小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) act.16 『母子』 「――あの子は専門の医療施設で隔離してほしい」 「隔離!? ちょ、ティア……待って! 話がよく」 「……やっぱり、ティアナも気になってたですか。確かにヴィヴィオは奴らから見捨てられた……ように見える」 「でも別の見方もある」 リイン曹長も気になっていたとは……そうよね。やっぱり、この人は別格だわ。 「別の? どういうことだ、二人とも」 「あの子はオーバーSクラスの砲撃を食らっても、無傷でいられるです」 「シャマルさんとヴァイス陸曹、ヘリはお陀仏(だぶつ)だけど、あの子だけは無事でいられたのよ」 「そ、そんなわけないよ! あんなに小さな子どもだよ!? それに、あのときは眠っていたのに! きっと、スカリエッティに見捨てられたんだよ! だからあんなヒドいことを!」 「その程度の価値なら、砲撃せずに逃げればいいでしょ。ルーテシアも捕まっていたんだし」 混乱するスバルには、ハッキリ言っておく。 「だから反対よ。あの子に今なお『価値』があるなら、奴らが強襲する可能性だってある」 「真正面からじゃなくても、ドンブラ粉に攫(さら)わせる方法もあるのです。しかも……隊長達も同じ手で無力化できるですよ」 「だ、大丈夫です! だってなのはさん達は、ヴェートルの英雄なんですから! 私だってもっと鍛えて、強くなって」 「スバル、まだ自覚がないですか。……現状ギンガ共々、ただの足手まといなのです」 そのハッキリとした物言いに、スバルが絶句する。……あの子は危険かもしれない。 スカリエッティ達にとってどういう存在なのか。そこが不明確なのよ。 もちろん傷つけるとは分かっている。 でも私も、覚悟もなく話していない。 隊舎全体の危機になり得るから、提案だけはしておかないと。 「シグナム副隊長、その後の調査でも詳細は不明なんですよね。 事故現場でどうやってガジェットが破壊され、あの子があそこまで移動したか」 「残念ながらな」 「それでティアナとリインちゃんが言うようなスキルは……あるわ。スバルも落ち着いて聞いて」 シャマル先生は、半泣きになったスバルをフォロー。 その上でモニターを展開し、ある女性をモニターに映し出す。 オッドアイに、金髪の髪……これ、昔話で見たことがある。 「聖王オリヴィエですよね。古代ベルカ戦争時代を統一した」 「そう……その逸話の一つにね、聖王の鎧というものがあるの」 「聖王の鎧?」 「聖王に害意がもたらされたとき、己のうちから現れ出ずる神の盾。 あらゆる拳を、あらゆる射砲撃を寄せ付けぬ、天下人であることを定められた者のみが持つ、絶対障壁。 ……これは極秘情報だけど、聖王はレアスキルを持っていたそうよ。それも自動発動する防御系のスキル」 「それって生態調査でも分かりにくいんでしょうか」 「実はかなり。聖王教会でも調べてもらっているけど、術者が認識しているならともかく」 今回は違うからなぁ。シャマル先生はモニターを閉じ、困惑し続けるスバルを見やった。 「なのは、実は我々も同意見だ」 「……それは、部隊長も含めてでしょうか」 「最悪でも、あの子の出自はハッキリさせる。そうでなければとは仰(おっしゃ)っていた」 そして同じように戸惑うなのはさんへ、申し訳なさげに副隊長達が声を漏らす。 「と言っても、今隊舎から離すのは無理だが」 「聖王医療院での騒ぎもあるし、他に信頼できるところとなると……ねぇんだよ。 本局も考えたが、ゼスト・グランガイツの移送襲撃を考えると」 「でも防衛という観点から言えば、隊舎では役者不足もいいところ。それは部隊長達も認識しているの。上に相談はしているんだけど」 「その決着がつくまでは、爆弾を抱えているのと同じってことか。面倒な」 「ですです。そうなると」 「やめて!」 そしてスバルは情緒不安定なまま、私へと詰め寄ってくる。……なのでアイアンクローで止めておく。 「ティア、どうして……なのはさん達のこと、信じないのもそうだけど……最近おかしいよ! ヴィヴィオ、あんなに小さくて、なのはさんのことも大好きで……それなのに引き離すって!」 「当たり前じゃない。ヴィヴィオの重要度が変わらずなら、隊舎が襲われる危険もあるのよ?」 「私達みんなで守ればいい! 大丈夫だよ! なのはさんにフェイトさん……隊長達だっている! ねぇ、ちゃんと信じようよ! そうしたら大丈夫……私と同じように、なのはさん達のことも!」 「あ、じゃあ駄目だ。アンタのことなんて一かけらも信じてないし」 この馬鹿は、ホントに……! あんまりに状況を理解してなくて、つい舌打ち。 「どう、して……だって、私達」 「この状況で、背中を預けられるかって言われたら……さっき言った通り、無理よ」 「スバルに何を言われても、一切参考にできないのです」 そう……スバルは仕事を通せなかった。最初から最後まで、ずっと。 その事実に打ちのめされ、瞳に涙を浮かべながら……スバルは肩を落とし、黙り込んでしまう。 「なのはさん、スバルだけは即刻チームから外すですよ。リインもティアと同意見なのです。 ……状況判断能力も低すぎる上、被害者遺族の一人。その上実働部隊としてアテにできないんじゃ」 「……確かにね。現状、スバルは戦力外に等しい。五倍以上のパワーアップも無理だ」 「そ、そんな……あの、嫌です! 私、頑張りますから! 復讐(ふくしゅう)なんてしないし、どんな訓練でもやり抜きます! だから」 「そこで『復讐(ふくしゅう)なんてしない』って言ってる時点で、なのはとしても現場に出したくないよ」 ですよねー。基礎を重視しているなのはさんは、そんな漫画みたいな真似(まね)。 「……とでも言うと思ったのかな!」 『はい!?』 かと思ったら、三回転半捻(ひね)りで指差しされた。 「え、何ですかその返し。あぁ、暑さで頭がやられて」 「違うよ!?」 「馬鹿野郎。コイツの頭は元々やられてるよ、間違えてんじゃねぇ」 「ヴィータちゃんもヒドいー! ……まぁスバルとスカリエッティ一味の関係性、その危惧についてはその通り。 でもね、今のスバルやギンガが、奴らに太刀打ちできないってのも早計だよ」 そう言いつつなのはさんが、自信満々に胸を張る。 「というか、それを言ったらなのは達だって危ないでしょ? AMFっていう決定的な切り札もあるわけだし」 「まぁ、そうだな。対策は全員にされていて当然……あぁ、そういうことか」 「そこを改善するのが今後の目標だから、一番の理由にするのはおかしいのかしら」 「そうですそうです。でもがっかりだなー。なのはをあれだけ叩(たた)きのめしたティアから、そんな言葉が出てくるなんてー」 「ムカつくので写メ、撮っていいですか?」 「絶対やめて! ろくなことに使われない気がする! ……強さは変動するものだよ。 確かにスバルの地力では、ガリューや召喚師……クイントさんと戦った戦闘機人には絶対勝てない。 そして局員歴十数年だったクイントさんに、今すぐ追いつくことも無理。でも」 なのはさんは空間モニターを展開。 そこにはSDキャラのガリュー、そしてスバルから始まるグラフが、うねうねと変動し続ける。 そしてその二つの曲線は、追いつけないような差を描いていて……かと思うと、変動が生み出す流れの中、一瞬だけスバルのグラフが上を取った。 すぐにまた同じだけの差を広げられるけど、その変化に誰もが目を見張る。 「それはスバルがみんなの手の内を、その前提をすっ飛ばしているから……とも言える。 相手の戦い方を知ることで、差を埋めることは可能だよ」 「それは、確かに」 「犯人一味の対策を整えるということは、こちらの補正を強くするのと同意義なのですか」 私が前にやったのと同じか。それなら分かるんだけど……つい不安で、スバルを見やる。 「でもなのはちゃん、大丈夫なの?」 「シャマルの言いたいことも分かるな。スバル本人の資質はともかく、五倍だぞ。幾ら補正をかけると言っても」 「だから基本はチーム戦です。それは相手も同じ……三佐の情報では、ISは基本一人に一つずつ」 そうしてモニターが改めて展開。 幻影や砲撃、ドンブラ粉と言ったISが次々映し出される。 「ガジェットとAMFを有効活用するのであれば、相手はISと基本的な身体能力だけで戦う。 確かに一芸には秀でていますけど、その分状況対応能力が低い。だからこそ向こうもチームで挑んでいる」 「最初から単独での戦闘を考えるのは、ナンセンスってわけだ」 「あくまでも予備策だね。……だから体にたたき込むんだよ、嫌になるくらい」 そして笑顔の宣言……どん引きで、副隊長達と椅子ごと後ずさってしまう。 「え、待って……あの、引かないで? だってほら、それ以外に手が」 「お前、だから魔王って言われるんだよ」 「ヴィータちゃんがヒドい!」 「でも、強さは変動する」 「AMFで魔法が使える、使えないって辺りでもそうでしょ? それを補うのがティアの銃器であり、いろんな補助スキルや連携だよ。 正直いたちごっこだけど、それもチャンスさえ逃さなければ終わりがくる。それを目指すの」 対策して、されて、また対策して……かぁ。 でも終わりは、確かに存在している。スカリエッティ一味を逮捕すればいいんだから。 「そしてなのはさんは魔王」 「「正解だ」」 「不正解だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 逆を言えば、頭が弱いスバルでもって話よね。取れたデータはその分普遍的でもある。 だからスバルを見やると……あの、ガッツポーズはいらない。まずは三佐と相談してから……それだけは守りなさいよ!? 『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016 act.16 『母子』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 八月二日――誕生会の翌日。 非番なシルビィとジュンに案内されて、僕とシャンテはシープクレストの中を歩く。 でも雰囲気のいい街だなぁ。中世……いや、近代的なファンタジー世界と言うべきか。 でもあの、昨日、シルビィが……うぅ、まぁいいか。 とにかく夏らしい、紫のノーネクタイスーツをさっと着こなし、そんな街を歩いていた。 「だが恭文、お前も無茶(むちゃ)するよなぁ」 「ジュン?」 「六課から離れて、敵対して、スカリエッティを捕まえて……だろ? それで六課の疑いも晴らして」 「え、疑いって何」 よく分からないので首を傾(かし)げると、ジュンとシルビィがこちらに振り向く。 「いや、提督とか、フェイト執務官の」 「あぁ……そんなの、どうだっていいわ」 ≪そうですよ、どうだっていいんですよ≫ 断言すると、なぜかジュンがずっこけた。 なおシルビィは苦笑……うん、お話したしね。昨日……その、いっぱい。 「マジか!」 「ジュン、本当……みたいよ? ヤスフミ、喧嘩(けんか)を売られたから潰すだけなんですって」 「そうだよ。そもそもなんで奴らの自業自得を助けてやるの? 助けてほしいなら三億プラスアルファを払え」 「そして相変わらず金か!」 ≪でも一億は減ってますよ? 振り込まれましたからね……殺し屋達の命が≫ 「そうそう!」 ふふふふ……リンディさんを徹底否定して正解だった! あの馬鹿、僕に賞金が払われないようにって調整していたしね! それもまたパワハラなので、通報して大問題……今頃、また叱られているだろうけど、まぁ頑張りたまへ。 「……てーか、マジでどんだけ使ってるんだよ。借金はないし」 「僕はいつでもニコニコ現金払いだよ?」 したがってクレジットカードもない。 ……ジュンが起き上がるので、また僕達は歩き出す。 「やっぱあれか、異術見聞録用に」 「まぁねー」 そう……僕の貯金には、いろいろと理由がある。 そのうちの一つは、ジュンも知っている異術見聞録。 本当に希少なデータなので、それなりに金が動く。 そのためにも準備は必要ってわけだよ。とてもじゃないけど、局員の賃金じゃあ足りない。 ……僕も過去二回は、本当に運良くだしね。あんな幸運はもうないだろうし、その分頑張るのよ。 「まぁものが見つからないんだけどね。……アグスタの……オークションで……六課なんて……潰れてしまえ」 「落ち着けよ! え、何……六課のせいで購入チャンスを潰されたのか!」 「奴らを助ける義理立てなんて、その時点で存在しないんだよ……!」 「本気で恨んでやがるし! ……シルビィ」 「昨日もこの調子だったわ。リンディ提督のことも、徹底的に潰す覚悟みたい」 「あぁ、だろうな。そうするよな、この調子なら」 そうしてたどり着いたのは、結構な立地の建物。 二階建ての白い……あれ、ちょっと待って。僕はこの形状をどっかで見たような。 「さざなみ寮?」 「そうね……噂(うわさ)に聞くあれと同じかも」 表玄関の前で、シルビィは苦笑。 「ここ『第四捜査室・ブルーフェザー』の隊員は、全員ここで寝泊まりしてるから」 「だから仕事場っていうより、マジで寮に近いんだよ。 ここの連中、面白い奴らが揃(そろ)ってるからな。お前もすぐに気に入ると思うぞ」 「そっかぁ。……楽しみだなー」 「シスター・シャンテも楽しみだよー! ワクワクだねー」 第四捜査室はこの世界で起こる、超常的な犯罪を専門に取り扱う対策部隊。 魔法やら、この世界に存在している『魔物』が絡んだもの。あとは霊的なものもアリらしい。 ただ問題が一つ。……この世界では、独自の魔法文化そのものが廃れている状態。 ここのお仕事も基本は暇とか……ある一点を除いては。 それは局も推し進めている、パーペチュアル式魔法の保全作業。 第四捜査室はその特性上、この世界の魔法能力者ばかりが入ることになる。 つまりは現存する……しかも数少ない、独自術式の専門家が集まっているわけよ。 そういう側面から各都市の第四捜査室、及び民間の魔法関係者は、データ提供に協力しているとか。 それでも独自魔法の衰退自体は、止められないようだけど。管理局との交流があっても変わらずだ。 そもそも僕達の魔法も、霊的な存在や魔物にも通用するしね。 むしろ現地住民の方が、次元世界の魔法を導入したがっているとか。 AMFやらアイアンサイズやらで、魔法文明そのものに疑いの声も多くなる中、複雑なことだよ。 「シルビィ、ジュン、改めて本当にありがとう。もう僕……わくわくだよー♪」 「うん、知ってたよ。……だからその、サングラス……かけておこうな?」 「ジュン、もうかけてる」 「そうだったー!」 なぜか眩(まぶ)しがっているシルビィ達は、表門をくぐる。そうして内玄関の前でインターホンを押した。 『はい』 あ、これはパーペチュアルの現地語だね。しかし何だ、今の笠原弘子さんボイスは……なんと可憐(かれん)な! 「おはようございます。GPOのシルビア・ニムロッドと」 「ジュン・カミシロ捜査官です。先日お話した、デンジャラスボーイを連れてきましたー」 『はい。少々お待ちください』 少し待つと、内玄関のドアが開く。 そうして暗めの赤毛を揺らす、ショートカットの女性が出てきた。 その服は黒色の上着と膝までのスカート。 胸元は薄紫色のシャツで……胸元が、開いてる。フェイトレベルで大きい。そして丸眼鏡だよ。 続けて身長百八十以上で、ゆったりとした服の男性も登場。 服の中央には黒と白のエンブレムが入り、髪は腰まである茶髪。 目は切れ長な翡翠(ひすい)色。かなりの美形で……あぁ、だからシルビィが嬉(うれ)しそうな顔をするのね。 失礼にならないよう、サングラスを外そうとすると……なぜかシャンテに止められた。え、どういうこと!? 「ゼファーさん、メルフィ、今日はありがとうございます」 「何、大丈夫だ。今日も非番だからな」 「あ、これ長官と補佐官、それにこっちの……恭文からおみやげだ。みんなで食べてくれ」 シルビィが両手の白い包みを女性に渡すと、その人は笑顔で受け取る。 「コレは御丁寧に……ありがとうございます。それであの」 二人が僕に視線を向けるので、まずはお辞儀。 それからサングラスを取ろうとすると、今度はジュンとシルビィが止めてくる。 「……あの、どうして……ほら、失礼だから」 「いいんだ、お前は……そのままでいいんだ」 「ヤスフミ、お二人が失明でもしたら大変よ? それでようやく普通なんだから」 「どういうこと!?」 ≪あなたの目が輝きすぎだってことでしょ≫ まぁ確かに僕の瞳は、淀(よど)みが欠片(かけら)もない……ダイヤモンドのように美しいと評判だけどさぁ! でもおかしいでしょ! なのでサングラスを強引に外すと、二人が揃(そろ)って顔を背けた。 「ま、眩し……え、この子は」 「なるほど、メルビナ長官から聞いていた通りだな。既にテンションは最高潮というわけか」 「お(ぴー)チ(ぴー)カルパッチョ」 「「……え?」」 「こら恭文! お前何とんでもないこと口走ってんだよ!」 「……しまった! また間違えたー!」 「「またぁ!?」」 「……こっちへの電車に乗るとき、駅員さんへの挨拶で……失敗して」 お、落ち着け……とにかく謝らないと! 「ご(ぴー)ズリ!」 「「アウトォォォォォォォォ!」」 「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「あの、ホントごめんなさい! この子まだこっちの言葉に慣れてなくて……申し訳ありません!」 「……あの、ホントごめんなさい! この子まだこっちの言葉に慣れてなくて……申し訳ありません!」 シルビィの言葉を反すうし、必死に頭を下げる。するとなぜか、そのシルビィからげんこつをもらった。 「ヤスフミ、どうして私の言葉をリピート!? おかしいでしょ!」 「だ、だって……間違えたら駄目だと思ってー!」 「だからってオウム返しは駄目でしょ! おかしいことになってるしー!」 さすがの僕もペコペコと謝ると、眼鏡の人は苦笑気味に首を振った。 「いえ。それなら」 「メルフィ――こっちの言葉の方がいいだろう」 「そうですね」 あ、途中で日本語に変わった。てゆうか、こっちの人も喋(しゃべ)れるの? ちょっと驚きかも。 ≪あなた、日本語――次元世界の公用語を≫ 「えぇ。管理局の方と仕事をすることもありますし、自主勉強はしているから……って、今のはあなたのデバイス?」 「はい。初めまして、蒼凪恭文です」 ≪そして私が古き鉄・アルトアイゼンです≫ 「そして本当に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 なので土下座……ひたすらに土下座。 すると眼鏡の人は驚きながら、右の平手を口元に当てた。 「ほ、本当にあなたが……あの古き鉄、なのよね。一昨日のトレインジャックも解決したっていう」 「……さすがに驚きだな」 「……多分その古き鉄です。またの名を」 なので嘱託魔導師の資格証を見せながら、サングラスをかけ直して……何とか笑顔で取り直す。 「デンジャラス蒼凪と言います」 「「「デンジャラス!?」」」 あれ、シャンテも一緒に……あ、そっか。 シャンテには話してなかったしねー、僕の新しい二つ名。 ……実は鷹山さん達と知り合ってから、改めて気に入っちゃってー。 最近は名前を聞かれたら、極力こう答えるようにしているのよ。 「ヤスフミ、それをまだ引きずってたの!? アイアンサイズにも名乗って、ぽかーんとさせてたじゃない!」 「ていうか、公女や公子にもやってたよな」 「「名乗ったのか(名乗ったんですか!)」」 「えー、だってせっかくセクシー大下さんが命名してくれたのに」 ≪ダンディー鷹山さんともお揃(そろ)いですよ?≫ 「類似キャラがいるんだ! でも、古き鉄って辺りで驚くなら」 おぉそうだ。シャンテはやっぱりいい子だねー。察しがいいので頭を撫(な)でてあげると、嬉(うれ)しそうに抱きついてきた。 「それであれですか、翼が六つあるとか、腕が四つあるとか」 「ロストロギアを食べちゃう悪い子とかですか? 見ての通り、それは無理ですけど」 「いいえ、私が聞いてるのはその……ごめんなさい、言えません」 「僕は一体なんて言われてるの!」 「世の中には知らない方が良いこともある。ただそれだけのことなんだ」 ゼファーさんが……初対面なのに、凄(すご)い勢いで諭してきた! まさかアレ以上の罵詈雑言(ばりぞうごん)で、僕は例えられてるの!? なんか恐ろしいんですけど! ……てーかシルビィ! ジュンも泣くな! おかしい、僕は何一つ……そんな罵詈雑言(ばりぞうごん)をぶつけられる謂(い)われなんてないのに! やっぱあれか、僕達がカッコよすぎるから、嫉妬している愚民どもがいるのか! 畜生め! 「と、とにかく初めまして。私は第四捜査室所属のメルフィ・ナーヴです。こちらが」 「ゼファー・ボルティだ。ブルーフェザーではオブザーバーのようなことをやらせてもらっている。蒼凪恭文、よろしく頼む」 「こちらこそよろしくお願いします。それで、先ほど本当に」 「何、気にするな。うちの連中に比べたらまだまだ」 「「まだまだぁ!?」」 ≪……どんだけ濃いメンバーが揃(そろ)ってるんですか、ここ≫ 「それじゃあ玄関先で長話もあれですし、どうぞ中へ」 メルフィさんに案内されて中に入り、廊下をチェック。 二階へ続く階段、各部屋へ続く扉――構造的にもさざなみ寮に近い? 靴を脱いだ上で上がらせてもらって、ドキドキしながら二人についていく。 でもゼファーさん、ちょっと歩き方が不自然だな。 右足を引きずっている感じだし、怪我(けが)でもしてる? あー、でも楽しみだなー。ここにいる間にこっちの魔法、マスターするんだ! それで、アルトも新形態を導入するし。……楽しくなるなぁ、この夏は。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 昨日、フェイトちゃんがフルボッコにされた。 まぁそれはえぇ……リンディさんの立場を復権しようと、馬鹿なフォローをしているだけやし。 それで返り討ちになっただけやし。問題は、そこでエリキャロが提言した話。 スカリエッティは、管理局を崩壊させようとしている。……予言の内容とどんがぶりやった。 ただそれは……その中身は、うちらの思うところとは少々違っていて。そのためにまたまた聖王教会へやってきた。 カリムの執務室は血なまぐさいことになったので、既に別室へと切り替えられていた。 真新しい調度品やら、ダンボールやらに囲まれながら、いつも通りの美味(おい)しいお茶を頂く。 「ごめんなさいね。まだ片付いていなくて」 「えぇよ。カリムも災難やったし……その後、どう?」 「とりあえず、私が処分される話には……ならなかったわ。 ただ聖王教会も、リンディ提督の強権には強い警戒を示している。 あれで恭文君とアルトアイゼンが提唱した、ハラオウン一派の支配構造は証明された」 「カリムもそれゆえに、かぁ。イビツやなぁ……まるで親和力や」 「……そうね。リンディ提督は、親和を説いている」 それにほだされ、シャッハや協力した騎士達も謹慎中……というか入院中。 頭を強打したのに、無茶(むちゃ)をやらかすから。恭文も行方不明やし……って、そことちゃうか。 「それでカリム」 「スカリエッティの目的について、よね。具体的には」 「……昨日、エリオとキャロが、こう言うてきたんよ。スカリエッティは管理局を否定したがっているって。 うちら六課を……少なくともスカリエッティが放置しているんは、そのための当て馬」 「私達六課は、管理局の体制を示す象徴でもある。だからそれを粉砕することが……待って。それだと」 「うん……うちら、管理局という組織そのものが、『テロなどで破壊される』ってずっと思ってたやろ? でもそれ以外もあるかも」 そう……答えはヴェートルの件やらで出ていた。あくまでも可能性の一つやけど。 香りのいいジャスミンティーを飲みつつ、カリムに右人差し指を立てる。 「ようは『権威的に』よ。カリムも知っての通り、管理局の防衛戦力は魔法。 そしてそれが崩れたとき、第二の選択肢を持ち合わせていないのが矛盾」 「それゆえに、アイアンサイズにも太刀打ちできなかった。 その選択肢を持っているGPOやEMPD、維新組に譲ったから」 「そう考えると、スカリエッティのやり口は最初から一貫していた。 例えば六課が設立できるまで、ガジェット事件をまともに追えなかった点」 「海と陸――今までの経緯ゆえにできてしまった、縄張り意識ね。 本当の平和維持組織なら、現場レベルでもそれを乗り越えるべきだった」 「そして管理局が施している魔法教育は、一種の管理社会とも取れる。 第二の選択肢がなくても、世界の平和は維持できる――そう嘯(うそぶ)く」 「フェイト執務官が、恭文君が、リンディ提督に言われていたように」 まぁそれも、ミッド育ちにしか通用せんようやけど。恭文には何度も一蹴されとるしな。 「でもそうして、彼らは何を得るの? それだけの兵器を売りつけるとか」 「何度も言われているけど、威力証明にしてはリスクがデカすぎる。そやから……これは私怨や」 「私怨?」 「スカリエッティは管理局を潰したい。でも物理的に潰すだけじゃ足りない。 ……管理局が設立以来推奨してきた、魔法文化そのものを破壊したいんよ」 そう……奴らの狙いはこの世界の文化そのもの。 「言葉を、紙幣を、魔法という常識を――それが信じられないものと、世界レベルで落としめられたとき、管理局はどうなるやろ。 たとえテロという形であっても証明されたとき、市民は……うちら局員は、どうなるやろ」 「……はやて」 「馬鹿げているやろうか」 「そうね……でも、利益を優先とした考察よりは、筋が通っているわ。 それなら今までの疑問も、ある程度解決できるもの」 「ん、うちもそう思う」 AMFも、戦闘機人も、そのための切り札……でも、切り札はまだあると見た。 「問題は切り札が全部見えてないこと。AMFや戦闘機人だけで、文化破壊なんてできるとは」 「なら彼らが求めるのは」 「管理局そのものに対する勝利(ひてい)。うちらでは世界を守れないと、実例を作って見せつける。 そのための中央本部襲撃やら、本局打倒なら話も分かる」 「では、黒幕との関係はどうなのかしら。黒幕も同じ考えで」 「違う考えでも、筋道が立てられるよ、……スカリエッティ達は離反者なんよ。 黒幕の打倒にも繋(つな)がるから、ルーテシアやゼスト・グランガイツも協力しとる。 実際ルーテシアについては、メガーヌ・アルピーノの件もあるし」 「そう言えば恭文君、言ってたわよね。スカリエッティの犯罪歴は『仕事歴』とも言えると。ならこれは」 「クーデターでもある。単なるテロとちゃう……絶対に、黒幕を捕まえんと」 そうしなかったら、スカリエッティ達を止めても意味がない。 でもどないする。手掛かりはあるけど、たどり着けるかどうかが……焦りのまま、勢いよくジャスミンティーを飲み干した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 八月四日――スバルのアホは、三佐達に六課へ残ると宣言。 なのはさんの教導を通し、みんなの助けになりたいって……もっともらしい理由でね。 そしてエリオ達もまた、任務とは関係なしに残ると決めた。 まぁ、確かに……避けようがないしなぁ。管理局をぶっ潰せーとか考えている奴らじゃ。 それは、私もだけどさ。そうね、負けっ放しは嫌いだもの。それにアグスタでの礼もまだ終わってない。 というか、スバルのアホを制御しないと……下手したら一人で飛び込みそうだもの。 いろいろ難しさを感じながらも、地上本部の査察が終わった……ついさっきね。 査察担当はオーリス・ゲイズ三佐。レジアス中将の娘であり、その筆頭秘書も務める才女。 眼鏡をかけたオールドミスと言ったところかしら。三佐と部下の方々をお見送りするため、私達前線メンバーも玄関に。 「お仕事中ですし、問題ないと言ったはずですが」 「お話した通り物騒な状況ですし、受け入れた側(がわ)としてこれくらいは」 「そうですか。お気遣い、感謝します……ただ」 「もちろん査察については、厳しくしていただいて構いません」 「そうさせていただきます」 どうやら即刻機能停止……という状況ではないらしい。三佐と部隊長の間も、険悪な様子が見えなかった。 「……そうだ、ティアナ・ランスター二士」 「はい!」 あれ、いきなり名前で呼ばれて……あぁ、やらかしてるからなぁ。 仕方ないので背筋を伸ばして、敬礼だけはしっかりやっておく。 「なかなかに暴れん坊のようですね」 「恐縮であります!」 「あ、あの……ごめんなさい! ランスター二士の銃器使用については、こちらでも厳しく叱りますので! ……ティア、これで分かったよね。やっぱり銃器なんて使っちゃ駄目なんだよ。これからはリンディ提督や私達の言う通りに」 「……どうやらフェイト分隊長は、誤解なさっているようですね」 「誤解?」 「まぁ端的に申し上げますと……中将はその『暴れん坊』をいたく気に入っておられます」 そこで全員が私に視線を向ける。というか、この場で言うってことは……あぁ、なるほど。 本局派に対するプレッシャーか。政治的に利用される立場なのかと、つい笑みが零(こぼ)れかける。 「特にあなたは、ランスター空尉の妹ですし」 「……それは」 「中将にとっても、忘れ難(がた)い事件でした。あなたが流した涙も」 ……そして、今度は別の感情が胸を掴(つか)む。 中将が……あの、大きくて優しい人が、私を覚えていた? 中将からすれば局員の一人にすぎないのに。 もしかしたら、単なるお世辞かもしれない。 六課について調べていて、それで思い出しただけかも。 でも、そうして名前を出してくれるのは……やっぱり嬉(うれ)しくて。 「なので質問を一つ。……あなたは、自分の行動に胸を張れますか」 「胸を、ですか」 「火薬の銃を握り、狙いを向け、人を撃つ。その行動に、胸を張れますか。正しいと……そう信じられますか」 「胸は、張れません」 嘘や虚勢は通用しない。だから、そう答えるしかなかった。 「これを撃つようになって、改めて知ったんです。 魔法の力も、【これ】も、大して変わらない……何かを壊し、殺す力だって」 「ティア、それは違うよ。魔法は違う……悪いのは質量兵器だけで」 「はいはい、フェイトさんは黙ってましょうねー」 「ほら、夕日が奇麗ですよー」 「エリオ!? キャ、キャロも……引っ張らないで! あの、私はちゃんとお話を」 それでも引きずられていくフェイトさん……エリオ達、やっぱ強いなぁ。 「……それを人に向けて撃つのは怖いし、それが正しいことであってはいけない……そう思っています」 「なのに、あなたは引き金を引くのですか」 「それでも戦うことが必要だって知りました。それが誰かのために繋(つな)がるなら……私は、引き金を引けます」 それは正しくない……でも、迷いはない。 誰かが戦わなきゃいけないなら、私が戦う。 もう引き金も引いた……銃の引き金も、心の引き金も。 だから止まれない。それを突き進むことが、今やるべきこと。 そう決意を込めて断言すると。 「安心しました」 三佐は険しかった表情を緩め、かすかに笑う。 「あなたは力の怖さを知っているのですね。ならそれを忘れない限り、間違いもないでしょう」 「そうなれるよう、全力を尽くします」 「八神部隊長、少なくともあなたの目は確かなようです。彼女を部下に選んだ……その目だけは」 「……ありがとう、ございます」 「では、これにて失礼します。手心は加えられませんが、あなた方のそのままを中将に伝え、公平に考える……それはお約束します」 そんな原則を改めて確約し、三佐は部下の方々と乗車。そのまま隊舎を出ていった。 ……そこでようやく緊張が解け、汗がにじみ出る。つ、辛(つら)い……私、ちょっと語ってたかも。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ティアナは一つずつ……回り道も多いかもしれんが、成長しているんやな。 火薬の銃を使うことで、改めて力の意味も理解した。そやからこそ言い切った。 力を振るうことそのものは、決して正しくない……でも、それでもと手を伸ばす。 そういう姿を見て、三佐も納得してくれたんは、嬉(うれ)しい。 ただ……それをこの場で、前線メンバーや教導官のなのはちゃんがいる前で、やらかしたこと。 それを地上側の人間であるティアに言わせたこと。その意味合いは、思ったよりも大きくて。 ”……はやてちゃん、査察の方は” ”とりあえず即時査問の問題はない。地上部隊への教導データ共有も、むしろ歓迎してくれたし” まぁ一種の取り引きとも言える。それくらいせんと、現状のままは無理なんよ。 シフト変更が入って当然やし、三提督のお力もおいそれとは使えん。……それは、申し訳ないと思ってる。 ”そこはなのはちゃんも……ありがとな。時間がないなりに、教導隊にも掛け合ってくれて” ”ううん。元々予定していた短期教導が、多少長くなっただけだから。でも、今のは” ”公平には考えてくれるけど、うちらに対しての印象は最悪ってところやな” そう、だからこそ言い切れる。やりきったって顔のティアには悪いけど。 ”これは警告よ” ”そう、なっちゃうよね” ”でもその前に……ちょお、フェイトちゃんを止めてよ。今リンディさんをかばい立てしたら” ”それは、無理だよ” ”こらこら” ”なのはだって、正直信じられないよ……!” ……それを言われたら反論もできず、頭をかくしかなかった。 そう……なのはちゃんにとっても、リンディさんは特別な人や。 アースラ組に関わったのが、入局のキッカケとも言えるからなぁ。 しかも去年の件では、いろいろと共通項もできて……できれば、これだけは間違いであってほしい。 あの人はただ、自分を素直に表現できんだけ。ただそれだけで……あってほしい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 八月五日――本日は書類作成。事件がらみじゃなくても、いろいろあるのよ。 訓練レポートやら、使用した装備品……カートリッジや、医療パッケージの追加発注。 部隊員として、局員として、身の回りについてはきっちり報告が義務づけられている。 まぁふだんからメモってるし、今はクロスミラージュのサポートもあるから……それは、お昼頃には終了。 「よし……これで午後の訓練は、憂いなくぶっ放せるわね」 ≪Yes Sir≫ 最近、ガバメントやM16をぶっ放し、ストレス解消という危ない癖がついていた。 だって、状況が面倒くさくて。隣で唸(うな)ってるスバルもアレだし、フェイトさんもうっさいし。 ――ティア、もう銃器を使わないでほしいんだ。それは六課部隊員としてふさわしくない装備だから。 リンディ提督もそう仰(おっしゃ)っているから……それは私が預かって、処分するね。さ、出して―― ――分かりました。なら三十万円出してください―― ――百……え? いや、私はお金の話なんて―― ――必要ですよ。銃本体と弾薬各種、ホルスター……ほとんどを私財で用意したんですから―― ――ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!? で、でもほら、これは局員として、六課部隊員として……リンディ提督の要望でもあるし。 あのね、お金の問題じゃないの。そうすることでティアは、本当の意味で私達と信頼関係を結んで―― ――嘱託魔導師にパワハラして、休職状態の人とその娘は信用なりません。ではそういうことで―― ――ティア、待って! ちゃんとお話をしようよ! そうすればきっと分かって―― それはつまり……私が折れるまで話そうという趣旨らしい。 なのでその辺りも、本局の査察部に報告。フェイトさんもその対処で大変だろうけど、まぁ頑張ってほしい。 「……スバル」 「な、何とか終わったぁ。でもカートリッジの使用数報告……毎度毎度面倒ー」 スバルは椅子にもたれ掛かり、大きくため息。……それはこっちの台詞(せりふ)だっつーの。 「アンタはバカスカ使いすぎなのよ。というか、マッハキャリバーに使用数を記録してもらってるなら」 「え、そんな手があったの!? ティアズルいー!」 「アンタは馬鹿なの!? というか、マッハキャリバー!」 ≪相棒には、自分の力で解決してもらおうと思っていたのですが……何か問題でも≫ 「あ、それなら大丈夫だわ。放っておきなさい」 「ティアー!?」 なるほどねぇ……こういうことは自分で覚えて、管理できるようにと。 ……それはちょっと反省かも。よし、私も今度からそうするか。 「じゃあお昼にしましょうか」 「うん……あれ」 そこでスバルが見やるのは、オフィス内――隊長用のデスク。 なのはさんは開いた空間モニターを見やり、ぼんやりとしていた。 ……正直関わりたくないけど、スバルが行っちゃったから、もう道が決められてしまう。 「なのはさん、どうしたんですか」 モニターを見やると、そこには……ヴィヴィオのパーソナルデータが入ってた。 スバルの声でハッとしたなのはさんは、それを慌てて閉じる。 「あ、ごめん。ついぼーっとしちゃって……そっか、もうお昼だっけ」 「はい。……あ、一緒にどうですか! ヴィヴィオも連れて……みんな一緒に!」 「私はパス。ちょっとリイン曹長と相談が」 「だーめ! ティアも一緒! それで隊長達と、ちょっとでも仲良くならなきゃ!」 首根っこを掴(つか)んでくるので、デコピンでしっかりお仕置き。 「いたぁ! な、なんで……」 「相談があるって言ったでしょうが!」 なんなの、コイツ! というかお節介……いつものことかー! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 結局隊員寮まで、ヴィヴィオのお迎え。まぁ、リイン曹長もちょうどいたからだけど。 とにかく、お食事については遠慮しよう。いろいろ内密な話もあるしね。 ……ヴィヴィオを隊舎から出すことは無理。それなら、せめて逃がす算段だけは整えないと。 ただ私達が不在のところに……という可能性もあるので、これがまた難しい。 なおヴィヴィオについては、なのはさんとフェイトさんの部屋で過ごしている。 寮母のアイナさん、それにザフィーラがついているので、一応の危険はない。 でも……それでも、全く油断できないのが悲しいところ。 こうなると、相手の出方を予測するしかないわけで。……うーん。 「……ティア、眉間にしわが寄ってるよ?」 「なのはさんよりマシです」 「嘘、寄ってる!? どこ……どこどこどこ!」 「だ、大丈夫ですよ! ティア……またそうやって意地悪する!」 なのはさんが手鏡を取り出し、慌てる中、試しに空を見上げる。 浮かぶ二つの月……左手には潮騒(しおさい)が生まれ、遠くに広がる首都の光景。 ……気持ちは入れ替わったけど、今一つ見えないなぁ。やっぱ、重要なのはヴィヴィオの出自か。 「というか、まだ気にしてるの? あの、もう大丈夫じゃないかな! だってほら、ティアとリイン曹長の話通りなら、奴らが手を出してもおかしくないし。 うん……きっと考えすぎだよ! だからヴィヴィオも、このまま六課で問題ないって思うんだ!」 「それなんだけどね、一つ抜かしてたところがあって」 「え、何かな」 「グレネード、レリックのケースに仕掛けてたから」 「「あ……」」 そう、それを抜かしていた。あれで死んだかなぁ、誰かしら……まぁいいか。 「で……でもヴィヴィオって、この先どうなるんでしょうか! あの、事件が解決した後!」 「そ、それについては考えてるよ!? うん!」 スバルとなのはさんも、現実から逃げたし。 「ちゃんと受け入れてくれる家庭がいれば、それが一番なんだけど」 「難しいですよね。やっぱり、普通と違う……から」 「そうだね……見つかるまで、時間がかかると思うんだ。まずは事件を解決しなきゃだし。……なので当面は、私が面倒を見ていけばいいかなって」 ……でも、その言葉で一気に寒気が走った。 スバルは嬉(うれ)しそうに破顔するけど、私は……上手(うま)く表情が作れない。 「エリオやキャロにとっての、フェイト隊長みたいな――保護責任者って形にしておこうかなと」 「なのは、さん……それ」 「いいですね! ヴィヴィオ、喜びますよ!」 「うーん、喜ぶかなぁ」 「はい、きっと!」 スバルは乗り気だった。いいことだと、笑ってなのはさんを後押しする。 でも私は……どう言えばいいのか困り果て、口をつぐんでいる間に隊員寮へ到着。 ヴィヴィオと適度な距離を取りつつ様子を見守っていると、二人はヴィヴィオに説明――しかし。 「……ん?」 「あぁ、やっぱり分からないかー」 「ん……!」 そりゃそうだ。六歳前後の子どもが、保護責任者って言われてもハテナマークよ。 まぁ分かってなくてもいいか。このままの形で……って、駄目駄目! つい流されかけたけど、ヴィヴィオの出自や危険性を考えたら。 どうしてだろう、とても嫌な予感がする。なのはさんの目、いつもと違うの。 ヴィヴィオを見ている目には、私達どころかフェイトさん達にも向けない、柔らかい感情があって。 「しばらくはなのはさんが、ヴィヴィオのママってことだよ」 そしてスバルは、アホな後押しをしてしまった。 ”スバル、馬鹿!” ”え、なんで!?” 「ママ……ママ」 ”でもほら、ヴィヴィオも嬉(うれ)しそうだし……あ、駄目だよね!” そうそう、駄目よ! この子はいつどうなるかも分からないのに、そんな感情移入をしたら。 ”なのはさん、さすがにママって年齢じゃあ……早すぎるよね、いろいろと!” ”違う!” 違う、そうじゃない! そっちじゃない! あぁ……ヴィヴィオが噛(か)み締めてる! ママって単語を噛(か)み締め、口をパクパクさせてる! 「……いいよ、ママで」 そしてなのはさんも、認めてしまった。あの柔らかい感情を瞳に込め、ヴィヴィオに目線を合わせた。 「ヴィヴィオの本当のママが見つかるまで、なのはさんがママの代わり。ヴィヴィオは、それでもいい?」 「……ま……」 「ママ……」 「はい、ヴィヴィオ」 「うぅ……」 ママ――自分の帰れる場所、帰っていい場所。 家族がいて、優しく手、温かくて、幸せな場所。 それを見つけたヴィヴィオは、涙をこぼしながら……なのはさんに抱きつく。 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「あ……もう、どうして泣くのー? よしよし……大丈夫だよー」 ……スバルは、感動シーンでも見るが如(ごと)く、自分も涙ぐむ。 寮母のアイナさんもほほ笑ましく見ていた。でも、私は……無理だ。 この子にそこまで、感情移入できない。してはいけないとも思ってる。 ……何度も言われているけど、事件被害者や関係者が、その事件の捜査に関わるのは御法度。 なら、万が一ヴィヴィオが攫(さら)われたら? 万が一ヴィヴィオが殺されたら? そのとき、母親であるなのはさんは……一体どうするんだろう。 別に六課で仕事ができなくなるとか、そういうことは気にしてない。 違うの……私が怖いのは、そういうところじゃない。……予感してしまった。 なのはさんがふだんの、大人としての顔を完全に壊して、暴走する様が――! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 八月十日――パーペチュアルでの修行も問題なく進み、アルトの新形態も完成。 ……やっぱり異術見聞録の術式、パーペチュアルのものだった。 正確にはパーペチュアルで信仰されている、とある超次元存在<神>にまつわるワード集。 これでまた証明されたよ。異術見聞録には管理局も把握していない、未知の術式も記録されている。 パーペチュアルが管理世界入りしたのも、ヴェートルの直後だしね。そうなると……オリジナルとは何か。 闇の書のように、あっちこっちを旅して記録・蒐集(しゅうしゅう)するストレージデバイスの類いか。 でもそれならはやては? はやては闇の書の魔法を全て受け継いでいるらしいけど、別系統の異能術は使えない。 なら、闇の書とは根本的に違うロストロギアか。そんな原本がどこかに……くぅぅぅぅぅ! 燃えてきたー! そのテンションのままに組めたよ……新しい術が三つ、僕の考察通りに。 問題があるとすれば、まだ理論の段階ってところかなぁ。 これから基礎を練習して、応用ができるようになってから……楽しみだねー。 「……アンタ、ほんと丈夫よね」 脇に控えたナナが、とても呆(あき)れた様子で呟(つぶや)いた。 「禁呪とかやめてよ?」 「さすがやらないって。初心者だよ、僕」 「ノリで唱(とな)えそうなのよ、アンタ……!」 「それでとんでも威力が発揮されたら、一気にお尋ね者でしょうが」 特にこれからの戦いは、市街地・屋内戦も多くなるってのにさぁ。 「でもね、ナナ」 「何よ」 「僕はようやく……最初の夢が叶(かな)ったよ! そのものじゃあないけど!」 そう、プログラム式魔法では……残念ながら、僕に竜破斬(ドラグ・スレイブ)など撃てなかった。 もちろん重破斬(ギガ・スレイブ)も、神滅斬(ラグナ・ブレード)も使えなかった。 でも、でも……パーペチュアルの術式なら違う! このまま僕は、てつをとなる! 「もういいから! それよりほら、アルトアイゼンのテストでしょ!」 「おぉそうだ! アルト、いくよー!」 ≪はい≫ アルトの新形態、実は僕が設計図を引いてみました。 まずは旅先で手に入れた、精神力をエネルギー化するクリスタルが基本。 更に違法兵器とならないよう、ある魔法に特化した形で調整。その結果。 「ぱらっぱんぱんぱーん!」 ≪Psy Mode≫ 版権的に微妙なSEを奏でながら、GPO・シープクレスト分署内――トレーニングルームで、早速アルトを形状変換。 日本刀型から、蒼い光に包まれ……ライトセーバー基部となる。もっと言えばサイ・ブレード! それを右手でキャッチし、手元で一回転。その上で力を展開――まずは精神力のエネルギー化から。 意識でトリガーを引くことで、蒼い光刃が生まれる。 ふだんのアルトと同じサイズのそれを、袈裟・逆袈裟と振るってみた。踏む……軽いな。 「軽いなぁ」 ≪駆動は問題なし……まぁ、元々剛性が低くなるような形態じゃありませんけど。 でもあなた、疲れてません? 精神エネルギーをがしがし消耗しているはず≫ 「え、全然」 ≪ですよね。今のあなた、テンションMAXですし≫ そう、魔力ではなく精神エネルギー。でも全然……禁呪一つ目みたいな、ごっそり削られる感じもない。 それも経験しているおかげで、運用のコツは理解した。……とにかく心を高ぶらせるんだ。 つまり……パーティを楽しめってことだよ! いつも通りだねー! それじゃあ精神力の光刃を一旦切り、次は普通に術式使用――。 「じゃあ次は、魔法使用」 半物質化した魔力刃が、先ほどと変わらぬ色で展開。 それも振るってみるけど、重さは変わらず。うーん、やっぱり軽い。 ≪魔力バッテリー……まぁジガンからのカートリッジ供給ですけど、そっちとのリンクも問題なしです。これで完全キャンセル化でも戦えますよ≫ 「魔法を使って、バシバシだね」 ≪えぇ、バシバシですよ。そしてパーペチュアルの術式についても、カートリッジで補強が可能≫ 「僕達は、既にタリスマンを持っていたわけだ」 そう……パーペチュアルの術式は、デバイスでの詠唱・発動サポートはできない。 でもね、カートリッジシステムだけは例外なの。詰め込まれた魔力で、術者をブーストするわけだから。 カートリッジの魔力だから……ということもなく、実験では普通に代替わり可能だった。 なので消耗もある程度は軽減される。まぁ、戒めの問題もあるけどさ。 「【コネクト】の発動も」 ≪実際にやってみましょうか≫ なので術式発動――そのまま逆袈裟一閃。 すると空間そのものが切り裂かれ、狙い通りに僕の背中が見えた。 振り返ると、五メートルほど後ろに空間の裂け目。それは一瞬で広がり、円形のゲートとなった。 そこから振り返った、僕の姿が見える。 「うん、サイモードでも発動は問題なしっと」 ≪魔力を直接吸い上げ、結合プロセスを排除しての魔法行使……今は一つの魔法が限度ですけど、このデータも積み重ねれば≫ そう言っている間に、コネクトは消失。裂け目から見えていた、僕の姿も消えてしまう。 ……消耗は術式の改良で半分以下に減った。ただ、それでも使えるのは二十回前後……注意しておかないと。 「負荷はないんだよね」 ≪元々GPOでも研究されていたものですから、既に実用段階……十分受け止められますよ≫ 見ての通りサイモードの本質は、単なる魔力刃生成じゃない。 それじゃあフェイトのザンバーやライオットとドンがぶり。 完全キャンセル状態での戦闘もあるのに、そんな変換を積んでも使うわけがない。 ……え、フェイト? まぁアジトにでも乗り込まなければ、大丈夫じゃないかなぁ。 アルトに……まぁ試験的ではあるけど、対AMF用装備の特性を持たせることが一番。 精神力の光刃も、魔力の直接吸い上げによる術式発動も、通常形態でも使用可能に調整してある。 そのついでと言ってもいい形態なので、実体剣が仇(あだ)にならない状況以外では……いや、これもフラグか。 ……とにかく集中して、腰を落として身構える。 「ヤスフミ、どう? やっぱりふだんと違って光刃だから、扱いも難し」 そうして床を踏み砕きながら疾駆――一気に二十メートル駆け抜けながら、袈裟・逆袈裟の八連撃。 剣閃が空間に刻まれ、それが音を立てて弾(はじ)ける。よし……扱いには注意も必要だけど、問題ナッシング。 「……大丈夫、みたいねー」 「というかアンタ、慣れすぎよ! 何、練習してたの!?」 「いや、ガンプラバトルでビームサーベルも扱うから」 脇のシルビィ達に向き直りながら、アルトを一回転。光刃の輝きは、空間にもう一度刻まれる。 「そこを意識すれば問題ないよ?」 「相変わらず無茶苦茶(むちゃくちゃ)だし!」 「まぁまぁ。でもナナ……シルビィ達もありがと。まさかこんなに早くでき上がるなんて」 「いいのよ。それにGPOの装備テストにもなるし、むしろ感謝してるくらい」 「……ただ、こっちと同じ発想で組み立てていたのが驚きだけどね。アンタなら魔法なしでも何とかなるでしょ」 「ナナ、考えてみて。相手は魔法が使えない、使いにくいと侮るんだよ? ……そこで魔法を使ってぶちのめしたら、心底キモを冷やすでしょうが! 楽しいよね!」 「だと思ったわよ! このお馬鹿ぁ!」 馬鹿とは失礼な……小首を傾(かし)げると、ナナがふわりと浮かんで跳び蹴り。なのでそれを伏せて避け、素早く回避した。 「何するの?」 「うっさい馬鹿!」 「てーかアイツら、間違いなく僕を舐(な)めてきてるしねー。くくくく……これでサプライズだー!」 「話を聞きなさいよ! ……まぁ、あの甘党提督にひと泡吹かせられるなら、面白そうではあるけど」 「そりゃあもう。よくてクビ、悪くて村八分状態での勤務継続だしね。愉悦が待ってるよー」 そう、クビになるならまだよかった。クビになるなら……でもそうじゃないなら? 六課……もちろんフェイト達も、赤っ恥をかいて残留するわけだよ。 まぁ僕は巻き込まれないよう、遠慮なくフェードアウトさせてもらうけど。 「でもなんなのよ、アイツら……去年のことも遠慮なく踏みにじってくるって」 「いや、ごめん……そこにはその、あたしの恩人も絡んでいるので、ほんとすみません」 「スイーツなんだよ、察してあげよう」 そう言いつつ、シルビィやシャンテ達に背を向ける。……続いては実地訓練だ。 次々と展開するのは、アンジェラの分身達。そう……アンジェラも分身が使えるのです! そうしてどこからともなく控えていた本体は、トレーニングルームの二階部分でモンキーポーズ。 それに倣って、分身達も……く、カクレンジャーのサスケさんみたい! 僕も後でやるぞー! 『じゃあ、次は模擬戦だよー!』 わぁ、声がハウリングー! そうか、分身だとこういうこともできるのか! しかも三十人が一斉に喋(しゃべ)る……オーケストラとか、一人でできるんじゃね? いや……落ち着け。あれだ、シャンテからも教わった魔法だし、大事に使わないと。悪いことには使わない……OK? 「アンジェラ、念のためあなた自身は参加しちゃ駄目よ?」 「分かってるのだー。じゃあ恭文」 『アンジェラ達、本気でいくから……覚悟するのだー!』 「おうさ!」 そのまま駆け出し、襲いくる合計三十体の分身に突撃。 すると分身達はそれぞれロッドを構え、その切っ先にエネルギーを集束。 『必殺、数の暴力で弾丸乱射の術ー!』 「「「術!?」」」 赤い光は、エネルギー弾としてこちらに打ち出される。 ……いきなりそうきますかー! ならばと弾道を見切り……瞬時に計算。 「ならば必殺」 ≪It's――≫ 弾は全て直射型。全てが僕に当たることなく、その順番も一斉ではない。 右肩、左足、胸元、脇腹、頭――その命中箇所と順序を見切った上で、袈裟の斬撃。 「スターウォーズの術!」 ≪Show Time!≫ 「「「術ぅ!?」」」 一発目を切り払い、続けて右切上、跳躍・側転しながら逆袈裟、着地して袈裟・逆袈裟・左薙と切り払っていく。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ アルトアイゼンの改修も済んで、こっちの訓練も重点的に……と思ったら、その必要がなかったみたい。 ヤスフミはアンジェラの弾幕を……その軌道を読み切り、踊るように身を翻し、光刃を振るう。 アクロバティックな動きも込みで、アンジェラを惑わしつつ接近していた。 そしてほぼ初めて扱う光刃でも、自分の体を斬ることはない。 とても手慣れていた……そうか、そうよね。ヤスフミ、言ってたもの。 ガンプラバトルで大事なのは、人機一体だって。なら、ガンプラから学ぶこともあったわけで。 そうして突撃しつつ、Mk23で牽制(けんせい)。分身一体の足を止めつつ、右切上一閃。 飛びかかってきた別の分身を払い、更にジャンプしながら前転――身を翻しながら、唐竹(からたけ)の斬撃。 立ちふさがる分身達は、ロッドで斬撃を防御。光刃ではあるけど、アンジェラの分身もまたエネルギー体。 異能同士が干渉し合い、つばぜり合いが発生。 でもヤスフミはそのままアルトアイゼンを振り切り、更に回転。 そうして分身達の防御を支えとして、包囲網を跳び越える。 更に後ろを見ず、左手でMk23を連射。 弾丸で跳び越えた分身達を撃ち抜き、沈め……本命に肉薄。 アンジェラの回避も許さず、光刃の切っ先で胴体部を捉え、そのまま貫き交差。 引きちぎられた分身は霧散し、残り二十四体の仲間達はそれを見送る。 ヤスフミは滑るように着地・停止し、そんなあの子達と向き直った。 「わわ……一気に六人もやられちゃったのだ!」 「言ったでしょうが、手慣れてるって」 「スターウォーズの術、凄(すご)いのだ!」 「絶対違うでしょ、それ!」 ナナちゃんの言う通りよ! そもそも魔法や忍術でもないー! それはアンジェラもだけどね!? 「さぁ、もっと本気できていいよー」 「むむむ、恭文も強くなってるんだね! ならアンジェラも限界突破なのだー!」 そうして再び突撃するヤスフミと、それを迎え撃つ分身達。 アンジェラも今度は配置や攻撃順を考え、ヤスフミを惑わせていく。 でもそれも、銃との併用で何とか凌(しの)ぎ、ヤスフミは受けに回った。 というか、そういう練習? 周囲から次々と襲う分身、そのロッド攻撃を弾(はじ)き、捌(さば)き、反撃のチャンスを窺(うかが)っている。 「わぁ……アンジェラの分身、凄(すご)いですね! 動きがどれもこれも精密!」 かと思ったら、斬撃で空間接続発動――分身達の突撃、及び射撃を吸収反射。 飛び込んだ分身は別の子とぶつけ、射撃はあらぬ角度から飛び出し、また別の子を射貫いて消滅させる。 な、なんて凶悪な……! 一つだけって条件で選んだ魔法がこれだから、おかしいとは思ってた。 でもヤスフミが使うと、同士討ちも可能な攻防一体の能力となる。 難点があるとすれば、まだまだ改善の余地があるところ? 具体的には燃費が。 「当然よ。実戦で鍛えてきてるんだから」 「あたしも負けてられないな! 要チェックやー!」 「なぜいきなり関西弁!?」 驚いていると、シャンテちゃんは素早くメモ……まぁ、いいか。 ヤスフミもガス抜きできているし、アンジェラや私達の訓練にもなるし。 それにシャンテちゃんもいい子で……でも、ミッドは想像以上に混乱してるみたい。 六課が利用されているのも気になるし……さて、どうしたものか。管轄外なうちには、できることも少なくはあるけど。 分身達と斬撃を交わし合い、笑うヤスフミを見て、少しだけ考え込んでしまった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 日々は静かに続く――いろいろな問題はあるけど、それも必ず解決してみせる。 母さんの疑いを晴らし、私達がまた家族となるため、頑張らないと。でもそんな中、変化が一つ。 「そう、なのはがママになってくれたんだ」 「うん」 なのはが改めて、ヴィヴィオの保護責任者となった日の夜――。 仕事終わりに、ヴィヴィオが私に報告をくれた。まぁ、知ってはいたんだけど。 「でもね、実はフェイトさんも、ちょっとだけヴィヴィオのママになったんだ」 「……ママ?」 「後見人って言ってね、なのはママとヴィヴィオを見守る役目があるの」 そう言いつつ、なのはと一緒にベッドへ座り込む。 ……エリオとキャロで言うなら、母さんの立ち位置と言いますか。 一応、そういうのをちゃんとしないと、保護責任は持てないから。 それも私達なら大丈夫……もう、子どもじゃない。組織の中で頑張って、みんなから認められてきた。 そうして母さんが何度も……何度もヤスフミに説いてきた、正しい大人になってる。 それが間違っていないのは、こういうときに実感できる。だって、ヴィヴィオを守る力になれるんだから。 ただ本人はちょっと分からないみたい。……まぁ、これも仕方ないか。 「ん……なのはママと、フェイトママ」 「ん」 「そうだよ」 なのはと一緒に、ヴィヴィオの両手を取る。それできょとんとして、首も傾(かし)げていたヴィヴィオが。 「……ママ」 「「はい、ヴィヴィオ」」 明るく……嬉(うれ)しそうに笑った。そのまま飛び込んでくるので、なのはと一緒に受け止める。 ……明日、またティアとも話そう。ヤスフミが見つかったら、ヤスフミとも話そう。 母さんも、私達も、嘘(うそ)つきじゃない……裏切り者じゃない。信じてくれれば、きっと何だってできる。 その可能性を説こう。分かってくれないなら、何度も話していく。そうして誠意を伝える覚悟がある。 私達の中に裏切り者なんていない。私達は無実で、間違っていない。 母さんを信じ、母さんが提唱する大人になっていくこと……それが家族として、絶対に必要な優しさ。 それを、あの男に貶(おとし)められただけ。私達はハメられたんだ。 間違っているのは全部、あの男(スカリエッティ)なんだ――! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 謹慎処分……また、私の声が、私の嘆きが間違っているとされた。 その衝撃は未(いま)だに癒えることなく……ずっと……あれからずっと、部屋に引きこもっていた。 ただベッドで泣き暮らす日々。そして今日も、静寂の夜が訪れる――。 また突きつけられた。去年のことが……娘達のために、声を上げたことが、間違いだったと。 そのために上層部は……査問委員会の将校達までもが、私達を悪だと認識している。 私達がどれほど正しくても、認めさせることができない。フェイトもそれは変わらない。 身動きが取れなくなった私の代わりに、部隊内で呼びかけてくれている。 私達を信じて……信じ合い、局員として正しい行動を取ろう。なのに、その声が無視される。 銃器を使用するティアナ・ランスターも、一切止められない。……それは、あの子と同じだった。 私達は家族なのに、それを信じられない。私達は正しいことを説いているのに、それを否定する。 どれだけ心を尽くしても、へ理屈で踏みにじられる。理屈ではなく心で判断してと言っても、一切聞き入れない。 なぜ……私が、踏み込まなかったから? でもたったそれだけ。 「……それだけじゃない!」 そう、それだけ……それだけのことで、なぜ銃口を向けられるのか。 それだけのことで、なぜ敵意を向けられるのか。それが分からなくて、怖くて、頭を抱え続ける。 そうよ、分からない……もう、分かりたくない。私は間違っていない……間違っているはずが、ない。 間違っていたら、もう生きていけない。これからどうすればいいか、分からなくなってしまう……そんなの、嫌ぁ。 (act.17へ続く) あとがき 恭文「というわけで、幕間第44巻が販売開始です。御購入いただいたみなさん、ありがとうございました」 (ありがとうございました) 恭文「それと……ディケイドクロスのカットシーンについては、申し訳なかった」 唯世「何が!?」 恭文「それを書いていたとき、作者のテンションはおかしかった。だって狙っていたサーヴァントが当たったから」 (そして強かった……最近、宝具レベルも上がったし) 恭文「そんなお話もしつつ、今回はアニメで言うと第十四話から十五話の辺り。お相手は蒼凪恭文と」 唯世「辺里唯世です。蒼凪君、もう七月だよ」 キセキ「うむ。夏休みももうすぐ……梅雨の終わりもな」 恭文「だねぇ。で、僕達が何をしているかと言うと」 桜セイバー「沖田さんもいますよー! そう、ここは」 (ざっばーん!) 桜セイバー「海ですー!」 恭文「またまたちょい投げだー!」 唯世「七月だし、アジも旬に入るしね。というか、僕達だけじゃなくて」 りま「……」 クスクス「りま……面白い顔ー!」 りま「……」 クスクス「りまー!?」 りま「危ないから、今は駄目……手元、針、OK?」 クスクス「お、おーけー」 (お笑いクイーン、黙々と餌付け) やや「あ、来た来た……ややもきたー!」 ぺぺ「ややちゃん、慎重に取り込むでち!」 なぎひこ「あ、なら僕も手伝うよ」 リズム「ナギー、ハゼだぜハゼ!」 てまり「今日は天ぷらですね」 あむ「……あ、餌取られた!」 ラン「あむちゃんー」 スゥ「集中力が欠けてますぅ」 あむ「し、仕方ないじゃん! ママから電話をもらってたんだし!」 ミキ「というかあむちゃん、偏光グラスをつけないと」 あむ「あ、そっか!」 ラン「はい、あむちゃんー」 あむ「ありがと。……おー、水の中がよく見えるー。 こういうのってかっこつけって思ってたんだけど、全然違うんだよね」 ミキ「恭文のサングラスも防弾・防刃で、更に各種サーチシステム搭載らしいよ?」 あむ「マジ!?」 (真相は闇の中に) 唯世「はい……いつも通り、ガーディアンメンバー集合です」 桜セイバー「それで私も、一応大人として付き添いです。マスター一人じゃ大変でしょうから」 恭文「……でも、その……くっつきすぎー」 桜セイバー「いいんです。こうして絆(きずな)レベルを上げるんですから」 恭文「上がらないよ!?」 唯世「ゲームをしなきゃ、だよねー」 (みんな、すっかりハマったようです) 唯世「でも簡単だよね。竿(さお)とリールも……まぁ質に拘(こだわ)らなければ二千円程度だし。 仕掛けも既にできているものを使えば、手間がかなり省けるし」 恭文「市販品であるしね」 キセキ「……唯世、当たってるぞ!」 唯世「うん! ……あ、ハゼだ!」 ヒカリ(しゅごキャラ)「天ぷらだぁ!」 恭文「夜にね!」 (デコピンで食いしん坊しゅごキャラ、鎮圧) りっか「あたしもハゼですー!」 ほたる「いい型ね、りっかちゃん」 ひかる「僕はボラだ」 ごるどふぇにっくす「るーるー♪」 ぎがぜーる「みーみー! みー♪」 めがぜーる「みー!」 おめがぜーる「みーみー!」 ねがぜーる「みー? ……みー!」 まがぜーる「みーみー!」 いがぜーる「みーみーみー」 べがぜーる「みー♪」 空海「……相変わらず数が多いな、お前ら!」 ダイチ「でも海に落ちないよう、気をつけろよー」 (というわけで全員、ライフジャケット装備です) 海里「……今日の夕飯はキスの天ぷら……いや、ハゼも新鮮なら刺身が行けるから、それで」 ムサシ「海里、それは連れてから考えるぞ」 海里「ボラも美味(おい)しいんだ。釣り場での処理が必要だが」 恭文「あ、分かるよ。まぁ連れる場所によってまた変わってくるけど、ここのは美味(おい)しいよー。 冬のボラで卵を持っているなら、それでカラスミも作れるし」 唯世「カラスミ!?」 恭文「三週間くらいかかるけど、家でも作れるんだよ。これが美味(おい)しいんだから」 卯月「……あれ、恭文さん!?」 未央「あむちー達も! あぁ……ガーディアンメンバーで釣りかー」 (そこでニュージェネレーションズの三人、登場) 恭文「あれま! 卯月!」 唯世「本田さん、渋谷さんもどうしてここに……って、釣りですよねー」 凛(渋谷)「早苗さんと瑞樹さんが出てる、釣り番組のゲストでね。ちょい投げっていうのが流行(はや)ってるらしくて」 唯世「僕達もそれなんです。最近ハマっていて」 未央「そう言えば言ってたなー。じゃあ……釣り勝負だ!」 恭文「またそんなみくみたいなことを……しょせんおのれは流れ星」 未央「流れないから!」 (というわけで七月の最初は、みんなで楽しくフィッシングです。 本日のED:HΛL『☆the starry sky☆』) 古鉄≪というわけで、私もアップデート。それはそれとして、デレステでイベントです。頑張りますよー≫ 恭文「関係者がここにいるよ?」 古鉄≪リアルとゲームは違うんです≫(蒼い古き鉄の頭上に座り、メイスをふきふき) 桜セイバー「……お、当たりました! ぴくぴくって竿先が!」 恭文「慎重に引き寄せて……おぉおぉ、いい型のボラだー! 六十センチ以上ある!」 卯月「あ、すみません! こちらで撮影させてください!」 凛(渋谷)「ほんとだ、大きい……!」 未央「ちょい投げって、小さいのが中心って聞いてたのに……」 恭文「これは網が必要かな。桜セイバー、そのまま……顎先を持ち上げるように、優しく」 桜セイバー「はい……こう、ですか」 恭文「そこ!」(網でゲット) 桜セイバー「やりましたー! 沖田さん、大勝利ー!」(Vサイン) (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |