[通常モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第97話 『We connected with people/ドッキドキの急接近連発っ!?』



ナナ・イン『しゅごしゅごー♪』

ナナ「ドキッとスタートドキたまタイムー! 本日もドーンとスタートだみゃあっ!!」

イン「ドーンとスタートだけど、今回は色々波乱が起こるみたい」





(立ち上がる画面に映るのは、急接近する蒼い古き鉄とドS歌姫。
そして同じように急接近するあんな人達やこんな人達)





ナナ「問題ない問題ないっ! やりたいようにやったらえぇがねっ!!」

イン「ナナは幸せだね。というわけで、今回は私達でだよ。せーの」

ナナ・イン『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



初等部がチョコイベントで大騒ぎだった頃。中等部もなんだかんだで普段より騒がしかった。

やっぱり同じ敷地内にあるせいか、初等部の影響を少なからず受けてしまうらしい。

あちらこちらで、チョコを渡す生徒をよく見かけたりする。関係性や異性同性を問わずって感じね。





まぁそんなワケで、私も陽子と淳に授業が始まる前に教室で手渡すわけですよ。










「・・・・・・ティアナ、アンタ料理出来たんだ」

「陽子、それどういう意味?」

「ランスターさん、完璧過ぎると逆に男子は引くと思うわ」

「なんで淳まで驚きの表情を浮かべるのよ。だからそれはどういう意味かしら」



なのに受け取った二人は、普通に私を見て信じられないという顔をしている。・・・・・・なんかムカつく。



「まぁアレよ。実際やってみたら意外となんとかなったワケ」










そう、なんとかなった。私はやれば出来る子だった。





あぁ、みんなに自慢したいわ。私の頑張りの数々を。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まずはチョコを刻んだわけよ。それはもう必死にね。アイツやスゥのアドバイスも聞きつつ、頑張ったの。





包丁握った事なんて数度しかないから、かなり緊張したけど・・・・・・でも、意外とうまく出来たわ。










「・・・・・・ティアナ、チョコの刻み方荒いからっ! もっと細かくやらないとっ!!」

「はぁっ!? なんでよっ! どうせ溶かすんだから一緒でしょうがっ!!」

「一緒じゃないからっ! 溶け方のスピードも違ってくるし、下ごしらえで手を抜いちゃだめっ!!」

「そうですよぉっ! お菓子作りは一行程毎に丁寧に作る事で美味しさが変わるんですよぉっ!?」



次は生クリームを温めたわ。これも頑張った。えぇ、本当に頑張ったわ。予め作業時間を読んだ上で温めてたの。

ほら、こうすれば時間が短縮出来て便利でしょ? 我ながら料理の達人みたいでつい笑ってしまったわ。



「・・・・・・ティアナっ! 生クリーム沸騰させ過ぎっ!! 鍋にこびりつくしっ!!」

「しまったっ! 忘れてたっ!! アンタがやたらとチョコ刻むのにこだわるからっ!!」

「僕のせいじゃないでしょうがっ! てーかホントズボラだねっ!!」

「誰がズボラでIKIOKUREるですってっ!?」

「そこまで言ってないからっ! それでそんなにIKIOKUREるのが怖いんかいっ!!」



そしてチョコをかき混ぜるのよ。もうね、これは死闘だったわ。言うなら熱との戦いよ。



「ティアナ、全力でかき混ぜなくていいのっ! てーか雫飛ぶっ!! そして危ないからっ!!」

「だってチョコが中々溶けないのよっ! ホントコイツしつこいわねっ!!」

「おのれが刻むの適当にするからでしょうがっ! このバカっ!!」

「だからお菓子作りは一行程毎に丁寧に作っていくのが大事って言ったじゃないですかぁっ!!」



次はトレーの上に搾り出していく作業。もうね、これも凄いスムーズだったわ。

まるで吹き出すようによ。えぇ、吹き出すように作ったわけよ。



「・・・・・・ティアナ、おのれはアレかな? チョコおにぎりでも作ろうとしたかな」

「いや、なんか袋が勝手に」

「そんなワケあるかっ! 半分近く搾り出したのはティアナだからねっ!?」

「コレはもう一度詰め直してぇ、しっかり小分けに出さないといけませんねぇ。チョコが固まらないですぅ」



次はコーティング用のチョコを溶かす作業よ。もうここは一度やったから、楽勝だったわ。



「ティアナ、ちょい待って。おのれはなぜにまた生クリームを沸かそうとしているのかな」

「いや、チョコ溶かすんでしょ? だから・・・・・・あ、お湯で溶かすんだっけ。ごめんごめん」

「あの、話聞いてましたっ!? コーティング用のチョコは、湯煎で溶かすのっ!!
さっきと同じ溶かし方はしないし、お湯とか水とかも使わないのっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘だッ!!

「嘘じゃないからっ! てーかいきなりつや消しハイライト無しな目になるのやめてくれないかなっ!!
それでちょっと涙目になるのやめないっ!? 泣きたいのはおじさんの方なのよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




いやぁ、凄かったわね。もうなんて言うんだろ、JS事件での戦いを超えた感じよ。





まぁなんでか私にずっとついててくれたアイツやスゥが疲れ切った顔してたけど、それは私のせいじゃない。





・・・・・・私のせいじゃないって言ったら絶対にそうなのよっ! そうなるしかないのよっ!!










「ほら、二人には転校当初から世話になったしさ。そのお礼よお礼」

「そっか。ティアナ、ありがと。じゃあ早速これ食べちゃっても」

「いいかしら、ランスターさん」

「えぇ、いいわよ」



それで二人は嬉しそうに私のチョコが入った箱を開けて・・・・・・アレ、なんでか固まった。



「・・・・・・よかった。ティアナが変わってなくてよかった。
いや、私はこれでツッコミ所がなかったらどうしようかと思ってたんだ」

「ランスターさん、ランスターさんはそのままのランスターさんが素敵よ? だから、自信を持ってね」

「いや、それ意味分からないから。アンタ達それマジで意味分からないんですけど。
てーかなんでいきなり私の頭撫でだしてるっ!? それでなんでちょっと涙目なのよっ!!」










まぁそんな私のチョコだけど、外見はともかく味の方は問題なかった。二人共この後笑ってたから。





さて、私のチョコはフェイトさん達に改めて渡した分を除けばあと一つ。まぁ・・・・・・一応ね。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第97話 『We connected with people/ドッキドキの急接近連発っ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ただいまー」

「ただいま戻りましたー。いやぁ、今日も一日大変だったー」

「お帰り。お風呂にする? ご飯にする? それとも私かしら。そう、私ね。
あ、当然あむは除去よ? アンタはそこら辺の草でも食べてなさい」





僕とあむが玄関に入るなり、いきなりそんなアホな事を平然と言ってきたツインテールが居た。



なので僕はどこからともなくハリセンを取り出して、その頭頂部目がけてハリセンを唐竹に叩き込んだ。



その子は右手で頭を押さえながら、恨めし気に僕を見出した。





「痛いじゃない。一体なにするのよ」

「それはこっちのセリフじゃボケっ! てーかこんなとこでなにしてるっ!? 芸能人っ!!」

「そ、そうだよっ! 歌唄、アンタ一体・・・・・・てーかなんであたしの扱いがまたそんなぞんざいなわけっ!!」



僕達を家の中で出迎えたのは、歌唄だった。・・・・・・あ、後ろから苦笑い気味にフェイトがやって来た。



「・・・・・・さてフェイト、コレは何?」

「えっと、歌唄ヤスフミに会いに来てくれたんだ。あ、客間空いてるから」

「なんか気を使うのやめてもらえますっ!? あなた僕の奥さんですよねっ!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それで結局、相手しないわけにはいかなくて客間で向かい合わせに座る形になった。





ア、アレ・・・・・・なんかおかしい。これは一体なんだろう。今更だけど僕、凄い選択ミスったんじゃ。










「それじゃあ、これ」



歌唄が渡してくれたのは、綺麗に包装された手の平サイズの箱。

僕はそれを両手で受け取って、歌唄の方を見上げる。・・・・・・距離感、すっごい近い。



「ありがと。じゃあ後で」

「今食べるのよ」



歌唄はなぜか僕の手から箱をぶんどって、手早く包装を開けて箱の蓋を開いた。

それから中に入ったチョコを一つ取り出して、僕に差し出す。



「あーん」



・・・・・・言葉は優しく聴こえたかも知れない。でも、視線が威圧的だった。僕に有無を言わせないらしい。

で、でもどうしよう。なんか色々とここで乗っちゃっていいのかどうか迷ってしまう。



「恭文、大丈夫。第四夫人もらう事なんて私は気にしないわ」

「なんの話してるんですかっ!? てーかそんな予定は無いからっ!!」

「あら、シルビィさんって人と色々あったって聞いてるけど」

「誰からっ!? いや、想像つくけどっ!!」





先に帰って来てたリインとか、シャーリーとかが面白がって・・・・・・アイツら、潰す。

決意に胸を燃やしている間に、歌唄がチョコを僕の口にくっつけた。僕は、諦めてチョコをそのまま食べる。

その時一緒に歌唄の指も咥えるけど、歌唄の指は柔らかで甘い味がした。



まぁそれはチョコの味のせいと思う事にする。歌唄はその光景を見て、嬉しそうに笑った。



僕が指を離すと歌唄はその指を自分でも咥える。瞳を細めてから、ゆっくりと離した。





「・・・・・・間接キス」

「う、嬉しそうに笑うな」

「あら、嬉しいに決まってるじゃない。それでチョコはの味はどう?」

「・・・・・・美味しい」



ごめん、ぶっちゃけ味なんて間接キスで吹き飛んだ。でも、美味しかった気がする。

歌唄はそれを見て、もう一度チョコを手に取って僕の口元に持っていく。今度は唇の先で。



「ちゃんと指ごと咥えて」



・・・・・・考えを見抜かれた僕は、そのまま指を咥える。まずはチョコ・・・・・・あ、これは本当に美味しい。

上等なチョコ、買って来てくれたんだなぁ。今度はチョコが付いた歌唄の指の先を舐め上げて綺麗にする。



「ん・・・・・・く」





歌唄はその感触がくすぐったいのか、頬を赤らめて軽く吐息を吐く。

その吐息が色っぽくて僕はちょっとだけ指を吸ってみる。歌唄の身体が軽く震えた。

僕は指を離して、歌唄の手を掴みながら歌唄の口元に持っていく。



歌唄は自分と僕の唾液で濡れた指を軽く咥えて、口を動かし始めた。





「・・・・・・やっぱり美味しい」

「なら・・・・・・ん、よかった」



歌唄は指を口から離して、僕の方を見る。



「恭文」

「何かな」

「今から私、アンタに無理矢理キスする。もちろん普通のキスじゃない。
唇を吸って、舌を絡めて・・・・・・ディープな、大人のキス」



歌唄は赤らんだ顔で、いきなりそんな事を言い出した。それで自然と、歌唄の柔らかそうな唇を見た。



「無理矢理だから、アンタはフェイトさんやリインに申し訳なく思う必要なんてない。
私のせいにして、奪われたって思えばいい。それなら、問題ないから」

「・・・・・・歌唄」

「分かってるわよ。でも、抑えられない。アンタの事、欲しい。だから」



僕は歌唄を抱き寄せて、そっと右の頬に口づけをした。歌唄はそれから少しだけ動きを止めて、僕の肩に顔を埋める。

だけどそれでも歌唄は顔を上げて、僕の事を真っ直ぐに見る。吐息がかかるくらいの距離で、僕達は見つめ合っていた。



「そんな事、出来るわけないじゃないのさ。・・・・・・するなら、一緒にだよ?」



歌唄、香水をつけているのか柑橘系の甘い匂いがする。それが鼻をくすぐって、胸の鼓動が更に早くなる。



「いいの?」

「いいよ。でも、僕は歌唄より大人だから・・・・・・キスだけじゃ足りないんだ」



歌唄は驚いたように目を見開く。僕は、歌唄の唇から漏れる吐息を感じながら頷いた。



「歌唄を僕のものにしたい。僕、どうも歌唄の事は引きずるしかなさそうだから。歌唄が、好き」



三人の女の子がそれぞれ意味合いは違えど好きって、おかしいのかな。でも・・・・・・そう、みたいなんだ。

僕は三人とも好き。三人とも引きずっていくしかないみたい。捨てたり、下ろしたりは出来ない。



「・・・・・・それは、だめ。私、まだうたいたいの。なにより私にだって心の準備が」

「もちろん最後まではしないよ。してバストタッチまでかな」

「それで我慢出来るの?」

「歌唄がそれで僕の事満足させてくれれば、大丈夫。でも、だめならきっとそのままだね。
歌唄は僕に押し倒されて、全部僕のものになっちゃう。それでこのままお泊りコースだよ」



不敵にそう言うと、歌唄は呆れたように笑いつつも挑む目になる。



「言うじゃない。アンタこそ、私の事満足させてくれるの? 私、キスは上手な方だけど」

「当然。僕は歌唄より大人だもの」

「そう。だったら・・・・・・勝負ね。私、負けないから」

「それはこっちのセリフだよ。勝って、歌唄の事ここで全部もらっちゃうから」



そこまで言って、二人で吹き出すように笑った。なんかこんな話をしてる事そのものがおかしいから。

それでも僕は歌唄の髪を・・・・・・頭を左手でそっと撫で上げる。右手は背中をだね。



「恭文」

「何?」

「私達はまだ・・・・・・まだきっと、そこまで関係を深くしなくていいわよね」

「ん、そうだね。今のままだと僕、歌唄を愛人の立ち位置にしなきゃいけないし」

「確かに。私結婚出来ないもの。でも、将来的な事も考えた上でなら法律的にはOKらしいわよ?」



歌唄はまた僕の肩に顔を埋めた。僕は優しく、両手いっぱいで歌唄の事を抱きしめる。



「まぁそこはいいわね。あのね、恭文」

「何?」

「私、もうイクトに恋愛感情は持ってない。私が好きなのは、一人だけ。
アンタが誰を好きでも、誰を見ててもいい。私が側に居たいのは、一人だけ」



歌唄はそう言いながら、僕に身体を全部預けてくる。僕はしっかりとそれを受け止めた。



「私はアンタが好き。本当ならこのまま、アンタのものになりたい。
アンタが私の事求めてくれて、嬉しかったの。それに、ほら」

「なにさ」

「今は身体くっつけてるから・・・・・・肉体的反応ってやつも感じ取れたしね」



そ、そこには触れないで欲しい。自分でもびっくりなんだから。・・・・・・まぁ、キスまでで我慢するつもりだったけど。

え、バストタッチ? 当然やらないに決まってるでしょうが。出来てもやっぱりキスまでだよ。



「でも、イクトの事が解決するまでは・・・・・・やっぱり、このままでお願いしたいの。
ちゃんとイクトに伝えなきゃいけないから。私は、アンタのものになるって」

「・・・・・・それは今まで散々キスやらなんやら迫ってた人の言うセリフとは思えない」

「分かってるわよ。でもさ、やっぱけじめはつけなきゃいけないんだ。
だからちゃんとけじめはつける。それで・・・・・・それが終わったら」

「分かった。でも、さすがに今日はこのままは帰せないなぁ。
・・・・・・ちゃんと僕のものになるって気持ちを示して? というか、ここで恋人同士になりたい」



少し意地悪げに歌唄に笑いかけると、歌唄は身体を少し離してジッと僕の目を見返す。



「歌唄の知っての通り僕は今歌唄の事が欲しいの。あやふやなままは嫌だ。
・・・・・・自分からキスしたいって言ったんだから、ちゃんと責任取って」

「・・・・・・分かったわ。なら、今までのお礼と、私の気持ちを示すわ。それで」





歌唄はそう言いながら瞳を閉じて、ゆっくりと顔を近づけた。僕はそのまま歌唄の接近を許す。

僕はそのまま瞳を閉じて、唇を重ねた。それは触れるだけの優しいキス。

鼻をくすぐるのは、優しい柑橘系の甘酸っぱい匂い。僕は少しだけキスを深くしてみる。



歌唄はそれに応えて、ゆっくりと口を開く。そのまま、互いに舌を差し出して絡め始める。

舌先を触れ合わせると、痺れるような甘い疼きが走る。互いの舌を吸い合うようにキスをどんどん深める。

フェイト以外でこんなに深いキスしたの、初めて。でも・・・・・・これ、いい。



フェイトの恥じらいながらもいっぱい求めてきてくれるキスとは、また味わいが違う。

歌唄のキスは情熱的で、とても熱い。その激しさが嬉しくて、また気持ちが昂ぶる。

それからしばらく、水音を響かせながら僕達は一心不乱に互いの唇を、舌を吸い合った。



腕の中で身体を震わせながら反応してくれる歌唄が可愛くて、つい責めてしまう。

それでも終わりはやっぱり来るもの。僕達はどちらともなく自然と唇を離して、至近距離で見つめ合う。

それからもう一回だけ僕達は瞳を閉じて、優しく触れるようなキスを交わした。



交わしたあと、また見つめ合いながら僕達は今度は唇だけでなく身体も離していく。





「・・・・・・それで、この続きは・・・・・・全部解決したら、よね」

「うん。なんか死亡フラグっぽくて怖くはあるけど」

「いいじゃない、別に。そんなフラグはへし折っていけばいいんだから。あとね、恭文」



歌唄はさっきよりも顔を真赤にして、口元から流れてる唾液を左手で拭いつつ・・・・・・蕩けた目で僕を見る。



「凄く、良かった。アンタ・・・・・・マジで大人なのね」

「当然だよ。というか、僕も本当に良かった。キスだけで満足させられちゃったよ。今日は引き分けってとこだね」

「ならよかったわ。けじめつける前にそうなっても、後味悪そうだもの」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夕飯まではまだ時間があるので、二人で今度はチョコを普通に食べつつお話。





部屋の壁を背もたれにして最近の事とかを、ちょっとずつ話していく。





その途中でふと見つめ合って、互いに唇を見てつい苦笑気味になるのは許して欲しい。










「・・・・・・なんかさ、三人の女の子好きになるって、おかしいかなーって思う時があるわけよ」

「まぁ、普通なら浮気者よね」

「でしょ? だからフェイトとリインってだけで相当頭抱えててさ。
しかも歌唄とあんなに深くキスしても、二人が好きな気持ちは変わらないの」



この辺りの話は何度もしたと思うけど、それはもう・・・・・・今でも悩んでるところだよ。

だけど拭えなくて、下ろせない荷物になって・・・・・・やっぱり引きずるしか無いのかなと思ったりもして。



「ま、普通の浮気者とアンタとでは、違うところがあるからいいんじゃないの?」

「違うところ?」

「アンタは三人とも本気で愛してくれる。本気で引きずって、持っていこうとしてくれる。
・・・・・・さっきのキスで、めちゃくちゃ感じたんだ。一刻の弾みじゃなくて、本気だって」



歌唄はそう言いながら、ゆっくりと僕の肩にもたれかかる。なお、歌唄は僕の左側に居る。

歌唄の方が身長が高いのに、器用に僕の肩に頭を乗せているのが凄い。



「大丈夫よ。私達は、そんなアンタだから認められるんだから。
愛人とか現地妻とか、そういう逃げ方もあるのに本気になるんだもの」



僕は歌唄の方を見ると、歌唄はこれまた器用に上目遣いに僕を見る。

ただ歌唄、その体勢はさすがに無理だと思う。さすがにこう・・・・・・関節が痛むよ。



「私は前にも言ったでしょ? 四人がいいの。
フェイトさんもリインも、同じ気持ち。アンタと四人で愛し合っていきたい」

「・・・・・・ありがと。で、いいのかな?」

「いいわよ、それで」



それだけじゃなくて歌唄は、自分の右手と僕の左手を絡めて繋ごうとする。

ただ繋ぐんじゃなくて、指まで絡めた恋人繋ぎ。僕もそれに応えて、歌唄の手を優しく握る。



「それでさ、恭文」

「ん」

「実はここに来たのってもう一つ理由があるんだ。・・・・・・なぞたまって言うの、相当ヤバいの?」



え、いきなりなんでこんな話になるの? というか、歌唄の手の力が痛いくらいに強まったんですけど。



「いやね、唯世にそこの辺りをメールしたらやたらと『大丈夫・問題ない・歌唄ちゃんは心配しなくていい』とか言いまくるのよ。
やたら言いまくって、自分から報告してくるくらいで・・・・・・なんというか、アレだと『不安要素たっぷり』って言ってるのと同じよ」

「そ、そうなんだぁ」



唯世・・・・・・! あのバカ動揺し過ぎだからっ!! てーかそこまでやったらアウトじゃないっ!?

ただまぁ、気持ちも分かる。予言の事もあるし、再起頑張ってる歌唄を巻き込みたくないってのはさ。



「あむとかに聞いても全然さっぱりだし、ここはアンタしかないって思ったわけよ」



歌唄は身体を起こして、改めて僕を見る。というか、顔を近づけてくる。

・・・・・・さっきのキスを思い出してしまって思わずドキっとしたけど、ここは抑えておこう。



「というか、あむなんでここに居るの? 『夕飯の準備手伝う』とかなんとか言ってたし」

「あー、まずそこからかな。うん、そこからだね。だってあなた、僕の事殺し屋の目で見てるし」



というわけで、とっても便利なかくかくしかじかでお話する事にした。



「・・・・・・というわけなんだよ」



歌唄は納得したらしく、殺し屋の瞳が収まってくれた。僕は内心ホッとしてたりする。

だって・・・・・・まぁその、引きずるって決めたから。それなら歌唄とは、もう恋人同士だから。



「そうなんだ。というかあの子、相変わらず抜けてるわね」



あむ、ごめん。でも僕の命の問題もあるから、ここを話さないわけにはいかなかったのよ。

でも大丈夫、僕は昼間の悲劇については話してないから。全く話してないから。



「で、どうなのよ。そこの辺りは」

「まぁその、苦戦してるというか手がかりが少なくて後手後手というか・・・・・・あはははは」










その後、壮絶な尋問劇が始まるけど・・・・・・ごめん、思い出したくない。めっちゃ思い出したくない。





とりあえず歌唄が疑問を解く事に貪欲だっていうのは分かった。もう凄かったです。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ランスター先輩」



俺は一人自分の部屋の中で、箱を見ていた。それは、ランスター先輩がくれたもの。

やばい、また泣きそうだ。中身はもう無いというのに、箱を見ているだけで涙が出てくる。



「俺は・・・・・・俺は先輩を好きになって、幸せでしたっ!!」










下駄箱にこの箱が入っていた。なお、ランスター先輩だと分かったのは手紙が入っていたから。










それが俺が握りしめている手紙だ。ランスター先輩、俺は・・・・・・俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



チョコイベントも無事に終わった。学校の空気も、あれをキッカケにギクシャクしたのはだいぶ無くなった。

歌唄とも・・・・・・向き合って、引きずっていくと決めた。それはフェイトとリインにも改めて話した。

でも、そこを納得して頂いた上で僕とフェイトは気にするべき事がある。それはなぞたまの事だよ。





夜にフェイトと二人で自室でいつものようにベッドに横になり、添い寝状態で恒例の会議です。





あ、フェイトのお腹や身体は冷やさないようにして、いっぱいくっついて温めて・・・・・・だけど体重かけないようにしてと。










「・・・・・・ジガンのサーチだと、やっぱり見つからなかったんだよね。というか、ジャミングされてた」

「何回かこっちがやられてたのと同じだね。映像データはなんとかって感じだけど」



あの時、周囲に居た人間の気配に気づけたのは相手が不用意にそこに居たから。

でも、あそこでもっと踏み込めてたら・・・・・・うぅ、痛い失態だなぁ。



「うー、そうするとやっぱ尻尾が掴めないなぁ」

「でも、だからこそのホームパーティーだと思うんだ」





前回最後を思い出して欲しい。今週末にホームパーティーをするかほるさんが、僕を招待してくれた。

家族連れでもOKらしいから、その場でフェイトとリースを連れて行くと返事した。

え、リインとティアナとディードとシャーリー? 当然別の役割があるのよ。それもかなり重要。



現在絶賛改修中のアルト達の調整作業があるから、今週末は出ずっぱりなんだよね。





「ヤスフミ、あの」

「大丈夫だよ。こういうのは海里の時で慣れた」

「嘘だよ」



う、フェイトはやっぱりお付き合いするようになってから鋭い。だから軽く膨れた顔になるし。



「まぁあんまり疑ってかからない方向ではいくよ。思考が固まり過ぎるのは捜査では悪手にはなりやすいし」

「確かにそうだね。マリアージュ事件ではまさしくそれだったもの。でも、注意はしておこうか。
それで・・・・・・重いならちゃんと頼って欲しいな。肩くらいは貸したいんだ。遠慮無く使って欲しい」

「ん、ありがと。・・・・・・あとは」



夕飯を食べて、ご機嫌な調子でご飯を食べて帰った・・・・・・あ、かぶっちゃった。とにかく帰った歌唄の事。

フェイトも僕の表情からそこを察したのか、少し困った顔になった。



「歌唄の事だよね」

「うん。唯世がツッコまれて動揺した返事返したの、やっぱ歌唄には話せないと思ってるからだろうしなぁ。
でもでも、こっちの状態・・・・・・というか、イースターの作戦の事に、完全に疑問持っちゃってるみたいなんだよね」



頭が痛いのは、歌唄が予言の事を知ったらどういう行動に出るか全く読めない事。

マジどうしよう、これで再起が失敗したら僕は世界救えても意味がない。全く意味がない。



「・・・・・・えぇいっ! こうなったら歌唄も巻き込んでやるっ!! どうせバレるの時間の問題っぽいしっ!!」

「ヤスフミ、いいの?」

「いいの。というか、話さないでバレた時の事を考えると、寒気がする

「・・・・・・・・・・・・納得したよ」










それからまたと二人だけの会議は進行していく。ゆっくり、のんびりとだよ。

僕はそっと顔を近づけて、付き合ってくれたフェイトにお礼の意味も込めて優しくキス。

フェイトは微笑みながら受け入れてくれた。あ、フェイトからもチュってされちゃった。





それで本当に、こういう時の勘は外れて欲しいとかちょっと思ってしまった。本当に・・・・・・ちょっとだけ。





主にルルへの疑いと、歌唄に遅かれ早かれバレるという予感について。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、僕達はあむも連れた上で山本家まで来た。なお、表札は立派に山本家と書いている。

一応パーティーなので、僕は以前フィアッセさんからもらったノーネクタイのスーツ(第5話を参照)を装着。

フェイトも暖色系のスーツを身に纏って、リースもコバルトブルーのスーツを装着。





あむは白と黒のよそ行き用のワンピース。髪をツインテールにして、そこを巻いてカールにしてある。










「でも恭文が髪セットするの得意とかってのは、意外だったなぁ」



あむが左手でカールをふわふわ触りながら、楽しそうに笑っている。



「そうなんですよね。やっぱりおじいさんは器用というかなんというか」





それはフェイトとリースも同じく。あ、二人の髪も僕がセットしたの。

フェイトは髪を巻いてお団子にして、頭の上にセット。そこからの変則的なポニーテール。

リースは髪全体にカールを着けて、巻き毛にしてある。それを左肩から前に流す。



全体的に品良く、ちょっと大人っぽい感じにしてる。





「実は・・・・・・フェイトさんの髪もおじいさんが切ってるんです」

「え、そうなの?」

「うん。そこは結構前からだね。別々に暮らすようになってからも、週一で会ってたから」

「で、よくその時にフェイトに頼まれて僕がカットしてたんだ。それでフェイトも僕の髪をカットするの」





そのために練習したもんなぁ。美容師さんが使うような練習用のカツラとか買ってさぁ。

・・・・・・なぜそうしたかは察して。やっぱ距離が開いた分、頑張りたかったんだよ。

こういうところから地道に頑張っていけば、距離が縮んでいくかなぁとか思ったのよ。



過去の自分の頑張りを思い出して誉めたくなっていると、あむはなぜか苦笑い。





「いや、なんていうか・・・・・・やっぱ二人共、普通にずっとお付き合いしてたのと同じなんじゃ」

「そ、そうかな。私はその時は家族としてって感じだったんだけど。
毎日通信とかしてたけど、やっぱりお付き合いしてるって感じでは無かった」

「僕も同じくかも。だってフェイト、全然気づいてくれなかったし」

「いや、それ普通にお付き合いレベルですって。ね、リース」



リースがなぜだかすっごい力強く頷くので、僕達は顔を見合わせて軽く首を傾げてしまう。



「なんというか、昔からラブラブなのは間違いなかったんだねー」

「それで二人して自覚無しって・・・・・・ボクには理解出来ないかも」

「でもぉ、仲良しなのは良い事ですよぉ?」

「スゥさん、これはそういうレベルじゃありませんって。というか、周りもどうしてそこに気づかないのか」



なんだろ、しゅごキャラーズにも呆れられているような・・・・・・よし、気にしない方向でいこう。



「そ、それでヤスフミ。山本さんの家はここでいいんだよね?」

「うん。それで時間もぴったり。さ、早速」

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



・・・・・・早速インターホン押そうとしたのに、妙な声が聴こえた。ボクはそこを一切無視して、インターホンを押す。



「へっ!? パ・・・・・・パパっ! てゆうか、ママにあみもどうしてっ!!」



まぁまぁ左の方から三人ほど近づいてくる気配がするけど、そこは気にせずに僕はフェイトの手を引いて玄関前に行く。

そうだ、気にしてはいけない。なぜか僕に殺気が向けられ始めた事とかは、一切気にしない。



「おねちゃーんっ! あ、あおいおにいちゃんときんいろのまんとのおねえちゃんもいるー!!」

「あむちゃん、またどうして・・・・・・あ、もしかしてフェイトさん達も招待されたとか?」

「まぁそんな・・・・・・え、フェイトさん達も?」





向こうはなにやら大変そうだけど、僕は一切気にしない。

リースが『どうするんですか』みたいな視線を送ってくるけど、僕は気にしない。

そうこうしている間に木目が綺麗なドアが開いて、男女二人組が出てきた。



出てきたのは品の良いクリーム色のセーターを着た金髪の男性と、ノースリーブのタートルネックの服を着ているかおるさん。





「こんにちは。かおるさん、ご招待ありがとうございます」

「ありがとうございます。あの、初めまして。私フェイト・T・ハラオウンと申します」

「いえいえ、ご丁寧にどうも。私、かおる・ド・モルセール・山本です。こちらは主人」

「初めまして。・・・・・・いや、びっくりしましたよ。まさかまたお会い出来るとは」



あー、そう言えばこの間のチョコ教室で顔合わせてたんだよなぁ。だから本当に驚いた顔してる。



「それだけではなく、まさかあなた達が妻と知人だったとは」

「いえ、私がというよりヤスフミがなんです。私も本人から聞いてびっくりしたくらいで」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、向こうは社交辞令的にお話し始めたわけだけど・・・・・・それよりも問題はこっち。

話を聞いた限りでは、どうも日奈森家も招待を受けたらしい。なお、その原因はお母さん。

あむさんのお母さん、前に聞いたけど主婦雑誌のライターさんをやっているらしい。





そのお母さんがあそこの有名女優な綺麗な人の取材をして、その時に意気投合。










「・・・・・・それでご近所さんだって偶然にも分かって、ホームパーティーに招待してもらっちゃったの」



どうもそういう事らしい。でもあむさん、そんなに困った目で私を見ないで。私は見られても何も出来ませんよ。



「そ、そうだったんだ。てゆうか、あたし聞いてなかったんですけど」

「当然よ。まぁ本当はあむちゃんも誘いたかったんだけど」



言いながらあむさんのお母さんは、ある人に視線を向ける。それは自分の左側で声をあげ続けるあの人。



あむちゃん、もううちに帰っておいでっ!? パパは本当に反省しまくったんだっ!!
これからは勝手にあむちゃんの作ったものを食べたりしないよっ! 本当だから信じておくれよっ!!


「・・・・・・パパがこの調子でしょ? さすがに無理かなって」

「あぁ、うん。納得したわ。てゆうか、なんか自分で『反省しまくった』って言ってるところが更に腹立つんですけど」



あむさんがこめかみをヒクヒクさせて、自分の父親に敵意を隠さずに視線をぶつけている。

・・・・・・あむさん、相当ムカついてましたもんね。うん、分かる。それはしょうがないです。



あむちゃんが居ないと、僕はもう夜も眠れなくてずっとずっと泣き通しで・・・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

「あぁもううるさいっ! ピーピー泣くなっ!! てゆうか、話しかけないででくれるっ!? あたしまだ許してないしっ!!
中ではあたしの半径1メートル以内に近づかないようにっ! で、声かけられても無視するからっ!!」

あむちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ! どうしてなんだっ!?
やっぱり・・・・・・やっぱりあのひとでなしがあむちゃんをたぶらかして




次の瞬間、あむさんは右手を伸ばして泣きじゃくっているあの人の胸ぐらを掴んで引き寄せた。

それで私でも分かるくらいの量の殺気を出しまくっている。ちなみに他三人、距離的な意味で少し引きました。



「・・・・・・パパ、これ以上恭文に迷惑かけたらマジぶっ飛ばすから。
恭文は、本命が居るの。あたしと恭文は普通に友達なの。分かった?」

は・・・・・・はい










・・・・・・私は自然と、右隣に集まってたランちゃん達に視線を向ける。ランちゃん達は全員お手上げポーズでため息を吐いた。





なので私もそれに倣って、両手を上げてお手上げポーズ。ごめん、もうこれだけしか出来ません。





三代目祝福の風にだって、限界はあるんです。これ以上はもうどうしようもないと思うんですよね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、それからさほど経たずにパーティーは始まった。もちろん参加者は僕達だけじゃない。

ホームパーティーには、近所の家族や子ども達も来ている。あみちゃんの友達も来てるっぽい。

そして料理関係は、全部この家の方々のお手製。だから普通に美味しい。というか、豪華だなぁ。





ローストポークにサラダにカナッペ・・・・・・一般的なホームパーティーのレベルを遥かに超えている。

材料が豪華とかそういう事じゃなくて、作り込みがトップレベルなのよ。その結果、味もトップクラス。

さすがにプロのシェフが本気出しただけの事はある。素材の良し悪しではなく手をかけているわけですよ。





特に僕達が今食べている牡蠣は最高。貝殻がそのまま器になっている。

さすがに生物は危ないと判断したのか、加熱してグラタン風味にしてある。それがもう上手い。

だからフェイトと二人、三個目を頂いてるわけですよ。・・・・・・はむっと。





それで僕達は当然のように、笑顔になってしまうわけだよ。










『・・・・・・美味しい』



だからこそ、僕達はきっと口を揃えてこんな事を言う。



「フェイト、体調は大丈夫? 気分悪いとかは」

「うん、大丈夫。食事関係、好みが変わるとかはあんまりないみたいだから。まぁ、一気に沢山は食べられないけど」



フェイトはそう言いながら、苦笑する。僕はそれを見てその・・・・・・なんか嬉しくなったり。



”というか、ごめんね。その・・・・・・しばらくは我慢させちゃうね。
確定しちゃったし、安定期に入るまではダメみたいで”

”あの、大丈夫だよ? だってフェイト、出来る範囲でコミュニケーションしてくれるし。
なにより僕だって何かあったら怖いもの。だって、約束したでしょ? 一緒になんだから”

”うん。一緒に・・・・・・私達一緒に、だよね。私達二人で描く、夢の一つ”



牡蠣の殻を改めて皿の上に置きながら、僕達は見つめ合って笑い合う。・・・・・・えへへ、幸せ。



「気に入っていただけたようで、なによりです」



かおるさんの旦那様・・・・・・あ、これはさすがにだめだな。ルルのお父さんは、そう言いながらこちらに来た。

その視線の先に僕が居るのは・・・・・・まぁその、ねぇ?



「あの、堪能させていただいています。でも、凄いですね。
これだけの質の料理をこんなに・・・・・・私だったら一日仕事です」

「いえいえ。家族が手伝ってくれましたから。さすがに私でも一日仕事ですよ。特に」





ルルのお父さんはそう言いながら辺りを見渡して、誰かを探すような仕草を見せる。



それでパーティー会場であるリビングに新しいサラダを持ってきた、一人の男の人を見つけた。



白のYシャツにジーンズ姿というおしゃれ気0なそのお兄さんに、僕もフェイトも視線を向けた。





「あの子がよく手伝ってくれまして」

「息子さん、ですか?」

「えぇ」

「・・・・・・ヘイ・ド・モルセール・山本」



呟くようにそう言った僕を、ルルのお父さんは驚いた顔で見る。僕はそれに気づいて、苦笑し気味に視線をある箇所に向ける。



「かおるさんに以前教えてもらったんです」



そこに居るのは、奥様方と楽しく話しながら飲み物を注いでいるかおるさん。

その輪の中に、自然とリースが溶け込もうとしているのは・・・・・・なんで?



「家の手伝いとかも頑張ってくれて、妹の面倒もよく見てくれる素敵なお兄ちゃん。
そう言いながら、嬉しそうに僕に写真を見せてくれました」

「そうだったのかい。うん、確かにヘイは本当によくやってくれている。
私の店の手伝いも相当頑張ってくれていてね。自慢の息子なんだよ」

「・・・・・・父さん、恥ずかしいから出来ればそういう話はやめてもらえると助かるんだが」



そう言いながら苦笑し気味に、ヘイはこちらに近づいてくる。・・・・・・やっぱり隙がない歩き方してる。

それでちょうど切れていたサラダの皿と、自分が持ってきたものを素早く入れ替えた。



「いいじゃないか。せっかくなんだし」

「俺はそこまで立派な事はしてないよ。俺のやりたいようにやってるだけだし。
・・・・・・あ、父さん。オードブルの方新しいの仕上がるから、少し味見を」

「分かった。後で行くよ」

「じゃあ、ごゆっくり」



それだけ言って、ヘイはそそくさとキッチンに戻った。あ、戻る時におじぎも丁寧にしてくれた。

僕達は二人でそれに返した上で、改めてお父さんを見る。・・・・・・少し、聞いてみようっと。



「素敵な息子さんですね。どこか背筋がピンとしていて、見ていて気持ちがいい」

「そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです。でも、アレで結構面白いところもあるんですよ」

「あの、一つ質問いいですか?」





お父さんは僕の方を見るので、僕は当然見上げ・・・・・・この身長差が憎い。



えっと、お父さんは僕の年齢の事とかそういうのは聞いてるってかおるさんが言ってたよね。



でも、念のため敬語でっと。誰が聞いてるかも分かったもんじゃないし。





「ヘイさんって、何か武術とかやられてるんですか?」

「それはまたいきなりな・・・・・・どうしてそう思うんだい?」

「まず重心が全くブレてない。このサラダのお皿、それなりに大きくて重たかったはずなのに。
足運びもすごいスムーズだったし、乱れもない。というか、この間の教室の時から思ってたんです」



うん、思ってた。それでどうも悲しい事に・・・・・・今改めて見ると、なんかかぶるんだよねぇ。印象があの仮面男にさ。



「あの人それなりに武術関係勉強してて、相当の腕があるのかなーって。
僕の知っている人と出してる空気が似てたので、それで」

「なるほど・・・・・・僕はそこの辺りはさっぱりなんだけど、実はそうなんだよ。
あの子は昔からそういうのが好きらしくて、よく暇な時には訓練してたんだよ」



・・・・・・やっぱりか。僕はついフェイトと顔を見合わせてしまう。



「うちのレストランにも、その手の事に強いスタッフが居てね。彼に色々教わったりしてた。
確かえっと・・・・・・中国拳法の類がベースとか言ってたね」

「そうなんですか。あー、だからか。納得しました」



うん、納得したわ。体型や髪の色・・・・・・あとはジガンに聞いてみますか。



”ジガン”

”・・・・・・検証、終わったの”

”これまた素早い。それで結果は”



ジガンはそこから本当に少しだけ黙ってしまった。その間に、お父さんは何か思いついたように僕の方を見る。



「というか、君もそこは詳しいんだよね。妻から聞いたけど、でら強いとか」

『・・・・・・でら?』

「あ、申し訳ない。うちでは基本的に名古屋弁で喋ってるもので。かおる譲りなんですよ」



少し恥ずかしそうに笑うお父さんは、生粋のフランス人だと聞いている。

でも、奥さんであるかおるさんは名古屋出身。・・・・・・あぁ、だからか。そういうの移る事はあるしなぁ。



「とにかくそういうのが詳しいなら、もし良ければなんだけど・・・・・・ヘイの話し相手になってもらえないかな」

「あ、あの・・・・・・待ってください。ヤスフミがですか?」

「えぇ。実はその、お恥ずかしい話なんですが私もそうですし、家内も娘もそこの辺りはどうにもさっぱりで。
ヘイも同じ趣味を持っている人間が近くに居ないんで、まぁもし機会があればという事で」



どうやら本当にいいお父さんらしい。だってそう言いながら、ヘイが出て行った入り口の方を見ているもの。

その視線がとても穏やかで、優しい瞳で・・・・・・僕は自然と頷いていた。



「分かりました。まぁその、そういう機会があればという事で。まだ直接話したりもしてないですし」

「うん、ありがとう。それで充分だよ」

”・・・・・・あの時映像データ、撮れてよかったの。そこからあの人の体型を照合したの。



話している間に、ジガンは気持ちを固めたらしい。申し訳無さげな声で念話を送ってきた。



”照合率は・・・・・・約80%”

”また微妙だねぇ。スパロボじゃあそれは外れる確率だよ”



スパロボは、例え当たる確率が97%でも連続で外れる時があるしなぁ。アレは不思議だわ。



”でも、ジガンの勘的には当たり?”

”そうなの。双子だったり主様みたいにしゅごキャラに身体を乗っ取られるとかでもない限りは、これで確定なはずなの”

”・・・・・・そっか”










まずは証拠を一つゲット。でも、これじゃあ足りない。仮にあの仮面男がヘイだったとして、目的が分からない。

あそこで介入した目的が、理由が何かを掴まないと確実な手にはならないんだよ。

例えば武術が好きで、そういう武者修業的に喧嘩を売っているとしたら? イースターとは関係なくだよ。





そもそもあそこでこそこそしてたのが誰かってのも分からないし、それ掴む前に蹴り入れられたしなぁ。

状況的には逃げようとするソイツをカバーするために出てきたけど、目的が全く違う事だってありえない事じゃない。

ただそこを抜いた上でだけど・・・・・・仮面男がヘイだとして、あの場に出てきた理由は読めなくはない。





一番納得出来る答えは、実は既に思いついてたりする。それはルルだよ。

ルルがなぞたま事件の関係者で、あの場で僕が掴んだ気配はルルのもの。

それを知られないために、あんな下手な変装をした上で邪魔しに来た。





つまり、なぞたま事件にヘイとルルの兄妹二人で関わっている。そう考えると・・・・・・アレ?





じゃあそれなら、ヘイってキャラ持ちになるのかな。あれ、そうするとしゅごキャラはどこだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私、突然ですが迷子になりました。山本宅で、迷子になりました。そういう設定なんです。

ルルさんはパーティー会場で接客中ですし、あのヘイという素敵な殿方も料理にかかりっきり。

当然ですが、普通の方には私達しゅごキャラは見えません。ですから私は迷子です。





というかパーティー会場は危険な匂いがするのですよね。日奈森さんの妹さんも居ますし。

ランさん達の話だと、彼女は私達が見えるそうです。それで同い年くらいの子ども達も多い。

そこで捕まって時間を浪費してもダメです。ここは敵地の可能性がありますから。





それで私、早速2階の方に上がって来ました。山本家は、2階建ての標準的な家屋です。

中はそれなりに広いですが、そこまで豪勢なわけではありません。察するに借家でしょうか。

1階もあらかた探索しましたが、家族の部屋は2階のようです。





・・・・・・怪しい気配は0。例えばあの宝石があるのなら、同じ気配がすると思ったのですが。





でも、だからと言って何もないとは限りません。ここは慎重にスニーキングミッションを。










「・・・・・・なにしてるの?」





後ろから声をかけられて、つい身体が震えます。・・・・・・しゅごキャラの、気配。

私はお兄様に謝る覚悟を決めつつ、振り向きました。

そこに居たのは、灰色の髪に紫色の瞳をしたしゅごキャラ。なお、服装は黒のワンピース。



それはあの料理教室でこちらの様子を見ていたしゅごキャラの一人。やはりこの家の関係者らしい。





「いえ、実は・・・・・・迷子になってしまいまして」

「嘘。あなたの宿主の居るところなんて、すぐ分かるよね? 一番騒がしいところへ行けばいいんだから」

「更になんですが、実は・・・・・・私、致命的な方向音痴なんです」



言いながら私は懐から白いハンカチを取り出し、目元を拭う。



「だからどう戻っていこうかと・・・・・・あぁ、でもよかったっ! ここであなたに会えるなんてっ!!」



私は声をあげながら、彼女に抱きつく。彼女は抵抗もせずに私を受け入れた。



「どこのどなたのしゅごキャラかも分かりませんが、ここで仲間と会えたのも何かの幸運っ!!
さぁ、私をお兄様のところへ案内してくださいっ! このままでは私、サハラ砂漠に行ってしまいますっ!!」

「あなた、図々しい。・・・・・・でも分かった」



そこで受け入れてくれるあなたが、とっても素敵です。あと、私は図々しいのではありません。

私はただひたすらに我が道を突き進むだけです。だって、私は選ばれし者なんですから。



「あと、私はあなたじゃない。私は・・・・・・イン、ヘイのしゅごキャラ」

「ヘイ・・・・・・あ、ルルさんのお兄さん」

「そうだよ」



私が身体を少し離すと、彼女は私の方をジッと見ます。何も言わずに、ジッと・・・・・・あぁ、なるほど。



「私もあなたではありません。私はシオン。お兄様のしゅごキャラであり」



ゆっくりと右手を上げて、人差し指で私は天井を・・・・・・天を指差す。



「天の道を往き、総てを司る者。太陽の如く輝く、眩き聖なる破壊・・・・・・それが私です」










あの子はそんな私を見て、ゆっくりと同じように天を指差しました。なぜでしょう、それがたまらなく嬉しい。





この時、もしかしたら私は本当の友というものを初めて持てたのかも知れません。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたしはパーティー会場の隅の方に座って、ラン達と一緒に美味しいお食事を堪能中。

たまに近づいてくるパパは、適度に睨んで追い返しつつパーティーを楽しんでた。

恭文はフェイトさんにくっつきつつ、ラブラブしつつもエスコートして守ってる。





当然ながらあの二人のラブラブ空間に入り込もうという猛者は、誰一人も居ない。むしろ居たらびっくりだ。





ああいうところを見ると、アイツがなぜモテるのかがよーく分かる気がする。いや、誉め言葉だよ?










「・・・・・・どうぞ」



そう言いながらあたしの近くにあるテーブルにローストポークとサラダの乗った皿を置いてくれたのは、ルル。

ピンク色のワンピースに、白のスカーフとリボンを纏ったあの子はとっても綺麗。



「あ、ありがと」



ちょうど新しい料理、取りに行こうと思ってたところだったんだよね。うん、グッドタイミング。



「いいえ。あなたもお客様ですもの。・・・・・・一応」



なんだろ、軽くムカついた。てーかアレだ、なんか性格悪くない?



怒っちゃだめですよぉ



スゥに耳元でそう言われて、あたしは湧き上がる怒りを抑え込む。

落ち着け、あたし。さすがにここはだめ。ここは絶対ダメだから。



「す、素敵なパーティーだね」

「当然よ、子爵のパーティーですもの」

「・・・・・・子爵?」

「貴族の事よ。あなた、そんな事も知らないの? やっぱり、あなたとはお友達になれないわね」





やばい、ムカつくんですけど。てーか貴族ってなに。お友達でもない人の家の事とかさっぱりだし。

・・・・・・よし、落ち着けあたし。あたしは最近沸点が低過ぎるんだと思うんだ。絶対低いと思うんだ。

パパの事がムカついたから、きっとそのせいだね。でも落ち着こう、あたし。



ここで言い争いなんかしたら、マジでKYだし。それは絶対にダメなんだから。





「そ・・・・・・そう言えば、ルルもしゅごキャラって居るんだよね?」



話を変えよう。話を変えて、気分を変えよう。そして反省しよう、沸点の低い自分を。

それでルルは、あたしの方を見ながら不敵に笑った。



「えぇ。本来なら、お友達でもないあなた紹介する謂れはないけど・・・・・・ナナ」





ルルがそう言うと、どこからともなくラン達くらいのサイズの子達が出てきた。

紫色の服を着て、その裾に色とりどりのマルイ宝石。髪は赤毛のカールのツインテール。

濃い目の丸い帽子をかぶったその子は、スカートを両手で軽く掴んでおじぎ。



その可愛さにあたしもラン達も、思わず目を見開いて息を吐いた。





「かわいいっ! お人形さんみたいっ!!」

「私のしゅごキャラのナナよ。ナナ、この方達におもてなししてあげなさい」

ドーンと任せときゃあせっ!!



でも、その印象は音を立てて一気に崩れ去った。それも盛大に。



「きゃ、きゃあせ?」

「何語ですかぁ?」

「フランス語じゃないよね?」

「名古屋弁だみゃあっ!!」



いやいや、おかしいじゃんっ! 胸張って言うとこ間違えてないっ!?



「ささ、遠慮せんとどんどん・・・・・・あぁっ!!」

『こ、今度は何っ!?』

「トッピング忘れとるがなっ!!」



ナナの視線は、さっきルルが持ってきていたローストポークとサラダ達に向けられていた。

それでどこからともなく自分の身体より遥かに大きい壺を一瞬で持ち出し、スプーンをかざす。



「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



そしてその壺の中身と思しきこげ茶色の何かを、どんどん料理に乗せていく。



「き、君なにしてるの?」

「決まっとるっ! 味噌乗せとるんだみゃあっ! これをぎょうさん乗せると、デラうみゃいんだわっ!!」

「ダメですよぉっ! そんなに乗せたらぁっ!!」

「えぇからえぇからっ!!」



スゥが止めている間にも、味噌はどんどん乗せられ・・・・・・というか、あたしの頭くらいに山盛りになりました。



何事もドーンと行きゃあえぇんだみゃあっ!!

「・・・・・・あむちゃん、この子見た目と性格のギャップが激しいキャラなんだね」

「そ、そうだね。これはこう、新しいなぁ」



とりあえずこの山盛りはどうしたものかと考えてしまった。それでナナに聞こうと思って視線を上げた。




「・・・・・・アレ、ルルは?」



それで気づいた。ルルがいつの間にかあたし達の目の前から居なくなってる。あたし達は当然のように周囲を見渡す。



「あぁ、ルルはめっちゃ忙しいんだわ。アンタらの相手ばっかしてるわけにはいきゃあせんって」

「忙しいって」

「ほれ」





ナナが指差す方向には、ルルが居た。ルルは3段くらいのシャンパンタワーを注いでいた。

それを見てあみくらいの小さな子達は、目を輝かせてルルの作るタワーを見ている。

かと思うと、あたしにさっきしたみたいに料理を盛りあわせて運んでみんなに渡す。あ、リースももらってる。



かと思えば、今度は部屋の花瓶に活けてある花をちょっとだけ手直し。花はさっきよりも綺麗な形になった。





「完璧なパーティーのために、ルルは頑張ってるんだみゃあ」

「・・・・・・へぇ」










ルル、大変そう。だけど楽しそう。いっぱい笑って、いっぱい動いてる。






その表情を見ただけで、あたしはさっきの口の悪いルルの印象が吹き飛んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ルル、ヘイもお手伝いはもういいわよ? というか、洗い物ならママが」



次はキッチンで兄さんの洗い物の手伝い。兄さんは手際がいいけど、それでも一人は辛い。

一緒にせっせと袖をまくりつつ食器を洗っていると、キッチンにママが入って来た。



「もう終わるから大丈夫よー。ママはお客様の相手してて」

「俺もこっちが片付いたら適当に切り上げるから、大丈夫だ」

「でも」

「「いいからいいから」」



私達の言葉に苦笑しつつ、ママは会場になっているリビングに戻った。

それから本当にすぐに洗い物は終了。これで食器の予備は完璧だわ。



「ルルー、ヘイもママさんの言う通り少し休んだ方がえぇって」

「確かにな。あんまり働き過ぎても、かえって父さん達に心配をかける。
・・・・・・そう言えば、インの奴はどこ行ったんだ? さっきから姿が見えないんだが」

「私は知らないわよ? まぁ心配ないでしょ。あの子は兄さんに似て、色々図太いし」

「ルル、お前それはどういう意味だ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・シオン」

「なんでしょう、インさん」

「これ、楽しいね。なんだかワクワクしてくる」

「そうでしょう。では、もう一時天を指差しましょうか」

「うん。でも・・・・・・アレ、なんか忘れてるような」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とにかく、少し休憩だな。俺もインを探したいし」

「だなー。ほら、ルルも」

「でも、まだパーティーは終わってないし」



私は言いながら視線を自然に外に向けていた。そこから見えるのは、モミの木。

庭に生えている立派な太さの木で、綺麗な緑の葉を生い茂らせ・・・・・・あ。



「しまったっ! 私とした事がっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あむ」





なんかあむのお母さんがまた僕をフェイトと引き離してあむとくっつけようと動き始めていたので、早々に退散。

もうね、出してる空気と微笑みで理解してしまった。それで僕はフェイトの手を引きつつ、二人であむに接近。

あの空気が止むまで適度に逃げようと思ってたら・・・・・・なんかこう、とんでもないものを見つけてしまった。



それはなぜか味噌っぽいものが乗ってるローストポークを目の前に、火花を散らすキャンディーズだよ。





「恭文、お願い。フェイトさんも三人には触れないで。いや、マジお願い」

「それはちょっと無理かも。だってランちゃん達、さっきまで仲良くしてたよね」

「いや、してたんですけどその・・・・・・ねぇ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラン達はあの味噌だらけの中から、必死にローストポークを取り出して別の皿に移した。





さすがにアレは食べられないと思ったけど、味噌を乗せて食べたらこれがまた意外と美味しいのよ。





ラン達もそれでホクホク顔だった。でも、悲しいかな問題はここから発展してしまった。










「・・・・・・あ、ミキもうお肉いらないの? だったら私がもーらい♪」

「あー! ボクのお肉っ!! ラン、何するのっ!? せっかく後で食べようと思ってたのにっ!!」

「そうなの? でもでも、だったら早く食べちゃえば良かったのに」

「バカっ! そういう話じゃないんだけどっ!! ホントにランは単細胞なんだからっ!!」

「単細胞ってなにっ!? ミキがもたもたしてるのが悪いんだよねっ!!」



あたしがその叫び声に気づいた時、珍しく二人はヒートアップ状態。なんか取っ組み合い始めてるし。



「もう、二人共ダメですよぉ。パーティーの最中に喧嘩なんでいけません。・・・・・・はむ」



そう言いながら、スゥはゆっくりと味噌付きのお肉をほうばる。

でも、とっても幸せそうな顔してるスゥにランとミキは怒りの視線を向ける。



「スゥ、何私達を差し置いて一人で食べ続けてるのっ!?」

「ホントちゃっかりさんなんだからっ! 抜け駆けして楽しいっ!?」

「なんですかぁいきなりっ! スゥはちゃっかりさんじゃありませんっ!!
というか、ランとミキがちゃんとお行儀よく出来ないのがいけないんじゃありませんかぁっ!!」

「「そんな事ないよっ!!」」

「・・・・・・あぁもう、アンタ達うるさいっ! ちょっとは静かに出来ないわけっ!? てーか喧嘩するなっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・と、いうわけでして。一応あたしが止めたんですけど、冷戦状態に」

「それはまた」

「というか、珍しいね。三人が喧嘩するなんて」



えー、さすがに放置もアレかなと思ったので、フェイトと顔を見合わせて頷き合った。

ようするに介入する事にしました。大丈夫、僕達はソレスタルビーイングよりはうまく出来るはず。まずは、ランだよラン。



「・・・・・・ラン、まずおのれが謝った方がいいよ」

「どうしてっ!? 私悪くないもんっ!!」

「いいや、悪い。ミキがとっておいたお肉、勝手に食べちゃったんだから」

「そうだね。食べる順番は人それぞれだし、まずそこなんじゃないかな。
勝手に食べちゃった事は、絶対に良くないよ。だから・・・・・・ランちゃん」

「ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇったいに嫌っ! 私の事単細胞って言ったミキになんて、謝らないんんだからっ!!」



どうやら僕達が気づくまでに、相当やり合ったらしい。他にも喧嘩する要因が出来てしまっている。

とりあえずランは後だ。僕はこの中できっと一番話が出来ると思うパートナーに声をかける。



「で、ミキはランには謝らなくていいからスゥに謝る。ランが単細胞なのは事実だもの。
そこはしょうがない。でも、スゥは関係ない。それじゃあ八つ当たりじゃないのさ」

「絶対嫌っ! スゥはいつもちゃっかりさんだしっ!!」

「それ理由になってないと思うの、僕だけですかっ!?」

「ひどいですぅっ! スゥはちゃっかりさんじゃないって言ってますよねぇっ!!」

「それでスゥもヒートアップしないっ! 気持ちは分かるけど落ち着いてっ!!」



だめだ。下手に介入すると、更に拗れる。しゅごキャラ見えない方々も居るし、これ以上はここでは無理だ。

三人の事は後にしておくとして・・・・・・僕はため息を吐きながら窓の外に視線を向けた。



「あむ、心中お察しするよ。確かにこれはどうしようもない」

「分かってくれて嬉しいよ。あぁもう、せっかくのパーティーでなんでこんな」



あむもフェイトも窓の外に視線を向けて、一つ気づいた事がある。

パーティーは中で行われているのに、必死で庭の木を飾り付けてる二人が居る。



「・・・・・・ルル? それにアレ、ルルのお兄さんだよね」

「うん。なにしてんだろ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ルル、さすがにここはよくないか? クリスマスでもなんでもないわけだし」

「いいえっ! 絶対に必要よっ!! 完璧なパーティーのためには、イルミネーションは欠かせないのっ!!」



あぁもう、私とした事が・・・・・・こんな大事な事を忘れるなんてっ! パーティーは別に食べて騒ぐだけじゃないわっ!!

雰囲気作りというものが大事なのっ! 特別な一日を演出するためのイルミネーションは不可欠なのにっ!!



「というか、俺達だけですぐには無理だろ。やっている間にパーティーが終わるぞ」

「それでもやるのよっ! 次、金のカラーボールッ!!」

「はいは・・・・・・あなた達は」



左手に渡されたボールを、私は木の枝にくくりつけていく。よし、次は。



「はい」

「あぁ、ありが」



私は差し出されたリボンの方を見て、驚いた。だって私にリボンを差し出したのは、あの日奈森あむだったんだから。



「日奈森あむっ! あなた何して・・・・・・って、蒼凪恭文にフェイト・T・ハラオウンまでっ!!」

「この木を飾りつければいいんだよね。ヘイさん、この飾り半分もらいますよ。あとそこのはしごも」

「あ、あぁ」



そう言いながら、蒼凪恭文はデコレーション用の飾りが入った箱を軽々と持ち上げる。

フェイト・T・ハラオウンは、はしごを持ち上げようとする。



「だめ。フェイトは重い物持つの禁止」

「これくらいは大丈夫だよ?」

「だめったらだめ。何かあったらどうするの? というわけで、フェイトは下から飾り渡して」

「・・・・・・そうだね。うん、分かった」



それですぐさま私の居る方の反対側に箱を置いて、はしごも手早く回収して立てかける。



「ちょっとあなた達、やめてっ! 私には完璧なプランがあるのっ!! 邪魔しないでくれるっ!?」

「じゃあ指示して。てゆうか、さすがにこの大きさを二人だけでとか無理でしょ」

「そうそう。それならあたし達も手伝って、みんなでやった方が楽だって」

「ダメなのよっ! というか、あなた達はお客様じゃないっ!! それを働かせたら」

「ルル」



下に居る兄さんから、優しく声がかかる。兄さんは仕方ないと言わんばかりの顔で、首を横に振った。

私は・・・・・・大きくため息を吐きつつ、左手をまた下に伸ばす。



「日奈森あむ、次は赤色のリボン。・・・・・・早くして」

「うん」










その後、ツリーの飾りつけは本当に手早く済んだ。ただまぁ、私の描いたプランとは違う。





私の描いたプランとは違うし、私の望む完璧ではないけど・・・・・・それでも、こっちの方がいいかなと思った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うん、いい感じだよ」

「素敵だよねー」





フェイトが満足そうに言うのは、ツリーの飾りつけがとても良く出来たから。まるでお店用みたいに綺麗なんだもの。

なんかクリスマスみたいだけど、こういうのもパーティーという特別な時間を演出する大道具だもの。

ふさふさのマフラーに色とりどりのボールにリボンに星・・・・・・あとは電飾によって、ツリーは昼間でも輝く。



これでお食事関係のお礼が出来たのは嬉しいね。本当に素敵な料理だったしなぁ。





『出来たー!!』



あむとルルは、両手を握り締めあって飛び跳ねる。ヘイは・・・・・・嬉しそうな顔のルルを、嬉しそうに見ていた。



「でらかわいいぎゃあっ!!」



僕とフェイトは、名古屋弁を放ったルルの方に視線を向ける。それはヘイとあむも同じ。

ルルは照れたように頬を膨らませて、両腕を組んでそっぽを向く。



「な・・・・・・なによ、おかしかったら笑えば?」

「そんな事ないよ。名古屋弁、かわいいと思うな」



あむはそう言いながらルルの方に向かって、明るく笑いかけた。



「もっと使えばいいのに」

「・・・・・・そ、そう?」



やっぱり年頃が近いせいか、普通に通じ合える部分が多いらしい。そこからまた二人共笑顔で話し始めた。



”・・・・・・ヤスフミ、あの二人すっかり仲良くなったみたいだね”

”そうだね。というか、ヘイも嬉しそう”

”お兄ちゃんだもんね。でも”



ここで終われないのが、僕達の悲しいところ。そうなるのは、フェイトにもヘイが仮面男かも知れないと話しているから。



”だからこそ、分からない。どうしてあんな素敵なご両親が居て、家族が居て・・・・・・イースターの手先になるのかな”

”分かるわけないよ。だって・・・・・・まだ確定じゃないんだから”

”確かにそうだね”










そうだ、まだ確定じゃない。それは確かに真実でもあるけど、同時に逃げでもある。

どこかでこの二人がイースターに絡んでるって、信じたくないのかも知れない。

やっぱり、もうちょっと調べないとダメだ。今のままじゃ追求しても言い逃れされる。





僕とフェイトは、あむと笑い合うルルとそれを優しく見守るヘイを見て・・・・・・少し、胸が傷んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「シオン、あなたの宿主は面白いね」

「えぇ、お兄様は至高であり究極ですから。でも、あなたの宿主も負けてはいません」

「うん。ヘイは面白いから、好き。でもシオン・・・・・・私達何か忘れてないかな」

「気のせいではありませんか? きっと余りにこの時間が楽し過ぎて、終えるのを寂しく感じているせいです」

「それもそうだね。なら、もうちょっとこのままお話しよう?」




















(第98話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、ドキたま/だっしゅも残り3話となりました。今回のお話、いかがでしたでしょうか。
なお、今回はアニメの『第63話 ルルの完璧クリスマス!』を元にしております。本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「恭文、アンタついにやらかしたねと言いたい日奈森あむです。・・・・・・アンタどうしたっ!?」

恭文「あむ、お願い。触れないで、本当に触れないで。僕はこう・・・・・・もう覚悟を決めるしかないかなと。
ほら、ちょうど50話くらい前にシュライヤに一夫多妻はおかしい事じゃないってお話されたしさ」





(アレから1年・・・・・・長い道のりでした)





恭文「それで今回のお話は、ホームパーティーだね。あと、今後のお話のネタふりが」

あむ「あぁ、あの子達のアレかぁ。・・・・・・マジでやるの?」





(現・魔法少女、それをやると完全に最悪ゾーン突入なのが分かるのか、辛いらしい)





恭文「やるしかないのよ。でも、このホームパーティーでなぞたま編で消化しなきゃいけないイベントの一つは超えたね」

あむ「あー、そうだね。なぞたま編はルルが主人公的なお話でもあるから、ルルの家族の話とか書かないとダメなんだっけ」





(特に母親に対してのあれこれは、絶対に欠かせない部分だったりします。あとは現・魔法少女との関係とか)





恭文「えっと、超えなきゃいけないイベントは家族関係だとあと一つだね」

あむ「あー、資料に載ってるこれかぁ。これもまた強烈だなぁ」

恭文「でも、絶対に必要なんだよね。ルルのキャラクター掘り下げるには必要だから。
ついでにヘイもだね。こっちもインが居る関係で、色々考えてるんだ。まぁちょこちょこって感じで」

あむ「あー、あのお兄さんか。でも恭文、現段階だとまだ犯人だって話の中のあたし達は確定出来ないんだよね」

恭文「そうなんだよねぇ。やっぱりもうちょっと証拠が必要なわけですよ。なぞたま抜き出してる現場に遭遇とか」





(まぁそれが一番手っ取り早いよねー)





恭文「というわけで、次回は・・・・・・あむ、頑張ってね? いや、結構マジで頑張ってね?」

あむ「はぁっ!? なにそれっ! いや、何があるのかとか、そういうの凄い分かるけどっ!!」

恭文「それでは、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「やっぱ最悪ゾーンに突入しそうな日奈森あむでした。うぅ、あたし乗り越えられるかなぁ」

恭文「無理じゃない?」

あむ「人ごとみたいに言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










(大変なのは、別に現・魔法少女に限った事じゃないのに。
本日のED:鬼束ちひろ『私とワルツを』)




















恭文「・・・・・・シオン、おのれは劇中で何してるのさ」

フェイト「普通に友情深めてるよね。まぁ、良い事なんじゃないかな」

恭文「確かになぁ。なんかこう、通じ合えるものを見つけたんでしょ。
さて、みんな・・・・・・分かってるとは思うけど、なぞたま編解決は三期に持ち越しだから」

フェイト「そうなのっ!?」

恭文「当たり前でしょっ! さすがにあと3話ぽっちで解決無理だってっ!!
・・・・・・ただ、二期の最後を飾るに相応しいお話は書く予定です」

フェイト「やっぱり、予定通りにあの子が登場?」

恭文「うん。もしかしたら話まとめられなくて101話で終了とかなるかも知れないけど」

フェイト「1話延長するのっ!?」










(おしまい)







[*前へ][次へ#]

28/33ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!