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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第59.5話 『類は友を呼び、刻まれた傷は一生癒えず、そして新たな恐怖はここに生まれるんだなぁ』




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第59.5話 『類は友を呼び、刻まれた傷は一生癒えず、そして新たな恐怖はここに生まれるんだなぁ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七十五年(二〇一四年)九月二七日

GPO・パーペチュアル分署



あのドタバタも無事に終わり……私、結局EMP砲弾を一発、ポータブルキャノンでぶっ放しただけで終わったけど、まぁそれはよしとして、GPOにも日常が戻ってきた。

まだまだ世界的な厳戒態勢は変わらないけど、それでも少しずつ……未来に向かって、またみんな動き出していて。ヤスフミも高校復帰できて楽しそうだし。

……いえ、違うわね。TrySailさんのライブには予定通り行けて、凄く楽しんでいたって……ヒロリスさん達が教えてくれたもの。もういい笑顔だったって。というか、今日も行くって言っていたもの。


舞宙ちゃん達とも仲良しだって言うし、また……暇を見つけてチェックしてみようかしら。いや、実は去年のドタバタでも言っていたのよ。


――絶対解決するに決まっているでしょ――

――ヤスフミ……――

――なにせ秋になったら、またTrySailさんのライブがあるし! それで……目立たないように……幽霊と思われないように応援するんだ……!――

――…………はい……!?――

――そうですね。お兄様はお気に入りの雨宮天さんに、お気に入りの青いペンライトを振って楽しむといいです。……私には振ってくれないのに――

――いや、お前に振ったら撲殺だろ。つーか粉砕だろ――

――あとはご飯だな! ライブ会場近くで美味しいところ、きっとあるだろうしな! がっつり食べるぞー!――


あのときほど、我欲の強さを思い知ったことはないわ。それで本当に乗り切っちゃうもの。というか、あの理由で悉く叩きつぶされた公女やオーギュスト達が不憫というか。

……でも結局怪我や入院期間なんかで、行けなかったのよね。ショウタロスくん達も……ゆりかごに戻っていったし。


というか、思い出しちゃって……さすがに直後は行けなかった。みんながいて、そういう話をして、約束したことを。

ヤスフミが患っている発達障害……ASDの傾向。いろんな形で記憶が紐付けられて、ふとした瞬間にフラッシュバックするそうなの。

この話で言うと、もう会えないショウタロスくん達とした約束が……みんなと一緒にいた楽しいときの記憶が、ライブやTrySailさんのことでぐいっと引っ張られ、思い出す。

もちろん嫌な記憶も似た流れで……まるでネットで次のページ、次のページと見ていって、止まらないようにね。しかも集中力が暴走して、それに突き進んでしまうときもある。


まぁショウタロスくん達とのことは、別に嫌なことではないけど……でも、相応に衝撃があった直後だったから。それも一年かけて、なんとか乗り越えたわけで。

それは私もそうだし、サクヤやアンジェラ……ナナちゃんも安心している。というか、みんな安心しているの。


まだ振り切ったとは言えないけど、それでも……会えなくても一緒にいる時間を、少しずつ進んでいるんだって。

だから、そんなヤスフミに一つの朗報を送るべく……私とアンジェラ、補佐官、ランディが中心で、あるお仕事を進めていて。


それは今回の件で改めて縁故を持った、アコース査察官の協力もあり……今日、なんとか形にすることができて。


『――――お待たせして申し訳ありませんでした。
管理局保護プログラム法で保護されていた、アレクシス・カラバ・ブランシェ、安否確認に成功しました』

「そうですか……。アコース査察官、お手間を取らせてしまって、申し訳ありませんでした」

『いえ。査察部的な優先順位も納得していただけましたし、そちらの調査資料にも随分助けられましたから。というか……』

『えへへへ……アンジェラも頑張ったよー♪ シルビィ、ランディ、ほさかん、褒めて褒めて−!』

「えぇ。アンジェラ……本当にありがとう」


アコース査察官とアンジェラの返答には、オフィスの一角で……三人揃ってほっとさせられる。



「というか、大丈夫? アコース査察官達にご迷惑とかは……主に食費的に」

『むー! ランディはひどいのだ。アンジェラはもう大人なれでぃ……だから、問題ないのだー』

『アレクシス公子だけでなく、他のこともたくさん手伝ってくれたしね。うん、もう大助かり…………食費以外は』

「……ですよねー」

『あ、それでね、アンジェラはもうちょっとヴェロッサやみんなのこと、お手伝いしたいんだけど……大丈夫かなー』

『こちらからも、改めて正式に要請をした上での話にしたいと思っています。とにかくアンジェラのフィールドワーク能力には助けられっぱなしでして』

「今のところパーペチュアル……というか、シープクレストも大きな事件・事故は起こっていませんし、問題はありません。
なのでまぁ、その辺りはまた要請を通して話し合うということで」

『よろしくお願いします。フジタ補佐官』


……そう、ヤスフミの心配事……この事件へ本気の踏み込みを見せた理由の一つが、ヴェートル事件で私達が関わったアレク君。

親和力という遺伝性のレアスキルを持ち、現在はそれを封印し、一般人として管理局の保護プログラム内で暮らしているはずのあの子。

ただ、スカリエッティ絡みの事件がああいう形で大きく進展したことで、その保護プログラムそのものにも疑いの目が出てきて……ヤスフミだけじゃない。私達にとってもあの子の安否確認は急務だった。


私達がヴェートルで解決した事件で、今後を信じて管理局に預けたのに……その結果スカリエッティのモルモットにされていたなんて、笑えないもの。

ただ、現在本局査察部はその辺りの精査で大忙し。なにせ保護プログラムが必要だったのは、アレク君だけじゃないから……そこでフリーランスでもあるアンジェラを派遣した。

アンジェラは精神年齢こそ幼いけど、実は足を使ったフィールドワークも大得意。戦闘用バイオロイドとしての研ぎ澄まされた感覚による危険察知や、動物との対話による変則的広域捜査もできるから。


安否確認となると、どうしてもデスク上での仕事だけは限界がある。相応の戦闘力もあるアンジェラを派遣することは、査察部にも旨みがあるし、私達も一国も早くアレク君を見つけることができる。

まぁいろいろグレーゾーンを……いつも通りに突っ走りつつ、アコース査察官を顔役にお願いしたところ……なんとか成果は上げられたということで。


ううん、想定以上かも。だってそこまでアンジェラの力が求められているんだもの。お姉さんとしても鼻が高いです。

……ただ、ここからは……そういう感情は一旦封じて、冷静に……一人の捜査官として確認を取る。


「それでアンジェラ、公子は……アレク君は無事なの?」

「「……」」


その問いかけで、補佐官も、ランディも一気に表情を引き締める。

……まずスカリエッティ達のアジトにはいなかった。ここは間違いない。ヤスフミが直々に尋問したし。


――さてセイン、だったか……アレクはどこだ――

――いや、知らない……というかそれだ……ぎがやあぁああああぁ! 腕ぇ! 腕……やめてぇ! そんなことしたら千切れるからぁ!――

――スカリエッティ、アレクはどこだ。なお答えないと、どうなるかは……分かるよね――

――分かった! 答える! だがここにはいない! というか、そもそも私達の管理下にはいない!
本当だ! そこは記録を見てくれれば――

――キャロみたいな幼女まで(ぴー)したクソ野郎どものことを、信じられると? 寝言は寝てから言え……!――

――それはえん罪じゃないかぁ! 私は……童貞なんだよ! 君と違ってハーレムできる器量はないんだぁ!――

――はいはい、ヤスフミもストップよ! というかそれ、尋問じゃなくて拷問よ! あと自然と取り出した釘とかろうそくも置いて!――


――今更だけど、ヤスフミがアジト内に飛び込まなかった理由がよく分かったわ。多分自分で理解していたのよ。冷静に対処できないし、スカリエッティ達も殺しかねないって。

とにかくそんな自重から、ヤスフミも今回の捜索については、全部私達やアコース査察官達に預けてくれた。スバルちゃん達を守るための取引絡みで、しばらく表立って動けないのもあるんだけどね。

だから、ここからだ。見つかった……それは嬉しい。だけど今どうなっているかが問題よ。


もしも、スカリエッティ……ううん、それ以外の暗部によって、何らかの危害が加えられていたら……!


『実はですね、そこなんですが……』

『――みなさん、お久しぶりです』


そこで脇からひょこっと顔を出したのは……帽子とめがねをかぶった男の子。

あのクリーム色の髪は黒に染めているけど、一瞬で分かる。だから……変装を解いて、ぺこりとお辞儀する男の子に、つい頬が緩んで。


「アレク君!」

「アレクシス公子……いや、アレクシス、無事だったか」

『おかげさまで。えっと……僕はあれからずっとヴァイゼンの方で学生として暮らしていまして。保護プログラムの監督官さんもとの面会がある程度で、特に変わったこともなく……』

『それはこちらの調査でも裏付けが取れていますよ。どうも親和力のキャンセラーがあることと、アルパトス公女を確保していることで、あまり優先的なものとして見られなかったみたいで。
……今は身辺調査も兼ねて、ヴェートルの中央本部に来てもらっていますけど……もう一両日中には家にも戻れます』

「そうだったんですか……。なら、アンジェラもそこは」

『ん、間違いないよ! アレクは本物……偽者とかじゃない! アンジェラと、恭文と……みんなで仲良しになったアレクなのだー♪』


アンジェラは嬉しそうにアレク君へ抱きつき……アレク君は少し困りながらも、笑顔でそれを受け止める。

その姿が、本当に安心して……つい瞳から雫がこぼれかけてしまう。


……これで、いい報告ができそうね。えぇ、一つ……まずは一つ、大きな山を越えたんだから。


『それで、恭文さんもその…………変わらずに…………派手に暴れていると…………!』


ただ、そんな涙が引っ込むほどに、アレク君は半笑い。さすがに核ミサイルを斬って止めるとか、狂言爆弾の件は受け入れがたいみたい。

えぇ、言葉は濁しているけど、聞いていることは理解したわ。もうね、私達と同じ顔だもの。


「そこはもう、相変わらずだ……」

「ショウタロス君達から託されたものもあるもの。止まってなんていられないわよ」

『託された……いや、そうでしたね。みんな、恭文さんの中に……』

「でもだいぶ元気になったのよ? 去年は行かなかったTrySailさんのライブ、行けるようになったんだから」

『あははは、そういえば好きでしたよね。実は僕もあれから、いろいろ聴くようになって……』

「そうなの!?」


これはまた……ヤスフミが聞いたらはしゃぐわね。本当に大好きだから………………そこで、つい止まってしまう。

聞いたら、かぁ。でもそれは、二人が会うということで。その辺りは……やっぱり。


「アコース査察官、蒼凪がそちらに伺うことは、やはり」

『少々難しいでしょうね。なにせ恭文も今回は、局の政治中枢へ相応の打撃を与えています。
まぁそれを言えばアンジェラもアウトなんですが……偽者に入れ替わっている可能性もあった故の救済処置ということで見逃されていますし』

「ですね……」

「そこは蒼凪さんも割り切っていたけど、なかなか……ですか。シルビィ姉さん」

「私達も割り切るしかないわよ。それで保護プログラムを台無しにしてもアウトだし」


そこは、ヤスフミにも確認を取っているし、大丈夫だと……問題がないと頷いておく。

まぁヤスフミは、やっぱり寂しがるでしょうけど、それでも踏ん張って……それを受け止め、私達の愛は燃え上がるの! もうそういう流れで押し切りましょ!


『……ただまぁ』


もう勢いでなんとかしようと決意していたところ、アコース査察官が悪い笑いを浮かべる。


『いえね、一両日中には戻せると言いましたけど、まだ様々なところでの背後調査が終わっていない段階です。
一時的によく知る管理外世界へ避難して、そこで余波が収まるのを待つ……そういう処置は必要ではないかと』

「避難? え、それってつまり……」

『その際、やっぱりアレクシス君の身辺保護も必要だと思うんですよ。でも困ったなぁ……彼の事情を理解し、腕も立ち、きちんと保護もできる人なんて、管理外世界にいたかなぁ』

『あの、アコース査察官……それは、大丈夫なんでしょうか! いえ、僕はありがたいんですけど!』

「私達的にもありがたいんですけど、いいんですか!?」

『そうだよー! だってそれって……それってー!』

『まぁ、今回だけの特別ルールってことで』


その言葉には苦笑し、悪知恵を働かせてくれたアコース査察官には感謝をしておく。

そうね……本当に今回だけ。それを繰り返すことは誰にとってもよくないことで……でも、きっと報酬は必要よ。


意地を張り続けているハーフボイルドには……とびっきりの報酬がね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


西暦二〇二〇年(新暦七十五年) 九月二十八日

都内某所――絹盾いちご宅 リビング



――――ここまでのあらすじ。恭文くんがやらかしました……恭文くんが、またやらかしました。

平然と八階から飛び降りってぇ! 魔法や魔術があるとしても、さすがに怖いよ! ビビるよ! 目の前で直接だもの! 幼なじみ的にもアウト−!


「……風花さん、胃薬とか……必要ですか? 実は私、スバル絡みで常備していて」

「そ、それは大丈夫……ありがとう」

「ティア、待って! それは知らない! 私、その衝撃の事実は今まで知らなかった!
え……そんなに私、ティアに負担をかけていたの!?」

「時たまね……時たま…………ちょくちょく……それなりに…………」

「頻度を上げないで! 思い出し怒りで拳を握らないで−!」

「……スバルさん、その件……是非はともかく話し合った方がいいですよ。ほら、六課解散後の進路もありますし……」

「僕達もフェイトさんやクロノさん達とは念入りに話しているしね。うん、こう……凄く頑張る感じで」

「そ、そうする……」


――――恭文くんがコックローチなんてまた使うので、お風呂に入っている間に……大まかな状況を、私や鷹山さん達からみんなには説明して。その結果ティアナちゃんとスバルちゃんが、大変になりました。

というか、あの……舞宙さん達のお友達というか、お仕事仲間である三人にも説明して。幸い虫嫌いで腰を抜かしていた人も、怪我などはなく無事だったので。


それでまぁ、現場検証や事情聴取もあるので、ひとまずいちごさんの家で預かりという形になったんだけど……。


「えっと……いろいろお騒がせしまして」


そこで腰を抜かしていた青いスカートの人が……三人の中で一番高身長な、舞宙さんにも負けないモデル体型の方が、ぺこりと頭を下げる。


「それに鷹山さんと大下さんも……聞くとお仕事もお休み中とのことだったのに。
もちろん……今……消毒作業? 何か頑張っている蒼凪……さんも……!」


あぁ、思い出さなくていいんです! 虫が苦手なんですよね! それでコックローチの羽を生やすとか衝撃的ですよね! でもそこはスルーしましょう! 精神衛生上必要だと思います!


「なに……化け物相手は専門外だが、ドンパチは慣れてはいるからな」

「そうそう。でもえっと……舞宙ちゃん達の友達でいいんだよな」

「いえ、先輩後輩の間柄ですので!」

「ちょっと、てんさ……甜歌(てんか)ちゃん! それも失礼だから!」

「あ、すみません!」

「いいよいいよ−。これから改めて、仲良くしていこうねーって感じだしね」

「業界の厳しさをたたき込んでやるぜー!」

「まいさんは調子に乗らないの!」


ぺこぺこするその人はさておき、ちらりと舞宙さん達を見ると、すぐ首肯が返ってきた。


「さっき話したIdle obstinacy≪アイドルオブスティナシー≫って作品に出る子達だよ。ほら、新人で主役の子達」

「この子達がかぁ。でもてんさんって……」

「……実は小学校からのあだ名なんです。雨宮さんと近いので、いろいろ恐縮なんですけど」

「あははは……ついつい呼んじゃうんですよねー。
私、そのときこの子とは同級生だったので」

「え、じゃあ一緒にオーディションとか受けたのかな」

「いえ、そこから学校は別々なんで……本当に偶然で。だからお互いびっくりして」


あぁ、それで呼び直していたんだ。今はともかく、ご本人もいる中だとどっちがどっちか分からなくなるから。後輩としては気を遣うところでもあると。


「でも美羽(みう)ちゃん、自重しなきゃ駄目よ。現場に出たらまた大変なんだし」

「……今は許してほしいかも。化け物を見て心臓がばくばくしているし」

「まぁ、それはね……というか希沙良ちゃんも、大丈夫?」

「ん……ようやく、呼吸が整ってきたところ。
……あの、未万里希沙良(みまり きさら)です。十六歳です」


ひときわ小さい……黒髪ボブロングの髪をショートポニーにした子は、ぺこりとお辞儀。


「あの、改めまして! 神楽坂美羽(かぐらざか みう)、十八歳です!」


続いたのは、この中だと一番明るく見える茶髪ボブロングの子で……。


「木暮甜歌(こぐれ てんか)、同じく十八歳です」


落ち着いた雰囲気の……私より年上っぽい甜歌さんも続き、鷹山さん達を中心にしっかりお辞儀。


「「「助けていただいて、本当にありがとうございました!」」」

「まぁ、そこはさっき言った通りだし? な、タカ」

「あぁ。でも…………え」


……鷹山さん、打ち震えないでください。いや、私も今、衝撃の事実が並べ立てられて、ちょっと動揺していますけど。

だって今、みんな年齢をなんて言ったの? どう見ても舞宙さん達と同年代にも見える甜歌さんも……あの、あの……!


「……甜歌と、美羽は十八歳で」

「「はい」」

「私や恭文くんと同い年……!?」

「というか、私ともだよ! 風花ちゃん! え、あの……失礼だけど、二十代後半くらいに見ていました!」

「……よく言われます。老け顔みたいで」

「いやいや、それは大人っぽいんです! 雰囲気もそういう感じなんです! むしろ魅力ですから!」

「そうそう!」


ギンガさん共々必死にフォロー……でも、まずい。本当にね、心臓が嫌な動機を打ち鳴らしているの。だって……本人気にしているっぽいの! 明らかに表情が曇ったの!

あぁ! とするとこのフォローも駄目なのかな! 私なんて子どもっぽいって言われるし! 未だにろりきょぬーとか言われるし! ロリじゃないのに! もう身長も百六十台に入ったのに!


「で、希沙良が……十六歳? いや、そっちは年相応なんだが」

「ん、よく言われる」

「そっちは私と同い年!? いや、そういう仕事しているから、もっと大人だと思っていたんだけど!」

「あ、正確には十五歳です」

「はぁ!?」

「遅生まれで、三月三十一日が誕生日だから」

「え、ということは私じゃない……スバル、アンタよ! アンタと同い年よ!」

「………………それでうたって踊って、アニメのアフレコして…………なんか、凄い…………!」


それでスバルちゃん達まで衝撃を受けているし! しかもこの希沙良ちゃん、よく見ると解像度が違っていた。

若干ロリータ要素も入った服なんだけど、それを押し上げる胸とか……サイズ感としては、私と同じくらい……!? 身長も百四十後半程度っぽいのに! リアルろり……いやいや、女性としてこの表現は自重!


「いや、凄くないです。希沙良……もとい、わたしは元々児童劇団に入っていたコースなので」

「児童劇団?」

「それで子役としてお仕事していて……そのうち洋画とかのアフレコが多くなって、今回アニメに初めて出させてもらうって感じです」

「……なので希沙良ちゃんについては、新人組の中では一番のベテラン……というか、まさしく希沙良先輩なんだよ」

「実はその辺り、私達も頭が上がらないんです」

「本当に先輩なので、はい」

「む、難しい立ち位置にいるんだね……!」

「よくあることです」


よくあることなんだね! あ、でも子役出身の声優さんって結構多いか! 今だと悠木碧さんとか、ご結婚された花澤香菜さんもそうだったはずだし!

でもそれでアニメに出るってことは、そっち関係のお仕事に振って……かぁ。希沙良ちゃんも経緯が違うだけで、立派に新人……挑戦者なんだね。


「うんうん、みんなの気持ちは分かる。びっくりするよねー。
…………十歳下って、なにをどう話せばいいか分からなくなるもの」

「舞宙さんはアイツと同じで馬鹿なんですか!?」

「ティアナちゃんが辛辣!」

「当たり前でしょ! それを本人達の前で言うって、相当でしょ!」

「そうですよ! だったら恭文はどうなるんですか!」

「だから今混乱しているのぉ! 恭文くんと結ばれたときの私はどこに行っちゃったのーって!」


舞宙さん、言葉が重たいです! あぁ、でもそっか! そういうのも含めて先輩としてどうしようかーって感じなんだ!

というか、考えて然るべきだった! 普通はそうなんだよ! 恭文くんとかが特殊なんだよ!


「……まぁそんなみんなと、ミュージックレインさんの方にいる三人……この六人が主役でね。
わたし達がやる先輩ユニットとは見上げつつもライバルとして、バチバチぶつかるわけだよ」

「それはプレッシャーが凄そうですね……! いや、つい実感してしまうというか」

「というか、やっぱり春先の私達を思い出します……」

「でも十歳下でその認識って……シグナム副隊長達もそうだったのかしら……!」

「……一応、俺もそうなんだぞ? なにせ十年違うと、見ている番組や流行りの歌とかも全然違うだろ」

「あぁ……そんな身近なところで話が合わないと」

「ちょ、やめて! それはあたし達にも突き刺さる! そういうの凄い感じているところだから!」


きゃー! 舞宙さんがまた混乱して! 本当にその辺り迷っているんですか! 恭文くんだけじゃなくて、私ともそれなりに話はしているはずなのに!


「でもほんとおかしい……恭文君にはそういうの一切感じなかったのに! 風花ちゃんだって! ギンガちゃんだって!」

「で、ですよね! あの、私もちょっとおかしいなーって! あ、でもギンガさんは」

「少なくとも明らかにこう、齟齬がある感じはないよ? いや、でもそれって……もしかすると」

「ギンガちゃん、なにか覚えがあるの!?」

「私も部隊で働いていたとき、部隊長……父さんや上司のカルタスさんともども、そういう相談を何度か受けたことがあって。
それで気づいたんですけど、同業者相手だとまた年齢差とか考えちゃうんです」

「あー、そりゃあるな。仕事上最低限のコミュニケーションも取れないと、差し支えもでちまうしよ」

「……ヴァイスさんも考えたご経験が?」

「才華さん達みたいにワンクールごとの就活って感じじゃありませんが……昇進試験やら、特別編成の部隊に入るための選抜テストやらもありますんで。
そういうのを抜いても、捜査や現場での動き方で正反対な二人がぶつかる……刑事ドラマ的なのもちょいちょいとね」


ヴァイスさんの言葉には頷けるところも多かった。プライベートでも深い付き合いができるのも、もしかしたら“全然違う職種だから”かもしれないし。

それに結婚相手とかが同じ仕事をやっていると、相手の仕事に対していろいろ思うところができるっていうし……近いものなのかな。


「……あの……舞宙さん、“私達”というと」


そこで甜歌ちゃんが軽く挙手……って、そうだよね。気になるよね。エリオ君達もいるし。


「あ、そうそう……実はこの子達ね、管理局の局員さんなの。というか、機動六課の部隊員」

『ちょ!?』

「そうなんですか!? しかもあの機動六課って!」

「それ、希沙良ちゃんが言っていた……結構問題を起こしたっていう……。
あぁそっか、だから忍者さん……というか蒼凪さんとも親しくしていて」

「待って待って! ちょっと待って! え、アンタ達……次元世界のこととか分かるの!?」

「うん。というか……」


そこで希沙良ちゃんが右手を挙げ…………その左手にミッドチルダ式の魔法陣を展開する。それはクリーム色の白い魔力で。


「わたしのパパとママ、本局の……事務方の局員なの。それで家族の中でわたしだけが魔法能力を発現して。
あ、一応嘱託として魔導師ランクも取っています。空戦AAランクですけど」

「普通にエース級に迫るランクじゃない! というか私達より上って……あれ、でもデバイスは」

「定期メンテに出しているので、お休みに……ちゃんと連れてくればよかった」

「だったらアンタの仲間もきちんと守れたと。…………あれ、待って」


そこでティアナちゃんが……というか私も嫌な予感で汗が一筋垂れる。

その流れ、恭文くんのあれこれで見てきたようなー。


「それを甜歌達や、舞宙さん達も知っているのは……もしかして」

「……事務所内で落下事故が発生しまして。というか、私が下敷きになりかけたところを、希沙良ちゃんが魔法を使って助けてくれたんです。
それで事務所のみんなに……ちょうど来ていらっしゃった雨宮さん達にもバレてしまって」

『えぇぇぇぇぇぇぇ!』

「というか、私達もその場にいたから、わりとつーかーで話してフォローしたんだ」

「咄嗟にやっちゃったわけかぁ。でもアンタ、それHGSとかでごまかすのは」

「……魔法陣を出しちゃったんで、無理だった……!」

「……修行しないとね」


ティアナちゃんも深くはツッコまず、そういうときはあるとエールを送るだけに止めた。希沙良ちゃんは恥ずかしさでぷるぷる震えながら、こくりと頷く。

いや、でもそうなんだ。だから恭文くんのこともより深く知っていて……でも恭文くんは知らなかったよね。知っていたらあんな勢いで飛び込まないだろうし。

いや、これも考えれば当然か。個人情報な上、人気商売だもの。本人のいないところでほいほい話せないだろうし。


なら、今回の件を恭文くんに頼んだのって……。


「舞宙さん、もしかして希沙良ちゃんのフォローも兼ねて、恭文くんに」

「実はそうなの。……希沙良ちゃんも“言い訳できないタイプ”で、子役時代からちょいちょいやらかしたそうだし。
・・・・・・でも隠蔽とかも難しいんだ。使える魔法も空を飛んで、ヴァイスちゃんでズドンとぶっ放すのがデフォルトだとか」

「ヴァイス!?」

「……今のは愛称。正式な機体名称は≪ヴァイスリッター≫……全長一メートル三十のロングライフル型。
実弾カートリッジは五十口径。装弾数はマガジン一つにつき八発。
実弾と魔力弾を打ち分けられるマルチバレル。
あえて形状変換とベルカカートリッジシステムを搭載しないことで、デバイス本体の強度を上げ、発射可能数と最大出力を上昇させた……私の、自慢の友達」

「そ、そうか……」

「今回のメンテで、銃身に使う複合クロミチアメタルの配合比率を変更して、三百グラムほど重くなる予定。取り回しは少しきつくなるけど、希沙良も大きくなったし……うん、大丈夫。
あとは連動して使用予定のブーストデバイス≪ラインスト≫が完成すれば……魔力カートリッジ口径はどうしよう。大型にした方が一発の威力は上がるけど」


い、いきなり早口になった……! さっきまで落ち着き気味だったのに、鼻息が荒くて……というかちょっと顔が赤くなっていないかな! 止まらず興奮し続けてないかな!


「…………希沙良ちゃん、どうもメカ……というか銃器マニアらしくて。
ギャランティーは貯金している分以外、モデルガンの購入とか、ヴァイスちゃんの改造に充てているそうです」

「長いお休みが取れたときは、ハワイへ実弾射撃旅行に行くとか言っていたしね……。
だったらヴァイスちゃんで、安全なように撃てばーって言っても」

「――そこは手応えが違うの! それぞれ良さがあるの!」

「この調子なのー!」

「生粋のクレイジーね……! まぁ納得はできたけど」

「私もだよ、ティア。……そもそも隠すつもりがないもの」

「ああしてこうして……うふふ…………うふふ…………♪」


ギンガさんが……私達が希沙良ちゃんを見守る。というかそれしかできない。だってほんと、幸せそうに……バージョンアップした友達での試し撃ちが楽しみって言っているんだもの!


「というか、五十口径って対物ライフルと同じくらいだよ? なぎ君に聞いたことがあるから、間違いないよ」

「……確かにこれは、解決策を考えないと駄目ですよね。本気で殺す仕様だし……キャロじゃあるまいし」

「……エリオ君、それはどういう意味かな」

「まぁやっくんもその辺りわりとフリーダムだけど、忍者資格でごまかしが効いているところは大きいしね。元々機会を見つけて、相談しようと思っていたんだ」

「私と美羽ちゃんも、同じ事務所の同年代ということで……一緒に活動する機会も多くなりそうなんです。それで、それなら一緒にと思って、今日ここに」

「……いろいろ、ごめんなさい」


あ、戻った! トリップモードから現実に戻ってきた! お帰り−! でも凄いするっと話に加わってくるんだね!安心を通り越してちょっと怖かったよ!


「いいっていいってー。それに魔法とか凄いの見せてもらったし……夢も広がったし!」

「というか、希沙良ちゃんがそれで悪いことをしない子なのは、私が身を持って知っているもの。えぇ、そこは全力で言い切れるわ」

「ん……」


年下で先輩……更に魔導師という属性てんこ盛りな希沙良ちゃん。だけど、そんな希沙良ちゃんを二人とも受け止め、一緒に頑張ろうと笑っていて。

……これから大変な三人だけど、ひとまずチームワークは問題ないみたい。その様子には先輩である舞宙さん達も安心していて。


「……でも、みなさんも機動六課……でしたよね。そこでは新人さんで、私達と同じ立場だったなんて」

「だからわたし達的にも、みんなとお話できるのって大助かりだったんだよ……。
やっくんがぼやいていた気持ちがよく分かったし」

「アイツが?」

「あー、みんながどうこうって話じゃないんだよ。ただほら、やっくんってなんだかんだで十年近く戦っている上、戦歴も“アレ”でしょ?
だからね、その後に魔導師さんや忍者の資格を取った人達から、基本凄い先輩扱いされるんだって。自分より年上の人からも遠慮なく……それも敬語で」

≪まぁそれであたふたしているのを見るのも楽しいですけど、そろそろ先輩的な威厳も欲しいなという話は、ゲンヤさんやPSAの隆代表代理とも話していたんですよ。
とはいえ舞宙さん達と同じく“個人事業主”で通している立場で、直属の部下や後輩というものが持つのも難しいから、どうしたものかと……≫

「……ねぇ、まさかアイツが課長とかにこだわっていたの、そのせい?」

≪さぁ、私にはなんのことやら≫

「だったらなんで、耳をクシクシしながらそっぽ向くのよ……!」


そうだよアルトアイゼン! こっちを見てよ! そこ、直接ツツかれていたんでしょ! それでちょっと悩んでいたんでしょ! 私も軽く聞いているから分かるよ!?

いや、聞いていなくてもその反応で丸わかりだよ! しかも制御を放り投げたよね! 課長に対して夢を見すぎていて、ちょっと怖いって話もしていたはずなのに! もー!


「でも、同じ魔導師として……嘱託として、≪古き鉄≫を見上げる気持ちは分かる。こっちでも国家的危機を幾度も払ったヒーローだし」

「……実は希沙良ちゃん、会えるの楽しみにしていたんだよね。メンテでお留守番しているヴァイスちゃんもだけど」

「それはあの…………お仕事! お仕事優先だから! いや、アルトアイゼンの素材なにかなとか……銃とかどう思うかなとか、いろいろ聞きたいことはあるんだけど!」

『やっぱりそこ!?』


……恭文くん、どうやらいろいろ憧れられているみたいだよ? 希沙良ちゃん、恋する乙女みたいにもじもじしているもの。

まぁそれにしては……鉄と硝煙の香りたっぷりな発言だけどね! というかほんと、要素が盛りだくさん過ぎて処理しきれない!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……銃器マニアか。鹿沼と絡ませたら楽しそうだな」

「いや、アイツには早すぎる! ここはタカの出番だろ!」

「俺はもっと早すぎるだろ! 十年後でも同じだぞ!」


さすがに十五とは……うん、さすがに俺でもちょっと引く。自分の所行に引く。こうね、愛らしいつぼみとして、暖かく良識的に見守りたいんだよ。

ただ、純粋に焦がれる希沙良の姿を見ていると……俺達も自然と胸が熱くなる。


「……だが感慨深いな、ユージ」

「だね。やっちゃんも、見上げられる伝説≪レジェンド≫なわけだ」


子どもだ子どもだと思っていたら、もう大人の一歩手前。それを強く感じさせる瞬間だった。

俺達がハマの伝説なんてこそばゆいもので言われて、見上げられたときは驚いたもんだが……その見上げてきた奴が、また違う誰かを繋いでいく。

いや、それは希沙良だけのことじゃないな。圭一達やスバルちゃん達みたいな、同い年の仲間も増えてきたんだ。


こうしてアイツもアイツなりに……か。


(それは俺とユージも年を取るわけだ)


……ショウタロス、シオン、ヒカリ……お前達が託した願いは、ちゃんと守られているようだぞ。

蒼凪はそれを忘れていない。そこだけは確かだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「でもまぁ、そういう面倒さはちょっと分かるよ」


そこか澄み切ったように笑っていた大下さんが、その笑顔のまま前のめりになる。


「やっちゃんってその辺りの上下関係で、対応を変えるのとかできない子だしね」

「おかげで俺達にも辛辣だしな、アイツ……」

「まぁそれは、恭文くんも気を許しているからですし……」

「できない? あの、それって」

「そういうので人を見る目とか変えないってこと。やっちゃんのいいところではあるね」


そう言ってくれる大下さんには、心から感謝する。それも……ある意味弱点や欠点たり得るのに、受け止めてくれるんだから。


……実は恭文くん、発達障害を抱えているの。ASDとADHDの合併症を。

恭文くんが好きなことに従順なのとか、自分のルールやルーティーンを優先するのとか……オパーイ=魂理論というこだわりを、押し通すのとかも……その辺りの特性が強いんだ。

それと同じように、場の空気を読むとか、行間を読むとかも苦手項目に入って……人間関係での対応も同じなの。だから立場や年齢でのあれこれに縛られない。


他にも手先が不器用とか、物事を理解し、対処し、処理する速度が人より遅いとかもあるけど……うん、大丈夫。

それも含めて恭文くんだって受け止める気持ちは、何も変わらないから。それはさておき……。


「でもさ、舞宙ちゃん達……やっちゃんに謝りたい人がって言っていたんだよ。だよな」

「えぇ」


……あ、そうだ! そこはまだ触れていなかった! ほら、希沙良ちゃん絡みの話だけなら、そんな言い方はしないだろうし!


「それはまたどうして? やっちゃんとは顔を合わせてもいなかったようだし」

「……まず私達、デビュー自体は二年くらい前からなんです」

「そういえば舞宙ちゃん達も言っていたな。それくらいに事務所で候補生が入ったって……あれ、二年前?」

「…………まさか、あれか。蒼凪がそっちの界隈で幽霊扱いされたっていう」

「はい……それでその、私達……というか、主に私と美羽ちゃんが、現場で聞いて、いろいろ吹聴してしまって……!」

「その話に絡んでいたの!?」

「実は私の実家、退魔師の家系なんです。それでアニメ業界のオカルト相談を受けることが多くて……それで……!」


あぁあぁそれで……お祓いしたらとか、ちょっと見てもらったとか、そういうアドバイスを送っちゃったんだ!


「いや、ちょっと待ってくれ! アニメ関係でオカルト!? なんだそりゃ!」

「あのね、ヴァイスさん……最近のことではないんだけど、いわゆるホラーとかを扱う作品ってかなり多いんです。
ゲームとかアニメを問わず……小説や漫画でも、それが映像化って流れもあるし。というか、わたし達もそういう作品には何度か出ているし」

「ビリオンでも、劇中劇としてホラーやスリラーをやったこともあるしね……。結構ガチめに」

「で、そういうのをやっていると“呼び寄せること”もあるらしくて、作るときは制作完了祈願とかで、お参りに行くのが通例なんです。
ほら、退魔師という形でオカルトの実在も認知されているから、余計にちゃんとしないとって感じで」

「なるほど……だからこの子もそこんとこ、家業的に詳しくなって、ガチなら大変だからとできる範囲で動いた結果…………」

「裏目だったんです。それがまさか、舞宙さんがお付き合いを公言している忍者さんだったなんて……!」

「……まぁ、反省は必要なことなんだろうが、お前さんが全部悪いわけじゃねぇって」

「そうよ。というかあの体型で十八歳の男ということそのものが想定外なんだし。さすがの舞宙さんだって、姿見まで公表しているわけじゃないんだし」


ティアナちゃんの言う通りだった。というか、そんなことをしたらさすがに個人情報云々で大問題だよ。別の意味で舞宙さんが亡霊にされちゃうよ。


「……それでまぁ、これからお世話になる以上、改めて挨拶しておいた方がいいと思って……今日ここに来たんです。甜歌ちゃんなんてデートするんじゃないかって言うくらいにおめかしして」

「美羽ちゃん!?」

「そのおめかしの結果があの遭遇かぁ。お前さん、ほんと災難だったなぁ……!」

「もうね、大丈夫。そこんとこは私達もフォローしていくから。大丈夫……アイツについてはいくつか交渉材料があるから」

「えぇ、それはもう」

「い……!?」


……エリオ君……いや、スバルちゃん達もだけど、ちょっと落ち着こう? 例のプラシーボ効果絡みもあって恨み辛み満載なのは分かるけど、笑顔が怖い。甜歌ちゃん、ちょっとびくっとしたし。


「少なくとも悪意があってのことじゃありませんし、甜歌さんも反省なされているんですから……その辺りを納得させるくらいは、僕達に任せてもらえると」

「そ、そこまでしてもらっていいのかしら……」

「もちろん僕達はその件については他人事になっちゃいますし、あくまでも甜歌さんがお話して、こじれそうならフォローする……まぁそういう感じで」

「……そうね。ん、ありがとう。
じゃあその気持ちだけって感じで、大丈夫かしら」

「はい」


甜歌ちゃんもみんなの笑顔には……本当の意味での笑顔に変わったから、ほっと安心。胸を優しくなで下ろす。


……でも納得した。だからみんな、いろいろ荷物を持ってきてくれたんだ。

食べ物とか、お菓子とか、一杯持ってきていたんだよ。そっちはみんながドーパントに遭遇した地点に落ちていたけど、無事だったから回収していたんだ。


汚れを払った包み袋を……部屋の隅に置かれたそれらを見て、幼なじみとして頬が引きつってしまう。


≪その辺りは安心してください。あの人も噂した人をどうこうって気持ちはありませんから≫

「オカルトを呼び込むのとか気をつけてって話だから、なぎ君の専門にも触れるところだしね……。
でも……そこまで騒ぐってことは、そういう作品って結構多いんですか?」

「スマホゲーとか今流行っているでしょ? そういうので扱う場合もあるし……やっぱあとはあれかな、鬼ごっこゲーム」

「鬼ごっこ?」

「殺人鬼とか悪霊役のプレイヤー一人と、それから逃げる人間役に別れてやる対戦ゲームだよ。人間役は条件を満たして逃げ切れたら勝ちで、殺人鬼は逃がさず全員殺せたら勝ちになるの。
ここ数年でそっちのジャンルが発達してさ。声優仲間でも好きな子がいて、それが講じてゲーム関係の配信番組で毎週暴れたりとかしているし」

「…………それは盲点でした……!」

「そういやその手のホラー作品って、基本は鬼ごっこっすよね。あぁ……だからゲームとしても成立するし、いろいろ作り込めると」


ギンガさんとヴァイスさん……みんなも納得し、ただただ感嘆。でもその気持ち、よく分かります。私もお姉ちゃんから言われてハッとしたし。

もちろんリアルにやる鬼ごっこよりもシステマティックで、演出的なところはあるんだけど……それでもドキドキ感は近くて、楽しいなぁと。実は私もこっそりハマっていたりします。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いい感じで話も一段落したところで、またお茶をいただく。ちょっと癖のあるイチョウ茶だよ。でもこれがまたもう一杯と欲しくなるの。

もらい物なのに、煎れてくれたいちごさんには感謝だよ。……今は恭文くんが三万秒お湯に浸かっているように、脱衣所で見張っているけど。


そういえば雛見沢でイチョウ茶の話をしたんだっけ。あのトラウマを……だからだろうか。鷹山さん達だけじゃなくて、スバルちゃん達もぎょっとしていたのは。

ただそれも最初だけ。みんなこの味には抵抗とかはないみたいで……。


「ん……例の話もあってちょい警戒しちゃったけど、いけるわね」

「宇野さんの作り方が駄目だっただけですしね。これなら毎日でも飲みたくなります」

「いいないいなー。……うちでも常備しようかなぁ」

「僕はこれが名物の公園に行ってみたいです。地球にせっかく来られましたし」

「あ、エリオ……それナイスアイディア! どうせ時間はたっぷりあるし、チャンスを作って行こうか! もちろん恭文も一緒!」

「はい!」


もちろん、かぁ。いろいろ最初は思うところがあったけど、恭文くんにとってみんなは……やっぱり仲間なんだね。

大変だった出向期間だったけど、得られるものもあった。それは、彼女一号としてはすっごく嬉しくて。


(……きっと、ショウタロスくん達も……)

「でも……甜歌、アンタほんといい子ね……」


お茶を一口……そうしてまた暖まり、ほっこりとしたティアナちゃんが、唐突に甜歌ちゃんにほほえむ。


「え……あの、ランスターさん? それはどういう」

「だってさ……」


ティアナちゃんは更に笑う……涼やかに、軽やかに、密やかに、夏の空を思わせるような青さで笑う。


「…………八階から生身で飛び降りた上で、コックローチの羽を生やす奴に比べたら、アンタは常識的よ!
しかもそいつ、狂言爆弾とか核ミサイル両断とかもかますし……それに比べたら、ねぇ!」

「あ、はい…………」


ちょ、ティアナちゃん落ち着いて! さすがに無茶苦茶……いや、恭文くんもやらかしているんだけど! でもそれを比べられても困るだけだよ!

なに、感動したの!? 甜歌ちゃんが凄く頑張っている感じがして感動したの!? だとしても落ち着こうよ!


「というか……アルトアイゼン! アンタもなんで止めなかったのよ!」

「あ、そうだよ! 私や舞宙さん達は反応も遅れちゃったけど……ほら、アルトアイゼンは、ね!?」

≪ああしなかったら間に合わなかったでしょ……。というかもう、羽を生やしたのも許してくださいよ。あれ便利なんですよ。どこでも使えて壁とかも走れますし≫

「本物を連想させないで!?」

「ひ、ひいぃ……ああぁあ……!」


きゃー! 甜歌ちゃんが思い出してがたがた震えだして! 涙目になっているよ! 外観のインパクトを思い出してがたがたになっているよ!


「甜歌さん、落ち着いて……って、無理かこれは」

「……てんちゃん、まだトラウマなの? 寝ている間にGが鼻に入り込んで、取り出してもらうまで鼻水と鼻づまり、更にGの雑菌が原因だった喉のイガイガが止まらなかったやつ」

『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?』

「当たり前よ! あ、あんなのもう嫌だ……あたし、あのとき汚された……純潔を失ったんだからぁ!」

「さすがにその言い方はないよ! というか今までいないよね! 彼氏とかいたことないって言っていたよね! 未だ初キスも未体験って言っていたよね!」

「男の人だって嫌に決まっているじゃない! 前に彼氏がいただけならまだしも、Gに……Gを受け入れた女なんて! そんな女を一体誰が抱けるっていうのよ!」

「やめろぉ! その流れで赤裸々な感情を吐き出すなぁ! つーか俺や旦那達も聞きたくねぇんだよ! そこは触れたくねぇんだよ! 紳士として!」


甜歌ちゃん……なんておぞましい体験をしているの!? それは無理だよ! それは虫嫌いになるよ!

それはコックローチドーパントなんて見たら、腰くらい抜かすよ! また雑菌を持ち込まれるかと恐怖するよ! しかも声優さんなのに! 喉とか商売道具なのに!


「ほらほらほらほら……一生消えない傷を負っている子だっているじゃない!
しかもアイツ、それで粘液を吐き出したりしているのよ! 不衛生なのよ! というか、ヒーローの戦い方じゃないのよ!
アイツ、そのせいでお風呂に入る羽目になっているじゃない! それで時間がよけいにかかっているじゃない! まずそこを理解してよ!」

≪それも許してくださいよ。コックローチメモリ、量産が効きやすい上に結構しぶといんですから。しかも空まで飛べるんですよ? 速度もそれなりですよ?
上手く潰していかないと近隣に被害が及んでいたんですから! あいつら、一人いたら三十人くらいいるレベルなんですから≫

「だから本物を連想させるワードは並べ立てなくていいよ! それに私も……ほら、鳥肌! ぞっとしているから!」

「私もです! ほら……ほら!」


スバルちゃんとキャロちゃんが腕を出してくるので、つい私がさわさわ……いや、近くにたから。


「あ、ほんとだ。揃ってすべすべたまご肌なのに」

「でしょ!? でしょ!? 今あぶったらいい油が出るよ! いい味が出るよ!」

「美味しい鶏油が作れますよ! 当然大やけどですけど!」

「というか、俺としても蒼凪とお前には言ってやりたいことがある」

「……鷹山さん?」

「……ドーパント相手に、あのショットガンは弱いぞ」

『そっち!?』


え、火力ですか!? 武器の話ですか! というか……大下さんも凄い頷いて−!


「P90もさ、ちょっと弾弱すぎない? 腹に穴とか開かなかったしさぁ。
ほら、やっちゃんが使っているようなマグナムをズドンとさ」

「確かに……私もヴァイスがあれば……本気で撃ち込めれば……!」

「悔しがるなよ……五十口径のバケモンをこんな場所で使うなよ……!」

「やっぱり閉鎖結界、覚えよう」

「そういう問題でもないんだがな、今回は!」

「完全に殺すつもりですしね! ほらほらほらほら……蒼凪課長と同じオーラが出ていますよ! 凄い見覚えがあるオーラですよ、これ!」


温厚なエリオ君ですら表情を軋ませる、希沙良ちゃんの悔しさ……悔しがりよう。一体どれだけドッカンバトルが楽しみたかったのかと言ってやりたい……恭文くんじゃあるまいし!


≪まぁまぁ、希沙良さんも納得してくださいよ……。私達が戻る前にドッカンドッカン対抗されたら、逃げられるかもしれなかったんですから。
飛びますよ、アイツ……平然とばたばたーって飛ぶんですよ?≫

「え、待って……飛ぶの!? あれ、飛ぶの!? 怖すぎるんだけど! テラフォーマーズじゃん!」

「大丈夫。高速飛行物体への狙撃なんてお手の物だから。絶対外さない」

「希沙良ちゃんも嬉々としない! というか……」

「…………きゅう」

「……甜歌さん!?」

「てんちゃん、しっかりしてー! ああもう、やっぱり倒れたしー!」


きゃー! 甜歌ちゃんが意識を喪失したー! 美羽ちゃんと希沙良ちゃんが咄嗟に支えたけど、そうじゃなかったら頭を打ち付けてお亡くなりになりそうな勢いだったよ!


≪えぇ、飛ぶんですよ。それはもう鷹みたいに……≫

「だから連想させるなっつってるでしょうが! アイツは世界の嫌われ者なのよ! そして甜歌にとんだ痛みを持ち込んだ許されざるケダモノなのよ!」

「つーか鷹をそこに絡めるな! 鷹にはなんの罪もないだろ! 俺が巻き添えだろ!」


そうだよアルトアイゼン…………あれ、大下さんがホッと息を吐いて。


「俺、名前に生き物属性が入っていなくてよかったー」


……大下さんもそこですか! というか、それを言ったら私はー!


「その場合は“大下勇次は世界の嫌われ者”って直接的に言われるけどな!」

「それも嫌だな、おい!」

「……大下さん、もちょって……名前は“桃”だし、アルバムやライブでPEACHって使っているんですよ? その辺りどう思いますかー♪
というかー、いちさんはいちごだし、風花ちゃんも花だしー。あれあれ、そうなると……あれあれあれー?」

「舞宙も掘り下げるなよ!」


ひとまず甜歌ちゃんによって、私も支えていると……舞宙さんがまた爆弾を投下して! しかも楽しげだし! また悪魔の顔をしているし!


「あの、その……大丈夫! いちごちゃん達もだけど、風花ちゃんだって世界から愛されるアイドルだ!」

「お、大下さん! それは言い過ぎですからー!」

≪でも風花さん、歌声も奇麗ですし、ビジュアルも見ての通りですし……いけるんじゃ。オーディションとか受けてみます?≫

「だよね……! 風花ちゃんは行ける行ける! グラビアとかばっちりだって! 修正いらないって!」


舞宙さんもやめてー! あの、恥ずかしいんです! それにみんな、どことなく胸を見ている! いや、大下さんや鷹山さん、エリオくんは違うけど、注目を集めているような気がする!


「でも私も、765プロの人達や、本業モデルの楓さんにも負けていないと思います! 舞宙さん達にも戦っていけますよ!」

「おー、そうくるかー。だったらいいよー、わたし達もお胸以外の戦闘力で受け止めてあげるよー。かかってきなー」

「スバルちゃん! というか、才華さんまで……もー!」

「……というわけでみんな、これが先輩だよ。だからそんな神様みたいに見上げなくていいんだからねー」

「「は、はい…………」」

「ひゃ、はあぁああ……」


あ、さらっと才華さんが話を纏めているし! しかも雑! ほら……みんな打ち震えているし! 甜歌ちゃんに至ってはコックローチの衝撃が抜け切れていなくて、子鹿みたいに震えながら返事したよ!


「まぁその辺りは風花さんの進路にも絡むし、またアイツと相談してもらうとして……」

「ティアナちゃん!?」

「……ねぇアルトアイゼン……それならアイツが前に出続けて、鷹山さん達にみんなを救出してもらうって手は」

≪なに言っているんですか……鷹山さんがどういう発言をカラオケボックスでしていたか、あなただってその目で見ていたでしょ≫

「それはそうね! TrySailさん達、ステージ上で頑張る人達なのに……そんな人達との結婚すら視野に入れていたし! そりゃあその後輩なんて任せられないわ!」

「おいやめろ! そのことには触れるな! 頼むから今は触れないでくれぇ!」

「そうそう! 俺達、まだ初心者だから! 距離感を掴めていないから! それだけなんだよ!」

「え……鷹山さん達、雨宮さん達と結婚したいの?」


その無慈悲なほどに直球な質問が……希沙良ちゃんから投げかけられた引き気味な言葉が、鷹山さんと大下さんに突き刺さる。


「いや、恋愛は……自由なのかな……」

「まぁ、雨宮さん達も大人だしね! うん……大人同士のことは、私達には……分からないし……」

「美羽も曖昧な笑いをするなよ……! というかいや、あの……違うよ?
ほら、ユージ君がね、最近合コンでとある女性と縁ができたから……僕、ちょっと羨ましがっただけだし。
それで声優さんの結婚話は扱いが大変だーって聞いて……自然とね?
自分の結婚とか……そういうの考えて、ちょっと願望強くなった……だけだから」

「なに長々と人のせいにしてんだよ……自分の方がお似合いだって、やっちゃん相手に胸を張っていただろ。ダンディーにさ」

「お前も黙れよ!」

「……鷹山さん、大下さん、これが現実ですよ。見てくださいよ……二人の顔を。
もう全身なめ回すような視線じゃないですか。コックローチに向ける視線より鋭いじゃないですか」


そしてティアナちゃんは辛辣! いや、私達くらいの年代なら仕方ないけど! さすがに引くって分かっちゃうけど!


「まだジョークで接してくれてはいるけど、内心はぐらぐらと何か煮立たせていますから。そういうものなんですから」

「だったらほら……蒼凪の方に言ってやれよ! アイツ、甜歌をお姫様抱っこしていただろ! フラグを立てようとしただろ! その上アイツはハーレムしているんだから!」

「そうそう! 俺達より警戒するべきは、やっちゃんだって! なにせ若さ溢れるデンジャラス蒼凪だしさぁ!」

「アイツは線引きしていたでしょ! 仮に雨宮さん達が結婚やら妊娠の発表があっても、心から祝福するって達観していたでしょ!
歌とか演技とか……ライブとかでキラキラする姿が好きだから、それを邪魔する好きはぶつけたくないって言っていたでしょ! 実際舞宙さんやフィアッセさん達でやっているでしょ!
だからまだいいんですよ! 安心はできるんですよ! 無自覚なフラグ構築は怖いですけど、それでも自分からがーって行くタイプじゃないでしょ!」

「僕も同感です。それにそういう実績があるからこそ、新作絡みでの護衛やなんかも頼まれているわけですし」

「「そうだったぁ!」」


鷹山さん、大下さん……そんなに頭を抱えないでください。というか、そこまでですか! そこまで入れ込んでいたんですか!


「……無自覚にフラグを立てるけど、自分からはがーっといかない……? え、それでどうしてハーレムになるんですか! 舞宙さん!」

「それは希沙良も聞きたい! というか、舞宙さん的にはOKなの!?」

「恭文くんがそういう子じゃなかったらNOだったかな。
……まぁ、その辺りは今後付き合いができる中で見極めていけばいいよ。それであれこれ言うつもりもないし」

「舞宙さんは、それでいいの?」

「いいよ。みんなでやるお仕事なんだし」


それは紛れもなく、恭文くんへの厳しさだった。冷たさにも見える放り投げだった。

恭文くんがみんなの信頼を掴めない場合、それは恭文くんが仕事を達成できなかっただけという……そんな達観。

でも、同じだけの信頼も見えていた。どういう形であれ、恭文くんならその課題もクリアできるし、みんなのことも守れる道は見つけていくと。


舞宙さんの笑顔に……そんな想いに何かを感じ取ってくれたのか、希沙良ちゃんは、甜歌ちゃん達は静かに、表情を引き締めて頷く。


「……なぁユージ、蒼凪……まさかフラグを立てるために、わざわざ目の前で変身したとか」

「だね。というかアイツ、あの体型だぞ。よく考えたら体に悪いんじゃないかなぁ。それならほら、俺がこう……変身ってね!」

「僕も頑張る。アイツの影響で今の仮面ライダーとか見始めたから。あの、そういうの分かるから」

「鷹山さん、大下さん……!」


なのに…………揃って台無しにしてくれたよ! ほらほらほら! 舞宙さんも突っ伏したよ! さすがにないって呆れているよ!


「でも、確かに気になります。ドーパントの概要があれなら……風花さん、恭文さんに負担って」

「それは大丈夫。恭文くんが大人の体に」


ついそこで嗚咽が漏れてしまい、みんなから顔を背けてしまう。


「ちゃんと大丈夫だって、前もって検査して……そこを踏まえて……メモリは返してもらっているから……!」

「体型という分かりやすい指針については、もう放り投げたんですね……」

「……やっくん、ここ二〜三年で身長の変化が限界値を迎えたからなぁ。
わたし達と仲良くなった辺りからグイグイ伸びて、これならーって期待していたんだけど……」

「それ、俺とタカは凄い知っている。アイツね、会うたびに〇.三ミリ伸びたとか、〇.一ミリ伸びたとか言うんだけどさ……それは誤差なんだよ。もう曖昧にはにかむしかないんだよ」

「ですよねー!」

「私達も言われるしね! ライブとかでちょっと間が開くと、必ず言うの!
そりゃあ、あっちの方はどんどん大きくなるし上手にもなるしで、あたし的にはもう満足なんだけど……でもなー!」


舞宙さん、ちょっと黙っていてもらっていいですか!? 恭文くんとすっごく甘え合いたくなるのは分かっていますけど、駄目です! そういうのは……エリオくん達もいるんですから!


「というか、その下りは私も覚えが……なぎ君、凄く必死なの……!
私はまだ成長しているから、同じくらい伸びているって必死なの!」

「……そういえば……エリオ君……!」

「……独断捜査でひと月とかいなくなった後、僕達の身長が伸びたって話をしたら……自分も伸びているって、胸を張ってきたよね」

「夏にちょっと戻ってきたときも言っていたわね。誕生日になったからと、十八歳になったからと……でも分かんないのよ!
そんな誤差は伸びたとは言わないのよ! なに、積み重ねればいいと思っているの!?」


きゃー! なんだか被害者が続出してー! というかみんな、分かる分かるって顔で頷いているよ! 数年の付き合いをしているメンバーは頷いているよ!


「あの……初対面で非常に失礼だと思うんだけど」


そこで希沙良ちゃんが、困り顔で挙手……。


「あなたは変わりなく元気だよーって突きつけるべきじゃ」

「「希沙良ちゃん!?」」

「凄いボールをぶん投げてくるわね! いや、愚痴った私達が悪いんだけど……でもアンタ、憧れていたんじゃないの!?」

「それはそれだよ! というか……もったいないよ! 化粧とかなにもなしでリアル男の娘なのに! その素質は大切にするべきだよ! 希沙良と一緒にコスプレとかしたら、絶対に楽しそうだし!」

「アンタ、この上まだ性癖を露出してくるの!? もういいわよ! 十分よ! アンタが楽しい奴だっていうのはみんなに分かったんだから!」

「…………あの、ごめん」


するとスバルちゃんが、とても申し訳なさげに挙手……。


「スバル?」

「初対面で非常に失礼とは思うんだけど……真実は、もっと……残酷なの」

「は……!?」

「……どういうことかな。えっと……スバルちゃんで」

「大丈夫だよ。
あのね、実はこっそりマッハキャリバー……あ、私のパートナーデバイスだね」


そこでスバルちゃんが、首元のマッハキャリバーを見せる。すると挨拶するように宝石が点滅して……。


「宝石型だー。……初めまして、マッハキャリバー」

≪初めまして、レディ。……それで話の続きなのですが、相棒も気になって彼の身長を……こっそり測定してみたんです。わりと継続的に≫

≪≪…………≫≫


……あれ、どうしてそこでアルトアイゼンとジガンちゃんは、顔を背けるの? そろっていきなり毛繕いを始めるの? 毛玉とかないよね。奇麗なふわふわだよね。


≪まず変化そのものは全くありませんでした。誤差すらありませんでした≫

『……ですよねー』

≪ただ、そもそもの数値に問題が……彼の自己申告は一五四センチです≫

「言っていたわね。そこは私達も………………」


…………みなさんには、おわかりいただけただろうか。


「……え、待って。それで“もっと残酷”ってことは」


そんな今更な情報を、なぜここで出すのか。

竦みながら聞き返したティアナちゃんも、舞宙さん達も、鷹山さんも、甜歌ちゃん達も……私とギンガさんも、その先を……あまりにおぞましい未来が現実のものとは思いたくなくて、一様に首を振る。


エリオくんとキャロちゃんについては両手を取り合い、ぬいぐるみを装っていたはずのフリードちゃんも威嚇の咆哮。でも、それでも……地獄の窯は開かれる。


「ちょっと、スバル……マッハキャリバー!」

「念のため、私の“眼”でも調べてみたから……間違いないよ」

≪実際は一五二センチ……いえ、そこにぎりぎり足りていませんでした≫

『――――!?』


一瞬にして、とんでもない恐怖で凍り付く場。

小さい……あまりに小さい。

というか、幼なじみとしても衝撃的な事実。まだまだ付き合いが浅いみんなも同じくだろう。


というかアルトアイゼン達……知っていたんだね! だから顔を背けてさ! 話に……この空気に加わろうとすらしていないもの!

というかというか……恭文くんはぁぁぁぁぁぁ! なんでそんな小さな嘘を積み重ねちゃったの! どうしてその二センチを積み重ねちゃったの! 小さいよ! 人間的にも小さいよ!


「…………ちょっと……アルトアイゼン……!?」

≪舞宙さん、どうしたんですか。そんなコックローチの羽みたいにぷるぷる震えて≫

≪なのなの。素敵なお顔が台無しなの≫

「揃ってレディに対してしていい表現じゃないでしょうが! というか、そんなのでごまかされないよ! どうして黙っていたの!」

「あぁああぁああ……!」

「ほらぁ! また甜歌ちゃんがトラウマモードに入ったし! だからホラ、説明して!」

≪いや、あなたは自分より小柄な彼氏と楽しく遊んでいたでしょ。満足していたでしょ。それが全てですよ≫

≪なのなの。誰にも聞かれた覚えがないの。ジガンのログにはないの≫


平然と言ってきたよ! 揃って悪びれもなく言ってきたよ! 気づいていたけど、誰も触れなかったから言わなかったって!


≪それにほら、舞宙さんは知っているはずなの。主様は猫ちゃんモードなら耳の分、ちょっと伸びるの。それなら申告通りなの≫

「はいはい、じゃあ黙っていた分きちんと働いてもらうからね! さすがに二センチごまかすとか……ちょっとね!? 私と風花ちゃん、ギンガちゃんとお話して、そこはきっちりするから!」

≪無視なの!? そんなの横暴なのー!≫

≪というか、嫌ですよ……あの人にとっては真実なんですよ? そう信じ込んでいるんですから。そっとしておきましょうよ≫

「そのせいで被害者の会もできつつあるんだから! というか、限界はあるんだよ! 誰にでもそうなの! 私の胸がこれみたいにね!」

「舞宙さん、それは頷きがたい話なので、控えてもらえると……!」


でも限界、かぁ。まぁそう…………舞宙さんの胸がどうこうじゃないよ!?

誰だって、さすがになんでもできるわけじゃないし……だからなのかな。自然とそんなことを話していたときのこと、思い出しちゃって。


……うん、私達もそういう時期だよ。だから改めて恭文くんといっぱいお話、したいな。


(――本編へ続く)








あとがき

恭文「というわけで、今回の隙間話はドーパントどもを一掃した直後……そしてまたまた新しいオリジナルキャラ登場。
そしてそのうちの一人である希沙良は、トリガーハッピー気味の空戦魔導師。果たして戦闘シーンは描かれるのか!」

ヴァイスリッター(元祖)≪…………って、どうしてヴァイスリッターが! 私はお役ごめんですか、マスター!≫

恭文「大丈夫……こっちの世界では、こういう流れなんだ」

ヴァイスリッター(元祖)≪本当ですか!? 信じていいんですね!? いいんですよね!≫


(拍手生まれな元祖白騎士、ガンダムフラウロスボディで瞳うるうる……うるうる……)


恭文「というか、今回については僕も被害者だよ! なんで身長一五四センチが自称になっているんだよ! なんで実身長一五一センチになっているんだよ! 僕が何をしたー!」


(元祖本編との差異を)


恭文「そんなことで出すなぁ! それなら僕を身長百八十センチにしろ!」

ヴァイスリッター(元祖)≪マスター、さすがにそれはありません……≫

古鉄≪まぁいいじゃないですか。因果律は歪んでいませんし≫

恭文「いや、もしかしたら…………これはひぐらし業の仕業では」

古鉄≪猫騙し編で更にやらかしましたからねぇ……。時空が滅茶苦茶になっても仕方ないと≫

レナ「不祥事やったみたいな言い方はやめてくれるかな! かな!」


(やらかしてはいませんが、こう来るかという衝撃でデンプシーロール状態。
本日のED:『世にも奇妙な物語のテーマ』)


恭文「……希沙良が濃すぎて、甜歌と美羽が印象薄い……いや、美羽はGに汚された女として立ち位置を作っていく道が」

あむ「可哀想すぎるから駄目じゃん! というかどうしたらこんな残酷な仕打ちが思いつくの!?」

恭文「作者の実話」

あむ「嘘でしょおおおおおおおお!?」

恭文「となると美羽が……」

フレデリカ「それなら任せて♪ ここは先輩としてサウザンドエピソードの辺りを」

恭文(ハリセンで無言の連打)

フレデリカ「痛い痛い痛い−! 分かったよ! やらないよ! というか冗談だから許して−! あとフレデリカって名前で呼んで−!」

恭文「おのれは宮本と呼ばれることそのものがキャラでしょうが」

フレデリカ「そんなの認めないよ!?」

あむ「いや、サウザンドもアウトじゃん! そこはほら……もっとさ、お料理とか好きとか、そういうところからがっつりと」

やや「赤ちゃんキャラもありだと思うなー!」

ナナ(しゅごキャラ)「名古屋大好きキャラもえぇよ!」

いちご「大食いキャラとかどう? いや、私は普通なんだけど」

銀さん「あのさ、それならロン毛にして電波キャラとかどうよ。眼帯してもいいと思うよ、俺は」

あむ「いきなり濃厚にするのは却下ぁぁぁぁぁぁぁ! つーか銀さんについては完全アウトじゃん! それ桂さんとラウラじゃん! フェイトさんともども平安京を混乱させておいて、まだ足りないの!?」

フェイト「わ、私達そんなことしていないよ! ただゲッター線に導かれて、ゲッタードラゴンINFINITYに乗っただけだし!」

あむ「十分電波で混乱じゃん!」

恭文「しかもそのままでリンボも放置だからなぁ。まだスタンバっているし」

リンボ「しくしく……しくしく…………」(スタンバり中)


(おしまい)







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