自分が謝らなかったことが……信頼を取り戻せると、決意を表したことが……そこまでの怒りを煽るものだったのかと、混乱し続けていた。


「…………翔太郎、そこにいるんだろ」


そう告げて振り向くと、病室の入り口……その影から、翔太郎が出てきて……。


「お前、警察病院にまでよく入り込めたなぁ」

「きちんと、許可は取ったんで……はい。
でも、おやっさん……!」

「……俺達のせいだよ」

「刃野さん……」

「坊主にもそう言われちまった。……情けないことに、なんの反論も……できなかったんだよなぁ……!」


その通りだ。最初から分かっていたことだ。

俺は警察官として、旦那を否定しなきゃいけない。それもできずかばい立てしたところで……ああもう……!


(それも含めて、旦那の評判を貶めまくったってことかよ!)


それでもと旦那を信じる奴らもろとも、村八分にするために! しかもそれは街の人間だけじゃない! PSAや警察も同じだ!


(旦那は正真正銘、街を、司法を……この世界を敵に回した……!)


その結果、鳴海さんの評判は最悪。

クモの糸を出した……そう思っていた坊主も、結局は旦那になにもするなと……潰しにかかっただけ。

俺達は俺達の街を、自分で守れない。よそに迷惑をかけて、尻を拭わせているクズだと断じられた。


こっからどう、逆転したものかねぇ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


壁に甘えて自己嫌悪に陥っていると、真倉さんがやってきた。それで僕を引っ張って、警察病院の売店でアイスを買ってくれて……警察病院に売店、あったんだね。

それで屋上に出て、ベンチに腰掛けながら、そのアイスをもぐもぐ……まだまだ残暑が厳しいから、とっても美味しい。


「ん……真倉さん、ありがとうございます」

「なんというか、私まで……」

「別にいいさ。だが警察病院であんな真似はもうするなよ? 今度は逮捕するからな」

「「はい」」

「だが……狂ってんなぁ。娘を人質に協力しろって」

≪そこまでしないと腹を括れない……戦士としては致命的に向かないタイプですよ。この人とは全然違う≫

「しかもその上でまだやらかすだろうしねぇ。もう一生捕まえていてほしい」

「それ、俺にも突き刺さるからやめてくれ……」


あまーいチョコアイス……それをもう一口。うーん、このホロ苦甘い感じが、今の気分にばっちり。


「で、お前の読みとしては」

「言った通りですよ。……僕と苺花ちゃんの精神リンクは、今のところは控えめになっている。でも継続中なのは変わらない」

「だからアイツがお前を怒らせれば、必然的に彼女も……もう説得は」

「無理だと思います。というかですね、その僕にアレを許してやれとか言うの……ほんとやめてほしいんですよ……!?」


ほんと、刃野さんとかも気軽に言ってくれるけど……あり得ないと、つい睨みを聞かせちゃう。


「自分で言うのも情けないですけど、苺花ちゃんがどれだけ憎悪しているかが……よく分かっちゃうんです。多分微弱にでも伝わっている」

「……すまん」

≪悪質ですねぇ。あくまでもあの甘ちゃんが敷いたルールに則ったゲームなだけで、討伐される側が変わっただけとか≫

「お前が蹴り飛ばして、衆人環視で暴れなくても」

「現におじさんが別件で変身している姿まで、ネットに晒されているでしょ。それが何よりの証拠です」

「なんつうことだよ……! つーかただの子どもが、そんな」

「……それも勘違いなんですよ。多分鳴海さんは……下手をすれば最初から、骸骨男だって向こうにバレていました。
その上でマークされていた情報を、今回有効利用しているだけなんです」

≪それが元々の計画通りか、それとも苺花さんの立ち位置が想定以上に重たいかは分かりませんけどね。いずれにせよ、あの人がピエロだったのは確かです≫

「……刃野さんには聞かせられないな……」


でも普通なら刺客を送って闇討ちーっていうのが基本なんだけどなぁ。その気配はここまで一切なかったけど。

……今回のこと、ミュージアム側もいろいろ試しているのかも。そういう“反逆者“への処罰を、効率よく街の支配に繋げるやり方はないかってさ。おじさんはその実験台にされているだけだ。

それも自分が振るってきた、ドーパントを倒す行動……その暴力の本質と結果を、そのまま返す形で。だからおじさんは現状では、反論の余地すらない。味方してくれる人間もテラーの影響力でゼロだ。


もし逆転する手があるとすれば、ミュージアムを……ううん、テラーを潰すこと。そうすれば最低限のえん罪は払える。

まぁ……それは弁護士に全部お任せしたかったんだけどなぁ! 見殺しにする予定だったんだけどなぁ! 僕の手が絶対回らないし、対ウィザード相手でも邪魔だろうしさ!


「ま、でも安心したよ。お前も十分甘い」

「甘くありませんよ。……鳴海荘吉は八割くらいの確率で、さっきのあれを反故にしますから。それ前提の話です」

「なんだって……!」

「苺花ちゃんを詰めるのに、二〜三手足りなさそうなんですよねぇ。
でもほら、あれなら生かさず殺さずでボロぞうきんのように使い尽くせますから」

「怖すぎるだろ! というか……計算ずくばっかじゃできないこともあるだろ」

「でも、奇跡の大逆転なんてない。
戦とは、そこへ至るまでになにを積みかさねたかが肝要。勝敗はそれらをぶつけた結果にすぎません」

「どこで覚えるんだ、そういうの」

「戦略ゲームとか、カードゲームで。特にカードゲームは、デッキ構築という積みかさねが楽しさの一つですから」


そう……だからおじさんの言うことは、初っぱなから頭がおかしいんだよ。現実を何一つ理解していない。

積みかさねたものを見て、僕が三行半を突きつけているとすら気づけないアホには、命を預けられないよ。


「だが……人の何倍も努力するってのは、そんなに駄目か」


……真倉さんはまぁ、嫌みっぽいところもあるけど、基本良識的な人で……だから僕も、その疑問には真剣に応えたくなった。


「たとえば真倉さんは刑事で、刑事ゆえの専門知識はありますけど……今から勉強して声優さんにはなれませんよね」

「い!?」

「なれませんよね」

「ま、まぁ……いきなりは、難しいだろうな。オーディションとかで受かれば……まだ」

「でも受かるのだって、相応の資質や技術、若さが求められる。実際警察官や自衛官も年齢制限、ありますよね」

「……よく勉強しているな」

「趣味なので。……だから本から……周囲にいる大人の姿から教わりました」


だからなんにでもなれるわけじゃない。努力すればなんでもできるわけじゃない。……それはいっつも……覚悟していることで。


「人より努力だなんだというのは、人より時間を使うということ。
時間を使うということは、その努力していること“以外”の可能性を削ること。
だから真倉さん達みたいな警察官も、お医者さんも……忍者さんや声優さんだって、突き詰めて自分なりの形を成立させたら、“それ以外の可能性”が縛られる。時間を多く使うというだけでもできることが限られる。
……大人になるっていうのは、たった一度しか使えない時間と若さというポイントを使って、スキル振りした結果なのだと。それで障害があると、人よりそのバランスがシビア」

「……なんにでもなれるのは、お前みたいな子どものうちだけってか? だが、お前は……」

「今の声優の話、僕にも言えることなんです。……僕、人間の気持ちってよく分からないし、歌とか歌っても音程は合っているけど、抑揚がないって言われるし……でも抑揚の意味がよく分からない。ハモるとかも上手く分からない」

「それも障害のせいか」

「でも、どうしたらよく分かるか、誰も教えてくれないんです。気持ちを分かれとか考えろーってだけで、どう考えればいいのかなんて聞いた覚えがない」

「…………」

「なにより、そんな僕でも環境や才能に助けられて、いろいろショートカットできているときはありますから。それだってお父さん達の……僕の周囲が重ねた努力です。
……だから、僕が何倍も努力すればーとか言っても、嘘っぱちなんです。少なくとも衣食住で困ったことがないから……それに喘いでいる人へ言っても」

「……そうか……」


アイスを底の底まで食べきって……。


「まぁ確かに、その努力をしていない奴に言われたら……腹が立つよな」

「えぇ」

「でも、言わなきゃいけないときはあるだろ」

「だったら堂々としていればいいんですよ。
自分はその分野では、たくさんの助けがあったから素人。お前の気持ちは分からないーって」

「それもひどくないか!?」

「ごめんなさい。恭文くん……愛育園っていう孤児院が近所にあって、そこでもいろいろお話ししていたので」

「孤児院……あぁ、そういう……」


……はぁあぁぁぁぁぁ。やっぱりチョコアイスすきー。ガチ猫に食べさせるのは絶対駄目だけど、僕は人間なので大丈夫−。


「ご馳走様でした。美味しかったです」

「おう」

「で、真倉さん……真倉さんはまだ若いですし、十分いけますよ? どこの養成所に行きます? 代々木アニメーション学院? 日本ナレーション演技研究所?」

「恭文くん、日ナレなら近いんじゃないかな。ほら、池袋にできたし」

「発展的な提案をするなよ! というか浮くだろ!」

「ギリギリ大丈夫ですよ。そういう養成所に通うのは、大体十代後半から二十代くらい……うん、ギリギリですね」

「いや、それでもキツい! そこで十代の奴らと肩を並べて叱られるのか!」

≪あなた、詳しいですね≫

「その手の養成所って、小中高生を対象としたジュニアコースもあってさ。興味があって調べたの」


僕が見た代々木アニメーション学院のだと、小四からーって感じだったけど……うん、ちょっと興味はあったんだ。


「え、通うのか!?」

「小四とかからなので通えません。……ただ」

「あぁ」

「演技のレッスンを通じて、コミュニケーション能力とかの強化にも繋がるとか……そういう体験談があって」

「………………」

「ちょっと、憧れはあります」


やっぱりうたうことは好きだし、苦手項目も絡むけど……誰かを笑顔にしたり、元気を届けたり……素敵な仕事だと思うし。

……その時間があるかどうかも微妙だけど……でも、今はいいか。


「なので養成所の資料だけはプレゼントしてあげますよ」

「いらないからな……!」

「分かりました。じゃあクビになりそうな刃野さんと、おじさんに」

「やめてやれよ! 二人は余計に浮くだろ!」

≪はぁぁぁぁぁぁあ…………≫


なぜか大混乱な中、突然アルトアイゼンが静かにため息………………うん、元気出てきた。

まぁ予定とは全然違う方向になりそうだけど……ひとまず考えてみようか。


(……このままおじさんを潰すことが苺花ちゃんの計画……おじさんがやってきた私刑だって言うのなら)


正直かなり厳しい。ピックしたカードに……デッキにおじさんがいても使いこなせない。

……だけど。


(それを止めた上じゃなきゃ、完全勝利たり得ないんだよね)


我ながら甘いと思いながら、空いたカップを持って、立ち上がり……真倉さんと一緒に、きちんとゴミ捨て場に持っていく。僕はまずそこからだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ほんと最悪な気分。もう言っても仕方ないけど……これからどうしたものかと、頭を抱えながら帰ってくると。


「…………あ、そういえばこれ、忘れていたなぁ」

「……!」


警察病院から戻ったあと、即座に警戒態勢で後ずさる。

……またも包丁を持ってふらーっと近づいてくるふーちゃんから。


「え、どうしたの?」

≪あなた、正気ですか?≫

「ちょっと……リーゼさん! 見て! ふーちゃんの手元を! 包丁を!」

「…………あ、ほんとだ! この子はまたぁ!」

「風花ちゃん、落ち着いて! 一旦それを離して! いますぐに!」

「え……あ……大丈夫です。今なら隙だらけだし、間取りも確認してきて」

「「計画的なら余計にアウト!」」

「アイツ、ソウキチ・ナルミだけを殺すモンスターかよ……」

「もう嫌じゃワシ……」


そんなドタバタを見ながら、今度はウェイバーや先生がどん引きだった。


なおいづみさんは現在PSA本部。回収した事務所の資料関係を……どさくさに紛れて、鳴海荘吉の自宅から回収した隠し資料などと一緒にね。

なお封鎖線は問題なく超えられる。関係者だもの。


(でも上手く分かるといいんだけどなぁ……)


なにせシュラウドさんでも把握しきれない非合法活動……ドーパントとの交戦データなどもあるから、暗号化したそれらを解析しようと四苦八苦しているところだよ。

同時に、僕も今はどこにいるか分からないシュラウドさんとも、いろいろ相談しているはず。なにせシュラウドさんが身売り同然で取り付けた恩赦も、これで台なしだし。


「…………なぁヤスフミ、あの子は……どうして置いてこなかったんだ」

「全部先生とアルトアイゼンのせいだよ」

「やめろぉ! わしらは頑張っているはずじゃぞ! その分頑張って止めようとしているはずなんじゃぞぉ!」

≪というか、なんですかこれ。あなた達揃ってヤバいでしょ。
あの人はそれに関してもいづみさん達から警告されていたはずなのに、どうしてああも刺激しまくれるんですか≫

「アルトアイゼン、そこは見てもらった通りだって……。そもそもおじさんは、戦う人間じゃないんだよ」

「で、警察病院の方は」

「うん、その…………ごめんなさい」


ひとまず謝って、かくかくしかじかと説明……そうすると、ウェイバーが大きくため息。


「お前なぁ……!」

「まぁまぁウェイバー……一応クモの糸を垂らしたーって体裁くらいはやっておかないと」

「だろうなぁ! しかもお前、自分が無責任な子どもだからってのも利用しただろ! 正規のやり取りじゃないからってさ!」

「当たり前じゃん。だから僕の言ったことなんて、劉さん達がきっちり守る必要もないんだよねー。悲しいことに」

「あ、悪魔がおる……!」


はいはい、先生もどん引きしないの。警察権力を真っ向から舐め腐ったあのクソ親父が悪いんだしさぁ。というか、説得してなんとかなるとは思っていなかったし?


「じゃが、それで大人しくなるなら」

「ならないと思います」

「ならないんかい!」

「原因は翔太郎やシュラウドさんですよ」

「……あぁあぁ……あれじゃろ? 戦うきっかけになったのが、小さい頃のあやつじゃと」


そう……その初手については、実はもう聞いている。シュラウドさんが糸を引いていたことでもあるからね。

その確信があるから……その確信の結晶がいるから、折れないというか、“折れよう”がないのよ。その下りを崩さないと、絶対にどうにもならない。


となると……。


「だからふーちゃんも、殺して黙らせることにしたんです」

「…………ヤバい、ワシ怖い……!」

「怖がっている場合かぁ! アンタが止めろ! 一番の実力者なんだしさぁ!」


ほんとだよ! 先生すら駄目ってなに!? ふーちゃん、本当にガチでモンスターなの!? だったら僕にも無理だよ!


“でもやすっち、どういう心境の変化……いや、園咲琉兵衛さんかな”


あれ、ロッテさんから念話……慌ててそちらを見ると、ウィンクが帰ってきた。

……それでまぁ、僕も……つい小さく、胸の中で首肯。


“……まぁ、お為ごかしが一番ですけど”

“そうだね。地球を救える度量なら、鳴海荘吉くらいはなんとかって……頑張っちゃったんだ”

“でも、それも傲慢です”


そう……だからお為ごかしだった。説得して恭順してくれるならまぁ、それはそれでいいコースだよ。身内争いは避けられるから。

でも、駄目だ。それが全てにおいて通じると思うのは……とんでもない傲慢なんだ。


“積みかさねた時間……願いが言葉一つで砕けるなら、そもそもこんな戦いなんてなかった”

“……それが分かっているだけでも、アンタは十分偉いよ。胸を張っていい”

“いいんでしょうか……”

“いいの。そこはアタシを信じてほしいな”

“……はい”

「だがヤスフミ……やりそうなのか? 彼女は」

「もうやっているもの」


ウェイバーには問題ない……なにも問題ないと笑っちゃう。


「このやり口は、苺花ちゃんが米沢のおじさんにされたこと……そしてその報復に用いたものと同じだ」

「ん……私も、それは覚えが……………………これでよしっと……」

「ふーちゃん、今お腹に隠したものを出して。今すぐに」

「か、隠してないよ!? あの、みんなが心配しないように持っているだけで」

『いいから出せぇ!』

「ひぃ!?」

「まぁ……風花ちゃんが怒りモードなのも分かるんだよなぁ」

「アタシも。闇の書事件とかそうだし」


闇の書……少し気になったので、ちょっとツツいてみる。というか、そこでリーゼさん達の表情が一気に暗くなって。


「闇の書?」

「次元世界にあるロストロギア……超古代の行きすぎたテクノロジーで作られた、オーパーツってやつだね。管理局のお仕事は、その保守管理……それらが世界を壊さないように守ることなんだけど、その中でもとびきり危険なやつだよ」

「闇の書はね、適性のある主を自らセレクトし、そこへ転生する機能があるんだ。更にストレージとして、いろんな人の魔法や技術を保全している。だから……戦闘兵器としての利用価値があるんだよ。
ただ問題は、その書と主を守る防衛プログラムとして、意識と実体を持ったプログラム……守護騎士と呼ばれる腕利きの護衛がついていること。
更に一定期間が経つと戦闘兵器としての機能が暴走して、世界の一つ二つは飲み込めるってくらいの甚大な被害をもたらすこと。
それでまぁ……クライド君もその暴走へ巻き込まれて……乗っていた船ごと、撃ち落とすハメになった」

「撃ち落とす、ですか」

「なんとかその守護騎士を止めて、本体を移送中に……それが暴走して、侵食して……逃がしようも、助けようもなかった。
なによりクライド君が、自分から他の人達を逃がしていって、逃げられなくなって……自分からそうしてくれって……」

「……すみません」

「ううん。それにまぁ、アンタには話しておくべきことだったと思うしさ」


さすがに安易な振れ方だったと反省すると、いつの間にかロッテさんが近づいて……頭を優しく撫でてくれる。


「アンタが……自分を変えたメモリすら希望だって信じるなら、その絶望とも向き合わなきゃだし……うん、だからアンタは正しい」

「ロッテさん……」

「なにより普通なんて、世界が変わればいくらでも変化するんだからさ。そんなものに頼るのは不安定すぎる」

「ロッテに賛成。大体この国だって、少し前はこーんな丈のスカートなんて履いて歩けないし、ネットみたいなものもなかったし?
規範、モラル、マナー……そんなものは相対的。唯一絶対な正義が、永遠に続くことなんてあり得ないよ」

「…………」

「まぁでも、そうだなぁ……だからさ、世界を見に行こうよ」

「世界……」


アリアさんとロッテさんは僕の隣りに座り、ひょいっと干し柿を一つ手に取って、口にほおばり……幸せそうに頬を緩める。


「そうして自分の目で、いろんなものを確かめる……それだけでも感じるものはあるよ」

「旅……冒険……」

「そうそう。……興味津々?」

「とっても!」

「ん、いいことだ」


世界……旅、冒険かぁ。でも、そうだよね。僕はもっともっと……苺花ちゃんとの約束だってその先にあるんだ。

やっぱり止まれない。止まりたくない。きっと感じ取った声は……そんな普通の中に流されてしまうほど、小さなもので……だけど……。


「………………」

「……って、のんきに話している場合じゃないぞ! またフウカが包丁をぉ!」

『ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なぜ憎まれる……それすら分からないんだろうなぁ。鳴海荘吉には。


『――速報です。先ほど、風都市の封鎖線を破壊しようと逮捕された鳴海荘吉容疑者ですが、風都署の発表により釈放されたとのことです。
鳴海氏は先日違法兵器所有の罪で逮捕されましたので、二度目の不可解な釈放となります。現在、風都署には抗議のデモが押しかけ、騒然とした騒ぎとなっています』

「まぁ……怖いわね」

「大騒ぎだねぇ……」

「それも苺花の計画通り……例の探偵もこれで終わり」


早速あっちこっちで村八分を受けて、大混乱そうなので……気分がすーっきり。

でもまだ足りないという話も、おじいさんや若菜さんにしていたところ……。


「だけど凄いわ。クモ毒のこと……触ったら感染するってだけでこんなに大騒ぎなんて」

「恭文くんならやりそうでした。
……発達障害やHGSも、そういう移る病気だって言われたことがあるから」

「…………そう……ごめんなさいね。私……無神経だったわ」

「あ、いや……今のは、大丈夫です! あの、私こそごめんなさい。褒めてくれたのに」

「ははははは…………だが苺花、なぜ……彼をあっさり殺さないんだい?」

「……にゃあー?」


あぁ、ミックも疑問そう。おじいさんの膝上で、『だったら自分が出たのにー』って顔をしているよ。

……ミックを見ていると、恭文くんを思い出す。どこか似ている感じがするんだ。


まぁ、それはそれとして……。


「彼は我々と相容れないと言った。
あちら側のルールを尊ぶというのなら、殺さなかった理由も分かる。……なら、君はどうなのかな?」

「……人間が一番苦しむとき……わたしはそれを、お父さんから教わりました」


そう、あのとき……大事なフォトブックを……いつかって思い描いた未来を、踏みにじられたとき。


「自分が一番大事にしている夢、希望、信念……それを打ち砕かれたときです。
そしてそれを砕いた人間は、必ずこう言う……“これはあなたのため”なのだと」

「そうだね。人はそれを笑うものだ。砕いた罪の罪過……その大事なものの重さと尊さを直視すれば、自分のまた咎人となってしまう……だから正義を羽織り、騙る」

「怖いわ……」

「ただ、地球を救うためと言いながら、街で暗躍する我々もまた……そんな怖い人間の一角だ」

「お父様……」

「それこそが、人間の限界なのかもしれないがね」

「だと思います。……鳴海荘吉は言った。殴るのは恭文くんのためだと。
そして今も言っているはずです。それは愛情で、厳しさで、恭文くんに必要なことだと。だから“殴らないでほしい”と」


恭文くんが間違っているから、恭文くんが大事にしていることを踏みつぶすのだと。それが“愛”で、恭文くんには受け止める義務があると。

…………それを本気で言っていた姿を、ふと思い出して。


「でもそれ、根本からおかしくないですか?」


嘲笑してしまう。アイツの……お父さんが滑稽すぎて。

理不尽に踏みつけられた方は、なにを砕くかすら選べないのに……その時点で“対等”じゃないのに。

なのに、自分が理不尽をぶつけられたからって、それが愛情だと嘯いて、仲直りだなんだと言って受け入れさせる……ずるいよね?


――そこを指摘しても屁理屈だとか人の筋だとかで逃げるなら、結論は一つだよ。

そもそも鳴海荘吉やお父さんは、わたし達を対等に見ていない。見下し、哀れみ、自分はこうじゃなくてよかったと安心するための材料にしている。

でも普通にしていたら、そんな楽しさを噛みしめていくなら、自分より強い人は駄目。凄い人も駄目。だからわたし達にしたんだよ。


発達障害があって、それが分かりづらくて、他の人に伝わりにくいから……反撃されにくいから、下らない御託を並べ、正義面で絡んでくるんだよ。

なんて醜いんだろう。みんなそうだ。みんな……みんな……みんな……!


「……獅子は千尋の谷に我が子を突き落とす……が、そもそもその突き落とした獅子は、谷に落ちているのかという話だね」

「だから、私は谷を用意してあげただけなんです。そしてこれからも谷はある。たっぷりとある。
……そのためのメリッサさんで、あの人が今接触しているお知り合いさん達ですから」

「苺花、探偵が怪しい人達に接触するって分かっていたの?」

「二日間も牢屋に入れられていたし、だったら情報を集めようとする……それも手早くとなればって感じです。
……これで、ミュージアムに逆らっていた連中もピックアップできる。まずは、絶対に、自分のコミュニティがどこまで壊れているかを確かめようとするから」

「なるほど……!」

「では、もし彼がこのまま破滅していくなら?」

「仕方ないことですよ。アイツだって、逮捕も許さず散々人殺ししてきたんだし」


だからおじいさんには、笑顔で答えられた。そんなに示す機械が欲しいなら、いくらでも上げる……これは鳴海荘吉のために用意されたチャンスなのだと。


「…………素晴らしい……」


どうやらおじいさんは気に入ってくれたようで、両手で拍手……わたしにまた微笑みかけてくれる。


「素晴らしいよ、苺花。これは普通に殺すよりも……ずっと楽しい娯楽だ」

「お父様……」

「かなり異例で心配だったが……君へのテストは合格としよう。この方式も採用だ」

「ありがとうございます!」

「だが……そうすると私は反省しなくてはいけないねぇ」


おじいさんが反省? え、なんだろうと思っていると。


「ついつい発狂死させる方向にしていたが……いや、悪党の格が弱かったか」

「えぇ!?」

「それも怖いわね! ……苺花、頑張らないといけないわよ」

「そ、そうですね! ならまずはお勉強からで!」

「そうね!」

「ははははははは! やっぱり君を引き取って正解だったよ!」

「にゃあー」


――ここにいると、自然に笑える。おじいさんも、若菜さんも……みんな優しい。

冴子さんだって……まぁあんまり好きになれないタイプだけど、それでも手厳しいながらも、凄くまじめに応対してくれる。そこは素敵だなって思っている。

ミックもよくわたしに懐いてくれて……今、凄く満たされている。ずっと欲しかったものが……わたしをわたしとして受け入れてくれる場所があって、幸せすぎるくらい幸せ。


だから……今度はその幸せを、わたしが恭文くんに届ける。

それが、助けてくれたのに……傷つけることしか言えなかったわたしの、償いだから。


(その10へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、改訂版もこれで前半戦が終了。やっぱり苺花ちゃんが悪役ムーブして大混乱」

あむ「組織拡大に向けて、更に悪の組織っぽいくなって……これ早めに止めないとヤバいじゃん!」

恭文「同じやり口で何度も誰かが潰されかねないしね。それも風都だけじゃない……全国レベル」


(わりと瀬戸際だったこのとき)


あむ「でも、なんで苺花ちゃんの考えをここまで……」

恭文「おのれ、苺花ちゃんが離反したらどうなると思うの」

あむ「え、それはやっぱり殺し屋がざっしゅっとか」

恭文「ウィザードをどうやって止めるのよ」

あむ「…………ぁ」


(そう……ミュージアムも結構瀬戸際。ウィザードは切り札であり爆弾だった)


あむ「でも鳴海さんも可哀想に……あの一回で、無知かもしれないのに目を付けられて、ヘイト全開で」

恭文「その辺りは序盤や断章で説明した通りだね。発達障害への理解も進んでいなかった時勢だったし……なお元祖本編軸ならここまで問題じゃなかった」

あむ「認知度、もっと低いから?」

恭文「更にその無知を拭うタイミングも恵まれなかった。後押しもした……じゃなかったら幼稚園のシーンとか出さないって。本筋と全然関係ないもの」

あむ「でもそれも怖いなぁ……。逆効果でもその自覚すら持てないってことじゃん」

恭文「発達障害がここまで取りざたされるようになったのって、やっぱり世の中の生活が変化しているからなんだよ。変わっていないようで変わってさ。それで適応できる状況が少なくなる」

あむ「だから、昔気質な親父理論も通用しなくなる……」

恭文「もうちょっと年代が進んでいたらまだ穏やかに話せたけど、この段階じゃああの脅迫停止が限界ってことだ」


(本当に二〇一〇年代で認識がぐいっと整った感じ。実際二〇〇〇年代、自分は発達障害って知らなかった)


恭文「まぁそれはそれとして、今日は三月十日……一昨日は怜の誕生日だったけど、凄かった」

あむ「あぁ……なんか、トリエルとシアター組で合同ライブしたんだっけ?」

恭文「いや、合同トレーニング」

あむ「そうだった! それでプレゼントになるの!?」

恭文「よそのアイドルさんと練習……勉強できる機会ってそうそうないしね」


(みんな忙しいのです)


恭文「ただ怜は大喜びだった。シアター組にはダンスが得意な真も、響も、そして(舞浜)歩もいるから」

あむ「そっか。歩さん、アメリカからの帰国処女で……シアター組にダンスを教える方にも回ってたんだっけ」

恭文「回っていたねぇ。だから歩もすっごい楽しそうだったよ。怜もそうだし、一緒に参加したリズノワの葵とも盛り上がってた」

歩「盛り上がったってレベルじゃないよ! ほんとびっくりしたし!」

恭文・あむ「「出てきた!」」

歩「恭文、リズノワ……葵は凄いよ! アイドルできっちり振り付け作れて、パフォーマンスとして成立させるとか! しかもレベルが高いし! もう合同トレーニング、ほんと刺激受けっぱなし!」

恭文「葵はダンスについては超天才って言えるレベルだからなぁ。そういえば響と真も衝撃を受けていた」

歩「受けるよ! というか……そうだよ、得に衝撃を受けたのが体脂肪率だ」

あむ「体脂肪率? 確かに葵さん、スレンダーだけど」

歩「十五パーセントをキープしているとか……!」

あむ「低……いの?」

恭文「一流アスリート並みの体脂肪率だよ」

あむ「い!?」

歩「あの領域にはいけない! そりゃあ人気でるよ、リズノワ! ちょっとライブバトル見に行ってくる!」

恭文「いってらっしゃーい」

あむ「あたしも行く!」


(リズノワはどこまでも凄いパフォーマーです。
本日のED:LizNoir『The Last Chance』)


鷹山「……鳴海荘吉に対してヘイト全開なのも当然か。一人の人間がやり直しなどできない形で、全て潰す……死に向かっていくことを当然とする。それが目的」

大下「息苦しい世界だよ。水嶋とか嫌いそう」

赤坂「でも、蒼凪君はそれでなんとか説得……というか脅してでも恭順を引き出したわけだ」

恭文「いや、言った通りお為ごかしですから。それで裏切ってくるならもう容赦はできませんし……というか裏切ってほしいなー。そうしたらもっとずたずたにできるのになーって期待感満々でした」

赤坂「あ、うん……」

先輩「ちょ、そこは説得成功とか考えないの!?」

恭文「まぁロッテさんにも軽く愚痴っちゃいましたけど……言葉や正しさ一つで人の願いがたやすく砕けるなら、そもそもこんな戦いは起きていません。伊佐山さんだって雨宮さん達の説得で止まっていましたよ」

風花「譲れない願い……積みかさねた時間に比例した想い。それを砕くなら、同じだけの重さが必要なんだよね。
だから六歳当時の私達に、そんなものが出せるはずないんだよ。原理的に、それは絶対に不可能だった」

恭文「それを力と建前でねじ伏せる側の僕達だからこそ、忘れちゃいけないことだ。
……たとえ誤った道筋から生まれた願いだとしても、そこに込められた想いの質量は……どこまでも正確に測られる」

先輩「蒼凪くん……」

照井「……だがおかしいなぁ。
刃野警部補達はそのお為ごかし……説得したという手柄を譲られて、ある程度名誉を回復したそうだが?」

先輩「……って、そうなんですか!?」

照井「説得自体は確かに失敗したが、それでも仕事はした……そういう証明ができたからな」

恭文「照井さん、し!」

いちご「全く……恭文くんは相変わらず生卵なんだから」(頭なでなで)


(おしまい)





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