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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
西暦2014年8月・軽井沢その6 『アメイジング・ビギンズ/好きだからこそ』



魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

西暦2014年8月・軽井沢その6 『アメイジング・ビギンズ/好きだからこそ』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


決して長くはないけど、それでも大事な一歩……濃密な時間は終了。

あの反撃に胸が熱くなっている中、タツヤとトオルはベースにもたれかかって座る。


しかしνガンダムヴレイブ……でき上がって早々半壊とは。今はトオルのストライクと並んで、ベース上に立っている。

まぁ本体部の損傷は、シャイニングフィンガーもどきをかました右腕しかないしなぁ。


……しかしタツヤのあれは、本当に驚かされた。動きを見るに、決めたのもサーベルが振り下ろされてからっぽいし。


「うぅ……!」

「恭文くん、うずうずしないの……」

「君は君で、新機体のデビュー戦があるしね。というか私も見たいし!」

「え、でき上がったの!?」

「バッチリ!」


驚くふーちゃんには、鋭くサムズアップ!


「いいなー、舞宙ちゃんには一番で……ふーん、ふーん……」


あ、フィアッセさんが膨れて、後ろからハグを……あの、これは……凄く大きいのが頭にー!


「いやー、いいバトルだった! 恭文や風花達もやるもんだけど、タツヤ……お前も負けていないぞ! 滅茶苦茶興奮した!」

「確かに……あのシャイニングフィンガーだっけ!? あれはビックリしたよ!」

「だよなだよな! オレもこう、頭握りつぶされるかと思ったんだよ!」

「満足してもらえたようでなによりだが……本当に咄嗟のことだったし、νガンダムヴレイブにそんな機能は」

「……調整すればできるんじゃないかな」


フィアッセさんを背負いながら、改めてベースに近づき、あの二機を……ちょっと傷ついたνガンダムヴレイブとストライクを見やる。


「ほら、プラフスキー粒子でビームエフェクトなんかも発生しているわけでしょ?
それを前提に置いて、使えるよう工作すれば……」

「あ、そうだよタツヤ君! というかほら、νガンダムはサイコフレームが!」

「……あのアクシズ落とし阻止の応用でと。でもそれなら、余計に精進しないと……ですね。
結局勝てたわけじゃないですし」

「初めてバトルした奴に負けたら、オレが傷つくっつーの! むしろその点も上出来だぜ!」


トオルはやっぱり興奮しているようで、屈託なく笑う。この笑顔は、トオルがどれだけ真っ直ぐで……未来に夢見ているかがよく分かる。


「……っと、そうだ」


やっぱり黒いなにかを感じ取っていると、トオルが両手をパンと叩く。


「そういや関節だけどな、抜けにくくなる工作教えてやるよ! 瞬着を使うんだが」

「いいのか?」

「なにがだよ」

「そんなの教えると、僕は君より強くなるぞ」


ユウキ・タツヤ、現在七歳――素晴らしいドヤ顔を僕達に見せつけてきました。

それはさっきまでなら見られなかった表情。初めてのガンプラバトルを越えて、今までなかったなにかを掴んだのかも。


「ふ……」


それを感じてか、トオルがタツヤのドヤ顔を笑い飛ばす。


「そうしたらオレはもっと強くなる!」

「そうか」


トオルも立ち上がり、タツヤへサムズアップ。


「二人で強くなる――それでいいだろ」

「もちろんさ」

「……恭文くん、置いていかれちゃっているねー」

「大丈夫ですよ。僕はそんな二人をコッソリ抜き去りますし」

「「それはズルい!」」

「だったら巻き込め馬鹿どもー!」

「……寂しいなら、寂しいってちゃんと言おうか」


あれ、舞宙さんが慰めるように頭を……待って待って! そんな優しく撫でないで! これは寂しいとかじゃ…………ん?


「……ねぼすけが起きたか」

「恭文君?」

「あ、分かったかも」

「私もだよー。ほら、とたとたと足音が……」


ふーちゃんとフィアッセさんも、舞宙さんとトオル達も、地下室の入り口に目を向ける。

階段を、転がるように駆けていく足音。それは……その足音の主は、涙目でドアを叩き破り、飛び込んでくる。


「お坊ちゃまー!」


そう……ねぼすけなヤナさん。ただ一人、二人の初バトルを見逃したメイドさんだった。


「もうバトル、終わっちゃったんですかー!? なんでこんな朝早くからー!
それに、恭文様達も起こしてくれればよかったのにー!」

「いや、寝る子は起こすなと誰かに言われたような気がしなくもなくて」

「なんでそんなアバウトなんですかぁ!?」

「恭文くん、さすがにそれは……!」

「じゃあ真面目に話すと……五月蠅くなるからって、タツヤに頼まれました」

「お坊ちゃまぁ!?」

「否定する権利があるか!? 現にお前が入ってきたことで、部屋の平均音量がかなり上がっただろ!」

「そんなー! …………は!」


…………そこでヤナさんが見やるのは、ベース上のストライクとヴレイブ。


「……」


二機の状態を注意深く見てから、笑顔でタツヤに向かって……両腕を開いた。


「私の胸で泣いていいんですよ」

「なんで無駄に察しがいいんだよ、お前はぁ!」

「あはははははははは……あ、そうだ」


トオルは二人の様子を楽しげに見ながらも、立ち上がって部屋の隅へ……でもすぐに戻ってきて。


「まずはタツヤと恭文に……これ、やるよ」


僕に左手を、タツヤに右手を差し出す。


……そこにあったのは、トランクケースのようにも見えるパーツだった。

いや、トランクというのは違うか。片面は盛り上がった曲面だし……シールド?

いや、違う違う。よく見るとパーツがこう、あっちこっちに仕込んである。


しかもこれ……二つに分かれた。一つは平たいトランク状態で、その上にシールドっぽいユニットがあって。


「トオル、これは」

「マーキュリーレヴ」


トオルは僕達の考えを見抜いたかのように、また明るく笑う。


「どんなガンプラにもつく、オリジナル武器さ」

「「……オリジナル武器!?」」

「あぁ。友情の証だ」


僕達は改めて、手の平に収まるパーツを手に取り、間近で見てみる。

……色もついていないものだけど、なぜか灰色の武器は煌めいて見えた。


「…………楽しそうだねぇ」


でもそんなとき、なぜか……地の底から響くような声が聞こえて。


「ところでまいさん、ちょっとお話したいんだけど……いいかなー」


それで恐る恐る、地下室の入り口を……ヤナさんの背後を見ると…………そこには、笑顔のいちごさんが……!


「……!」


なお、脇では両手を合わせて、才華さんが平謝りだった。

あれ、おかしいなぁ。確か報告は……ちゃんとしていたはずなんだけどー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


…………舞宙さんは、なぜか正座させられていた。

というか、恭文さんも正座させられていた。


「まぁまぁ先乗りして勉強していたのはいいよ。
ガンプラバトルの勉強を、恭文くんが手伝っていたのもいいよ」

「でしょ? だからもうさっきだって……凄く盛り上がってさー!」

「みたいだね。でもね……お泊まりで添い寝はないから!
合宿中なんだよ!? 分かっているのかな!」

「はいー! ごめんなさいー!」

「ほんとごめんなさい! 僕が無理にでも送り届けていればー!」

「いや、それはそれで問題になっていたと思うんだけどね……!」


絹盾さんは呆れ気味にため息を吐く……ただ、一つ気になったので挙手。


「あの絹盾さん、その情報はどこで……」


朝も早いし、さすがに伝わるタイミングがないのではと思った。実際恭文さん達も起きたばかりで、朝ご飯もまだなんだ。


「あ、まいさんがテンション高くメッセージ送ってきた」

『はぁ!?』

「送ってきたねぇ……やっくんの可愛い寝顔を」

「舞宙さんは馬鹿なんですか!? 添い寝した男の顔を撮影して身内に送るとか……とんだ彼氏自慢じゃないですか!」

「うん、そういう感じだったよ! そういう空気だったよ!
あ、でも本当に可愛かったから、わたしは待ち受けにしたよ! 大丈夫!」

「でしょでしょ!? 実はあたしも待ち受けにしているの!」

「……春山ー? 天原ー? 反省が足りないぞー」


いや、本当に絹盾さんの言う通りですよ! なんでそこで盛り上がるんですか! というか恭文さんも……あぁあぁあぁ! 頭を抱えて!


「というか、不覚……ショウタロスー! シオンー! ヒカリー!」

「オレ達に言われても困るぞ! 気持ちよさそうに寝ていたからな! しゅごたまの中で!」

「えぇえぇ。……ところで天原さん、その画像は私に送ってもらっても」

「シオンー!」

「……それより、今日の朝ご飯は……わ、私はまだ食べていないよな!」

「てめぇら揃って落ち着け! つーかヒカリはそこを覚えておけ! わりとヤバい喪失だぞ!」


駄目だ、しゅごキャラ達はアテにならない! というか更に状況が混乱する! こういうときは、幼なじみの風花さん達……!


「あ、それなら私は何度か撮影していますし……平気です! 添い寝なら今までも一杯していますから!」

「うんうん、私もしているよー。舞宙ちゃんはまだ山のふもとなんだよー?」


なんの対抗意識ですかぁ!? 今それは必要ないでしょ! あるはずがないでしょ!


「でもまいさん、いちさんが怒るのも分かるよ? さすがにちょーっと自由が過ぎているかなと」

「山のふもとなのに!? というか、サイちゃんは保存したでしょ! 画像を保存したでしょ! 同罪だよ!」

「そんなテロがあるわけないよね!」

「ほんとだよ。というか、保存なら私もだし」

「「いちさん!?」」

「いや、今後の材料になるかなぁって」


一体なんの材料ですか!? というか、それなら怒るのも理不尽では!


「いや、その前にさ……恭文くん、言っていたよね。添い寝すると、相手の子の胸を触っちゃう癖があるって」

「は、はい……」

「それは、まいさんにはちゃんと申告したんだよね。改めて」

「しました……」

「されたね」

「で、押し切られたと」

「甘えてしまいました……」

「いや、別に恭文君ならいいかなーって」


いや、天原さん……反応が軽いです! 女性ですよ!? こう、気をつけるべきでは! 確かに恭文さんはまだ子どもですけど……僕もだけど!


「そうですね。まだまだ甘えたい盛り……そういうこともあります。……さぁ、坊ちゃま!」


ヤナも乗っかるな! 両手を広げるな! 僕達とは意味合いが明らかに違うからな! 見れば分かるだろう!


「まいさん……!」

「いやいや、待って! というか恭文君も知っているよね! 私がどれだけ頑張っていたか!」

「あぁ、えぇ……頑張ってはいましたね。トオルも引っ張って」

「引っ張られたなー」

「例のお宝探しで、この状況が打開できると?」

「……打開できるくらいの種があるって言ったら、どうする?」

「「えぇ!?」」


トオル、お前それは……笑っていいのか! 笑える状況なのか! というか、本当に見つかったのか!


「ほんと、親父に感謝……というか物作りが好きな血筋に感謝だよ。
そういうのだと、古い模型店を回る必要もあったのにさぁ」

「トオル、大丈夫なのか!? この混乱を収められると!?」

「大丈夫だってー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――そうしてトオルと恭文さん、天原さんがごそごそと……予め用意していたらしい幾つかの箱を持ってきた。

……なんだろうこれは。普通のガンダムに、SD? 随分古めかしいパッケージだが。


「まずはこの……HG ガンダム! 絶版品だ!」

「「絶版!?」」

「あのね、いちさん、サイちゃん……ガンプラって、基本絶版がないんだって」

「え、そうなの!?」

「初代ガンダム放映当時の旧キットなんかも、定期的に再版されているそうだから。
ただ……この九十年代に出たHG ガンダムについては、もう絶版なんだよね」

「そうそう。金型がぶっ壊れたんだよ」

「…………というわけで、図解してみました」

『図解!?』


え、恭文さんはいつの間に絵を……えっと、MSインジェクション? 金型の負担が大きい? ふむふむ、なるほど……。


「……恭文さん、この……MSインジェクションという技術が、壊れた原因なんですか?」

「まずね、一つのランナーで違うパーツが組み込まれてーというのはあったんだけど、これについてはパーツ単位での色分けが組み立て前からされているの」


実際に箱を開けてもらい、ランナーを見ると……本当だ。組み立てる前から、きっちり色が……というか色違いのパーツがハマっている。


「ガンダムなら上半身のトリコロールカラーが、そのまま再現。後は組み立てるだけって感じだね」

「おぉ、これ凄いじゃん! わたし達とかでもぱぱーっと作れそうだし!」

「ただそれなりに難しいことをしているので、金型の消耗度が通常のものより激しい。
この辺りは技術的にまだ未成熟だったせいもあるんですけど……それで破損して、絶版ってことになったんです」

「じゃあこう、かなり高いとか……」

「まだあるところにはありますから、そこまでじゃないです。
……ただ、当時の力が入ったインストや、今に通ずる最先端技術が組み込まれたランナーは、かなり資料価値が高いんです」

「だからお宝と……」


実際に絹盾さん達と、その辺りを慎重に見せてもらう。

……確かに、νガンダムのインストとはまた違う。資料的な要素が強いものだ。見ているとワクワクするというか。

ただ、見ていて一つ疑問だったのが……。


「でもこれ、あんまり……テレビのガンダムとは似てないような……」

「……そうなんですよねぇ。挑戦しすぎたというか、アレンジが突き抜けた感じなんです」


ヤナもこのHGについては存在を知っていたようで、困り気味に眼鏡を正す。


「パーツの色分けが既にされている……だけならまだしも、それが組み立てられているっていうのは、欠点もあるんです。
お坊ちゃまがなさっているように、バラしての整形とか、色の塗り分けも難しい……つまりガッツリ手を入れるモデラーからすると、気を利かせすぎている」

「あぁ、そういう……」

「ただ、エポックメイキングとしては偉大な一歩を繋いでいます。フィギュアライズバストシリーズなどに、発展された技術が使われていますから」

「インサート成型ですね」


そこで恭文さんが、スマホを弄り画像を……あぁ、バストってこういうことか。ガンダムキャラクターの鏡像がずらっと揃っている。

……待て、鏡像? それ自体は珍しくないが……。


「あの、これ……プラモなんですか!?」

「だよね……フィギュアなら分かるけど」

「プラモなんです。インサート成型で顔や瞳、まつげ、髪なんかを細かく色分けして、ワンパーツに最大四色を再現します」

「それは、組み立てとかも」

「改善しつつです」

「あとはRGもそうなんだって。関節もその応用で、ランナーの時点で稼働できる関節パーツが入っているから。
あとは装甲を接続するピンなんかを切り飛ばさないよう、注意して切り離すだけでOKってわけ」

「それは凄いですね……!」

「だからエポックメイキング的なガンプラかー! いいないいな……なんかワクワクしてくる!」


いや、グレードに違いがあるのは知っていたんだが、そういう……凄い技術の積み重ねというのは予想していなかった。

単純にパーツが細かく、それでと思っていたから。


……僕が学んだ歴史も、あくまでも一部分だと突きつけられた瞬間だった。

でもそれは絶望じゃない。それなら……才華さんと一緒に、自然と笑みが零れてなどいない。


「HG ガンダムについては分かったけど、なら……こっちのSDは?」

「……実はこっちがメインなんだよ」


トオルが天零頑駄無……だったか。そのパッケージを開ける。

ランナーの封は切られておらず、その袋も色あせたように見える。

だが、それを通してもなお……鮮やかに輝くメッキパーツが、一気に目に飛び込んできて……!


「おぉ……キラキラー! 作る前から色分け奇麗だし!」

「ほ、本物の……輝羅鋼ではありませんかぁぁぁぁぁ! 坊ちゃま、凄いです! これは奇跡ですよ!」

「ヤナ、落ち着け! 興奮しすぎ……というか鼻血ぃ!」

「は!」


おいおいおいおい……鼻血を出すほどだったのか!? というかそんなに……いや、奇麗だけどさ!


「えっと恭文くん、これって……うん、奇麗なのは私にも分かるけど」

「あのですね、フィアッセさん……この輝羅鋼は、SDガンダムのシリーズ≪武神輝羅鋼≫で登場したキーアイテムです。
インモールド成型を利用したメッキパーツに、装飾部の細かい塗装が施されています」

「インモールド……えっと、携帯とかで使われてなかったっけ。色つきのフィルムを挟んで、整形してー」

「それです」


春山さんは本当に詳しいというか、回転が速い。すぐにこういうことが出てくるとは……これが含蓄か。

……だが、フィルムを挟んで……スマホを取りだし、自分でも軽く検索する。そうするといろいろと奇麗な携帯サンプルが出てきて。


「そうか……そのフィルムの色合いや風味が、クリアパーツの中で色あせることなく輝いているんですね」

「ただ輝羅鋼については、現在だとその生産方法が消失しているんだ」

「消失!?」

「え、これ……もう作れないの? こんなに奇麗なのに」

「……なんかね、それらしいの。恭文君が言っていたロストテクノロジーって」


あぁあぁ……あれか! ガンプラという工業製品で、ロストテクノロジーとか言うから、実は気になっていたんだが!

一番に驚いた春山さんも、絹盾さんも……フィアッセさんや風花さんも、名前通りに輝き続ける輝羅鋼を見つめてしまう。


「もちろんインモールド成型自体は今も残っています。スマホケースにも使われている技術ですし」

「だよね! わたしも幾つかお気に入りなのを持っているよ!?」

「ただ、基本真四角で平面な携帯やらケースやらともかく、複雑な彫刻もある輝羅鋼は、僅かなズレでも不良品扱い。
そのため製造コストが馬鹿高くなって、採算ギリギリ……少数な再販でやると赤字だから、元々の製造元が断った……とか諸説あるんです」

「はっきりとは分かってないんだ……」

「なんにしても、ロストテクノロジー……現代のオーパーツなんて言われていますよ」


恭文さんは古ぼけたプラモに……なにか、眩い情熱のようなものを見て取ったのか、少し寂しげに目を細める。


「それくらい未組み立てで、袋も開けられていない輝羅鋼は希少です」

「うん、これは分かる。こう、一発でお宝だーって…………あれ?」


そこで絹盾さんが小首を傾げる。……その疑問は、僕にもすぐ理解できた。


「じゃあこのキットは、絶版じゃ」

「そう、ですよね。もう作れないということなら……」

「再販分はクリアパーツにシールを合わせた物になっているんだ」

「あぁ……仕様変更されているんですか」

「きちんと貼れば見栄えはいいけど……でもこれには勝てないなぁ」

「うん、これならお宝っていうのも納得だし、PVも……使用許可が取れれば栄えると思うな。どっちもいけそう」


フィアッセさんには同意見と頷くが……そこで見やるのはトオルだ。

というか、そこまで希少なものだと、不用意な扱いはアウトだぞ……! だからつい、背筋を正してしまう。僕が扱うわけじゃないのに。


「……トオルくん、これ……撮影のときだけお借りしちゃってもいいかな。
もちろんスタッフさんとも相談して、改めて……絶対に破損とかないように気をつけるし」

「いいぜー。なんなら組み立てちゃってもいいしさ!」

「いや、さすがにそれは!」

「そうだよ! かなりプレミアだし!」

「プラモは組み立てるためにあるしさ。大事にしてくれるならそれでよし!
あ、親父の許可はもう取ってあるから、心配ないぞ!」


だが、トオルは絹盾さん達の……僕達のそんな心配を余所に、明るく笑って、サムズアップしてきて。

……その屈託のない笑顔に、なんて無駄なことをとも思ったが……それでも、背筋は正し続けていた。


なにより絹盾さん達も、それに甘えすぎてはと……こういうところは大人だった。


「それは、ありがたいけど……うん、だったらやっぱり開けないで、お借りする形にしちゃおうかな」

「いちごさん、オレは言った通りだし」

「まだ大事にするための知識も、技術もないんだから。
なので……うん、ガンプラ作りから教えてもらえたらなーって」

「そうだね。PVはそれで収めて、また別ので練習して……それでいこう!」


それは決して遠慮じゃなかった。トオルの快活な誠意に対し、二人も誠意を返しただけ。

だからトオルは機嫌なんて崩すことなく、また明るく笑う。


「……分かった! じゃあ早速特訓だー!」

「改めてよろしくね、トオル君。……じゃあ私は恭文君に」

「恭文くんには、私が教わるから」

「ちょ、いちさん!?」

「いや、あの……いちごさん? それは」

「いいからいいから……またお泊まりとかされても困っちゃうし」

「「あ、はい」」

「あははははは、やっぱりセンターはしっかり者だなー」


それでいいのかとは思うが…………まぁ、恭文さんには頑張ってもらおう。

その、いろいろと触れてしまった件もあるわけだし……ね……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇一四年八月十四日

サツキ家別荘 大広間



――――お宝の中身も決まれば、PV撮影もサクサク進む。

細かい流れも、リハーサルも終わり…………それで、僕達は現在……。


「……優しく優しく……」

「はい、そんな感じです」

「でもバウンド・ドック……いいねぇ、大きいねぇ……お嬢さん、スカートの中が丸見えだよーってかー!?」

「……春山さん、女性としてそれは……ヤナじゃありませんし」

「ヤナさんそんな感じなの!?」

「うんうん……舞宙さん、やっぱ一段手慣れているなぁ。恭文が手取り足取り教えたせいか?」

「割りとスパルタだったよー。自分で手を動かさなきゃ意味がないってね」

「言いそうだわ」


舞宙さんといちごさん、才華さんの三人について、ガンプラを一緒に作っていた……!

というか、僕とトオル、タツヤはこう、現地で知り合った子ども役的に出ることが決定……うっしゃあ! 巻き添えを出せたぞぉ!

まぁ僕、女装しているけどね! 沙羅さんが本当に……女の子用の袴を持ってきて、女装した上で組み立てて、それを撮影しているけどね!


まぁ救いがあるとすれば、自由に作っていいってところだよ! だからほぼほぼ自由時間だし!


……なお、僕はいちごさんについて、最近出た≪SDクロスシルエット クロスボーンガンダムX1≫を制作中。

才華さんは、トオルが付いて……これも最近出た新アイテム≪HGUC バウンド・ドック≫を……かなり大型のものだけど、制作中。

で、舞宙さんはトオルと一緒に、ガンダムダブルエックスを…………サテライトキャノンを、マジで乱射するつもりらしい。


まぁそっちには構っていられない。というかいちごさんが、ガンプラ初作成なのに割りと高難易度なことに挑んでいてー!


「……よっし、頭部はこれでOKっと」


いちごさんが頭部パーツと、アンテナ基部をかぽかぽと付け外し。なおこれ、純正品じゃない。

BB戦士 クロスボーンガンダムX2の頭部パーツを組み合わせて、ミキシングしているんだ。色はパープル気味の黒に塗装予定。

なおこの判断に、スタッフはもちろん才華さんも、舞宙さんもビックリ。名前通りの色合いかと思っていたそうで。


「合いとかは……また調整かなぁ」

「ですね。ただ、今のバランスでいいと思います。
あとはきちんと下地処理をすれば……黒って意外とへこみが目立ちますし」

「分かる。……あとは武装かぁ。
できれば遠距離からズドンって行けるのが……設計図も描いちゃおうかな」

「描きましょう。落書きレベルでもまとまりやすいですから」


じゃあスケッチブックも用意して、エンピツも用意してー。今だとスマホですらすらーってのもあるけど、手書きも楽しいのよ。


「でもこれでお前……記録に残るなぁ。その袴姿で」

「お兄様は晴れ舞台ですね」

「触れるな……!」

「……似合い過ぎて逆に触れられねぇよ」

「ほんと似合っているよね。体型もあるんだろうけど……」

「しー!」


いちごさんも触れないで! くそぉ……沙羅さんはこっちに、無言でサムズアップしているし! どうしてこうなった! どうしてこうなったー!


「……まぁさ」

「あ、はい」

「六:四くらいの割合で、仲良くするのは反対なんだよ」


……いちごさん、大胆ですね。今その話をするんですか。

とりあえず……撮影が止まらない程度に、にこやかに応対しておく。じゃないとほら、みんな気にするし。


「……どっちが、六でしょうかぁ」

「それはご想像にお任せするよ。
……できればドンパチしない方向とかは」

「戦うって決めていますし」

「正義の味方を張るから?」

「手を伸ばすことは、諦めたくないんです」


別に、一人で世界全部を救えるヒーローになるつもりはない。というか、さすがにそれは自分の限界を超えているし……舞宙さんにも言ったけどさ。

だから”これだけ”。まずはそこから……それでいこうと決めているのは、確かだから。


「…………なら、心配をかけた分、話してあげてほしい」


それも分かっていると……分かっていたと、いちごさんは呆れ気味にため息。


「まいさんね、サバサバしているように見えて……ちょっと傷つきやすいところがあるから。
両思いなら支えなきゃ駄目だよ?」

「……話して、いきたいです。
もう、ただ見上げて、憧れているだけじゃ……止まれないから」

「うん、それなら私も現状維持で納得できるよ」


それでいちごさんは、笑顔で僕の顔を覗き込んでくる。丸い瞳に、射貫かれるように見られて……ちょっと、心臓が高鳴る。

いや、ドキドキとかじゃなくて……なんとなく、嫌な予感が……。


「でさ、悪いんだけどしばらく私の彼氏になってくれない?」

「どういう話の流れですか……!?」

「いや、お願い……本当にお願い。実家のお父さん達がね、心配していて……もう彼氏がいるとか言わないと」

「PSAで頼れる人を紹介するので、そこは後でまた話しましょう……!」

「できるの!?」

「僕が彼氏って言うよりは説得力がありますよ!」

「…………なんの話をしているのかなー?」


あ、舞宙さんが……鋭い眼光を滾らせて! でも違う! 僕は被害者だから! そんな目で見ないでー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇一四年八月二六日

サツキ家別荘地下 バトルルーム



マーキュリーレヴをもらってから数日――その間にもイベントは盛りだくさん。

なんとかPV撮影も無事に終わり、ポプメロメンバーも落ち着きを取り戻す……暇もなく、合宿が本格化。

それでも毎日楽しくわいわい騒いで……そんな中で問題は、やっぱりタツヤだった。


同じ相手とバトルしているだけでは刺激が少ない。なので今回は僕がタツヤの相手。


「G-EZBW……スロットルも良好。スラスター周りの調整も成功か」


蒼い魔導師は、雪原を駆け抜ける――。


「でももっと先がある!」


なおタツヤのνガンダムヴレイブは武装を完成させているので、こちらの右翼を取り、併走するようにライフルを連射。

距離は三百……まだまだだと急停止。その際バックパックの純正太陽炉も煌めく粒子を放射し、機体をせき止めるように働きかける。


それが雪をかき乱すのを置き去りに、直ぐさま急転心。

雪のカーテンを突き抜けてくるビームはジグザグ軌道で回避。そのままボディを翻して……。


「GNヴァリアブルバズーカ」


レッドウォーリアのバズーカを参考に組み立てたメイン武装。可動アームによってバックパックにセットされたそれは動き、右腕の下に。

グリップを逆手で持ち、エネルギーチャージ。


「ビームセッティングはAPに変更」


……三秒ほどのチャージを経た上で、トリガーを引く。


「ファイア」


νガンダムヴレイブは丘陵に隠れるものの、それすら射貫く桃色のエネルギー砲弾が、雪をその土台ごと射貫く。

城と茶色の礫がνガンダムヴレイブに降りかかる中、山の斜面を利用して左へと大きく回り込む。


νガンダムヴレイブを見下ろす形となり、左手でコンソールを軽くセッティング。


「ヴァリアブルバズーカ、Bモードに設定……ファイア」


今度はBモード……実体弾が連続で三連射。ヴレイブの退避先へ置くように放たれた砲弾は、雪原を重く、深く穿つ。

二撃目でνガンダムヴレイブの足が止まり、反対方向へ加速。でもそこで三撃目の砲弾が着弾。


『……!』


雪が爆ぜ、ヴレイブ――タツヤの動きと思考はフリーズ。

そこを狙い、砲弾を更に連続発射。重たく強い砲弾はやや放物線を描きながら、ヴレイブを追い詰める。

それに気づいたヴレイブは跳躍。足下を通り過ぎる相談に構わず、こちらに連続射撃。ライフルのみならず、シールドのミサイルやビームキャノンも撃ってくる。


「GNヴァリアブルバズーカ、Eモード……長射程放射モードに設定」


チャージ時間は五秒……ミサイルは頭部バルカンで撃ち落とし、打ち込まれるビーム達はスラロームですり抜け……。


「ファイア」


左腕のシールドを構えながら、一瞬停止……その上で放つエネルギーの奔流。

ヴレイブは咄嗟にシールドで防御するものの、爆発によってそれは粉砕。ヴレイブ本体は……上手くシールドを斬り捨てたか。無傷で落下している。

でもバランスは崩れた。このまま押し込み……いや、まだか。


『く……ファンネル!』


ヴレイブのフィン・ファンネル六基が射出……左右非対称な翼≪フィン≫だったそれは分割。

細長い板となってから折れ曲がり、凹状の誘導兵器となる。


ただ……。


「…………渡り鳥だ」

≪えぇ≫


こちらへと向かうも速度が……軌道が安定しない。ぶっちゃけグラついている。


「オート操作なら、ここまでにならないんだけど……」


なので後退しながら、冷静に引き撃ち……二撃目のチャージはもう出来ている。


「……ファイア」


チャージされたGN粒子は、その瞬間天を斬り裂かんばかりに放射。それが右薙に振るわれる……というかギロチンバースト!

不安定ながらもメガ粒子砲として攻撃していたファンネル達は、放っていたビームごとそれに両断され、次々と爆散する。


『く……!』


すかさずそこでヴレイブのライフルから、光が走る。

ファンネルは囮で、こちらの直撃を……そう狙うのは悪くないけど。


「甘いよ」

左肩の追加スラスターが急速噴射。ライトグリーンの粒子を吐き出しながら、機体を半強制的にスライド移動させる。

それにより直撃コースだったビームは脇を抜けて、雪を地面ごと穿つのみ。


……これでもレッドウォーリアがモチーフだからね。あそこまで自由とは行かないけど、それなりに動いていけるんだよ。


『くそぉ!』


ヴレイブはそれでも負けじと、左手の予備サーベルをパージ。すかさず左手でキャッチ。踏み込み……右薙一閃。

こちらも負けじと、右腕に外付けされたビームサーベルを展開。レッドウォーリア原点に近いそれを振るい、つばぜり合いとする。


「ほんと、踏み込みが鋭いなぁ……!」


ガンプラが壊れることは恐れているだろうに、それでもと前に踏み込んでくる。でも……それは僕だって同じ!


「よっと!」


半時計回りに一回転……斬撃を受け流しつつ、ヴレイブの脇を取る。

一旦ビームサーベルを仕舞い、それがセットしたガントレット……電磁ナックルを主観チャージ。


「――!」


火花を走らせながら、νガンダムヴレイブの左脇腹に打撃。その瞬間、雪すらも溶ける前に漕がすような、電磁の嵐が巻き起こる。

……機動で舞い上がった雪が落ちていく数瞬の間に、緊迫した空気がこの狭い世界を支配する。


「……まだ続ける?」

『いや……僕の負けです』

≪バトルエンデッド≫


電撃によってνガンダムヴレイブの機能は停止し、ぐらりと崩れ落ちていた。

タツヤも素直に負けを認め、BATTLEは終了。コクピットや舞台を構築していた粒子は天井へと昇っていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、もう一戦……ガンプラを変えて、都市部でのバトル。

翼を羽ばたかせながら、腰に携えた烈旋丸を抜刀。vガンダムヴレイブのシールドを断ち切りながら一回転。

タツヤは素早く下がり、ビームライフルを連射……シールドは上手く外して、腕をガードしている。うん、技術と反応は上がっているね。


感心しながらも、光の翼≪閃光翼(ビームウイング)≫を羽ばたかせ、打ち込まれたビーム粒子を全て弾いてかき消す。

vガンダムヴレイブが左の路地に入り込むのを見て取った上で、地面に足を付け、一気に脱兎。

ビルを壁代わりに蹴りつけながら、走って退避するvガンダムヴレイブに追いついていく。


『ちぃ!』


打ち込まれたビームをジグザグに走ってすり抜け、足下狙いの一撃は跳躍で回避……そうして背後の太陽が、リアル体型を大きな影として映し出す。

そう……作っちゃったよ! リアル武者飛駆鳥! なにせ材料はV2ガンダムと武者飛駆鳥だけだから、一日で仕上がったよ!


(これなら、鋼鉄迦楼羅≪メタルガルーダ≫を使う必要はないかな……)


リアル体型だけど、鋼鉄迦楼羅との合体機能もきっちり搭載しているんだ。ビバネオジム磁石。


『当たれ当たれ当たれぇ!』

「分かってないねぇ……」


……烈旋丸を引き、平晴眼に構える。そのまま両足でコンクリを踏み締めながら……閃光翼を翻しつつ加速。

身を伏せ、一発目をやり過ごし、左へのステップで二発目は回避。

そこから左足を蹴り出し、ビル外壁を伝うように走りながら、三発目、四発目、五発目を置き去りにする。


『どこに』


距離が百メートルを切ったところで、ビル外壁を蹴って突撃。そのまま右回し蹴りでライフルを蹴り飛ばす。


『あ……!』

「射撃ってのは、当てるもんだよ」


そこからの刺突でタツヤを威嚇……vガンダムヴレイブは慌てて下がるも無意味だった。

地上戦……それもビルの合間にいるため、射出したフィンファンネルも自由に動けない。

結局上を取っての射撃しかできないのは分かっていたので、烈旋丸を鞘に収め、真正面から突撃……タツヤは咄嗟にビームサーベルを右手で抜刀して。


『その技は、もう見せてもらった!」


咄嗟にピンク色の刃をかざし、右薙に振るわれた一撃を受け止める。

ビル外壁という障害すらモノともせず、それを両断してなお勢いが衰えることなく迫っていた……烈旋丸を収めたままの、鞘を。

左逆手に持った鞘で打ち込んだ打撃は、ビームサーベルとせめぎ合い……その衝撃から、vガンダムヴレイブの身体を浮かせる。


『あ……』


そこから一気に抜刀……更に機体出力を烈旋丸に凝縮。

クリアパーツの刃は元々粒子を集めやすい性質があるようで、その特性も相まって、刃は太陽のように輝く。


「飛燕――」


鞘を引き、その反動も利用して袈裟斬り!


「竜巻返し!」


烈旋丸に込められた力が斬撃波として放たれ、それが渦巻く嵐となる。

vガンダムヴレイブはその嵐に飲み込まれ、天高く吹き飛び……爆炎に包まれる。


≪――バトルエンデッド≫


これで二度目のバトルも終了。うん、いい感じー。


「お兄様、お疲れ様でした」

「ありがと、シオン」


ひとまずリアル武者飛駆鳥と、使わなかった鋼鉄迦楼羅も回収……お疲れ様。また調整していくからね。


「そいつもだが、G-EZBWも調子がいいな。
思いつきだったが電磁ナックルも当たりだった」

「おかげで連戦も割りと簡単にできるしねー。でもまだまだ……もっと強くなれると思う」

「夢が広がるなぁ」


ヒカリは楽しげに笑いながら、脇を指差す。


「勝った……いや、でもタツヤ君が心配だし、これは……年上としてどうすれば」

「舞宙も楽しんでいるようだしな」

「ま、まぁね……」


そこには目をキラキラさせた舞宙さんが……! もうPVの撮影も終わって、ライブ合宿が始まっているはずなのに!

大丈夫なのかな! さすがに心配だから、軽く探りを入れようっと!


「また……負けた」


そして問題のタツヤは……向かい側でズンと沈み、両肩を落とす。


「今こそ私の胸で……さぁ!」

「ありがとうなぁ!」

「ぐべぇ!?」


……両手を広げたヤナさんへ、すかさず飛び蹴りが噛まされたのは……まぁ、負けん気が折れていない証拠としよう。


「まぁまぁ、落ち込むなって。
……どうも自分の『型』ってやつが見えてないっぽいなぁ」

「型?」

「それは僕も感じたかな。ようはらしさというか、ノリだよ。
これが得意、これがやりたい――それを押し通すノリ」

「ノリ!? そんな乱暴な!」

「あー、でもそうかもね」

「天原さん!?」


蹴られたヤナさんを誰も気にしない辺り、もう慣れっこな光景……ただそんな中、舞宙さんは少し真剣な顔をして。


「見ていて思ったけど……例えばトオル君なら、機動力を生かした突撃戦法が好きだよね」

「楽しいしな! イチバチなのも含めて!」

「例えば恭文君なら、実戦経験者としての技能を生かした戦術とか、心理戦とか」

「僕自身そっちでどうにかすることも多いですしね」

「もちろん剣術だってそう。さっきのも恭文君が抜刀術を得意とするから、構えて防ごうとしたけど……二手三手先を読まれたわけだ」

「……えぇ」


そう……さっきのはるろうに剣心の技。双龍閃のバリエーションである≪双龍閃・雷≫。

双龍閃は抜刀術で刀を打ち込んだ後、その隙を補うために逆手に持った鞘で追撃するという技。

これは逆に、鞘で初撃を受け止めさせ、二撃目を即座に抜刀した刀で打ち込むものだ。


飛天御剣流の技は、その全てが隙を生じぬ二段構え。先生も九頭龍閃とかできるし、実写映画も凄かったしで、僕もちょいちょい練習しているんだ。

それにリアル体系だと、SDではわりと長めなこの刀も……いや、やっぱり長物になるけどさ。でもわりかし振りやすいし。


「つまり二人は自分が得意なことや、やりたい戦い方が見えている。それが型だと思うんだ」

「僕の得意なこと……やりたいこと……」

「実際私やいちさん達声優だってそうだよ? うたう、ダンスをする、演技をする……簡単に纏められることだけど、表現できることは人それぞれ違う。
私なら……感情を押さえた冷静な役の方が演じやすいけど、はっちゃけた役がちょっと苦手。歌は音域を生かしたバラード系が好きとか」


それも型……そして声優さんな舞宙さんだからこそ、その言葉は重たい。

そういう表現で……型で認められて、ライブなんかの大きなチャンスを掴んだ人だもの。


「ただ、全く見えないわけじゃないと思うんだ。それならヴレイブっていうオリジナル設定を組み込むわけがないだろうし」

「……僕が、それを上手く……バトルや製作で表現できないだけ、なんでしょうか」

「多分ちょっとしたことだよ。でも、それがあるから自分の”歌”がうたえる」


少し考え込みながらも、タツヤもやや傷ついたファンネルやシールド、νガンダムヴレイブを優しく手に持つ。


「僕の型……僕のやりたいこと……ヴレイブで表現したいもの……」

「……ごめん。かえって迷わせちゃったかな」

「あ、いえ! むしろ助かりました。こう、壁がハッキリ見えたというか……」

「……そういや、その壁と関係あるかどうか分かんないけどさ」

「トオル?」

「この間やったマーキュリーレヴ、あれはどうだ」


そこで思い出すのは、トオルがくれたオリジナル武装。実は今までのバトルでも使っていなかったんだけど……。


「あぁ、あれは」

「あれなら実は」

「凄すぎですぅ!」


僕達の声を遮り、倒れていたはずのヤナさんが前に出る。

目をキラキラさせながら、遠慮なく言葉を遮ってきて……!


「ガンユニットとソードユニットは自在に分離・合体可能!
しかも合計十種の武器が使えるなんて! まさに武器の宝石箱!」

「宝石箱っていうか、十徳ナイフからヒントを得たんだけどなー」

「納得です!」

「え、十種……!? あの小さい中にですか!」

「はいー! トオル様が言うように、十徳ナイフ的に折りたたまれていて……でもどうなさったんですか、あの武器は。
どう見てもプラモ工場かなにかで作られたような……」

「そうそう、そこが気になっていたんだよ」


……実はそれが気になって、一度分解して、パーツ構成を確かめて……なんてこともしていたしね。

でも今まで聞く機会がなかなかなくてー。PV撮影の手伝いやらもあったしさ。


「あぁ、それなら……金型から作った」

「…………ちょ、恭文君……!」

「……マジか……!」

「え、トオル様、金型というと……あの、金型ですか!
金属で、今だとコンピュータでガリガリって調整して……それでも最後は手作業で職人さんが細かくやる、あの金型!」

「その金型だ」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」


嘘でしょお! いや、確かに工業的で、手作り感全くなかったけど!

それでもなにかこう、レジン的なので複製とか思っていたら……金型ぁ?!


「と言っても、十個作っただけで金型が割れちゃったんだけどさー。
だから十個限定の、オレ達用パーツ」

「いや、割れちゃったって……金型がですかぁ!?」

「あんま言っちゃいけないんだろうけど……サツキカンパニーすげぇ!」

「あの、恭文くん……ヤナさんも、説明を要求します!」

「あ、私もー」


あ、ふーちゃんとフィアッセさんが……そっか、二人には話してなかったっけ。舞宙さんにはパーツを買いだししたとき、お話していたんだけど。


「というか、済まない……僕もちょっと……」


タツヤも……分かるわけがないかー! 素人さんから抜け出そうかって最中だし!

なら、相当ショックを受けるかもしれないので……ヤナさんと視線を合わせ、頷き合い、冷静に……三人に話していく。


「まぁ、すっごく簡単に説明しますと……」

「「「うん……」」」

「金型というのは、プラモを作る際に利用する道具。そこに溶けたプラスチックを流し込み、形作るわけです。
なおこちら、今言った通り作るのに相当な手間暇がかかるので……一つ”数百万”以上します」


そこで、予想通りに凍り付く世界……しかしそれは、マグマのような震撼によって砕け、再び動き出す。


「「「――――数百万!?」」」

「らしいんだよね……。あたしといちさん達も腰抜かしかけたし」

「プラモデルの価格が高くなる要因の一つですよ……。
金型の生産コストを取り戻せるくらいの売り上げがないと、経営も成り立たないから。もちろん維持費だって相応にかかる」

「本来なら大量生産用のものですしね。それを個人で作って、たった十個と言えど運用した……。
トオル様というか、サツキカンパニーがどれだけ凄いことかは、もう察してもらえるかと」

「で、でも恭文くん……ガンプラはほら、千円とか二千円で! いや、私のビッグガン付きは三千円以上していたけど! でも安いよ!?」

「それだけの価格で売れることそのものが、プラモ業界では一つのイレギュラーなんですよ」


フィアッセさんの気持ちも分かる……よく分かる! でもね、前提が違うの! 本当に違うの!


「ガンプラ……引いてはガンダムの商業的価値とブランド力があって、初めて成せる価格です」

「……それだけの……大量生産でのコスト削減が半端ないから、ああいう価格にできる?」

「でも最近はまた状況が違うんだよね。艦隊これくしょんやガールズ&パンツァーのヒットで、そういう模型も売れ行きがグンと上がったし」

「あぁ……そっちもありましたね」

「舞宙ちゃん、そういうのは詳しいんだ」

「ガルパンはモブとして、艦隊これくしょんはまた別な感じで出ていて……お話をいろいろ聞ける機会があったんです」

「納得したよー」


うん、そこも舞宙さんが言う通りだよ。そもそもそっち系統って、なかなか敷居が高い部分もあってね? 価格帯は一つの要因に過ぎないんだ。

ただ、それを砕いたのがガルパンや艦これのヒット。小スケールならコレクション性もあるし、作るのも簡単だからってことで結構売れているみたい。


「でも……いきなりガンプラ並みって感じにはならないんだよね」

「技術革新は続いていますけど、なかなかですね。
でもトオル、今なら3Dプリンタもあったろうに……」

「そっちより手っ取り早かったんだよー」

「どうしてそうなったのかが凄く疑問だよ……!」

「…………今僕は、世界の深淵をのぞき見た」


……って、その前にタツヤだ! タツヤがショックで変なものに目覚めてるー! 駄目だ駄目だ、落ち着かせないと!


「タツヤ、落ち着いて! 僕もビビっているけど、それはヤバい覚醒だから!」

「で、でも……友情というかこれは、むしろ義兄弟……家族の契りではぁ!」

「そこまで重たくなるのは、オレも予想外だけど!」

「だったら予想して然るべきだったと思うよ!? 僕だってあんまりに凄いから使うのももったいなくて」

「いいっていいって! むしろ活躍させてくれた方が、オレも嬉しいし!」

「現在、パーツ単位で大量複製中だもの!」


そこで宥めるように手を振っていたトオルがズッコけ……タツヤ達と一緒に詰め寄ってくる。


「「「複製!?」」」

「え、恭文君……そんなことしていたの!?」

「……えぇ、していたんです。コッソリと」

「バトルで壊れることもあるだろうし、予備は必要だって言ってねー」

「それがこちらになります」


どこからともなくパーツボックスを取り出し開くと……全パーツがしっかり区分け。更に一つにつき三十個以上が詰め込まれていた。


「マジかよ……! 一体いつこんなに作ったんだ!」

「おかしい……朝は私やフィアッセさん達とお散歩して! お昼はちょいちょい私やいちさん達とも食べて! 夜はこうして楽しんでさ!
それでいつこんな暇が!? というか、ガンプラのパーツってこんなほいほい複製できるのかな! え、3Dプリンタ!?」

「そこはあれです、鶴が機織りするが如く」


両手をバッサバッサ――するとトオルは一瞬呆ける者の、腹を抱えて大笑い。


「あはは、それ面白いなー! 恩返しにガンプラ作ってくれる鶴かー!」

「なのでトオル、恩返しにおすそ分けを」

「ありがと!」

「まるでわらしべ長者だな。
いや、それがガンプラというのも聞いたことはないが」

「現代おとぎ話ですねー」


というわけでタツヤとトオルにも十五セットずつプレゼント。……え、僕の分?

大丈夫、これはブレイクハウトで物質変換したものだから。もちろん秘密だけどね、うん。


「でもこれだけあるなら……恭文、そのコピーって、フィアッセさんや風花、舞宙さん達に渡すのも」

「大丈夫だよー。既に増産体制は取れている」

「ほんとどうやってだよ! でもライセンス契約はするからな! 書面をしたためるからな!」

「もちろん」

「ビジネスの話になっている……!」

「まぁまぁ風花様、著作権は大事ですよ」

「いや、それでも……そんな大事なものを、恭文くん達にくれたなんて! 複製して台なしになったけど!」


ふーちゃん、そこについては後で話そうか。ほら、やっぱり保全とかって大事だと思うしさ。


「いいっていいって。前にも一個あげているから」

「あげているの!?」

「だから友情の証なんだ」


なんという気前……もしかしてあれかな、以前話していた『バトルが上手い奴』にとか。

……まぁその辺りの話はいいでしょ。トオルは別の事が気になっているようだし。


「………………」


タツヤは右手に取り出したマーキュリーレヴを見て、考えこむような顔をしていた。


「なぁタツヤ、もうすぐ夏休みも終わりだろ」


だからタツヤに声をかける。視線の先にあるのは、やっぱりマーキュリーレヴ。


「その前に最後の一勝負といかないか? そのマーキュリーレヴを使って」

「で、でも」

「せっかくやったんだ、最後くらい使おうぜ。
――それで忘れられないバトルにする!」


…………僕達は笑顔で見守るのみ。

なぜトオルがタツヤだけにそう言い出したのか、その意味は今までの中で説明されているから。

そして、それを察していけないタツヤじゃない。


「……分かった」


戸惑うタツヤはマーキュリーレヴを見つめ苦笑。握り締めながらガッツポーズを取る。


「望むところだ!」

「よし、決まりだ! じゃあ三日後に」


トオルが左拳をかざすと。


「約束だぜ!」

「あぁ!」


タツヤも笑顔で応え、マーキュリーレヴを持ったままな右拳をコツンとぶつけた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その日の夜――少し迷いが出て、勝負の事はさて置き散歩に出た。


νガンダムヴレイブの修復は既に完了。

もう、この数日負けに負けまくっているから……これも勉強だと納得しているが、修理に慣れてしまっている自分が恐ろしい。

少し前までは、ガンプラの『ガ』の字も知らなかったというのに。


しかしどうしたものかと、悩みながら林道を歩く。


「僕の、型かぁ」


天原さんの話、正直ハッとさせられた。


思えばトオルには……サテライトストライカーを代表するように、柔軟な発想がある。

実際かなり出てきたんだよ。ノワールストライカー装備とか……これは原作にもあったそうだが。

あとはあれだ、ドラゴンハングという別作品の装備をくっつけたストライカーとか。


そして最初のバトルでもそうだが、どんどん前に出てペースを掴んでいこうとする。それが突撃戦法でトオルの『ノリ』。

恭文さんなら……忍者資格を持っているからか、やたらと戦い方が上手い。

攻撃や回避の一つ一つで罠を張ってくるんだ。無駄に見える行動も、必要な戦術である場合が多い。


例えば今日なら、その場で回転とか……あれで雪が舞い上げられ、一瞬恭文さんを見失う。

そこから離脱されると、レーダー頼みでもすぐに捉えることが難しい。雪上戦用のマントも羽織っていたしね。

……でもそれすら布石。僕が回避先を読んで射撃したら、それも織り込み済みで突っ込んできた。そうして一気に制圧される。


あとは工作も……そうだそうだ、確かにその『ノリ』に合わせたものだ。奇抜な装備があるわけじゃないのに、不思議だ。


あ、だが作り方は独特らしいな。エアブラシなど使わず、筆塗装でさっと仕上げてくる。

トオル曰く塗装の基本は、薄く均一な塗膜を作ることらしい。だがそれでは出せない味や効果もある。


「……作り方もノリを高めるものなのか。なら僕は」


……いや、一つ分かったことがある。


「……僕にファンネルは合わない…………!」


今日なんてまだいい方だ。誤射で自分を撃墜した事もあるし、渡り鳥のようにフィールドを駆け巡った事もある。

オート操作だというのに……! 渡り鳥となった時は、トオルもハトが豆鉄砲を食ったような顔だった。

なんていうか、あれだ。地に足がついていない感じがどうも。


(やっぱりトオルは、それを見抜いてマーキュリーレヴを?)


だったら、余計に気張らなくては。この夏で学んだ事の全てを……そこで肩に衝撃。

「あ……!」


慌てて右側を見ると、パーカーを羽織った子とぶつかってしまっていた。顔はよく見えない。


「ご、ごめん。考え事を」


そのまま通り過ぎるその子が、こちらをちらりと見る。


「――!」


……それで寒気に震えてしまった。

暗夜のせいで顔はよく見えないが、鋭い眼光が突きつけられた。まるで、殺してやると言わんばかりに。

それでなにも言えなくなり、そのまま去っていくパーカーな子を見送ることしかできなかった。


「…………」


更に背後から物音。ホラー映画の主人公みたいな気分だったので、らしくもなく体がビクつく。

恐る恐る振り返ると……ヤナがそこにいた。どういうわけか、服が葉などにまみれて汚れていたが。


「ヤナ……!」

「やっと見つけたー。駄目ですよ、お坊ちゃま。夜に一人で出歩いちゃ……舞宙様だって、恭文様が常時付き添っているのに」

「ちょっと夜風に当たりたくて……というかお前、もうちょっと普通に登場しろ! クマかと思ったぞ!」

「クマァ!?」


失礼とは言わないでほしい。スーパーモデルだからな、身長だけなら十分クマだ。

ただ……変わらないヤナの笑顔で、さっき感じた妙な寒気はすっかり消えてしまっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


林道から出て、家への道を戻る。その途中にある、芝生の坂に寝転んで月を見上げた。

今日は満月……とても奇麗に見える。僕の心はやや雲がかかっているというのに。


「トオル様とのバトル、気掛かりなんですか」

「……確かにマーキュリーレヴは凄い武器だ。でも、今の僕には難しすぎる」


だから、だろうか。

ふだんなら言わないような弱音を、吐いてしまったのは。


「ねぇヤナ、ガンプラ、どうすれば上手くなるかな」

「好きならきっと上手くなりますよ」

「好きなだけじゃ」


つい声を荒げながら起き上がり、左隣のヤナへ振り向く。


「越えられない壁もあるよ! 相手だって好きなんだから!」

「……そうですね」


今日のことで感じた。天原さんの言葉で、本当に目が覚める思いだった。

好きだけど……それだけじゃ伝えられないことがある。このままは嫌だって、思う自分がいる。

どうしてかは分からない。だけど、その熱を大切にしたいと……そう思う自分がいるんだ……!


「では何事も、基礎からしっかりやるという感じでしょうか」

「基礎から?」

「好きだということ――そして堅実な努力はきっとあなたの力になります。例え今は届かなくても、いつかは大きな財産になる。
だから焦らず、しっかりとゆっくり。好きな気持ちは忘れず……全身全力で」

「……なんだよ」


ヤナの言葉になにかがストンと落ちた。


あぁ、そうか。僕は……ガンプラが好きなんだ。

だから今、『相手だって』と。それならと空を見上げた。


「なんの解決にもならないじゃないか、それ」

「そうかもしれませんね」

「でも……それなら僕の性分に合いそうだ」


立ち上がり、少し驚いた様子のヤナを見下ろ……せない。彼女は座高も高いため、それほど差がないように感じるのが悲しい。


「ありがとうヤナ、少し見えた気がする」

「えぇ。楽しみにしてますよ」


ヤナの笑顔に後押しされ、早速準備開始。

夜遅くではあるから、まずはネットで下調べ。その後は……よし!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日――タツヤが方向性を迷っているように感じていたけど、心配はなかった。


「「スケールモデル!?」」


朝食の場で僕とトオルは驚かされることになった。タツヤは問題なしと言わんばかりに、オムレツを奇麗に切り分ける。


「恭文くん、スケールモデルって……」

「戦車とか、飛行機とか、車とか……実在物の模型だよ」

「あ、なるほど……って、ガンプラじゃなくて!? 勝負は三日後なのに!」

「……なにか作戦ありって感じ?」

「ひとまず、やってみたいことができたので」

「そっかー」


フィアッセさんが少し心配そうに声を漏らすけど、すぐに思い違いと思い直し、タツヤの……どこか吹っ切れた表情を温かく見守る。


「でもまた、面白いことやりだしたなぁ……!」

「その種明かしも、当日のお楽しみだ」

「あぁ! 約束だ!」


トオルの問いかけに、タツヤは自信満々に笑う。そこにはもう、昨日までの迷いはなかった。

結果はどうあれ、何かを試したい……やりたいことがあると、叫ぶような迫力があって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ことの起こりは、犬飼建設大臣のお孫さんが……国土交通省幹部の子どもが誘拐されたこと。

当然送り迎えなどお付きの人もいたけど、その隙を塗っての強行。ただ、大臣サイドは当初それを認めなかった。

事態を穏便に済ませるため、要求に応じるためだ。誘拐された子どもは病気療養中ともしていた。


でも通院形跡はなく、周辺の目撃例もない。その他幾つかの理由から、事件発生は間違いない。


……それを察したのが、警視庁公安部。


まぁなぜ察したかなんて話は、この際置いておこう。間違いなく発覚段階前から……日常的に大臣宅の通話監視をしていたのだろうから。

無論それは非道であり違法。裁判所の許可も、国民への通知もされていないのだから。

……しかし公安が相手取るのは、”それくらいやらないと出し抜けない高度犯罪者”。ゆえにこういう凶悪犯罪を事前察知もできる。


なお、大臣が……国土交通省幹部である祖父や親が、犯人グループの要求を鵜呑みにしたことについては、疑問も残った。

それについては犯人グループが誘拐直後、大臣一家の生活をかなり高度に、綿密に監視していると警告し、証拠を示したとされている。

大臣一家が屈服し、警察への通報を躊躇うほどの何かを――。


そこまでくると、もはや大臣や幹部周辺に内通者がいるとすら推測される。その内通者の正体次第では、国益を脅かす事態になりかねない。

単なる金目的の営利誘拐なら可愛い方。大臣を揺さぶって、政治的アクションを狙った犯行なら……背後関係はかなり複雑だ。

TOKYO WARのようなことも含めると、ライバル政治家か、または海外の……国際情勢すら動かす目的の行動か。


公安としてもただ座して見守るわけにも行かず、事件に対処を開始。

脅迫内用・要求が一切不明な上、内通者の水準がかなり高いと予測されるため、ただ一室のみの専属対応が決定された。


それが公安・第七資料室……秘密警察の疑いもあるほどの強行部隊だ。

しかも事件が表沙汰になった場合、下手をすればある種の政変が巻き起こり、安定し始めた市民生活にも多大な影響を及ぼしかねない。

だからこそ内密に、極秘裏に捜査を進められ……公安は海外も含めて目を光らせる。


……そのうちの一つに引っかかったのが、最近大臣に陳情してきた環境保護団体関連。

その中でも、新聞で騒ぎになっていた雛見沢ダム建設反対運動の団体……鬼ヶ淵同盟だった。

そこの首魁は、雛見沢という村大地主でもある園崎家。地元の極道をバックにも持ち、地元公安にも目を付けられている危険団体。


それも当然……園崎一族には、市議会議員や商店を営む者も多く、至る所に園崎の人間が、目がある。

雛見沢村がある鹿骨市を政治的・経済的に支えているのは事実だが、同時に屋台骨として近隣を牛耳っているとも言える。

その園崎の暗部……闇の戦力と言えるのが、件の極道≪園崎組≫。それが主導で、過激に国の建設事業を邪魔しているとなれば、目を付けられない方がおかしい。


当然村人もそれに逆らえない。現在の頭首である園崎お魎も相応に苛烈で、人の意見を聞かない……鬼婆でもあるから。

あくまでも可能性の一つ……人海戦術的に調べた意図の一つではあったが、結果そこで、犯人一味と大臣の孫を発見。

犯人一味は取り逃したものの、大臣の孫は無事に確保。雛見沢ダム建設も撤回され、事件は無事に解決した。


……そう、そこのダム建設は撤回された。だからこうも疑える。

ダム建設を撤回させるため、建設大臣の孫を誘拐・脅迫したのではないかと。

ただ今のところさしたる証拠もなく、園崎という危険分子を公安もマークし続けるだけ。


それでひとまずの穏を取り戻して…………というのが事件のあらましだった。

TOKYO WARもそうだが、そんな事件の直後に”これ”なので、万が一を防ぐ意味合いから私や蒼凪君も派遣された。

実は親元であるユウキ塗料とサツキカンパニーには、少々乱れた動きが見えた。


問題はそこに、一つ……首輪を付けた猫二匹に、地元のボス猫が絡んできたことだろうか。


「……」


蒼凪君は今も、友人として二人の身辺を守ってくれている。おかげで私もこの異常の監視に集中できる。

だが手遅れでもあった。このまま行けばユウキ塗料……タツヤさんのお父上は……それを見過ごすかどうか迷ったが、すぐに首を振る。


「諦めましょう」


えぇ、諦めましょう。人間割り切りは肝腎です。手遅れは認め、受け入れるしかない。

私の手も、蒼凪君やタツヤさん達子どもとさほど変わらない。第一種忍者だからと言って……大人だからと言って、この腕では無限に届かない。

ただあの子達より、ほんの十数センチ大きいだけ。ただあの子達より、届かないときの飲み込み方を知っているだけ。


だから納得はしよう。経済的影響も考えれば、派手な制裁を加えることは躊躇われる。

TOKYO WARの影響による経済不振も起こり始めているのだから。


…………でも、それはあくまでも『手遅れ』を認めただけ。

あなた達だけが一人勝ちで、無関係な顔を装い、勝利者を気取ることだけはさせない。

一人の人間としても……ライセンスを預かる忍者としても。


――我々を舐めてくれたツケは、臓物を引きずり出すが如く払わせる――!


(その7へ続く)






あとがき

恭文「というわけで、お待たせしました軽井沢編第6話。実は間のお話もあるけど、それはまたいずれ。
……というか、歌織を出す余裕もなさそうだから、そっちからポンと短編的に出そう」

歌織「……恭文くん、私とのことは遊びだったの?」

恭文「言葉が重たいよ! というかというか、それよりもだよ! 鬼滅コラボだよ! 日輪刀を手にしたぞー!」

歌織「また目をキラキラさせて……凄い異常事態だけど」


(そう、異常事態です。こう……なんかヤバいことがヤバい感じでヤバく起こっている)


歌織「それは意味が分からないです……」

恭文「ネタバレもあれだしねー。とりあえず善逸というか、下野紘さんのツッコミ叫びを堪能できる素晴らしいイベントということで」

古鉄≪セリフの七割がツッコミじゃないですか? あの人≫

善逸「だってツッコミどころしかないもの、この人達! というかこの世界! というかその前に戦って! なんかワラワラ迫っているからぁ!」


(そう……異常事態です。だからこそ現在戦闘中です)


恭文「仕方ないなぁ……ふん」


(蒼い古き鉄、指二本をくんと立てた……その瞬間、衝撃波が走り、周囲数キロは敵ごと粉砕された)


善逸「されないよ! というか、されたらこっちも無事じゃ済まないからぁ!」

恭文「それもそっか……しのぶさんに傷でも付けたら大変だ」

善逸「なにそのレディファースト! いや、大事だけど! そういうの大事だけど!」

しのぶ「……恭文くんはお嫁さんを増やしたいんでしょうか。だから私の胸ばっかり見て……全開過ぎて笑うしかありませんねー」

恭文「見ていないー!」

カレン「いや、見ていたから。あたしのときと同じ感じ」

しのぶ「ほらー。やっぱりそうじゃないですか。柱の洞察力を甘く見てはいけませんよ」

恭文(INNOCENT)「…………守護らなくては……この魂が原作通りにとか……いや、でも名作ゆえに……あぁあぁあぁああぁぁ!」

恭文(ホライゾン)「僕達は、どうすれば…………」

愛海「救済したい……しかし、しかし、しかし…………!」

恭文「……気持ちは分かるけど、凄く分かるけど、落ち着こうね?」

敵「あの…………そろそろ、戦っていただいてもよろしいでしょうか」

恭文「あぁごめんね! あと三〇分……いや、一五分待って!」

敵「あ、はい」

善逸「その馴れ合いはアリなの!? というか、もう滅茶苦茶だよぉ!」


(蒼い古き鉄、ちびっ子どもをどうやって諫めようかと、頭を痛めていた。
本日のED:LiSA『炎』)


しのぶ「……なんでしょう、この子達。私の胸に対して余りに熱を入れすぎでは。将来が心配になるんですけど」

富岡「あの年頃ならそういうものだ」

しのぶ「富岡さん、そういうのっていろいろ無配慮がすぎますよ? そんなだからみんなに嫌われるんですよ」

富岡「……俺は」

忍「嫌われてない以外でお願いします」

富岡「………………」

恭文「…………富岡さん……」


(おしまい)






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