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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2019年5月・星見市その7.5 『厄介な奴らは誰に呼ばれることもなく自然と湧いて、集まっていく』



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2019年5月・星見市その7.5 『厄介な奴らは誰に呼ばれることもなく自然と湧いて、集まっていく』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……恭文さんが突然、バンプロにやってきた。それもちょっとだぼっとしたジーンズとジャンパーを着て……ふだんは和装中心なのに。

私と優、すみれは朝倉社長とお仕事の打ち合わせ中だったので、そのまま社長室でお話を聞いてみると……。


「……そうか」

「すみません。こっちの都合で振り回してしまって」

「いや、問題はない。……実は天原氏の帰国に合わせ、トリエルとポプメロでの合同合宿も予定していた。むしろちょうどよかったのかもしれん」

「あぁ……それは、そうですよね。もう楽曲も仕上がっていたっていい時期なわけで」

≪なら、しばらくの間は瑠依さん達も自主練ですね。楽しく遊んで待っていてください≫

「子どもじゃないんだけど……いや、子どもなんだけど……でも、そうね。せっかくだし天原さん達とも何かしてみるわ」


なんでも二年近く追っていた事件絡みで、地方へ長期出張することになったそうで。ざっと見積もっても二か月……六月後半まではその地方に常駐するかもしれないと。

そのためにドンパチして、服もぼろぼろになったので、星見プロの新人さん……長瀬琴乃さんだっけ? 優曰く、長瀬麻奈さんの妹さんで、よく似ているそうだけど。その人の私服を借りたらしい。

……恭文さん、体型的にはスレンダーな優という感じだし、女性ものの服も普通に着られるのよね。戦う人とは思えない着こなし方だった。



「でも恭文さん、大丈夫ですか……!? 今日もその、ドンパチしたとかなんとか」

「せっかくのお着物もぼろぼろになったんやろ?」

「かすり傷程度だし、すぐ修復できるって。……というか、星見プロの白石千紗って子が、手ぐすね引いて修復している……!」

「あらま……あの子裁縫とかできるん?」

「ファッション関係に強いのもあって、自然とだって。帰ったら着せ替え人形の刑だよ」

≪きっと時間がかかりますよ? 和服オンリーだったのが気になっていたようですし≫

「そりゃあ楽しくやらんとなぁ。送迎会も込みやろうし」


……というか、やっぱり……そうか。

この人は自分の道が……飛びたい空があって。だからそのために……誰かを助けて、守るためにまた新しい戦いに飛び込む。

それは……もしかしたら死ぬようなものかもしれなくて。それでもこの人を止めることは……きっとできない。


えぇ、分かっている。それは私が、アイドルを辞めろと言うのと同じ。そんなこと私には言えない。

だけど……それでも寂しさは消えなくて、向かい側に座る恭文さんを真っ直ぐに見やる。


「……連絡はください。私達はもう夫婦同然ですから」

「瑠依、それはおのれの中だけで生まれた幻想だ。レッスンして忘れようか」

「忘れられるわけないじゃないですか! 私は……あなたに初めてを捧げたんです! だから責任を取ってくださいって言いましたよね!」

「それは裸とか見られたときに言う台詞なんだよ!」

「……頼む。せめて私が理解できる速度でキャッチボールをしてくれ」


あ、社長のことを忘れていた。というかだってそうよ……この人、また……こっちは心配しているのに!


≪あぁ、そういえば社長には話していませんでしたね。いや、これが傑作な話で……≫

「どこがだよ! かくかくしかじか……というわけで…………完全に親にも引き合わせる構えなんですよ! なんだったら今引き合わされていますけどね!?
一体どこでどう遺伝子が絡み合ったらこんな暴走電波馬鹿が生まれるのかがはなはだ疑問ですよ!」

「誰が暴走電波馬鹿ですか! というか、遺伝子が絡み合ったということならこの人に言ってください! 半分はこの人のせいですから!」

「あぁ言ってやるよ! ほんと誰に似たんだって聞いてやるよ! いくら何でもこの状況で夫婦はあり得ないしさぁ!」

「だったら私、きっとこの人似ですね! 母にもあんな感じで現在に繋がりましたし!」

「公然と秘密を暴露しつつ殴りかかるスタイルは、なんとかならないか?」


なんともならないので無視させてもらいます。うちの母とあんな結果に終わっておいて、今更父親として夫を紹介とか……さすがに……私、そこまで心が広くないから。


「まぁまぁ社長さん……瑠依ちゃん、最近いろいろ砕けてえぇ流れやから」

「……確かにな。以前は堅すぎるきらいもあったが……遊びが余裕を生み出しているのだろう。
恋愛も……年頃で仕事との兼ね合い……制御は難しいが、表現を広げる一因ではある。闇雲に否定はしない」

「…………」


だけど……この人は社長としての顔だけど、私のこの……不安定な感情を認めてくれて。それに驚いて、つい目を丸くしてしまう。


「……どうかしたか?」

「いえ、その……意外だったもので」

「私とて木の根っこから生まれたわけではない。知っての通りにな」

「……えぇ」

「だが勘違いはするな。……相手が彼でなければ、さすがに止めていた」

「そうですね。うちも仰りたいことは分かります」


え、そうなの? 確かに恭文さん、伝説級の活躍をしている忍者さんだし、私より小さく見えても凄くしっかりしているし……分からなくはないんだけど。


「……朝倉社長……!」

「……彼女の恋愛力が極めて最底辺なのは理解した。そこは社長としても話すので、その……裏切られたような顔はやめてくれ」

「最底辺!?」

「ありがとうございます、社長!」

「なんでそこお礼を言うんですか!」

「馬鹿野郎! 否定できる要素が一欠片もないでしょうが!」

「一欠片も!?」


え、なに! ちょっと気持ちが揺れていたら……凄い誹謗中傷をぶつけられたんだけど! しかも恭文さんもひどい! 私、恋愛とか全然できないように見られているの!? ショックなんだけど!


「瑠依ちゃん、仕方ない……これは仕方ない」


しかもすみれまで諫めてくるんだけど! どうして!? 分からない……本当に分からない!


「あ、でもそうだ……それなら優にも話してくださいよ」

「鈴村にも?」

「なんでよー。うちは瑠依ちゃんと違って、恋愛のイロハは理解しとりますー」


ちょっと待ってぇ! 優までその認識なの!? 私はイロハすら分かっていないと! いや、確かに……こういうのは分からないことだらけだけど、だから優の漫画とかで勉強したのに!


「そっちじゃないわ! おのれ……先日のライブバトルどうだったーってメッセを送ってきたとき……」

――今日のうち、ひと味ちがったやろ?――

――確かになんか、キレは凄かったと思う――

――ちゃいますやんか。……実は瑠依ちゃんと同じシャンプーに替えたんよ。
そうしたら踊って髪が揺れるたび、瑠依ちゃんと同じ匂いに包まれて……自分が瑠依ちゃんになったんかと何度か錯覚したわ。
おかげでうちのテンションぶち上がりやわ! はぁ……ほんま瑠依ちゃん様々やねぇ。あ、次はボディソープとリップ、ハンドクリームも同じにするんよ――

「……とか返してきたでしょうが!」

「うわぁ……!」

「……純粋に気持ち悪いな」

「社長さん!? というか、すみれちゃんまでひどいやんか!」


え、それはまた…………あれ、なんだろう。みんな……というかすみれや社長も、どうしてどん引きって顔をするの?


「ボディソープの下りはさすがに冗談やからな!?」

「同じものを使っている時点でそうは聞こえないぞ」

「そうだよ! というか瑠依ちゃんはそれ」

「そら商品名は聞いたからなぁ」

「えぇ、教えたけど……何が問題なの?」

「「「――!?」」」

「同じ匂いがするってだけよね」

「「「――!?」」」


あ、あれ? 疑問だったから聞いただけなのに……社長達が更に引いたような。というか、社長……脂汗を滲ませているんですけど。

別に優ならって……女の子同士だし、特に問題ないって言いたかったんだけど……なにか、駄目なの? 地雷的なのを踏んだとか。


≪……朝倉さん、早急に……対処を考えた方がいいですよ。自分なら大丈夫ってモンスターになりやすいですから≫

「その方がよさそうだな。鈴村についても少し居残ってくれ。私から説教だ」

「なんでですかー! ユニット間で仲良しなのはえぇことやないですか!」

「理由なら言ったはずなんだがなぁ……。現に彼と奥山はどん引きしているじゃないか」

「うん、あの……気持ち悪い」

「いや、僕もね? 発達障害の絡みで匂いとかよく分からないから、舞宙さんがこれお勧めだよーっていうのを使って……同じ匂いがするって状況だけどさ。
でもその……テンションぶち上がりとか、自分が舞宙さんになったっていうのは……さすがに……」


え、そうなんだ。というか発達障害ってそういうところまで……でも納得した。男の子の匂いって感じじゃないから、実は気になっていたんだけど……天原さん、本当に素敵な彼女さんでもあるのね。


「…………」


……どうしてだろう。なんだか……そう考えると胸がきゅって……苦しくなる。私、夫婦とか言っているけど、この人のこと……まだよく分かっていないんだって、突きつけられたからかな。


「もう……うちが気持ち悪いとしたら、そうさせとるのは瑠依ちゃんやんか」

「「「…………」」」

「そないに引かんとしてよ! ちょっとしたジョークやんか!」

「え、あの……私がなにかしたの?」

「天動、もういい……黙っていてくれ」

「どういうことですか!?」

「今は、それだけでいい……!」


なんであなた、いきなり慰めるようにしてくるんですか! ふだんは冷徹な社長って感じなのに……私、その顔が外れるくらい相当なんですか!? そういうことなんですか!?


「……あ、そ……そうだ! それでですね、僕の代理というわけじゃないんですけど……遊び相手は紹介したいなと!」

「遊び相手……? 恭文さん」

「ガンプラバトルのね。まぁ合宿もあるなら、それが落ち着いてからでいいから……この子達と会ってみてよ」


すみれに答えながら恭文さんは、タブレットを取り出して……あるバトルの映像と、少年の画像を見せてくる。

これ、νガンダムよね。それ紫気味な青を塗っていて……見たことのないトランクみたいな武器を使って、縦横無尽に戦っていた。


あとは、長い髪の女の子。これは……バルバトスルプスレクス? あの、まだ見始めたばかりだけど、鉄血のオルフェンズってシリーズに出てくる機体。

大きな腕と尖った爪……振り回される尻尾とメイスで、敵を潰し、穿ち、蹂躙し続けていた。


「ユウキ・タツヤ――中学生になったばかりの子です。こっちは島村卯月。聖鳳学園初等部に通う女の子です」

「ユウキ……もしや、ユウキ塗料の」

「そこの一人息子です」

「……この島村卯月って子……うち、見たことあるかも。ちょうどやっとるガンプラバトル選手権に出とるよな。あの、西東京地区の予選」

「そうだよ。学園交流の関係で知り合ったんだけど……滅茶苦茶強いのよ」

≪タツヤさんお付きメイドのクラモチ・ヤナさんともども話を通して、快諾は得ています。
……揃って去年の関ヶ原ガンプラバトルにも参加していますから、腕前は保証できますよ≫


そこで私も……みんなも察する。

……恭文さん、私達のために……そういうお知り合いにも声をかけてくれたんだ。自分がいなくても練習相手に困らないように……いろんなことが勉強できるようにって。


「前々から僕だけが練習相手っていうのは、飽きがくると思っていたんです。それこそ道場破りじゃないですけど、いろんな人との対戦経験も必要になるかなと」

≪関ヶ原バトルとなれば、数え切れないくらいの相手と戦うことになりますしねぇ。タツヤさん達はその辺り、今の瑠依さん達にはいい相手になりますよ≫

「そうか。まぁ身元もはっきりしているのであれば問題ない。そちらはまた顔合わせなどさせてもらおう」

「揃って沙羅さんともよく知った仲なので、そちらは引き継いでくれます。
で、タツヤが絡むなら……ちょうどいいし、これをみんなにあげる」


更に恭文さんが出してきたのは……画面の中で映っていた、トランク型の武器だった。それにそのパーツがついたランナーもある。

あの、右のトランクからはナイフやビームサーベルが出て、左はガトリング、グレネード、レールガン……射撃武器がたっぷりと詰まれているの。十徳ナイフみたいに。


「これって……」

「マーキュリーレヴ。僕とタツヤの友達からもらった、どんなガンプラにも付くオリジナル武装だよ。
……必ず戻ってくるから、そのときはこれで……全力でバトルしようよ」


マーキュリーレヴ……ランナーを手に取り、どこか……胸が熱くなる。くすぶるような……焦れったいような熱に苛まれる。

……遊びが余裕を生み出して、アイドルとしても成長している。それが本当なら……いい、のかな。


「バトル……はい! 約束です! 私、この子使ってみたいです!」

「でもクランシェに取り付けるなら……うーん、いろいろ考えてまうなぁ」

「それもまた創意工夫……模型の楽しさだよ」

「楽しさ……」


私はこの、アイドルとは違う熱にこのまま身を焦がしても……ううん、これでいいんだ。


「分かりました。なら、全力で……本気のバトルを」

「うん」


これは、未来へ続く約束だから。

この人は戦いの中で死んだりなんてしない。私達との約束を……大切な人達と交わした約束を守ろうと、頑張ってくれる。


それが信じられるから……そうあってほしいと願うから、私は……もっともっと燃え上がるんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文くんはまた事件関係で待ち合わせがあるからと、そのまま出ていった。瑠依ちゃんはいろいろ思う所ができたようで……すみれちゃんと一緒に帰宅。

で、うちはちょおっとだけ社長室に居残りして、社長さんに……瑠依ちゃんのお父さんにお話や。まぁその辺りを公言するのはNGやけどな。


それで、恭文くんのせいでちょおお説教も受けて……なんでよ! 乙女同士のちょっとしたコミュニケーションやないかぁ!


「まぁ、仲がいいのは問題ないが……節度は考えてくれ。白い厄介などと言われても対処に困る」

「白い厄介!?」

「彼曰く、青い厄介や黄色い厄介というものがいるらしいからな。ともすれば、君は同類だろう」

「恭文くんはまたぁ!」


なんやそれ! うちに意地悪して気を引こうって作戦か! ほんなら思いっきりアピールしたる! まぁ戻ってきてからに……なってまうけどな!


「まぁ、そういう意外な一面を引き出せているのも……彼の効果と言えばそうなるかもしれないが」

「……意外という意味ではうちも同じですよ。てっきりアイドル恋愛禁止―とか言うと思うてましたし」

「……正直言うべきだったのではと少しばかり後悔している。瑠依がアレだからな」

「アレですねぇ」

「確かに、いちゃもんを付けるのであればいくらでも付けられるだろう。
……相手方と真摯に向き合った結果とはいえ、ハーレム状態。
……年若いのに危険な仕事へ赴くため、いつどうなってもおかしくない。
……そもそも発達障害という難しい障害を患っている障害者。
……その障害が子どもに遺伝したらどうするのか」

「……えぇ」


恭文くんと知り合ってから、うちも調べて……結構、ショックやったわ。恋愛のハードルとしては、とんでもなく大きいものなんよ、障害って。

しかも遺伝って辺りは……あ、まだ研究途中で、する確率とかもはっきりとは分からんそうよ。でも、発生率そのものが十人とか十五人に一人とかやそうやし、そこ考えると……それはみんな同じやけどな。

でも、そういうのが理由で、相手に拒絶されたり……受け入れてくれても、相手方の親が難色を示すとかってなると、胸がきゅって締め付けられてもうた。


……うちは恭文くんと知り合ってそんな経ってない。でも、言い切れるから。決して小さくない理由なのは分かるけど……それであの子のこと、否定せんといてって。

きっとあの子は……そういうこと、いっぱい言われてきた子やから。うちには分かるんよ。きっと……社長さんにも。


「だが、彼には人間として素晴らしいものが備わっている。それは天原舞宙氏の留学を応援し、待ち続けていることからも分かる」

「うちもそう思います。……瑠依ちゃんもきっと、そんな恭文さんに惹かれとる。恋愛かどうかはともかく……間違いなく、一人の人間としては」


……恭文くんは、確かに人と違うところがたくさんある。でも、そやからこそ誰かの幸せや夢を真っ直ぐに応援できるし、誰かの苦しみや悲しみに心を痛めることができる。

そして……そんな幸せや痛みをあざ笑い、自分だけが得をしようとする悪い人達には、本気で怒り、止めるために戦える。

手段を選ばんのかて、それでもそういう大切なものを守りたいって気持ちからや。そんな優しさが……純真さが、朝倉社長が言う“素晴らしいもの”。


そやから社長は、恭文くんやったらって認めたんよ。自分の欲望を優先して、瑠依ちゃんの夢を……願いを潰すようなことは絶対にせんって分かっとるから。

……そこはほら、妻やーって言うてもストップかけとるところからもばっちりやろ? アイドルが恋愛沙汰っていうのも気にしとるし、それで瑠依ちゃんがスキャンダルで大変になったらって……たくさん考えてくれとる。


「面倒だとは思うが、支えてやってほしい」

「そのつもりです」


とはいえ……瑠依ちゃんとは、また少しずつ考えていかんとなぁ。惹かれる気持ちがなんなのか……その上でどうしたいのか。

きっと今うちらの胸で燃え上がっているものは、もっともっと高くに羽ばたくためには……必要なことやって思うから。


「話としては以上だ」

「はい。ほなうちもこれで」

「……いや、もう一つある」


……応接用ソファーから立ち上がりかけたところで、社長さんが停止する。


「これは彼にも、他の二人にも、まだ話さないでくれ。
鈴村コンツェルンの一人娘であり、トリエルのブレーンでもある君だからこそ話せることだ」

「……また大きい切り出し方ですね。なんですか」

「姫野霧子の行動に注意してほしい」


姫野……LizNoirのプロデューサーさんに? 担当もちゃうし、また意味が分からんとつい顔をしかめてまう。


「彼女は、私の意図とは違う行動を積み重ねている」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


星見プロの子と……恭文君とのレッスンは、僕達にとっていい影響を与えてくれた。みんな、厳しくしたつもりだけど楽しそうだったしね。

そういう初心はやっぱり忘れちゃいけないやと、今日も気合いが入ったまま自主練に挑んでいると……霧子がやってきた。


霧子はびしっとした大人なスーツを着こなし、眼鏡のフレームをきらりと輝かせながら……僕にこう告げた。


「――いやいや、ちょっと待って……霧子」


さすがに意味が分からなくて、軽く手を挙げて制止する。


「僕達が、次のNEXT VENUSグランプリに優勝できなかったら……解散?」

「えぇ」

「その前に、次のグランプリなんていつあるのさ。そこのせいでもう、他がすっ飛んでいるよ」

「まだ正式発表はされていないけど、ほぼ本決まりだそうよ。秋を目処に予選が始まり、そこから本戦……クリスマスに決勝戦というスケジュールよ」

「また盛り上げるね」

「あんなとんでも事故が起きたイメージを払拭したいのよ。まぁそれは大迷惑したこちらも同じだけど」


霧子はすらっと伸びた髪をかき上げ、面倒そうに告げる。……星見プロの子達には絶対聞かせられないね。恭文君とか、静かに切れて報復しそうだ。


「なら、そこは納得する。正式発表されるまでは黙っておくよ」

「えぇ」

「でもまだ疑問はある。……それ、本当に社長が言ったの?」

「もちろん」

「確かに莉央の休業はあった。ただ、それでも僕達は十分、バンプロに貢献していると思うけど」

「社長はナンバーワンにしか興味はないのよ」

「……そう」


間違いない。嘘だ。恭文君の話を信じるなら……いや、彼はこういうことで嘘を言うタイプじゃない。こっちが手を出してこない限りはね。


(……まぁ、それ以前の問題だけどさ)


霧子とはそれなりの付き合いだったから、よく分かる。霧子は僕達を見くびっている。どうせ子どもだから、大人のこと……業界のことなんて分からないからと、適当なことを言っている。

もちろん僕達が社長に確かめることもしないと、タカをくくっている。そう言うところに莉央も辟易しているっていうのに……本当にさぁ。


「葵、以前の約束は覚えているわね」

「もちろん。莉央もちゃんと刻んでいる」


そう、僕達は以前……霧子と社長に約束した。というかお願いをさせてもらった。

長瀬麻奈がVENUSプログラムのランキングを駆け上がって、その観客動員数を伸ばし、ついには僕達LizNoirを抜いた……そんな驚異となったときだ。


そのとき、霧子はこう言った。


――どんな手を使っても構いません。マスコミに長瀬麻奈のスキャンダルを流しましょう――


それはもう、プロデューサーとしての進退もかかっているから必死だったよ。

あと……三枝さん、元々バンプロのプロデューサーさんで、リズノワ結成の立役者だったしね。言うなら元の飼い主に牙を向けて、邪魔してきているも同然ってわけだ。そりゃあ腹も立つよ。


――彼女に後ろ暗いところがあるとは、限らないと思うが――

――そんなもの、でっち上げればいいんです! グランプリの出場を阻止すれば……!――


でも、僕と莉央はこう断言した。


――長瀬麻奈にはなにもしないでください。
LizNoirは正々堂々と、彼女と戦って勝ちます――

――うん、僕もそれがいいな。僕は、カニカマとずるいことは嫌いなんだ――

――……なにを甘いことを言っているの、あなた達。
長瀬麻奈のランクが更に上がった後では、ガードが堅くなるわ! 機会は今なのよ!――

――……もし汚い手をうちのプロダクションが使ったら、私はその事実を告発します――

――莉央! 私はあなた達のために……!――

――……分かった。神崎、井川……長瀬麻奈にはなにもしない。
姫野、これは社内の決定事項だ。くれぐれも勝手に動かないように……いいな――


うん……やっぱり、霧子は嘘を吐いているね。少なくとも社長は、こんなことを今言うとは思えない。


「もうあなた達の退路は断たれたわ。なにがなんでも優勝しなさい」

「分かったよ。でも一つだけ……解散のことは、莉央には話さないで」

「どうして? 大事なことよ。伝えないわけにはいかないでしょ」

「……僕達が優勝すれば、問題ないよ」


まぁ、とはいえだ……。


「それになにより、ここまでやっておいて“やっぱり開催しません”なんて話になったら……赤っ恥どころの騒ぎじゃないよ?」

「……それもそうね」


それでもなんだかんだできっちりするところと、こういうジョークに付き合ってくれるところは……嫌いじゃない。

嫌いじゃないからこそ、僕は……あぁそうだ。悲しいんだよ、霧子。これでは、僕はもう君を信頼できない。


全く……僕は嘘とカニカマは大嫌いだって言うのにさ。だから霧子は一生恨んでやる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


社長が意図するものとは違う行動。なかなかに物騒な話やけど、それって要するに……。


「背任行為……?」

「今のところまだそこまでの問題ではない。
だが、彼女は野心に溢れている……溢れ過ぎている。その辺りでリズノワとの齟齬も生み出しているし、外部への売り出し方もあまり褒められない方法を執っている」

「噂されとる通りですか……。社長さんから注意は」

「釘刺しはしている」

「それでも止まる気配はない?」

「逆を言えば、止まる理由がない……そんな可能性もある」


あぁ、そういう……言いたいことはよう分かりました。うち、これでも恭文くんと同じで悪党な側やし。


「誰かが……社長さんより自分に付く方が得だと示した誰かが、姫野さんを従わせている」

「私にも原因があることだ。
社長として、姫野の心情をくみ取れなかった部分はある」

「……」

「なのでいざというときは、彼を……星見プロを頼れ。三枝にも話を通しておく」

「瑠依ちゃんが、社長さんの娘であるという部分もネックになるなら?」

「だからこそ彼だ」


そこで社長さんは、楽しげに笑う。そう……この状況で、楽しげや。


「姫野は以前……長瀬麻奈への圧力を申し出た際、こう言っていた。
――どんな手を使っても構わない。マスコミに長瀬麻奈のスキャンダルを流そう……。
彼女に後ろ暗いところがなくても、でっち上げればいい……」

「それはまた、社長さんを前にして大胆な……」

「だがそれは、我が社の権威を乱用すること前提での話だ。
……仮に彼が我が社に……我が社より大きなものと向き合ったとして、折れると思うか?」

「そこは賭けてもえぇですよ? ……だったら戦争だと、“どんな手を使ってでも”姫野さんごとバックを潰します」

「つまりはそういうことだ」


そやからうちも笑ってまう。うん、そこは断言できるよ。そやかて……恭文くんは国家的陰謀とすら戦って、抗って、勝ってきたレジェンドやもん。姫野さんの悪巧み程度で揺らぐはずがありません。


「あとは……天動がその状況で、彼女の都合に合わせて暴走しないように……また君達自身もそれに同情し、三人一丸となって飛び込むような真似はしないよう、留意してほしい」

「それが、瑠依ちゃんの覚悟……その結果だとしても、ですか」

「確かに彼女は強い。だが、その強さ……強固さゆえに、助けを求めるようなことから逃げる可能性もある。
……その結果、そんな強固さだけでは耐えきれない苦難に陥った場合……誰が彼女を助けるのか」

「…………」

「それを止めるのもまた、ユニットメンバーの仕事だ。頼めるだろうか」

「……分かりました。ほな、このことは……一旦胸の内に仕舞っておきます」

「よろしく頼む」


……恭文くんが危惧していた通りやな。社長さんは隠し事があった。その原因は姫野霧子……ほな、うちもうちでしっかり準備しておこうか。

そのときが来たときのために……うちは瑠依ちゃんがトップに立つためやったら、なんでもする。でもそれは、瑠依ちゃんがちゃんとアイドルとして、誇れる道を進んでいればこそや。


それを守るのにうちの手だけじゃ足りん言うなら……それこそ、どんな手を使ってでもかき集める――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


全く……相変わらず思い通りに動かない子達。でもまぁ、別にいいわ。あなた達についてはもう見限っているわけだし。

それに私も嘘は言っていない。長瀬麻奈が消えてくれる前……あの話し合いで朝倉社長はこう仰っていたもの。


――姫野、もし神崎と井川がグランプリ優勝できなかった場合は、相応の処置を考えてもらう――


相応の処置……当然契約解除。本来ならそれも達成されて然るべきだった。流れはどうあれ長瀬麻奈を打ち破ることはできなかったもの。

その上莉央は何が不満なんだか一年休業。葵に別のユニットをと提案してもはね除けるし……その上、揃って私を馬鹿にしているし。

あぁ……思い出してもはらわたが煮えくり返る。


――なにを言っているの! ゴールデン……全国区のバラエティー出演よ!? 露出して、知名度を上げるチャンスじゃない!――

――姫野さん、リズノワは歌とダンス……パフォーマンスで勝負するユニットです。バラエティーに出たら、イメージが崩れるじゃないですか――

――しかも次のライブバトルももうすぐだよ? レッスンを潰して支障が出たら意味ないと思うんだけど――

――この業界は甘くないわ! 露出を増やさなければトップには行けない! イメージにそぐわないくらいでチャンスを逃してどうするのよ!
しかも莉央、あなたについては一年の休業でブランクもある! それを取り返さなきゃ――

――だからこそ、リズノワの軸をずらすわけにはいきません。それに取り返しなら、復帰後のランクアップで示しているはずです。足りないというのなら、更なるパフォーマンス向上を目指します――

――僕も同感。というか、そこのところは霧子も分かっているのに……最近ちょっとおかしいんじゃないの?――

――………………――


人がせっかく入れてきた仕事を蹴って……テレビ局の重役と会食をセッティングしても、塩対応でかえって不興を買うし……本当になにも分かっていない。

だからもういい。三枝の残した子達をいちいち相手にするのは面倒よ。適当にサポートしている振りをして、グランプリを機会に縁切りするわ。……無論、本当に優勝するなら別だけど。


でも恐らくは無理。後発のTRINITYAiLEは、そういう縛りもなく数々の仕事を手がけているもの。ガンプラバトルの大型イベントに参加できているのがその証拠。

むしろ私が更にのし上がっていくのであれば、利用できるのは間違いなく……だからこそ着実に、準備を重ねる。


幸い私の価値を見いだし、理解してくれる人はいる。相手にもならない葵を捨て置いて、こっそり社を出て……車で適当に走り、その車内であの方に電話。


「――――以上がTRINITYAiLEの直近活動とその内容です」

『下らん……朝倉恭一が見込んだ若手トップも、お人形遊びに夢中とはな』

「えぇ、本当に。……とはいえ、ポプメロとのコラボによるプロモーション効果は絶大です。
なにせ天原舞宙の特殊性もありますし、アニメ業界のお話は既にオタク特有なものというわけではありません」

『確かに……その辺りはうちの芸能部門もプッシュしたが、やはり人材の弱さは否定できん。どうしても押し切れなかった』

「……星名専務としては、やはりその強化は必要と」

『だから君にも声をかけた。無論TRINITYAiLEも、LizNoirも……十分な駒となってくれる。そうだろう?』

「もちろんです。その躾けも私がきっちり行いますので」


そう……星名一臣専務。イースターの最高責任者であり、私の資質を見込んでくれた救いの神。

彼はずっと悩んでいた。ホビー部門と芸能部門……その二点だけは、あらゆる分野で勝ち組のイースター社の汚点だったから。


ホビー部門については、ガンプラ……ガンダムや仮面ライダー、ウルトラマンという強大なコンテンツを持つバンダイに勝てなかった。

かと言って独自展開でも勝てない。イースターの資産は相当だけど、大会社故に小回りが利かず……アイディアと実績もある中小メーカーに出し抜かれ続けていた。

芸能部門は男性アイドルユニットのDART、演歌歌手の香川まさし……悪くはないけど、それもこれも今ひとつ魅力に欠けていた。


そこで星名専務は、徹底した内部改革を決断。私のような優秀な人材を各所から集め、新人の発掘・育成……そういった基本プロセスの質を高めることにした。

そして私は、リズノワを育てた実績と……多少の手土産を用意できることも条件として、そこの責任者に収まると決定していて……。


『それを聞いて安心したよ。……特にTRINITYAiLEは絶対に欲しい。バラエティー枠も、基本のパフォーマンスも、両方こなせる王道アイドルユニットと……三条くんというマネージャーも絶賛していたのでな』

「三条?」

『将来的に君の部下となる人間だ。年若いが、イースターミュージックの中ではかなりの腕利きで……今も見込みのある新人を鍛えている』

「それは楽しみですね。……とはいえ、今すぐ引き抜くというのはかなり難しいかもしれません。
NEXTグランプリ開催もありますし、よっぽどの理由がない限りは……」

『そこについては腰を据えるしかないか……。
朝倉に弱みでもあればいいのだが、こちらの調査では後ろ暗いところはなにもなかった』

「そんなもの、でっち上げればどうとにでもなります。……実際朝倉恭一には泣き所もありますし」

『ほう』

「天動瑠依……彼女は朝倉恭一の実子です。母親とは大人の事情で別れたそうですが」


弱気になることはない。なにも問題はないと笑うと、星名専務も満足そうに鼻を鳴らす。


『それは素晴らしいな。では、姫野くん……済まないがしばらくは“善良な社員”を演じてくれ。手はこちらで考える』

「はい」

『だが注意してくれ。くれぐれも……誰にも気づかれないように』

「もちろんです。……では星名専務、また」


……そうだ……そこで一つ引っかかってしまった。

まぁ大丈夫だとは思うけど、念のために報告しておいた方がいいかしら。これで面倒が起きて、栄転が潰れても困るし。


「……申し訳ありません。定期報告に一つ漏れがありました」

『漏れだと?』

「大したことではないのですが……TRINITYAiLEにガンプラバトルを教える子が、どうも第二種忍者だそうなんです」

『忍者だと』

「ポプメロ側が、その忍者に教わったとか。
……TOKYO WARや核爆破未遂事件を解決したレジェンドだとか、いろいろ誇張されているようですが」

『ほう……まぁそんな仕事を受けるくらいだ。誇張されて適当にというところか』

「そうですね。まだ十六歳の子どもですし……蒼凪恭文とか言うそうですが、そんな子どもが」

『なんだと!』


するとそこで……冷静だった星名専務の声色が急に逆立った。ついびくりと震え、耳に当てていたスマホを外し、画面をガン見してしまう。


『おい、それは間違いないのか!』

「え、えぇ……」

『……姫野くん、行動には十二分に警戒しろ』

「は? あの、専務……それは」

『その話は全て事実だ――!』

「は……!?」


え、なに……どういうこと。専務はどうしてそこまで。

いや、でも……嘘や冗談を言う人ではない。じゃあ本当に、噂通り……!?


『どうやら君やTRINITYAiLEへの対応も、慎重に慎重を重ねた方がいいな』

「専務、それは……」

『時を待つんだ。今……奴がTRINITYAiLEの側にいる状況で動けば、間違いなく様々なものが破綻する』

「……分かりました。こちらも細心の注意を払います」

『いいか、十六歳の子どもと侮るな。その中身は……恐らく君など相手にならないほどにどう猛な野獣だ』

「…………はい」


その言葉は屈辱だったけど、大人しく従い……通話を終了。つい流れていた額の汗をさっと払う。


「あんな小さな……小学生にしか見えない子どもが、正真正銘のレジェンド……!? いえ、でも専務が知っていたというのなら……ああもう」


どうしてこう上手くいかないの。私はただ、勝ち組になりたいだけなのに。業界のトップへ駆け上がりたいだけなのに。

なのに莉央も、葵も……私の周囲にあるものがそれを許さない。挙げ句三枝のおこぼれで出世した女とまで言われる。

そんな状況から脱却できる……そのタイミングがようやくやってきたというのに……!


「……いえ、落ち着きなさい。クールになるのよ、姫野霧子」


そう言い聞かせ、ハンドルを握りながら深呼吸……。


「専務はそれで手を引いていない。あくまでもタイミングを見計らうということ。
そうよ。しょせん業界のことも分からないようなお坊ちゃんじゃない。警察が出張るようなことをしているわけじゃないし、なにもできるはずがない」


そう言い聞かせ……ようやく安寧を取り戻し、クスリと笑う。

そこだけは……そこだけは専務も読み違えていると。


「私はなにも、悪いことなんてしていないんだから――!」


そうよ。ただ私の思い通りに動く場所へ……私を評価してくれる場所へ行くだけ。その手土産としてあの子達が頑張ってもらうだけ。

奇麗事で成り立たない世界だもの。そうよ、そういう世界だもの。それでなぜ……私のやり方が悪になるの?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「蒼凪……恭文……!」


専務室……オフィスのデスクで一人、夕焼けに晒されながら慟哭する。

まさかその名前を、今更聞くとは……実に忌々しい! 奴は御前の存在についても知っているんだぞ! 本当になにかあれば……いや、落ち着け。

ようは奴が介入してくるタイミングがなければいい。仮にも警察官……警察官の仕事から外れることに対応などできるはずがない。


特にエンブリオのことなどは……そうだ、そのためにもトリエルやリズノワが必要だ。今はまだデビュー前の歌唄と並び立つ輝きがあれば……。

だがそれも将来の話。今は地道にやっていくしかないわけだが……。


「…………」


スマホを操作し、使えないろくでなしの番号にかける。すると奴は面倒そうに……だがすぐに出た。


『……なんだよ』

「エンブリオは見つかったか」

『いつも通り探している最中だ』

「ふん、ようやく勤勉さというものを身につけたようだな」


実際はどうなのか……いや、コイツには私へ逆らうことなどできない。できるはずがない。


「父親の……いや、星名一族の汚れを払う努力をしていくのはよいことだ」

『…………』

「なんだ、不満か? ならば……お前の母親に罰を与えるしかないな。
とはいえ私はもう相手をできるような年ではない。旺盛な連中に任せるとしよう」

『……エンブリオは探しているっつってんだろうが』

「ならば言うことが違うはずだが?」

『……すまなかった』

「違うだろう、イクト。私はお前の父親だ。お前は目上の人間に敬語が使えないのか?」


イクトは不満そうに黙る。それすら笑い飛ばしながら、ソファーに座ってついふんぞり返ってしまう。なにせ気分がいいものでな……!


「どうした。父親に言うべきことはないのか? ならば母親と妹に見習わせるしかないが」

『……すみませんでした……お父さん……』

「感情が伝わらんなぁ。まぁ、生まれついて死んで当然のクズではその程度が関の山か」

『…………』

「いいか、イクト。お前はクズだ。生きている価値もない疫病神……不幸の黒猫だ。
お前の父親が家族を捨てて逃げた罪――。
そしてイースターを揺るがした愚かな星名一族の罪――。
それらの罪を償わない限り、お前はこの世に存在していい人間ではない。無論、お前の母親も、妹もだ」


そう、コイツには罪がある。償うべき過ちがある。

月詠或斗がただのキリギリスであれば、私も腹が立っていたというものだ。奴こそが元凶と言えるだろう。

だが違う……違うのだよ。真の悪はイースターを創設した星名一族にあった。


私は芸術を解するほど高尚な人間ではないが、月詠或斗には利用価値があった。ヴァイオリニストという商品としての利用価値がな。だが、それすらイースターは創設者との約束を優先し潰した。

その上で失踪し、逃げた月詠或斗にも当然あきれ果てているが、それでなお被害者ぶっていた星名一族にもうんざりした。

父が……そして私が生涯を賭けて尽くしてきた会社の正体が、こんなものなのかと。


だから罪は清算しなければならない。そんな私の希望を、夢を……いいや、イースターという会社に勤めていた人間全てを裏切った罪は、清算されなければならない。

星名一族当人達には制裁を下した。だが足りない。その血を引くイクトには……星名奏子と歌唄には、生涯をかけて苦しみを与えなくてはいけない。それもまた私の使命だ。


ゆえに、何度でも示そう。このクズが迷わぬように……徹底的にだ。


「だが私はお前に生きていい場所を与えている。だからお前との約束通り、母親にも指一本触れていない。
そう、約束だ。お前は私と約束をしている。お前のためを思って、父親として交わした約束だ。それを破るな」

『分かった……もう、切っていいか』

「違うだろう、イクト」

『……分かりました。たまごを見かけたので……切って、いいですか……』

「そうだ、それでいい。……あぁ、それががらくたならきちんと始末しておけ。それもお前が、お前達が生きていくために必要な禊ぎだ」

『はい……失礼、します』


そこでようやく電話が終わり、鼻を鳴らしながらスマホはデスクに放り投げる。


「全く……使えん奴だ。ヴァイオリンをやるにしても中途半端な分際というのが余計に気に食わん」


そう、イクトも父親と同じくヴァイオリンができる。だがとてもじゃないが……商品として使えるほどではない。それが余計に腹立たしい。


……私が奴を見てもっとも気に食わないことの一つは、その怠惰さだ。

内心では私や世間を馬鹿にし、見下しておきながら、その世間と向き合い、生きていこうとする努力を一切しない。

私の命令にも“こう応えればいいんだろう?”という諦めや見下しが目に付く。とにかく自分の意志で何かをしようという気概がない。


せめて歌唄のようにプロの舞台を目指し、高める努力をしているのであれば、まだ償い方も考えてやった。だが奴にはそれすらない。だからこういう仕事をやらせ続けている。


「イクト、貴様はなぜ私がここまでするかにも気づいていないだろう。その原因が自分自身にあるとも考えず、他者のせいにして一生逃げ続ける。……実に汚く浅ましい生き方だ。
だがまぁ、それを指摘することはしない。貴様にはその価値すらないからだ」


そのまま腐り落ちていくイクトを想像し、つい笑いがこみ上げる……が、すぐにそれも止まった。


「しかし、エンブリオ……本当にあるのか?」


なにせ情報が不足しすぎている。やはり……技術班の調査には、もう少し予算をかけるべきか。このままでは余りに非効率的すぎる。

奴の……そして歌唄のたまごを抜き出す能力を、もっと広範囲かつ複数箇所で起こせれば……それもまた、時間をかけて高めていくことか。


今はその準備期間と割り切るしかあるまい。御前にもその旨を伝え、納得してもらおう。……こういうことは、焦った方が負けなのだからな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ようやく憂鬱な電話が終わり……鉄塔の上でスマホを仕舞い、ふわふわと浮かぶたまごを見やる。


「イクト、あれはエンブリオじゃないにゃ。とっとと壊して帰るにゃ」

「あぁ……俺のこころ、アンロック」


脇に浮かぶ猫っぽいしゅごキャラ……ヨルと一体化しながら、俺の体は青いタイツスーツに、両爪を携えた猫のような姿になる。


【「キャラなり――ブラックリンクス!」】


そのまま鉄塔から跳躍し、爪を振り上げ……×たまへと迫り……。


「スラッシュ……クロウ」

『ムリ……?』


意味のないがらくためがけて、爪を打ち込む………………その寸前だった。

どこからともなくエンジン音が響いたかと思うと、俺の土手っ腹に……突如飛び上がってきたバイクが……体当たり、してきて……!


「がば……!?」

【イクトォ!】


回転するタイヤに肉を……骨を抉られるような痛み。血反吐を吐きながらそのまま吹き飛ばされて……一気に二十メートル以上下の地面へと叩きつけられる。

そのままごろごろ転がっていると、バイクが目の前にまた迫っていて……慌てて起き上がり、横へ走りながらなぎ倒されていくバイクから退避する。


――そうしている間に全部が決着していた。


「――鉄輝一閃」


俺が砕こうとしていたたまごは、別の奴が……刀を持ったチビが両断していた。

だがたまごは砕けない。その罰が……黒だけが斬り裂かれ、一瞬で白い羽根が描かれたたまごに戻る。


奴はそのまま俺の前に……三十メートルほど前に着地し、ふわりと舞い降りてきたたまごを左手に乗せる。


「×たまの気配がして来てみれば……キャラ持ちがたまごを砕くとか、笑えないんだけど?」

「全くだぜ……! お前ら、一体なにしてやがんだ!」


そこで出てきたのは、しゅごキャラ……それも。


「まぁ分かったことはあります。……あなた達、悪党ですね?」

「だったら叩きつぶすしかないなぁ……もぐもぐ……」


三人だと……! しかも一人は、なんかポテトサラダをむさぼり食ってやがるんだが。


『……!』

「ん、大丈夫。宿主のところへ帰っていいよ」

『……♪』

「うん……いつか、未来でね」


アイツはたまごを……俺達が壊そうとしていたがらくたを空へと送り出し……キャラなりもせずに浄化したって言うのかよ。

というかやばい……コイツ、平然とあのバイクを俺にぶつけて……殺しにかかりやがった。今のままじゃ……。


【お、お前ら……なにするにゃ! こっちはがらくた掃除をしていただけにゃ!】


――そこで光が走る。咄嗟に両爪をかざすと、なにか……銃弾らしきものが爪で弾かれる。

かと思うと両足に衝撃が走って……思わず膝を突くと、痛みが走った箇所から……フトモモから血が……!


「恥知らずと語る舌は持ちません」


更に蒼い縄みたいな光が、俺を……全身を縛り上げる……!


【にゃ……なにをするにゃあ! イクトとオレは、ただエンブリオを探しているだけにゃ! だから邪魔ながらくたを片付けているだけにゃ! だからイクトは】

「知ったことではないな、そんなものは」

【な……!】

「……お前達にどんな事情があろうと、この街と可能性の涙は止める。それがオレ達≪ダブル≫だ」


あの緑髪のしゅごキャラは、こっちの話を聞くつもりなんてない。髪をかき上げ、堂々と言ってくれやがった。

俺は……俺達は、会話するまでもない……見下して当然のゴミだと……あの専務さんや、アイツらと同じように……!


「つーか……エンブリオだとぉ! お前、馬鹿かよ! あんなほら話を追いかけてやがるのか!」

「いいから、外せよ……。どうせ大人になれば、こころのたまごなんて捨てるんだ。だから」


――その瞬間、また光が走る。俺の両腕が……いつの間にか、アイツが持っていた銃で撃ち抜かれて……一気に腕の感覚がなくなった。


「ああぁああぁあ……!?」

【イクトォ! やめろぉ……分かったにゃ! さっきのたまごは諦める! それでいいよな!】

「お前、年と外見の感じからすると、親のすねをかじって生きているクソガキだろ。……そんな奴が、人の夢を勝手にがらくた扱いするなよ」


話し合うつもりは、なしかよ……! ふざけやがって……なんでだ……なんで俺は、また見下されなきゃいけないんだ。

可哀想な奴だと、不幸な奴だと……俺はそんなもの嫌なのに……俺は、俺はただ……………………その瞬間だった。


「…………ヤスフミ、下がれ!」


俺の体から、どこからともなく風が吹き荒れた。それが近づいていたアイツらにも襲いかかり、吹き飛ばそうとする。

アイツは咄嗟に、変な光でシールドみたいなのを展開したが……これがチャンスだった。


意味は分からないが、この風は……俺を戒めていた縄も砕いてくれたし、傷だって治してくれた。だから……。


【これは……違う。オレとイクトの力じゃ】

「………………逃げるぞ、ヨル……!」

【……ああもう、分かったにゃ!】


アイツが踏み込んでくる前に、地面めがけて右爪を一振り――!


「スラッシュクロウ!」


地面を斬り裂き、舞い上がった粉塵に紛れて……一気に空中へ飛び出す。

全力で、着地のことなど考えずに…………だが……なんだよ、アイツは……!


――年と外見の感じからすると、親のすねをかじって生きているクソガキだろ。……そんな奴が、人の夢を勝手にがらくた扱いするなよ――


その通りだよ。俺は子どもで、だからこそ大人に勝てなくて……だが、他にどうしろってんだ。

どうせ夢なんてみんな捨てるだろうが。だったら仕方ないだろうが。大人になればいいだけの話だろうが。


それだけのことなのに、なんで……俺が、不幸の黒猫だからか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんなの、あの風は。しゅごキャラ、キャラなりの……いいや、違う。もっと別の力だ。

なんとかラウンドシールドで風を防いでから、急速離脱したアイツを見上げて術式詠唱……。


「アルト」

≪閉鎖結界、展開…………って、あれ?≫

「どうしたの」

≪結界が展開できないんです≫

「え……」


試しに僕から詠唱…………ほんとだ。アイツの座標軸も含めて把握できない……固定できない。なにか、阻害されているような……まさか、あの風の能力!?

なら気配察知…………こっちも駄目だ! 一気に探知範囲から消えている! くそ、こうもあっさり逃げられるとは……さすがに屈辱なんだけど!


「……どうしようか」

≪放り投げておくしかありませんね。もう姿も見えませんし≫

「いや、それもまずくねぇか? アイツら、エンブリオっつってたんだぞ……!」

「那美さんとウェイバーに相談しておこうか」


そう言いつつガンモードのヴァリアント・ザッパーをコアに戻し、体当たりに使ったウィザードボイルダーも引き起こして……っと。

うん、さっすがは大事な愛機。装甲には魔術的強化もかけてあるし、傷一つ付いていないよ。


「まさかあんなもんを追いかけるために、たまごを壊すとかさぁ……」

「ですね。……とはいえ、私達もさすがにこれ以上の案件はパンクしますが」

「もうすぐ雛見沢だしな。なので放り投げられるところはきっちり放り投げるぞ、恭文」

「ん……そこはきちんとする」


とは言ったものの――全てはもう手遅れだった。


「中途半端になっても駄目だしね」

「そういうことだ」


もう時は動き出していた。物語の幕もそれぞれに開いていた。

僕もその渦中に、再び……ショウタロス達がこころの中に帰った後で、飛び込むことになって。

それを思い知ったのは、この日から一年弱――機動六課という一つの部隊が動き出したのと同じとき。


――――朝倉恭一社長が、横領の容疑で逮捕と報道されてからのことだった。


(――本編へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、雛見沢編への導入……そしてドキたまVer2020の導入。
アニメではさほどじゃないのに、アプリ本編ではやらかしている姫野霧子を利用し、画策される星名専務の陰謀。それに伴う朝倉社長とバンプロ、更には瑠依と優、すみれ達の危機。
更にはいろいろ描写追加されたことにより、実に情けない奴扱いとなった猫男」

志保「いや、ひどくないですか!? 主立った原因は大人の方なんですけど! というか星名専務も!」

恭文「これが大人だよ、北沢君。奴らは身を以て我々に教えてくれたのだよ」

志保「何キャラですか!? というか……私は認めません。こんなのが大人だなんて、絶対に」


(北沢さん、いろいろ思い出して反省モードです)


志保「というか恭文さん、これだとJS事件解決直後にドンパチすることに……」

恭文「なにも言わないで。
……というわけで……今回のアイプラキャラ紹介は、この子!」

天動瑠依「天動瑠依です。よろしくお願いします」

志保「………………その、よろしく……お願いします……」

瑠依「あれ、引かれている……!?」

恭文「劇中での有様を思いだそうよ……」


(登場したのは、不器用暴走馬鹿アイドルです)


瑠依「なんですかこの名称は!」

恭文「完全にラウラや桂さんと同じ枠だからだよ、おのれ。またはフェイト」

志保「あまりにも可哀想すぎるのでやめてあげてください……!」


(『私達と同じ枠だと可哀想ってどういうこと!?』
『そうだぞ北沢! 説明を要求する!』
『む、そうか……おぬし、自分と同じクーデレキャラが増えるのに危機感を覚えているのだな! 分かる、分かるぞその気持ち! 私も藤咲なぎひこは生涯のライバルと捉えている!』
『なるほど! 劇場版での牙も抜けて、キャラが薄いと感じているのだな! その不安が根も葉もない暴言に繋がったと』
『あ、そうなんだね。なら……うん、志保ちゃんも一緒に頑張ろう。えっと、その……クーデレ? クーデレ仲間として私もサポートするし』
『馬鹿者ぉ! フェイト殿、それは違うぞ! クーデレ同士我々はぶつかり合い……そして殺し合うのだ! それが運命だ!』
『戦わなければ生き残れないというやつだな』
『ふぇ!? え、そうなの!? そういうものなの!? クーデレ怖いよー!』)


志保「…………頭が痛い……!」

瑠依「私、この人達と同じ枠なんですか……!?」

恭文「そうだよ。おのれらは同じ枠だ」

志保「私を巻き込まないでください!」

瑠依「そもそも私はこの枠じゃありません!」

志保「あなたは否定できませんよね!」

瑠依「初対面なのにぶった切られた!?」

ジガン≪……同じ声質が喋っていてややこしいの≫

白ぱんにゃ「うりゅりゅ、うりゅー」


(ふわふわお姉さん、でもちょっと違うよーのポーズ)


恭文「えー、瑠依はバンプロ所属のアイドルユニット≪TRINITYAiLE」のセンター。
百年に一人の天才と呼ばれながらも、努力を怠らずストイックにトップアイドルを目指す……というかアスリート気質なんだよね。
十キロのランニングをした後も、まだ体が疼いて走りだろうとするし」

志保「十キロ走った後で……!?」

瑠依「そういうこと、ありませんか?」

志保「わ、私には覚えがあまり……」

恭文「おのれ、運動苦手なタイプだしねぇ。
……CVは雨宮天さん。つまり志保と瑠依は魂が同じわけだよ」

志保「そうですね。そこは親近感を覚えて……いたんだけど……鍛え方が足りないかしら。もっと頑張らないと」


(北沢さん、いろいろ反省を積み重ねる)


恭文「まぁ瑠依が努力の人って辺りは、また作中で話を出していくけど……身長は165、体重は46。
スリーサイズは84・56・84。
学校は私立月出高等学校……優や葵達も通っている、芸能コースがある学校だね」

志保「わ、私より四センチ高くて、同じ体重で、胸は一センチ大きい……!? え、体脂肪率とか本当にどうなって……というかちゃんと食べては」

瑠依「食べてはいます。じゃないと健康にも悪いし……白米、ベーコン、たまごで朝食とか」

志保「そ、そういえばあの、おいくつ……なんですか」

瑠依「劇中……二〇一九年の十一月十一日で、十七歳になります。だから恭文さんと同い年ですね」

志保「……三年後なら、まだなんとか……」

瑠依「というか、バストサイズについては北沢さんに負けていると思うんですけど。優くらい大きく見えるし」

志保「そう、だと嬉しいんですけど」

恭文「……なぜおのれは僕を見るのよ」


(北沢さん、気になるようです)


志保「それでえっと、鈴村さんには大分好かれているようなんですけど……知り合ったのって」

瑠依「私がバンプロの養成所に入ってからです。優が声をかけてきてくれて、そこから二人で話すようになって……それで所属になったら、二人でユニットを組むことになって」

志保「最初は二人だったんですか」

瑠依「そこからすみれと知り合って、三人って形になったんです。
すみれが山形の実家から通っているから、お泊まりだなんだと家族的に付き合うようにもなって……うん、やっぱり最高の仲間です」

志保(恭文さん……鈴村さん、アレでしたけど)

恭文(あれはどちらかというと舞宙さんや才華さんよりの奴だから……)


(白い厄介は問題にならないようです)


志保「……っと、そうだ。さっきの食べ物の話でちょっと引っかかったんですけど、偏食気味だとか」

瑠依「あ、そうですね」

志保「苦手なのって……例えば」

瑠依「一番は……牛肉ですね。あとは細々と……その辺り、恭文さんに近いと思います」

志保「そうだった。この人も生トマトとか、ミックスベジタブルとか苦手だし……アレルギーとかでは、ないんですよね」

瑠依「それは大丈夫でした」

志保「それで、好きなものはグミ」

瑠依「グミは魅力がたっぷりですから。……あ、雨宮天さんが大きなグミを食べている動画……羨ましかったです」

恭文「あの巨大グミかぁ。あれは確かにすごかった」


(【雨宮天の夢】サイズ規格外!巨大グミを食べてみた!
雨宮天のてくてく天ちゃん内動画URL『https://www.youtube.com/watch?v=_hN6EGkgPuE&t=204s』)


瑠依「あ、それと……食べ物の好みとはまた違うかもしれないんですけど、優とすみれの三人でときどき鍋を作って、一緒に食べます」

志保「鍋? それってなにを作るんでしょうか」

瑠依「時々によりますね。すみれの実家(山形)名物の芋煮、寄せ鍋、しゃぶしゃぶ、すき焼き、海鮮鍋、キムチ鍋……みんなでわいわい言いながら作っていくのも、一緒に食べるのも、凄く楽しいです」

志保「いいですね……というか、本当に仲良しなんですね」

瑠依「はい。大事な仲間で、友人です」

白ぱんにゃ「うりゅりゅー♪」


(ふわふわお姉さん、分かるよーのポーズ)


瑠依「あ、それと最近では同じノリで、一緒にガンプラを作るんです」

志保「あぁ……恭文さんが教えたから」

瑠依「うちにもリースタイプのバトルベースを導入したので、テストプレイし放題です。毎日家に帰る楽しみが増えました」

志保「……バトルベースを……!?」

瑠依「あと、鉄血のオルフェンズも見始めたので……凄く胸が締め付けられるお話なので、本当は一気に見たいんですけど……優やすみれが心配するので、一日一話ずつにして……ああもう、続きが気になる!」

志保「どうするんですか、恭文さん……がっつりハマっているじゃないですか!」

恭文「……僕と話す前からこうだったもの。どうしようもないよ」


(熱中アイドル。このままガンプラ馬鹿として直進していきます。
本日のED:TrySail『誰が為に愛は鳴る』)


琴乃(星見プロシェアハウスにてお怒り)「…………で…………人の服を借りた状態で! またドンパチしたと!」

恭文「ドンパチはしていないから! ただウィザードボイルダーで飛び上がって、ボイルダーをぶつけて……その隙に×たまを浄化しただけだから!」

琴乃「同じことよ! 砂埃でいっぱいだし、バイクを人にぶつけるし……というかそれ轢いたってこと!?」

恭文「それでも元気に逃げたよ」

琴乃「逃げられたの!?」

恭文「……しゅごキャラやキャラなりの力……通常の異能とも違うもので動きを止められた。更に負わせた傷も、かけた拘束も吹き飛ばしてくれたよ」

古鉄≪まぁそっちは異能・オカルト関係の知り合いに投げるしかないですし、話はしておきましたけど……エンブリオを探しているって、また馬鹿な人達ですよ≫

琴乃「エンブリオ?」

恭文「なんでも願いが叶うとされる魔法のたまごだよ。人のこころからたまごが飛び出たとき、×たまか、シオン達みたいなしゅごキャラか……エンブリオになるって話があるんだ。
……ただ各地に残っている“エンブリオ伝説“は、悉くが嘘と言って差し支えがないくらいに信憑性のないものばかり。だからオカルト界隈でも”そんなものを探すなら叶えられる努力から始めろ“って感じでぶった切られている」

琴乃「ちょっと待って。そんなものを手に入れたいのに、その……×たまを壊そうとしたの? 出た時点で違うって分かっているのに」

恭文「がらくただそうだからねぇ。エンブリオ以外は壊していいって認識なんでしょ」

琴乃「なによそれ……!」

沙季「……気分のいい話ではありませんね。こころを壊された人は一体どうなるんですか」

恭文「こころが……夢が空っぽなまま生きていく。新しい夢や『なりたい自分』ができない限りはそのままだ」

ショウタロス「仮に叶えたい夢があったとしても、それが叶う直前……叶えられていたとしても、全部放り出す。……こころが空っぽってのは、そういうことなんだよ」

千紗「そ、そんな……!」

恭文「ただ、もっと最悪な流れがある」

千紗「え」

沙季「恭文さん、最悪というと……」

恭文「×たまは×たまを呼ぶんだよ。……ほら、落ち込んでいる人や悲しんでいる人を見ると、友人とかじゃなくても気持ちがめいるよね。
×たまも同じで、それ自体がそういうマイナスエネルギーを発生させる。近くにいる人は自然と自分の心に×を付けちゃうんだよ」

古鉄≪だから私達も×たまを見かけたら、極力浄化するようにしているんです。でも……もしもその原理を悪用して、×たまを抜くために×たまを集めるようなことをし出したら……≫

沙季「……被害者が更に増えると」

恭文「まぁアホの顔写真もしっかり確保したし、警戒はできるけど……いや、もうそこは割り切るか」

琴乃「そうよ。あなた一人で世界中に手が伸びるわけじゃないんだし……鈴村さん達とも約束したのよね? ちゃんと帰ってきて、バトルするって」

恭文「うん」

琴乃「だったらそれを守るところからよ。……もちろん、私ともだけど」

渚「え、琴乃ちゃんもバトルするの?」

琴乃「ガンプラベースに行ったとき、ガンプラも買ったから……戻ってくるまでには仕上げておくし、覚悟しておいて」

恭文「ん……ありがと」


(おしまい)





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あきゅろす。
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