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小説(とまとVer2020軸:劇場版リリカルなのは二次創作)
第0.1話 『TOKYO WAR Ver2014/プロローグなどとうに過ぎていて』


二〇一三年十二月――篠原重工≪八王子工場≫


――開けた工場の敷地内を、風を切って走る。走る……走る……白いつなぎも着慣れたもので、両足はチェーンに絡むこともなく軽快に動く。

後ろに乗っている相棒も、茶色の髪を風に揺らし、冬の風を心地よさそうに受けていた。しかしつなぎの上を脱いで……寒くないもんかねぇ。


「――装備課から出向して三か月か。大分慣れたもんじゃないか」

「全然! 遊馬も被ってみればいいんだよ、あのギア!」

「被ったさ!」

「試したさ」

「それで?」

「背中や腹の下に、目が付いているみたいで気持ち悪い」

「でしょー!?」


ここ八王子工場に……警察官になったってのに、”うち”の会社に出向させられて、なんの悪夢かと思ったさ。

そうして現在、後ろで覗き込んでくる野明……泉野明や工場スタッフと試しているのが、レイバーの新型光学センサーシステム。

ただ、まだまだ発展途上なものでなぁ。被ったギアにそういう視界が……目玉がある部分以外の視点も映し出されるから、どうも慣れない。


で、レイバー大好きっ子なコイツも、その辺りはご不満ってわけだ。


「どうして今までのシステムじゃいけないわけ!?」

「レイバーのシステムとしては、あれが理想なんだ。
地底・水中・宇宙空間……アイボールセンサーだけじゃ追いつかないんだよ」

「なにそれ」

「目玉だよ、肉眼……っと!」


自分の目を指で指したのがマズかった。


「「うあぁああぁああ!」」


自転車のバランスが軽く崩れるので、すぐに手を添え、ペダルを漕ぎ直し……なんとか立て直してっと!


「それにな、このチャリにしたって、発明された当時は教習所があったんだぞ!
自動車がレーサーだけのものじゃなくなって何年経つ! 人間なんにだって慣れちまうもんさ!」

「遊馬は私ごとこけかけたのに……」

「まぁ全展周モニターとリニアシートが開発されるまでは、上手く折り合っていくしかないな!」

「それレイバーに載せられるの!?」

「分かった分かった! じゃあ気分直しに、例のとこにいこう!」


もういっちょペダルを強く漕いで、方向転換……寮への道から右に逸れて、実験用ドッグの一つに……もちろん自転車は降りた上でだ。


「お邪魔しまーす!」

「おう、また来たの?」

「こんにちは」


もう気心知れたもので……常駐しているおっちゃん達には片手で軽くアイサツしつつ、中に入る。

そうしてそこに置かれた一機のレイバーを……白黒カラーの元愛機を、野明は見上げる。


どこかすっかり遠く感じるコイツは……≪アルフォンス≫は、天窓の光を浴びて、静かに佇んでいた。

警察を示す大門も、警視庁のロゴも、両肩のパトランプももうない。役目を終えた老兵が昔を懐かしむように、今の主達の手で管理されていて。


「……つい一年前なんだよね。”これ”に乗っていたの」

「あぁ……実際あっという間だったな。今となっては、こいつもデータ収集用の実験機だもんな」


……ふと、野明の横籠を見やる。

アルフォンスと……勝手にペットネームまで名付けて、愛着を持っていた機体。

それから降りて、特車二課からも異動して……それなりに寂しい気持ちはある。あって当然だ。


これでも三年近い付き合いだからな。それくらいはまぁ、分かるさ。


「……なぁ、乗ってみるか」

「……まさか」

「どうして」

「上手く言えないけど……もういいの」


そうして野明は、愛機に背を向ける。いつものように……淡々と。


「さ、行こう。急がないと食堂また混んじゃうよ」

「おっとそうだったな! 飯飯っと!」


だから俺もそれに合わせて、自転車ごとUターン。


「どうも、お邪魔しましたー」

「おうー」


……過去は過去。俺達は今を生きる……きっと今もまた過去になって、その繰り返し。

でも、色あせないものもある。野明はまだ、それを割り切れない様子だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


西多摩郡多摩町――特車隊員養成学校


……操作スティックを、トリガーを握る手が震える……いや、震えているだろう。

シートは有視界モードで、機体≪篠原重工製 レーア≫から顔を出したチビ助は、冬なのに軽く冷や汗を垂らしていた。

だが待たん……敵は待ってはくれん!


『ほら、右から来たぞ……銃口をぶらせるな! 追いかけるのではなく先を読み、吐き出すように撃ち尽くせぇ!』

『――!』


そうして返事の代わりに三……いや、一度砲声が響く。


クレーンアームの先で、不規則に動くターゲット。

岸壁沿いに高速移動する物体に対し、グレーのボディが、構えたペイントガンが意思を叩きつける。

的にはきっちり……発射された弾が命中。的は倒れ、クレーンは撃退を知らせるように停止した。


命中箇所もかなり中心だった。それは見て取れたが…………!


『…………よく当てた……と言いたいが、馬鹿もん! 中心から外れすぎだ!
もっとしっかり狙わんと、非殺傷で制圧などできんぞ!』

『はい!』

『お前は降車後グラウンド五周!
ただし全力疾走で他の奴らを追い抜いていけぇ! その後もう一度だ!
……いいか、時間がない分は努力で稼げ! コイツらに遠慮などしなくていい!
乗れるチャンスは奪い取れぇ! 貴様はもう二週間使い潰していること、決して忘れるなぁ!』

『はい!』


よぉっし! さすがに第二種忍者だけあって、なかなか鍛えられているな!

最初小学生を預けられた上、一か月でなんとかしろと言われたときはどうなるかと思ったが……それに引き替え……!


『こらぁぁぁぁぁぁぁ! 貴様ら、タラタラ走るんじゃねぇ! 夏場じゃないんだぞ! 冬だぞ! 熱中症にかかったとでも言うつもりかぁ!』


うちの……倍近く年も上な正規生徒は、タラタラタラタラタラ……!

しかも一生懸命走って遅いならまだ分かるが、疲れたのを誤魔化すように、だらけおって!


「事件現場だと思って、全力で走れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
……こらぁ、へらへら走るなぁ! 吉沢は五周追加!
大沢……グラウンドに汚ぇ反吐をぶちまけるなぁ! 貴様も五周追加だぁ!』

「……次、射撃訓練のため、練習機に乗車致します!」

「よおし、いけー!」

「……教官、質問!」


チビ助がレーアの後部ハッチから外に出て、搭乗用の階段を降りる。

それと入れ替わりで次の生徒が上がると……その次に控えていた村田が、半笑いで頭をかいていた。

というか、頭部保護のギアをかいていた。その仕草が、どこぞのインテリを思い出させて軽く……イラッとしてしまう。


「……なんだ」

「あの、なぜマニュアルで操作を? FCSを使用してロックオンすれば、九十八%の命中率と聞いておりますが」

「そのFCSが故障したらどうする」

「は……? いや、でもレイバーによる警備活動は、ペアが原則ですし」

「その瞭機が、行動不能だったら」

「いや、しかしそんなケースは万に一つも……」

「その万に一つ備えるのが……俺達の仕事だろうが! このボケぇぇぇぇぇぇぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あはははは……なんだろう、これ……。


『貴様はグラウンド二十周だぁ! 行けぇ! 今行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「まぁ面倒見もいいし、真剣だし、よくやっているとは思うがなぁ……。
自分達が『万に一つの事件』ばっか経験しているから、余計にって気持ちも分かる」


太田さん、相変わらず時代錯誤なスパルタを……!

脇で見ている佐久間さんも、角刈りの頭をかいて困っているじゃないですか!


「だが甲子園に行くわけじゃねぇんだからよぉ。
気合いだの根性だの言ってみたって、今日日の若い奴らはついてきやしねぇって」


そこでまた砲声が響く。次の子は三発撃ったものの、結局全て外してしまって……。


『…………下手クソォ! 降車後、グラウンド五周だぁ!
お……戻ってきたな、チビ助! そうだ、それでいい!
貴様はコイツらが一年かけて覚えることを、一か月で覚えようという横着者だからな! それくらいでなければ話にならん!』

「まぁ、例外はあるけどなぁ……」


遠目から見えるのは、明らかに他の訓練生より小さい……というか、女の子?


「第二種忍者資格持ちの……小学生の坊ちゃんだよ。レイバー資格を取ったばかりで、AVシリーズの搭乗は未経験でよ。
それじゃあ現場で使えないからってんで、PSAの方から短期コース預かりになったんだが……」


小学生……それはまた、太田さんに任せては駄目な子では。


「若い奴らの中でも特殊でな。太田の熱血馬鹿と相性もいいのか、めきめき腕を上げてやがる。
もう現場に出しても問題ないレベルだ」


確かに、さっきの射撃……FCSもない中で撃ったとは思えない。それに二週間とか言ってたしなぁ……!

佐久間さんが……僕達第二小隊初期メンバー六名を養成してくれた先生が言うなら、その資質も相当と言っていいだろう。

だけど小学生……子ども……どうしても、グリフォン事件のバド君を思い出してしまった。


いや、あの子とは状況も違う。あの年で忍者資格を取ろうと言うんだから、相応の想いや支えてくれる大人の手もあったんだと思う。

……それでも……ああいう子が戦わず、平穏に暮らしていけるように頑張る……頑張りたいと思うのは、僕も親になったせいだろうか。


「ついでと言っちゃあなんだが、せっかくこんなとこまで足運んでくれたんだ。
本庁の総務課長として、アンタからも言ってやってくれや」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


全く……情けない! 本当に情けない! 横着者とて二週間でこの仕上がりなんだぞ! それなのに半年以上経ったコイツらはなんだ!

あまり比べて叩いてもいい結果は出ないが、それでも……さすがに言いたくもなるぞ!

こうなれば俺自らが手本を示すしかあるまい! ついでにチビ助にもな! というわけで、もう一機レーアを用意して、二人でそれぞれ搭乗。


有視界モードで機体の首元に顔を出して……うむ、やっぱり現場は気持ちがいいものだ。


「いいか! 射撃は瞬発力と集中力の勝負だ! 根性を入れて撃てば、必ず当たる!
チビ助、貴様は二つ目の標的を狙え! 連隊を組んだレイバー相手だ! 決して撃ち漏らすな!」

『はい!』

『――――標的出せぇ!』


――――自動操縦≪オートメーション≫で走る標的。一気に吸い込んだ息を吐き出し、爆発させるように……!


『食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『――!』


トリガーを引いた瞬間、狙い通りに……計算通りに弾丸は、的の土手っ腹を撃ち抜く。

そして俺に一瞬遅れて、二つ目の標的も沈黙。そちらも……まぁど真ん中ではないが、先ほどよりもよくなっていた。


『おぉぉぉぉ……!』

「いいか、敵が倒れたからと油断するな!」

『そうですよね、教官!』


俺達は武装をチェンジ。左手でペイントガンの銃身を持った上で、空いた右手はパット入りシールドに。

左前腕側面に取り付けられたそこから、伸縮式のスタンスティックを取り出す。イングラムでも標準装備だった武装だ。もう使い慣れたものよ……!


『しっかり息の根を止めなきゃ、どんな反撃があるか分かったもんじゃない!』

「その通りだチビ助ぇ! 俺に続けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『はい!』

「え、ちょ……教官!?」

「ちびっ子君も待った! 待ったぁ!」


俺達は機体を走らせ、的に……的に近づき……!


「きぇぇぇぇぇぇぇぇい!」

『チェストォォォォォォォォォォ!』


逆手に持ち替えたスタンスティックを、そのまま敵の土手っ腹に突き立てる……次の瞬間、奴は走る電撃により機能を停止させる。


「…………見たか! 初弾が当たったからって気を抜くんじゃねぇ! とどめを忘れるなとどめをぉ!」

『はい、先生!』

「チビ助、模擬戦の構えを取れ! 横着者でもこれくらいはできるということを、このダラダラした奴に見せつけてやれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『はい、先生!』

『――――何をやってるんですか、太田さん! 君もぉ!』

「んお!?」


なんだ、この……妙に聞き覚えのある声は。

というか通信……マイクを通して? それで何気なく指揮屯所……テントを見やると、そこには一人の男。

ひょろっこい身体にスーツを着て、眼鏡。ソイツはマイクを手に、こちらを睨んでいて……。


「おぉ、進士! お前来ていたのか!」

『なんでこの状況で再会を懐かしむように応対できるんですか!
というか、苦しい予算の中から出した備品を、なんだと思っているんですか! ――揃ってただちに降車しなさい!』

『……そう、降車しなきゃいけないんですか』

『そうだ! 君もレイバー操縦者としてきちんと成長したいなら、こういう悪い人は見習わないように』

『だが断る』


…………その言葉に進士が……いや、俺も呆気に取られてしまう。

縦社会が当然の警察家業で、こういう反抗をする奴など……あまり見たことがなかったからだ。


『僕の最も好きなことを教えてあげようか。それは上から目線で言われた言葉に、NOと返してやることだよ』

『いや、君!? これは命令だから! 私、課長……総務課長!』

『僕に上司がいるとしたら太田先生だ! それ以外の命令なんて聞けるわけないだろうが! このボケがぁ!』

『なにそれぇぇぇぇぇぇぇ!』

『そもそも自己紹介すらしていないでしょうが! 初対面で礼儀がなってないんじゃないの!?』

『今そこでそれを言っちゃうのぉ!?』

「チ、チビ助ぇ……!」


そうか、縦社会の厳しさではなく……仁義! 仁義なのか!

ならば、ならば……俺は教官として! 人間として! それに応える義務があるぅぅぅぅぅぅぅ!


『では先生、ひと槍お願いします!』

「――おぉ!」


浮かびかけた涙を払い、鬼の顔で……鬼に徹して、グラウンドに戻る。


「また派手に、土にまみれることだ! だがその分貴様は強くなる……よく覚えておけぇ!」

『はい!』

『いや、ちょっと……太田さん!? 無視しないでください! あの……だから……』

「では……試合、始めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『始めないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ1』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二〇一四年二月頭――横浜ベイブリッジ上


二〇一四年――東京湾の大型埋め立て工事から端を発する再開発計画≪バビロンプロジェクト≫の二期工事が終了して久しく。

都内に集中していたレイバーの稼働数は減少傾向にあるものの、その分大阪や名古屋などの地方都市にて、空港の再開発も含めた工事数が増加。

つまりレイバー絡みのトラブルや犯罪が減ったわけではなく、むしろ全国的に拡散した状態と言える。


それに対応するため、警察内……警視庁の警備部もそうだし、各都市の警察もレイバー隊の設立やその検討を開始。

私達特車二課は、設立当初のようなドタバタこそなくなり、問題児だらけだった第二小隊の主要メンバーも、二人を除いて異動。

それでも変化する時世に合わせ、再編成の必要が出てきて……今はその場つなぎとして、この私が課長の席を預かっていた。


――今日、久々に柘植学校のみんなと飲みに行く約束なんだよ――


ただ……運転中だというのに、ついさっき交わした会話を、思い出してしまって。


――柘植さんのことならもういいだろ?――

――PKOでの海外活動から戻った柘植さんが姿を消して、三年……あっという間だったな――


柘植学校……私がレイバーについて学習するため、関わっていたある集団。


――南雲さんにはなにか――

――……手紙を一つ送って、それっきりよ――


そこのリーダーというか、学長というか……送ってきたのは手紙一つ。彼が何を見て、何を思ったのか……今は、それすら分からないけど……。


「……」


過去を振り切るように、ハンズフリーで通話を繋ぐ。もちろん運転には集中……スマホ片手になんて絶対しない。これでも警察官ですから。


『はい、こちら特車二課』


早速出てきてくれたのは、整備班の班長を引き継いだシゲさん……シバシゲオさんだった。


「シゲさん? こっちはようやく終わったわ。そっちはどう」

『こちらも出動要請はなし……静かなもんですよ』

「後藤さんはいるかしら」

『呼びます? ちょっと時間がかかるけど』

「あの人も携帯が必要な人ね……。
いいわ。今横羽線に乗ったところだから、渋滞がなければ十五分んほどで……っと」


そこでブレーキを踏み、安全に停止……噂をすればなんとやらと言うけど、これはまた。

長い長い車の列。それぞれのいら立ちが見えるように、夕焼けに染まるベイブリッジを占領していた。


「言ったそばから……」

『ご愁傷様。まぁ留守は任せて、ゆっくり戻ってください。それじゃ』


通話は終了……さすがに暇つぶしに付き合えとも言えないので、納得しつつ軽く息を吐く。

……一応この車は共用車なので、相応の装備も詰んでいる。それを操作し、渋滞情報をチェック……やっぱり、私のいる地点からキロ単位で真っ赤。

赤い分、たくさんの人が止まって…………そこでサイレンの音が響く。


『――レイバーが通過します! 危ないので車から下りたり、ドアの開閉を行わないでください!』


軽く振り返ると、四つ足に作業用マジックハンドを装備したレイバーが、上部のサイレンを輝かせながら走ってくる。

虫のように長い足先には、八つのタイヤがあり、それで車やトラックの両脇を踏み締め、曲芸のように跨いで走っていた。

あれは99式操輪レイバー≪ロードランナー≫。ドライバーと指揮官の服座式で、車両を跨ぎながら速やかに移動する。


まぁうちで現在使っているAV-2≪ヴァリアント≫と違って、そこまで高い戦闘力はないんだけど……それも使いようってことで。


「……」


ただの渋滞でレイバーまで出てくるのが気になって、通信機を手に取り、専用回線を開いて……。


「移動中のロードランナーへ。こちら特車二課の南雲警部」

『こちら交機201。南雲警部、研修でお世話になった本橋です』

「任務中失礼します。橋の両眼で通行規制のようですが、状況をお聞かせ願えますか」

『ベイブリッジに違法駐車した車に、爆弾を仕掛けたとの通報がありまして。橋の通貨を全面規制。えー、現在処理に向かうところです』


頭上をロードランナーが跨いで進む……それを見送りながら納得していると。


「了解、交信終わり。どうもありがと」

『――すみません、横入り失礼します』


…………そこでいきなり、回線に女の子の声が聞こえてきた。それに面食らって、つい通信機を落としかける。


『こちらは第二種忍者の蒼凪恭文です。
IDナンバーはE-3865248。PSAの専門IDはOP-86218』

「第二種……?」


……備え付けの端末を開いて、オンライン経由で情報検索。

身分紹介用のID二種を専用画面に打ち込むと、すぐに情報が出てきた。

それも顔写真も一緒で……とても驚かされてしまう。


だって、どう見ても……女の子で……いや、年齢を考えれば当然だけど。


(まだ十一歳……しかもこの専門IDだと、オカルトや異能事件……霊障の類いが専門?)


Occult(オカルト)Psychic(サイキック)……第二種と言えど、資格を取得する難易度は相当。

もしかすると異能絡みゆえの特例かもしれないけど、それでも優秀なのは確かだった。


『えー、こちら交機201の本橋です。蒼凪さん……でよろしいでしょうか』

『はい。実は現在自分もちょうど、家族との遠出から戻る最中で渋滞の中にいます。
それでその先頭……問題の車も見えています』


あぁ、それで……この交信自体はいわゆるオープンチャンネルだから、彼も自前の機材で状況を聞いて、横入りしてきたと。


『あ、写真……というかライブ映像も送ります』


更に共用回線を経由して、スマホかなにかで撮影した動画映像も……車の周囲三百メートル程度は人気なし。

問題の車も普通乗用車……ナンバーは……あ、アップにしてくれたわね。それも手帳でさらっとメモを取る。


『ナンバー、分かりますか?』

『大丈夫です』

『今のところ爆発の気配はありませんが、念のためいつでも動けるように待機しておきます。映像もこのまま送りますから』

『ご協力感謝します。
ただ接近しての状況確認は我々で行いますので、蒼凪さんは後を詰めてもらえれば』

『了解しました』


……これでまずは……できることはなくなった。

あとは若い子達の頑張りに任せようと、軽く目を細め、パワーウィンドウを開く。


夕焼けの風が……とても心地よく吹き抜けて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いやはや、なんというか……居心地の悪い時間が続くなぁ。まぁ目の前に爆弾があるかもしれないから、仕方ないけど。


「恭文くん……」


お母さんと後部座席にいるふーちゃんが、不安そうに助手席の僕を見やる。

なのでスマホはスタンドにセットしたままにしておいて……大丈夫と笑っておく。


「大丈夫。今のところは爆発する感じもないし」

「そこじゃない……!」

「そこじゃないって?」

「……学校の卒業祝いで遊んだ帰りに、早速ドンパチするの……やめて?」


……その言葉の意味が分からず、ついアルトを見やってから、軽く首を傾げる。


「どういうこと?」

「言葉通りの意味だよ!?」

「ほんとよ……! というか、爆弾ってレイバーでなんとかできないかしら」

「まぁ精密作業用の……ISSとか水中探査とかで使われているレイバーなら、まだなんとかなりそうだけどさぁ」

≪とりあえずご母堂様達は、風花さんをお願いします。私達はすぐ動けるようにしますので≫


……ちょうど頭上をロードランナーが通過して、問題の車に接近する。その直後に、僕も頭上の天窓を開いてーっと。


「恭文?」

「じゃ、あとはよろしく」


念のため、正体を隠すとき用に用意した仮面を装着。

まぁキン肉マンのウォーズマンなんだけどね? これがシンプルで使いやすいのよ。


「ダイナミック降車すぎないかい!?」

「むしろ乗車だって……よっと」


車の天井に手をかけ、ひょいっと身体を乗り上げる。

そうして優しい海の風……潮風に髪や蒼い袴を揺らしていると、脇からひょいっと三人が出てきた。


「全く……美味しい中華の余韻が台なしだぞ」


銀髪ロング・赤目、黒いノースリーブシャツとスカートの子と……。


「まぁいいではありませんか。なにかあれば腹ごなし程度にはなります」


翡翠髪ロングにシスター服を纏った子と……。


「よく余裕があるな、お前ら……! 爆弾だぞ、爆弾!」

「「ショウタロス先輩じゃあるまいし……」」

「うるせぇよ! つーかショウタロウだっつってんだろ!」


ソフト帽にコートというハードボイルドルックの子……たまごくらいの、妖精みたいな子達は、一緒に潮風を受けて、目を細めていた。


「それでヤスフミ、どうする。腹ごなしでキャラなりにしても……衆人環視だぞ」

「さすがにやらないって。できて”手品”でこっそりフォローする程度だし……」


………………そこで、猛烈に嫌な予感が走る。

何度も味わってきた、死や破滅の匂い……命に、続くはずの時間に、死に神の鎌がかけられたような悪寒。


≪これは……急接近する物体あり! 光学センサーで感知!≫

「三人とも、不可思議空間に!」


首元のアルトに言われるまでもなく、天板を蹴って走り出していた。

全速力で……両足に魔力を迸らせ。シオン達が不可思議空間に入ってくれたのも確認しつつ、瞳を見開く。

ふだんは閉じている、蒼い瞳を……可能性を、未来を見据える瞳を……。


そうして見据えるのは、悪寒に従い見つけた影。こちらに迫る円筒形の脅威……その狙いは、ロードランナーとそれが調べようとしている車。

このままでは直撃コースも間違いなし。だから、開いた瞳で可能性を見据える。

僕にできることはあるか……袖すり合うも多生の縁なら、優しそうなお兄さん達を助ける道はあるか。


もちろん僕が魔法使いだとか、そういうのがバレるのもなしで…………見える無数の未来。

だけど欲しいものは存在しない……一筋の光も見えないと、諦めかける。

でもそれは、今の僕では可能性が開けないからだ。だからまずはアルトをセットアップ。


懐から取り出したように、日本刀形態となったアルトを腰に添える。糸はまだ見えないから、手札をもっと切る。

前屈みに走り……ロードランナーの左脇を滑るように抜けながら、音速を超えた音も耳で捉えながら、鞘の中で魔力を打ち上げる。


「ん……ちょ、君!」

「交機201、止まって!」


それで、見える未来に少しだけ変化が訪れた。

……光が見える。

とても小さい、か細い光。だけど、確かに存在する未来。


僕が先生から教わった剣術は……。

僕が持って生まれた眼の力は……。

僕が欲しいと思って、未来へ伸ばした手は……。


確かに、その糸口を見せてくれた。たとえ本当に、天の光が如き小さな可能性でも……僕を照らしてくれた。


――だから。


「――鉄輝」


問題の車両……その左側へ立ち、既に距離百メートルを切った物体の前に立つ。

白黒に彩られたそれは、どう見てもミサイル。本来なら僕が魔法なしで対処できる相手じゃない。鉄輝を打ち上げても変わらない。

だけど……見えている。


「一閃!」


もう、可能性は見えている……だからそれを掴むために、アルトを抜刀――。

コンクリの地面を斬り裂くように、這うようにしながら、一歩踏み込んで打ち込んだ斬撃。

それは……蒼い煌めきは、本当に一瞬だけ生まれ、そして弾ける。



弾頭から噴射口まで、真っ直ぐに斬り裂かれたミサイル。

二メートル以上はあるそれが真っ二つになる中、僕はアルトを振り切りながら、そのど真ん中にて交差する。

そしてミサイルは斬撃の衝撃から……ボディが内蔵部品ごと分かたれた衝撃から、僅かに上昇。

噴射炎が僕の脇をくすぐったのも本当に一瞬。ミサイルはソニックムーブをまき散らしながら、ベイブリッジを掠め…………二つの爆炎を生み出す。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


優しい……日常の風。それで髪が優しく揺れていると。


『――――――交機201、止まって!』


蒼凪君の声が鋭く響く。

次の瞬間……衝撃が橋全体を揺らした。

更に交通規制の先で、黒煙も上がる。何かが砕け……いや、爆発したような衝撃が……さっきとは質の違う風がこちらにも吹き抜けてくる。

近くから人々のざわめきが響く中、ぼう然とするしかなかった。


そんな人々が……私達が見やるのは、ベイブリッジの右脇で起こった、二つの爆発で。


『もしもし……交機201! 本橋さん、聞こえますか! もしもし! 応答してください!』

『…………ちら……交機……本橋……。聞こえます……ですが、これは一体……!』

『ミサイルです……』

『は……!?』

『見えました! 止まっていた車に向かって、ミサイルが撃たれた!』


破壊の風が止んだ後もただ……停止して……。

もう、全ては始まっていたのに。私が終わらせるべき妄執は、とっくに進んでいたのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ソニックムーブと炎の残滓を払うように、アルトで逆袈裟一閃。

そうして静かに……鞘に刃を納刀。開いていた瞳も静かに閉じる。


それで僕の瞳は浄眼を示す蒼から、普通の黒色に戻って……戻っているよね? うん、もう未来は見えないし。


「……お兄様」

「まぁできるとは思っていたが、伝説を作ったなぁ」


そこで翡翠髪と銀髪……シオンとヒカリがふわっと脇に出てくる。


「え、というか君……ミサイル、斬ったのか!? その刀で!」

「……忍者の秘術なんですよ」


内緒にしてほしいとしーのポーズをすると、ロードランナー上の本橋さんが、驚きながら何度も頷いてくれる。

いや、でも無事でよかった……あの調子なら爆発に巻き込まれて、だしね。


「あが……あがががが……あががが……」


……いや、無事じゃないのがいたか。

シオン達と出てきたショウタロスが上手く喋れていないようなので、左指で優しく……外れていた顎を戻してあげる。


「あぐ!? …………お前、ほんと無茶苦茶すぎるだろ! 訓練校でもそうだったけどよぉ!」

「ふーちゃん達もいたしね。しかし……」


……ざわつくベイブリッジ。変わらない日常の風とは違う、破壊の嵐。

未だ病まない騒乱に耳を傾けながら、爆散し、消え去ったミサイル……それが爆発した虚空を見やる。


「……厄介なことになりそうだよ」

≪首を突っ込まなきゃ安いもの……それで済めばいいんですけどね≫

「だね」


――二〇一四年二月。

この街は今、試練のときを迎える。

この街の平和が、現実が、ただの夢幻で踏みにじられて当然のものかどうか……たった一人の男によって、それはもたらされる。


僕の名前は蒼凪恭文。職業第二種忍者兼次元世界の嘱託魔導師。相棒の名前はアルトアイゼン……通称アルト。


僕達は”正義の味方”の目撃者として、この街に住む一人として、そんな試練に立ち向かうことになった。




魔法少女リリカルなのはStrikerS・Remix

とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

第0.1話 『TOKYO WAR Ver2014/プロローグなどとうに過ぎていて』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


僕もなんだかんだで十一才……そしてもうすぐ小学校も卒業。

冬も本格的になっていく中、お父さん達と一緒に軽くお出かけしたら……ご覧の有様だった。


『午後五時二十分頃、高速湾岸線の本牧と大黒ふ頭を結ぶ、横浜ベイブリッジで大規模な爆発がありました。
幸い死傷者は出ませんでしたが、高速湾岸線はベイブリッジ爆発直後から全面通行止めになっています』

「……私達、本当によく……帰り着いたわよね……!」

「だよね……!」

「……でも、疲れた……凄く疲れた……」

「そこから五時間近く、あの場で足止めだからな……!」


現在僕達一家は……ショウタロスとシオン、ヒカリですら、テーブルの上でぐだーっと突っ伏していた。

だって、言った通りの経緯で……車も持ち帰れるかどうかってレベルの惨事で、ようやく帰り着いたんだよ……!


「……美味しかった中華料理の味が、吹き飛んだ……腹が減ったぞ……私は……」

「お姉様のデフォじゃありませんか……。
しかし、運がいいのか悪いのか。一歩間違っていればミサイルで家族諸共死亡ですからね」

≪いやぁ、この人ならミサイルが直撃しても死なないでしょ。なにせしぶといですし≫

「さすがにそれはない……! というか、お父さん達は死亡確定だからね!?」

「そうね……私、そこまでスーパーマンになれないわ。魔法も使えないし」

「私も……大黒柱としては情けないけど、さすがにね……!」


ほらぁ! 疲れもあるけど、ミサイルどがーんの恐怖で参っているよ! というか僕も今回はさすがにビビったよ!

だってミサイルだよ!? 戦争で使うようなものだよ!? それが目の前でって……そりゃあね!


いや、それを弾みとノリでぶった切った僕もあれだけど……なお、アレについては『対レイバー戦などで鍛えた斬鉄技術の応用』という感じで誤魔化しました。

つまり…………僕、超凄い剣術家って感じに広まっている……! ヤバい、実際はチート臭い能力を使ったのに。


その、南雲さんとかが凄く感心した感じで見てくるの……滅茶苦茶、謝りたくなった。


「これで今年の運、使い切ったかしら……」

「始まったばかりだけどね……」

≪ご母堂様とお父さんもまた……これ、わざと被害が出ないように撃っていますよ?≫

「「え!?」」

「確かにね……」


さすがに突っ伏したままもあれなので、改めてテレビに注目。

そこに映っているのは、テレビ局がヘリ撮影したベイブリッジの様子。当然遠目からだけど……。


……下手をすればあそこが、真ん中から派手に吹き飛んでいたんだよね。


『爆破予告の電話により、ベイブリッジは事故当時交通規制が敷かれていました。
警察では犯人の割り出しを急ぐ一方、一連のテロ事件との関連を調べています』

「あれが事故……!?」

「妥当なところだよ。攻撃してきた相手の素性も、目的も分からないんだから」


こりゃあ警察や自衛隊、政治中枢も大騒ぎだろうなぁ。もちろん僕達以上だと、つい肩を竦める。


「それに普通のテロで被害を出したいなら、爆破予告なんてせず、そのまま打ち込めばよかったんだよ。
つまり人的被害を出さず、こういう攻撃がされたって事実を作ることが目的だった」

≪しかもミサイルだけなら……ブレーメンという国際的カルト集団が以前やらかしていますけど、戦闘機も目撃されていたんでしょ?
普通のテロ組織が用意できるものじゃないですって≫

「……というか、それらしい音……あったよな? お前らも」

「ばっちり聞こえたぞ。しゅごキャライヤーは地獄耳」

「私にも聞こえましたよ? 音速を突き破る音が……堂々と」


もうね、戦闘機って時点で普通のテロじゃない。そういうものを動かせるだけの権力者が……組織が絡んでいるのは明白だった。

しかも戦争を放棄しているこの日本でだよ? もはや悪夢としか言いようがない。


「じゃあ、なにか……国家的な陰謀って感じなの!?」

「おいおいおいおい……!」


だから一般人なお母さんとお父さんも、それはもう打ち震えて……。


「お父さん、お母さん、念のためしばらく周囲を警戒しておいて。
食料品もちょっと気をつけておいた方がいいかも」


そう言いながら携帯を取り出すと……着信履歴が幾つも残っていた。ドタバタでマナーモードにしていたから気づかなかったよ。


「仕事が回ってきたっぽい」

「恭文……」

「大丈夫だよ。ペーペーの新人なんだし、そこまで難しいことは」

「「でもあなた(お前)、運勢常時最悪だし……」」

「ハモるなぁ! というか、お父さん達にはハモられたくないんだよ!
家庭崩壊という汚い様を僕に見せておいて! 今日だってミサイルを目の前に撃ち込まれて!」

「それは言わないでぇ! すっごく反省しているから! 一生かけて償うからぁ!」

「私も……粉骨砕身の決意で、それはもう……全力で……!」

≪……どちらもどちらですって≫


まぁそんなお母さん達はさて置き、早速着信にリダイヤル……。

なお相手は、PSA会長の劉 蓮明(りゅう れんめい)さん。忍者資格を取ったときから、お世話になりっぱなしな人です。


『――夜分遅くに済まないな、蒼凪……本当に運が悪く遭遇した直後でもあるのに』

「……電話をかけたこっちが言うことを、先んじないでくださいよ。
でもなんですか。ベイブリッジの件なら、現場で神奈川交通機動隊やら、特車二課の南雲さんやらにもいろいろ話しましたけど」

『だったら追加情報だ。ちょうど今、各国のニュースでも話をしているところだが……SSNが入手した映像を、専門家が分析してな。
使われた戦闘機は米国製の【F16】をベースに独自改良。四年前に実戦配備された、航空自衛隊の支援戦闘機【F16J】であるらしい』

「自衛隊……!?」

『同機は青森県三沢の第三航空団ニ個飛行隊を始め、全国で百三十機が配備されている。
航空自衛隊では事故当時の所在確認をしている最中だ』


うわぁ、本当に普通のテロじゃないよ! 自衛隊がやらかしたとなったら、各国の批判……以前に、国の治安や防衛体制はどうするのかって大問題だし!


『今防衛省と警視庁は大慌てだ。
一応防衛省から該当機はなしと声明は出たが、ならベイブリッジを爆破しようとしたのは、誰かという話になる』

「……まさか、僕に自衛隊やらと殴り合えと?」

『それは今後の展開次第だが、こちらもそれに備えた布石を打っておきたい。
お前が南雲警部と知り合ったのもちょうどいいからな』

「どういうことですか」

『お前には特車二課第二小隊について、事件の調査を行ってもらいたい』

「特車二課……第二小隊!?」

『そう……”あの”第二小隊だ』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


日本中が疑惑の戦闘機、及びベイブリッジ爆破にざわめいている。

でも、それでも日常は続く。日々の仕事を捨て置くわけにもいかず、東京は騒がしく動く。


「――で、目撃者の一人が、機材に書かれたそちらの名前を覚えていましてね」


渋滞に巻き込まれながらも、ハンズフリーで連絡中。

なお電話先は事件の時、様子を撮影していたテレビ会社だ。


『……おかしいな』

「は?」

『いや確かにあの時、うちのスタッフが撮影してましたよ……ベイブリッジ。
でもそのディスクはもう、証拠品として提出済みですけどね』

「…………」

『あんた、本当に警察の人?』


……妙な疑いを払うためにも、問題の会社へ到着。

そこにあったのは、大量の録画ディスクと不健康な作業部屋。

そんな中、電話で応対してくれたスタッフに事情聴取。なお手帳を見せて、身分だけは信用してもらえた。


「昨日のニ時頃だったかな。しかし妙な話だね」

「どこの署の者か、名乗りませんでしたか」

「いや。あんたと同じぐらい本物に見えたけどね」


スタッフは手が開いていないらしく、応対しながらも鳥の映像を編集していた。ここでもここなりの日常が続いているわけだ。

もちろんそれができるよう、事件捜査していくのが俺達の仕事だが……しかし、まだ信用されてなかったか。


「ディスクを押収する際に、なにか書類は」

「そういうやり取りは発注元とやったらしくて、私が見たのはクライアントからの指示書だけでね。
ま……なんだって言いなりだからね、うちは下請けだから」

「コピーとか」

「オリジナルすら満足に保存できないのに? マスターを納品したら、素材は全て潰してしまうのが現状だから」


自転車操業……ってのは違うのか? だがなんというか、デジタル社会での発言とは思えない。

デジタルってのは、貴重な資料や文化を永久保存してくれる魔法だと聞いていたんだがなぁ。


「ところでテレビで放映したF16の映像、あなたも見ました?」

「嫌んなるほど見たけど、それがなにか」

「押収されたディスク、あれよりは鮮明なんでしょうな」

「そりゃHDだからね。ホームカメラとは違うよ」

「なにか映ってましたか」


一瞬訪れる沈黙……それがなにか引っかかり、つい語気を強める。


「爆破の瞬間はあったわけでしょう」

「瞬間というか……ま、直後のもんだね」

「あんた見たんじゃないの、その目で」

「そりゃ見たさ。何度も何度も……私が編集したんだから。
でも納期も迫ってたし、使える絵を探しただけで?
なにか映ってないかと思って見てたわけじゃないからね。
映ってると知ってりゃ見えただろうけどさ」

「……」


ここもまた戦場というわけか。毎日毎日そんな繰り返しで、これ以上聞かれても困る……何も分からない。

いや、何も答えられるだけの積み重ねがないという、そんな鬱屈すら感じさせる声だった。


「……もしかしたら」


だが……鳥の映像が終了したからだろうか。


「なにか映ってたのかもしれないな」


男がポツリと、自分の戦場から飛び出た意見を呟いた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――東京都 警視庁・警備部≪特車二課≫隊舎


――――まさか、あの……あの特車二課に来られる日が来るとは。


「――特車二課――」


ぎゅっと拳を握り……ぼろっちいガレージの中に入って、両手を突き上げる。


「キタァァァァァァァァァァァァァ!」

「うるせぇよ! つーか目立つからやめとけ!」

「でもお兄様は、あんなに目を輝かせて……ぽ」

「お前は相変わらず惚れっぽいなぁ……もぐもぐ」

「お兄様限定です」

「…………ほらほら! AV-2ヴァリアント! イングラムに代わる最新型機体だ!」

「……その愛、伝わっているかも怪しいけどな」


白黒の人型ボディは、かの名器≪AV-98 イングラム≫に準拠していて、肩部に大型アンテナを設置。

まずあれ……あれからだよね! スマホを取り出して、写真を撮ってーっと!


「あのアンテナはイングラムだと頭部にあるけど、破損も多かったみたいで位置を変更したんだよ!
あとは可動式のナックルガードを装備! NY市警でも使われた零式の手刀ギミック……その発展!
AVシリーズやそれと戦ったグリフォン……高機動かつより人型に近いレイバーとの格闘戦、その重要性を鑑みた装備だよ!
乗り込むときは後部のハッチから! そこはイングラムと違うんだ!
前面ハッチはロボットアニメ的に正義だけど、前面装甲が弱くなりがちだから!
ブロッケンなどの軍用レイバーにも使われている実績ある仕様だよ! さすがヘルダイバーも担当した篠原重工製だ!」

「圧が強ぇよ!」

「イングラムという傑作機が積み重ねたデータを元に、より実戦的に作られたフォルム……こういうのでいいんだよ、こういうので!」

「へぇ、君詳しいんだね」


そこで後ろから、とても大柄な男性が近づいてくる。

振り返ると温和なその人は、黄色のジャケットを着た……あ、小隊の隊員さんか。


「でも駄目だよ、勝手に入り込んじゃ……しゅごキャラちゃん達も危ないから」

「あら、私達が見えているんですか」

「小さい頃からね。でも三人は多いなぁ」

「夢がたっぷりなんですよ。私のお兄様は」

「お前というか、風花辺りにべったりだがなぁ……っと、恭文」

「うぅ……もうちょっと見たいけど、ここは我慢」

「そうだぞ。一応仕事だからな」


ヒカリに諫められながらもスマホを仕舞って、資格証を提示する。


「自己紹介が遅れました。第二種忍者の蒼凪恭文です」

「え……第二種忍者!? しかも君、小学生なのに!」

「PSA本部からの依頼で、特車二課への協力のためこちらに伺いました。
……第二小隊の後藤隊長、いますか?」


忍者の資格証を見せると、その人――山崎さんはとても驚いた顔をしつつ、隊長室まで案内してくれた。

隊長室はプレハブ小屋みたいな感じで、ガレージ内の二階部分に存在。


「失礼します」

「はいよー」


気の抜けた声が響く中、山崎さんがドアを開く。

中には黒髪オールバックな男性が一人……この人が後藤喜一さんか。

三白眼の瞳はややタレ気味で、見ていると昼あんどん的だけど、カミソリ後藤だからなー。


「後藤隊長、この方が」

「あー、劉代表代理から聞いてるよ。で、蒼凪さんだっけ?」

「はい。初めまして、蒼凪恭文です」

「山崎、ありがと。仕事戻っていいから」

「失礼します。……頑張ってね」

「ありがとうございます」


山崎さんは小さく応援し、そのまま退室。仕事に関しては細かく話してないのに……いい人だなー。

とにかく後藤さんへお辞儀し、そのままデスク前へ。


「えっと、十二歳だっけ?」

「今年の八月で、ですね」

「それで第二種忍者ってまた優秀だねー。資格取得してから結構活躍してるみたいだし」

「まぁ、活躍というか……巻き込まれたというか」

「……おかげで死に神というあだ名がついていますしね」

「し!」

「まぁ、運が悪いのは……なんとなく分かるよ。
南雲さん……課長代理を務めているあの人もさ、涙目だったもの。
家族や幼なじみと出かけていた……完全オフだったのに、ミサイルの直撃を目撃するとか……というか、ぶった切るはめになるとか」

「南雲さん……!」


というか今更言われなくても分かるよ! 知っているよ! だって滅茶苦茶同情の視線を向けられたもの! 神奈川交通機動隊の方々もだけど!

一部のおっちゃんやお姉さんには、頭を撫でられたからね!? 慰められたからね!? 子ども扱いして……子どもだけどさー!


「でも、俺についていても勉強にはならないと思うけどなぁ。見ての通り島流しだし?」

「ただ、PSAとしては有事に備え、現場レベルのパイプを作っておきたいそうなんです。
今回使われたのは戦闘機でしたけど、こちらで対処したグリフォンのようなレイバーが絡む場合にも備えたいと。
……そうなると、警備部で実績もある特車二課に協力をお願いするのが一番ですから」

「それなら第一小隊の南雲さんには?」

「そっちも劉代表代理から話を通しているそうです。
ただ南雲さんは課長代理でもあるんですよね。それなら現場を担当する後藤さんについていた方がいいと……」

「まぁ筋は通っているかぁ。
でも……えっと、経歴を見ると……あぁ、レイバーの操縦資格は持ってるんだね」

「忍者資格を取ったとき、どうせだから一緒にと勧められまして」


そう……それこそが、僕がここに送り出された理由の一つ。

レイバー犯罪にも対応するなら、レイバーの操縦資格は必要。もちろん相応の技能もね。

でも忍者でレイバーに乗り込める人って、実はそう多くないのよ。その問題が体格絡み。


通常の作業用レイバーならともかく、イングラムみたいな密閉型コクピットにもなるタイプだと、体格制限が発生するんだ。

実際うちの風間会長はそちらに引っかかり、イングラム系列≪AVシリーズ≫には乗られなかった。

僕も子どもゆえの体格を見込まれて、それで操縦を仕込まれたんだけど……その辺りも、ここへ入り込むのにいい札になったってわけだ。


「だけど、専門は異能やオカルト事件なんだよね」

「霊障絡みにも何度か関わって、対処したので」

「じゃあ、いわゆる……霊能力者というか、超能力者?」

「それはご想像にお任せするという感じで」

「ならレイバーの操縦は……うちのヴァリアントとかもいけそう?」

「AVシリーズの操縦研修課程は、つい最近特車隊員養成学校の最終クラスレベルまでクリアしています」

≪というか、そもそも先日のお出かけは、その終了祝いだったんですよ……≫

「そりゃまた、運が本当にないんだなぁ……。でも特車隊員かぁ」


後藤さんがちらりと、訝しげに僕を見やる。


「じゃあさ、太田功って知っている?」

「はい。一か月の短期コースでみっちり教えてもらい……って、そうですよね! 太田先生、第二小隊では二号機のフォワード担当で!」

「お前さん、よく太田に付いていけたねぇ……」

「まぁドラマの体育教師みたいな人ですけど、実戦的で分かりやすいし、凄く楽しかったですけど」

≪……よく言いますよ。とどめを刺すのは忘れるなって指導された結果、二人揃って標的やら備品を壊しまくったくせに≫

「………………はぁ…………」


後藤さん、あの……なんですか? その諦めと嘆きが混じったため息は。


「……アレは、ヒドかったな……」

「本当に……悪夢を見せられているような流れでしたね。他の受講者や教官もフリーズしていましたし」

「というか、それで一緒に怒られてこれなんだよな! その太田先生の同僚だった進士さんにも叱られたのによ!」


……っと、また説明が必要か。


「おい、待て! モノローグに入るな! 都合の悪いことをすっ飛ばすな! つーか講習を無事に終えたことそのものが奇跡だったレベルだろ!」

「太田の教え子……しかも同じタイプ……。
蒼凪、絶対レイバーには乗るな。うちのヴァリアントも、使わせないからね?」

「まぁ元々の割り当てはあるでしょうし、そこは割り込むつもりもありませんけど」

「そういうことじゃないんだけどなー! え、いっつもこの調子なの!? ちょっと、ぬいぐるみさん!」

≪残念ながらこの人、基本バーサーカーなんですよ≫

「そりゃ太田と馬も合うわ!」


よく分からないけど――――とにかくイングラムというのは、レイバー開発会社≪篠原重工≫が社運を賭けて送り出した一大傑作機体。

見る者の心理的威圧も加味された”あえての”ヒーローロボットフォルムで、細身ながらの機動性と、それに見合わぬパワーも特徴。

でも一番凄いところは……人型で五指、柔軟な運動性を生かしたアクション、更にシステム学習による動作の効率化だろう。


操縦者の技術次第では、バックドロップや一本背負いなども容易く可能。まぁ余り無茶すると、腰や膝のアクチュエーターがイッちゃうけどね。

……え、人間と同じく手があることが利点なのかって? そりゃあもちろん、立派な利点だよ。

リボルバーカノンやスタンスティックなどの武装も追加し、状況に応じて使用できる。それも即座に、難しい換装作業を省いてだよ。


そしてそういう基礎機能も操縦データを蓄積し、その動作を効率化させてより高度な機動を可能とする。

イングラムはあくまでも重機の範囲に留まっていたレイバーを、近未来的なロボットに推し進めた転換点でもあるんだ。


レイバー犯罪増加の一途を辿っていた三年前、特車二課の設立に合わせ、篠原重工からは三機が支給された。

イングラムはそれまでのレイバーとは一線を画する性能で、数々の事件や現場に対応し、解決していった。

まぁ機体自体はもう篠原重工に戻され、テスト用に使われているらしいんだけど……系列機も多く排出していてね。


その一つがヴァリアントであり、零式。その前には性能とコストを下げて、量産しやすくしたエコノミーっていうのもある。

だから僕も研修という形で、AV系列の操縦を念入りに練習した。警察の採用機体である分、触れる機会も多くなるしね。


「でも……でもさ…………」


すると後藤さんが冷静さを取り戻し、とても目を丸くして……急に感心した視線を送り始める。


「よく、平気だよね」

「はい?」

「天国に行かされる気分で、地獄に落とされたんだよ……イングラムのシミュレーターでさ」

≪シミュレーター……って、あれですか≫

「搭乗適正で三半規管を潰されたと……」

「それ」


そうそう、そんなイングラムだけど……問題点もある。

まず画期的かつ高性能ということで、運用・維持コストがそれなりに高い。

もちろん警察という公営組織で使うものだし、篠原重工のバックアップも万全ではあった。


だけど僕が聞く限りだと、特車二課で主だって運用されていた二機は損傷もそれなりで、パーツ供給が間に合わないときもあったとか。

そのため試験用の装備なども現場へ送り、間に合わせで使うこともあったため、時期によって二機のフォルムは多少なりとも変わっていた。

実際その辺りを問題視して、もっと安価で大量に運用できる量産型≪エコノミー≫への転換も検討されていたんだ。


ただこの辺り、件のグリフォン事件……イングラムより高性能な違法レイバーの出現により、数より質と結論づけられて立ち消えになったけど。

二つ目の問題は、さっきも触れた体格制限。それまでと違う人型のフォルムは、やっぱり乗れる人を制限しちゃう。

そして三つ目……これが、後藤さんを地獄へ送った要因なんだけど。


……………………滅茶苦茶、乗り心地が悪い。


考えてもほしい。体格によっては乗ることすらできない密閉型コクピットに押し込められて、レイバーを動かしたらどうなるか。

高さ六メートルだか七メートルの辺りで、コクピットごと上下左右に揺られたら一体どうなるか。

なぜZガンダムでリニアシートや全展周モニターが採用されたか。リニアシートはなぜアームで支えられているか。


そう……単純にお尻が痛くなるとかそういうレベルじゃない。三半規管がミキサーにかけられ、崩壊しかねない衝撃を与える。

もっと端的に言えば、吐く。一瞬で酔って、最悪な気分のままで吐く……吐いてしばらく動けなくなる。

まぁこれも体格問題と同じく、後継機≪ヴァリアントや零式≫では多少改善されているけど……それでも乗り心地は悪い方だ。なにせ運動性に比例していく問題だもの。


……実際レイバー免許を取ったあと、AVシリーズの操縦課程を受けた際はヒドかった。

最初にやったのは適性試験。後藤さんも言っていたシミュレーターで、実際にそういう揺れに対応できるかを試すのよ。

でも百人近くいた受講者のうち、クリアできたのは僅かに一名。つまり……僕だけ。


その僕も結局短期コースだったから、太田先生がふだんの講習に加えて、マンツーマンでいろいろ教えてくれたってわけ。

でも……ほんと、いい経験させてもらったなー! いろいろ手をかけてくれた劉さん達にも感謝しているよ!


「でも、全然平気でした……三半規管なんて取っ払ったみたいに」

「それ、人間として死んでいるからね?」

「ロボットに乗り込んで動かすって、やっぱり夢だったんです! 特にイングラムは大好きでー!」

「……うちにもいたよ。レイバー大好きで、イングラムに愛着持ちまくっていたのが」

「泉野明巡査ですね! グリフォン事件での決闘は何度も見ました!」

「まぁ本人はパートナーだった篠原遊馬ってのと一緒に、装備開発課に転属しちゃったけどさぁ。残念だったね」

「まぁ、それは仕方ありませんから」


そうだそうだ……特車二課の初期メンバーは、この後藤隊長と……山崎さんを置いて、大半が別部署に異動しているんだよね。

今言った泉野明さんが一号機の操縦担当で、篠原遊馬さんがその指揮≪バックス≫担当。

二人は本庁内に去年新設された装備開発課に転属して、現在は篠原重工八王子工場にテストパイロットとして出向している。

それで太田先生が、特殊隊員養成学校……レイバー操縦者の先生になった。


そのバックスだった進士幹泰さんは、現在総務部の総務課長さん。あのときも査察に来ていたんだよ。

そうそう、この人は胃薬が大好物でね。僕と太田先生が楽しく模擬戦したあとも、一杯飲んでいたんだー。


≪それより、実は松井さん……こちらと付き合いも深い刑事さんから、PSAに連絡がありまして≫

「え、話進めちゃうの? 俺置いてけぼりだよ?」

≪戦闘機の映像を撮ったらしい撮影会社に行ったんですが……その映像ディスク、もう回収されていたんです。警察を名乗る何者かによって≫

「……あらら……」


そこで後藤さんの目が細くなる。それも鋭い眼光だ……!


≪今日の二時頃です。スタッフは作業的に映像編集していて、細かいところは覚えてなかったと≫

「松井さんはもうちょっと探ってみるとのことで、連絡はこっちに任せてくれたんですけど……」

「なるほどね……」

「ふぅ……」


そこで隊長室に女性が入ってきた。暗めの髪を一つ結びにした……というか、南雲さんだった。


「……って、蒼凪君! あなた……あぁ、そうだったわね。PSAの方から付いているようにと」

「これからお世話になります、南雲さん」

「こちらこそよろしく。ただ……後藤さんには注意しておいてね」

「はい?」

「また松井さんと組んで、なにを始めたか知らないけど……大体何も言わずに勝手をするのよ。
いっつも裏でこっそり動いて、私や元いた課長に割りを食わせるのがお決まり」


南雲さんは部屋にあるもう一つのデスクに着席し、少し厳しい視線を送ってくる。


「なので後藤さんも、今回はそういうのはなしで。かなり特殊な状況下なんだし」

「……それって、課長代理としての命令?」

「命令なんてしたくないわ。同僚としてのお願い」

「お願いじゃあ聞かないわけにはいかないか」

「蒼凪君もお願いね。後藤さんは悪巧みが得意な人だから……あと、影響は受けないように。
ミサイルを斬れるくらい凄い剣術家さんなんだから、そのまま真面目に極めましょうか。柳生宗矩辺りを目指して」

「は、はい……」

「そりゃないよ、しのぶさんー」


その忠告と脱力した後藤さんには、苦笑いしか返せない。

というか、あの…………。


≪……だったらあなた、何も言えないじゃないですか。悪巧みとか大好きでしょ≫

「割りを食わせていくスタイルも……よくやっているよなぁ」

「だったらこれを機会に、真人間に戻りましょうか。ご両親や可愛い幼なじみさんも心配するもの」

「真人間!?」

「しのぶさんー!?」


というか、後藤さんはどんだけなの!? 真人間というワードが強すぎて、もう笑えない! まるで悪党に対しての評価だもの!


「――失礼します」


これから大丈夫なのかと不安になっていると、ノックの上で山崎さんが入ってきた。

ちょうど後藤さんとの間にいたので、さっと脇にズレる。


「あの、隊長にお客さんなんですが」

「隊長二人いるけど、どっちの」

「さあ」

「誰なの」

「……さあ」


…………山崎さんは僕から見てもしっかりした人だし、その辺りを聞かなかったとは思えない。つまり”相手が答えなかった”。

それに怪しいものを感じたので、僕も同席を決定。そうして対面した人は…………外見から怪しかった。


「陸幕調査部別室……の、荒川さんね」


釣り上がった細目に人の悪そうな人相、丸眼鏡で角刈りに黒スーツ……どう見てもまともな人じゃない。

しかも後藤さんが受け取った名刺もおかしい。名刺なのに、連絡先の類いが一切書いていないのよ。


「住所どころか、電話番号もないんですね」

「……なぁヤスフミ、こんな名刺ってあるか?」

「僕の知る限りは、ない」

「まあいろいろ不都合がありまして」

「で、ご用件は?」

「本題へ入る前に、ちょっと見ていただきたいものがありましてね」

「僕、いない方がいいですか?」

「いや、問題ない。これなんですが」


荒川さんが取り出したのはディスク……まさかこれは。


「お願いできますか」


そこで荒川さんが見るのは、ちょうど背後にあるモニターとプレイヤー。

ディスクは僕が受け取り……ほら、一番年下だし。


すぐにプレイヤーに入れて、再生をポチッと…………するとムーディーな音楽が流れて。


――思い出のベイブリッジ――


堂々と曲名に、夕焼けの海と、それに染まるベイブリッジが……って、カラオケ映像!?


「……なんじゃこりゃあ!」

「ショウタロス先輩、うたえ」

「そうですね。美声を期待していますよ」

「無茶振りすんじゃねぇよ! おい、なんだよこれ……このディスクで合ってんのか!」

「……荒川さん、渡してもらったディスクでよかったんですよね」

「いいんです。これで」

「この曲、俺うたえるわ」


後藤さん、その情報は必要ないです。でもベイブリッジ……あぁ、そうか……!

映像って聞いていたけど、カラオケ映像だったのか! それならこの微妙な空気も納得だ!


「まあこの辺はどうでもいいんですが……うたいますか」

「マイクないんだよね」

「じゃあ飛ばします」


荒川さんがプレイヤーのリモコンを操作……なおおっちゃん二人の会話によって、南雲さんはとても頭が痛そうにこめかみグリグリ。


「……心中お察しいたします」

「ありがとう……! だからほんと、真人間に戻りなさい……今なら間に合うから」

「僕が既に悪党みたいな言い方はやめてください!」

「あなたは同じ匂いがするのよ! 三年間泣かされ続けた私が言うんだから、間違いないの!」

「なんの断言ですかー!」

「……本当に泣かされ続けたんだろうな……もぐもぐ」


ヒカリ、納得しないで! 圧が強くてちょっと引くレベルなんだから!


「この辺です」


そうこうしている間に、映像はほんの少しだけ早送り……でもすぐに一時停止された。


「えっと……惚れて惚れて、泣いて泣いて?」

「いえ、その後です。ああ、雨に濡れながら――ここです」

「……どこ?」

「ほら、右上の。この雲の切れ目のとこ」

「ん? んん……ん!」


後藤さん、荒川さん、男二人で画面に顔を近づけるのは…………って、ちょっと待って!


「あ……!」

「雲の切れ目……お兄様」

「うん、なにかいる! 黒い鳥みたいな影!」

「どこ? 私には見えないけど」

「ここですよここ! この黒い鳥みたいな影!」


そこでビシッと影を指差しすると、南雲さんも気づいたようで目を見張る。


「……後藤さん、それに蒼凪さんはもうお分かりのはずだ」

「このすぐ後に、ベイブリッジが攻撃されたんだ」

「――!」

「それで僕とお父さん達は、あの場で五時間近く足止めを食らって、虚無を……!」

「まぁまぁ……ベイブリッジが吹っ飛んで、死者が出るよりマシだったよ。いや、本当に」

「これを踏まえた上で、もう一本のディスクを見ていただきたい」


荒川さんによってディスクが取り出され、もう一枚……別のディスクをセット。再生が始まる。


「改ざんの余地がないよう、作業の過程を全て収録してあります」


映ったのはさっきのシーン。そこに編集用のウインドウが展開し、黒い小さな影を枠線で囲む。

その上でズームアップ、トリミングすると……あら不思議。

鳥みたいな影は、くっきりとした戦闘機になりました。


「デジタル技術の驚異ってやつですな。……分かりますか」

「あんまり詳しくないんですが、放映された例の映像とは形が違うような」

「ノズルの形状が違いますよね。それに翼も……」

「その通りです。では……お、きました」


ご丁寧にテレビで放映されていた画像と、今トリミングした画像を照合している。

結果僕が覚えていた通り、ノズルと尾翼、両翼の形状が違う。

機体のラインはそのままなんだけど、荒川さんが持ってきたのはより鋭い形だった。


「左がディスクのもので、右がテレビで放映されたもの。
よくご覧なさい。左が最新型のステルス翼――これはごく最近開発されたベクターノズル。
そしてここからが本題ですが、自衛隊はこのタイプのF16を……装備していない」

「は……!?」

≪しかも最新型ってことは、やっぱり普通のテロリストじゃありませんよね。それこそ……そういうものが支給される軍事組織が≫

「ちょっと待った。その前に、どうしてうちにその話を」

「無論真相究明に協力していただきたいからですよ。最悪の事態に備えて、現場レベルでのパイプを警察との間に確保しておきたい」

「……それ、ついさっき聞いたんだけどなぁ」


……後藤さん、僕を見ないでください。それについては僕と言うよりPSAの意見なので。


「もちろんそのためには我々の入手した情報は全て提供します」

「最悪の事態とは、どういうことかしら」

「……どうです。ドライブでもしませんか。近場をぐるっと」


この誘いに乗らない理由は……どこにもなかった。

そう、なかったんだ。僕達はもう”戦争”の目撃者となっていたから。


(0.2話へ続く)








あとがき


恭文「……なにをやっているのよ、作者ぁ……しかも映画のセリフ部分以外、ほぼほぼ書き直しな勢いで」


(いや、自分で設定を固めるために弄っていたら、こうなってしまって……)


恭文「というわけで、作者がいろいろ検査やらで止まっていた小説執筆……リハビリがてら、隙間話としてTOKYO WARをもしもの日常Ver2020版として出すことに。
まぁ同人版でもやったお話ですけど、ちょこちょこ違う部分は入れつつ、同人版からはカットしたシーンなどもあります」


(柘植の舞台が全滅するところとかですね。あれは頑張って書いた)


恭文「まぁ追加シーンは次のところでもいろいろあるので……これから作るので……」


(いや、作っているよ? 関わり合いのない人とか出てくるよ?)


古鉄≪それより私達の変身、ちょっと変えましょう≫

恭文「いきなりだね!」

古鉄≪なのはメダル、フェイトメダル、はやてメダルをアイゼンライザーに装填するんです。
そして…………ご唱和ください! 我の名を!≫

恭文「アルトアイゼンー!」

古鉄≪どうも、私です≫


(真・主人公……どやぁ)


恭文「……いいね、これ」

古鉄≪でしょ?≫

あむ「馬鹿じゃん!? それウルトラマンZじゃん! あとご唱和くださいってやりたいだけじゃん!」

恭文・古鉄≪「もちろん!」≫

あむ「ウルトラ馬鹿だし!」


(どうやらみんなでウルトラマンZを応援しているようです。
本日のED:遠藤正明『ご唱和ください! 我の名を!』)



恭文(もしもの日常Ver2020)「六年前の冬……雨宮天さんがアーティストデビューする前だね」

ティアナ(もしもの日常Ver2020)「だからなに!? アンタはその前に自首をしなさい! とにかくしなさい! 意味が分からなくてもいいから!」

スバル(もしもの日常Ver2020)「ティア、落ち着いて! これ0.1話! その話が出るのはもっと後!
……でも恭文、ホント好きなんだね。ゆかなさんも大好きだって知っていたけど」

恭文(もしもの日常Ver2020)「歌声がね、スーッと入ってくるの。凄い奇麗なの。
外見ももちろんすっごく好みなんだけど、まずそれだけでもうドキドキしてー」(もじもじ)

スバル(もしもの日常Ver2020)「分かる……私も分かるよ! 足が奇麗だよね! あれほんと羨ましい!」

ティアナ(もしもの日常Ver2020)「え、なに……なんでアンタ、乗っかっているのよ。なんで通じ合えるのよ! なんか怖いんだけど!」


(おしまい)






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