小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Stage02 『Break Bite』 ――前回のあらすじ。 「テロ……リストォ!?」 美城の周囲で何かが起きるかもしれない。そんな予言をしたら、765プロのみんなが目を丸くしました。 「いや、なんで……そんなの飛躍しています!」 「からくりとしてはこうだ。プラフスキー粒子の興業に触れたがっている巨大企業がいる。 そこにガンプラバトルやガンプラの専門家が現れ、交渉が有利になるよう取り入ったら? 優秀なビルダー教育ができるーとかでさ」 「え……あの、それはどういう」 「……ガンプラマフィアね」 さすがに伊織は察しがいい。髪をかき上げながら、とても苦い顔でその名前を出す。 「アイツらはPPSE社の体勢が崩れたことで、なし崩し的に活動目的を奪われた。でも、バトルが復活の兆しを見せたのなら……」 「そうやって取り入って、ヤジマ商事に近づこうってことですか? でもそれじゃあ、美城は被害者ですよね。テロリストってわけじゃ」 「志保、おのれ……犯罪者と関わったらみんな被害者って考えるクチ? そこから”犯罪に荷担させられる”とは考えないのかな」 「考えられるわけないです。犯罪ですし」 「そうだね。未成年者が飲酒喫煙するのも立派な犯罪だ。アイドルなら致命的なスキャンダルだ」 「は……? いや、何の話を」 「それが外にバレるとなったら、大変だよねぇ。当然対処するよねぇ、事務所としては」 「ッ……!」 志保も僕が言いたいことを理解し、顔を真っ青にする。 「所属アイドルにも手を出しかねないと……!?」 「家族に手を出す可能性もあるよ? おのれなら母親や弟だ」 「はぁ!?」 「いや、志保……あり得る……十分にあり得るぞ! 縁者のトラブルも立派なスキャンダルだ!」 ≪だから杏さん達も、ヤジマ商事のお膝元に避難していますしね。会長が強引に押し入ろうとしたのも全く同じ道理ですよ≫ 「だからね、レッドカードは十二分にあり得る……ううん、既にイエローカードが一枚出されているかもしれない」 もしかしたら、審判直々の厳重警告も飛んでいるかもしれない。……それくらい今の情勢は危ういのよ。 というか、ガンプラマフィアが……マシタ会長の弟が、危うくしていると言うべきかもしれない。 だからこそ、僕達も奴らと向き合う必要がある。アイツらを根絶して、初めて新しいバトルが始められるんだから。 「しかも……これが一番問題だけど」 「な、なんですか」 「もし美城の周囲に網が敷かれているとすれば、担当者はその状況を見過ごすかもしれない」 「は……!?」 「確実に、ガンプラマフィアを捕まえるために。網を張っているのは公安……内閣情報調査室とかだろうしね」 「んなアホな! 犯罪者を捕まえるんがお仕事やのに、犯罪を見過ごすんか!?」 「ローウェル事件のように脅威度が高い事件ばかり扱う部署だからねぇ。 ……そういう相手はね、その根っこを押さえないと簡単に逃げられる。ガンプラマフィアの脅威度はそれくらいに高いんだよ」 「だから、捜査機関も手段を選ばず……か」 志保と奈緒……みんなが唖然(あぜん)とする中、赤羽根さんが苦々しげに呟(つぶや)く。 「だから”テロリスト”。下手をすれば悪事に取り込まれ、共謀したとして逮捕者もだす」 「えぇ」 「とはいえ彼女達はまだ一般人だ。プロデューサー、その辺りはやはり……」 「どうにもできませんよ。仮に引かせても……誰の目も届かず、向けられることもなく、その隙(すき)だらけな状態で蹂躙(じゅうりん)されるだけです」 「ッ……!」 前提の話なのに、社長や律子さん、小鳥さん達の顔が青くなる。 ≪その通りなの! しかも美城のスタッフや家族を含めたら、対象は数万単位! 主様でも片手間でできる仕事じゃないの! それくらい分かるの!≫ 「だよ、ねぇ……!」 「しかもB.O.Bの件も絡むのに」 「B.O.Bも動く可能性があるの!? 話では、まだ日本には出ていない感じなのに!」 「でも手は伸ばしつつあるし、僕と鷹山さん達が大会中に捕まえたガンプラマフィア『C』は奴らに取り込まれていた」 「そう、言えば……!」 「あなた様、その”しぃ”という男は、がんぷらまふぃあ……マシタ会長の弟については何か」 「何も知らなかった。本当に末端の末端で、運悪くB.O.Bと関わったって感じだね。……でも、だから余計に警戒が強まっている」 確かに奴らの脳筋振りゆえに、一度はその可能性も見過ごされた。でも……いつか着目しないとは限らないしね。 実際彩美さんからのタレコミで、日本(にほん)に潜入した構成員を捕まえたこともあるのよ。 ソイツは本部からの指示で、日本(にほん)の状況をリサーチ……シノギになりそうなものを探っていた。 仲間と一緒に……相応の銃火器を持った上でね。それも一般警察じゃあ対応し切れないものだ。 「もし本当に絡んでいたら」 ≪美城やヤジマ商事を中心に、血の雨が降る可能性だってありますね。それもアイドル達を巻き込んで≫ 『――!』 「さ、最悪じゃないかそれぇ!」 「ぢゅー!」 ≪……まぁ、何とかするしかないですね≫ 「もちろん」 ニルスとアンズ達が、作り上げた新粒子をより高い次元に押し上げるなら……僕達のお仕事は、悪用しようとする輩を蹴散らしていくこと。 こういうのは僕とアルト向きだからねぇ。つまりはいつも通り、パーティーを楽しめってことだ。 魔法少女リリカルなのはVivid・Remix とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編 Stage02 『Break Bite』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「――現アイドル部門のプロジェクト全てを解体し、白紙に戻す」 壇上の美城常務は、何の迷いも……疑いもなく、確固たる信念のままに宣言する。 「その後、私の企画したプロジェクトに適合したアイドルのみを選抜し、強化する。 対外的な346プロブランドの確立……それによる大きな成果を導き出すのが目的だ。これは決定事項だ。追って通達を出す」 「納得いきませんね」 そこで口火を切ったのは……やっぱりアンタか、不良社員≪竹達彩美≫! ――改めてこの人について説明しよう。 黒髪ロング・トランジスタグラマーな彼女は、アイドル≪輿水幸子≫のプロデューサー。 幸子は城ヶ崎美嘉に続く、部門No.2アイドルでね。それを育てた人だからかなり有能なのは、間違いない。 あと、幸子が所属するKBYD――Kawaii Bokuto Ykyu Dosue(可愛い ボクと 野球 どすえ)ってパラドルユニットも担当しているんだ。 そこに所属する姫川友紀と、小早川紗枝って子も面白い子達でねー。特に友紀は、前々から私達とも知り合いでさ。 そういう縁もあって、竹達さんはわたし達が暴れ始めた頃から、いろいろとよくしてくれるよき先輩でもあった。 ……ただ、性格に極めて問題が多いけど。 唯我独尊で傍若無人、更に言えば自信過剰。上司に楯(たて)突き命令違反は日常茶飯事。 しかし口げんかにおいては敗北を知らず、輿水幸子をサッチャーという危険さ百パーセントなあだ名で呼び、何かあれば鉄拳制裁も辞さない。 趣味の一つは新聞の誤字報告を見つけ、新聞社に連絡すること。 好きなゲームはオセロ。なぜなら純粋なパワーゲームで白黒付けられるから。 ……なおこれ、やすっちの全く同じなんだよ。やすっちもオセロのよさを、光悦(こうえつ)しながら語っていたよ。 そんなわけでわたし達だけじゃなくて、やすっちとも仲がいい。 というか、自分とここまで性格が合う異性はやすっちが初めてだったらしくて、ちょいちょい……いや、ここはやめておこう。 竹達さんややすっち好みのオパーイだし、きっと上手(うま)くやっていくだろうと信じるだけさ。 そんな竹達さんは不満全開で……一昔前の学園ドラマなら、足でも机に載せそうな勢いで、美城常務を睨(にら)み付けていた。 「常務、当然ながら各プロジェクトには相応の資金と時間が注(そそ)がれています。簡単に白紙と仰(おっしゃ)いますが、その損失についてはどうお考えで?」 「無論クライアントから引き受け、既に進めている仕事については問題なしとする。私が言っているのはその先の話だ」 「では、あなたの提示するプロジェクトとはなんですか。その方針も教えてもらえないのであれば、こちらも対応しきれません」 「つーか厳選するだけなら、オーディションなりすればいいだろ。なんで俺達の企画がアンタの都合で差し止められんだよ」 「随分な言いがかりだな。元ギャングではそれが流儀か」 「よく分かったな。帰国子女のお嬢」 遊佐さんはそんなのは当然だと、笑って言い切る。……金髪・サングラス・ピアスに黒スーツって姿だから、どう見てもヤクザの恫喝(どうかつ)だった。 「その通りッスよ。……全く以(もっ)て筋が通らないぞ、アンタ」 それに乗っかるのは、黒髪の短髪をかきむしる石川さん……この二人についても紹介が必要か。 鷹山のおじ様達……というか、その仲間の真山カオルさんや片桐早苗さんが面倒を見ていた人でね。 実はこの二人、元ストリートギャングなんだよ。グループ名は横浜『本牧(ほんもく)ギャング』。 ただこのギャング、不良グループではあるけどいわゆる犯罪行為からは縁遠く、むしろそういうことに手を染める他の連中へ攻撃していたくらい。 まぁそれだって立派な犯罪だから、少年課所属だった二人に面倒を見られ……その縁でおじ様達ややすっちとも知り合ってさ。 ……あ、いや。やすっちと知り合っていたのは遊佐さんだけだっけ? 石川さんは時期的に違っていたとか……ちょっと忘れちゃった。 とにかく二人は真面目に更生した後、横浜で……確かマスコミ関係のバイトがキッカケだっけ? なんかそこの関係者に気に入られて、本社に召し上げられて……プロデューサーになったんだよ。信じられないでしょー。 それで石川さんが城ヶ崎美嘉のプロデューサー。美城の若手No.1と称されているギャル系アイドルだ。 遊佐さんが向井拓海…………本牧(ほんもく)ギャングでは後輩だった子を引っ張って、プロデュースしている。 なお向井拓海、黒髪ロングの超グラマラス体型で、レナが千早みたいに『くっ』と唸(うな)るほどだった。 しかもお洒落(しゃれ)すると滅茶苦茶(めちゃくちゃ)奇麗なんだよー。 じゃあ閑話休題………………そんな前歴の二人だから、ガンをつけるとほんと……凄(すさ)まじい覇気が出る。 基本は更生したし、ふだんはフレンドリーに接しているけど……こういうところでね? やっぱ出ちゃうんだよ。 そのために他の若いプロデューサーさんとかがおののき、ちょっと引き気味になっていた。 「石川くん……遊佐くんと竹達くんも落ち着きたまえ」 それを諫(いさ)めるように声をあげたのは、今西部長だった。 「常務は君達の敵ではないのだから」 「落ち着けませんよ。部門を私物化して、追い出された裏切り者がいるんじゃ」 「そうやって敵を作り、叩(たた)く君達の姿勢こそ問題が合ったのではないかね? CPの件もだからこそ止めたんだ。それは、どうか理解してほしい」 「無茶(むちゃ)を言うなよ、とっつぁん。アイツらのために、そんな泥を被る理由はねぇ……何度も言ってきたことだろうが」 「理由ならある。人は誰も間違いを犯すし、そんなときこそ仲間の力が必要……常務のことも同じだ。 そう否定せずに仲間として受け入れ、その上で切磋琢磨(せっさたくま)してほしい。これは部長としての命令だ」 「無理っすよ。結局何の反省もないクソジジイを側近にするような奴……アンタのせいだなぁ! 美嘉と莉嘉さんの御両親も……他の子達も美城に不信感を持ってるんだぞ! 大概にしておけよ!」 「それも、君達が頑なな姿勢を解き、まず彼女達に寄り添うことできっと分かってくれる。 そう信じて行動していくことが大事なのに、なぜ踏み出すことから逃げてしまうんだ。それが」 「今西部長」 すると美城常務はさっと今西部長を制し、深呼吸……そのまま静かに口を開く。 「……一つ誤解があるようなので、まずそこを訂正しておこう。今西部長の役職は”特別管理室部長”。 アイドル部門の外……第八ビルの使われていない部屋を清掃・管理し、新たな資料室を一から作る……とても重要な役職だ」 「……!?」 「よってアイドル部門とは一切関係もなく、また君達が彼の言葉を”命令”として聞く道理は一切ない。 社内での行動権限で言えば、ここにいる若手のプロデューサーよりずっと下……外部から招き入れている清掃員同然だからな」 その余りに辛辣な説明に、さすがに場がざわめく。 というか、第八ビル? それって部門があるとこからかなり離れている……というか、ほとんど誰も使っていない物置みたいなところじゃ。 「なのでここからは、彼が何を発言しても相手にする必要はない。私が許す……彼は、ただここで立っているだけの部外者だ」 「じょ、常務……どういう、ことですか……!」 そんなところの管理を任されることになるとは、今西部長も知らなかったらしい。裏切られたかのように目を見開く。 「おかしいですねぇ。そんな部屋の主が、どうしてここにいるんですか」 「君達も聞き及んでいるように、私はアメリカから帰国して間もない。そこの今西部長は美城入社前からの知人でもあるので、ここまで案内を頼んだだけだ。 ……忙しく働いている君達や、他のスタッフをこの会議以外で煩わせないために……ようは暇人だからというだけの話。 それがなぜか発言権を持っていると勘違いして、いろいろとごねていたようだが……その点は済まなかった。私の説明不足だ」 「待ってください! 私は、会長からあなたを補佐するようにと……そう言われた! それは、美城が私の行動を……その正当性を認めてくれたからでは!」 「何かの勘違いではないのかね? 既に部門の統括重役は私であり、その私を通さない人事が行われるのもあり得ない。 もちろん……上がなんと言おうと、君を元の役職に復職させるつもりはないがな」 「なぜですか!」 「今のだけで十分だろう。仲間意識は大いに結構……だが、我々がやっているのは損得勘定≪ビジネス≫だ。 君が要求してきたのは、そのビジネスとは外のこと。CPを受け入れるビジネス的利点も示さず、ただ自分の言う通りにしろと曰う。 それも会社から与えられた役職を用いてだ。……それは十分にパワーハラスメント……懲戒免職処分も妥当だろう」 うわぁ……! これはエグい! というか今西部長、今にも首を括(くく)りそうなほど顔を青くしちゃって! 「そもそも証拠はあるのか」 「証拠……!?」 「会長が君を復職させる……そう言ったという証拠が。私は当然ながら、会長からそんな話は一切聞いていない……一言たりともだ。 目撃者は他にいるのか? 君の証言だけでは証明とは言えないぞ。それを客観的に、事実だと認める人間がいなければ」 そこで今西部長は、本当の意味でようやく察する。なぜ自分が、美城本社に引き戻されたのかを――。 もちろん会話の録音などもしていない。それは、あの裏切られたと言わんばかりの顔でよく分かる。 「では、謝罪してもらおうか。悪いことをしたらごめんなさい――社会での基本だ」 「……………………申し訳、ありませんでした」 部長は絶望と屈辱に塗れながらも、深々と常務に頭を下げる。 「……何を勘違いしている。私に頭を下げてどうするんだ」 「は?」 が……それは序の口だった。 「君が頭を下げるのは、”あちら”だ」 そう言いながら常務が指差すのは、竹達さん達――アイドル部門に所属する全プロデューサーだったから。 「もちろんアイドル達にも直接部署へ趣き、一人一人に謝罪してもらう。それくらいの余裕はあるだろう」 「待って、ください。私は……先ほども言ったように、ただ仲間を思いやるようにと」 「君は今、私に対して頭を下げて謝罪したではないか。それはつまり、私の判断に納得したからだ。 自分の行いを間違いだと認め、その上で頭を下げた……そうだろう、今西部長」 「それ、は……」 「なのになぜ、糞尿にも劣る言い訳を続けている。まさか、嘘をついたのか? この私に……自分の上司に。 君はこの期に及んで何一つ反省もせず、元の役職に戻れるものだと……そう思っていたのか」 「……」 「では頭を下げるだけでは足りないな。……膝を突き、床に頭をこすりつけろ」 その余りに冷たい……怒気混じりの声に。 「おい、アンタ……それは」 「私も本心ではやりたくない。だが彼は君達にしたことが、立派な権力乱用だと理解していない。 それはなぜか……受けた人間の憤りに目を向けていないからだ。それを改善する方法は、たった一つだろう」 「常務……なぜ……! それなら」 「まさか君は、”自分が追い詰めた少女達”にも土下座をさせるべきだと……そう考えているのか?」 「……!?」 「あの今西ももうろくしたものだ。おかげでよく分かったよ……今の君に、人を率いる資格はない」 今西部長は死刑宣告を受け、涙ながらに常務の命令に従う。深々と…………この場にいる全員に向かって、土下座。 「申し訳……なかった……」 「なかった? 君は”目上の人間達”へ謝るとき、敬語を使わないのか」 「申し訳、ありません、でした……!」 「何がどう申し訳なかったのかも、きっちり説明するように」 「全て、私の……せいです……。私が、CPを……武内プロデューサーを、個人的感情で、えこひいき……しましたぁ! この場が、会社でビジネスを行うためにあることを無視し……個人的感情を、あなた方に……押しつけ、ましたぁ! 私が、全て間違っておりましたぁ! アイドル部門を混乱に導いた罪は……全て、私にありますぅ!」 今西部長は、深々と……涙をこぼしながら、頭を下げ続けるしかなかった。 「まだ足りないな。君がこの場で、彼らに対して働いた失礼もあるだろう」 「それに付け加えて……自分が復職したと……勘違いし」 「偽り……だ。私や会長の意図を歪め、彼らを騙そうとした」 「常務や会長の意図を歪め……みなさんを、騙そうとしましたぁ! 申し訳……申し訳…………! ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 この場で……公衆の面前で、みんなどころか常務や会長を謀り、復権しようとした愚か者として。 それを常務の恩恵で”あえて”見逃され、首の皮一枚で助かった姿も……これは強烈だー。一生もののトラウマだね。 恥辱と怒りで満ちた手はぎゅっと握られ、スーツも身体に走る震えから、大きく歪(ゆが)んでいる。 それでも耐える……耐える。家族もいる父親だから、必死に……生活のためと耐えていた。 「もちろんこの場だけではない。さっきも言ったように、全ての部署及び所属アイドルのご家庭にも、直接謝ってもらう。 ただ一つでも頭を下げなかったところがあれば、君の謝罪は嘘と判断し、相応の処罰を与えることとする」 「……!」 「どうした、今西部長……頭は上げなくていいから、返事だけはしろ。それくらいはできるはずだぞ」 「分かり……まし、た……!」 「よろしい。だが、言葉だけでは彼らも信じられないだろう。……その頭を決して上げるな。我々が退室するまで……絶対にだ」 なお、そんな……土下座強要なんてパワハラじみたことをやってきた常務に、みんなさすがにどん引きです。 ただ、それだけじゃあない。部長さん、本気で思っていたようだからね。会社が自分のことを認めてくれたんだってさ。 その辺りの怒りもあるから、自業自得……助けて、止める義理立てもないと思う部分もあるようで。 (……魅音、これは) (見せしめ……と同時にアピール戦略だね) 常務には悟られないよう、厳しい表情の圭ちゃんとレナには説明。 (自分は今西部長とは違う。今西部長のような、もうろくした”えこひいき”も許さない……公平な裁定者だってアピールだ。 今西部長が自分を裏切った場合に備え、改めて発言力を貶(おとし)めてもいる……それも公式の場で、徹底的に) (……そう言えばこの部門は、元々今西部長のコネクションが大きな鍵だったんだよね。つまり部長に対して同情的な人達は多い) (蘭子やアーニャ、凛達がそれだったしね。でも、そんな人達が反撃する機会も踏みつぶされたわけだ。 ……部長の肩を持つってことは、常務に……美城の筆頭後継者に逆らうってこと。それでいつ”こういうこと”を強要されてもおかしくない) 本来なら裁判沙汰にもなり得るけどねぇ。ただ、今西部長が”一切の反省をしていない”ってのがみそだ。 それで実際に、アイドル部門は親御さん達の不興を買いまくり、崩壊の三歩手前だったしね。立派な業務的被害を出しているんだよ。 にもかかわらずこれだから、あえて業務とは関係ない形で制裁を加え、反省を促すしかなかった……自分達も苦肉の策だった。 そういう意図が、遊佐さんが止めたときの発言から見えるように調整している。……それもお為ごかしだけどね。 もう一度言うよ? 今西部長は、生けにえにされたんだ。 引き戻されることで、自分達の行動が間違っていなかった……そういう認識を付与された上でさ。 その認識があるから、あんな……自分は間違っていなかったーなんて話ができたんだよ。でも、それこそが罠。 自分の意図とは違う造反者としての証拠をでっち上げられ、首を落とされたんだ。……では、なぜそこまでするのか。 (今西部長という悪を放逐したことで、改めて部門の舵(かじ)取りを掴(つか)もうって腹だろうね。 もちろんこの辺りの策略が見抜かれるのも、全部承知の上……いや、むしろ自分達からこっそり広めるだろうね) (俺も同感だ。そうなれば常務は”怖い継母(ままはは)”を演出できるし、筆頭後継者ってブランドもあって普通には逆らえなくなる) (逆らった時点で、今西部長と同類……なかなかにエグい手を使ってくる。ちょっと甘いとも思うけど) (甘いか?) (会社に残している時点でね) 確かに今も言ったように、八方ふさがりだよ。でもね、社内にいるって時点で完璧じゃあないんだよ。 おじさんだったらばっさり断ち切るよ。影でコソコソ動いて、反対勢力でも作られたら大問題だしさ。 でもそれをせず、閉職と言えど社員として席を確保した。それはつまり…………だから甘いんだよ。 まぁ同時に、ちょっとホッとはしたけどね。人情を全く理解できないってわけでもなさそうだ。 「――――そういうわけだが、納得してもらえただろうが」 「……えぇ。あなたとは仲良くなれそうで安心していますよ」 「それは何よりだ」 「とっつぁん、資料室の整理は頑張れよ」 「これなら俺も、美嘉達の両親に安心して報告できるっすよ。そのままじーっと、お地蔵様みたいにしてるっす」 「うぅ……うぅぅぅぅぅぅぃ……!」 ただ、竹達さん達はそれでも動かない。というか、本牧(ほんもく)ギャングメンバーはむしろ煽(あお)ってきたよ! いや、あれは煽(あお)ったっていうか……忠告だろうね。これで本当に余計なことをしたら、どうなるか分からない……それは二人も分かっているから。 でも今西部長には伝わっていないようだった。ただただ自分と部門メンバーの溝を突きつけられ、今西部長はがく然としながら肩を落とす。 「では話を戻そう。私がこの改革を行う趣旨だったな」 「そうです」 「かつて、芸能界が見せていた強烈なようなスター性。別世界のような物語性の確立――いや、再臨。たとえるなら、日高舞」 ……その名前で、全員の目の色が変わった。 「彼女のような……彼女と同時期に活躍したアイドル達のような、特別なお姫様を現代に蘇(よみがえ)らせる。それが私プロジェクトだ」 「スター性……別世界?」 「テレビ黄金時代……そう言えば臨時プロデューサーであろうと分かるはずだ」 あはははは……ごめん、さっぱり分からない! それでも当然と言う顔をすると、みんながざわざわ……ざわざわ。 「マジかよ……」 「確かにそれは、当たれば大きいでしょうが……」 「でもそれは、部門設立時に駄目だって結論が出た話よ?」 「それをここで蒸し返すなんて……なに考えてんだ」 え、みんなは分かってるの? バッチリなの? だからこの反応なの? ……よし、後で教えてもらおう! 「美城常務、次の確認です。……なぜ今のアイドル部門がバラエティーにベクトルを向けているか、当然御存じですよね」 「無論だ。ゆえにそちらの路線は縮小し、我が部門はアーティスト面に特化していく」 「”ゆえに”と来ましたか。その理由は」 「キュート、パッション、クール……ボーカル、ダンス、ビジュアル。そして”第四の柱”。 そういった個性を大事にするのは大いに結構。しかしそれは既に飽和状態であり、未来などない。……美城がその状況を変えるのだ」 常務は身を前のめりにして、自らに正義があると誇る。 「そのブランドにふさわしい、王者の道≪グランドストーリー≫を再臨させることでな。 無論所属しているアイドル達にも、その試練に立ち向かってもらう」 「無茶苦茶(むちゃくちゃ)っすよ! ブランドイメージの確立は、まぁ納得できなくはないッス! でもリスクが高すぎる! アイドル達どころか、今までのファンすらそぎ落として、未来があるとでも!?」 「問題ない。新しい頂きへと駆け上がれるだけの輝きがあるのならば、既存のファンも認めるしかない。……いや、必ず引きつけられる。 かの日高舞が、一時代を築いたアイドル達がそうであったように……それが成せなければ、美城に未来はないと知れ」 「過去のアイドルを再臨させる……そんな行為のどこに”新しい頂き”があるんですか」 竹達さんは呆(あき)れ気味にお手上げポーズ。 「誤解のないように言っておきますけど、現段階で聞く限りは……その路線も試す価値はあると感じました」 「おい竹達」 「でも石川が言うように、部門全体で実践するのは頂けない。今までのバラエティー路線を保険としつつ、セカンドブランド的に実験していくべきでしょう。 何より……アイドルに物まねをさせるのが納得いかない。うちの幸子はそこまで芸達者じゃありませんよ」 「物まねではない、再臨だ。あの輝かしき時代の輝きを纏(まと)う、神託を授かる巫女(みこ)となる。それが美城を導く神光≪エコーライト≫となろう」 「同じことですよ」 「どこが同じだと言うのだ」 「それが分からないなら、あなたはプロデューサー失格……アイドルを預かる資格そのものがない」 美城常務は目を細める。ここまで言って……輝きの例も示したのに、まだ分からないのかと言いたげに。 「で、その物まね合戦以外に理由はないんですか」 「……何より現状のままでは成果が出るのが遅すぎる。時計の針は待ってくれないし、無駄も多い」 「無駄だと?」 「例えば川島瑞樹くん、十時愛梨くんがMCを勤めているクイズ番組。突如出演者に相談もなく、番組内容が変わることもあるそうだな」 …………あー、そこでわたしらを見ちゃうか。まぁ、そうだね。CPが以前……それで面倒だったそうだし。 その番組に出たCANDY ISLANDのメンバーが、めちゃくちゃ苦労したんだよ。クイズ番組だと思ったら、クイズはクイズでも体力勝負中心でさ。 その上智絵里は知恵熱を出して倒れちゃうし、ぎったんばったん大騒ぎ。一応は上手(うま)く終わったんだけど……そりゃあ問題視するよねー。 自社番組だからって、連絡も行き届かせずに番組内容変更とか……さすがに怖すぎるもの。 「しかも出演者にも相応の負担を強いる課題があるにも関わらず……安全管理にも差し障りが出る、重大な案件だと思うが。 無論武内プロデューサー達による、CPの劣悪な運用実態もある。こちらは園崎臨時プロデューサーのおかげで、随分見直されているようだが」 「……ありがとうございます。では、その無駄を省いた結果は。そこに費やされていた金や時間は」 「私の推奨するプロジェクトに選抜された、より強度に溢(あふ)れる原石へと注(そそ)ぎ込む。当然のことだ」 「この企画の本質は飽くまでも、部門内の動きをより円滑にし、高い成果を発揮させることと考えても」 「問題ない」 「では、万が一失敗した場合、あなたはどう責任を取るおつもりですか」 ずっと気になっていたことなので、今度は私からつつかせてもらう。なお、それについては遊佐さん達も同意見らしく頷(うなず)いてきた。 「失敗などはあり得ない。必ず成功させると約束しよう」 「話を逸(そ)らさないでください。……そぎ落とされたアイドル達の力が必要となったとき、あなたはどうするつもりですか」 「私の選別に選ばれなかった時点で、美城を背負う強度には達していないと言える。 ならば気にする必要はない。どのような星だろうと、雲に隠れてしまえば無……存在しないのと同じことだ」 「……ではもっとはっきり言いましょう。あなたはこの会社に来て即日……能力証明がなければ、我々もあなたの判断を合理的だと信じられません」 「信じられないか」 「えぇ。あなたが今のアイドル部門を……その業績や能力を信じられないように。 ……改めて力を示せ……そういうことでしょう? この白紙化計画は」 お互い様だと暗に告げると、常務はやや楽しげに鼻を鳴らす。 「確かにそうだな。では、近日中に新しいプロジェクトの第一弾を発表する。ただ園崎臨時プロデューサー」 「なんでしょう」 「君達にも早急に……できれば一週間以内に、新しい活動方針を示してもらう。これは白紙化計画の件とはまた別と考えてほしい」 「理由をお聞かせいただいても」 「双葉杏が抜けた件もあるだろう。実はここへ来る前に、CPの様子を少し見させてもらった」 あららら……って、ある意味当然? CPは結局お荷物部署だったわけだし、上層部からも目を付けられている。 新しい統括重役としては、やっぱり現状が気になるでしょ。 部活もやっていたしどうなるかと思ったんだけど、常務の表情は決して暗いものじゃあなかった。 「かなり独特な育成方針を採っているようだが、話に聞いていたような軟弱さは一切感じられなかった。なかなかによかったと言っておこう」 「ありがとうございます。では、双葉さんの現状については説明の必要は」 「彼女達から聞いたので問題ない。……とはいえ、このままでは彼女自身にとってもマイナスにしかならない。 確かに剪定(せんてい)を行うと宣言したが、むやみやたらに枝葉を刈り取りたいわけではない。そこは誤解しないでもらいたい」 「了解しました。そちらはこちらのツテも使い、上手(うま)く調整してみます。 それと新方針については……今ここで、概要だけでも説明できますが」 それならばと、例の秘策を自信満々に披露。すると予想外だったのか、美城常務が目を見開く。 「何……」 「企画書の提出についても、即日で可能です」 「本当か」 「えぇ」 「マジか、魅音!」 「いやさ、おじさんは前々から考えていたんだよねぇ」 圭ちゃん達にはつい、いつも通りに答えちゃう。なんというか、いろいろ照れくさいから? おじさんの力じゃあないし。 「シンデレラには舞踏会が必要だなーって」 「あぁ、言ってたよね。レナもシンデレラプロジェクトならって…………もしかして、魅ぃちゃん!」 「そう…………名付けてシンデレラの舞踏会!」 舞踏会……シンデレラプロジェクトに絡めた企画なのは分かるけど、普通のライブとどう違うのかが理解できず、また場が騒然となる。 「飛車角≪スター≫だけの将棋がお好みだっていうなら、わたし達はこの部署全てで迎え撃つ! ここまで広げ、育ててきた個性≪強み≫を最大限生かし、最高の笑顔を来てくれたみんなに楽しんでもらう!」 「ちょ、園崎さん……待ってくださいっす! それはつまり」 「部署の壁を取っ払った、合同企画ということですか」 「そうだよ! まぁ美城常務のお伺いはこれからだし、あくまでも(予定)だけどね」 「……園崎のお嬢、その企画に噛(か)ませろ」 すると遊佐さんが右親指で自分を指差す。 「コイツらに一泡吹かせてやる」 「俺も舞踏会に参加するっす! 同じ大将なら、園崎さんの方が面白そうっすから!」 「うちの幸子、スターというよりギャグキャラですしねぇ。面白おかしく漫才でもしてもらいましょうか」 「君達……いい加減にするんだ!」 すると今西部長が、黙っていられないと言わんばかりに顔を上げた。 「どうしてそうけんか腰になるんだね! 君達はCPのときと同じ間違いを犯している! 常務はただ、あの煌(きら)びやかな輝きをもう一度芸能界に吹き込めれば……ただ、そう考えておられるだけなんだ!」 「今西部長、私の命令が聞こえなかったのか? 頭を下げ続けろ」 「いいえ、黙れません! あなたをまた傷付けるわけには」 「……君はまた、美城に嘘を付いたのか?」 「ひ……!?」 「なぜだろうか。君の罪はどんどん加速していく……もう、私や会長ではどうにもできないかもしれない。 ……君が美城から切り捨てられたいのであれば、話は別だが」 「……」 部長はまた屈辱と裏切りの感情に苛まれながら、土下座を再開。 「どうした……言葉が足りないぞ。君の罪はまた一つ、積み重なってしまったのだから」 「嘘を付いて……みなさんに、頭を下げ続けるという約束を破って……申し訳、ありませんでした……!」 「今西部長、これがあくまでも”パワハラを受けた人間の痛みを知らしめる制裁”で感謝することだな。 私はこの件で君がどれだけ嘘を付こうと、それを君の退職金や給料に反映させるつもりはないし、その権利もない。 逆に私が反映される側だろう。無論、私はそのマイナス評価を謹んで受ける覚悟だ」 サラッと今西部長とは違う……そんな拒絶と線引きを刻んだ上で、美城常務は念押しする。 「……だが、君がこの場で皆を……美城を謀った事実は決して消えない。それは覚えておくことだ」 「は、い――!」 かばい立ては許さない……そんなものは必要ない。 ただ頭を下げ続け、皆に詫び続ける。それだけが……ただそれだけが、自分に求めている役割。 そういう感情を突きつけられ、部長はまた涙をこぼしていた。床のカーペットが、今西部長のところだけその色をワントーン落とす。 「では話を戻すが……園崎臨時プロデューサー」 「はい」 「本来ならば、私は気が長くないと言うところだが……本当に即日で提出が可能なのか」 「もちろん」 改めて言い切ると、常務は訝しげに目を細める。 「それは元々、どういう主旨で構築していたものなんだ」 「CPの単独ライブイベントとして作っていましたが、そのコンセプトは他部署にも無理なく応用できるものなんです。 ……でもちょうどよかったですよ。常務さんが企画書をキチンと査定してくれるのなら、私も一つ肩の荷が下りますので」 「それもまた、書類を見て判断した方がよさそうだな。……では今日の五時、私の執務室へ来るように。分かっているとは思うが時間厳守だ」 「了解しました」 さて、それじゃあ今日のお仕事は決定だね。まぁ大丈夫……すぐにまとめられるよ。 ……それで確信もしている。常務はわたしらの企画を確実に引き受けると。 「では、会議はこれにて終了する。各員、忙しいところ御苦労だった。 おかげで現状の問題点もよく分かったし、なかなかに有意義だったと言っておこう」 『お疲れ様でした』 (魅ぃちゃん、大丈夫なの!?) すると、レナが無茶(むちゃ)だと肩を掴(つか)んで揺らしてくる。 (というか、勝手に決めるなよ! 俺達に相談くらいしろぉ!) (いや、してるじゃん!) (聞いてないぞ! 舞踏会なんて初耳だぞ!) (今も言ったでしょ!? CP単独のライブイベントだって!) 圭ちゃんたちは、もー。さすがにおじさんも相談なしで、札を出したりはしないってのにー。 ……二人が真剣な顔で見てくるので、その通りと頷(うなず)くと……ようやく思い出してくれる。 ((あ……!)) (そういうこと) さて、この企画を形にすることが……もしかしたらおじさん達にとって、最初で最後のプロデュースになるかもしれないね。 同時に卯月達へ送る、最大の土産だ。上手くいけば、みんなの願いを叶えられるかもしれない。 ……みんなのプロデューサーは、やっぱりあの人だって思うしね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――空気がどんどん張り詰めていく。 まるで氷の中に閉じ込められ、身体を押しつぶされるような感覚だった。 その原因は、手元にある一枚の用紙。まるで神の宣告が如(ごと)く、私の心を戒めていて。 「……困りました」 そのカードに書かれたワードと、数秒……数分……もしかしたら数時間? ずっと、ただ見つめ続けていて。 「こんなの、どうしろって言うんですか……!」 ――自分の最高に素敵なところを十個挙げろ―― 今日の部活は、魅音さんが持ち込んでいた推理ゲーム。でも私は迷探偵振りを発揮し……凛ちゃん共々罰ゲームを受けることに。 その結果が、御覧の有様ですよ! というか、凛ちゃんも同じのを引いて……バニーガール以上の辱めをぉ! 「しまむー、覚悟を決めなよー。しぶりんもほら、辱めを受けたわけだしー」 「未央、しー!」 「みりあ、意外だった……凛ちゃんが自分のスタイル、完璧だと思っていたなんて」 「きらりもぉ。よくきらりやかな子ちゃん、未央ちゃんとかを見て『くっ』って唸(うな)ってたのにぃ」 「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 そう、凛ちゃんは本当に酷(ひど)かった……。元々自画自賛するタイプじゃないから、一つ一つがもう、苦しくて。 その最大級が……『この完璧なスタイル!』という一言。言った直後に凛ちゃんは、吐血しながら床に倒れました。 「でも私、凛ちゃんや美波さんみたいに、歌唱力が高いわけでもありませんし」 「いや……でも、下手なわけでもないよね。私は卯月の歌、好きだけどな」 凛ちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、あとは……つい自分の胸を両手でさわさわ。 「特にきらりちゃんやかな子ちゃん、みくちゃんを見ていると、プレッシャーばかり感じるし……」 「それ、もしかして胸のことかな! きらり達の胸を見てってお話かなぁ!」 「台なしだよ! なんで歌からすぐそこに向かうの!?」 「だって凛ちゃんは」 『ですよねー!』 「それに私に足りないものって、それくらいですし」 軽いジョークを笑顔で言い切ると、なぜか諫(いさ)めてきたきらりちゃんとかな子ちゃん……凛ちゃん達もどん引き。 『……………………………………』 全員凍り付いた表情で、さーっと窓際まで下がっていく。 「ちょ、やめてください! 冗談! 全部冗談ですからぁ!」 「………………島村さんは、裏表のない素敵な人です」 「未央ちゃんー!? なんで棒読みなんですか! なんでうつろな瞳で天井を見上げるんですかぁ!」 『………………島村さんは、裏表のない素敵な人です』 「というかみんなもー!」 「いや、当たり前だと思うぞ……私は」 すると長山専務が、呆れ気味にドアから入ってくる。はげ上がった頭を困り気味になでながら、視線を私に集中させて。 『長山専務! お疲れ様です!』 「お疲れ様です。……島村くん、今すぐ病院に行こうか。君は病気だ……多分、頭の」 「ジョークって言ったじゃないですかぁ!」 「というか、身体の方も酷(ひど)い有様なのに……親御さんも心配しているんだから、ほんとやめてくれ」 「ジョークだって言ってるのにー!」 「でも卯月ちゃん、真面目な話……専務さんや凛ちゃん達の気持ちも分かってあげてね?」 「うん……私も、本当にびっくりして……。杏ちゃんだって」 かな子ちゃんと智絵里ちゃん……みんなも何とか戻ってきた。それには密(ひそ)かに安心する。 「――まず双葉くんだが、やはりしばらくの間はヤジマ商事預かりだ。今西が下がって上手(うま)くいくかと思ったが、これがなかなか」 「ですよね……あ、そうだ! 専務さん、あの」 「その今西が会社に戻っている件だな」 「知ってるんですか!?」 「堂々とうろついていたせいで、噂(うわさ)になっているんだよ。……確認してみたら、我々が下した処分が撤回されていた。 ただアイドル部門から離れた……全く使われていない資料室の部長となっていたが。なお配属された人間は今西だけだ」 「みりあ知ってる! それ、追い出し部屋って言うんだよね!」 「でも、だとしても専務さん達に内緒でって……!」 「会長権限だ。……正直よくない空気だ。現に今日の会議、我々は何も聞かされていなかったからな」 あぁ……だから専務さん達、こっちにいるんですね。内心会議があるのにって思ってたんですけど。 ただ専務さんは忌ま忌ましげな表情を緩め、申し訳なさげに頭を下げる。 「本当に済まん。専務と言いながら、結局大したこともできずに」 「そんな! 専務さんが謝ることじゃ!」 「私達が、悪かったって……今は考えています……。失敗してもそこから学ぼうともせず、信じてくれればって……ずっと、押しつけてきたから……」 「かな子ちゃんと智絵里ちゃんだけじゃない! きらり達……みんなの責任だよ! だから、常務さんは何も悪くないよ」 「……そうか」 さすがに専務さんに謝らせるのも違うので、全員で必死に頷(うなず)く。それで専務さんはようやく引いてくれた。 「では現実問題として……まず三村くんと緒方くんは、以前園崎くん達から提案された通りかね」 「はい。CANDY ISLANDはそのまま残しておいて……私達だけでの活動を増やしていくことに」 「今までは……杏ちゃんに頼りきりだったから……。それを、改善して……もっと強くなって……。 今度は、私達が杏ちゃんの力に……なれたら、いいなって……そう、思ってます……」 「そうか……うん、それはよいことだ。仲間なのだからな、君達は」 「「はい!」」 仲間として、対等に……支え合えるように。そうやって強くなろうとする二人に、専務さんは笑顔でエールを送る。 「それで話を戻すが、島村くんは……」 「まずガンプラバトルは、日常的に……遊びでやる分には問題ないみたいです」 「……その格好とさっきの発言を鑑みると、全く信用できないがなぁ」 「専務さん!?」 『はい……』 「ちょ、みんなまでなんですかぁ! いや、でも……本当ですよ!?」 あんなことになったのも、やっぱり異常な状況でバトルしたせいみたいで……そこも腕が治ったら、ちょっとずつ試さないと。 「自己催眠についても、少しずつ訓練を始めていますし!」 「訓練!? 卯月、待ってよ! そんな危ないの、まだ使うつもりなの!?」 「でも必要なんです」 荒(あら)ぶり始めた凛ちゃんには、口を差し挟む余地はないと断言しておく。 「コントロールできないとバトルに限らず、そういう負担も倍増させかねない。 というか、それで潜在能力が解放されても、そもそも私の身体がついていかない」 「車の馬力が上がったとしても、それを受け止める頑強なフレームや車体がなければ無意味。 しかも君自身がそのオンオフもできないようであれば、いずれいやが応でも負荷は積み重なると」 「はい。今のままだと何かを頑張ろうとしただけで、ノーブレーキでアクセルを踏み続けるようなものだと……断言されちゃいました」 「君自身もまた、力に見合うだけの進化を求められているわけか」 「でも、だからって……!」 「しぶりん、専門家の先生にも相談した結果なんだし……だけどしまむー、ほんと無茶(むちゃ)は駄目だよ……!?」 「しませんよ。強制的に準備期間ですし」 そう言いながら眼帯や固定された右腕を指すと、未央ちゃんが苦笑する。 「それ、準備期間が終わったら突っ走るって聞こえるんだけど」 「世界大会もありますしね。来年は出場するつもりです」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 「……君もぶっ飛んでいるなぁ。いや、君達も……と言うべきか」 「君達? 専務さん、それって」 「オーバーロードはついていないが……アシムレイトの先駆者なら既にいる。佐久間まゆくんだ」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 「彼女も思い込みが強い方で、そのせいかアシムレイトを発現したんだよ。なので君への対応が割と迅速だったのは、ほぼほぼ彼女のおかげだ」 あぁ……まゆさんのことで前歴ができたから、と。でも知らなかった……! いえ、別部署なので、一緒のお仕事とかも余りないんです。仕方ないと言えば仕方ないんですけど。 「あ、それと」 「最新の診断書なら、明日受け取る予定です。もらったらすぐ提出します」 「うむ、よろしく頼むよ。それとこれを――」 そう言いながら専務さんが、懐から手紙を出してきた。その手紙に全員がくぎ付け。 「武内からだ」 『えぇ!?』 「すっかりガンプラ馬鹿になった君宛てに……さすがにオーバーロードは心配して当然だからなぁ」 「プロデューサーさん……」 「卯月ちゃんだけズルいー! 専務さん、みりあ達には!?」 「実はな……奴も成長したものだ!」 かと思うと専務さんはニヤリと笑って、また別の手紙を……その束をもう片方の手で取り出す! 「そう言うだろうと思って、各々に用意しているんだ!」 『えぇ!』 「あと渋谷くんは……残念ながら恋文の類いじゃないので、頑張ってくれ」 「専務まで私を弄(いじ)ってきたぁ!? ちょっと……どういうことぉ!? 違うのに! 誤解なのに! なんか凄(すご)い広まっているんだけど!」 「あなたが暴走しないためですよ。謹んで受け入れてください」 「え!?」 突然響いた声……控え室の玄関を見ると、笑顔の町田専務がいた! いつの間に! 「それですみません。和やかな談笑は今すぐやめていただいて」 「あぁすまん。まだ仕事が」 「この部屋から退去していただけますか?」 『……………………え?』 ――これが、今の日常。変わることすら想像していなかった、私達の道。 でも時計の針は、刻々と進み続けていて……今、一つの始まりを迎えていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 全員……控え室に持ち込んでいた荷物を持って、移動開始。というか、突然やってきた蒼服の清掃員さんに追い出された。 清掃員さんに問い詰めても『ここへ移動してください』の一点張りで、私達は……本社ビル地下一階にある、日の当たりにくい通路に向かう。 「どういうことだ…………」 慌ててやってきたレナさんと圭一さんを伴い、その最奥にある部屋へ入る。 するとそこは、埃(ほこり)っぽい……小さな窓から日の光がやや差し込むだけの、物置部屋。 今までの控え室とは全然違う、日陰者の居場所と言わんばかりの空気に……長山専務が打ち震えた。 「どういうことだぁ!」 その叫びで、一応払ったはずの埃(ほこり)がまた舞い散りそうになる。あぁ……これが空気振動ってやつですね。 「これはなんだ! 一体なんなんだぁ!」 「長山専務、みく達より驚いてる……というか怒ってる……!」 「お、落ち着いて……ください。あの、お茶……どうぞ……」 「そうですよ! 血圧高くて、健康ドッグに引っかかったって聞きましたよ!? ……あ、ちょうどわらび餅があるので、これも!」 「あ、ありがとう……!」 長山専務は智絵里ちゃんとかな子ちゃんにお茶とわらび餅を受け取り……まずはお茶をぐいっと一口。 それからわらび餅を爪楊枝(つまようじ)で摘まんで食べると、怒り心頭だった顔が一気に緩んだ。 「……これは、死んだ母ちゃんの味や」 『母ちゃん!?』 「母ちゃん、美味(うま)いで……母ちゃんの作る菓子は、日本一やぁ」 「よ、よかったです。でも関西弁……」 「専務さん、確か大阪(おおさか)出身だったわね」 「そうにゃー。みくと瑞樹さん達と一緒に、『大阪(おおさか)の味を普及する会』に入ってるにゃ」 『いつの間に!』 いや、確かに……CPが村八分ってのをすっ飛ばす勢いで、大阪(おおさか)のグルメとかソースについて熱く語っていたの、聞いたことがありますけど! でも、ほんといつの間に!? みくちゃん、胸を張っている場合じゃありません! それがとても大きいのはもう分かっていますから! 「ちなみに……長山専務の実家は、元々和菓子屋さんだったそうですよ」 『あぁ……』 「そう言えばお写真をお見かけしたとき、雰囲気が三村さんに似ていたような……」 「だから専務さん、私に向き直ってるんですか……!?」 「母ちゃん……母ちゃん……!」 「あ、はい……はい……いっぱい、食べていいのよ?」 「おおきになぁ――!」 『乗っかった!?』 町田専務の補足に納得しつつ、涙を浮かべながらパクパクと……わらび餅を楽しむ専務さんに、みんなでほっこりする。 ……お願いします、そう思わせてください。かな子ちゃんが母性オーラ全開なのとか……ツッコみたくない……! 「まぁ長山専務は三村さんにお任せするとして……」 「い、いいのかなぁ……」 「常務の行動よりは常識的なつもりですよ? ……この民族大移動はCPだけじゃありません。 他の部署も似たような感じで追い出しを受けていますから」 『えぇ!?』 「すみません。私も業者にお引き取り願おうと思ったのですが……会長命令で」 なお、町田専務も穏やかな表情に見えて、こめかみがぴきぴきしています。 自分達の知らないところでこんな……民族大移動レベルのお引っ越しを調整されて、腹が立っているみたいで。 ただそんないら立ちをグッと飲み込み、町田専務はレナさん達を見やる。 「それで竜宮さん、前原さん、これは……美城常務の仕業なんでしょう?」 「はい……会議の終わり際に、突然」 ――……それと、一つ伝え忘れていたことがある。君達の控え室だが、即刻返してもらった―― ――は……!?―― ――それを維持するのも、当然ながら”予算の一部”なのでな。無論代理の部屋を割り当てている。各自今後はそこで活動してもらおう―― 「ほんとやってくれるぜ、あのハイミス!」 「……活動拠点を奪い……というか、劣悪なものにして、自分に抵抗する勢力に警告しているんですね。 ”従わなければここからはい上がれないぞ”………………と」 右拳を胸元で叩(たた)く圭一さんは、私の言葉に頷(うなず)いてくれる。……常務さんは、とんでもないプロジェクトをここで始めるようです。 それも過去のアイドル達を模倣したものと取られかねない、かなり際どい企画を。 参加アイドル達は常務の手で選別され、それ以外はそぎ落とす……美城から出ていっても問題ないという扱い。 正しく神の剪定(せんてい)。ただ、私達はそんなものを認めることは……どうしてもできなくて。 「これはキツいにゃ……! しかも常務さんは美城の筆頭後継者だし、逆らったらどうなるのかーってリスクも無視できないにゃ!」 「きらりも、ずっとここは嫌かもぉ!」 「……実際、魅音さんが言いだした”舞踏会”に賛同したの、竹達さん達いつものメンバーだけなんだよね」 「うん……まぁ魅ぃちゃんがキチンと企画書を出す前の段階だし、様子見ってのが大きいとは思うけどね。 ……もちろん部長さんを死刑台に引きずり出して、ギロチンを落とした効果もある」 「ギロチン?」 「ギロチンだよ」 今西部長の扱いを、レナさんは嫌悪感も交えながら……そう断言する。 「あの徹底糾弾により、美城内部での”死”を演出したんだから」 「それは心が折れちゃうよ! 実際莉嘉も……みくちゃん達と同じく、キツい」 「しかも……まぁ私事であれですけど、家のローンがまだ残っていまして。退職金が出ないのはちょっと困るんですよ」 『町田専務!?』 「いや、専務さんの言うことは正しいぞ。……そもそも日本(にほん)で不況が叫ばれて、結構長いだろ。 だから家庭状況や年齢によっては、いやが応でも会社にしがみつく選択しかない」 「そっちからも恐怖心を煽(あお)っているってこと!? それ、マジでギロチンじゃん!」 「というか、ブラック企業のやり口だよ。しかもそれを”あえて”……だからなぁ」 一番腹立たしいのが、きちんと筋道を立てていること……! この大移動だってそうです! 一旦企画をストップさせて、予算の流れを整理しようーって名目ですから! つまりは全員が等しく同じラインに立って再スタート! そのための”初期出発地点”とか言われたら、あとは実力の問題……完全に今までと大違いの方針ですよ! 「ここが、我らの新天地……しかしそれは、地獄への片道切符」 「蘭子ちゃん、しっかりしてー! ねぇ、魅音さんはどこ!? みりあ達、どうなっちゃうの!?」 「莉嘉達のお仕事は!?」 「はいはい落ち着け」 「私も聞きたいですね……どうなるんでしょう、毎日チキンラーメン生活でしょうか」 「専務さんまでぇ!? いや、ほんと落ち着いてくださいよ! ジョークになってませんから!」 圭一さんは私達を右手で制した上で、大きくため息。 「まず魅音は、新企画の企画書作成……というか、最終確認に入っている。今日中には仕上がる予定だ」 「元々作っていたし、何より魅ぃちゃんだしね。そこは心配ないよ。……それでね、みんなが現在引き受けているお仕事は継続していいって。 ただ……まだ企画段階だったお仕事は、改めての調整が必要になる。それも美城ブランドの支援力抜きで」 「会社の力を借りられないってこと……!?」 「常務の方針がさっきも言ったような形だから。無論そこは、みんなのソロ曲も入っている」 『えぇ!?』 「魅ぃちゃんは明日から大忙しだよ。新企画のためにも、みんなのソロ曲は絶対必要だけど……まとめ直しだもの」 「本当に、やってくれるし!」 そうだった……私と美波さんはともかく、みんなのソロ曲もその”企画段階”! ここで、一旦白紙ってことですか!? これ、もしかして私達以外にも、誰かしら被害を受けているんじゃ……! でも、本人たちに何の相談や説明もなしなんて! 「あの、わたし……分かりません」 すると、アーニャちゃんが困り気味に挙手する。 「スター……輝く星のようになってほしい。常務、きっといいことを言ったはずです。なのにどうしてみんな、否定しますか?」 「そうだよ。アイドルとして、もっと進化しろってことでしょ? 昔活躍していた人みたいに……そんな凄(すご)い人みたいになれって。 だったら、そこまで反発するのはおかしいよね。やってやるって気合いを入れて、私達の力を見せてやれば何の問題も」 「それはあなたが強く、才能に溢(あふ)れているからですよ」 それは、静かで……とても強い嫌みだった。 「ここで言う才能は、美城常務が提唱した方針に近いという意味です。言うなら強者(きょうしゃ)の理論」 「……そこまで言われるのはさすがに不愉快なんだけど。私、何一つ間違ったことは言ってないつもりだよ」 「言ってますよ。それで堂々と、恥を感じず……自分が無知だと宣言している。過去の我々と同じように」 「……ちょっと待って。過去の……専務さん達と?」 「えぇ。まず一つ……これは反発ではありません。既に出た決定事項なんです」 町田専務は大きくため息を吐きながら、悲しげにそう告げる。 「それも二年前、アイドル部門が創設されるときに……常務のような方針は採らないと、そう決めているんです。今西部長もそれは知っています」 「はぁ!? いや、待ってよ! 今の話だよね! 常務もそのときはいなかったのに!」 「本題へ入る前に、まずは確認を。日高舞というアイドルについて、みなさんは知っていますか?」 日高舞………………いえ、聞いたことはあります。876プロの日高愛ちゃんに絡んで、近年存在が出てきた人ですから。 「莉嘉は概要だけ……になるのかな。日高愛ちゃんのお母さんで、すっごい活躍していたアイドルさん!」 「活動時期は十三才……ちょうど今の莉嘉ちゃんくらいから、十六才になるまで。でも確か、できちゃった結婚で引退したはずにゃ」 『できちゃった結婚!?』 「……その通りです。なお、その所属事務所は346プロ」 ………………そこで、ざわめきが一瞬で消え去る。 「ただ当時の346プロには、アイドル部門は存在していません。あくまでも歌手……アーティストとして売り出していましたが」 「何が……あったの。だったら余計に分かんないよ」 「しぶりんの言う通りだよ! 他の人はともかく、日高舞さんについては本家本元ってことだよね!? それなら常務が、もう一度そんなアイドルを目指そうって言ってもおかしくは」 「……アイドル業界を崩壊に導きかねないからです」 『はぁ!?』 「一つ……彼女のアイドル性は、余りに突出しすぎていました。それゆえに当時の芸能界は彼女”だけ”を追い求め、他のアイドル達が全員霞んだ。 そんな彼女に対抗するためには、彼女に負けない存在感を……力強さを目指すのが一番とされたんです。……ようは日高舞のコピーになる」 それって………………竹達さん達が問題視していた部分! レナさん達を見ると、驚きながらも”確かに”と頷いていた。 「ですがそれは、個人の資質を無視した機械的作業。当然付いていけないアイドル達も多く出ましたし、それで希少な才能を幾つも踏みつぶした。 もちろんそんな愚かな真似をせず、アイドル個人の才能を伸ばす方針も見られましたが……やはり、彼女の前では霞んでしまって。 それは時代が変わっても変わりません。彼女を超えるアイドルは、恐らく業界に存在しない」 「でも専務さん、そんな……誰も彼も駄目ーってことはないんじゃ。ほら、楓さんや美嘉ちゃんなら」 「そうだよ……二人は美城のトップアイドルって言われているんでしょ? だったら、いい勝負になるんじゃ」 「たとえ高垣さんや城ヶ崎さん達でも、同じステージに立てば……全員ただの背景と成り下がります」 「「な……!」」 きらりちゃんと凛ちゃんの言葉を……飽くまでも仮定だけど、全くの勘違いと一刀両断。それで二人が、私達が揃って息を飲むハメになる。 「……日高舞のアイドル性は、正しく神がかっていたからなぁ」 長山専務は哀愁から抜け出したのか、空の容器を持って丁寧に『ご馳走様』――智絵里ちゃん達もお礼を言った上で、苦い表情をする。 「ボーカルで言えば高垣くんや渋谷くんが上だし、ダンスなら城ヶ崎くんや双葉くん、ビジュアルなら新田くんや本田くんだろう」 「ちょ、待ってよ! それって……!」 「アイドルとしての技能が下なのに、それでもみく達が負けちゃうにゃ!?」 「彼女はその三本柱とはまた違う……魔法でも使っているような≪存在感≫を持っていた。 今だから言えるが、あれは一種の化け物。人間が太刀打ちできるレベルではない」 「化け物……」 「……そういえば圭一くん、前に言っていたわね。スガ・トウリさんとの準決勝が終わった後」 美波さんもにわかには信じられないという様子で、ある言葉を思い出す。 ――人ならざる者の前に立つことが許されるのは、同じ人ならざる者だけだ。じゃないと無礼なんだとよ―― 「スガ・トウリさんは紛れもなく”化け物”だった。人の領域を超えている。でもそれは恭文くんも同じ。 ……あの子は人間じゃあない。身体はともかく、その精神性には人ならざる者を棲まわせていた」 「言ったな」 「私は今の話を聞いて、日高舞も同じだと感じたの。……技術云々を飛び越えた、強烈な精神性が生み出す力。 そんなものに小手先の努力や力なんて通用しない…………そういうことですよね、専務さん」 「……そうだな。対峙するならば、どういう形であれ人を捨てるほどに鍛えるしかない。 だがそれを業界全体でやった結果は、今説明した通りだ」 たった一人の……数人の選び抜かれたアイドル達だけが活躍する世界など、既に崩壊している。 そうまとめて長山専務は、困り気味に頭をかいた。 「なぜ、人間の世界がこれほどに大きく広がり、今の文明が形作られたか。それは強さや弱さ、正悪も含めた多様性があればこそ――。 学生時代、歴史の教諭にそう教わったことがある」 「多様性?」 「日高舞を強者とするなら、ショック発生当時は強者のみが生き残れる世界……ただここは、単なる弱肉強食ではない。 強い者が全てを得て、弱い者は”ただ消える”。強者の糧となることもなく、土地を肥やす栄養素として分解されることもなく――。 しかもその強い者も絶対ではない。大多数の弱者が消えて、少数の強者から改めて”弱者”が選別され、消される」 「そ、それは……」 「我々は日高舞のプロデュースに失敗した。彼女をそんな世界への起爆剤として、飛び込ませてしまったんだ……!」 長山専務は自嘲……。専務さんの説明が余りに強烈過ぎて、不満そうだった凛ちゃんも言葉を失っていた。 ――それは、美城の闇。輝くお城を築き上げる中で重ね、こびりついた怨嗟(えんさ)の汚れ。 それは一つの形を取り、厄災の箱として私達の前に現れていた。でも、見なかった振りはできない。 箱は既に、その手に握られているから。 (――NEXT Stage『Confusion Chest』) あとがき 恭文「というわけで、A's・Remixでも触れた日高舞ショックもサクッと説明しつつ、次回へ続きます。お相手は蒼凪恭文と……出番が少ない蒼凪恭文と!」 あむ「これは別にいいじゃん! ……日奈森あむです。でも、美城常務がエグい……!」 恭文「ある意味優しさだけどねぇ。ここまでぶった切ってなお、閉職でも退職金がもらえる立場に置いてあげるんだから」 あむ「立ち直れないじゃん、あれ!」 (そして何かのフラグが成立――) 恭文「だから僕も常々言っているでしょうが。ちゃんと二手三手打っておくべきだって。メインとは別に技能を育てておくべきだって」 あむ「あ、うん……それも分かる。現にさ、二階堂先生もイースターを辞めさせられた後、元々持っていた教職員免許で聖夜学園に再就職したし」 恭文「僕だってドンパチ以外で食べられるよう調整しているし。そう、プロゲーマーとして」 あむ「どこが!? いや、ガンプラバトル!? ガンプラバトルって意味かな! それならまだ分かるけど!」 恭文「MTGの世界大会は大変だった……」 あむ「出てないじゃん、そんなの!」 (大うそもいいところ) 恭文「ヒカリだってグルメアフィブログで凄い額を稼いでいるし」 あむ「アイツは何しているの……!?」 恭文「しかも今後に備えて、僕に更新を引き継げとか言ってくるし……!」 あむ「どういうこと!?」 (『私はいずれゆりかごへ戻る。そのとき、お前の隣でお腹いっぱい食べるのは貴音の役割となるだろう。 ……だが、そのためにブログ読者を寂しがらせるのは忍びない。だから、頼むぞ恭文……みんなに、笑顔を』) 恭文「うるさいよ! 前半が全く納得できないんだけど! というかどんだけエンゲル係数を圧迫すれば気が済むの!?」 ギンガ「それなら私がやるよ!」 恭文「早見沙織さんボイスになったからって、そうは問屋が卸さないよ?」 あむ・ギンガ「「どういうこと!?」」 (そして今月も、エンゲル係数の計算で頭を痛める時間がくる……。 本日のED:ハクア starring 早見沙織『dis-』) 恭文「なお、なぜギンガさんが早見沙織さんボイスか……アニメ版Vivid第一話を見れば分かると思います」 フェイト「まぁギンガの出番、それくらいなんだけどね……。でもヤスフミ、もうすぐ六月だよ。 それに……ジム・スナイパーカスタムもプレバン入りしていて!」 恭文「……うん」 フェイト「あれ、どうしたの? 楽しみにしてたんじゃ……プレバンが嫌だったとか」 恭文「いや、それはいいんだよ。大人だし、コンテンツへの応援と思えばさ。ただ……ジムスナイパーカスタムって、バリエーションがあってね。 なんか今後、また武器とか多めのやつが出るんじゃないかって思うと……手が……!」 古鉄≪武装類、MGに比べて大分シェイプアップされていますしね。出来はかなりよさそうなんですけど≫ フェイト「え、えっと……そのときも一個、買えばいいと思うな」(ガッツポーズ) 恭文「あ、そうそう……次はVivid本編を更新予定です。これで時系列的にも次に進めるので」 古鉄≪Vivid本編が表とするなら、美城動乱編は裏――微妙にリンクした話も追加予定なので、お楽しみに≫ (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |