小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第28話 『Wの世界/Iに包まれて 新しい仕事は死の匂い』 恭文「前回のディケイドクロスは」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「海東さん、どういう事ですか。こっちの恭文は、魔法も使えないただの人間ですよ?」 「ただの人間? オノD君、それは勘違いだよ。……君が『W』のガイアメモリとロストドライバーを持っている事。 それを使って類まれな能力を持ったドーパントに変身できる事、既に調べはついている」 そこで全員が息を飲み、僕を見てくる。でも驚いているのは、僕も同じ。それは僕と束を筆頭に、一部の人間しか知らない事。 ……いや、みんなに見せた事はある。こんな事になるとは、想像してなかったから。 「いや、仮面ライダーと言った方がいいかな。君と同じようにメモリとドライバーで変身するライダーは、他にもいるからね」 「そこまで知ってるか。……泥棒ってのはそういう意味ですか」 「納得したら君が持っているWのガイアメモリと、ドライバーを僕に渡したまえ。お宝は僕が持っていてこそ、意味がある」 戦いから離れて、静かな日常の中で夢を育てる。そんな毎日を過ごす事すら、許されないらしい。 別にそれ自体はいい。戦う覚悟なら、とうにできている。でも……胸の中で、迷いが渦巻いていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文「というわけで、詳しくは記念小説『自分を変えるということ』をご覧に……なにこれっ! 類まれなメモリってなにっ!」 もやし「まぁ無駄に詳しかったからな、納得したわ。てーかあれか、自分の正体がバレるから、俺達を追いだそうとしたわけか」 ユウスケ「でも海東さん……空気読まないなぁ、どうすんだこれ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……プロデューサーさん」 「う、嘘だろ? プロデューサーがドーパントって」 「春香、響、落ち着きなさい。プロデューサーが怪物だと言うのですか?」 「怪物だろう?」 海東とやらは貴音の言葉に軽く返し、僕を射抜くようにじっと見つめる。その姿に隙は……ない。 「ガイアメモリは人の身体を依り代として、地球の記憶を再現する装置。 それによって身体を作り替えられるんだから、立派な怪物さ。 いや、ドライバーのおかげで精神汚染は免れるから、怪物ですらないか。 彼は怪物にもなり切れず、人にもなり切れない中途半端な生き物さ」 「何者かは存じ上げませんが、それ以上の暴言は許しません。 この方は怪物などではありません。それはわたくしがよく知っております」 「貴音」 前に出ようとした貴音を左手で制して、みんなを巻き込まないように左へズレる。 川とは反対方向に移動する僕を見て、海東は警戒を強めた。 「お前が言っているのは、これだね」 そう前置きした上で、懐からメモリを取り出し……スイッチを押す。 ≪Wizard≫ 「プロデューサー、それ……あぁっ! そうだそうだ、それもメモリじゃないかっ!」 「じゃあ、本当にっ!?」 「うん。財団Xをやり合った時、ドライバーと一緒に入手してね」 ここでの問題は、みんなの驚きじゃない。海東がどう反応するか……海東は嬉しそうに笑って、僕に近づいてくる。 「さぁ、渡してくれたまえ」 「だが断る」 でもそう言い切った事で、海東の足が止まる。やっぱりこのメモリがお目当てか。 疑問はあるけど、もうちょっとみんなから距離を離そう。 「このメモリもドライバーも、誰にも渡すわけにはいかない」 「戦いもしない今の君が持っていても、意味がないだろう?」 「意味があるかどうかは、僕が決める」 神速――発動。僕の世界が色をなくし、体感速度が一気に0へ近づく。ゼリー状の空気の中、僕は踏み込んだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そう、それじゃあしょうがない」 あの人が右手からなにかを取り出した瞬間、プロデューサーの姿が消えた。 それであの人は、慌てた顔でそのなにか――銀色と青の銃を取り出す。 でも銃を持った腕はいきなり跳ね上げられて、銃本体も空中へ高く投げ出された。 するとあの人の目の前にプロデューサーさんが……え、どうしてっ!? あの人は50メートル以上離れてたのにっ! それに驚いている間に、プロデューサーさんは宙返り。それであの人が吹き飛ばされて、地面に転がる。 プロデューサーさんが着地する直前に、銀色の光が走って銃に絡みつく。空中にあった銃は、一気に下へ移動。 落ちるなんていうスピードじゃなくて、引き寄せられたんだと直感的に悟った。それは着地したプロデューサーの右手に収まり。 「It's」 プロデューサーがそれをあの人へ向けていくと、銃口っぽいところから眩しい光が生まれる。 連続的に甲高い音と地面が砕ける音が混ざって、あの人は反射的に川と反対方向に飛んだ。 地面を転がるあの人へプロデューサーさんはゆっくりと向き直り、改めて銃口を向ける。 そうしながらプロデューサーさんは左手をあの人へ向け、指を二回鳴らした。 「Show Time!」 え、えっと……銃を奪って? 撃った? ……駄目っ! 理解を完全に超えてるっ! てゆうか今のなにっ! なにが起こってどうなったのっ!? 全然見えなかったんだけどっ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 春香が見えないのは無理もない。今回は特別に、なにが起こったかを解説しよう。 神速を使った火野恭文は超加速で海東の懐へ入り込み、徹も込めた蹴りで銃と腕を打ち上げる。 本気の攻撃なのでこの時、海東の右手には甚大なダメージが加算された。ようはヒビが入りました。 跳ね上げられた銃と折れた衝撃に海東が驚いている間に、サマーソルトキックで胸元と顎をけり飛ばす。 こちらも徹込みだが、海東も今回は即座に反応。後ろに下がる事でダメージを軽減した。 サマーソルトしつつ火野恭文は、ワイヤーベルトを投擲してディエンドライバーを確保。一気に自分の元へ引き寄せる。 あとは自分へ踏み込もうとしていた海東へ銃口を向けながら、トリガーを引くだけ。実に簡単なお仕事です。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「……これは驚いた。僕より速いとは」 「お前が遅すぎるだけだ」 「プ、プロデューサー……本当に強かったんだな」 「当然。まぁもう一人の僕も、これくらいできるだろうけど。むしろできなきゃ弛んでるでしょ」 あれ、その蒼凪さんがダメージ受けてるんですけど。悶え始めたんですけど。プロデューサー、傷口えぐってません? 「さぁ、どうする? ショータイムを続けたいなら、それでいいけど。 ただしフィナーレは、お前の死だ。足だけじゃ済まないよ」 そう言われて私達は、ハッとしながらあの人の足を見る。……すると左足から、なにかが流れ出していた。 もしかして、血? さっき撃ったので……私は顔を青くしながら、プロデューサーさんを見た。 「てゆうか、そんな痛がられても困るよ。ただ掠っただけなのに。 春香達に感謝するんだね。みんながいなきゃ、もうちょい荒い対応をしていた」 「あー! はいはい、そこまでっ! やめとけってっ! なぁプロデューサー、アイツも根は」 その瞬間、プロデューサーさんはヒビキさんに銃口を向ける。さっきの射撃を思い出してか、ヒビキさんの動きがそれで止まった。 「黙れ疫病神が」 「え、既に疫病神認定っ!?」 「疫病神でしょうが」 そう言いながらプロデューサーさんが、左手を素早く動かす。するとあの人の足元に、また着弾音みたいなのが聴こえた。 そこを見ると、なにか手裏剣みたいなのが突き刺さっている。……どうして投げたっ!? 「おのれらのせいで、こんな邪魔者まで来るはめになった。ホント反省して、川に身を投げ込んでよ。この劣化ヒビキさんが」 「ちょ、劣化扱いっ!? 扱い悪過ぎだろっ!」 そう言ってプロデューサーさんは、改めてあの人へ銃口を向ける。 「いや……ヒビキさんは後輩との付き合いとか、指導関係とかド下手だったな。 じゃあ劣化じゃないや。ごめんなさい、ヒビキさん。ヒビキさんはそのままでしたね」 「やめてくれよっ! 過去のあれこれとか思い出すからっ! 泣きたくなるからっ!」 「ならここは、ガン無視でOKだね。いやぁ、ヒビキさんがそのままでよかった」 「どういう基準っ!?」 なんか私達では分からない会話が繰り広げられている間に、あの人は立ち上がって後ずさりし始める。 「今日のところは引き下がるとしよう。だがそのメモリもディエンドライバーも、必ず返してもらう」 「メモリはお前のものじゃない、僕のものだ」 「いずれ僕のものになる。問題はないさ」 あの人は走り去って、近くの茂みに消える。プロデューサーさんは静かにため息を吐いて、あの銃を懐にしまった。 「というわけで、スイーツ食べに行こうか」 『この状況でっ!?』 「いいからいいから」 歩き出したプロデューサーさんに、いろいろと気になる惨状を置いてけぼりでついていく。 「……蒼チビ二号、どういう事だ。説明しろ」 「まさか、おのれがこの世界の」 「仮面ライダーなんかじゃないよ。僕は……ただのボディガードだ」 「そう、だったら安心だ。ほら、フェイトとギンガさんがまたうるさくなるし、この事は黙っておこう」 「自分それでいいのかっ!? 自分だってツッコみたいぞっ!」 響ちゃん、全く同感。どれだけ面倒だと思われてるんだろう。でも……それより私は、プロデューサーさんの事が気になった。 プロデューサーさんの背中は、どこか寂しげだった。それでこう、今までよりも距離を感じるの。 世界の破壊者・ディケイド――いくつもの世界を巡り、その先になにを見る。 『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路 第28話 『Wの世界/Iに包まれて 新しい仕事は死の匂い』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 無事に生放送も終わったから安心してたら、なんかとんでもない話が出てきた。なので当然のように。 「恭文君、どういう事っ!? あなたがドーパントってっ!」 翌日、社長室で詰問開始。さすがに想定外過ぎて、語気が荒くなるのも許してほしい。 「ですから、財団Xとやりあった時にメモリを使う必要があったんですよ。 生体コネクタだとちょっとやばいんで、ドライバーも一緒に頂戴して」 「頂戴してじゃないわよっ! と、とにかく警察に渡して、処分してもらうからっ!」 「そんな事したら、律子さんは死にますよ? ミュージアムに目をつけられて」 「なにそれっ!」 「ガイアメモリの開発元。そして財団Xが、現在最優先で投資している裏組織です」 なにをバカな事をと思ってたけど、恭文君は真顔だった。それで一気に頭が冷える。 「ミュージアムは開発したガイアメモリを売りさばく、シンジケートなんですよ。麻薬とかと同じ感じです」 「だからアウトって、そんなのアリっ!? それだと警察の中に、ミュージアムの手下がいるみたいじゃないっ!」 「その通りですよ。ここは手下というより、顧客という言い方が正しいかもしれません。 実際ドーパント事件は結構起こってるのに、話は広まらない。 ……ミュージアムが裏で手を回して、話が出ないようにしているんです」 「だからこそ、警察に話した場合察知され……消されると」 社長の言葉に頷きを返し、やや困った顔で恭文君が頭をかく。あの、その顔やめて。私が悪い事言ってるみたいで、かなり辛いから。 「では君がそのメモリを持っている事に、不具合はないのかね」 「ありません。そもそもこのメモリは、財団Xが開発したもの。ミュージアムはその事実すら知らない。 そして財団Xは、一度失敗した作戦に関して手を伸ばしてきたりはしない。……あー、説明が抜けてましたね。 一つの作戦ないし投資対象に、エージェントが一人ついてるんですよ。それが交渉とかを全部請け負う。 なのでそのエージェントになにかあった場合、即座に投資関係は打ち切り。財団はそこから手を引きます」 「つまり?」 「僕はあの国で財団Xと喧嘩して、エージェントとそれに連なる奴らを根こそぎ始末した。結果財団はあの国から手を引いた。 ここでWのメモリを追えば、自分達から尻尾を出すのと同じ。そこに関しては、かなり警戒しているようです。 なので見切りを手早くつけ、別の投資対象で金を稼ぐ。……もちろんメモリの事がバレない方がいいですけど」 「もしくは新しく、同種のメモリを作る。技術が自分達の手にあるなら、こだわる必要はないという事か」 ならミュージアムがここででしゃばる理由もないけど、ここも答えが用意されている。 この組織は恭文君の話を聞く限り、自分達の存在を隠蔽している。 だからこのメモリに限った事じゃなく、メモリの事が表立って話に出るのを止めたい。 そういう理由なら……確かに警察を頼るのは、かなりマズいかも。少なくとも信頼できる人じゃないと。 それならそういう人に頼ればとも思ったけど、この子がその一人だった。……なんかもう、イラってした。 「随分慎重な組織なのだな。それは確かかね?」 「確かです。そこの辺りはまぁ、いろいろ情報源があるんで」 「なら問題ないようだし、任せていいんじゃないか?」 「社長っ!」 それは駄目と声をあげたものの、社長と恭文君の言う事も分かって頭をかく。 「……確かにメモリは恭文君の方が専門だしなぁ」 この子が我が身を守るために、そういう嘘をついているとは思えない。今の話は、ちゃんと裏付けも取っていると見ていい。 だとすると、一般人な私が騒ぎ立てて下手に動くと……結果私は、無力さをかみ締めつつこう言うしかなかった。 「分かりました、ここは恭文君に任せます。本当ならやよいに言った感じにしたいけど、あなたがその頼るべき相手だし」 「助かります。ここでゴネられると、強制的にエビフライテールにしなきゃいけなくなる」 「なんの話っ!?」 ちょっと、その期待の眼差しはやめてよっ! 絶対嫌だからっ! この髪型の方が気に入ってるんだからっ! 「……でもメモリを狙ってる人はどうするの? もしみんなになにかあったら」 「僕のせいみたいに言われても困りますよ。完全に正体隠して対処してたのに、どうしてバレてるのかさっぱりですし。 しかもそれが財団Xやミュージアムならともかく、別世界のライダーですよ? もう登場自体がイミフですよ」 「それはまぁ」 「それで春香くん達の話だと、そのメモリは特別なものらしいが……どういう事だね」 「こういう事です」 あの子は右手でメモリを取り出し、根本のスイッチを押す。 ≪Wizard≫ メモリから聴こえた音声は、以前見せてもらった時のと変わりない。でも……そうよね、どうしてここで気づかなかったんだろう。 「このメモリに刻まれている記憶は『魔導師』――魔法使いって言えば分かります? そもそもドーパントは人を依り代にして、その記憶が再生された存在です。 だからこそ、その記憶に基づく特異能力が使える。このメモリの場合」 「もしかして、魔法が使えるの?」 「魔法っていうには、少しチャチですけどね。……これはマジック。タネがあるんですよ。 それで変身用のドライバーも、興味を持った束に預けっぱなしなんで」 「そうだったのか。では精神汚染も」 あ、そうだ。ここが一番の問題なのよ。大丈夫そうではあるけど、一応確認しておく。 「ドライバーですから、ありません。まぁそこを信じてもらうとしたら、今から服を脱ぐしかないですけど」 「「はぁっ!?」」 「メモリを使う時、一度スイッチを押してから挿入するんです。ここはドライバーでもコネクタでも変わらず。 それでコネクタの場合、その動作に反応して身体に浮かび上がるんです。ふだんは隠れた状態なんですけど」 なるほど、だから服を脱ぐしかないと。それでこの子の身体にそれっぽいのがあるなら、コネクタ使用が確定。 「……って、そう言いながらコート脱がないでよっ! ほら、私がいるからっ!」 「律子さん、そこまで追求するんだから覚悟はあったでしょう?」 「ないわよっ! あんまりに予想外過ぎるしっ!」 「まぁまぁ。……よし、この件は君に任せる。律子君も問題ないようだしね。ただまぁ、できるだけ穏便に頼むよ?」 その瞬間、ほんの数秒だけ場に静寂が訪れる。それであの子の頬に、一筋の汗が流れた。 「もちろんです」 「ちょっとちょっと、今の間はなにっ! どうして即答しなかったのっ!」 「いや、向こうの主武装も奪って、腕や足に怪我させてるから……既に穏便じゃないなと」 「そ、そうだったの。まぁその、これ以上はない形で頼むわね? ほら、春香達もいるから」 「はい。それでは失礼します」 それで恭文君は深々とお辞儀して、社長室から出た。その姿を見送ってから、私は右手で頭を抱える。 「うぅ、大丈夫かしら」 「まぁ心配はいらないよ。彼はどうも、メモリを使いたくないようだ。 門矢くん達と協力する形で対処するだろうし、一人では突っ走らない」 「え、それってどういう」 「さぁね。もしかしたら、怪物になるせいかもしれない」 社長は胸に突き刺さる言葉を口にしながら、あの子が出ていったドアをじっと見ていた。 「人の領域を超えるほどに鍛えていると言っても、まだ十代後半の若者だ。 思うところもあるだろう。実際自分が仮面ライダーだという話は、否定したようだしね。 そもそもメモリとドライバーがセットで扱うものなら、片方だけ持っているのもおかしい話だ」 「そういえばあのメモリは、ドライバーじゃないと使えないって言ってましたね。じゃああの子が黙っていたのは」 「そういう事なのだろう。鬼になるのとはまた違うから、戸惑いがあるのかもしれない」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「にいちゃーんっ!」 「亜美真美ダイブー」 社長室を出た途端、亜美達が飛び込んできた。それをすっと避け、自分のデスクへ戻っていく。 「ふぇー! 兄ちゃんが避けたー!」 「真美達がせっかく元気づけようと思ったのにー!」 「亜美、真美……ごめん。ちょっと反省したんだ。最近法律が厳しくなってるから、あんまり派手な接触は命取りに」 「「なんの話っ!?」」 「プロデューサーさんっ! あの、ドーナツ焼いてきたんですっ!」 次に出てきた春香の脇を通り過ぎつつ、差し出された紙箱の中へ手を伸ばす。 大きめな箱内には、30個近くのドーナツ。そのうちの一つを取り出し、こっちへ振り返る春香へアピール。 「あれ、いつの間にっ!」 「頂くよ、実に美味しそうだ」 「遅いですよっ!? でもあの……はいっ! もうじゃんじゃん食べちゃってくださいっ!」 デスクに座ってドーナツをひとかじりし、その濃厚な甘さに顔をしかめる。でも気持ち悪いとかじゃなくて、むしろ気持ち良い。 それで春香は僕の後を追ってきて、笑顔でドーナツを更に差し出してくる。 「春香、ドーナツ屋でも始めるつもり? ちょっと焼きすぎでしょうが」 「あははは……徹夜仕事でしたー」 「収録直後になにやってるのよっ! ちゃんと寝なきゃ駄目でしょうがっ! ……でもありがと」 「はいっ!」 春香の笑顔に感謝しながら、またドーナツをひとかじり。ホームメイド特有の優しい味が、荒んだ心に清涼感をもたらす。 「あー、この甘さはいいなー」 「でしょー? 甘味は脳をリフレッシュさせるんですよー」 「そんな甘いドーナツには」 春香の脇から、雪歩がすっと出てきて紅茶を置いてくる。……いや、ハーブティーか。この香りは覚えがある。 「やっぱりお茶だと思うんです」 「雪歩もありがと。というか、バッチリのタイミングで来るね」 「ちょっと狙ってみました」 照れた様子で笑う雪歩に、僕も笑顔を返しつつハーブティーを頂く。 一気飲みせず、少しずつ少しずつ頂き、またドーナツを食べる。うーん、このコラボは素晴らしい。 「いやぁ、ほんと助かるわ。ドーナツもお茶も心地良い。これからまた大変だし」 「やっぱりメモリの事……ですよね。実は私」 「なに?」 「プロデューサーがメモリの話をした時、あの時見せてくれたのを思い出してたんです。財団Xっていう人達の話もしてましたし」 「だよねー。まさかあの時は僕も、こんなワケ分かんない事になるとは思ってなかったしなー」 ちくしょー。アイツらやっぱ疫病神だー。僕の平穏な日常をぶち壊しにしてくれやがってー。 真耶さん以上のはた迷惑さに頭を抱えるけど、それもこのコラボの前で瓦解する不思議。 「普通に決めゼリフとか変身ポーズとか、必殺技とか考えていた日々が懐かしい」 「そんなの考えてたんですかっ!? プロデューサー、ノリノリじゃないですかっ! 仮面ライダーになる気満々じゃないですかっ!」 「いや、束が必要だって言うから。僕は普通でいいって言ったんだけど、押しが強くて」 「篠ノ之博士、なにやってるんですかっ! ……あのプロデューサー、ここを辞めたりは」 「しないよ」 雪歩と春香が心配そうな顔をするので、そう断言して安心させてあげる。それからまた、ハーブティーを一口。 「面倒な事は、もう一人の僕やもやし達に押しつけてくよ」 「それでみんな、納得してくれますか? 特にフェイトさんとか、ギンガさんとか」 「だってかくかくしかじか――というわけで、変身できないんだもの。納得しなきゃただの外道だよ。それに」 またドーナツをかじってから、僕は窓の外を見る。もうすっかり見慣れた景色に安心感を覚える。 「約束したでしょ? みんなが夢を叶えられる手伝いをするって。 今やらなきゃいけない戦いがあるとしたら、それだ」 「「……はいっ!」」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「見たまえ、律子くん、音無くん」 「見てます」 「同じくです。恭文くん、いつもの調子みたいで安心です」 「えぇ。春香達も変に気遣ってない様子ですし」 私達、給湯室の影からみんなの様子を覗き見ています。あのまぁ……ね? いろいろとさ、あるわけよ。社長の話も気になってたし、やっぱりさ。 「プロデューサー!」 ハーブティーとドーナツを頂いたあの子は、事務所に入ってきた響と動物ズへと近づいていく。 ……動物ズッ!? え、なにっ! ハム蔵だけじゃなくて……あー! みんな響の家族じゃないのっ! 「響、えっと……どうした? いや、風貌から響の家族だと分かるけど」 「プロデューサー、疲労回復には動物と仲良くするのがいいんだぞっ! というわけで、うちのみんなを連れてきたぞー!」 「おー、みんな可愛いねー! はじめましてー!」 それであの子は事務所中ほどまで入ってきたみんなを、撫でたりハグしたりでコミュニケーション開始。 ……響、気を使ったのね。でもワニや蛇って、実際に見ると迫力あるわ。現に雪歩が、怯えた顔で窓枠にしがみついてるし。 「……響、雪歩が怯えて端っこに寄ってったんだけど」 「んなっ! どうしてだー!」 「わ、私やっぱり犬はー! 大きいのはー!」 「雪歩、犬嫌いも治さないとね。愛しい人が狼になった時、対処できないよ?」 「プロデューサー、それはセクハラです」 やや呆れ気味にそうツッコミながら、今度は千早が入ってきた。 ……あれ、千早なんだか嬉しそう。あの子があんな顔するの、珍しいかも。 「昨日はありがとうございました。傷、本当に一晩で綺麗に治っちゃいました」 「そりゃ良かった。肌に合わなかったらどうしようって、心配してたんだけど」 え、傷ってなに? なにがあったのよ。ライダーの事とは別に、問い詰めたくなってきたんですけど。 「そこも大丈夫です。というか……すみません、大変な事になってたのに、一人で帰っちゃって。 まぁ今も大変な事になってますけど。あの、蛇に首絞められてますけど。ワニにのしかかられてますけど」 「大丈夫だよ。これくらいはいつもの事」 そこをいつもの事で片づけるのはおかしい。というか、どんだけ好かれてるのよ。初対面なのに、もうムツゴロウさんみたいじゃない。 「そうそう。コイツ、運悪いもの。響のこれはよしとしても……アンタ、最悪ゾーン入ったんでしょ」 「……実は今日、出勤途中にジュピターの看板が落ちてきた。5メートルくらいあるのが、15階建てのビルから。 それで犬の糞を踏んづけるところだった。二日酔いでケバい化粧をしたホスト数人に絡まれた。 ボコボコにしたけど。そうしたらケツ持ちのヤクザが出てきた。組長含めてボコボコにして、土下座させて、警察に突き出したけど」 「通勤に何時間使ったんですかっ!? 絶対遅刻レベルの事が起きてますよねっ!」 「でも……最悪ゾーン? 伊織、なにかな。ぼく達が聞きなれない新用語」 「時々生命の危険があるレベルで、運が悪くなるの。それが最悪ゾーン――まぁまぁ昨日ごたごたしたから、そうじゃないかと思ってたわ」 なに、そのヒトコロスイッチ的なゾーンッ! ……もしかしてあの子が無駄に強かったりいろいろできるのって、そのせいじゃ。 私だけじゃなく、社長や小鳥さんもまさかと思いつつあの子を見ていた。 「それで他の人に被害が出ないところが、凄いというか呆れるというか……アンタ、行動には気をつけなさいよ? メモリの事はもう納得してるから、使うなとは言わないけど。てゆうか、このパターンだと確実に」 「使うもなにも、ドライバーがないもの。なにもできないよ。それで……気をつけるのは、本当に頑張る」 「えぇ」 一瞬だけ表情が真剣なものになったので、少し安心してしまった。同時に私が言う事は、なにもないなと確信。 ただそこは、『気をつける』事に関してだけ。もし悩みがあるなら……少しくらいは、相談に乗ろう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ フェイトとギンガさんは、そろそろ死にかけなので結界から解放した。それで昨日の事は伏せておく事にする。 バレるのは時間の問題かもだけど、ここはヒビキさんにも徹底させた。まぁ知っても動けないけど。 だって……夏みかんと一緒に、律子さんとアイドル修行開始だもの。ヒビキさんにはそっちに付き合ってもらってる。 アイドルはあれだけど、フィジカル・メンタル面で相当鍛えているのは確かだしね。 ついでに『何日くらい飲まず食わずで生きられますか?』という質問も投げかけたおかげか、ヒビキさんは震えながら納得してくれた。 やっぱり対話の素晴らしさを感じた僕達は、またまたプロデューサーとして……どうしようか、これ。 今までのパターンだと現地のライダーと協力してって感じだけど、ここで事件とか起きるの? もしかして大和鉄騎が強襲するとか……できればそれは無しにしてほしいんだけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして千早に続く形で、プロデューサー四天王達も出社。本日ものんびり通常業務である。 「なぁ、蒼チビ二号」 「なにさ、もやし」 「お前までもやしかよっ! いや、最初からそうだったけどよっ! そうじゃなくて」 「メモリの事なら言った通り。僕は今変身できないし、できる事はなにもない。 なのでそっちはそっちで勝手にやってて。僕を頼られても困るから」 「あー、違う違う。俺がしたいのはその話じゃない」 ……まぁ分かってた。もやしもユウスケも、疑問の視線をみんなにぶつけてるから。 「アイツらのアレはいいのか?」 「だよなぁ。アイドル事務所ってこう、もっと忙しいものじゃないのか?」 もやしと小野寺ユウスケは疑問があるらしく、応接室の方を見る。というか、もう一人の僕もか。 「しかも美希、堂々とソファーで寝てたんですけど。寝息立ててたんですけど……ここでも変わらずか」 「お前の知ってる美希ちゃんもアレか。えっと、これは」 「話したかもしれないけど、みんなはまだまだ駆け出しなんだ。 765プロはそれほど大きな事務所じゃないし、売り出しにもやっぱ時間がかかる」 「ようは売れてないと」 「違うよ。まだまだ売り出している最中。売れないかどうかは、もうちょっと見ないと分からない。 昨日のも、この広い業界に存在をアピールする一環。だからこそ一生懸命さが求められる」 もやし、なかなか度胸あるなぁ。みんながいる前なのに……あ、写真撮り始めた。 「というかもやし、おのれカメラマンなの?」 「まぁな」 「もやし、写真の腕だけは超一流だよ? 性格はアレだけど」 「おいっ! ……まぁ見てみろ、これが俺の才能だ」 「士、お前カブトの世界越えてから、幾らなんでも自信持ちすぎじゃねっ!?」 まぁどれほどのものかと思い、僕は差し出された写真を丁寧に受け取る。 「こ、これは……!」 ややピンぼけ気味……いや、そう言うにはズレ過ぎている。まるでこう、世界そのものが広がっているような写真だった。 それはあまりに衝撃で、僕は全身の穴という穴から冷たい気が出ていくのを感じた。 「あー、あんま気にしないでくれ。恭文はセンスがアレで」 「もやし、うちのみんなの写真を撮ってっ! てーか宣材だっ!」 「そうそう、宣伝材料になるレベルで……はぁっ!?」 「僕は未だかつて、こんな才能溢れる写真を見た覚えがないっ!」 僕は写真を丁寧に纏めて、もやしに手渡す。それでこの感動をどう伝えようかと思い……駄目だ、言葉が思いつかない。 しょうがないのでシンプルにいこうと決め、もやしを右手で鋭く指差す。 「もやし、おのれは天才だっ!」 「……ふ、当然だ」 もやしは僕の向かい側へ移動し、律子さんの席へ右足を高く上げながら座る。 「俺は選ばれし者――だからな」 「おいおい、コイツやっぱ調子乗ってるよっ! ……それであの子達はなにやってるわけ?」 小野寺ユウスケがおかしい事を言うので、疑問に思いつつも盛り上がっているみんなを見る。 「バトスピだよ、バトルスピリッツ。世界的なカードゲームホビー。知らない?」 「いや、遊戯王なら知ってるが……士は」 「知るわけないだろ。というか、それなら蒼チビに聞け」 「……え、ここってバトスピが世界的ホビーなの? 遊戯王じゃなくて?」 あれ、またおかしい事を……あ、それも当然か。みんなは全然違う世界から来たんだし。 つまり別世界では遊戯王が勝ってる感じなのか。そこもちょっと聞いてみようっと。 「遊戯王も人気のあるホビーだけど、バトスピにはバトルフィールドシステムがあるから。 その関係でシェアを追い越されたって感じ。もう一人の僕だと違うの?」 「うん。バトスピはあるにはあるけど、なんていうかその……今ひとつマイナーなんだ。 僕も名前だけしか知らないし、シェアでは遊戯王に絶対追いつけないし」 そこまで差があるんだ。でもマイナーって……こっちではオンライン対戦までできるのに。一体どういう事だろう。 いや、世界が違うのは分かってるの。ただその、どこでどう差がついたのかなぁと。 「もう一人の僕はカード持ってないの? ちなみに僕はHEROデッキ」 「一応カードは持ってるけど、バトスピ中心かなぁ。ちなみに可愛い女の子カード中心」 「そ、そうなんだ。というか、バトルフィールドシステム?」 「え、それも知らないの? だったら……うし、このディスクを見て」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 勉強用にと持ってきたディスクを再生すると、全員が目を丸く見開く。伊織達までそうなるのは。 『――最高のおもてなしの始まりですっ! 当デッキナンバー1スピリットの登場ですっ! 太陽神龍ライジング・アポロドラゴン、コスト4・レベル1でご指名入りま〜すっ!』 その瞬間フィールドに生まれたのは、真っ赤な太陽。太陽は今すぐに地表にぶつかりそうな距離で、突然現れた。 フィールド全体が赤色に染まる中、その光を受けて大きな地割れが起こる。 その地割れから赤いモヤみたいなのが出て、太陽を取り巻いていく。そして太陽の中に、巨大な影が生まれた。 それはV字方の翼を広げ、黄金色に輝くそれで太陽を――自分を取り巻く赤を吹き飛ばした。 そこで龍のシルエットがようやく明確になる。胴体と両ひざに装着する装甲は、翼と同じ色の流線型。 頭部も後ろに流れる形で同じ色が生まれていて、装甲内部に翡翠色の輝きが見える。 太陽神龍は背中からX字の炎を吹き出しつつ、両手両足を広げて咆哮。 いつの間にか元に戻っているフィールドへ着地した。……そう、先日見たばかりのバトル映像だよ。 実は一昨日門出中にも行って、マナブにバトル映像をダビングしてほしいとお願いしたの。 みんなの勉強にもなるからと言ったら、マナブは自分の負け勝負なのに快くディスクを渡してくれた。 「な、なんだこれ」 「すっごい楽しそうっ! わー! これいいなー! デュエルディスクの豪華版っ!?」 「これがバトルフィールドシステムだよ。今までのカードゲームにはない仮想空間でのバトルで、人気が固定化されたの」 「だが、ゲームだよな。アイドルが遊んでていいのか?」 「ふふふ、士さんの仰る事も分かりますけど、実は遊んでいるわけじゃないんですよー? かくかくしかじか――というわけでして」 あずささんが事情を説明すると、全員納得してくれたらしい。 というかあずささん、どうしてこっちにウィンクしてくるんですか。無駄にドキドキするんですけど。 「世界大会のキャンペーンガールになるためと……そりゃ凄い。 じゃあもしなれたらみんな、一躍大人気アイドルってわけか」 「まぁ普通のオーディションと少し形式が違うから、まだ分からないけど。 でも一人でも受かれば、必然的に765プロへの注目度も上がる。 大チャンスであるのは間違いない。……ただ」 「ただ?」 「あずささんも話してたけど、バトスピに対する情熱――端的に言えば愛が見られる。 魅せるバトルができるかどうか、なにより楽しんでバトルに取り組めるかどうかが重要。 だからこそうちにもチャンスがあるけど、難易度は等しく高い。なかなか難しいところだよ」 「仕事的にやったら、強くてもソイツは弾かれるってわけか。 元からやってる奴以外、全員いらないって事じゃないのか?」 もやしが写真をまたパシャパシャと撮りながら、興味なさげに言ってくれる。 まぁその気持ちも分かるけど。実際僕も初めて話を聞いた時、全く同じ事を考えた。 「じゃあプロデューサー、ぼく達もその……召喚パフォーマンスとか必要ですよね」 「だねぇ。またそこも考えていこうか」 『はいっ! ……というか』 あれ、みんなはどうしてにやにやしてくるの? いや、雪歩は違うか。 雪歩は恥ずかしげに俯いて、こっちをチラチラ見てくる……あー、なるほど。 僕は自分のデッキケースを取り出し、雪歩からもらったあのカードを見せる。 「もちろん考えてるよ? 雪歩がせっかくくれたカードだし、バシッと決めたいもの」 「だってー。よかったねー、ゆきぴょん」 「あ、亜美ちゃんからかわないでー! みんなもそんな顔しないでー!」 「……おいおい、やめとけよ。恥ずかしいだろうが、あんなの」 「そんなもやしとみんなに、もう一つ見てほしい映像がある」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 765プロの上にはレッスン場があり、そこでフェイトちゃん達はダンスレッスン中。 ジャージに着替えて基本のダンスをやってるんだけど……フェイトちゃんはヒドいな。 なんかこう、軽いステップのはずなのに阿波踊りなんだよ。ステップが阿波踊りって、おかしくない? 「――はいそこっ! また遅れてるっ! 基本のダンスなんだから、しっかり動いてー!」 「す、すみませんー!」 「ギンガちゃんは……まぁ重傷人だし、無理しない程度にね? それにその、大変だったし」 「は、はい」 「ギンガにだけ優しいっ!?」 いや、そりゃしょうがないでしょ。今のギンガちゃんに優しくしないのは、少年くらいだって。 まぁ二人はともかく……夏海ちゃんは一生懸命やってるなぁ。それで楽しそうだ。 アイドルってのはやっぱ女の子にとって、憧れなのかね。めちゃくちゃ充実してるっぽい。 「夏海ちゃん、昨日やったところちゃんと勉強してるのね。うん、良い感じよー」 「あり……ありがと……ありり」 「あー、ダンスに集中していいから。踊りながら喋るの、意外と難しいのよね」 「はひー」 そういうものらしいので、俺は一人納得。ようはなにかしてる時に、別の事をやるのは大変って事だな。 まぁ三人それぞれに差はあるが、一生懸命で良い事だ。二人ほど状態が気になるが。 「でもこう……なんか凄いな。俺はアイドルなんて当然やった事ないけど、春香ちゃん達もこんな感じで?」 「えぇ。歌もダンスも少しずつです。個人差はあれどみんな、体力的には一般人を超えつつありますよ」 「だろうな。これを毎日ってなると、そりゃあ鍛えられるわ。アイドルも鬼と同じなのかね」 「それはどういう」 「鍛えて鍛えて鍛え抜いて、目指す姿に変わる。アイドルの場合はこう」 上手く言えなくてやや言葉に詰まりながら、胸元で両手を合わせる。 「見てる人が元気になる感じか? 俺も小さい頃は、憧れたアイドルの一人や二人いたしさ」 「そうなんです。社長の目指しているアイドル像というのは、そういう形で……もちろん私にとっても同じ。 アイドルというのは、ファンや見てくれた人達みんなに元気を与える存在でなければいけないと」 「だよなー」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私、なにやってるんだろう。エリオとキャロが――みんながピンチなのに、こんな事して。 踊ってる場合じゃないのに。アイドルの練習なんて、役にも立たない事をやっている場合じゃないのに。 早くみんなのところへ戻る必要があって、そのためには……でもそれをやろうとすると、またヤスフミが怒る。 私、分からないよ。確かにいろいろあって疎遠な部分もあるけど、六課だけの話じゃないのに。 フィアッセさん達の危険だってあるのに、どうしてヤスフミは頑張ろうとしないんだろう。うん、頑張ってないよ。 もう全部のカードも元に戻ってるんだから、こんな事する必要ない。みんなに協力させて、早くミッドへ戻るんだ。 私は荒く息を吐きながら踊るのをやめて、向こうのヤスフミにお願いを。 「はいそこっ! しっかり踊ってっ!」 「は、はいっ!」 なのにタイミングを見計らったかのような駄目だしで、それが止められてしまう。 「あ、あの……私達は早く元の世界にっ!」 「足が伸びてないっ!」 「はいー!」 「そもそもあなたにできる事は、ほとんどないでしょっ!? 余計な事して、みんなに迷惑をかけないっ!」 なんで知ってるのっ!? そこは納得できずに足を……止められないー! 無理ー! 鬼軍曹の視線だけで身体が動くー! 「というか、良い年した大人ができる事とできない事の見境もつかないって、駄目じゃないですかっ! 自己満足の努力で迷惑かける前に、できない事と向き合って自分を変えるっ! それが基本ですっ! ここはできる人を信じて頼って、どっしり腰を構えるっ! それもひとつの対処法ですっ!」 「で、でも私達のせか」 「あなた達にそんな事を言う権利はありませんっ! 手をもっとびしっと動かすっ!」 「はいー!」 それは天道さんが言っていた事そのまま。でも、それだけじゃ駄目なのに。どうしてこの答えに引っ張られ続けるの? ……力が欲しい。力があれば、こんな事言われなくて済む。そうだ、力があれば私だって。 考えるんだ。のんきにご飯を作っている余裕なんてない。それは間違いなんだ。私にできる事は、もっと他にある。 もっと手早く、力を手にする方法を考える。そうすればヤスフミと一緒に戦えるし、問題はなくなるはず。 「そして自分の欠点や穴と向き合わない人は、いつまで経っても成長しませんっ! 力なんて得られるわけがないっ!」 見抜かれてるっ!? そんな、どうしてっ! 「あなた達の顔を見れば、そんなのは一目瞭然っ!」 「嘘ー!」 「というわけで、私が責任を持ってしごきますからっ! いいですねっ!」 「だ、だから私はこんな事をしてる場合じゃー!」 「こんな事しかできないでしょうが、あなたはっ! ほらほら、もっとキビキビ動くっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『――紫の彼方より我が名の下に跪けっ! やぎ座の光っ!魔羯邪神(まかつじゃしん)シュタイン・ボルグっ!』 かざしたカードから光が群れとなって放たれ、それがある図形を描くようにしてキマリの場に配置。 配置された光は金色のラインを描き、一つの星座を作る。そうかと思うとそこから、紫の光が生まれた。 『このあたしのしもべとなれっ! コスト4・レベル2で召喚っ!』 星座から溢れ出したそれは星座を包むように円を描き、同時に重ねるように別の絵を描く。 それは山羊(やぎ)座――磨羯宮の絵。でも二色の光で描かれた絵は一際強く輝き、すぐ消えてしまう。 その代わり同じ場所に、紫の渦を巻いている穴のようなものが現れ、そこからやや青みがかった巨体が現れる。 紫の角に黒の翼とやたら細い身体、歪な怪物は鈍く重い咆哮をあげ、穴の中からはい出る。 右手には螺旋を描いた錫杖を持って、細い両足で胡座をかきながら翼を羽ばたかせ宙に浮く。 言いようのない威圧感を出しながら眼光を鋭くし、向かい側にいるハジメを睨みつけてきた。 『すげぇ……12宮Xレアだとああなんだ。……てーか、なにそれっ!』 『なにが?』 『さっきの変な踊りだよっ!』 そこで一旦映像を切って、もやしに『ドヤ?』と笑いかけてみる。 「そのドヤ顔やめろ。てーかなんだこれ」 「あのあの、キマリちゃんとハジメ君ですよねっ! でも二人とも、一昨日会った時より少し小さいですー!」 「やよい、よく分かったね。これはバトルフィールドが世間にお披露目される前、二人が行ったテストプレイの映像だよ」 僕が失踪する前の事だから、もう2年近く経つ。二人はまだ小学5年生だから、そりゃあ小さくも見える。 二人がそんな大役を仰せつかったのは、やっぱり研究所の関係者だからというのが大きい。 そもそもバトルフィールドは、ハジメが『龍星皇メテオブルム』というスピリットに会いたがったから。 それを受けて陽昇夫妻は、実際にスピリットと会える仮想空間を作り上げた。なのでハジメがやるのは、必然だった。 そしてキマリは、その二人が最も信頼する助手さんの家族。なのでテストも……というわけ。 「召喚パフォーマンスは元々、キマリが始めたの。これを研究所で見学していた世界チャンピオンが真似して、一気に広まった」 「あ、あの子、そんなに凄い子だったんですかっ!? 流行の発信源じゃないですかっ! 真ちゃん、それって凄いよねっ!」 「凄いに決まってるよっ! ぼく達アイドルでも難しい事、あっさりしちゃってるんだからっ!」 まぁ実際に凄いと思うのはこれを受けて、アニメみたいな事をやったチャンピオンだと思うけど。 そこがなかったら、きっとここまで広まらなかっただろうしなぁ。あの人はなんというか、やっぱ恐ろしい。 「それ、ネットで調べたから知ってるわ。確か海外の記者は、相撲取りの土俵入りにも似た様式美があるとかなんとか」 「キマリちゃん、お相撲さん扱いなのねー。それはちょっと可哀想かも」 「本人は楽しそうですから、気にしなくていいですよ」 まぁ気づいてないだけだと思うけど。間違いなくそっち方向だと思うけど。でも触れても楽しくないし、僕は知らない。 「そんなわけでみんなも、少し考えておいてよ。 多分こういうところからも、バトスピやカードへの愛を表現していけると思う」 「亜美達アイドルだから、バシッと決めて見てる人を楽しませるんだねー!」 「そういう事だよね、兄ちゃんー!」 「正解。それじゃあみんな、お願いね」 「――大変だっ!」 あぁ、嫌な予感しかしない。社長の声が響くと、嫌な動悸が身体を走る。これはどうにかしたい。 正直触れたくはないけど、部下として無視もありえない。できるだけ笑顔を取り繕って、僕は社長へ向き直る。 「社長、どうしたんですか。今度はあれですか、事務員でも見つけてきたんですか。小鳥さんはクビですか」 「ぴよっ!?」 「よく分かったなっ! いやぁ、最近は良い事尽くめだよっ!」 「ちょ、クビは否定してー! 社長、そこは駄目ー!」 「安心しろ、音無くんっ! クビになどしないよっ! さぁ、入ってきたまえっ!」 小鳥さんが安心している間に、玄関から……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 「か、海東さんっ! アンタなにしてるんですかっ!」 「あー! 自分、昨日の泥棒じゃないかっ!」 「面妖な……!」 「……なぁ、このおじさんをなんとかしてくれないか? 僕はプロデューサーとか事務員にはならないと言っているのに、全く聞いてくれないんだ」 「海東、悪いが無理だ。俺達もプロデューサーになってんだよ」 うわぁ、図太そうだけど、社長のあれこれに困惑してる。でもごめん、僕も助けられないわ。この人話を全く聞かないし。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「社長……もうほんといい加減にしましょうよっ! なにこれ、なんのギャグッ!? 猫拾ってくる要領で、どうしてライダー拾ってこられるのっ!? おかしいでしょうがっ!」 「あー、それと律子くんをすぐ呼んでくれっ! 大事な話があるっ!」 「話を聞いてくださいよっ! なに、このスルー! てゆうか、今以上に大事な話ってなんですかっ!」 「竜宮小町が正式始動するっ!」 そこで蒼チビ二号の表情が一気に変わり、目で社長に問いかけ始めた。 すると社長は海東を逃がさないよう、掴みながら頷きを返す。 「あの、本当ですかっ! 予定ではもっと後じゃっ!」 「予定より早く動き出せたっ! プロモーション云々もあるから、本格的な稼働は7月からだろうが……まず山は越えたっ!」 「社長、おめでとうございますっ! じゃあ僕、すぐ律子さん呼んできますっ!」 「頼むっ!」 アイツはめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしながら、社長と海東の脇を通って駆け出してった。それで海東が、困り顔で首を傾げる。 「あっちの少年君は、隙がないね。僕が近くにいて、なにも盗めないなんて」 「海東さん、アンタが気にするべきはそこじゃない。ほら、今事務員として時間とか盗まれようとしてるから」 「……そういえばっ!」 「忘れてたんかいっ! それより高木社長……竜宮小町というのは」 「おぉ、君達は知らなかったな。まぁそこも後で説明するよ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ その後、私はぶっ続けで踊らされ……スタジオの床に寝転がる事となった。 なお、ギンガは体調を鑑みて途中離脱。夏海さんは……楽しげにまだ踊ってるよ。ああいうキャラだったっけ。 「まぁ、あれだわ」 もう指先すら動かせない私の脇に、ヒビキさんがしゃがみ込んでくる。 「もしかしたらフェイトちゃんは局員で執務官っていうので、だからーって考えてるのかもしれないけど……そういうの全部捨てようか」 「捨てるって……そんな。私、10年頑張ってきたんです。だから」 例え無意味かもしれなくても、積み重ねは変わらない。だったら今は、それにすがるしかない。 その経験を元にして、力を手に入れるしかない。そうすれば私だって、正義のヒーローになれる。 現にヤスフミはダブタロスやデルタのベルトを手に入れて、ライダーになれた。正義のヒーローになれた。 だったら私だってできるはず。そうすれば私も、みんなのために頑張れるはずなんだ。ううん、頑張らなくちゃいけない。 なのに……その経験を捨てろ? ありえないよ、私は今の無力な自分を、今すぐ変えたいのに。 「だってさ、そういうのここでは意味ないわけじゃない? それでも海東には勝てないし、少年の力にもなれない。 そういう維持やプライドはさ、鍛えるのに邪魔なわけよ」 「あー、同感ですね」 「あ、律子ちゃんは分かっちゃうの?」 「少なくともなにかを新しく学び、伸ばしていこうとする時……経験が邪魔になるのは。 誰かに教えてもらった事が、新しいステージでは間違っている場合もありますから」 「なるほど、アイドルもやっぱり……鍛えなきゃ駄目なんだな」 律子さんは嬉しげな顔をしながら、ヒビキさんに頷く。 「誰かを元気にしたり、希望になるというのは、自分を壊すレベルで鍛えないと駄目なんです。 限界だったり、無意味なこだわりだったり。ライダーもアイドルも、鬼もきっとそこは同じ」 「私じゃ……希望に、なれないと言うんですか」 なんとか身体を起こそうとするけど、全く動かない。私は律子さんを睨みつけ……られない。なんか、胸が邪魔でなにも見えない。 「そんな事、ない。私に力があれば、変われる。私だって、正義のヒーローに」 「それはフェイトさん自身が変わったわけでも、なんでもないですよね。 ただ力があるから、どうこうなっただけ。言うなら力に依存している」 それは天道さんにも言われた事。管理局という力に依存して、鍛える事をしなかった私……でも私は首を横に振る。 それでも努力は努力なんだ。今それを認めたら、なにもできなくなってしまう。そんなのは嫌なんだ。 みんなを助けるために、そんな事だけは絶対しちゃいけないんだ。だから……あれ、なんで泣いちゃうんだろう。 胸を張ればいいだけなのに、泣く事しかできない。もうなにも反論できず、情けなさで潰されそう。 「……じゃあさ、律子ちゃんはどうしてるわけ? ほら、状況的にフェイトちゃんやギンガちゃんとは、近いわけじゃない」 「さすがに目ざとい。いろいろ考えましたけど、信じる事にしました」 その言葉で、震える胸に強い衝撃が走った。だって律子さん、明るく言い切ったもの。 「私は一般人同然で、戦ったりはできない。頭の回転には自信がありますけど、非常識な事にはからっきしですし。 それで首を突っ込んでも迷惑をかけて、状況をかえって悪くする。だからせめて、信じて背中を押す。 なにがあろうとそこだけは変えないって……社長達とそう決めました。 フェイトさんは、あっちの恭文君が信じられませんか? 背中を押せませんか?」 「そういう、話じゃ」 「そういう話です。自己満足の努力を続けてたって、前になんて進めませんよ? 誰かを元気にしたり、希望を与えたりする努力は……みんなのための努力じゃないと」 「ほんと、その通りだよ」 そう言って、この世界のヤスフミがスタジオに入ってくる。 「恭文君っ! ……えっと、こっちの恭文君」 「律子さん、いちいち言い直さなくていいですよ。それより……おめでとうございますっ!」 「え、なにが? 私、誕生日はまだ先だけど」 「さっき社長から通達がありましたっ! 竜宮小町、正式始動だそうですっ!」 「……本当にっ!?」 え、なに? なんかいきなり律子さんの声が弾んだんだけど。それであっちのヤスフミも、なんだか嬉しそう。 「これからプロモーションとか練習とかがあるので、本格稼働はまだ先ですけど……そこは決定ですっ!」 「……やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「おめでとうございますっ!」 それで二人はお互い駆け寄り、全力でハグ……なにこれっ! 私だけじゃなくて、ギンガ達もポカーンとしてるんだけどっ! 「あ、やだ。なんかすっごいハグしちゃって……でも今はいいかー!」 「はいー! 僕も今は口説くとかそんな事言いませんっ! お祝いしましょう、お祝いっ! 明日ケーキ作ってきますからっ!」 「それも素直に受け取っておくわっ! ありがとうー!」 なんだかよく分からないけど、嬉しい事があったらしい。……私がこんなにも惨めなのに。 信じていないわけじゃ、ないのに。ただヤスフミだけでどうにかなるわけないから、一緒に頑張りたいだけなのに。 そうしなきゃいけない状況なのに。そうだ、信じていないわけじゃ……ないのに。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 律子さんを呼んで、お祝いのハグなどかまして事務所へ戻る。それで首を傾げているみんなに、サプライズプレゼント。 というか……具体的には伊織と亜美、あずささんになるのかな。あー、でも嬉しいなー。 律子さんが頑張っていたのはよく知っていたし、こうして計画が動き出すとワクワクして仕方ない。 これがプロデューサーの仕事ってやつなのかな。僕、現在ニコニコしています。 「えっと……まずみんな、びっくりさせちゃってごめんなさい。 それで竜宮小町の事なんだけど、簡単に言えばユニット企画なの」 『ユニット?』 「えぇ。知っての通りうちの事務所は弱小で、来る仕事も多いとは言えない。 そこで起死回生の一手として、ユニット企画を打ち上げたの。 プロデューサーは私、秋月律子が務めさせていただきます。そのメンバーは」 律子さんに取ってきた資料を手渡すと、それを開いてメンバーの名前を読み上げ始める。 「水瀬伊織をリーダーとして、双海亜美と三浦あずさ、この三人でいきます」 「わ、私がリーダー!?」 「えー! 亜美がユニットやるのー!」 「あらあら、どうしましょお」 三人も驚いた様子で、お互いの顔を見合わせ始めた。 「というか兄ちゃん、亜美がユニットやるーって知ってたのー!?」 「実は知ってた。残り九人は、僕がサポートする事になるしね。 律子さんはみんなの面倒をこれまで見てきたし、まぁ引き継ぎみたいなものもあったから」 「ズルいズルいー! 真美達にも内緒なんてー!」 「てゆうか、私達も聞いてないわよっ! 普通事前に話を通すくらいの事はしないっ!?」 「あー、すまないね。そこも事情があるんだよ」 やっぱり黙っていた事へのツッコミはあるので、それを諌めつつ社長が一歩前に出てくれた。 「君達はこの事務所みんなの道を開く、突撃隊長だ」 「「「突撃隊長?」」」 「竜宮小町が活躍する事によって、我が765プロと所属アイドル達への注目度も上がる。 必然的に全員の仕事が増える――まぁそういう計算なのだよ。 だがこれは、実に綱渡りだ。実際始動できるかどうかは、賭けに近いところもあった」 「だから社長も律子さんも、もちろん僕も黙ってたんだよ。 『やる』って言ってもし駄目だったらアレだし、本決まりになるまではってね」 「そ、そういう事ならしょうがないわね。まぁ、納得してあげない事もないわ」 腕を組み、そっぽを向く伊織を筆頭に、みんなも納得してくれた様子。……社長、ありがとうございます。 でも社員をもう一人増やした事に関しては、全く許せない。てーかよりにもよってコイツってなに。 「そんな事はどうでもいい。もう一人の少年君、早くWの」 「黙れ、そして帰れ。帰らないとこのまま社員扱いになるよ?」 「……それは勘弁したいね。しょうがない、今日のところも退散するとしよう」 そのまま帰ってくれる海東を、手を振ってお見送り。みんなも止めないのが素晴らしい。 「おっと、待ってくれっ! 察するに君も士くん達の仲間なのだろうっ!? ぜひ協力させてくれっ!」 なのにうちのおじいちゃんが、笑顔でがっしり肩を掴んできやがった。 「よしてくれたまえ。僕は仲間なんて一番嫌いな言葉だ」 「まぁまぁ、そう言わずに」 ……僕達は二人から目を逸らし、やや固まってお話再開。というか、そういう空気になってしまった。あれは触れたくないしね。 「そういうわけで伊織、亜美、あずささん、三人はさっき言った通り、今後は律子さんが担当プロデューサー。 ユニット活動が中心になるから、四人でプロモーションや撮影とかの仕事が多くなるのでよろしく」 「えー、真美と離れ離れなのー?」 「寂しいよー。りっちゃーん、真美も竜宮小町に入れてー?」 「いや、それは……ほら、三人くらいがちょうどいいのよ。これ以上はちょっと多いかなと。 それに真美が入ると、双子な二人が目立っちゃうから。まぁその、ごめんね?」 「「ぶー」」 二人はそこで膨れはするけど、すぐに笑顔になってエールを送る。ここは双子で仲良しなおかげだと思う。 ……でも、メンタル面には気をつけておかないと駄目だな。突撃隊長が売れると、当然格差みたいなものもできる。 もちろん趣旨は今言った通りだけど、竜宮小町の三人はみんなと違う立ち位置になってしまう。 それゆえに関係性や事務所内の空気が悪化する事も、一応事前に予測されていた。 もちろんみんななら大丈夫とは思うけど、同年代の女の子同士だしなぁ。ここはホント気をつけておかないと。 「じゃあ律子さん、この三人を選んだ理由ってなんですか?」 春香は竜宮小町のコンセプトなんかに興味があるらしく、めちゃくちゃ素晴らしい笑顔で質問してきた。 「えっと……やっぱりまとまりかな。ほら、みんな名前に水や海に関係するものが入ってるし」 「あぁ、そういえばあずささんも浦……ところで律子さん」 「なに、春香」 「私も天海春香で、海が入っているんですけど」 ……律子さんは春香の笑顔に、なにも答えられず顔を背けた。それでも春香は笑顔で……てーか怖っ! なに、このプレッシャー! なんか閣下っぽいんですけどっ! そうか、これが閣下かっ! 「……よし、竜宮小町Mk-IIでも作るかっ! メンバーは天海春香と双海真美っ! あと夏みかんっ!」 「「やったー!」」 「わ、私もですかっ!? いや、確かに夏海で海は入ってますけどっ!」 「いやいやいやいやっ! それはやめてよっ! 竜宮小町が目立たなくなるからっ! あと名前がダサいっ!」 律子さん、そう言うなら春香の笑顔と向き合ってあげてくださいよ。顔どころか身体を逸らしながらとか、ありえないでしょ。 「というか、プロモーションだってそれなりにお金かかるのよっ!? 主に衣装代とか交通費とかっ! うちの財政だと、ユニット二つも動かすなんて無理だからっ! 知ってるでしょっ!?」 「……みんなー、律子さんは自分達が目立つために、Mk-IIを抹殺しにきたよー」 「人聞きの悪い事言わないでよっ!」 「律子、だったら春香の方を見るべきだよ。説得力ないって、それは」 真のツッコミに、律子さんは苦々しい顔をするばかり。まぁ言ってる事は正論だよね、説得力ないし。 こりゃ……みんなのメンタル面や関係性には、本気で気をつけないと駄目だな。 あの春香でさえちょっとショック受けてるみたいだし、恐れていた格差みたいなのが……訂正。 みたいなものっていうか、既にできてるよ。格差がここに存在しちゃってるよ。 竜宮小町との距離も考えなきゃいけないだろうし、何気に仕事は多いぞ。……あれ、もう一人の僕が手を挙げた。 「ちょっと質問が。衣装って、どんなの作る予定なんですか?」 「えっと……デザイン画はこんな感じかしら」 もう一人の僕は律子さんへ駆け寄って、開いた資料の中身を確認。 「律子さん、これ発注はしてないんですよね」 「えぇ、まだよ。そこは本格始動が決まらないと、無駄な出費になっちゃうし」 「なら僕が作ります。そうすれば安く済むでしょ」 「あらそう? それは助か……はぁっ!?」 驚く律子さんとは対称的に、あの二人は落ち込み俯いて、瞳に涙を浮かべていた。……なに、このヒロイン度0な二人。 しょうがない、律子鬼軍曹にもっとしごいてもらおう。これはもう一人の僕や小野寺ユウスケ達がやるより、効果的なはずだ。 「おぉそうだっ! 私は少し用事があったっ! 二人とも、後の説明は任せたよっ!」 「あ、分かりました。……もうライダーは見つけてこないでくださいよ?」 「はははは、それは約束できないなぁ」 「約束してくださいよっ! そもそも連続で見つける事自体がありえませんからねっ!?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一旦社長室に戻り、デスクに備え付けている電話器で馴染みの番号をプッシュ。 そうしてかけるのは、昔から世話になっている善澤くんの携帯。竜宮小町のプロモに、力を貸してもらおうというわけだ。 この業界ではまず、ファンの前に業界関係者へ売り込まなくてはいけない。 その時、マスコミの力というのは大きい。だがうちは私のやり方が甘いせいもあって、そういうのにはなかなか疎い。 そんな時に頼れるのは、善澤くんだ。私は礼節をしっかり弁えた上で善澤くんにお願いをし。 『――ほう、竜宮小町始動か。よし、明日早速取材に伺うよ』 「よろしく頼むよ、善澤くん」 了承を取りつけた。ここはあとで律子くん達に話を通して、ちゃんと予定に入れておく。 『ところで、デビューはどこを考えている? ほれ、番組というか……媒体は』 「ふふふ、聞いて驚かないでくれたまえっ! 実はあの……IDOL BATTLEだっ!」 IDOL BATTLEというのは、まぁその名の通りだな。アイドルがバトルするバラエティ番組だ。 ただこちらはゲロゲロキッチンのように料理とかではなく、純粋に歌やダンスで勝負していく。 対戦相手のユニットやアイドルとのコラボ企画もあったりで、私も毎週楽しみにしている番組だ。 『……それはやめておいた方がいいな』 「はぁ?」 当然善澤くんも喜んでくれるものと思ったんだが、微妙な反応を返されてしまった。 「なんだなんだ、竜宮小町では駄目だと言うのか? 確かにみんな経験は浅いが、だからこそ大舞台を踏んでもらって」 『そうじゃない。高木、落ち着いて聞いてくれ。ふた月前、IDOL BATTLEのディレクターが亡くなっただろう』 「そういえば……確か、心臓発作だったか」 『どうも違うらしい。……殺されたそうだ』 穏やかな話じゃないので、一瞬冗談かと……それはないか。 声のトーンからして、本気なのは間違いない。私は一旦呼吸を整え、まずは聞き返す。 「殺された? ちょっと待ってくれ、善澤くん。私はそんな話」 『殺され方が異常だったので、警察と局、スタッフもひた隠しにしている。 俺も耳に入れたのは、昨日今日の話だ。しかも……つい最近、二人目の被害者が出た。 それが後継のディレクターで、殺され方も前のディレクターと同じ。つまり』 「つまりIDOL BATTLE関係者が、何者かに……連続殺人というわけか」 IDOL BATTLEは連続殺人の現場同然で、だからというわけか。確かにうちのアイドル達を、そんな場に送りたくはない。 だがそれでどうして……いや、よくある事だ。IDOL BATTLEはコラボ企画なども受けて、かなりの視聴率を取っている。 最近はネットコンテンツが台頭している関係で、テレビ番組特有の魅力が薄れてきてしまっている。 ニュースの速度・量では検索サイトのニュース欄やツイッターで負け、コンテンツの豊富さでも押されている。 テレビ番組や映画そのものも、最近では『公式的』にネットでアップされる事もある。 しかもテレビでネットの映像を、そのまま流す事だってある。それくらいネットという存在は、テレビにとって影響が強い。 今ある民放局関係者は、皆一様にしてネットへの恐怖を持っていると、私は勝手に思っている。 そんな中での高視聴率は、言うならドル箱に近い。だから局も事実を隠して、番組を継続させているのだろう。 この話がバレれば……二度目の事件が起きた事で、時間の問題だと思うのだが。 「それで……どのような殺され方を。そこも警告の理由なのだろう?」 『あぁ。二人とも、身体をズタズタにされて死んでいたそうだ。目を離した、ほんの数分の間に。 しかもそのズタズタ具合が、ミンチに近い。……はっきり言えば不可能犯罪だ』 「不可能、犯罪」 (第29話へ続く) あとがき 恭文「というわけで……最後の最後で不穏なフラグ立ておった」 フェイト「ど、どうしようかこれ」 恭文「まぁ苦労するのは僕じゃないから、別にいいか」 フェイト「ちょっとっ!? ……あ、フェイト・T・蒼凪です」 恭文「蒼凪恭文です。……アナザー・ネオスを書くはずが、いつの間にか僕のイラストになっていた件で」 フェイト「あ、同人版の絵?」 恭文「そうそう。Web拍手でイラストを練習しているコーナーがあって」 (公式サイトの担当者さんですね。作者ではありません) 恭文「それを参考に絵を練習していたら、いつの間にか僕のイラストができそうでござる」 フェイト「なぜござるっ!?」 恭文「途中経過も合わせて載せるので、まぁまぁ作者が努力した成果は見て取れるかと。 でも完成度低いよ? 鉄道員と高倉健さんのうんこのうんこのうんこくらいの差が」 フェイト「下品だよっ! というか、どうして銀魂ネタに走るのかなっ!」 恭文「でも頑張れば、きっと作者でも高倉健さんのうんこのうんこのくらいにはなれると思うんだ。賞をもらえると思うんだ」 フェイト「だから駄目ー! あともらえないからっ!」 (ばしばしばしばしばしー) フェイト「そ、それでヤスフミ……バトスピの新弾出るよね。というか、アニメ覇王ももうすぐ終わりだよね」 恭文「……斬新すぎて腰抜かしたけどね。うちでやる時はその、ハジメにもっと頑張ってもらおう」 フェイト「え、ヤスフミが覇王(ヒーロー)になるんじゃないの? ほら、パイロット版」 恭文「いや、なんていうか……ああくるとは思ってなかったから。だからまぁ、ね?」 (これ以上はネタバレになるので、深くは言えない) 恭文「よし、話を逸らそう。それで新弾だけど、新しいフレームにキーワード効果も登場」 フェイト「強化(チャージ)と連鎖(ラッシュ)だね。キースピリットもカッコいいよねー。輝龍シャイニング・ドラゴン。 恭也さんが中の人をやるライバルキャラは、闇皇ナインテイル・ダーク」 (『ミコーンッ! 呼びましたっ!? 呼びましたよねっ!』 注意:ネットで見ただけなので、まだ正式情報じゃないかもしれません) 恭文「パワーアップ形態はゴッドドラゴンだね」 フェイト「それガンダムだよねっ!」 恭文「それで構築済みデッキも出るわけで……当然作者はそれぞれ二つずつ予約」 フェイト「ち、力入ってるね」 恭文「絶甲氷盾みたいな必須カードあるかもだし」 (あれは罠だった。てゆうか、デッキ本体より高いって何事) 恭文「はじめてのバトルセットも新しいのが出て、シャイニング・ドラゴン軸にバローネの友達軸」 フェイト「貴音ちゃんデッキ?」 恭文「そういう考え方もある。それでさ、既に発売から二週間前後なわけですよ」 フェイト「うん」 恭文「なのに……アナウンスないね。バンダイは作者以上に宣伝ベタなのかな」 フェイト「それは違うと思うなー」 (というわけで、シャイニング・ドラゴンが楽しみ。古竜だったらいいなー。古竜だったらいいなー。 本日のED:ShiinaTactix-Yoko Hikasa(日笠陽子)『RHYTHM DIMENSION』) 恭也(CV:緑川光)「……俺もバトスピの新アニメに出る以上、鍛えなくてはいけないだろう。なのは、教えてくれ」 ミルヒオーレ(CV::堀江由衣)「あ、私もお願いします。ビスコッティ領主として、恥ずかしくない戦いをしなければ」 ルル(CV:神田朱未)「さぁ、やるわよー! やりたいように、やったらええがねー!」 あむ「……え、みんな新しいバトスピアニメ出るの? このメンバーは決定?」 ウェイバー(CV:浪川大輔)「僕も出るぞ。それであれだよな、Bホイールってのに乗れば」 あむ「出ないから、それっ! なにまだ見切り発車続けてるのっ!?」 (おしまい) [次へ#] [戻る] |