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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第70話 『Crest of“Z’s/力と力の戦い』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「さぁ、ついに始まった恭文の試合っ! でもでも、思いっきり不利なシチュと相手に大苦戦っ!!」

スゥ「久々登場なあの形態で大暴れしても、レイオさんの装甲は抜けなくて・・・・・・うぅ、ピンチですぅ」

ラン「その上その上・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! もう最悪過ぎるよー!!」





(立ち上がる画面に映るのは、久々登場なあの剣達。そして、砂漠に鳴り響く音楽)





ラン「これどうすればいいのー!? ・・・・・・って、ミキ?」

スゥ「随分静かですねぇ。どうしましたぁ?」

ミキ「・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! もう見てられないっ!!
こうなったらボクが飛び込んで、アルカイックブレードにキャラなりして」

ラン「ミキ待ってー! それはダメだからー!!」

スゥ「こんな大勢の人の前でキャラなりしたら、とんでもない事になるですよぉっ!!」





(二人でハイセンススペードを必死に抑える。でも、それでも止まらない)





ミキ「二人とも離してー! このままだと恭文が・・・・・・恭文がー!!」

スゥ「それでもダメですよぉっ! ここでキャラなりは絶対ダメですぅっ!!」

ラン「あぁぁぁぁぁぁっ! これ本当にどうなっちゃうのっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



突撃と衝突によって巻き上がる砂の中、僕は左に跳んでその砂を突っ切っておっちゃんから30メートル程距離を取る。





砂場に足を着けてから更に滑りながらも、僕は停止。そして、巻き上がる砂の中を見据える。





とりあえず、ファーストアクションは成功かな。しかし・・・・・・普通に怖いな。やっぱパワーでは向こうが上だ。










『ヤスフミ、何やってるのっ!? 作戦が』

「大丈夫だよ。ちゃーんと作戦通りだから」

『え? ・・・・・・あ』



フェイトはようやく気づいたらしい。僕が抜刀していないのを。

あの時、上に振り上げられた斧を左に跳んで避けたの。今やったのは、それともう一つだけ。



「予想よりずっと速いわ。まぁ、向こうが格上だから当然だよね」

『そうだね。でも、良かったの?』





舞い上がった砂が晴れて、その中で斧を振り下ろしたまま固まったレイオさんが居る。

そして、レイオさんの腹を石で出来た人の頭程もある拳が打ち抜いていた。

もちろんアレは、僕のブレイクハウト。突っ込みながら、砂を物質変換して作った。



突撃スピードが速いってのも考えものでさ、そういう時って自然と視野が狭くなりがちなのよ。

あれだよ、全速力で走ってる時にはいつもみたいに周りが見えるわけじゃないの。

だから、下から・・・・・・地面から生まれた拳を避けられなかった。うし、方向性としてはコレだね。



下から打ち上げるような攻撃に比重を置いて・・・・・・それで決める。





『手札、切っちゃって』

「良くはないかな。でも、飛車角落ちの上に桂馬や香車まで取られちゃ、さすがに勝てないわ」



チェスでも言うなら、今はクイーンとビショップとルークがさよならしてる状態だもの。

で、相手は当然全駒あり。・・・・・・おとなしく負ける気が起きない以上、これは流すべき血だ。



『・・・・・・確かに』



なんて話している間に、レイオさんの目が見開く。そして振り下ろしたアックスを右薙に振るった。

身体を回転させ、自分と密着している拳をへし折った。な、なんつう力任せな。



「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





そうながら力任せに振るったアックスから、衝撃波が放たれる。それは不可視のもの。

でも、砂が巻き上がってその幅や力強さを伝えてくれる。僕はすぐに左に走った。

そして衝撃波を回避した所に、合計8つの誘導弾。それが僕の目の前に迫ってきていた。



僕はまたまたブレイクハウトを発動。足元から8つの細い杭が生まれて、その弾丸を貫く。

弾丸はそれにより爆発するけど、それでも砕けずに杭は放物線を描きながらレイオさんに迫る。

レイオさんはまたアックスを左薙に振るって、その杭の全てを粉砕する。



笑いながら上に跳んで・・・・・・そうだ、高く上に跳んだ。そのままアックスを僕に向かって振り下ろす。





「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





僕はその下を潜るように前に大きく跳ぶ。そうしてその分かりやすい斬撃を回避。

あ、その前に魔法を一つ詠唱。発動した上で大きく跳んだ。

レイオさんのアックスによる斬撃が、砂を高く高く吹き飛ばす。なお、高さにすると10数メートル以上。



当然の如くレイオさんは即座に動く。レイオさんの背後に深緑の魔力スフィアが構築されようとしている。

くそ、僕がよくやるモーション無視のスフィア構築か。・・・・・・まさか、同じ事考えてたとは。

さて、よーく見てみよう。砂が巻き上がったせいで隠れちゃって見えにくくなってるけど、レイオさんの足元が僅かに歪んでいる。



それは透明なレンズのようになっている空気のスフィアを通して見ているからそうなるだけ。

・・・・・・風属性の魔力を付与して、透明化させた属性攻撃。名づけて、ガストクレイモア。

魔力弾の透明化・・・・・・不可視状態での攻撃技術は、メジャーじゃないけど確かにある。



そして今は砂地によってそれは更に見えにくくなっていて、レイオさん自身も気づかない『地雷』と化している。



だから僕は、躊躇い無くトリガーを引いた。





「ファイアッ!!」





右手の指を鳴らして、トリガーを引く。その瞬間レイオさんの両足が後ろから半透明の散弾で撃ち抜かれた。

なお、クレイモアは着地地点や衝撃を計算した上で詠唱・発動。魔力スフィアだけを設置したの。

それにより砂埃が巻き上がって、砂地が破裂する。・・・・・・うし、これで更に正体が割れにくくなった。



風の散弾は甲冑や足元の砂に命中して、その衝撃でレイオさんの足場が小さな爆発を起こす。



それでもなお、レイオさんはトリガーを引いた。・・・・・・ち、しぶとい。





「しゃらくせぇっ!!」





深緑の魔力スフィアから、砲撃が放たれた。僕はそれを右に回避。

でも・・・・・・途中で砲撃の軌道が変わった。というか、僕の移動ポイントを潰すようにして迫る。

・・・・・・まさか、弾道の軌道を調整してたっ!? くそ、マジかいっ!!



はやてが使うような超々距離の弾道ミサイルの如き砲撃なら、こういう技能は必要だよ?

でも、この至近距離でこれをやってくるとは・・・・・・さすが教導官って言ったところか。

僕は足を止めてアルトを抜き放って、下から上に斬撃を叩き込む。それにより、砲撃を斬り裂いた。



目の前で爆炎が渦巻き、熱により風景が歪む。・・・・・・そして僕は唐竹に刃を叩き込んだ。

斬り裂かれた爆炎の中から、右薙の斬撃が襲ってくる。それは、レイオさんのアックスによる斬撃。

十字の斬撃が衝突し合って、刃と刃の接触点を始点として空気が激しく震える。



そして僕達は互いにはじけ飛ぶようにして10数メートル吹き飛び、そのまま後ろ向きに倒れた。





≪主様、大丈夫なのっ!?≫

「・・・・・・なんとか、ね」










僕は起き上がりつつも、アルトの刀身を見る。・・・・・・うし、刃こぼれ等は一切無し。





しかし、恐ろしいね。魔力も無しだったのに、徹込みの斬撃とタメを張るとは。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・へへ、ギガシャウター・・・・・・大丈夫か?」

≪問題ありません≫



しかし、あの坊主・・・・・・俺の攻撃とタメ張りやがった。

てーか、手がビリビリ言ってるしよ。フィールド突き抜けて衝撃を打ち込みやがったのか。



『レイオ、アンタ大丈夫っ!? てーか、アレほど消耗は避けろって言ったのに・・・・・・!!』

「悪い悪い。でも、しゃあないだろ」



俺は軽く起き上がりながら、俺を見据える坊主を見返す。なお、笑いながらだ。

だってよ・・・・・・楽しくて楽しくてしゃあないんだよ。いいな、こういうのはかなりいいな。



「あの坊主、強いんだからよ・・・・・・っと」





俺は完全に立ち上がる。なお、その時に足元の甲冑を見る。どうやら無事のようだ。

咄嗟にフィールドを強めに張れてよかったな。間に合わなかったら足を潰され・・・・・・いや、訂正だ。

あんま目立ってはねぇが、ヒビが入ってやがる。坊主がカートリッジ使ってなくて良かった。



もし1発でも使ってたら、マジで足を撃ち抜かれてたかも知れねぇ。くそ、やりにくいねぇ。

細々した攻撃も、斬撃も、相当レベルが高ぇ。いや、むしろ前者の方が元々得意なのか?

発想力が俺らが教えてる若い連中なんざ軽く超えてる。そして度胸もあるな。



普通は攻撃避けつつも魔力スフィア設置して、足元を掃射なんざしねぇよ。

少なくとも局の戦技マニュアルには、あんなぶっ飛んだもんは載ってねぇ。

俺は載せてもいいと思うんだが、上が許さないんだよ。『それは局の魔導師が使うべき手ではない』って言ってな。



どうも上は、市民じゃなくて局の威信をしっかりと守ってくれる『量産品』が欲しいみたいでよ。

あぁ、局が求めてるのは飛び抜けた魔導師じゃねぇな。自分達が定めたルールを守って動くお人形だ。

魔法を定められたマニュアル通りに使い、組織の規律を守り、犯罪者を『殺せない』正しい人間。



今の局の局員志望の人間に対する教育と現場での指導方針は、そういう方向で固められてる。

そこは俺達教導隊も同じくだ。そういうラインを最低限守った上で無ければ、訓練や新装備開発もNGが出される。

そのせいでAMF対策に関してもまだまだ後手後手だ。全く、めんどくさいねぇ。



ちなみに高町嬢ちゃんや向こうのセコンドの閃光の女神がやたらと持ち上げられてんのは、そこが理由だ。

本人達の意志はどうあれ、上からそういう風にいい子ちゃんに認識されてるせいでこういう場にも担ぎ出されるわけだ。

俺だって同じだ。だが俺は正直、坊主が相手じゃなかったら遠慮なく断ってたとこだ。



俺はお人形やれるほど頭良くねぇしよ。なにより、経験がそれを否定する。

だがそれでもここに出てきて正解だった。あの坊主は違うな。そんな枠の中じゃ収まりきれねぇくらいにどデカい

そうだな、そうなって当然だよな。戦いってやつを繰り返して、必死で生き残ってきた奴はそうなる。



そんな枠を簡単に壊して、目の前の戦いや現実ってやつを制する強さを培っていくんだ。

全く、こういう奴ばかりが局に揃ってたら安泰だってのに・・・・・・上の奴らはどうして分からないのかね。

その方針に迎合しちまってる俺も同罪ではあるが、『お人形』なんてやっぱいらねぇだろ。



あぁ、そんなのいらねぇな。『お人形』じゃあ戦場では生き残れねぇ。



生き残るのは・・・・・・てめぇを貫き通したバカだけなんだしよ。





「いいな。さすがは古き鉄って言った所か。くくくく、今まで模擬戦とかやってなかったのが悔やまれるぜ」

『・・・・・・凄い、これは凄いっ! まさしく力と力の正面衝突っ!!
色は違えど純粋なパワーのぶつかり合いっ! 皆様、ご覧いただけたでしょうかっ!!』










この程度で凄い? ふん、あの司会の姉ちゃんの目も節穴だな。





俺も坊主も、まだ全然本気じゃねぇってーの。ここからが本番だろうが。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小節


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第70話 『Crest of“Z’s/力と力の戦い』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・かたや、技能と知能を駆使して翻弄したかと思えば、鋭く研ぎ澄まされた『力』を見せつけっ!!
かたや、その技能と知能と鋭さを受け切り、濃厚に圧縮された『力』をただ一撃叩き込むっ!!』



第1ラウンドは・・・・・・引き分けって言った所なのかな。というか、それくらいしか分からないし。



『月日の積み重ねで、修練の積み重ねで極限まで高められた技能とは何かっ!?
それは・・・・・・純粋且つ絶対の力っ! それぞれの色は違えど、戦いとは力と力のぶつかり合いっ!!』

『そうですねぇ。特にベルカ式は本来は対人戦に特化した騎士の術式。そういう傾向が強いんですよ。
ただ、これでこの勝負の決め手が改めて浮き彫りにはなりましたねぇ』

『八神司令、というと?』

『先程からガーランド教導官はかなり攻撃受けてますけど・・・・・・見てください。全然効いてない』



確かにそうだ。恭文がクレイモアの変化形で撃ち抜いた甲冑も、軽く焦げが入ってるだけで傷はない。

腹も最初に思いっきりブレイクハウトで打ち抜かれたハズなのに、全然動けてる。つまり今までの恭文の攻撃は・・・・・・ノーダメ。



『対する蒼凪氏は、恐らく一撃でも食らったら致命傷。そこで終わってしまいます。
しかも相手がどっかの頭すっからかんの機械兵器とかならともかく、ベテラン教導官』

『つまり、蒼凪氏はガーランド教導官の防御を撃ち抜けない限り、勝てないという事でしょうか。
防御と言っても技能的なものや魔法的なものもあります。それら全てを貫いた先に勝利がある』

『そうなります。何にしても、勝負を決めるんは一撃でしょ。
時間もそれほどあるわけやないし、勝ち負け決めよう思うんなら一気にやるしかない』

『おぉっとっ! これは蒼凪氏不利かっ!? 最大火力で通じなければ、まさに打つ手なしっ!!
ベテラン教導官であるガーランド教導官相手に、果たしてそのような事が可能なのかっ!!』



・・・・・・うわ、なんかムカつくんですけど。てーか恭文ナメ過ぎだし。



「むー! ややムカつくー!! 恭文、まだまだ本気出してないもんっ!!
恭文ー! リインちゃんも居るんだし、ヴィンクルムフォームに変身して一気に決めちゃえー!!」

「結木さん、それはダメだって。リインさんはあくまでもセコンドなんだから」

「あ、そっか。ならなら・・・・・・スターライトだー! アレならOKだもんっ!!」



ややが言うのも分かる。アレなら多分撃ち抜ける・・・・・・はず。

でも、それは絶対にだめ。というか、きっとフェイトさん達が使わせない。



「いいえ、スターライトは使えないわ」



そう言ったのはシルビィさん。あたしは振り向いてその真剣な顔を見て・・・・・・納得した。

シルビィさんも知ってるんだ。普段の恭文がスターライト使えない理由。



「えー、どうしてですかー?」

「そうでち。アレならあんなむさいおじさん、軽く一捻りでち」

「ややちゃん、ペペちゃん、スターライトってね・・・・・・相当負担が大きい魔法なの。
ヤスフミ、リインちゃんとユニゾンしていない状態では使うなって言われてるらしいの」

「えぇっ!?」

「やや、あたしもフェイトさんから聞いたんだけど・・・・・・あんま使い過ぎると、身体壊すかも知れないんだって。
ほら、だから普段から恭文ってスターライトなんて使わないじゃん。それ、そういう理由かららしいんだ」



それはブラックダイヤモンド事件の時にフェイトさんから聞いてた事。だから、あたしは知ってる。

集束魔法の負担は、身体が小さい恭文にとっては本当に重いものだって。



「なにより、スターライト・・・・・・集束魔法にはチャージタイムが必要。
ヤスフミなら最低でも20秒は攻撃と動きを制限されちゃうわ。これだけは絶対避けられない」

「なら、無理っスね。あのおっちゃん相手にそんな暇は作れないっスよ」

「そうね。だから色んな意味でスターライトは使えないの」

「やはり相手との相性のみならず、このシチュそのものも悪過ぎますね。
蒼凪さんはスターライトに限らず、チャージタイムが必要な手札の大半がアウトになっています」



制限を付けるんじゃなくて、付けられてる状況が今・・・・・・という事らしい。

相手の防御的な意味合いでも、シチュ的な意味合いでも、恭文は戒めという鎖に縛られてる。



「で、でもそれじゃああの・・・・・・クレイモアもダメだったし、剣術もなんかバーンって弾かれちゃったし。
あの調子だとアイシクルキャノンとかスティンガーとかも多分だめだし」

「その上、ブレイクハウトによる物質変換も通用しなかった。なによりあの筋肉マンの方が火力は高い」



ナナちゃんも少し苦い顔で恭文の方を見る。どうやら、ナナちゃんもシルビィさんと同意見らしい。



「恭文はそれをまともに食らったら一撃で沈むわ。・・・・・・他に手を考えないと、完全に打つ手無しね」

「それもチャージによるラグは一切なしで、最高火力を叩き出す・・・・・・とかかしら。
それが出来なかったら、いくらヤスフミでも勝つのはかなり難しいわ」

「そんなー」

「あとはあのおっちゃんも、まだまだ本気出してなさそうだしな」



空海の言うように、あたしから見てもまだ余裕綽々って感じ。つまり、互いにまだまだ小手調べ程度。

だからこそどうなるか分からないけど、分からないこそ恭文の不利が覆らない。



「アレだ、なのはさんのエクシードみたいな感じのパワーアップとかあったら、マジで手が付けられないぞ」

「これはまた・・・・・・恭文君から話を聞いてた以上だね。相当な強敵だよ」

「おいおい、ナギナギ大丈夫かっ!? てーか、しっかりしろー!!」

「・・・・・・いえ、大丈夫です。蒼凪さんが・・・・・・簡単に負けるとは俺には思えません」










言いながら海里は、膝下で両手を強く握り締めてる。まるであの時・・・・・・剣道の試合の時の恭文みたいに。





こういうところで共通点を見つけて、場違いにもちょっと嬉しくなった。だから、心配な気持ちが少し緩んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



試合開始から、現在4分。あっという間に三分の一近くが消費された。





さて、マジでどうしたもんかな。あんま時間かけてどうこうもちょっと無理なんだよね。










『・・・・・・引き分けに持ち込むなら、このままのペースでやるしかないね。でも、勝つんだったら』

「相手の攻撃を掻い潜って、防御を全て斬るしかない」



シチュ的な問題で、スターライトみたいな僕でも詠唱と発動に時間がかかる手札は切れない。

つまり、タイムラグをほぼ0にして最大火力を叩き出すしかないわけだよ。



「てーか、多少手札を切る必要がある」

『うん。それでヤスフミ・・・・・・攻撃、もう見切れてるよね』

「今のところはね」



言いながら、僕はアルトを鞘に納める。・・・・・・足りないのは、重さだ。

もうあのおっちゃんの動きの大半は見切れてる。だから動きも読めるし、クレイモアだって設置出来た。



「なんか隠し技出してくるようなら、また話は変わってくるけど」





だけど、そう何度も何度もガードをすり抜けさせてくれるとは思えない。

だったら、その上から斬る必要も出てくる。なら、足りないのは重さ・・・・・・パワーだ。

どういうわけか、はやてとあのアホ司会の言う通りになった。



この勝負は、力と力のぶつかり合い。最後まで踏ん張って耐えた奴が勝者になれる。





「ナナタロス、セットアップ」










右手で例のカードを出しつつ、僕がそうワードを呟くと・・・・・・鞘が変化した。

青と白のラインの入った金属の鞘は形を変える。より太く、分厚い形に。

そして鞘の側面・・・・・・・鯉口近くにナックルガードのような形のカードスロットが出来上がる。





ナナタロス・・・・・・アルトの拡張用デバイス。大事な友達が協力してくれて出来上がった僕の力の一つ。

そして、僕はカードスロットを展開。右手から一枚のカードを取り出す。

それはトランプサイズで、大剣を掲げる巨人の絵が描かれている。これは実はユニゾンカードと同じくオーナーのお手製。





ネガタロス事件の時、色々あってオーナーやリュウタに手伝ってもらって完成してるしね。





ナナタロスって、ライナーソードの兄妹みたいなものなのよ。つーわけで、ぶっ飛ばしていきましょうか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・マズいっ! レイオ、すぐにやっさんを止めてっ!!』

「はぁ? なんでだよ」



坊主が変化した鞘の・・・・・・アレはスロットか? なるほど、アレにあの右手のカードを入れるわけか。



『いいからっ! アレ使われたら、また話が変わってくるっ!!』



なんでクロスフォードがそんなに慌ててんのかは分からねぇが・・・・・・とりあえず俺は、前に踏み込んだ。



≪Sonic Move≫





深緑の光に包まれて、俺の身体は一気に直進する。いや、大きく迂回して反時計回りに坊主の後ろに回った。

そして後ろから、斧を左薙に叩き込む。だが、その間に坊主は動いていた。

というか、坊主の姿が消えた。軽く砂が巻き上がり、どうやったのか俺の右側に回り込んだ。



つまり、斧を振り切ってがら空きな俺の死角にだ。俺は咄嗟にギガシャウターの柄尻を突き出す。





「うぉりゃっ!!」





坊主は後ろに飛びながらも、それを鞘で受け止めた。そして、そのまま吹き飛ばされる。

瞬間、衝撃が弾けた。だが・・・・・・俺は追撃をやめ、動きを止めてしまっていた。

坊主はその間に30メートル程距離を取って、余裕で砂場に着地。鞘には傷一つない。



・・・・・・なんだよ、コイツの鞘。無茶苦茶硬ぇじゃねぇか。ギガシャウターの攻撃にもビクともしねぇし。

普通の鞘かと思ったが、どうやら違うらしい。てーか、デバイスの一種か? だが、あまりに硬過ぎる。

今のは防御に使われても困ると思って、かなり本気で叩き込んだぞ。それで無傷?



アレの強度、ヒロリスのアメイジアやアルトアイゼンと同等・・・・・・いや、それ以上か。





「アルト、行くよ」

≪はい≫



言いながらも、余裕綽々という顔で右手のカードを鞘口近くのスロットに挿入。そのまま起動ワードらしき言葉を口にした。



「コード・ドライブ」

≪Z Mode Ignition≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アルトはナナタロスと共に青い光に包まれた瞬間、姿を変えた。

その光は二つに分かれる。そのうちの一つは黒い大型のホルダーへと姿を変える。

それは舞い上がるマントの下を潜るように、僕の背中に装着。





そこのホルダーにもう一つの青い光は更に六つに分かれ、それらは全て剣へと姿を変えていく。

そしてその六降りの剣が収められていく。二本の片刃の短剣。これは・・・・・・六鉄に五鉄。

同じく二本で、峰の方に大きめのギザギザが刻まれた片刃の直剣。これは・・・・・・四鉄に三鉄。





片刃で、持ち手が刃に埋め込まれている形の直刀。これは・・・・・・二鉄。

そして最後に、両刃で二股のようになっている剣。それが挿入される。

四角い唾の部分には、大きめの青い宝石が埋め込まれている。・・・・・・一鉄。つーか、アルト本体。





これは当然、みなさまお馴染みのセブンモードッ! 僕とアルトの切り札の一つっ!!










「悪いね、おっちゃん。僕あんま時間かけたくないのよ」



右手をホルダーの後ろに伸ばして、一鉄を引き抜く。



「つーわけで、行くよ」





おっちゃんは唐竹にアックスを叩き込もうとしていた。てーか、もう真正面から叩き潰す気満々らしい。

僕は一鉄アルトの柄を強く握りしめて・・・・・・徹を込めた上で、左薙に叩き込んだ。

アルトは先程とは違い力負けはせずに、縦からの斬撃を弾いた。僕は刃を返しながらも踏み込む。



いや、上に跳んだ。そうして返す斧での左薙の斬撃を避けた。避けつつ・・・・・・狙いを定めて唐竹に叩き込む。





「はぁっ!!」





刃がおっちゃんの身体に届く前に、深緑の障壁が発生。アルトを阻もうとする。

でも、それすらも真っ二つにする。バリア系の障壁は砕け、破片が舞い散る。

僕の斬撃はおっちゃんの右肩・・・・・・真紅のフルプレートに叩きつけられ、そのまま振り下ろされた。



おっちゃんは衝撃に圧されるようにしながらも、後ろに下がる。僕はそのまま着地。





「・・・・・・お前、倒すけどいいよね」



僕はその場で時計回りに回転して、切っ先をおっちゃんに向けて動きを止めた。

そしてそのまま、あのセリフを言い切って決める。



「答えは聞いてないっ!!」



おっちゃんの鎧には、確かに亀裂が刻み込まれていた。つまり、攻撃は魔力無しでも通っている。

右肩に本気で徹を込めて叩き込んだわけだし、多少はダメージが入った・・・・・・はず。



「・・・・・・調子に乗ってんじゃねぇぞ、坊主」



なんて言いながらも、おっちゃんがすっごい嬉しそうな顔してるんだもの。



「中々に硬いデバイス持ってるみたいだが、そんなんじゃ俺は砕けねぇよ」





硬い・・・・・・確かにね。てーか、この状態の強度には僕達がビックリしたくらいだもの。

良太郎さん達と初めて会った事件の事後にね、セブンモードの強度とか性能とか調べたのよ。

そうしたら、セブンモード時のアルトの強度・・・・・・予定値よりずっと高かった。



しかも通常のデバイス変換と違って魔力的なアレコレもないから、AMFの完全キャンセル化でも使えたり。



それを知った時、電王パワーって恐ろしいと畏怖したっけ。まさか予定よりパワーアップしてるとは思ってなかったし。





「残り試合時間、9分か。・・・・・・んじゃ、ウォーミングアップは終わりだな」



言いながら、おっちゃんがバトルアックスを前にかざす。縦にして、静かに息を吐く。



「ギガシャウター・・・・・・マグナモード」

≪Standby Ready≫

「イグニッションッ!!」





そう呟いた瞬間、レイオさんの丸みを帯びたアーマーが姿を変える。

全体的にトゲトゲしく、鋭い形になった鎧にはそれまで見られなかった規則的なヒビが見える。

いや、それはラインだ。そのラインから、深緑の魔力光が漏れ出した。それが周囲を照らす。



そしてその変化はバトルアックスにも起きてる。銀色の刃が同じ色の魔力に包まれる。

これは・・・・・・フェイトのライオットやザンバーと同じ魔力刃? それがアックスの刃を巨大化させる。

あぁもう、やっぱり奥の手があったかっ! てーか、この魔力量に装甲の厚さ・・・・・・!!



くそ、さっきの比じゃないっ! あぁもう、だからフルドライブとかリミットブレイクとか嫌いなんだよっ!!





「悪いな、倒れるのはお前の方だ。俺は負けるのが・・・・・・大嫌いなんでなっ!!」



レイオさんが言いながらアックスを右薙に振るう。それにより、衝撃波がその周囲の空間を吹き飛ばす。

砂が高く舞い上がり、僕も軽くそれに圧される。攻撃とかじゃなくて、本当に純粋なプレッシャー。



「んじゃギガシャウター、例の機能・・・・・・試すぜっ!!」



楽しげに笑うレイオさんがそう言いつつも左手を上げて、軽く指を鳴らした。

てーか例の機能って・・・・・・まだなんかあんのかいっ! くそ、これだから高ランク魔導師嫌いなんだよっ!!



≪The song today is ”Crest of“Z’s”≫



指を鳴らす音が響いたその瞬間、多分あのアックス・・・・・・ギガシャウターから音楽が大音量で流れ始めた。

というかこれ、スパロボZのOP。というか、JAM・・・・・・え、もしかしなくてもコレ。



『サ、サウンドベルトッ!? ・・・・・・あ、この場合はデバイスからだから、サウンド機能か』

『フェイトさん、冷静になってる場合じゃないですよっ! どうしてあの人がこの機能使うですかっ!!』

『そうよ。こういうのは私が歌ってどうにかするのが常識でしょ?』



えぇい、セコンドはセコンドで気楽だねっ! てーかマジでどうしたっ!? ほら、観客が呆気に取られてるしっ!!

な、なんで教導官がサウンド機能なんて使ってんだよっ! ほら、色々おかしいでしょっ!?



『え、えっと・・・・・・これはどうしたことでしょうっ! ガーランド教導官、なにやら音楽をかけ始めましたっ!!』

『・・・・・・サ、サウンド機能っ!? あぁぁぁぁぁぁぁっ! あん人も同類なんかいっ!!』

『八神司令、コレが何か知っているんですかっ!?』



前奏がもう凄い音量で流れる中・・・・・・って、マジでなんか嫌なんですけどっ!!

くそ、人にやられるとこんなにムカつくもんだとは思わなかったよっ! よし、今後はもっとやってやるっ!!



『・・・・・・コレは音楽を戦闘中にかけて、ノリをアップさせよう言う機能なんですよ』

『はぁっ!? なんですか、それはっ!!』

『ノリの上昇は戦闘力のアップに繋がります。あとは大音量で流す事で、相手に対して戦意喪失の効果も望める』

『戦意喪失? 音楽を流すだけで・・・・・・いやいや、さすがにそれは』

『みんな、よーく考えてください。ガチな戦闘中にこんな音楽が大音量で流れてたら、普通に呆気に取られるでしょ』



そのはやての発言に、数秒後・・・・・・会場全体から納得したような空気が流れ始めた。



『・・・・・・つまりはそういう事です。てーか、今がその状態じゃないですか』



うん、そうだよね。だってはやての言うように、今現在がその状態だったんだもの。

会場全体でそこを納得しない理由が無いよ。



『た、確かに。では・・・・・・ガーランド教導官はパワーアップのためにコレっ!?』

『そういう事になります。言うならメンタル面のブーストです。なお、効果は立証されていますから』

『単なるハッタリでは終わらないと。・・・・・・むむむ、これは驚きですっ!!
今ここに、戦技の常識がひっくり返ったっ! そう、我々は奇跡が生まれた瞬間に立ち会えましたっ!!』



なんか前向きに解説するねっ! てーか普通に受け入れるんかいっ!!

いや、僕が言うのもアレだけどねっ!? でも、それで本当にいいわけですかっ!!



『常識とは何かっ!? それは覆し破壊するものっ! そう、ガーランド教導官は今や真の破壊者っ!!
常に新しい道を模索するその姿勢が、我々の前に一つの輝きをもたらしたのですっ!!』



ふざけんじゃないよっ! それなら僕が1年半以上前にとうに通過してる道だってーのっ!!

まるでレイオさんが1番最初にやったみたいに言うなー! この今湧き上がる喝采は本来僕のもんだっつーのっ!!



≪・・・・・・すごい司会者根性なの。ジガン、さすがにあの前向きさは真似出来ないの≫

≪まぁ、こうでもしないと盛り上がりませんしね。司会者と扇動者はある意味では同意義語ですよ≫



そこはともかく・・・・・・どうしてレイオさんがサウンド機能をっ!? ・・・・・・ま、まさかヒロさん達かいっ!!

いや、もうそれしか考えられないしっ! くそ、これはやっぱ普通にムカつくぞっ!!



「がはははは、こりゃ思った以上だなっ! うし、教導隊でも本格的に研究するかっ!!」










するなよバカっ! てーか上は絶対許してくれないよっ!?





僕だって当初はなのはやティアナ辺りにかなり言われたりしたんだからっ!!





くそ、やっぱ管理局も組織の立場もムカつくしっ! マジでふざけんなっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「レイオっ!? こらっ! アンタ作戦・・・・・・って、聞いちゃいないしっ!!」

「ヒロ、もう諦めろ。こうなったら最後までノーガードの殴り合いだろ」



まぁ分かってた。こうなるとは分かってた。だが・・・・・・なんだコレ?

なんでコイツがサウンド機能をギガシャウターに搭載してんだよっ! おかしいだろうがっ!!



「ヒロ、お前まさか」

「・・・・・・いや、大分前に会った時にサウンドベルトの話はしたけど・・・・・・それだけだよ? 私だって知らなかったし」

「間違いなくそれがキッカケだろっ! てーかアイツマジかっ!? 戦技披露会でそれやるってっ!!」

≪多分元々やりたかったんじゃねぇのか? ほら、アイツバカだしよ≫

「あー、そりゃ納得だわ。・・・・・・いや、むしろ勇者じゃない? アイツ、もう失うもの何もない勢いだしさ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「な・・・・・・何やってんのっ! あのマッチョ、正気なわけっ!?」

「わ、楽しそうなのだ。ねーねー、アンジェラもやりたいー」

「アンジェラ、ダメよ? というかほら、ヤスフミだってさすがにやってないし」





・・・・・・シルビィさん、それ間違ってます。あたし達が知るだけでも相当回数やらかしてますから。

でも、さすがに場が場だしなぁ。さすがに自重しようって話になってたのに・・・・・・まさか相手が自重しなかったとは。

ただ、その自重しようという理由が『誰かに真似されたら嫌だから』って言うのには吹いたけど。



そんなのするわけないしっ! ・・・・・・いや、今しちゃってるけどねっ!?





「ですが、これは好機かも知れません」

「あぁ、そうだな」

「三条君、相馬君、どういう・・・・・・あ」

「そうだ。唯世、お前も知っての通りサウンド機能には一つ弱点がある。
アレは恭文やヒロリスさんクラスでノレるのじゃないと使えないもんだしな」

「そしてこういうのはむしろ、蒼凪さんの領域です。上手くいけば・・・・・・一気に逆転出来ます」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あぁもういいっ! てーか・・・・・・サウンド機能を使ったのは失敗だったねっ!!」



言いながら、僕は左手で二鉄を順手で引き抜く。そして腰を落として構える。



≪そうですね。こういうのは本来あなたの領域ですし≫

≪サウンド機能のアレコレ、きっとあのおじさんは全く理解してないの≫





サウンド機能には利点だけじゃなくて、一つ弱点がある。

・・・・・・それは、相手がこういうノリに理解を示せる場合は仇になりやすいという事。

つまり相手も音楽によって、ノリがパワーアップしてしまう危険性があるのよ。



例えば・・・・・・今みたいに。





≪あなた、JAMは好きですか?≫

「もう大好物っ!!」

≪主様、JAMは最強なの?≫

「当然っ!!」



もう『GO!!』とか『VICTORY』とか大好きだしっ! この曲も大好きだしっ!!



≪アニソンを愛してますか? ジャパニメーションを一生愛せますか?
特撮を愛せますか? 胸を張ってその愛を叫べますか?≫

「もちのろんろんっ!!」

≪アニメや特撮は日本の文化なの? アニソン特撮ソンを愛する心は、日本人だと誰でも持ってると思うの?≫

「もちのろんろんパートU!!」



安易に『ノリのいい曲かけておけばパワーアップするかなー』とか思ってるそこのおっちゃんとは年季が違うんだよっ!!

曲を、アニメを、特撮を、作品を愛し想う心が・・・・・・唯一無二の想いとノリを産み出すんだよっ!!



≪だったら行くのー。それらを愛する気持ちなら、主様に勝てる人間は早々居ないのー≫

≪この勝負で勝つのは魔導師でもなければ戦闘者でもありません。
それは・・・・・・真のオタクです。それをそこら辺のボンクラ共に見せつけてやってください≫

「了解っ!!」



というわけで、僕は軽く身を伏せて・・・・・・そのまま突撃した。前奏が終わった音楽の勢いに乗せて、全速力で。

・・・・・・ヤバい。この曲は普通に燃える。身体中から力が溢れて溢れて仕方なくなってる。



「行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「来いやオラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」





そして、右薙に振るわれた二振りの銀色の刃と、深緑の刃が衝突した。

アルトと二鉄の刃とギガシャウターの魔力刃が摩擦を起こし、深緑と赤の火花が盛大に舞い散る。

発生した衝撃は周辺の砂を巻き上げ、僕達の足場を窪地にする。



でも、それでも動きを止めずに僕達は・・・・・・その場で再び打ち合う。





『鳴り響く音楽の中、二人が再び激突っ! 衝撃と砂の嵐が生まれ、その力強さを我々に知らしめていますっ!!』





唐竹に振るわれた僕達の斬撃は衝撃と周辺の砂を撒き散らし・・・・・・僕達自身も吹き飛ばした。

いや、体重差で僕だけが吹き飛ばされた。レイオさんは僅かに足を滑らせるだけ。

この辺り、足場が砂地というのが大きい。とにかく僕はその勢いを利用して一気に後ろに下がる。



レイオさんはアックスを頭の上に持ち上げて、両手で回転させた。





「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」





深緑のアックスの刃から、同じ深緑色のエネルギーの刃が生み出される。それも大量に。

それらは僕の方に真っ直ぐに向かって来る。僕は・・・・・・左に飛んだ。

足を止めるのはアウトだ。恐らくこれを斬り払っている間に接近されてあっという間に叩き潰される。



深緑の斬撃の数々が砂を斬り裂き、爆発を起こしてそれを大量に巻き上げる。





『おぉっとっ! ガーランド選手、弾幕を精製して蒼凪氏を圧倒し始めたっ!!
これは凄いっ! 一定空間が魔力刃によって埋め尽くされていくっ!!』





それで、どうやらある程度の指向性があるらしい。僕の方に僅かにカーブして殺到しようとする。

とりあえず魔法発動。僕はブレイクハウトを発動させて、杭を数本撃ち出す。

杭はエネルギーの刃に砕かれながらも前に進んで、レイオさんを貫こうとする。



でも、合計7本の杭の全てが、深緑の障壁の前に阻まれた。だから続けていく。





「ブレイクっ!!」



杭が至近距離で破裂して、土色の散弾がレイオさんを襲う。でも・・・・・・それも全て弾かれた。



『蒼凪氏、物質操作により反撃を試みるが、全く通用しませんっ!』





周囲の砂を貫き、レイオさんは全く無事。・・・・・・くそ、このチート障壁が。

僕は舌打ちしながらも、砂地に左足をつける。軽く滑り砂を巻き上がらせながらも停止。

左のジガンのカートリッジを3発ロード。ドラム式のマガジンが回転して、ロード音が響く。



そして魔法発動。ブレイクハウトで砂地を変換して、分厚い長方形の壁を前面に展開した。

壁の向こう側で爆発が起こる。さすがにカートリッジ込みのこの壁を斬れる程の力はないらしい。

でも、それに安堵する間もなく強烈な殺気。僕は後ろに10メートル程跳んだ。



そして次の瞬間、壁が上から一気に粉砕された。それは、踏み込んだレイオさんによる斬撃。

砕け散り、衝撃で上へと舞い上がる壁の破片や砂を見つつも僕は着地。

二鉄をアルトの前面に合体させ、左手で六鉄を引き抜く。それを左側面に合体。





『なんとっ! 蒼凪氏の形状変換したデバイスが・・・・・・合体していくっ!? 八神司令、これはっ!!』



次は四鉄。片刃のアルトの後方左側に合体させた上で、そのまま前に踏み込んだ。



『あー、個人技能に頼った形の形状変換ですね。状況に応じて剣を大型化させて、威力を増すんですよ』

『つまり、あの剣の数々は元々は一つの剣っ!?
・・・・・・でも、それならそう言ったモードを構築した方が効率的では?』

『いや、形状変換の搭載はデバイスの総合強度低下を招く部分もありますから。
扱い切るだけのスキルがあるんであれば、むしろあっちの方がいいでしょ』

『なるほどっ! では、あの剣・・・・・・合体剣の本領はここからですねっ!!』





・・・・・・レイオさんはそんな僕を見ながらも魔力スフィアを形成。ほぼ零距離で砲撃を叩き込んだ。

僕はその軌道を見切り、右に移動してスレスレで回避。砲撃は砂地に着弾して爆発を起こす。

ただし、僅かに左肩を掠った。その衝撃でマントと肩のジャケット部分が軽く吹き飛んで、素肌が露出する。



それに軽く寒気を覚えた。・・・・・・おいおい、砲撃も相当出力上がってるじゃないのさ。

てゆうか、今のでもそれなりに魔力ダメージ食らったしっ! このおっちゃん、どんだけ攻撃力上げてるのさっ!!

僕が動揺している間にもレイオさんはそこから一歩踏み込んで来る。



壁を砕き、振り下ろしたアックスを持ち上げて、僕目がけて左薙に叩き込んで来た。





「・・・・・・鉄輝」



ジガンのカートリッジを1発ロード。その上で刃を包み込むのは、蒼い魔力。

僕はジャンプして、それを回避。そしてそのまま、重さの増した合体アルトを叩き込んだ。



「一閃っ!!」



その瞬間、アーマーの各所から見える魔力光が強く輝く。

そしてレイオさんの周囲に同じ色の障壁が発生。僕の斬撃はそれによって防がれてしまった。



『蒼凪氏の攻撃がヒット・・・・・・ならずっ! ガーランド教導官の障壁によって防がれてしまったっ!!』



ちょうどレイオさんを包み込むようなバリアと、重さを増しているハズの蒼い斬撃が衝突する。

つーか・・・・・・マジで、硬い。カートリッジも使ってるはずなのに、コレって・・・・・・!!



「・・・・・・うぉりゃっ!!」





僕がそれに悪態をついている間に、レイオさんが右薙にアックスを叩き込んでくる。

僕は合体アルトでそれを受け止めて・・・・・・そのままアックスが振り抜かれた。

僕の身体はその衝撃により100メートル以上吹き飛び、砂地に身体を叩きつけられる。



僕の身体は更に砂地を滑って、それにより砂が周囲に舞い散る。





『ガーランド教導官、サウンド機能の効果故か、いとも簡単に蒼凪氏を吹き飛ばしたっ!!』





でも、休んでる余裕はない。レイオさんの身体が深緑の魔力光に包まれて、また接近してきた。

僕は起き上がりつつ、右に退避。てーか避けなきゃマジで終わる。

ギリギリで唐竹の斬撃を回避。単純だから至極読みやすい。大ぶりだから避けやすい。



でも、読みやすくてもこっちの反応がギリギリだ。そこまで考えて、どうしてなのか気づく。

・・・・・・向こうも僕の動きを読んだ上で動きを先回りしてきてる。経験と勘と本能でそれを行ってる。

戦闘者に染み付く超反応ってやつだね。それで予備動作の遅さをカバーしてんのよ。



やっぱ強いわ。魔法っていう『鎧』にあぐらかいてるのとは一味違う。いいねいいね、こういうのは好みだ。



だから僕は・・・・・・鎖を噛み砕いた。開放するのは胸の中の獣。ここからは本気中の本気だ。





『ちゅうか、蒼凪氏の動きを読んで対処してますね。それでスピードの差をカバーしとるんですよ。
しっかり受けてカウンターできっちり仕留める。古典的やけど、効果的な戦い方です』

『なるほど、攻撃直・・・・・・おぉっとっ! 言ってる側からっ!!』





レイオさんは攻撃を打ち込んだ直後なのに自分の周囲に魔力スフィアを発生させて、僕に撃ってきてる。

なお、砲撃じゃなくて誘導弾。数は10。僕は後ろに下がりながらも左手で五鉄を順手でホルダーから引き抜く。

まず五鉄に魔力を込めて、そのまま右薙に振るって投擲した。五鉄は回転しながらも飛び、4発の魔力弾を斬り裂く。



その爆発を突っ切るように残り6発の魔力弾が僕に迫る。

僕は前に跳んで、右薙に合体アルトを叩き込む。

魔力弾の軌道を読んで、それが横一直線に重なる一瞬を狙っての斬撃。



それにより魔力弾は全て真っ二つに斬り裂かれて爆発した。

それからすぐに右に走る。その爆炎を突っ切るようにまたまた砲撃が放たれた。

それを避けつつ五鉄を探す。五鉄は頭上に回転しながら上がっていた。



そしてレイオさんの周囲にはあの深緑の障壁。どうやら、普通に弾かれたらしい。

ちょうど僕の頭上に落ちてきた五鉄を、右手を上にあげて持ち手部分をキャッチ。それを合体アルトの右側面に装着。

合体アルトを右手に持ち替えて、空いた左手でホルダーに残っている三鉄を逆手で引き抜く。



僕は飛び込みながらも斬り抜ける。その刃はやっぱりレイオさんには届かない。

腹を狙ったのに、障壁によって阻まれる。三鉄を順手に持ち替えながら、僕は回転して左薙に合体アルトと共に斬撃を叩き込んだ。

レイオさんの背中を狙った斬撃はやっぱり障壁に阻まれ・・・・・・って、普通に硬過ぎるわボケっ!!



そこを口に出す暇もなく、僕は軽く後ろに下がる。・・・・・・僕の顎を狙って、魔力弾が1発撃ち上げられていた。

刃を引いて三鉄でそれを防ぐと、僕の前面に爆発。視界が一気に遮られてしまう。

そして、前面から強烈な殺気。僕はすぐに合体アルトを盾にして、その殺気に備えた。



次の瞬間、レイオさんがアックスの切っ先を突き出して来た。・・・・・・アックスは基本的にこういう使い方はしない。

形状的にも、ハルバードの類でも無い限りは無意味だもの。でも、レイオさんのパワーなら話は別。

普通に相手を粉砕する位の事は可能。そして、僕を衝撃が襲い・・・・・・またもや身体が吹き飛ばされた。





『ガーランド教導官の突きが決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

『いや、防がれとりますね』

『えぇっ!?』



いや、その勢いを活かしてまた後ろに跳んだ。ダメージが通らないなら、近くに居るのは危険手だもの。



『ほ、本当ですっ! 実況席からは爆炎のために見えていませんでしたが、確かにガードしているっ!!
蒼凪氏は合体剣でガーランド教導官の突きを防いでいるっ! これは見事っ!!』

『デバイスの強度故に出来る戦法ですね。普通やったら、へし折れてますって』



だけど、僕は吹き飛ばされつつも更に強烈な予感を感知。そして追撃が来た。

レイオさんは笑いながらも、アックスの先に魔力スフィアを形成。



『だが、さらに追撃っ! ガーランド教導官は防がれる事すら視野に入れていたっ!!』



そこから一気に高出力で砲撃を放った。僕は三鉄をアルトの後方に合体。これにより、七鉄アルトが完成した。

その上で手のひらサイズな足元に蒼いベルカ式魔法陣を形成。これはいわゆる魔法力場。



『それに対し蒼凪氏は・・・・・・な、何っ!?』



普通は空中に形成して、急激な方向転換などに用いる。なので、僕はそこから一気に前に跳ぶ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



前に踏み込みつつ、その砲撃に向かってアルトを唐竹に叩き込んだ。

アルトの刃は深緑の砲撃を真っ二つに斬り裂き、砲撃は僕の両サイドを通り過ぎて虚空へと消えていく。



『で・・・・・・出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 蒼凪氏の十八番、砲撃斬りっ!!
リミッター解除により出力が上がっている砲撃を、いとも簡単に斬り裂いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』





その余波でマントやジガンにジャケットが焼かれて、ジャケットの一部が吹き飛び素肌が現れる。

ジガンは丈夫だから、問題ナッシング。そしてアルトを返して、右薙にアルトを叩き込む。

それにより、突き出されていたアックスを弾く。そこからまた刃を返して、僕はアルトを唐竹に叩き込んだ。



七鉄アルトでも障壁はびくともしなくて、ただ火花を散らすだけで・・・・・・でも、確実に手応えが手の中に刻まれていく。



この硬さをしっかりと覚えて、集中する。大丈夫、唯世やみんなが凄い勢いで協力してくれたんだし。





『しかしっ! そうまでして掴んだ攻撃のチャンスも、やはり障壁によって防がれてしまうっ!!
まさに強固っ! まさに人間要塞っ!! レイオ・ガーランドという要塞は、やはり硬いっ!!』





障壁に防がれている間に、レイオさんがアックスを返して右薙に刃を叩き込んでくる。

僕は後ろに下がって、アックスをスレスレで回避。そのまま砂地に着地して、そこからまた踏み込む。

アルトを左薙に叩き込み、返すレイオさんのアックスによる斬撃を弾く。



レイオさんの魔力光と同じ火花が生まれ、衝撃がまた砂を吹き飛ばして空気を震わせる。

そして互いに得物を返して、今度は右薙に。また同じように衝撃と火花が生まれた。

レイオさんがそんな中で右手を伸ばしてくる。狙うは僕の頭。僕は足元から細い杭を複数発生させる。



それによりレイオさんの腕を狙うけど、それでも障壁は破れない。

僕は右に跳んで避けるけど、追撃が来る。レイオさんの伸ばした手の平に魔力スフィアが生まれた。

そして僕を狙った、ラグ無しの砲撃。僕は六鉄を左手でアルトから取り出して順手に持つ。



下がりつつも六鉄を、左薙に砲撃に向かって打ち込む。それにより目の前で爆炎が起こる。

その爆炎を斬り裂くように、レイオさんのアックスが袈裟に叩き込まれた。

僕はそれを左に避けつつも踏み込み、レイオさんの腕に向かって六鉄を突き出す。



肘を狙った斬撃はやはり障壁によって防がれて、火花を散らしながらもそれと拮抗する。

一気に後ろに跳ぶ。そうして追撃で来た右切上の斬撃を何とか回避。

回避しつつも六鉄をアルトに再び合体させて、同時進行でモーション無しで魔法を発動。



前面に魔力スフィアを形成。蒼いバレーボール大のそれを、レイオさんに向かって射出した。

レイオさんはアックスを唐竹に右薙に振るってそれを両断しようとするけど・・・・・・無理。これは、そんなのじゃ防げない。

スフィアがレイオさんアックスの刃に触れようとした瞬間、僕は目を瞑って『それ』に備えた。



そして、スフィアが爆発した。爆発して、レイオさんの目の前を眩い輝きで照らした。

レイオさんからするとほぼ零距離で爆音が響く。鳴り響く音楽すらもかき消すような轟音。

響く轟音が、レイオさんの聴覚を麻痺させる。その間に左手からあるものを射出。



そのすぐあとにマジックカードを取り出す。そしてそれをある方向に向けて投擲。

・・・・・・これで布石は二つ目。そうこうしている間に光はすぐに消え去り、僕は目を開ける。

自分の魔法だもの。どのタイミングで開ければいいかは分かる。



レイオさんは、苦悶の表情を浮かべて瞳を閉じていた。なお、僕は距離を取っていたので無事。

元々至近距離用の魔法。少し離れてれば影響は0だよ。

これはライティング・・・・・・スレイヤーズに出てきた明かりを点ける魔法。



ただし、持続時間0で光量最大のスタングレネードタイプ。あ、劇中でもこういうアレンジが出てくるの。

スレイヤーズのライティングはこれを目眩まし代わりに使ってたけど、これは更にアレンジを加えてる。

聴覚を麻痺させるだけの轟音が響くように設定してある。音は空気の振動だから、ここは簡単に出来た。



元々その辺りを拡大して、拡声器みたいな感じにする魔法も組んでたしね。楽勝楽勝。

とにかく、これでまず布石は一つ打てた。でも、レイオさんはまだ倒れていない。・・・・・・しぶといな。

呆れるというか感心しつつも、ブレイクハウトを発動。レイオさんの足元から杭が10数本発生。



それが障壁を砕こうと勢い良く飛び出す。だけど、それでも貫けない。それほどにあの『要塞』は強固だ。





「・・・・・・・うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





レイオさんは周囲の気配や襲い来る衝撃から杭の位置を察知したらしい。まだ目が見えてないのに反撃に出る。

アックスの刃を砂地に身体を反時計回りに回転させ、左薙に振るう。

それにより杭達は中程から両断されて、レイオさんの足元に落ちていく。その間に僕は着地。



着地しながら僕は左手をレイオさんに向ける。ジガンが装着された手首からは・・・・・・射出されたワイヤーがある。

それは地面すれすれを飛行した事で巻き上げられた砂の中に紛れさせる事で見えにくくしていた。

しかも今のレイオさんは、視覚と聴覚をやられている。あのドタバタの中で察知出来たら、マジですごいよ。





『さぁ、残り時間もあと5分を切ろうとしていますっ! 白熱する力と力の衝突にも終わりが・・・・・・アレ?』

『あ、なんか見えとりますね』





僕はカートリッジを全弾ロード。その魔力分も使って電撃を送った。

それにより、レイオさんの身体が蒼い電撃に焼かれた。

ワイヤーの先が巻き付いているのは、レイオさんの足元。



さっき下がる時・・・・・・ラィティングのアレコレの時に射出して、巻きつけておいたの。



さぁ、これで反撃開始だ。これで三つ目。打てる布石は、全て打った。





「ぐ・・・・・・ぐぅ・・・・・・!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・激しい攻防の末、蒼凪氏の攻撃がようやく決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
それにより堅牢を誇っていたガーランド選手が動きを止め、苦悶の表情を浮かべるっ!!』



恭文、ジャケットがボロボロになって、ブッチギリで不利なのに・・・・・・ちゃんと手札を切っていた。

ジガンのワイヤーを足元に仕込んで、それで電撃を流した。・・・・・・ま、またそういう分かりにくい手を。



『あー、アレはさっきの目くらましの前後に仕掛けてたんですね。
視覚と聴覚をやられとるなら、気づきにくいですし』

『確かにガーランド教導官、先程から目を開けていません。ですが、これは危険手なのでは?』

『問題ないでしょ。見る限りはスタングレネード・・・・・・あ、質量兵器でそういう鎮圧武器があるんですよ。
加減も相当しとりますし、アレじゃあ失明や鼓膜が破れるレベルじゃありません』



でも、クレイモアでは無理。ブレイクハウトもあの障壁の前ではアウト。だから・・・・・・なんだね。

だから恭文はまず、それでは防げない視覚と聴覚に対する攻撃を仕掛けたんだ。



『スタングレネードは非殺傷武器と同じなんですよ。光と音のショックで相手を気絶させる。
言うなら、局が理想とする『傷つけずに倒す力』を持った質量兵器なんです』

『なるほど。アレは局の理念そのままの武装を魔法で再現したものなんですね。
ですが、ガーランド教導官は気絶もせずに未だに立っています』

『やっぱり相当打たれ強いんですね。肉体どうこうやのうて、精神力の面でも。
けど、あれはカートリッジの魔力も込みの高出力の電撃』



目を見えなくして、音による察知も出来ないようにして、それで攻撃する。

ただ、普通に斬ったんじゃ今までみたいに防がれちゃう。だからこれなんだ。



『魔力と身体のダブルダメージでスタン効果も入れとるでしょ』

「当然よね。それで動きを止めるのが目的でしょうし」

「うんうん、恭文なら絶対そうするよね」



あたし達より戦闘関係に詳しいシルビィさんとアンジェラちゃんが、感心しながらそう言った。

視線は恭文と電撃で焼かれているあのおじさんに向いている。



『それが一度通電してもうたら防ぐんは』

『難しい・・・・・・ですね。ならば、これで決まりかっ!?』



というか、これで決まって欲しいと思う。ややなんて両手を胸元の前で合わせて、必死に祈ってる。

でも・・・・・・あのおじさんは、蒼い電撃に焼かれながらも腕を上に動かす。それで胸の中の嫌な予感が高まった。



「しゃら・・・・・・くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



そして袈裟に斧を振るって、足元に張っていたワイヤーを両断した。

それを叩きつけられた事により、また砂が巻き上がる。



「おいおい、マジかよっ! あのおっちゃん、どんだけ図太いんだっ!?」

「まずいわね。あのおじさん、もう目を開いてる。恭文の事、見えちゃってるわよ」

「それにガーランド教導官は蒼凪君より格上。恐らく、もう同じ手は通用しない」



電撃はワイヤー越しに通されていた。だから当然、電撃はそこでストップ。

おじさんの身体やデバイスから黒い煙が昇っていく。



「ダメージは与えたみたいだけど、このままだと・・・・・・蒼凪君が勝つのはやっぱり難しい」

「残り時間も少ないしな。くそ、これでは本当に打つ手無し・・・・・・いや、待て」



でも・・・・・・アレ? 違う、あの煙・・・・・・おじさんの身体やデバイスからじゃない。もっと足元からだ。

だからキセキが言葉を止めてそこに注目した。それはあたし達も同じく。



≪Dark Mist≫



黒い霧が突然に生まれて、恭文やあのおじさんの姿を覆いかくした。ううん、それだけじゃない。

舞い上がった砂も全部隠して、何も見えなくなった。これ・・・・・・何?



「・・・・・・蒼凪君の姿が、見えない」

「というか、この霧は・・・・・・なに?」

「ふ、さすがは蒼凪殿だな。海里、我らが前に立ちふさがる壁は実に強大だぞ」

「あぁ。蒼凪さんは、既に逆転のための札を切っている」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・くそ、なんだこれは。てーかギガシャウターが・・・・・・おいおい、持ち上がらねぇじゃないかよ。

てーかスタングレネードもどきな魔法の次は、スモークかよ。あの坊主、どんだけこの手の魔法構築してんだ?

しかしコレは重い。まるでギガシャウターが地面に埋まってるような・・・・・・埋まってる?





そうだ、埋まってるんだ。それはギガシャウターだけじゃない。俺の足も同じだ。

足・・・・・・くそ、どうなってんだよ。すねの中程辺りまで埋まってる感覚はするが、それだけしか分からないぞ。

霧が展開した時に足元がぽっかり開いたような感覚がして、それでこれだ。





だが確かめようにも、耳はバカになってるし視界もまた・・・・・・俺の背筋を寒いものが駆け抜けた。俺は咄嗟に魔力弾を。










≪Struggle Bind≫



形成する前に、何かが身体を縛り切った。まるで這うようにして来たそれは、俺の身体を瞬時に縛り上げた。

くそ、スタングレネードもどきや電撃ダメージのせいで反応が遅れてるな。だが、この程度ならまだ。



「・・・・・・くっ! なんだよっ!!」





俺の目の前に突然に深緑の障壁が展開。それは闇を斬り裂きながら飛んできたあるものを防ぐ。

それは・・・・・・短剣。短剣が蒼い熱エネルギーに包まれて、凄い勢いで飛んできた。

なんとか障壁でそれを防いだってとこだな。その衝撃とソニックブームにより、黒い霧が僅かに晴れる。



それによりやっと俺の視界が開けた。俺は急いで足元とギガシャウターを確認して、驚愕した。

ギガシャウターと俺の臑までが、マジで鉄の塊みたいなのに埋まってんだよ。

俺の足元とその周囲だけが鉄の塊になっていて、強化魔法有りでも力づくで壊すには時間がかかる。



一連の事の直前に砂地にドでかい穴を開けたギガシャウターに至っては、刃の大半が埋まっている。

いや、それだけじゃなくてそこにベルカ式魔法陣が浮かんで、俺の身体を縛りあげてんだ。

これはストラグルバインド・・・・・・強化魔法を無効化するバインドかよ。俺の肉体強化の魔法、完全にカットされてやがる。



くそ、この霧はコレらを察知させないためか。いや、今までのアレコレは全部このためだな。

そして今俺の障壁を貫こうとしてるコイツは、これらを壊させないための捨て駒。

あの坊主が何やったかは知らないが、マジで防がないとヤバい威力を出してやがるし。



これを防ぎながら破壊・・・・・・いや、出来るな。俺の技量を舐め。





「・・・・・・おいおい」





言いかけて俺はその気配に気づいた。だから俺は、頭上を見る。頭上には・・・・・・坊主の姿。

黒い霧も、今なお俺の障壁を貫こうと必死こいてる短剣も、全部目くらましかよ。

本命は頭上からの質量と重力落下の勢いも込みの斬撃。しかもアレは・・・・・・また電撃かよ。



もう俺の目の前にまで突撃して来ている坊主の刃に、眩い蒼い雷撃が迸っていた。

とりあえず俺は、笑いながら最大出力でスフィアを形成。ギガシャウターのカートリッジもフルロード。

バインドを引きちぎってぶん殴ってる余裕はない。思いっきりやられちまったしな。



顔の前で生まれた俺の頭くらいある砲撃スフィアを・・・・・・そのままぶっ放してやった。





「舐めるなっ! 坊主っ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



これはダークミストと呼ばれる魔法。効果は見ての通り、黒い霧を出す事。それも光も通さない濃厚な霧。

これもスレイヤーズの魔法なんだ。相手の視界を遮るための魔法。あ、ちなみに僕はこの中でも動ける。理由はさっき言った通り。

まず、電撃が破られる事は予測してた。だからアレはあくまで捨て札。レイオさんにスタンダメージを残すためのもの。





少しでも動きと反応が鈍くなればいいと思ったの。それでこのダークミストはマジックカードによるもの。

時間差で発動するように予め仕込んでおいたのよ。ちなみに、仕込んだタイミングは簡単。

ワイヤーのアンカーを投げる時に、一緒にレイオさんの足元・・・・・・後ろの方に向かって投擲した。





そこからダークミストの中で、まずはブレイクハウトでレイオさんの足元とアックスが接触していた砂を変換。

一度軽めに硬質化してから、すぐに穴を開けた。そうしてレイオさんの足場を落とした上で、再び周囲の物質も含めて再硬質化。

距離は離れてたけどそのために触媒を作ってたから、楽に出来たよ。なお、触媒の正体はとても簡単。





それはジガンのワイヤーの先。斬撃にしろ魔力弾にしろ、ああいう対処に出るのは読めてたから。

絶対に中程から斬ろうとするもんなのよ。そうじゃなかったら、僕を潰すかワイヤーを解くしかない。

でも、離れてる僕を追いかけたりワイヤーを解く暇があるなら、手近な所を斬った方がてっとり早いでしょ。





それで投擲する時にブレイクハウトで物質変換して、周辺の砂地を巻き込んで鋼鉄の足場を作る材料の一つにしたわけ。

それから続けてストラグルバインドを詠唱。それで厄介な肉体への強化魔法をシャットアウトした。

更に続けて、両手でレイオさんの肩の上辺りを狙って、ジガン搭載のダガーでレールガンを連続射出。





それであの厄介な障壁を発生させてしまう。発動速度重視だったからそれほど威力は高くない。

けど、障壁に対する圧力程度にはなる。というか、そのために撃った。

そこから一気に上に跳んで、レイオさんの頭上から強襲。その上で詠唱するのは・・・・・・もちろんコレ。





スタンダメージも込みで一気に仕留めるなら、これが1番いい。










「フルドライブ」

≪Ignition≫





七鉄アルトを包むのは、眩く輝く雷撃の刃。手札色々切りまくりだけど・・・・・・ここは納得する。



何より、ダークミストで見られたくないものは色々隠せたもの。



今だって、まだ霧のせいで上手くは見れないはず。だから、遠慮なく使える。





「舐めるなっ! 坊主っ!!」



レイオさんが、至近距離で砲撃を放ってきた。ラグ無しで出来る最大出力で・・・・・・また無茶を。

障壁でエネルギー消費も大きくなってるのに、それでもなおコレですか。まぁいいや。



「ナメてんのは・・・・・・てめぇだっ!!」



僕は躊躇い無く、今あるありったけを込めた唐竹の斬撃を叩き込んだ。



閃華せんか・・・・・・!」





唐竹の斬撃は、深緑色の砲撃を真っ二つに斬り裂き、そのまま刃は障壁を捉えた。

砲撃により髪やジガン、ジャケットや肌をまた焼かれるけど気にせずに刃を振り下ろす。

障壁は不完全とは言え、二つのレールガンを防ぎ、その上僕の斬撃を受け止めた。



その三点の圧力を今までみたいに耐えられる? 答えは・・・・・・ノーだ。

なにより、僕はこの一撃のために今まで気持ちを高め続けていた。おっちゃん、知ってる?

斬ろうと思って斬れないものなんて、この世界のどこにもありゃしないのよ。



だからこそ、障壁は砕けた。深緑の障壁の破片が舞い散る中で、ダガーがおっちゃんの鎧に突き刺さる。

障壁によって威力をかなり殺がれていたのか、肩が吹き飛ぶような事にはならない。

ただ、それでもダガーは両肩の鎧を粉々に砕いておっちゃんの肩をしっかりと露出させた。



なお、ダガー達も同じように粉々になった。間をおかずに、刃はその肩口に打ち込まれる。



そうして袈裟に振るわれたアルトの斬撃の痕が、おっちゃんに刻み込まれた。





「一閃っ!!」





斬撃は鎧の前面を派手に砕き、その破片も撒き散らす。あとは僕のストラグルバインドもだね。

蒼、深緑、真紅、鉄色・・・・・・僕達の周囲には、色々な色の破片が生まれた。

斬撃と着地、障壁の破壊による衝撃により、薄まっていた黒い霧は完全に吹き飛んだ。



観客からは、僕達の姿はもう完全に丸見え。そして・・・・・・驚愕してる事でしょ。



曲流してパワーアップした本人が、曲の終わりにもうボロボロになってんだから。





「・・・・・・がぁっ!!」





僕は咄嗟に下がって、合体アルトの刀身の真横を盾にするように前にかざす。

そうする理由は簡単。レイオさんがアックスを僕が変換した土台から引き抜いたから。

そのままの勢いで僕に逆風に腕を振り上げるようにして斬りつけてくる。



僕はそれを何とか防ぐけど、やっぱり重量差から軽く吹き飛ばされた。



砂地を滑りながらレイオさんを見る。レイオさんは腕を高く上げて、にやりと笑った。





「・・・・・・楽し・・・・・・かった、ぜ」



そして、アックスを持ったまま膝だけを曲げて後ろ向きに倒れた。その音が鈍く響き、砂がまた舞い散る。

レイオさんはそのまま瞳を閉じて、動きを止めた。・・・・・・どうやら、終わったらしい。



『・・・・・・決着っ! レイオ・ガーランド教導官、蒼凪氏の猛烈な追い込みの前についに倒れたー!!』



司会の声に、会場全体が湧き立つ。そして・・・・・・あ、拍手してくれてる。



『壮絶且つ単純な力と力の闘争を制したのは、蒼凪恭文氏っ!!
試合時間にすると12分47秒と短いものですが、その中身はただただ濃密でしたっ!!』

≪・・・・・・確かに中々に濃い内容でしたね。相手も濃かったですし≫

≪主様、飛車角落ち状態で良く頑張ったの。感動したの≫

「あはは・・・・・・そうでもないって。普通に手札切りまくったしさ」



でも・・・・・・よし、僕はもう出ないぞ。こんなマゾゲーム、絶対にもうやりたくない。

てーか、このシチュは今更だけど何か陰謀を感じるんだよね。うん、かなりね。



「でも、とりあえず・・・・・・勝ち、かぁ。・・・・・・うし」










僕は嬉しさを噛みしめるように、静かに左手で軽くガッツポーズを取った。





一応さ、マスター級に勝ったんだもの。それで嬉しくないわけがない。





静かに勝利の喜びを噛みしめつつ、最後の最後まで油断なく・・・・・・僕は響く歓声を聴いていた。




















(第71話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、戦技披露会一戦目は無事に終了。ただ、僕にとって本番はまだまだだったり」

なぎひこ「・・・・・・普通に歌唄ちゃんとシルビィさんとシャマルさん居るしね。というか恭文君、さすがにこれはダメなんじゃ」

恭文「なぎひこ、僕はシャマルさんとシルビィに関してはしっかりお返事してるんですけど」

なぎひこ「あぁ、そうだったね。・・・・・・というわけで、色んな意味でカオスであり壮絶だった今回のお話はどうだったでしょうか。
お相手は最近僕となのはさんのカップリングが受け入れられていると聞いて、戦々恐々としている藤咲なぎひこと」

恭文「カオスさに拍車かけたのは、レイオさんがサウンド機能パクったせいだと思う蒼凪恭文です。
いや、これはあれだね。伝説に残るよ。・・・・・・本来だったら僕が残るべきなのに」





(蒼い古き鉄、そこの辺りで色々と恨みつらみがあるらしい)





なぎひこ「・・・・・・恭文君、そこまで?」

恭文「そこまでだね。だって、普通に・・・・・・普通に・・・・・・ぐす」

なぎひこ「あぁ、泣かなくていいから。まぁやってる事はともかく、試合内容は至って真面目なんだよね」

恭文「うん。あとはアレだね、実況ですよ。この話ではなにげに初めてな要因」





(例の付録コミック見ながら、アレコレ書いたのもいい思い出です)





恭文「実況がある戦闘なんて、未だかつて一度も無いからなぁ。
・・・・・・あ、ちなみに司会は以前話した元ネタのコミックに出ている新キャラです」

なぎひこ「特にこの話オリジナルじゃないんだよね。一種のチョイ役ではあるけど」

恭文「そうそう。はやてが解説してるのもその図式なのよ。でも・・・・・・今回は疲れたー。
特に最後のラッシュが難しくて、書き上がるのに時間がかかって・・・・・・問題が出た」

なぎひこ「なにかな」

恭文「・・・・・・溜め込んでた話のストック、これで使い切った」

なぎひこ「はぁっ!?」





(注:事実です)





恭文「まぁ次の話はもう着手してるからここはいい。で、その次の話だけど・・・・・・なぎひこ」

なぎひこ「なにかな。というか、いきなりにやにやし出すのやめない?」

恭文「まぁ、頑張ってね? 僕とリズムとてまりは応援してるから」

なぎひこ「何をっ!?」

恭文「というわけで、次回はいよいよあの二人の対決です。いや、楽しみだねー。
それでは本日はここまで。お相手は色々楽しみな蒼凪恭文と」

なぎひこ「藤咲なぎひこでした。あの、恭文君。楽しみってなにかな。僕かなり気になってるんだけど」

恭文「まぁアレだ。なのはは・・・・・・いや、なんでもない」

なぎひこ「一体なんなのー!?」










(きっと色々な事があるんだと、その様子を見ていた全員が納得した。
本日のED:JAM Project『Crest of“Z’s』)




















ヴィヴィオ「ママ、恭文なんとか勝ったね」

なのは「そうだね。色んな意味で危なっかしくてドキドキだったけど」

シャーリー「そうですね。シチュも不利でしたし、相手との相性も良くはなくて・・・・・・まるで何かの嫌がらせみたいですよ」

ヴィヴィオ「そうだよねー。うーん、恭文最悪ゾーンまだ抜けてないのかなぁ。
誕生日もなんだかんだでパーになっちゃたし、それでこれだもん」

なのは「確かにね。・・・・・・さて、次は私の番か」

シャーリー「そうですね。というかなのはさん」

なのは「ん、どうしたのシャーリー。なんだか凄くニヤニヤしちゃって」

シャーリー「聞くところによると、なぎひこ君と相当仲良しになったみたいじゃないですか」

なのは「・・・・・・ヴィヴィオ?」

ヴィヴィオ「あー、ヴィヴィオじゃないよ? 多分恭文やリインさん達だよ」

なのは「あ、ありそう。というかシャーリー、別になぎひこ君とはお付き合いとかそういうのじゃないんだよ?
あくまでも空を『とぶ』事が大好きな仲間でボーイフレンド。変な勘ぐりは絶対にしないように。なぎひこ君に迷惑かけちゃうもの」

シャーリー「分かってますって。でも、なのはさん・・・・・・どうしていきなり恋愛関係の話に持っていったんですか?」

なのは「え? ・・・・・・いや、それはシャーリーが」

シャーリー「私はただ『仲良くなった』と言っただけなんですけど。・・・・・・あれぇ、おかしいですね」

ヴィヴィオ「あ、おかいしよね。というか、ボーイフレンドだとママとなぎひこさん恋人同士だよ?」

なのは「ヴィヴィオ、そんなわけないでしょ? これは男の子の友達って意味で」

ヴィヴィオ「違うよー。ボーイフレンドは『恋愛関係にある男性』を指す言葉なんだよ?」

なのは「・・・・・・え?」

ヴィヴィオ「うーん、どうしてなんだろう。ママ、地球で勉強はいっぱいしてたはずなのに」

シャーリー「そうだね、おかしいね。うーん、どうしてなんだろうねー」

なのは「・・・・・・二人とも、そういう風にからかわないでよっ! その・・・・・・ほんとにそういうのじゃ、ないんだからっ!!」

ヴィヴィオ・シャーリー「「分かってまーす♪」」










(おしまい)






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