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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.11 『偽装』


迷っている間に時間は経(た)つ――。

ガジェット達からの攻撃も激しさを増し、私達も決断を迫られていた。

閉じこもっていたら、本当に防衛ラインが……!


「ちょっとキリがないかも!」

「これは引きつけ……だよね。幻影のせいでロングアーチもてんやわんやだし。つまり」

「地下か、ヘリに主力が向かってる。あの子をジェイル・スカリエッティが狙っているなら」


一番危ないのはヘリ……まずい。


シャマルさんはいるけど、基本後衛型で直接戦闘能力は低め。

ヴァイス陸曹もヘリパイロットで、デバイスこそ持っているけど戦闘型でもない。

狙われたら、ひとたまりもない。なら状況を選ばず、機動力に富んだヤスフミを向かわせる?


ううん、駄目だ。地下のスバル達も危なくなるもの。

ヤスフミにはこのまま、地下で暴れてもらった方がいい。ならヘリのフォローは。


「……なのは、私が残ってここを押さえるよ。だからヴィータ達と一緒にヘリへ」

「フェイトちゃん!?」


またも襲う熱線とミサイルの嵐。でもなのははプロテクションを維持し、しっかり受け止め守ってくれる。それには心から感謝……だけど。


「普通に空戦していたんじゃ、時間がかかりすぎるよ。広域せん滅でまとめて落とせ」

「駄目だよ! ガッツポーズしちゃったのに!」

「どういうこと!?」


と、とにかく……ヤスフミの能力でも、幻影を見抜くのは難しい。

もっと言えば、データが揃(そろ)ってないんだ。でも……データさえあれば?

ヤスフミの処理能力なら、もしかするとすぐ解析できちゃうかも。


まずははやてに限定解除申請を取り付けて、そのままずどーんと……うん、これでいこう。


『割り込み失礼ー』


そこで空間モニターが展開。そこに映っていたのは……騎士甲ちゅう姿のはやてだった。え、武装してる!? というか背景が青空ー!


『ロングアーチからライトニング01へ。その案も、限定解除申請も、部隊長権限で却下します』

「ふぇ!? で、でもはやて……というかどうして騎士甲ちゅう!?」

「そうだよそうだよ! 指揮はどうしたのかな!」

『まぁまぁ。嫌な予感がしてるのはうちも同じでな』


驚く私達は気にせず、はやてはシュベルトクロイツを手元で一回転。更に夜天の書を広げ、とても楽しげに笑う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いやー、久々に騎士甲ちゅうを着ると、身が引き締まるというか……現在うちは隊舎の真上。

ここから超長距離弾道砲撃でずどーんって感じや。元々うち、こういうのがスタイルやし。

……これで数はこなせる。あとは瞬間せん滅でデータがどれだけ取得できるか。


そこは優秀なロングアーチスタッフと、ちょっとお古な端末、デバイス達の処理能力に賭けるしかないやろ。


「というわけでクロノ君、うちの限定解除をお願いな」

『君はまた、軽く言ってくれるな』

「勢いが大事やろ、こういうのは。……なのはちゃん、フェイトちゃんはヘリの護衛。
ヴィータとリインは新人達のバックアップに。108の方々は距離を取って、現場待機でお願いします」

『了解!』

「シャーリー、確認やけど……うちが砲撃でガジェットを撃破。
そのとき取得したデータをみんなのデバイスでも処理、やったな」

『はい。数が多い分処理データ数も膨大なので、並列処理も行います。それで素早く的確に、幻影と実機を見分けてみせます』

「ん、お願いな。あー、それと発射位置や方向のサポートも頼むわ」


リインとユニゾンの上やったら問題ないけど、精密射撃はどうも苦手で……アカンとは思いつつ、十年が経(た)ってしまいました。

そんな後悔は軽く脇に置いて、画面内のクロノ君を見やる。

クロノ君、その渋い顔はやめてよ、もう腹を決めておこうか。


『一応言っておく。君の限定解除許可を出せるのは、現状では監査役である僕と騎士カリムだけ。
しかも一人一つずつ……承認取り直しの許諾は難しいぞ。使ってしまっていいんだな』

「許可はお守りとちゃうやろ。使えるときに使わんでどうするんよ」

『それと場所が場所だけに、SSランクの投入は許可できない。限定解除は三ランクのみだが』

「Sランクまで……うん、それだけあれば十分や」


今この状況を打破できるなら、その後押しができるなら……それで十分。

笑ってサムズアップすると、クロノ君は大きくため息。


『駄目だ、許可できない』

「クロノ君」

『恭文を向かわせろ。連続瞬間転送と、あの音楽を鳴らしての広範囲攻撃なら対処可能だろう』

『こちらロングアーチ01、それは許可できません』

「シャーリー?」

『いいから言う通りにしろ。今限定解除の無駄遣いをするわけには』

『ですから……なぎ君は交戦中です! それも戦闘機人でも、召喚師でもない魔導師達と!』


……またかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! クロノ君も勢いを遮られ、頭を抱えてしまった。

あれ、交戦中? ちょお待って、それおかしいやろ。今のアイツは殺し屋限定のラッキーマン状態やのに。


「交戦中……恭文が仕留められないんか!」

『一人、エース級がいます。AMFを局所的に発生させる弾丸を使い、更にかなりの速度で詠唱できるようで。
瞬間転送とまではいかなくても、機動力で追いつかれているんです』

「なんやて! ほな、一緒にいるギンガは!」

『増援を危惧して、逃がすこともできず……二人して逃亡戦に』

『何ということだ……!』


恭文がその魔導師を押さえられなかったら、当然フォワード達の方へ向かう。

AMFの弾丸なんて、当然うちらの訓練では想定していない。実体弾による多重弾殻射撃ならまだしも、それは。

さっき確認したら、ヴィータ達も到着にはあと五分ほどかかる。


聖王教会からかっ飛ばしているシグナム達も、間に合うかどうかは微妙。これは……もうやるしかない。


「そやから」

『駄目だ! 今後、何があるか分からないんだぞ! 考えるんだ、現状のままで手立ては』

「……六課を立てた意味、思い出そうか」


及び腰になるのも分かる。でも……忘れたらアカン。

私らがこの部隊に描いた理想、夢は一つたりとも嘘やない。

だから視線でも、しっかりと突きつける。


――困ってる人を、一分一秒でも早く助ける。組織のしがらみもすっ飛ばす、自由な守護者。

そんな夢をかけた部隊……それに嘘をついて、蔑(ないがし)ろにして、そうして部隊を守って、意味があるのかと。


「クロノ提督、機動六課課長として……改めて要請します。限定解除申請、通してください」

『……分かった』

「ありがと」


腹を決めたクロノ君に感謝しつつ、右手をかざす。

限定解除……さぁ、いつでもこい!




『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO

とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016

act.11 『偽装』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


展開するのは部隊設立前に取得した、限定解除の術式。

あとは回転する魔法陣の中心部を押せば……魔法と言うには簡単過ぎる装置だな。


……正直迷いがある。


六課の現状は悪いままだし、これを使うことも評価の基準となるだろう。

監査役としては大事に使ってほしいとも思う。だから足掻(あが)いてしまう。

だがはやての言った通り、ここで躊躇(ためら)っては……僕達の夢に背を向ける。


だから決意とエールの意味も込めて。


「八神はやて、限定解除三ランク承認。リリースタイム、百二十分」


条件を音声認識で伝えた上で、中心部をスイッチオン。


――画面のはやては白光をまとう。

押さえつけられていた本来の力が空間をも揺らし、より力強い魔を彼女にもたらす。

いいや、取り戻していく。その様子を見ながら、胸がちくりと痛んだ。


僕は、女々しいな。進んでも、止まっても、迷い続ける……いつからこんなに弱くなったのか。


「……完全解除でない分」


そんな心情を見抜かれたのか、騎士カリムがそっと諫(いさ)めてきた。


「許諾取り直しも幾分楽になるかも……しれません」

「気休め程度ですがね。地上部隊は上層部が厳しいです、特にレジアス中将絡みは」

「それより問題は、恭文君です」

「アイツもこれで懲りてくれるといいんですが。結果的にこちらの邪魔までして」


アイツを狙った殺し屋で、こちらのプランまで滅茶苦茶(めちゃくちゃ)……あり得なくて首を振っていると。


「本当にそうお思いですか?」


騎士カリムが険しい顔で問い詰めてくる。……その視線に根負けして、もう一度首を振る。


「いいえ。……幾ら何でも、この状況に介入するのは危険過ぎる」


管理局の部隊が作戦行動中なんだぞ。それは察知できないレベルじゃない。

恭文でも仕留めきれない相手ならば、余計に不可解だ。なら、これは……!


「えぇ……スカリエッティの手先。殺し屋を雇ったのも、やはり彼なのでしょう」

「つまりAMFの魔導師は、恭文だけじゃなく……六課も狙ってくる」

「残念ながら。そして現状の戦力では、そんな武装には太刀打ちできない」

「……えぇ」


また、魔導師殺しというわけか。そして僕達はまた、無力さを突きつけられる。

恭文は水を得た魚のように、戦っていられるというのに。


……決めたのに、また迷う。こんな状況が初めてで、戸惑いは終わらない。

どこまで続くのか分からない、トンネルの中を走っているようだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


溢(あふ)れる魔力――リミッターをかけられる前は気にしてなかったけど、やっぱりかなり押さえつけられいた。

まるで解放されたことを喜ぶみたいに、リンカーコアが、魔力素の一つ一つが震えとる。


その勢いに感謝し、更に上昇。

雲海を突き抜け、シュベルトクロイツを振り上げる。


『ロングアーチ01、シャリオからロングアーチ00――八神部隊長へ』

「はいな」

『各デバイスとのサーチ並列処理、部隊長のサイティングサポートシステム、及び前線メンバーの退避、完了しました。
シュベルトクロイツとのシンクロ誤差……こちらも修正終了。いつでも撃てます』

「了解。ごめんな、精密コントロールや長距離サイティングは、リインが一緒やないとどうも苦手で」

『その辺はこっちにお任せください。では八神部隊長』

「おおきにな」


左手で夜天の書を開き、あるページを晒(さら)す。

そして詠唱――!


「来よ、白銀の風。天より注(そそ)ぐ矢羽となれ」


詠唱に従い、展開する魔法陣。ミッド式の円形魔法陣五つが並び、そこに魔力が集束していく。さぁ……まずは。


「第一波いくよ! フレス」


シュベルトクロイツを振り下ろし、トリガーを引く。


「ベルグ!」


放たれたのは風にも例えられるほど、軽やかで鋭い魔力の奔流。うちを軽く飲み込むそれは一気に三方向へ展開。

遠く――ここからでは視認もできん、混合編隊へと突き進んでいく。うち一人では多分、当てることすらかなわん。

でもシャーリー達に支えられ、足りないところを埋めてもらい、この一撃は放たれた。


言うなればロングアーチと前線メンバー、全員による合体攻撃。さぁ、このまま幻を砕き、食らい尽くせ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


モニターに部隊長の一撃が、データとして克明に表示される。うんうん、いい感じだよ。

今確認されている大隊達、そのうち三つに真っすぐ飛んでいく。オートサイティングシステムも良好っと。


「フレスベルグ、第一波発射! 発射軌道正常!」

「グループEに着弾します! 五、四、三、ニ、一……〇!」


ルキノの声に合わせて、大隊の一つに着弾。

回避はしたっぽいけど、それじゃあ爆発範囲からは逃げ切れない。


部隊長の一撃が、こちらのサポートが的確だったと、次々消えていくデータ達によって示されていく。


「グループE、消滅! 続いてB、A着弾……消滅!」

「シャーリー、データ取得と並列処理は!」

「順調だよ! これならすぐに見分けられる! ……部隊長、第二波発射、お願いします!」

『了解や!』


空の方はなんとかなりそう。ヘリもなのはさん達がついているなら、滅多(めった)なことも起きないはず。

それに地下の方も……まぁ、なぎ君が楽しく暴れている時点で、勝ち目なんてないしねー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ギンガさん、かなりヤバい奴に襲われているみたい。AMFを発生させる弾丸って……!


「何なの、それ……ギン姉!」


方向転換しようとする、スバルの首根っこを掴(つか)んで引きずる。


「クロスミラージュ!」

≪ナカジマ陸曹達の進行方向、更にレリックの落下位置――回収作業後、すぐ陸曹達へ向かう方が手っ取り早いです≫


それは地図データでも説明される。……どんどんこちらから離れてるのよ。

ブリッツキャリバーの反応が、でたらめな移動を繰り返していた。しかも反応が途切れ途切れ……通信状況が悪い?

でもギンガさんだって陸戦Aクラスはある、優秀な魔導師なのに。


いや、それでも魔導師の枠を出てはいない。『アレ』を使えば別だろうけど、無理も言えないしなぁ。


「私も同感。それに出てきた奴の目撃が足止めなら、レリックを回収すれば」

「……もう、戦う必要はなくなる?」

「そういうこと。……はい、分かったら走る!」

「なら、あの……私だけ行くよ! マッハキャリバーとならきっとすぐ追いつけるから、ティア達は」

「いいから走れ!」


首根っこから手を離し、背中を叩(たた)いて後押し。


……スバルが行ったところで、何も出来やしない。

この子は局の魔導師として戦おうとする。それじゃあ間違いなく殺されるわ。

しかも場所が悪すぎる。もう一度言うけど、ここは狭い通路。


ギンガさん達が戦っているのもやっぱり通路。

回避行動も大きく取れる箇所なら、スバルも十分対抗できるはず。

でも細長い閉鎖空間じゃあ、どうしても向こうに分がある。……考え方を変えるしかない。


ギンガさんにはこのまま、そんな厄介な奴を引きつけてもらい、その間にレリックを回収する。

そうすればスバルが考えたように、撤収に持ち込める……かもしれない。駄目だったら、覚悟を決めて強襲よ!


「それに古き鉄もいるらしいから、大丈夫よ」

「え……」

「ティアさん、それって」

「いいから急ぐ!」

「「は、はい!」」


ちびっ子達も勢いで納得させ、スバルもマッハキャリバーで走らせ、一緒に進む。


多分途中で入った、女の声……古き鉄って、女だったんだ。

あの子が自分の出自について、聞かないようにって気づかって……なんだろう、ドキドキしてきた。

ヴェートルの英雄がすぐ近くだもの。だから大丈夫……まずは、私の仕事をやる。


「例の現場検証に付き合わせていたんだって。
朝のドンパチにもガジェットが出たから、その絡みでしょ」

「そう言えば、朝の騒動にも絡んだんですよね。それで戦闘機人を撃退して」

「やっぱり凄(すご)い人なのかな……エリオ君」

「凄(すご)いかどうかはともかく、二人いれば時間も稼げるでしょ。だから急ぐ……いいわね、スバル」

「わ、分かった!」

「「了解!」」


それでもスバルの表情は重いけど、すっ飛ばしておく。これはアレルギー同然だもの。

それと気になるのは、なぜか音楽が聞こえること。ここ、地下数十メートルのはずなのに。

いや、まさかなぁ。こんなところで音楽かける馬鹿なんて、いるはずないし。


――ガジェット達の気配もほとんどなくなっているので、程なくしてそこに到着した。

そこは広々とした空間……柱が乱立し、照明もどういうわけか通っていた。

しかもやや古ぼけた明かりなのが、雰囲気作りに役立てている。そんな中走っている線路を見て、ここがどこか理解する。


「なんでしょう、ここ……駅?」

「でも、こんな地下に」

「都市部の再開発・拡張の際、忘れられた駅施設みたいね」


慎重に進みながら、周囲を確認。……ケースはどこかしら……この辺りなんだけど。

まぁこれだけ広々としてるなら、完全キャンセル状態に押し込まれることもない……はず。油断せずにいきましょ。


「ティアさん」

「前に資料で読んだのよ。地下駅の一つとして建設が進んでいたけど、再開発計画の変更により結局使われなかった。
……確か線路も切り替えさえすれば、既存のモノと繋(つな)がるはずよ」

「それで、照明まで生きているんですか。……街や僕達が日常を送っている間も、ここはひっそりと……静かに時を重ねていたんですね」

「不思議です」

「くきゅー」


そう言いながらも、全員で散開……周囲を慎重に捜索する。


「レリック……ないわね。スバルー」

「こっちも同じくー。というか、サーチも利かないなんて」

「しょうがないでしょ。それでバレたら、密輸品にならないし」

「こちらも同じくです。キャロは」

「……ありましたー!」


七時方向へ振り返ると、百メートルほど先にいるキャロが、柱の陰から出てくる。

その手には地上で見たばかりの、あのケース……でも、どういうことよ。


「クロスミラージュ、あの子の発見位置からここまでは」

≪約五キロです≫

「事故現場からは」

≪三キロですが≫

「でも位置関係、回り道状態よね」

≪えぇ≫


ジグザグルートだし、効率はよくない……迷子状態で、ずっと歩いていたと?

いや、それでも十キロでしょ? 事故発生から、あの子が発見されるまでの時間を考えると……。


……辺りに何かを叩(たた)くような音が響く。

それで音のする間隔が、どんどん短くなる。


「……何、この音」

「機械の駆動音……じゃないですよね」


全員が訝(いぶか)しげにする中、音が途切れた。……それはほぼ反射だった。

レリックと、それを持ったキャロ……その姿を見てなかったら、反応できなかった。

反射的にキャロの周囲に向かって、クロスミラージュで発砲。


合計四発の弾丸がキャロの脇を掠(かす)め、更に飛び込んできた影を威嚇。

それは爪の一つで弾丸を払い、キャロの左サイドへと着地。

紫のマフラー、虫のような顔立ちと体……そうか、コイツは報告書にあった!


……なら、あの日の礼を……そこで一つ、違和感が走る。


無理だ。

私達四人では、無理だ。

やり方を考えないと、一気に切り崩される。


アイツが本当に、メガーヌ・アルピーノさんの『ガリュー』なら――。

弱点かつ足手まといとなるのは、相棒<スバル>だった。


――気づくと奴も疾駆。右手をかざし、魔力弾四発を生成・発射して牽制(けんせい)。


「キャロ!」


慌てて撃ち落としている間に、エリオがキャロをカバー。ストラーダで切り結び、交差――。

虫はキャロからも、ケースからも離れて大きく退避。しかしエリオは、右の二の腕から血を吹き出す。


「エリオ君!」


それでもエリオは無言のまま、キャロをカバー。私も虫に牽制(けんせい)射撃を送りつつ。


「スバル」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「飛び込むな、馬鹿ぁ!」


スバルが全速力で飛び込む。いいや、飛び込んでしまった。

……スバルが打ち込んだ拳はたやすく回避され、その両肩があの爪で抉(えぐ)られる。

スバルの腕を潰した上で、側頭部を掴(つか)んで百八十度回転。


そのまま地面へ投げつけ、スバルは顔面からコンクリにキス。

慌ててフォローのため、弾丸を放とうとすると、魔力反応を感知。

頭上から襲ってきたのは赤い魔力弾丸。慌てて右への側転でそれを回避している間に、全てが終わっていた。


スバルの体がバウンドしたところで、ガリューは右蹴り上げ。

発生したオートバリアすらすり抜ける、鋭き蹴りに顔面を打ち抜かれた。

スバルは鼻から血を流し、口から歯を数本吐き出しながら、数十メートル吹き飛ぶ。


そうして後頭部か壁の一部に激突……鮮血を迸(ほとばし)らせながら、地面にずり落ちた。


「スバル!」

「「スバルさん!」」

「さぁ……分かったか! ルールーとガリューの実力が!」


虫の背後から出てくるのは、紫髪の女の子……そして虫野郎の頭上から現れるのは、赤髪の妖精だった。


「そしてこのアタシ、烈火の剣精アギト様の実力が! ……痛い目を見たくなければとっとと」


とか言うので、コルト・ガバメント(二丁目)を抜いて、あの小さな影に発砲。

事前に装着しておいたサプレッサーのおかげで、発砲音は最小限。

それゆえに調子づいた奴は、退避が遅れた。……その左脇腹を抉(えぐ)られ、鮮血が生まれる。


「が……!」

「――!」


落ちていく影を更に狙い撃つと、虫野郎が素早くカバー。

加速弾丸を背中で受け止め呻(うめ)くも、両手で優しく影を抱える。

……その間に小走りに、動かなくなったスバルの方へと近づく。


コルト・ガバメントからM16に持ち替え、虫や召喚師が放つ魔力弾丸を、発射前に全て狙い撃ち、撃墜。


「エリオ、スバルをお願い!」

「はい!」


怪我(けが)してるとこ悪いけど、キャロはレリックを持ってるし、私も迎撃中……エリオに頼むしかない。

エリオはスバルを壁から引きはがし、素早く脇の柱に隠れる。私も牽制(けんせい)しつつ、キャロと同様に退避。


「スバル、生きてる?」

「……かなり、ヒドいです」

「無理には動かせないか」


さて、どうするかなぁ……よし、状況整理から始めよう。


”予測はしてたけど、相性最悪かぁ。ごめん、私のミスだ”

”予測? ティアさん”

”ギンガさんね、昨日ゼスト・グランガイツを逮捕したとき……一蹴されたんだって。
自分より強いシューティング・アーツの使い手で、母親でもあるクイントさんと同僚だから”

”ガリューも同じ、ということでしょうか。そのクイントさんと知り合いな、メガーヌさんの召喚獣だったから。
だからシューティング・アーツで挑む限り、情報と対戦経歴のアドバンテージで不利になってしまう”

”アイツらから見れば劣化コピーだしね”


あくまでも予測の段階で、さしたる対策を取れなかったのが辛(つら)い。

でも許してほしいわ。その話、聞いたのはついさっきだもの。さて、そうなると……。


”エリオ、この場はいいから、今後はガリュー対策、みっちりやってもらうわよ。デバイスのVRシミュレーションも使って”

”一応お聞きしますけど、なのはさん達に相談して訓練は”

”ギンガさんはスバルより格上。そのギンガさんの五倍は強いそうよ”


つまり『今すぐ五倍以上強くなれ』という話なわけで。

オーバーワークも駄目だと言われている状況で、そんなことはできないでしょ。

エリオも納得したらしく、キャロと顔を見合わせながら困惑。でも、他に選択肢がないのよねぇ。


”了解しました。ならこの場は”

”私に任せて”


実は資料映像やら、ゲンヤさんの話も聞いて、準備は進めていたのよね。なので警告から……!


「アンタ達が弱いってことは、よーく分かったわよ!
怪我(けが)したんだから、とっとと帰りなさい……それで言い訳ができるでしょ!」

「「ティアさん、大胆……!」」

「ざ……け……な……!」


あら、あのアギト様、まだ生きてるんだ。……狙いが甘かったと、軽く舌打ち。


「てめぇ……敵が名乗りを、上げてんだぞぉ! なのにそんな、犯罪者の武器で不意打ちしやがって!
恥ずかしくねぇのか! お互いの名乗りを受け止め、相対する……それが戦いの流儀だろ!」


その言葉が許せず、虫目がけて速射弾を連射。

シールドで防がれるものの、加速した弾丸達に煽(あお)られ、奴が後ずさる。


「どの口が抜かすのか……警告もなしで、ホテルを襲ったのはアンタ達でしょ」

「うるせぇ! お前らみたいな卑きょう者と一緒にするなぁ!
アタシらには大義がある……ルールーのお母さんを助けるって、大義がな!」


ルールーのお母さん……メガーヌ・アルピーノさん!?

エリオ達と顔を見合わせている間に。


「お前は、そんな相手に礼儀も弁(わきま)えず、犯罪者の武器を向けたんだ! 恥を知れぇ! アタシ達は……ルールーはなぁ!」

「アギト、もう黙って」


そこで穏やかな声が響く。あの召喚師の子……なんでよ。

なんでアンタみたいな子が、犯罪者になってんのよ。やりにくいでしょうが……!


「それを、渡して。どうしても必要なの」

「メガーヌ・アルピーノさんは生きてるのね。まさか、スカリエッティの人質? ゼスト・グランガイツもそのために」

「……そうだよ。お母さんは十一番のレリックがあれば、復活する……私も、心が蘇(よみがえ)る」


どういう理屈よ……! でも、そういう話なら分かりやすい!

キャロに目線を向けると、慌ててレリックのケースを開封。その刻印ナンバーを確認する。

……そこに入っていたレリック、刻印ナンバーは四だった。


「残念だけど無理! こっちのレリックは四番よ!」

「そういう事情なら、僕達も配慮する! このまま大人しく投降してくれ!」

「メガーヌ・アルピーノさんの救出にも協力するから! あなたはアジトも知ってるのかな! それなら」

「……警告はした」


聞く気なしかぁ……! まぁそうよね、こっちが嘘をついている可能性もあるわけで!

こうなったら……ガリューを鎮圧した上で、あれを止めるしかない!


”エリオ、スバルをお願い。キャロは”


……そこで一つ、妙案を思いつく。私がドンパチして、目を引きつけているうちに……できるかもしれない。

空でも、周囲でもドンパチは続いているんだ。保険は立てておくべきでしょ。


”レリックの封印処理、こっそりできる? アイツらにバレないよう”

”大丈夫です”

”ならお願い。それでタイミングを見たら……ちょっと、詐欺をしましょうか”

”……はい!”

『ロングアーチ01から、スターズ03へ!』


というわけで、クロスミラージュをしっかり握り直し……呼吸を整える。

そうして突撃タイミングを計っていく。いや、そんな余裕はない。

三つ呼吸したら、すぐに踏み込む。あとはアドリブでオンステージよ。


三……。


『ティアナ、無茶(むちゃ)しないで! 今ヴィータ副隊長達が向かってるから』

『あと三分だけ待て! 最短距離で』


二――。


「知ったことか!」


一!


レミントンM870に持ち替え飛び出すと、奴が加速――。

シミュレーションとは違う、命に直結する威圧感。

でもそれ以外は変わらない。そう、変わらない。


シャーリーさん曰(いわ)く、クロスミラージュ達のリミッターは解除されていない。

する前にこの状況だから、この間見せてもらったセカンドモードも使用不可。

まぁ使うつもりもないけど。あんな大ぶりでゴテゴテした武器、私の趣味じゃないし。


とにかくこの状況、悪いことばかりじゃない。この間は視認できなかった召喚師がいて、弾丸が届く距離にいる。

そしてお互いに手負いが一人……あの小さな偽善者は、あの子の手に渡っている。

更に今の発言から、あの子は私達より格上。そういう自負がある……なら、手早い撤退もない。


ようは手早くガリューを鎮圧して、威嚇すればこっちの勝ち。

閉鎖空間だから、デカい召喚獣を出される心配もない。

相手が私達を舐(な)めている、ほんの数分が勝負――飛びだし、迫る攻撃。


対処する数瞬の間に方針を決め、機械的に実行へと移す。

まずは現実と虚構の差を、ゼロコンマの世界で埋めつつ……身を伏せた。

突き出される爪を伏せて避け、その脇腹に散弾を送る。


咄嗟(とっさ)に展開したシールドで防がれるので、後ろに退避。

跳んできた左ハイキック、右後ろ回し蹴りを回避しつつ、散弾をもう一発、二発と連射し牽制(けんせい)。


一旦レミントンM870を放り投げ、コルト・ガバメントを取り出す。

そうして召喚師の方へ向け、一発発射。……構築された砲撃スフィアを撃ち抜き、爆散させる。


「……!」


そこを狙い、爪を突き出す召喚獣。それも前転でくぐり抜け、背後を取って弾丸連射。

加速弾丸はその衝撃も倍増させ、障壁越しに奴の足を止めてくれる。

すかさず左手でクロスミラージュを取り出し、魔力ワイヤー展開。


動きが止まったところを狙い、ワイヤーを振るう。

ムチの如(ごと)くしなり、煌(きら)めくワイヤー……それを跳び越え、ガリューは空中で一瞬静止。

魔力スフィアを四つ展開し、こちらに発射。


でも回避行動は取らず、落ちてきたレミントンM870をキャッチ……まずは一発。


奴の弾丸達は、あくまでも威嚇。

髪先を、ジャケットを、肌を掠(かす)めるのも構わず、奴に散弾をお見舞い。

跳び蹴りしていた奴はまともに弾丸を食らい、足を蜂の巣にされながら、バランスを崩す。


すかさず倒れ込みながら転がり、その墜落から退避。

でもすぐさま起き上がり、一発、また一発と打ち込む。

ガリューの右腕、背中……それが散弾の直撃を食らい、血しぶきを上げる。


……痛みに呻(うめ)いたところでダッシュ。

女の子から放たれた誘導弾を置き去りに、ガリューへと踏み込んで。


「はぁ!」


その顔面を全力で蹴り飛ばしつつ、加速術式発動――。

ガリューは術式によって、一気にマッハの速度へと到達。

その勢いのままコンクリの柱を一本、二本、三本と撃ち抜き……頭から突っ込み、壁に埋もれた。


レミントンM870を仕舞(しま)い、クロスミラージュを再度取り出す。


「動かないで!」


アギトとやらを抱えたあの子は、また誘導弾を生成していた。

その弾幕十八発を、速射型の魔力弾で全て撃墜。帯のように連なる爆炎を前に、彼女は驚いた様子だった。


「嘘……だろ……ガリューが……なんで」

「……当然だよ」

「ル……ルー」


油断はせず、術式詠唱――ガリューにも、ルーテシアにもバインドをしっかりかけておく。


「この人はアギトやゼストみたいに、侮っていない。私達のこと、ちゃんと研究してる」

「侮る? それは正確じゃないわね。アンタ達は」


なるほど、この子はそこの時代錯誤と違って、頭もちゃんと働くか。


「自分勝手なナルシスト野郎って言うのよ――!」


だったら、余計に解せない。そんな子が……どうして犯罪なんてするのよ。

どうしてあんなふうに、人様の平穏と生活を脅かすのよ……!

やっぱり人質の件があるから……そこで、幾つかの疑問が胸に渦巻く。


……もし予測通りだとしたら、これは単なる広域次元犯罪じゃあ終わらない。

とんでもない、局の不正に発展するかも、しれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ティアナ、また無茶(むちゃ)を……! 本当に、どうしてなの。

私達は確かに、やり方を間違えた。でも頑張っているのは本当。

それだけは間違いないのに……それだけじゃ、どうして駄目なんだろう。


そうして悩んでいる間に、全ては決着していた。


『おりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!』


空調用の大型通風口を突き抜け、ヴィータ副隊長が現場に突撃。

身を翻し、グラーフアイゼンでの右薙一閃――最後の障壁をぶち破って、現場へと突入する。


『待たせ……あら』


でも現場の状況を見て、呆(ほう)けてしまった。もうガリューは、召喚師は捕縛されていたから。


『遅刻の常習犯ですね。今度私も遅刻するんでよろしく』

『ヴィータちゃん、言われてるですよ』

『……理由くらいは上手く作れよ?』


理由を作っても駄目でしょ……! でも、どうして。


「ティアナが、召喚獣を圧倒している?」

「凄(すご)い……」


スバルが一蹴された強敵を、新モードも使わずに……次々銃を持ち替え、圧倒した。

その様子にアルトとルキノも言葉をなくす。……でもこんなの、なのはさん達の教えた戦い方じゃない。


それが悔しくて、許せなくて、胸の中が渦巻いている。


「どういう、ことなの。どうしてティアが」

「研究のたまものだろうな」


そう呟(つぶや)いたのは、司令席のグリフィスだった。それも冷や汗を流しながら……。


「先日揉(も)めた際、彼女は隊長達の弱点を踏まえた上で、それを突いていた。
召喚師と召喚獣、あのユニゾンデバイスについても同じだ。情報があれば対策・分析を行う」

「ティアは考えていた。一人で戦うならどうするかって……でも、こんなの!」

「それでも勝ちは勝ちだ」


そうだ、勝ちだ……確かに勝った。

でも違うよ、ティアナ。それは駄目だよ。

私達は……なのはさんは、そんな勝ちを望んでない。


フェイトさんが、シグナム副隊長が……なのはさんだって言ってたよね。

ティアナはスバルと、エリオと、キャロと戦うストライカーだって。そう……信じてほしいのに。


「それに、なのはさん達の教えが足りなかったのも事実だ」

「グリフィス!」

「現にスバルやエリオは、完全キャンセル状態に対処できなかっただろ。
ティアナが銃器を持ちださなかったら、戦えていたのはキャロだけだ」


でも、現状はそんな希望すら間違いと断ずる。


「……状況が終了したら、隊長達に相談するべきだろう。教導計画が現場の進展に追いついてないと」

「そんな……でも、それじゃあ」

「そうしてティアナの心証を徹底的に損ねたのに、まだ底を貫くつもりか。君は」


……納得できず、コンソールの上で拳を握る。どうして……みんな、頑張ってるのに。

どうしてそれだけじゃあ駄目なの。また去年みたいに、どんどん置いていかれている。それが辛(つら)くて、情けなくて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヴィータ副隊長とリイン曹長は、召喚獣やあの子達を改めて拘束。

更に最低限の……生命維持に差し障らない程度の治療を施し、事情聴取開始。

迎えの車両が来るまでは、このままらしい。まぁ廃棄都市部のど真ん中だからなぁ。引きずるのも大変か。


でも……ギンガさん達の救援が。いや、分かってる。スバルも怪我(けが)しているし、屋内戦じゃあ危険度も大きい。


「えー、お前達には黙秘権がある。裁判や取り調べなどでの発言は、全て法廷で証拠として扱われる。
嘘をついたってバレると面倒になるから、正直に話そう。で、名前は」

「ジェーン・ドゥ」

「ジェーン・ドゥ……え、マジ?」


あれ、確かそれって……身元不明の死体や人に付ける名前じゃ。ようはナナシの権兵衛(ごんべえ)よ。

でもそれ以外答えるつもりがないようで、この子は黙ったまま。またふてぶてしいなぁ。


「ちなみにそっちで伸びてるDQN妖精は、自分をアギトと言ってました。召喚獣はガリュー、召喚師はルールー」

「お母さんを目覚めさせるために、十一番のレリックを欲しがっているそうです」

「随分聞き出せたな、おい! てーかやっぱり偽名か!」

「それよりヴィータ副隊長、ギンガさん達が」

「安心しろ、それならとっておきの奴らが向かってる……聞こえるか、シグナム」

『あぁ……こちらライトニング02』


そこで今まで沈黙していたシグナム副隊長が、声を上げる。

あれ、でも聖王教会で会議していたから、参加は難しいって……あぁ、全速力で来てくれたんだ。


『蒼凪とも連絡を取って、聖王教会のシスター・シャッハと挟み撃ちにする予定だ。お前達はそのままレリックと被疑者の確保を』

「気をつけろよ。能力は言った通りだ」

『そのつもりだ。とっておきの言い訳も考えているからな』


……シグナム副隊長か。この場は適当に動いてもらうしかない。

私が飛び込もうとしても、機動力の点で追いつけないし。でも、情けないなぁ。

偉そうなことを言っておいても、全部私が解決はできない。寄生している分際で、文句だけは言っているも同然。


そこまで言うなら、部隊から離れるのが一番だもの。

ほんと、中途半端なことをしていると思う。……馬鹿なのかな、私。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地上本部のオフィスで、秘書で娘なオーリスから報告を受けていた。

そうして見せられている映像は……今、街の平和を脅かす者達の姿。

ソファーに座り、いら立ちつつ頬づえ。その間も白光がエイもどきを次々と爆散する。


幾ら海上とはいえ、市街地のすぐ近くにも関わらずだ。

これだけの力をほいほいぶっ放すなど……何たることか。


「なんだ、これは。何が起きている」

「はい……本局遺失捜査部、機動六課が現在市街地付近で戦闘中。これはそのリアルタイム映像です。
撃たれているのはかねてより報告のあった」

「AMF能力保有のアンノウン――ガジェットドローンだろ、知っている。撃っているのは」

「機動六課部隊長、八神はやて二佐です。後見人で監査役のクロノ・ハラオウン提督権限で、三ランクまでの限定解除申請許諾がなされました」

「だからと言って市街地付近で、Sランク相当の長距離弾道砲撃など……!」

「その市街地に被害を出さないため、ですので。
更にこのガジェット達、目視もできる幻影も混じっているようで」


なるほど、一機たりとも逃がすわけにはいかんが、手の回る状況ではないと。

しかし危険な行為には間違いない。これも見過ごすわけにはいかんな。


しかも八神はやて……忌々しい名前だ。中規模次元侵食未遂事件を起こしておきながら、のうのうと局員入りしているのだからなぁ。


「ただそれだけではなく」

「なんだ、まだ何かあるのか」

「確認が取れているわけではありませんが……機動六課は地下水道にも部隊を配備。
ガジェットと同じく報告されていた、ロストロギア・レリックの捜索を当てていました。……そこで古き鉄が交戦中と」

「朝に続いて昼もか。相変わらず忙しいと見える」


襲われていた護送者を助けるため、大暴れしたとは聞いている。


……ハラオウン一派に属しながら……いや、既に縁は切られていたな。

奴らとは全く違う行動理念で動く、ヴェートルの英雄。

むしろその在り方は我々地上部隊に近いものだろう。


ヘイハチ・トウゴウ最後の弟子であり、そのデバイスを受け継いだ男。

同時にオーギュスト・クロエの魔導師殺しも叩(たた)き伏せ、アルパトス公女の確保に尽力したのもこの男だと聞く。

機動六課の現場になぜいるか。そういう疑問はあるが、事件を嗅ぎつけるのは得意なのだろう。


奴らと違って、こちらの活躍は愉快痛快――しかも暴れるほど、ハラオウンの尻軽どもも苦しんでいく。

去年、散々好き勝手をした罰と考えれば、これほど面白い娯楽もあるまい。


「中将、スカリエッティは我々の想定以上に動いているのでは」

「だとしても変わらん。オーリス、お前が直接査察に入れ」

「機動六課の、でしょうか」

「そうだ。市街地付近でこれだけ派手にやられたのでは、こちらとしても示しが必要だ」

「了解しました」


オーリスが言うことも分かる。しかし……今更止まれるか。

この地上の平和を守るため、人々の安全を保障するため、私は必要なことをしている。

英雄になどなれない私だが、それでも……それだけは、変わらずやってきたつもりだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

派手なドンパチを続け、いつの間にか来た道を戻っている僕達。

殺し屋連中はようやく掃討できたので、あとはあのガンマン女だけ……!


なので追いかけてくる奴目がけて、グレネードを投てき。

下がりながらP90で牽制(けんせい)射撃。そこから目を閉じ、背を向けながら全力ダッシュ。

今回爆発したのはスタングレネード。咄嗟(とっさ)に距離を取った女は、その眩(まばゆ)さと爆発音に一瞬停止。


その間にまた脇道へ入り、ジグザグに移動……くそ、ほんとどうする!


”ギンガさん、こういうのはどうだろう”

”何か作戦が!?”

”ギンガさんは人質に取られる! 奴が動くなと言う……そこでギンガさんはバリアジャケット解除! 僕はギンガさんの体ごと、奴を撃つ!”

”却下ぁ! なぎ君、さすがにない……それはさすがにない!”

”映画『48時間PERT2/帰って来たふたり』――知らないの!? ニック・ノルディとエディ・マーフィ!”

”知らないよ!”

”この常識知らずが!”


また迫る弾丸から身を隠し、迎撃……くそ、ほんと埒(らち)が明かない!


”なぎ君にだけは言われたくないよ! もっとないの!? こう……私が突撃して、なぎ君が援護するーとか!”

”足手まといの分際で、なんで任せてって顔ができるの!? もう信じらんない……!
誰かー! もっと役に立つ人をよこしてー! スティーブン・セガールとかー!”

”あとはケイシー・ライバックとか”

”助けておじさん!”

”誰それ!”


あぁ、呼びたいね! あの人なら……最強のコックたるあの人なら、きっと!

えぇい、嘆いていても仕方ない! こうなったら反撃開始だー!


”蒼凪、ギンガ、聞こえるか”

”……シグナム副隊長!?”

「ほんと大変ねぇ! 足手まといがいなきゃ」

”今そちらに向かっている。その先のB50ポイントまで迎えるか。そこで挟み撃ちにする”


放たれる弾丸を、左の脇道へと入りやり過ごす。響く着弾音が一瞬途切れたところで、身を出してFN Five-seveNで射撃。

一発が頭上を掠(かす)めたところで、更に放たれる反撃の弾丸……あ。


”すみません、無理!”


嫌な予感がしてダッシュ。すると奴の放った弾丸は、脇道の内壁に衝突……そこから跳弾。

数度跳ね返る弾丸が、それまで僕達のいた場所を徹底蹂躙(じゅうりん)。


「アンタはとっくに踏み込めたってのに!」

「な……!」

「確かにねぇ!」


奴の言葉に返しながら、三枚ほど落とし物をしておく。


……ギンガさんを一人だけにすれば、別働隊が動く可能性もある。

かといって戦力として利用もできない。実力じゃあギンガさんよりずっと上だ。

戦闘機人の能力を使ったとしても、触れる前に殺される。


逃がすこともできなければ、振り払うこともできない。

更に僕でも一気に仕留められるか分からない。


「それが分かるなら弱い者いじめなんてやめて」


追撃してくる女に、更に弾丸連射……今度はこちらの跳弾でその進行をストップ。

いや……それじゃあ無理だ。女は転送魔法を発動し、またこちらの前へと回り込んでくる。

……一度詠唱してから、転送魔法が発動するまでに最低五秒。


テレポーター相手だから、転送した直後は必ず詠唱に入っている。

その隙(すき)を埋めるのが、実弾銃ってわけだ。でも五秒は必ず、そこに存在している。


だから、こちらも術式発動――二時方向へ走り、ギンガさんの手を引きながら蒼い輝きに包まれる。


まずは一秒……放たれるAMFの弾丸は、僕達が壁に激突し、吸い込まれたことで回避。

二秒……これは物質透過魔法。AMFの弾丸はさすがにすり抜けられないけど、壁なら問題ない。

瞬間的な加速により、奴の左サイドへと出現。


三秒……ギンガさんは一旦放り出すと、女は予測していたのか素早く反応。

中程の水路を跳び越える僕に、迷いなく銃口を向けた。

そうして放たれた弾丸から、AMFが局所展開。


こちらの物質透過魔法を解除するなら、十分な濃度だ。

その範囲も大体読めた。

二十センチ弱というミニマムな範囲で、魔法無効化の結界が生まれていた。


やっぱり弾自体が特殊な加工をされていて、マジックカードのように術式を封じ込めている。

一発一発、手作りの必殺弾丸。それを作る熱意だけで、コイツが『本物』だと理解する。

でも、それこそが狙いだ。四秒……!


既に無意味なバリアジャケットは解除しているため、白スーツの各所が引き裂かれていく。

でもそんな最中、FN Five-seveNを離し……G2コンテンダーを抜き撃ち。

ひときわ大きな砲声と白煙を放ちながら、放たれるのは30-06スプリングフィールド弾。


そして五秒――放たれた弾丸は奴の胸元を捉え、あの大きな乳房をたゆませながら、胸を貫通。


そう……完全キャンセル化するほどの濃度なら、物質透過と言えど無効化される。

でもそれを活用すれば、こういう不意打ちも可能だ。


「ぐ……!」


衝撃から鮮血が走り、女は吹き飛び壁に叩(たた)きつけられる。

僕もコンテンダー発射の衝撃から吹き飛び、派手に床を転がる……そうしながらも術式発動。

奴が退避する前に物質変換開始。壁からコンクリの縄を生みだし、女を締め上げ、しっかりと捕縛。


その上で起き上がり、P90で射撃。弾丸は奴の左頬を掠(かす)め、壁に命中する。


「――僕とパーティを楽しもうよ」


そう言いながら、術式詠唱――今度は僕がAMFを展開。

奴の足下に蒼いベルカ式魔法陣が生まれ、発生したAMFで戒める。


「まずはデートなんてどう? 留置場までさ」

「……やるじゃない」


もちろん完全キャンセルレベルで、設置型だ。

魔力も必要分を最初に使う時間制限式だから、維持で苦しむこともない。


まぁ……消費がキツいけどね! でもようやくだよ!


”恭文さん、今どこですか! 行けないというのならこちらから向かいます!”

”お願いします。あと……もう捕縛しましたから”

”はぁ!?”

”じ、事実です。というかなぎ君、AMFが使えたんだ”

”覚えておくと便利だしね”


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


状況は決してよろしくない。ただぁ……こちらとしてもやりようはあるわけで。


”ナナシちゃん、悪いんだけどもうしばらく、サンプルH-1を引きつけ……もしもし? ナナシちゃんー”


……あ、こりゃ駄目だ。捕まっちゃってるわねー。

えっと……地下通路内の監視カメラにハッキングーっと。

ナナシちゃんの移動ポイントは計測しているから、あとは近辺を探すだけでOK。


あぁ……いるわねー。がん字がらめにされちゃって、痛そうー。

しかもあれ、AMF? 魔導師が魔導師殺しを平然と使うって、世も末だわぁ。


でも改めて見ると、ほんと馬鹿馬鹿しい女。

創造主から名前ももらえず、平気な振りをしても実は気にしまくり。

だからデバイスに安直な名前を付けて、反抗の狼煙(のろし)としている。


うふふふ……でもぉ、そういうのも好きよぉ。

大好きだからぁ、今回は助けてあげる。あなたの創造主にも、ちょーっと働いてほしいからぁ。

それにあなたみたいな虫けらが足掻(あが)く姿も、悪くないし……ね? というわけでぇ〜♪


「ディエチちゃん、ちゃんと見えてるぅ?」

「見えてるよ。空気も奇麗だし、遮蔽物も少ない……本当に、見えすぎってレベルでよく見えてる」


私達の目は人間のそれと違い、より力強く遠くを見据える。

ディエチちゃんの目には、ひ弱なヘリが目の前にあるがごとく映ってるはずよぉ。


「でも本当にいいの?」


ディエチちゃんは少し迷いながらも、イノーメスカノンを構える。

その全長はディエチちゃんより大きく、さながら城壁に突き立てる突撃槍。

まぁ狙うは城壁と言うには脆(もろ)すぎる、小さな、小さなぁ……虫けら用のヘリだけど。


「ケースはともかく、マテリアルの方も破壊しちゃうかも」

「それについては大丈夫♪ ドクターとウーノ姉様いわく――あのマテリアルが当たり(聖王の器)なら、砲撃くらいでは死んだりしないそうよ」

「いい加減だ、自分達で生み出しておいて」

「最終試験と言ってほしいわねぇ」

『クアットロ』


そこで空間モニターが開き、ウーノ姉様が厳しい表情で登場。


『ルーテシアお嬢様とアギトさんが捕まったわ』

「あららぁ……ナナシちゃんならともかく、そちらは何で」

『向こうのフォワード、その一人が質量兵器使いなのよ。それもかなりの手だれ……彼女も捕まったの?』

「えぇ」

『さすがはサンプルH-1と言うべきかしら。普通の魔導師であれば、あのAMBには手も足も出ない』

「でも、あのおチビちゃんは普通じゃない……むしろ私達の側(そば)にいる。そんなお馬鹿さんは一人だけかと思っていたらぁ」


まさか、もう一人だなんて。察するにあのティアナ・ランスターって子かしら。

なまじ頭がいい分、無能な仲間に足を引っ張られまくりな苦労人。

それで腹が立って、早速反逆……ねぇ。


うふふ、きっと苦しんでるわよねー。それも大好きよぉ、私。


『今はセインが様子を窺(うかが)っているけど』

「……フォローします?」

『お願い』

「ちなみに場所は」

『変わらず地下よ』

「了解」


それで通信終了……では早速念話っとー。

ディエチちゃんには視線で『準備していて』とアイサイン。


こういうとき、素直なディエチちゃんは使いやすいわぁ。

優しいからちょーっと情を絡ませるだけで、お人形さんになってくれるものぉ。


”セインちゃんー?”

”はいはーい、クア姉ー”

”こっちから指示を出すわぁ。お姉様の言う通りに動いて、ルーテシアお嬢様やナナシちゃんを助けてあげてねぇ”

”ん……了解ー”


ではでは、次にルーお嬢様へお話を通してっと。念話は……よし、繋(つな)がるわね。


”はーい、ルーお嬢様ぁー”

”……クアットロ”

”おじゃまでなければ、少しお手伝いして差し上げますがー?”

”お願い”

”はいー♪ ではお嬢様ー、クアットロが言う通りの言葉を、その赤い騎士に”


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――副隊長!』

「なんだ」

『その近辺にエネルギー反応です! 魔力じゃない……砲撃のチャージ確認! 物理破壊型、推定Sランク!』


……砲撃と聞いて、慌てて周囲を警戒。でも、それらしい気配はどこにも。


「どこだ……地下なんだろうな、それ!」

『待ってください。何これ、サーチには引っかかっているのに、細かい位置情報が……地下? それとも』


砲撃……地下なら私達よね。なら地上は? ここは既に廃棄都市部で……あ。


「シャーリーさん、地上には何がありますか」

『え』

「地上に……砲撃で撃たれるようなものは! この近くには何が!」

「逮捕はいいけど」


そこでルーテシアが口を開く。その口から放たれたのは。


「大事なヘリは、放っておいていいの」


答えそのものだった。まさか、ヘリはこの近辺に……ああもう!


「アンタ、誰と話してるの!」


クロスミラージュを向け、ルーテシアを威嚇。でも揺らがない……その冷たい表情は、一ミリたりとも動かない。


「あなたは、また」

「答えなさい……早く!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――あなたは、また」


ディエチちゃんは、伏せた状態でイノーメスカノンを構える。

砲口に集束する、オレンジ色の光――距離、二キロ五百。遮蔽物、風の類いはなし。

ビル風が吹き荒れる中、虫けらの死を想像し……絶頂を覚えながら。


「守れない……かもね」


笑いながら呟(つぶや)く。その瞬間、ディエチちゃんはトリガーを引く。

放たれた力の奔流は、風すらもはね除(の)け、奴らに師をもたらす。

周囲のビル三つほどをなぎ倒し――見事に着弾。


「ディエチちゃーん」

「命中確認……いや、爆炎がヒドいな。もうちょっと待って」

「そんな律儀にしなくても〜。あれじゃあ消し炭でしょ」

「ウェンディ曰(いわ)く、そういうのはフラグらしいよ?」


あらら、ディエチちゃんったら、まーた変な知識を付けちゃって。

……そういうの、調整とかが面倒だからやめてほしいのにぃ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地下には何も響かない。爆発も……悲鳴も……何も。

代わりに響くのは、シャーリーさん達の悲鳴に近い声で。


「ロングアーチ……シャマルは……ヘリは、どうなった」

『駄目……爆発によるジャミングがひどくて、観測できません! 今調べているので』

「どうなったって聞いてんだよ!」

「ヴィータちゃん、落ち着くです!」

「おい、てめぇ……何しやがった!」


副隊長はルーテシアに掴(つか)みかかり、激しく揺らす。それでもあの子は、表情一つ変えない。


「言え! 仲間がいるのか、どこだ!」


でもその視線が、能面みたいな表情の一部が、僅かに動く。

私達の背後に向けられていて……振り返ると、突如水色髪の女が襲いかかってくる。

それも地面から飛び出て、エリオが抱えていたレリックケースを奪い去る。


「つぅ……!」

「エリオ!」


クロスミラージュを向けると、水色髪はまた地面へと飛び込む。

いや、潜る。コンクリの地面は水面のように揺らめき、水色髪をたやすく受け入れた。


更に続けてルーテシア、脇に転がしておいたアギトも吸い込まれ、消えてしまう。


「な、なんなのですかこれ!」

「地面に潜った……物質透過!?」

「やられた……!」


高速移動に幻影、挙げ句は物質スイマー!? どんだけ戦力を整えてるのよ!

てーかあのスイマーは……スイマーは……そこで何かが、強烈に引っかかる。

……もしあのスイマーが昨日今日生まれたわけじゃないなら、少し……おかしいことになる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


マジックカードで消耗した体力を回復しつつ、奴を威嚇。

FN Five-seveNとアイツのデバイスもしっかり回収したし、シグナムさん達が来るまで事情聴取といこうか。


なおデバイスっていうか……本当に実弾銃だった。

端末らしきものも持ってないし、身一つで乗り込んできたのよ。

最悪捕まっても、情報を得られないように。徹底してるなぁ、好みだわ。


「おのれらの雇い主は誰。幾ら僕達がカッコ良すぎるからって、嫉妬はいけないでしょ」

≪ホントですよ。襲うならこの人だけにしてください。私の後光を浴びているだけなんですから≫

「そんなわけあるかぁ!」

「ねぇ、コイツはもしかしなくても馬鹿なの? ……そんな理由で殺し屋を雇うわけないでしょ!」

≪「え、違うの!?」≫

「当たり前よ!」


そんな、馬鹿な……他の理由なんて一切思いつかないのに。それが信じられず、ついふらついてしまう。


「あのね、おチビちゃん……あたしはアンタがすっごく好み! 外見なんて理想体型そのものだもの!
今すぐアバンチュールに誘いたいくらい好み! でも……その性格だけは今すぐ直しなさい!」

「あなた、犯罪者なのに何言ってるの! しかもなぎ君の体型が理想って……それ、犯罪!」

「違うわよ! あたしはルールを守るわよ! 守った上で、合法的に初めてをもらうのよ!」

「それただの変態ー!」


……とりあえず腹が立ったので、ギンガさんは蹴飛ばし、水路にたたき落とす。


「ぶべぼぉ!?」

「ごめんね、犯罪で……変態で。だから半径百メートル以内に近づくな」

「ちょ、なぎ君ー!」

「じゃあなんで」

「アンタを嫌っている奴がいるから」

≪いや、だから私がカッコ良すぎるから≫

「「それだけは絶対ない!」」


え、何声をハモらせてるの? そっかそっかぁ……やっぱり僕が。


「「なぎ君(アンタ)でもないから!」」

「……じゃあなんなの!? 理由が分からないよ! 僕達は人様に恨まれるようなこと、一切した覚えがないのに!」

≪ホントですよ。それ以外に存在しないでしょ≫

「あ、分かった……リンディさんでしょ。僕が縁を切ったの、逆恨みして」

「なぎ君、さすがにそれは」

「……それはわりかし近いかもね」

「え……」


え、マジ? ジョークのつもりだったのに……いや、待て。

今までの事件、状況……そこから考えれば、答えは一つだった。


「まさか、お前達の雇い主は」

「さぁね。アサシンが雇い主の情報を出すなんて、さすがに」

「アバンチュールはどこに行く?」

「洗いざらい喋(しゃべ)るわ! よーし、更生頑張っちゃうぞぉ!」

「切り替えが早すぎる! と、というかなぎ君……なぎ君ー!」


大丈夫、コイツは長生きする。それに……はっきり、言っていい?

実を言うと僕もその、好み……髪の美しさとか、体型とか。

まぁギンガさんは論外なので……そこで嫌な予感が走る。


そして迫る気配……それは、地下? 気づいてアルトを構えるけど、それじゃあ遅かった。

戒められた女の体、その一部に『手』が触れる。

地面からすり抜け、縄とも同化している手が。それは一気に女の体を引きずり込む。


コンクリの縄は変わらず、女の体を戒めているはずだった。

それなのに女だけがすり抜け、あの魅惑の体を揺らしながら、地面の中へと消えていく。


あとに残るのは、水面の波紋。それがコンクリに浮かぶ、異様な光景だけだった。


「な……なぎ君!」

≪AMFは未(いま)だ完全キャンセルレベルです。つまり、あれは≫

「やられた……!」


あんな能力者までいるんかい! でも、だったら。


――……それはわりかし近いかもね――


余計にあの言葉が引っかかる。どうやら昨日予測した件、大当たりみたい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


”クア姉、ルーお嬢様達は無事に救出! 指定ポイントに出たよ!”

”ありがと。……さて”

”聖王の器、回収しなくていいの? 何だったら”

”もうちょっと待って。ディエチちゃんが観測中だから”


でも、火力がありすぎるのも問題ねぇ。ディエチちゃんも真面目だから、状況確認が長くて。


「……あれ」

「ディエチちゃん?」

「嘘……でしょ」


慌ててモニターを展開し、ディエチちゃんの視界データにアクセス。……すると、そこには信じられない光景が映っていた。


”ルーお嬢様、救出をお願いします! プランは”

”道すがらセインから聞いた。大丈夫”

”ありがとうございます!”


爆煙が晴れていく。風に乗り、黒は隠れていた白を映し出す。

翻るロングスカート。

構えるのは金色の魔導杖。


槍のようにも見える、そのデバイスを持つのは――高町なのは。

エース・オブ・エース、管理局の魔王と言われる、あの頭の悪そうな女だった。


「オーバーSクラスの砲撃を……無傷って」

「完全に魔王じゃないのよぉ!」


……更に頭上に影が差す。ディエチちゃんがカノンを抱えながら、私は飛行魔法で後ろに飛びのくと、金色の雷槍が降り注ぐ。

それが屋上の床を十数か所打ち抜き、更にザンバーを構えたフェイトお嬢様まで登場。

あは……あはははは、もしかしなくてもピンチ? でもねぇ、それは。


”準備完了……二人とも、二秒だけ動かないで”


予測していたのよ……! やっぱりフラグってあるみたいだから、自分から立てちゃった! ……生存フラグをね!


「動くな! 管理局のも」


律儀に警告するフェイトお嬢様をさて置き、私達は転送魔法の光に包まれる。

そうしてこの場を安全確実に脱出……まぁ、今日のところはよしとしましょ。


あれは部隊長なり後見人が限定解除をしたせい。それも一人に一つずつしか持っていない、解除権限を使って。

八神はやて、更に頭の悪い分隊長達……一つ? ううん、恐らくは二つね。


三つある弾のうち、二つを一日で減らせたんだから。今回は安いものよぉ。

これで奴らがリミッター解除できるのは、あと一回。


この調子ならどんどん動きやすくなるし……ではお達者(たっしゃ)でー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本当にギリギリだった。はやてが英断を下していなかったら、ヘリは……!

そう……はやては自分の権限を使い、なのはと私のリミッターを解除。

だからヘリも守れたし、私も強襲が可能になった。


さぁ全力で……と思っていると、眼鏡女と一つお下げは消失。

紫の光――転送魔法によって。え、嘘……だって、ルーテシアは確保したって!


『フェイトちゃん、そっちは』

「嘘、なんで! こちらライトニング01――狙撃手と観測手を発見! でも、召喚師の転送魔法で逃げられて!」

『……こちら、スターズ02』


そこでモニターが展開。地下の薄暗い空間で、ヴィータは悔しげに目を細めていた。


『すまねぇ……戦闘機人の横やりで、召喚師達に逃げられた』

「……もう一人出たの!?」

『ドンブラ粉みてぇに、地面を潜る奴だ。全然気づかなかった……その上、レリックまで奪われて!』


最悪だ。ガジェットは倒したし、あの子も守られた。でも被疑者は捕まえられず。


『こちらライトニング02……蒼凪と合流したが、こちらもやられた』

「シグナム……え、じゃあそっちにも!」

『我々の到着寸前、犯人が地面に引きずり込まれたそうだ。
しかも蒼凪は犯人を物理的に拘束し、AMFを完全キャンセルレベルで展開していた』

『間違いねぇ、戦闘機人……あんなISまであるのかよ!』


私達、また何もできなかったの? ……そこで思い出すのは、本局で受けた叱責。

市街地でこれだけ暴れて、その上限定解除まで……一つ無駄遣いして。

またあんなふうに、罵られるのかな。嘘(うそ)つきだと……ヤスフミ一人の方が役に立つと。


それが怖くて、恐ろしくて、自分を抱き締め震えてしまう。


(act.12へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、分量的にちょこっと増大して状況終了。……スバルがまたやられたよ」


(『相性ゲーは悪い文明だ』)


恭文「お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪どうも、私です。さて……私達は現在、天竺(てんじく)を目指して旅の最中≫



(注:FGOのイベントです)


恭文「今回は僕、孫悟空(そんごくう)らしい。というわけで……セイバー相手にはかめはめ波ー!」

妖怪達『うぎゃー!』


(ちゅどーん!)


恭文「アサシン相手にはクレイモア!」


(しゅぱ! ……ずどどどどどどどどどー!)


恭文「ランサー相手には鉄輝一閃! アーチャー相手には如意棒!」

古鉄≪相性ゲーは悪い文明ですね≫

ジガン≪というか、一人で全クラス切り替えはおかしいの!≫


(『バランス崩壊は悪い文明だ』)


恭文「えー、だって孫悟空って言うからー。せっかく悟空(DB)師匠からも如意棒を借りてきたのに。あとあと……筋斗雲ー!」


(しゅぱー!)


恭文「とう!」


(そして筋斗雲に乗っかる蒼い古き鉄)


恭文「筋斗雲もバッチリ」

シオン「さすがはお兄様です……ぽ」

古鉄≪あなた、どっかの妹さんと被ってますよ≫

ヒカリ(しゅごキャラ)「もぐもぐ……この肉まんは美味(うま)いな」

ショウタロス「あぁ……って、それは食べるなぁ!」

恭文「やめろ馬鹿! せっかく集めたアイテムがー!」


(そして大食いしゅごキャラは、お仕置き決定。
本日のED:ゴダイゴ『ガンダーラ』)


恭文「なんちゃーらー♪ なんちゃーらー♪」(JASRAC対策)

古鉄≪あなた、テンション高いですね≫

恭文「だってお師さんが」

古鉄≪ようやく欲望を解放しましたしね。好きでしょ、オパーイ……大きいオパーイ≫

恭文「……はい」

ジガン≪これでセブンイレブン計画も捗るのー≫

恭文「なんか新しい計画が始まってる!?」


(一方そのころ、蒼凪荘の庭先)


フェイト「えっと、こうしてああして……えい!」

(魔法発動ー! ……そして)

ふぇー×20『ふぇふぇふぇ……ふぇー!』

ふぇー「ふぇー!?」(つぼみと遊びにきていた)

つぼみ「わぁ……また失敗ですね」

フェイト「うぅ……うぅ……何度やってもふぇーになっちゃうー! 私の分身が作りたいのにー!」

シャンテ「フェイトさん、魔力制御も、術式の演算処理も甘過ぎ。陛下の下級生だってもっとできるよ?」

フェイト「私、小学生レベルなの!?」

シャンテ「でもまた、どうしていきなり分身なんて」

フェイト「あのね、奥さんとしてパワーアップしたくて……分身でこう、恭文にいっぱい……取り囲むようにコミュニケーションして」(ガッツポーズ)

つぼみ・シャンテ「「フェイトさん、エロいです」」

フェイト「エ、エロくないよ! というか、シャンテもやってるのに……ふぇー!」

ふぇー「ふぇー♪」(『応援するよー♪』のポーズ。というかガッツポーズ)


(おしまい)







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