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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2008年・風都その3 『Vの蒼穹/Believe × Believe』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2008年・風都その3 『Vの蒼穹/Believe × Believe』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――坊やは今度こそ“死んだ方がマシと思えるほどの地獄”を味わうかもしれない」


それは、余りにイレギュラーで異常な処置だと……シュラウドさんの言葉で誰もが察する。


「じゃ、じゃああの……地獄って……これ以上なにが!」

「全く予測できないわ」


恭文くんはもう、とっくに……この現実から目を背けることもできないのだと。


「それに大前提として、ウィザードメモリは量産などもできない高ランクに位置するメモリよ。
恐らくはミュージアム幹部が持っているゴールドメモリに匹敵する」

≪ちょっと待ってください。その幹部はどうやってそんなメモリを使っているんですか。そいつらだって死ぬでしょ≫

「そこで荘吉に渡したドライバーよ。荘吉、出しなさい」

「シュラウド、もういいだろ……後は俺達が始末を付ければ」

「……ロストドライバー……スカルメモリ。ドライバーによる毒素の濾過……あぁ、なるほど……」

「……!」


そこで鳴海さんがまた顔を青くする。というか、恭文くんがまた……心ってそんな簡単に。


「読めるよ。今は……読める」


……って、私も読まれていた−! さすがにちょっとびっくりかも!


「あのおばさんも、腰のベルトにメモリを差し込んでいた。僕や他の奴らみたいな直指しじゃない。
……おじさんが持っているロストドライバーも、仕組みとしては同じなんだね。それで強烈な毒素も濾過して、安全に使える」

「ただし荘吉が使っているのは、メモリ共々私が開発した次世代型。機構としては同じ代物だけど、より発展性を持たせてあるわ」

「それでスカルメモリ……使用者に擬似的な不死能力を与えるメモリ」

「不死……!?」

「と言っても、本当に死ななくなるわけじゃないみたい。変身している間は、痛覚や恐怖……生きているがゆえに感じるダメージを受けなくなるんだって。
同時に吸血とか、内臓みたいな軟部を狙った攻撃も利かなくなる。生物特攻攻撃への強烈な耐性ってことなのかな。
……だからあのおじいさんの能力にもカウンターが取れるんだ。シュラウドさんもそれにおじさんが適合するから、メモリを渡した」

「……そこまで読まれているのであれば、もう疑いようはないわね」

「でも、なんですかそれ。メモリって……そんなことまで」

「できてしまうのよ。なにせ地球の記憶……そこから引き出せるキーワードは無尽蔵。
現に魔導師も、骸骨も、特撮でよくあるような生物的な改造人間ではないでしょう?」


そう言われれば……骸骨はホラーっぽいし、魔導師はファンタジー……概念的な存在だよね。

いわゆるクモ男とか、カメレオン男とか、蜂女みたいなのとは違う。だから、ワードに基づいた形で……恭文くんみたいな状況に陥ることもある……!?


≪そんなやばいものを……自分達だけ安全確実にメモリを使って、売っている人達はまさしく実験台同然ですか。腐っていますねぇ≫

「四つ目の問題は……坊やはまだ十歳にも満たない子ども。成長過程の子がガイアメモリを受け入れること自体イレギュラーという点。メモリの所在も分からないままハイドープ化が進んでいるのも、そのせいよ」

≪メモリ自体が子どもに……子どもと同じだけの“純真”を持ち合わせた人間にしか適合しないなら、余計にということですか≫


いつ爆発するかもしれない時限爆弾を、首にくくりつけられているも同然だった。

私も言葉がなく震えていると、恭文くんは……全部納得した様子でため息を吐き、頭をかく。


「アイツらがこっちをまた襲う感じが……一欠片もなかったのは、このせいなんですね。僕がスペアだっていうのもあるけど、いずれネギカモで飛び込んでくるだろうからと……」


でも……すぐに楽しげに笑い出した。


「さて鳴海荘吉、これでお前はもう逃げ場なんてなくなった。洗いざらいミュージアムにも伝わってすっきりしたでしょー」

「坊主……!」

「お前の家族構成についても読ませてもらったから、多分ぜーんぶ向こうに伝わっている。
シュラウドさんの正体も、使っているメモリも、ドライバーも、その特性もぜーんぶだ。
当然対策が取られる。向こうにはメモリの製造に携わっている運命の子……園咲来人もいるんだから」

「園咲だと? 蒼凪くん」

「園咲琉兵衛……もっと言えば、シュラウドさんの子どもです」

「なんだと」

「……その通りよ」


――シュラウドさんの話は、私にはとても難しいものだった。でも……こういうことらしい。

来人さんは園咲琉兵衛……ミュージアムのボスが見つけた地球の泉に落ちた。ガイアスポットと呼ばれるそれは、地球という星の記憶と直結した場所だったらしい。そこで、一度死んでいる。

でもそのとき奇跡的に、記憶に刻まれた“自分自身のデータ”に触れて、その身体を再構築した。……結果来人さんは、自分の脳内に地球のデータベースを保有することになった。


その能力を生かし、膨大な記憶の中から検索し、引き当てた記憶を抽出して、それを生体端末に封入する。

その記憶を人に差し込むと、人を依り代として怪物……ううん、進化した超人類になる。それがドーパント。

つまり来人さんの存在こそが、ガイアメモリ精製の鍵。シュラウドさん……園咲文音さんというのが本名の人は、それが許せず琉兵衛さんに反対した。


でも、琉兵衛さんはテラーの力でそれをはね除け……結果、シュラウドさんは組織から離れて……鳴海さんに匿ってもらい、今まで……!


「……その人も……子どもを利用しているんですか……!? 自分のために……自分だけが満たされるために!」

「琉兵衛自身は、それを世界……人類救済のためだと信じている。その行動はともかく、目的については私も……最初は賛同していたわ。むしろここで逃げたのはとんだ腰抜けと言われても仕方ない」

「どうしてですか! だって」

「……ガソリンや水……そういう“化石資源”が枯渇すると叫ばれ続けて、何年経つかしら」

「え」

「ゴミの処理や、文明生活によって生み出される公害……その汚染。
坊やの発達障害もそうだけど、公平な競争、実力主義とうたいながら、弱いものいじめを当然とするカースト社会。
今こうしている瞬間でもどこかで戦争は起きているし、あなた達と同い年くらいの子が銃を持って戦い、場合によっては大人の兵士に取り囲まれ、性欲のはけ口になっている」

「………………!」

「琉兵衛はガイアメモリによる新人類化が、そんな問題を解決する切り札だと考えている。私もそう考えていた。
メモリと人が惹かれ合うのが運命なら、人はその出会いで自らの運命を理解できる。それを受け止め、進むならば……とね」

「運命……」


そこで自然と、恭文くんを見やる。


「だから私は、怖じ気づいて逃げた卑怯者なのよ。お嬢さん」

「シュラウドさん……」

「それを逆ギレして、復讐に走って……荘吉も犯罪者にした愚か者でもあるわ。……だから、琉兵衛と差はない」

「だったら余計に、こんな使えないナルシストの自己満足では解決できないでしょ……。
僕なら家族やらなんやらも含めて徹底的に潰すもの。シュラウドさんが組織を離脱する際消し去った、次世代型ドライバーとメモリのデータも取り戻したいしさぁ」

≪いや、それもあなた経由で……手に入るはずがありませんよねぇ。あなた、子どもですし≫

「存在があるって伝わる程度だ。
今の僕じゃあこんな凄くてわくわくするものを、きちんと理解してあげられない」


あぁ、そっか。恭文くんはそういう科学者さんじゃないし、専門的な知識に欠けている。だから存在だけは伝わっても……それがどういう理屈で動くかを紐解けないんだ。

でも凄くてわくわくって……あ、これはやっぱりまずい。


「で、残念ながらミュージアムには、シュラウドさんのような凄い開発者は今だと存在していない。
だからちまちまと既存品のアップデートしかできないし、僕が差し込まれたメモリも旧来の化石っぽいタイプだった」

≪奴らの目的にこれ以上の技術開発が求められるのであれば、当然シュラウドさんも狙われる……。
確かにもう草の根運動なんてしていられる状況じゃありませんねぇ≫

「しかも相手はただの一個人……私立探偵を名乗る快楽殺人者だもの」


また楽しげに笑っているよ! これでもう戦争だって笑っているよ! 恭文くん、ほんとこういうときは……もうなぁ!


「楽しいねー。大戦争だよー。わくわくだねー。長期戦の選択肢がそもそもないから、全力でカチコミだよー」

≪心から守りたくなる笑顔を浮かべちゃってまぁ……≫

「恭文くん……それよりあの」

「らんらんるー♪」

「スキップしないで!? それよりもメモリのことだよ!」


というかヤバいヤバいヤバいヤバい! 恭文くん、おちゃらけているように見えるけど……こういうときが一番怖いの! 一番駄目なの!

これ以上変に刺激したら、本当に……実力行使で……だったら、あの!


「それなら壊すとか……病院とかは、駄目なんですか!?」

「……そこで五つ目」


シュラウドさんは、右手全ての指を立てる。というか、更なる絶望を突きつけてくる――。


「実はミュージアムがメモリを流通させる以前の初期型は、よりメモリの毒素が強いタイプだったの。
そのため使用者はメモリブレイクされた時点で、死亡する場合がほとんどだった」

「え……!?」

「坊やがさっき見抜いてくれた松井誠一郎……スパイダー・ドーパントとなった男もそうよ。
彼も適合率が高く、本来想定外な能力を発揮して……風都を地獄に変えた。それがガイアメモリのいいプロモーションとなり、風都は実験都市に変貌したのよ」

「それも分かる……蜘蛛型の爆弾を仕込むんだよね。それが仕込まれた人の家族や恋人、友人……“愛する人”に触れると、その爆弾が伝達し、起爆……もろとも爆死するハメになる。
それでメモリブレイクで松井誠一郎も殺したけど、おじさんの身体には……まだその爆弾が残っている」

『…………!』

「坊主、お前……本当に……!」


じゃあ、鳴海さんが仲間を作らない……作ろうとしない下りって、まさか……ぞっとして身を引くと、鳴海さんが悔恨の表情で視線を下ろす。


「……なるほど。だからあなたは仲間を作らない……作れない。大阪にいるご家族とも会えない。
初期型故の弊害……その爆弾が残り続けているからこそ、そういう存在が近くにいることを許されないと」

「……お前には、関係がない話だ」

「とんでもない。その事件は我々も調査段階で知りましたが……公式的には“未解決事件”だ。
あなたはその事実を隠蔽し続けた。それは重大な捜査妨害たり得る」

「何度も言わせるな。奴らは普通の人間には相手などできない」

「そうして一人締めしたんでしょう? 相手にできる武力と知恵を……自分にとって都合がいいから」

「違う……!」

「違わないでしょう。あなたはそういう人間……人の法と理念に唾吐いて、馬鹿にしている怪物だ」


劉さんはそう一刀両断して、改めてシュラウドさんも見やる。


「ミセスシュラウド、あなたもその共犯者ではあるが……それは後にしましょう」

「劉さん、共犯者ならもう一人いますよ」

「なんだと」

「風都で活躍中の歌姫……メリッサという芸名の人です。
松井誠一郎に惚れられていたけど、実は鳴海荘吉が好きだったという三角関係で……」

「坊主、そこまでだ。大人の真似事なんてお前のやることじゃない」

「コイツがそれを袖にすることもせず! ずるずる引きずったせいで! 松井誠一郎はスパイダーメモリに手を出し、暴走したんですよ!
メリッサの事務所でメモリの実験がされていたから、それを守ろうとして……だからそのメリッサも真相を知っているし、毒も仕込まれている!」

「いい加減にしろ……! まず俺の言うことを聞けと、何度言えば」

「だからメリッサも共犯なんですよ! コイツが犯罪者だと証言することもせず! 自分が歌姫として活躍する地位と未来のために口を閉ざし! 風都の人達を危険にさらし続けてきた!」


鳴海さんは我慢ならないと立ち上がり、恭文くんに近づくけど。


「おい……」

「それは大変だ! 彼女についてもしっかり調査しなくては!」


でもそこで、劉さんが間に入ってガード。鳴海さんが睨み付けるけど、劉さんは全く揺らがない……笑顔を崩さない。


「やめろ」

「何度も言わせないでいただきたいなぁ、鳴海さん」

「彼女は関係ない」

「それを決める権利も、力も、あなたにはない」

「これは風都の問題だと言ったはずだ……!」

「だったら東京に住む彼らが巻き込まれた時点で……あなたの手に負える問題ではなくなっただけだ」


そう一蹴し、劉さんは恭文くんへ向き直る。


「その名前、実は事件の調書で見ている。松井誠一郎の第一発見者も彼女だし、鳴海探偵事務所との付き合いもあった。が……それは松井誠一郎の一件以来ぴたりと止まっていた。
更に言えば、その事務所社長も連続爆殺事件と同様の手口で死亡している。それは残された奥方の証言からも判明していたんだ」

「でも、それすら僕の“覗き見”があるまではさっぱりだった……へぇ……」


そこで恭文くんが笑う。普通なら楽しげに見える笑いだけど、違う。それは違う。

………………それは、紛れもない怒りと軽蔑だった。


「しかし当人も亡くなっていて、メモリも砕かれて……いますよね。ミセスシュラウド」

「荘吉が松井誠一郎の命ごとね」

「それでもなおそれ……初期型が“そういうしろもの”なら、今流通しているものは」

「そこから改良されているわ。ただ……メモリブレイクを行えば、使用者が死ぬことは変わらない」

「……ちょっと待ってください。蒼凪君に撃破された幹部……タブーを使っていた女は、重傷だったが生きていたと」

「それが事実だとしたら、坊やはこの十年で初めて……メモリのみを破壊し、使用者の命を守ったことになるわ」

「……なるほど。だから彼は正体の秘匿も兼ねて、メモリを使ったときは必ず相手を殺しているわけですか

「それが荘吉の覚悟。でも……間違いでもあった」

「だから、メモリを壊したら……使い回しの一人である僕も、死ぬかもしれないんですね」


恭文君が、また冷静に言い切る。それだけでも絶望なのに、平然としていて。


「で、その覚悟で暴れ続けてきた骸骨男には、そもそもそんな難しい状況をクリアする手段がない。もちろんそのブレーンであるシュラウドさんにも」

「……その通りよ」

「一応確認ですけど、ドライバーの追加機能的に付与は」

「今のままでは無理よ」


………………本当に、手詰まりだった。

メモリを壊しても駄目かもしれない。このまま放置してもやっぱり駄目かもしれない。

もちろん恭文くんをここに留まらせて、守ってあげることもできない……お父さん達も、私も……!


「そんな……あぁああぁ……!」

「あなた……」

「ま……こんなクズどもの子どもでいるよりマシか」

「「………………」」


だからお父さん達は崩れ落ちて、おたがいを支えるように抱きしめ合う。……それすら舌打ちしたくなるほどに、気持ち悪いのに。


「本当ですよ……よくそんな気持ち悪いことができますね」

「風花ちゃん……どうして、君まで」

「散々警告してきましたよね! それをここまで無視して! タカをくくっていたのは誰ですか!
しかもこの期に及んで、御影先生にも、苺花ちゃんにも謝る気持ち一つない! あなた達はただの加害者なのに!」

「だって、それは……ねぇ、もう許してよ! 私達だって必死だったの!」

「違う! あなた達はそうやって自分を甘やかして、周囲を馬鹿にし続けただけだよ! 恭文くんのことだってどうだっていいんでしょ!」

「そんなことないわ! だから」


思わず手元にあったティーカップを投げつけ……お母さんにぶつける。お母さんの額から血が流れ、落ちたカップが割れる音で場が満たされる。


「………………だったらなんで! 恭文くんを放置で喧嘩なんてしていたの!」

「……あ……あぁああぁあ…………!」

「いいから吐け……とっと吐けぇ! ミュージアムにいくらもらったの! 幾らで恭文くんを売り飛ばしたの!
ううん、この調子なら苺花ちゃんにも……ねぇ、そうなんでしょ! そうなんでしょ!」

「お、落ち着いてくれ! 私も、家内も、そんなことは」

「自分から謝りもしない分際で、今更信じられると思っているのか! このクズどもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やめろ……親父さん達はなにも悪くないだろうが」

「黙れ怪物がぁ! いいか……それが私とお姉ちゃん、お父さん達の総意だ! お前達はクズだ! 本当に死ね……死んで償えぇ!」

「私達は……ただ、普通に…………あぁあぁあぁあ……!」

「……そこまでにしとけ」


ヘイハチさんが止めてくるので、つい睨むけど……。


「それよりは恭文じゃよ」

「ふーちゃんの言う通りだぞー。悪いと思うなら死ね−。死んで償え−。黄泉路への先陣は誉れだぞー。
ふーちゃんの言葉は絶対だぞー」

「煽るな馬鹿たれがぁ! そこは止めんかい! 幼なじみとしてぇ!」

「僕は問題ありませんよ? コイツらの所行……受けた虐待は、全て職場に広まっていますし」

「ほうほう………………なんじゃとぉ……!?」

「天網恢々なんとやら……まぁ問題ありませんよ。仮に僕がバラしたとしても、きっとお父さん達は笑って許してくれますよ。
大好きな……鳴海荘吉が言うように」


…………恭文くんの言葉により、お父さん達には更なる制裁が打ち込まれた。


「ど、どうして……」

「私達は、ただ……お前に、普通にしてほしいと……」

「僕に言っても意味ないよ? 広めたのはミュージアムだし」


そう、恭文くんは知らない。だから………………ちょっと待って……!? 今なんて言ったのかな!


「えぇ……彼の言う通りです。こちらでも確認を取りましたが、話自体があなた方の会社にリークされたのは……彼が目を覚ます直前です。
差出人不明のメールと、証拠を示す資料の数々が大量に送りつけられたそうで。その中には美澄さんの一件も入っています。当然あなた方が責任の押し付け合いで罵り合っている場面も含めてです」

「そんな……なぜ……私達が、何をしたと言うんだ!」

「あなた方に言っても無駄ですよ。彼が……豊川さんがこれだけ罵って、被害者ぶっているんですから」

「それでなんで助けてくれないんだ! 私達は被害者だぞ!」

「でもあなた方が子どもを売り飛ばしていないという証拠は、どこにもないじゃないですか」

「…………」

「ここに残っているのは、あなた方が猟奇殺人鬼である私立探偵の言いなりで、これだけの事態を警察にもだまり、封殺を当然とした事実だけです。
もちろん彼と一緒に攫われた人達も見殺しにしている。……美澄さんと同じように」


……本当に、気持ち悪かった。


「まぁ、不満があるなら裁判で証明しましょうか。時間はかかるでしょうが」

「あ……あぁあぁあああぁあ……!」

「……そん……なぁ…………」


だからお互いに泣き出し、頭を抱え……その被害者ぶる様が……本当に気持ち悪かった。


「まぁおぬしが死んだように生きたくないのはよう分かった。……それならどうする」

「……まだ止まれない」

「恭文くん……」

「いつかは死ぬ。積み重ねたものの報いは受ける。そんなの当然だ。それが人より早いのも……今日この日だってことも覚悟している」

「………………」

「でもまだだ。まだ……行きたかった場所にたどり着いていない」

≪……あなたはそこに行きたいんですか≫

「行くよ」


恭文くんは……それを見ずにただ、ぎゅっと拳を握り続けていて。

だけど私の手だけは握らない。私の手を傷つけちゃ駄目だって、遠慮しているみたいで。


≪それを邪魔するなら、誰を殺してでも、押しのけてでもいいと?≫

「それでもと叫んだのは僕だ」

≪……≫

「だから、“僕達みんな”で……必ず」


でも僕達って……きっと、それはあの子のことで。

だから、だから……私にできることは……できる、ことは……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――恭文くんが、死ぬ。もうどうなってもおかしくない。

もちろん恭文くんをここに留まらせて、守ってあげることもできない……お父さん達も、私も……!


だから、だから……私にできることは……できる、ことは……!


「……その辺りも確証がないことよ。でも坊やがまだウィザードメモリとリンクしているなら、状態を調べることで足がかりができるかもしれない。
もちろんミュージアムの膝元に向かうわけだし、危険も相応にあるけど……」

「だから、恭文くんに……戦えって、言うんですか……」

「そうよ」

「これだけ傷ついて、これだけ苦しんで……苺花ちゃんや御影先生と約束して、極力振るわないようにしていた暴力まで振るって!
お父さん達のことも苺花ちゃんのお父さんと同じだからって、見限るしかなくて! しかも自分が知らないところの……誰かのせいでいつ死ぬかも分からなくなって!
大人なのに……どうして全部守ってあげるって、そう言えないんですか!」

「ふーちゃん、大丈夫。ようするに敵は皆殺しでOKってことでしょ? この疫病神どもも含めてさぁ。
……最高じゃないのさ! 負けたら正真正銘の破滅! 勝てば自分どころか世界を救った大金星だよ!? やってやるしかないじゃない!」

「ちょっと黙っていてくれるかなぁ! あとスキップしないで! うずうずしないで! らんらんるーしないでぇ! 狂気がすぎるんだよ!」

「分の悪い賭けは嫌いじゃない!」

「だとしてもぉ!」


なんなのこの子! 人が心を痛めているところでとんでもない……いや、本当にとんでもない! まずいまずいまずいまずい! こういうときの恭文くんは本当にあぶないの!


「……ねぇ……ちょっと、聞きたいんだけど」

「えぇえぇ分かっています……! 本当に、迷いなく、皆殺しにしてやろうって構えなのに驚いているんですよね」

「その通りなんだけど、もしかして坊やって」

「……お願いですから、これ以上……悪い方向で刺激しないでください。
でないと命の保証はできません。生活の保障もできません。私に言えるのはそれだけです」

「……こやつ、キレるとそんなにヤバいんか……!」

「当たり散らす方じゃなくて、こういう……むしろふだんのノリに近い形で殺しにかかるのね。
でも……そうすると……」


シュラウドさんがヘイハチさんともども、頬をひくつかせるのも当然だった。そうすると、そこまでキレる理由が……ってところだもの。

しかもその辺り、私も思い当たらない。いや、現段階で十分過ぎる材料が揃っているとは思うんだけど……もう一つ、足りないような感じもしていて。


「まぁ、それならそれで納得したわ。だから坊やはPSAまで引っ張り出したのね」


シュラウドさんは私の罵倒を……八つ当たりを受け止める。当然のことだと、逃げずに……子ども扱いもしないで。


「ミュージアムがどうしてこんな手段で、地球を救おうとするか……救えると思ったのか、分かるかしら」

「……いいえ。私は、園咲琉兵衛って人じゃありませんから」

「あなたが想像したような細かい動機じゃないの。むしろ選択肢の問題……園咲琉兵衛が、そしてそれにかしずく組織そのものが、“これ以外の手段で地球を救う方法”が分からないからよ。
それは私や荘吉も同じ。もうはっきり言うけど、私は組織への復讐のために、荘吉を戦う戦士として見込み、メモリとドライバーを与えた。
そして荘吉は最初期から対処していたために、裏家業として……相手の殺害すら厭わずに戦い、止めてきた。
もちろん美澄苺花……彼女を傷つけた父親も同じ。人は、自分が知る以外の手段以外では願いを叶えられない。想いを通せない」

「…………そんなの、ずるいです。だってそれなら……それなら……!」

「えぇ、そうね。……現にあなただって分からない」

「………………」

「あなたは子ども……坊やも子ども。それは当然のことよ。でも……だからこそお嬢さんには、一つ覚えておいてほしい。
……たった一つの冴えた手段に縋り付いた先が私達よ。だから私達も、あなたと大して変わらない」


それは苺花ちゃんのお父さんとは全然違う対応だった。それが……それができるからこそ、余計にやるせなくて……もう、それ以上なにも言えなくて!


「うん、だから皆殺しにしてOKってことだよね」

「………………」

「恭文くん、お願いだからちょっと静かにしていて……!」

「……お前さん方も、その間に話を纏めるとえぇわ。
これでまた喧嘩になっても、近くにいる恭文の精神状態がよろしくない……つーかまずメイスを離せ! なにいつの間にか持っとるんじゃよ!」


あ、ほんとだ! あのメイス、いつの間にか拾い上げているし! その上で台なしな発言全開って……ヤバい、本当にヤバい!


「メイタロスとは切っても切り離せない絆があるので」

「さっきその絆、あっさり放り投げてたじゃろ! あと名前ダサい!」

≪これは相当ですねぇ。しかもハイドーブ化が進んで、他の超能力が発現する可能性だって……というかあなた、今は……≫

「大丈夫……さっきまで、いろんな思考の声が聞こえていたけど……もう収まった」


恭文くんの目はまた普通の……黒色に戻っていた。もうあの、怖いくらい透き通った蒼じゃない。


≪メモリの使用が停止したんですね。そしてあなた自身もそのチャンネルは閉じている≫

「ん……じゃないと、そこのミュージアムと仲良くしているクソ探偵の、小うるさい言い訳がうるさくて仕方ないもの」

「だから、違う……俺は、ミュージアムとは」

「もう確定している。お前が言っていることは全て言い訳だ。だから殺してでも黙らせる。OK?」

「坊主……!」

≪はいはい……あなたも大人なんだから、刺激せず上手く流してください。
でもこれは急がないと……頻繁に使われていたらいずれパンクしますよ≫


それはどうしてかなんて、聞くまでもなかった。だって、周囲の……いろんな考えが読み取れるんだよ? いいことも、悪いことも……。

恭文くんはただでさえ発達障害の絡みで、別の精神病を患うリスクが高い。そんな能力が制御できずに、ぽんぽん暴発していったら……!


「なら決まりじゃの。
……風都にはわしもついとくから、早々なにかあることもないじゃろ」

≪いや、あなたは一度本局で用事とかあるでしょ。どうするんですか≫

「だからじゃよ。用事もグレアムに会うとこからじゃし……上手く行けば、増援を引っ張れるかもしれん」

≪……リーゼさん達ですか?≫

「風花ちゃんのこともあるし、それくらいした方がえぇじゃろ」


……ヘイハチさんは、言葉もでない私の頭を撫でてくれる。


「ご老体、だからそれは」

「お前さんの気持ちも分かるがのう……じゃが、選ぶのはこの子なんじゃよ」

「そんな必要はない。コイツはただの子どもだ」

「で、コイツは残念ながらもう選んどる。それは止められんわい」

「言ったはずだ。俺がなんとかすると」

「いいや……お前さんには無理じゃよ。ワシやコイツより弱いし」

「魔法使いだかなんだか知らないが、あまり見くびるな」

「……調子に乗るのも大概にしとけ、青二才」


すると……さすがに我慢ならないと、鳴海さんをギロリと睨み付ける。


「お前さんが中途半端な人助けで満足しとったから、親父さん達も揉めに揉めて……そのまま家庭ごとぶっ壊れるところったんじゃぞ」

「だから、その責任は」

「じゃったら表に出て、犯罪者として裁かれるべきじゃ」

「…………いいから、ここは俺に任せろ」

「お前さんが弱いというのは、つまりそういうところじゃよ。
力云々ではなく……心が弱い。表面上のかっこつけで甘さや弱さを隠しとるが、そうやってツケを払うことから逃げとる」

「それでもこんな子どもを利用するよりはマシだし、役にも立たない忍者が無駄に死んでいくよりもマシだ。それくらい分かれ」

「利用しとるのも、無駄に死んでいく状況を作ったのもお前さん達じゃろ」

「そんなことはしていない……!」

「じゃったら警察に協力くらいできるじゃろ」


鳴海さんを一刀両断してから、ヘイハチさんは恭文くんを見やる。


「さて恭文……どうする」

「まずあの逃がしたおばさんを殺して、邪魔してくる奴らを殺して、コイツを殺して、ボスも殺す。
僕の邪魔をする奴らも、嘘を吐く奴も、全員殺す」

「ちょっと落ち着けぇ! そういうとこじゃないんじゃよ! つーかミカゲになに教わっとったんじゃあ!」

「えっと……」


そこで恭文くんがノートを取り出す。教えられたことをメモしたものを……って、ちょっと待って。

メモを? 恭文くん、基本ど忘れでもしない限り、メモしたことは……繰り返し反すうしたことは忘れないのに。


……それに嫌な予感が走っている間に、恭文くんは合点がいったように笑う。


「刀を抜いたなら必ず斬れ。
それくらい重たい最悪手ということを自覚した上で、抜く前に抜かない道筋は模索しろ。
でも抜いたなら必ず斬れ。斬れないなら斬るまで止まるな。
敵の攻撃ごと斬れ。
斬れなきゃ死ぬ覚悟をしろ……そう教わっています」

「……薬丸自顕流の基本的な教え方だな。トウゴウさん」

「ミカゲは天然理心流の達人じゃ。こやつには合気の部分しか教えていなかったようじゃが……あぁそうか。こやつの障害特性も鑑みて、一番合っているものを……ほな、組木打ちも」

「していました。ただ組木を作るのは大変だからと、元の……示現流? それでやっている立ち木打ちで」

「朝三千夜五千」

「なんでかお父さん達が止めてきて、うざかったとも書いています」

「書いています? ……もしや、お前さん……あぁもう、そこは後でえぇな」


するとヘイハチさんが、こちらにアイサインを送ってくる。私は……その、“後で確認しよう”というところで頷きを返す。

うん、知っている。立ち木打ちもやっていた。練習していた。御影先生が亡くなる前……剣術を教えてくれるって、約束して。それで備えとして、基礎の基礎だって練習法も教えてくれたの。

それは亡くなってからもずっと続けていた。おじさん達は止めようとしたけど、御影先生の息子さんがいろいろ手を打ってくれたし、なにより恭文くんが怒って手が付けられなくなるからって……被害者ぶって困り果てていて。


でもそれが、まるで他人事みたいに……まさか……まさか……まさか……!


「恭文くん……御影先生の顔、覚えている?」

「ふーちゃん?」

「ほら、顔だよ。頬に傷、あったよね。結構大きいのが」

「……あぁ、あったね。うん……」

「ないよ、そんなの」


…………そこで恭文くんの笑顔が凍り付く。


「あ、そうだよね。ごめん……いきなり話が飛んだから、ちょっとど忘れしちゃった」

「傷ならあるよ」

「え」

「刀傷っていうのが……それでおじさん達も最初、ヤクザかと思った程度には……ヘイハチさんもそれは」

「……うむ、あるぞい。消すこともできたが、アイツなりに戒めていたものがな」


というか、ノートを持つ手も震えて……確定だ。

恭文くんが、いきなり……そんなことを忘れるはずがない。そんなことは決してあり得ない。


これって……もしかして、メモリを受け入れたから……だから……!


「……なるほどのう。じゃから“皆殺し”か。劉、おぬしもその辺りは」

「……聞いています。もう一つ……彼にとって大事なものも同じ有様なのは」

「おい……関係ない話をするな」

「そしてそれは誰にも……豊川さん、あなたにも補填できない」

「……………………」


私が補填できない? だったらそれは……あぁ、そうか。

そうなんだ…………。


「子どもを利用するな。俺に全て任せろ。そんなことで済む話だと」


我慢ならず、ティーポットを投げつけ……中のお湯ごとそ顔面にぶつける。

鳴海さんは熱湯を頭からかぶり、もんどりうちながら……信じられない様子で私を見て……。


「なにを……す」

「いいから黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「…………!?」


なに混乱しているの?

なんで話を聞かないのかって顔ができるの?

ふざけないでよ。

全部あなたのせいじゃない。

全部おじさん達のせいじゃない。


なのに、なのに、なのに、なのに……!


「……じゃとしても、その皆殺しの構えだけじゃ足りんじゃろ。それじゃあただの無理心中じゃよ」

「六歳の子どもが無理心中できた時点で、上出来だと思うんですけど。相手は立派に商売までしてくれている営利組織ですよ?」

「そういうのじゃないんじゃよ! もっとこう、ヒューマニズム的な!?」

「……どこの言葉ですか?」

「そこからかぁ! ミカゲー! お前さんほんまなにを教えとったんじゃあ!
このノートの内容次第ではそっちまで行って殴るからのうー!」

「……死にたいなら使いますか?」

「そんな気遣いいらんわぁ!」


…………その前に恭文くんだったぁ! そこでメイスを差し出さないで!? 一体どういう感情でそれができるのかなぁ!

というかまずい! 私達が察した通りなら、もうここで限界値だ! それは幹部の両目くらい潰すよ!


「なのでシュラウドさん、メモリを一本作るのっていくらかかりますか」

「……どういう意味かしら。と言うか、今の会話からそこに繋がるのがちょっと怖いんだけど」

「ウィザードメモリをもう一本作ってほしいんです。どんな手段を持ってしてでも、絶対に……対応したドライバーもセットで」


すると恭文くんは、そのままとんでもないことを言い出した。


「それで武器も欲しい。袈裟から一撃で、どんな敵でも打ち砕ける刀が」

「…………」

「金は必ず用意します。幸い苺花ちゃんのお父さんが、人生をブチ壊して支払ってくれた慰謝料もあるし?」

「……荘吉や私では殺すしかないから、あなたがというわけ?」

「文……シュラウド……!」

「坊やは私達の思考を読んでいたのよ? 今更取り繕えるはずがない。
でも……そう……あなたは、そこで“それ”を選び取るのね」

「ウィザードメモリは、僕が――『なりたい自分』になった僕が助ける」


だから恭文くんはなんの迷いも、動揺も見せず……全てを飲み込み、こう告げる。

……もう、時計の針は戻らないのだと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もう、時計の針は戻らない。


「恭文、マジかい……!」

「いつも通り、ないものねだりしている暇はなさそうですし」


こんなはずじゃなかった今を受け入れ、その上で進むしかない。


「あと、最低限でも武装やメモリガジェット……でしたっけ? それのデータや、製造技術……開発データもPSAによこしてください。
じゃないとこの事件の捜査に関わる人達は、対抗手段もなく殺されるだけで終わる」

「……あなた」

「僕が実験台にされたってことは、もう“風都以外の市場”を作る段階に入っている。それも純粋にビジネスとしての拡大だ」

「………………」

「だからそこだけは絶対に、お願いします」


すると恭文くんは、深々と頭を下げた。シュラウドさんに……その様子に、頭を下げられたシュラウドさん当人も面食らって。


「坊や、一つ確認をさせて。……“ライブラリ”の価値まで分かるの?」

「前に社会見学で、工場見学をしたことがあるんです。そのとき工場長さんにいろいろ教えてもらって」

「そう……というか、なるほど。私はあなたというダシにまんまと吊られたわけね。
本当にPSAから入れ知恵されたわけでもないでしょうし」

「末恐ろしい子ですよ……。自分をダシにすれば、鳴海荘吉も首輪を付けられる。ドーパントへの対抗手段もあるのなら、それも明らかにできる。
……それがPSAにどれだけの利益になるのならと……そこまで見込んだ上で、我々と取引を仕掛けてきたんですから」


え、ライブラリ? 製造技術? えっと……うん、後でまたこれも確認しよう! 工場見学については聞いているけど、療育施設の話だから、私はついていけなかったし!


「だが、そこであえて……もう一度メモリを使うのか」

「助けを求められたし、対価も受け取りました。
それに……」


恭文くんは右手を挙げて、火花を走らせる。というか、そこで出したのは……蒼いツタで……え、それは……!


「もしかしたら、なくしたんじゃなくて“貸した”だけかもしれないし」

「貸しただけ?」

「後で話します。
……とにかくやることは決まっている。奪われたものは全部取り返すし、最悪奴らもろとも無理心中だ。
というわけで、僕が人質に取られたり、向こうに靡いたら容赦なく撃ち殺してください」

「ちょっと、恭文くん……!」

「この状況で情けなく命乞いなんてしない。大局的勝利が最優先だ」


貸しただけ……助けを求められた。対価を受け取った。意味は分からないけど、恭文くんはそのツタを一旦消して……とんでもないことをまた言い出す。


「そのためになにがって二〇〇通りくらい考えたけど、これがベターだ」

「六歳児を戦線に出す……大人としては余り頷けない話だな」

「組織全部僕がぶっつぶすなんて言いませんよ。僕をダシとして利用しつつ、大人な劉さん達が大暴れしてくれればいい。
……利用価値がないとは言わせませんよ? 僕が入れば、向こうの適合者とテラーを引っ張り出せる」

「その間にということか」

「その上で僕も、“あの子“を必ず助ける……止めるって約束を守るだけです」

「あえて諸刃の希望に踏み込んで……本当に、その年でそんな答えに行き着くとはな」

「その必要も……心配も、いらない。いいから、言う通りにしろ……」


鳴海さんはソフト帽を目深にかぶり直し、問題ない……大丈夫だと繰り返す。それが本当にいら立って……!


「黙っていろって言っただろうがぁ! 相棒すら殺せる人でなしがぁ!」

「……豊川さん」

「よく分かった。あなたは私やおじさん達と同じだ!」

「ふーちゃん、駄目だって。ほら、生ゴミを棄てる日に集積場で、こんなところにゴミを捨てた奴は誰だーって怒り狂う人はいないでしょ?
棄てられるゴミに怒りを向けるなんて馬鹿らしいでしょ? つまりそういうことなんだよ」

「恭文くんも黙っててくれる!?」

「あ、はい……」

「というかお前さんはアホなのかぁ! それで説得したつもりかぁ! もうちょっとやり方があったじゃろ!」

「……ご老人の言う通りよ。そこは、ちゃんと反省しなさい?」


…………涙がこぼれる。

でも仕方ない……仕方ないんだ。だって私も……私だって……!


「あなたは…………苺花ちゃんを見殺しにした“悪人”と同じ! 恭文くんの声を無視して、自分の頭だけで考えた解決方を押しつけているだけ!
だから、相棒さんがドーパントだったことも分からず殺したんですよね! その前に止める努力もせず……その全てを放棄して!」

「……だから、今度は助けたいんだ。坊主、約束だ……俺もその限界を乗り越える。
だからお前も、発達障害なんていう医者の儲け話には耳を貸さず、お父さん達と仲直りをしてみせろ。
そして……そんな、物騒な教えは忘れろ。お父さん達の言うことを聞いて、普通の子どもらしくいろ」

「そうしておじさんと同じことを言うんですか! 障害を言い訳にしている……甘えているって! 障害者の辛さも分からないいあなたが!」

「坊主はあれだけの状況を、自分の我慢で乗り越えて……みんなを守った。だったらできるはずだ」

「恭文くんが……苺花ちゃんが、辛いことを思い出したとき、そのときの感情も“そのまま”フラッシュバックして、どれだけ辛そうにするか知らないんですか!?」

「そんなのは誰にでもあることだろう。そんなものを言い訳にせず、乗り越える気持ちを持っていく……そう叱らなくてどうする」

「ふざけないでぇぇぇぇぇぇぇ!」


誰にでもある!? そんなわけない……なにも知らないくせに……知ろうとすらしないくせに!


「……ふーちゃん、赤い洗面器の男って話を知っている? そんな骸骨男よりこっちの方が楽しいよ」

「ちょっと黙っててって言ったよね!」

「いやいや、聞いてよ。……ある日、頭に赤い洗面器を乗せた男に出会ったんだけどね?
その出会った人は聞いてみたんだよ。どうして赤い洗面器を頭の上に……あ、駄目だ。この話、僕もオチを知らない」

「だったら駄目じゃろうがぁ! というか、そこまで言う前に気づけぇ!」

「でもヘイハチさんだったら知っているよ」

「知らんわ!」

「嘘ですよね! だって御影先生は知っていましたよ!? そのオチを話す前に倒れてお亡くなりですから! 古い友達から聞いた話とも言っていましたし!」

「ミカゲェェェェェェェ! お前なんて置き土産しとるんじゃあ! じゃが違う! ワシじゃ……その期待の瞳を向けてくるなぁ! それには応えられん!」


恭文くんはもう“見限ったから”と止めてくる。でも私は止まらない……止まるはずがない! だって、だって……ずっと見てきたもの! 今はおふざけしているけどね!?


「………………その“誰にでもあること”で、二人がどれだけお薬を飲んでいるか知っているんですか!?
それがないと何日も徹夜しちゃうくらい睡眠が不安定になるのも……それでも余り起きていられない日があるのも、食事すら不規則になってしまうのも知っているんですか!?」

「いいから話を聞け。そんなものは元気に遊んで、勉強していれば自然と眠れるものだ。薬になんて頼るのが間違っている」

「そんなのとっくにやっていますよ! あなたが言う物騒な教えは、朝に三千夜に五千……あの立ち木に打ち込みをやるようにって教えるんです! それも実剣より重たくて太い木を使って!」

「親父さん達はそんなことはしてほしくないと言っている。親の言うことは聞くものだし……そんなものは異常だ」

「その異常な子どもに情けなく腕を折られたくそったれが言ったって、何も響かないんだけど!? 大体ミュージアムの仲間なくせに!」

「それも誤解だ」

「だったらこの状況はなんなの! 全部あなたのせいじゃない!
しかもあなたは普通にメモリを壊して止めることもできない、ただの殺人鬼だし!?」


ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな……なんでそんなこと言われなくちゃいけないの。あの立ち木が見えないの?

恭文くん、毎日……雨の日も風の日も、立ち木に向き合って、打ち込んで……手が痛くなっても絶対やめないで、声を上げながら何度も打ち込んで……打ち込んだ箇所がえぐれたあの木が……!

お父さん達からなにを言われても、周囲から奇異な目で見られても、絶対やめないの。教えてくれたことだからって……御影先生と約束したこともあるからって……!


“自分にはそれくらいしかできないから”って……!


「なにより……一生懸命やっても、人より不器用で上手にできなくて……チームワークを作るための空気を読むのも大変で! それでみんなから一緒にやりたくないって……そういうふうに言われる辛さを知っているんですか!?
それを……それをどうして! そういう不安や苦しさで“薬にも頼らなきゃちゃんと眠れない状況”を、誰にでもあることだと言い切れるんですか!」

「だったら人よりもっと努力をすればいい。五倍努力すれば、五倍の喜びが得られる。俺が保証する」

「少なくとも私は……自慢するようだけど、そんなことない! 睡眠薬のお世話になっている同級生なんて、恭文くんくらいしか知らない!
それに……恭文くんが猫の遺伝子を持っていることで、どんな陰口をたたかれたかも知りませんよね! 恭文君は素の自分を見せられないんです! 大っぴらには……それだけで化け物扱いされるから!」

「だから、落ち着け」

「なのに簡単に言わないで……我慢ならもうしている! それで我慢していないみたいに……その壁で私達がどんな想いをしてきたかも知らないくせに、偉そうに説教しないで!」

「世の中にはもっと大変な人もいる。その人達に恥ずかしいと思わないのか」

「恥ずかしいのはあなたの方じゃない! 人殺しがしたいから、警察やPSAの邪魔をし続けた犯罪者の分際で!」


本当に腹立たしい……これで、どうして大人の顔ができるのか……!


「……いいから、言うことを聞け。絶対に後悔はさせない」

「もう後悔ならしている! あなたのせいでこの状況なんだから!」

「だから、俺の言うことを聞けばいい」

「今更そんな話が通じると思っているのかぁ! このクズがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「何度も言わせるな。風都のことは、俺がなんとかする」


もう一つ、ティーカップを投げつける……当然このクズは防御するけど……!


「もういいから黙れと……なんべん言わせるつもりだ! お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「………おい……本当に、いい加減にしろ。俺に任せれば済む話だと言っている……!」

「だったら殴ってみろ……私を殺してみろぉ! 骸骨男にはそれくらいしかできないんだろうがぁ!」

「この……」

「……劉さん、ふーちゃんを止めておいてください」

「……分かった」


そこで劉さんが私の前に立って、制してきて……邪魔でつい睨み付けるけど、劉さんは揺らがない。


「ふーちゃん……だから言ったでしょ。
コイツはそもそも僕達人間様を殺して笑うことが楽しくて仕方ない化け物だって。
しかもそれを死んだも同然の状態になって、罪の意識すらリアルタイムで背負うことからも逃げている異常者だって」


その間に恭文くんがシャツの襟元を正し、大きくため息。鳴海さんを完全に……そういう異常者だと断じた上で。


「そんな奴はどうせミュージアムになんて勝てないんだよ? 感情を割くだけ無駄無駄……」

「だか」

「クレイモア」


そこで恭文くんの左手がかざされ……瞬間的に蒼いエネルギーが散弾となる。それがあの化け物の胴体を、腕を、足を座っていたソファーごと蜂の巣にして、吹き飛ばして……!


「が……あぁあぁあぁあぁ……!?」

「だからもう、鎮圧しようよ」


ずたずたにされたソファー。逸れた弾によって砕けた壁。そして……鳴海さんのスーツがずたずたになり、命中箇所のあちらこちらからは血が流れる。

それで……それだけで、私達はその威力を察して……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんだ、今のは……光の球が、俺の全身を、撃ち抜いて……避ける暇も、なかった……!?

肉が……骨を砕かんばかりに打ち据えられて……こんなものが、もっと近くで……急所に、当たったら……。


「な、鳴海さん……!」


するとアイツは……俺の頭を掴んで、ぐいっと持ち上げたかと思うと……右ストレートを叩き込む。

しかもその拳に火花が走って……。


「プラズマステーク、アクティブ――」


拳が頬骨を叩いた瞬間、蒼い雷撃が走る。それに皮膚が、骨が焼かれ、砕け……血すら焦がしながら、俺はその衝撃で派手に床に倒れて、壁にも頭を打ち付けた。


「が……あぁああぁあ……!?」

「……まだタイミングが掴めないなぁ。もう一呼吸遅めか」


なんだ、今のは……子どもの力じゃ、ない。なにか……骨ごと砕くような衝撃が、唐突に……!


「まぁいいや。とりあえず……ふーちゃんに頭を下げて謝れ。クズ野郎が」

「ぼう、ず……お前、なにを……」


するとアイツはまた掌打を打ち込む……俺の顔面に……それだけで、また左目が潰れるような衝撃を受けて、視界が更に赤へと染まる。


「お前は“あの子”を助けるのに邪魔だ」

「が……あぁあぁああ……!」

「お前がいたら、あの子を助けられない。むしろそのまま殺される」


どうしてだ。俺は……まだ、コイツになにも、見せていない。話していない。

いや、それ以前の問題だ。


(なんで、俺が……こんな、六歳の子どもに……!)

「や、恭文……ねぇ、落ち着いて? あの、私達があなたを怒らせたなら謝るから」

「そ、そうだ。だがそれは、お前のためを思って! 嘘じゃないんだ!」

「…………そんなことで済む話じゃないっつてんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やめろ……いい加減にしろ……! 大人を……家族を、信じろと……その普通のことが……なぜ」

「お前のせいだろうが――」


……なんて冷徹な目をするんだ。

親父さん達は、お前に愛情を向けていた。確かに足りないところはあったが、それだって。


「や、恭文……なぁ、落ち着いてくれ。許してくれ。鳴海さんが言うように」

「お父さん達はね……それくらい“やばいこと”をしたんだよ!」


坊主は親父さんの首根っこを掴んで、締め上げる……。


「があぁあ……!?」

「お父さん達の話が広められたのは、僕の入院中だって言ったでしょうが! そこから鳴海荘吉の言いなりで通報すらしなかったこともバレたら……それも広められたら! もう誰もお父さん達を助けようがない!」

「え……」

「お父さん、お母さん、目を覚まして! コイツは現時点でミュージアムの一員だ! こいつのせいで! お父さんも、お母さんも、仕事を失いかけている! 生活を潰されかけている!
コイツの……なんの権力も! 後ろ盾も! ツテもない探偵如きが偉そうに正義の味方面しているから! その言うことを聞いたせいで! お父さん達は裁判なりにかけられなきゃ全部失う立場に立たされたんだよ!」

「そんな……どうして……!」

「それも言った通りなんですよ、蒼凪さん。
このまま私達が目こぼしをしたとしても、ミュージアムによる“制裁”がいつ加えられるとも分からない」

「だから、部外者は……黙っていろ……それも、俺が……」

「で、風都にいるだけの……ただの私立探偵に、あなた達を守る力がないのはご存じのはずだ。
……そんなものがあれば、あなた方の家庭不和は起きていない」


違う……そうじゃない。なぜ分からない。俺は男として……坊主に伝えた。それを信じてくれればいい……俺は必ず親父さん達の力になると……それだけの、ことを……。


「方法はもう一つです。あなた方は我々の拘留……保護を受ける。それも自分からです。
その上で取り調べを……裁判を受けてください。その上であなた方の無実と、ミュージアムという非合法組織による風評被害だと証明できれば、そんな破滅の未来は避けられる」

「で、ですが……それでは、息子が!」

「この状況で蒼凪君が一番安全なのは、むしろ我々の側……引いては風都の中でしょう。
東京にいれば、今言った理由からいつまた攫われてもおかしくない。その察知と対処も大変難しい」

「もちろんふーちゃん達も、舞も……みんな僕達の巻き添えだ!
苺花ちゃんのお母さんも……逮捕された米沢のおじさんだってどうなるか分からない!」

「美澄さん、達が……!?」

「当たり前だよ! お父さん、話を聞いていなかったの!? 苺花ちゃんも……ウィザードメモリに適合する条件が整っている!」

「やめろ……」


立ち上がり、坊主を止めようとする。そんなことは知らなくていい……子どもはそんな話をしなくていいと、ふらつきながらも起き上がるが。


「……」

「どけ……!」


立ちはだかる忍者の首根っこを掴もうとすると、突如頭がはじけ飛んだ……そう思えるほどの拳を受け、俺の頭はまたソファーへと横たわる。


「が……あぁあぁ……」

「というか、僕のことをあれだけ知っていて! その僕への実験もスペアを確保するためとか言っていた! だったら……だったら……」

「まさか……」

「恭文……そんな……だったら、私達……!」

「おねがい……拘留されて。鳴海荘吉に騙されていたって自覚を持って。それでもその片棒を担いだことは滅茶苦茶後悔して」

「恭文……」

「正直お父さん達には滅茶苦茶むかついている。仕返しもしたかった。でも、“こんなやり方”は違う。
……僕が望んだ仕返しは! 本当に忍者に……みんなを守れるヒーローになって! 御影先生の教えてくれたことが……信じてくれたことが正しかったんだって証明することだ!
ミュージアムを潰す手伝いだって……もう一度変身するのだってそのためだ!
それで見下して! お父さん達や馬鹿にしてくれたみんなは間違ってたんだーってあざ笑ってやるから……だから……大人しく捕まって――!」


なんでだ……なんで、そんなことを言う。その必要はない……その必要は……ないんだ……!


「……蒼凪さん、もしもあなた方が本当に彼のためを思っていたというのなら、その仕返しが来る日を楽しみにしてみませんか?」

「劉さん……」

「なにより一個人として……今の叫びを親であるあなたが受け止められないとは考えたくないので」

「「…………」」

「だから、話を…………ややこしく、するな……!」

「荘吉、やめなさい」


シュラウドの手を払い、立ち上がる……聞き分けがないだだっ子どもに、一歩ずつ踏み出す。

……折れない……その姿勢を示し続けることが、俺の戦いだった。


「だからさぁ……全部お前のせいだって言っただろ」

「いいから、聞け。お前は、普通に話せる……障害なんてものじゃない。甘ったれるな……男なら、家族のためにそんな言い訳は飲み込み、我慢しろ」

「……グラキエスクレイモア」


――また散弾が俺の胴体を貫く。それでも耐える……そう思っていたら、今度の弾丸は俺の体を貫いた途端、氷を生み出した……!

一気に体が芯まで凍り付く感覚に震え、膝から崩れ落ちて……。


「が……はあぁああ……!?」

「どの口で言ってんだ、ミュージアム」


そのまま、返す刀が如く……いつの間にか踏み込んでいた坊主に殴り飛ばされる。


「が……!?」

「もう全部分かっているよ」

「ち……が……」


もう一発拳が打ち込まれる。俺を黙らせる……そのために暴力すら当然にすると……アイツは宣言し続けていた……。


「僕が幹部クラスを倒し、実験を台なしにしたから……慌てて手を引いたんでしょ」

「ぼう、ず……」

「そもそもさぁ、ふーちゃんがあれだけ言ったのにガン無視する人でなしなんて、信用できるわけないでしょ」

「いいから……俺の、言うことを」


そして俺の頭が掴まれ……強烈な電撃が走る。


「AGAAAAAAAAAAAAAA!?」

「僕のためを思うなら、今すぐ死んでよ」

「ず…………」

「お前がいるだけで、僕の助けたいものがどんどん壊されていくからさぁ――」


もう、耐えきれなかった。

俺の体は電撃に貫かれて……そのまま、意識が……断ち切れて…………。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文くんは電撃を走らせ、鳴海さんをこんがりと焼く。


「な、鳴海さん……!」

「お父さん、お母さん、もう一度言うよ? コイツは僕を助けた恩人じゃない」


そのまま興味なさげに放り出した。


「お父さんを、お母さんを……苺花ちゃん達を不幸のどん底に落とした犯罪者だ」」

「……あぁ、そうだ。だからそれでいい……そこまででいい」

「劉さん……」

「皆殺しにしてやりたい気持ちは分かる。だが、それを実行してしまってはこの男と同じだし……御影氏の教えにも背くことになる」

「…………」

「大丈夫だ。師匠が教えてくれたことを信じ、守ればいい」

「…………はい」

「あ、あなた……」

「ぁああぁあ……!」


二人は嘆く。涙を流しながら困惑する。

でも……さっきまでとは違っていた。恭文くんが本気で叫んで、劉さんが叱って……現実と向き合い始めて。

それは安心……なんだけど……!


(でも、さっき言っていたことって……!)


苺花ちゃんも、メモリと適合する条件を満たしている?

なら……いや、それを考えれば、今いろいろ読まれたのは……!


≪しかし驚きですねぇ……。凍結変換に電撃変換……それまで修得しているとは≫

「お前さん、マジかい……! つーか今のなんじゃ!」

「……対人地雷を参考に、なんかエネルギーをぎゅっと集めて、ばーってぶっ放したらできた」

「素人魔導師はほんま怖いのう! 感覚でこういうことするんじゃから!
じゃああの殴ったのは!」

「殴った瞬間に、エネルギーを炸裂させたら凄い威力になるかなーと思って。そうしたら合金製の壁すら砕けるようになりました」

「だからその素人の感覚実験は怖すぎるわい! ああもう……修行へ入る前に、そこんとこピックアップするからのう!? それが絶対条件じゃからのう!?」

「はーい」


恭文くん、ノリが軽いよ! さっきまで暴力振るいまくっておいて……あぁ、でも……本当にまずい! こうなった以上……相応の理由が……!


「これでもなお、ウィザードメモリの過剰適合……その条件が消えないとなると……やはりそういうことなのね。
……でも、あなたにその可能性が使いこなせるのかしら」

「シュラウドさん、それは違うよ。使いこなすんじゃない……それじゃあ足りない」

「どういう意味?」

「魔法使いはいつだって夢と希望を守るものでしょ? だったらその記憶を道具扱いしたら、ミュージアムやコイツらと同じだ。
……僕が本当に奇跡を起こすなら、その可能性を誰より信じて、形にしなくちゃいけない」

「自分の家族や荘吉を……いえ、これは逆ギレね。
あなたが言うように、私達では彼らの無実すら証明できない」

「もちろん僕もそれは同じ。
……なので無力な子どもらしく、警察に……法の裁きに預けることにしたんだけど……何か問題?」

「………………そうね。なにも……何一つ、問題ないわ」


そう断言した上で、恭文くんは部屋の入り口に向き直る……もう用は済んだと言わんばかりに。


「じゃあ僕、荷物を纏めてくるから」

「恭文くん……」

「あとお金の心配はしなくていいよ? 将来に備えてお年玉、いっぱい貯金してあるし? もうその将来の心配もひとまずしなくていいし?」

「いや……君の滞在については、PSAが全面的に支援しよう。鳴海探偵事務所を頼る必要はない」

「へ?」

「もっと分かりやすく言うと……君を忍者としてスカウトしたい」


……そこでとんでもない話が出て、一瞬思考が停止する。

恭文くんを……六歳の子どもをスカウトォ!? え、どうしてそうなったんですか! 劉さんー!


「もちろん年齢の問題もあるし、本採用は国家資格を取得してから……今はあくまでも候補生扱いとなる。
だがうちの風間会長にも話を通し、了承が得られるようであれば……今回のことを実地研修という形で処理して、滞在費くらいはなんとか出せると思う。
もちろん護衛役も付けるし、その先輩からいろいろな技術や知識を教わることもできる。悪くはないと思うが」

「……いいんですか? というか僕、そこまでのことは」

「十二分に見せてもらった。あとはその素養を健全かつ正しく育てられるかどうかの問題だ。
……もちろん親元から離れて自活できる程度の支援もするぞ?」

「それは素晴らしい! 粉骨砕身の決意で頑張らせていただきます!」

「……横綱の襲名式かしら。
だけど」


そこでシュラウドさんが、改めて……見定めるように劉さんを見上げる。


「……荘吉や彼らの立場は、もうそこまで末期的なのね」

「それもありますけど……彼が突きつけられた現実は、あなた方が想像しているよりもずっと残酷です。
……豊川さんもあれだけ憎悪をたぎらせる程度には」

「そして、その“運命”は坊やが背負い、乗り越えるしかない……」

「でなければ誰にとっても不幸な結果にしかならない……それは、よく分かりました」

「…………」

「とはいえ、少しだけなら配慮もできますが」

「分かったわ。改めて……そちらへの全面協力を約束する。
坊や用のメモリとドライバーを開発することについても同じ」


シュラウドさんは、今度は恭文くんに視線を移す。


「……もしも私の予想通りなら、確かに荘吉よりこの子の方が使える。いえ……奇跡を起こせるかもしれない」


そうして告げたのは、恭文くんが希望だという期待。

私にはその確信が、どこからくるのかは分からない。ただ……それがとても強いものだといことだけは、理解できて。


「あ、あの……それは……!」

「お嬢さんの心配が極力なくなるように、安全面への配慮はきっちりするわ。それも“知りうる限りの選択肢”で成立させる。
あと……ガードも付けましょう」

「ガード?」

「ファング」


そこでぴょんっと……白い恐竜みたいなメカがとことこと歩いてきて、私達の前に。


「この子が……」

「ファングメモリ……牙の記憶を有する、自律行動型メモリ≪ライブメモリ≫よ。坊やももう知っているわよね」

「ん……使用者のガードをしつつ、次世代型ドライバーに対応した変身アイテムにもなるんだよね。でも、この子って」

「予備パーツを使って組んで、私の護衛にと付けていた二号機になるけど……あなたに貸してあげるわ。
マスカレード程度なら徒党を組んでいようと蹴散らせるし、それであなた自身を上手く守りなさい」

「ありがと、シュラウドさん。……よろしくね、ファング」

≪――!≫


このメモリが、恭文くんを守ってくれる? でもそれなら……それだけで、なんとかなるわけがなかった。

だって他の使用者がいて、それと紐付けされているって話だよ? もたもたしていたら、やっぱり……!


「あと……荘吉についても、改めて私が話してみるわ。付き合いが一番長いもの」

「お願いします」


そうして話は纏まった。恭文くんの安全もなんとかなりそうだけど……。


「おぉ……!」


恭文くん、目を輝かせている場合じゃないんだよ!? 命の危機だって分かっていないのかなぁ!


「いやぁ、劉さんもお話できる人でよかったー。……じゃあコイツのドライバーとメモリ、あと全財産も渡してもらうね? 国家権力と正義のためだもの」

「待て。全財産については一切触れていないんだが」

「劉さん、実質そうなりますよ? ほら……こういう奴らに金を持たせておくと、ロクなことにならないでしょ」

「なるほど、財産関係の調査……それなら納得だ」

「してえぇんか!? というか怖いわ! 六歳の発想じゃないんじゃよ!」

「いいんですよ。ふーちゃんが言うことは正しい……全てにおいて正しい」


それ私が言ったことー! というか恭文くんまで早速利用してくれているんだけど! 涙も引くんだけど!


「でも忍者……よし! よし! 忍術も覚えられますよね! 魔導師で魔術師……そこに忍者って、もう最高かも! てんこ盛りで人生楽しくなってきたー!」

≪――!≫

「…………一応、忍術というのは薬学や科学などを用いたテクニックなんだが……いや、なんでもない。そうだな、忍術……頑張れば、な?」

「あなた、ちょっと止めた方がいいわよ? この子間違いなく……分身の術とか、そっちを連想しているから」

「トウゴウ氏……魔法で、なんとかならないでしょうか」

「改めて調べておくわ……! まぁでも、心が折れんというのは大事じゃよ。なにせこの状況じゃしのう」

「……そうですよね」


そうだ、涙も引いた。だから……自然と笑っていて。


「当然! 心折れている暇なんてないし! 僕は世界の強い奴らと戦って、もっともっと強くなりたいし!」

「またパワフルな夢を描いとるのうー」

「御影先生の遺品……そこにあった古い資料を見ていたら、もう! 特に陸奥出海と土方歳三の対決とか燃えるし!」

「そんなんもあったんか! ミカゲ……あぁいや、後で見よう! 一緒に見るぞい! ワシも興味あるし!」

「はい!」

「……だったら、私も一緒だよ」


だから私も……恭文くんが離れないように、もう一度手を伸ばして……ぎゅっと握り返した。

ぼろぼろになった部屋の中、恭文くんが驚いた顔をして。


「私も、風都には一緒に行く」


(その4へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、僕の起源と魔術アイディアは読者様からの拍手となります。アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました。……あ、次の3.5話辺りに出るお話です)


恭文「こうして強引に風都行きが決定……と思ったら、ふーちゃんが……すっかりぶち切れることが定番に」

風花「なっていないから! ……でも恭文くん、改訂前より落ち着いた形に……」

恭文「……もっと残酷になっていくけど」

風花「え……!」


(そして凶悪化していくウィザード……)


恭文「でも改めてここを整えたら、IFストーリーで劇場版第一作、二作に関わった話もできるなぁ」

風花「あぁ……ちょうど事件後に海鳴へ行く話にもなるしね。それはそれで楽しそう」


(Ver2020本編ではその辺りニアミスで、StS近辺まではやてとリイン、シャマル、シグナム、ザフィーラ以外のメンバーと関わることはありませんでした)


古鉄≪ジュエルシードを総取りして、リンディさんのフラグも立てまくるんですね。最高評議会側へ靡く前に、破滅フラグをへし折ると≫

恭文・風花「「落ち着いて!?」」

フェイト「そ、そうだよ! あ、でも……そこからこう、いろいろ干渉を受ける形だった設定だし、それがなくなるなら……うん、頑張るよ。母さんには負けないし」

恭文・風花「「落ち着いて!?」」


(今年も相変わらずな、閃光の女神であった。
本日のED:超特急『Believe × Believe』)


恭文「遊戯王マスターデュエル……好評な滑り出し。今までのデュエルリンクスなどなどに比べて、比較的カードを揃えやすいのもありがたい……が、僕はちょっと様子見」

あむ「まだ組みたいデッキとか考え中な感じ?」

恭文「エルドリッチ、触れてなかったからやってみたくもあるけど……他にもいろいろ気になるテーマが……! ドラゴンメイドとかさ」

旋風龍「私のことですね、ご主人様!」

恭文「ちょっと違う……!」

あむ「あ、でもあたしも似た感じかも! 改めてパックとかが解放されると、いろいろ考えちゃうよね……! 新しいストラクチャーもでるかもだし」

恭文「長く続くといいよねー」


(おしまい)






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あきゅろす。
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