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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
act.7 『達人』

上役の皆さんが……機動課の課長さん達が、厳しい視線を送り続ける。それに対してきびきびと答えられるのは、母さんだけで。


「シグナムは答えています。もう少しだと」

「秒数を明確にはしていませんよね。レポートと通信記録によると、もう少し……副隊長達を信じて、信じろと言うばかり」

「戦闘中ですよ? 彼女達も次元震で負傷していましたし、明確な数字など難しいに」

「AI付きデバイスもいれば、飛行速度と距離から算出も可能でしょう。いや、ロングアーチスタッフでもいい。
……まさか機動六課では、そういったフォロー耐性も整えていないのですか? 常識ですよ、これは」


シグナムは屈辱に打ち震えていた。常識すら分からず、守れなかった自分……それを改めて突きつけられ、震えていた。


「これはハラオウン分隊長の監督責任も問わなければなりませんな」

「全くですな。もちろん八神部隊長、シャリオ・フィニーノ一士――ロングアーチスタッフにも処罰が必要かと」

「お待ちください! 分隊長は結界維持のため、懸命に抗(あらが)っておられました!
部隊長もホテルの運営側と交渉を! ロングアーチスタッフも各々の仕事を全うしていました!
……全ては現場を預かっていた、私の責任です。どうか処罰なら私だけを」

「預かっていた? 現場の指揮官はシャマル医務官ではないのですか」

「前線での指示は私の担当です!」

「それについて、フォワード陣への説明はありましたか。レポートには記述がありませんが」

「これは問題ですなぁ。やはり八神部隊長、両分隊長の管理責任としか」


アッサリと流され、シグナムは絶句。……ここまで厳しく、明確に敵意を向けられるなんて。

やっぱりだ……私達が、偽物だから。ヤスフミとニムロッド捜査官から、手柄を奪った嘘(うそ)つきだから……!


「そうそう……リンディ提督、あなたもその虚言癖は、そろそろ直された方がいいかと」

「な……!」

「お待ちください! さすがにそれは暴言でしょう!」

「ではクロノ提督、逆にお聞きします……彼女はこの会議で、幾つ嘘を重ねましたか」

「蒼凪恭文が機動六課スタッフだという嘘。機動六課スタッフが、的確な仕事をしたという嘘。それをどう説明しますか」

「それは」

「いやいや、よく分かりました。この調子で去年も大暴れしたんですね」


暗にHa7のことだと、すぐ理解した。……そうか……母さんの影響もあるんだ。

母さんがアイアンサイズ対策を邪魔したのは事実。でも親和力のことは公表できない。

だからそれで、何のおとがめもないのが許せない……それは、当然のことだった。


そしてその厳しい視線は、縁者である私達にも向けられていた。だから、ここまで敵対的なんだ。

でも今までは……ううん、手ぐすね引いて待っていた? ミスするのを待って、それで……!


「そうすれば、ランスター二士も無茶(むちゃ)をせずに済んだ……かもしれない。違いますかな」

「いえ……仰(おっしゃ)る通りです。ですが今回の出動で現れた問題点は、我々全員で取り返していきます」

「なるほど。あなたは『取り返せない状況』を想定していないわけですか」


それではやての決意も、アッサリあざ笑ってくる。


「いずれにせよ機動五課としては、こんな体たらくのメンバーと仕事はしたくありません」

「四課も同じくです。これならGPOに委託するか、蒼凪君一人の方がいいですわ」

「三課も同じくです。まぁ蒼凪くんの場合、やり過ぎる点を除けば極めて有能ですしね。局員にならないのが常々惜しい人材だ」


ヤスフミ、四課や三課の方々と知り合いなの!? 部隊長さん達、すっごく親しげに話してるんだけど!

き、聞いてない……何も聞いてないよー! はやて、シグナムもこっちを見ないで! 私は知らない!


「いやいや、それは酷というものですよ。本人のあずかり知らぬところで、勝手に局員扱いとする身内がいるのですから」

「そんな! 私はただ……」

「お待ちください。母さ……リンディ提督の発言に、行きすぎた点があることは認めます。
ですが今の発言は撤回していただきたい。GPOはともかく、嘱託魔導師一人に劣るなど」

「現にホテル・アグスタでは、あなた達は現状維持でやっとだった……違いますか?」


その反論に、クロノも、はやても、何一つ言い返せなかった。

もちろん私も……。


分かっている、ことだった。

私達みんなが、共通認識として持っていた。だから反論できなかった。


私達ではもう、ヤスフミに追いつけない――。


追いつこうとしても、ただ縛り付けるだけ。窮屈な思いをさせるだけ。

なぜヤスフミに、アルトアイゼンが託されたのか。

なぜヘイハチさんが、ヤスフミを弟子にしたのか。


その答えを私達は知っているから。……分かっていた。

いずれ、こういうときが来るって、分かっていた。

それはきっと喜ばしいことで、その上で繋(つな)がるものだと信じていた。


ううん、信じたかった。でも現実は違う……余りに、違いすぎて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……会議は散々で終わった。ほぼ機動六課への罵倒大会……そのたびに持ちだされる、あの子の存在。

もう、間違いない。あの子の……古き鉄の評価は、局内でもうなぎ登りだ。

そもそも市井の人達にも、ヴェートルの真相は見抜かれていると言っていい。


でも、倒せた……フェイト達でも、倒せた。この成果はフェイト達が得て当然のもの。

偽物扱いは納得できない――それは、一体どうしてか。


私達が恭文君やGPOから手柄を奪ったとしたら、それを最初に……フェイト達から奪ったのは……。


だから声をかけてきたフェイトやはやてさん達からも逃げ、提督室へ戻り……そのまま、応接用ソファーに突っ伏す。


「私の、せいだ」


そうしてようやく……堪えられない屈辱を、涙としてこぼし、払い始める。

頭を抱え打ち震えても、消えない……去年、私が犯した愚行は消えない。


そう、最初に奪ったのは私。

私がアイアンサイズ用の特攻ウィルスを破棄したから。

公女の親和力に魅入られ、圧力などかけてしまったから。


取り戻したかった。フェイト達が受けるべき評価を。

私が奪った、正当な評価を……ただそれだけだった。

なのに、奪われたのは全部……GPOと恭文君が受けるべき評価まで差し出した。


それが上の判断ならと納得した。でもそれは、間違いだった?

そのせいで今、フェイト達は貶(おとし)められる。私が……分不相応なことを望んだから。

取り戻せないものを、取り戻そうとしたから。それが怖くて。


怖くて。

怖くて――。


「私がフェイト達を、貶(おとし)めている……!」


どう言いつくろっても、どう誇っても、無意味だった。恭文君だけじゃなかった。

私のせいで信じられない。私が、あの子達の足を引っ張っている。

だから必要以上に六課が貶(おとし)められる。あの子達の夢が、恭文君一人に負けてしまう。


「クライド、助けて……ううん、クライドじゃなくてもいい。助けて……このままじゃ、私」


伝わらない……また、鎧を着込み、墓穴を掘った。

このままじゃ駄目だと分かっているのに、私は自分を守り続ける。

ごめんなさい、フェイト……なのはさん、はやてさん……私が、あんなことさえしなければ――!




『とある魔導師と機動六課の日常』 EPISODE ZERO

とある魔導師と古き鉄の戦い Ver2016

act.7 『達人』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


母さんと話そうと思ったけど、仕事がそれを許してくれなかった。

クロノも意気消沈し、私達も逃げるように本局から出て、中央本部へ。

あそこまで明確に敵意を向けられるのは、本当に予想外で。同時に突きつけられた。


機動六課が――私達が、どれだけ厳しい立場にいるのか。


「我々全員集まっても、蒼凪に……劣る?」


シグナムは廊下を歩きながら呟(つぶや)き、やり切れない様子で涙をこぼす。


「ふざけるな……!」

「でも、それが現実や。……分かってたことやろ。
アイツがヘイハチさんから、アルトアイゼンを受け取ったときから」


……ヤスフミの道は、最初から私達とは違っていた。

それは、分かっていたことだった。ヤスフミは私達を超える――。

超えて、追い抜き、私達はその背中を見つめることしかできない。


ヘイハチさんの強さに、私達の誰一人追いつけないように。

あの人と今、連絡を取り合うことすら難しいように。

でもそんなことはない。そんなはずはないって……思いたかったのに。


あの人が特別なだけで、ヤスフミは違う。描いた夢は夢のまま、静かに宝箱にしまわれる。

そうして私達のように、母さんが言う【みんなから認められる大人】になって……そう信じたかった。


「……ティアナについても、同じように言われちゃったね」

「そやな」

「なのはに、どう言おう」


ようはティアナがいたから、無茶(むちゃ)をしたから、ホテルを守れたってお話だよ。

それで少しでも時間を稼ぎ、進軍を止めたからって……なのはには言いづらいよ。

そうなるとティアナの無茶(むちゃ)は正しくて、推奨されるべきだった事例になる。


ミスショットも含め、解決するべき案件にはならなくて。


「頑張るしか、ないんよ」


はやては自分に言い聞かせながら、足を進めていく。


「リンディさんに、うちらに、厳しい視線を向けるのは当然や。
頑張って、成果を出す……そのための部隊なんやから」

「……はい」

「私も頑張ば」

「「ガッツポーズはやめろぉ!」」

「ふぇ!?」


あれ、どうして! さっきまで落ち込んでたのに、急に全力投球……いや、ガッツポーズが駄目って何!? 説明プリーズー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで――それから三日。本局から、正式に処分の通達がきた。

部隊長室になのはちゃんとフェイトちゃん、副隊長達にシャマル、シャーリーを呼んで通達。


「みんな、四十五パーセントの減俸を六か月。両副隊長とフィニーノ一士、シャマル医務官は二十日間の謹慎処分が追加や」

「は、はやてちゃ……げほげげほ! げほぉ!」


なのはちゃん、せき込まんでえぇ! もっと穏やかな誤魔化(ごまか)し方があるやろ!


「八神部隊長、それは……ティアナの件なら、スターズ分隊長である私の責任も大きいです!」

「それに医務官や副隊長が抜けるのは……仕事でもマイナス面が大きいです。
謹慎処分だけでも、考え直すことは無理でしょうか」

「無理よ。……まぁ会議に出ていたフェイト隊長、シグナム副隊長は知っているやろうけど、リンディ提督が嘘ついてもうたから」

「おいおい……処分はいいが、嘘ってなんだよ! あの甘党の巻き添えかぁ!?」

「あのね、ヤスフミ絡みの話なの。ヤスフミは自分の保護児童で、六課のスタッフだって言ったから……でも、実際は違うし」

「「「あ……」」」


それでヴィータとシャマル、シャーリーは察したらしい。うん、アイツもキレてるしな。

抗議もしとるしな……毎日うちに抗議電話、かけてくるしな! 応対しとるスタッフが頭を抱えていたで!


「仕事の方はうちも手伝うし、何とかする。なのは分隊長も教導関係で手間がかかるやろうけど、ちょお頑張ってよ」

「……ここで無理をすると、後々面倒なんですか?」

「かなり」

「分かりました。じゃあ部隊員には」

「通達する。事情も含めてな」


それはつまり、ティアナの件に対して……本局の見解が出るということで。

どない動くかなぁ。部隊としてのテンションが下がりそうで、正直怖いわ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヒロさんからの頼みを受けても世界はとても平和。なので僕は暇……じゃなかった。

フェイトからの定期通信を受けつつ、手元を懸命に動かしていた。


『旅に出る!? え、パーペチュアル……ニムロッド捜査官達のところ!?』

「うん。ほら、現地術式があるでしょ? 夏休みだし、その勉強をしようと思って」

『え……現地術式? 何それ』

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

『え、知ってなくちゃいけないの!? だから驚くのかな!』


なんて馬鹿馬鹿しいことを……! あんまりな発言が信じられず、口をぽかーんとしてしまう。


「フェイト、認めよう……おのれじゃジェイル・スカリエッティは捕まえられない」

『いきなりヒドいことを言われた!?』

「プロジェクトF絡みで追いかけているのは知ってるけどさぁ、無駄だって」

『……ヤスフミ、どこでそれを』

「嫌だなぁ、僕は賞金稼ぎ(カウボーイ)よ? めぼしい賞金首はチェックしてるに決まってるじゃない。
……フェイト、奴の値段を知っている? 生死を問わず三億だ。また安いよねぇ」

『知ってる。というか』


あれ、フェイトが打ち震えている。それで頭はアホ毛が飛び出し、僕を指差ししながらばたばた。


『知っているに決まってるよ! この間、散々言いまくってたよね! わ、私でも覚えられるよ! というか、こだわりすぎだから!』

≪犯罪歴だけで見ると、その十倍は欲しいところですね≫


SSS級の広域次元犯罪者……三億かぁ。ゲットすれば、ネオニートになれるね! よし、修行を頑張ろうー!


「なので勝手にかっさらわないでね? 三億確保のために必要なのに」

『かっさらう!? いやいや、私……執務官ー! 悪い人を捕まえるのもお仕事だから!』

「あ、しまった……まぁ内緒ね」

『無理だよ! 内緒っていうか無意味だよ! 私本人ー! もう知っちゃってるしー!』

「分かった。じゃあこうしよう……僕が逮捕したって話にして、賞金は山分け。それなら」

『それ賄賂って言うんじゃないかな!』


シリアスなのも好みじゃないので、適当なジョークでやり過ごす。なのにフェイトはとっても不満そうだった。


「フェイト、よく考えてみて。フェイトは局員だから、三億は手に入らない。でも僕は手に入る……あとは分かるね」

『何が!? と、というかお金の問題じゃないよ。これは正義の』

「いや、だから正義はお金でしょ? おのれ、お金がいらないというのなら今すぐ全裸になりなよ」

『絶対分かり合えない論理を持ち出してる! とにかく……そういうのは駄目だよ。それに私は強いし、経験もあるし』

「あれはそう、去年の今頃だったか。とある魔導殺しを相手に、戦えもしない執務官がいました」

『……ぐす』


あれ、おかしい。ちょっと思い出話をしただけなのに、一気に涙目だよ。あぁ、感動でむせび泣いてるんだね、分かります。


「フェイト、考えてみて……三億だよ? 稼げば一生質素に暮らせるんだから。僕に捕まえさせて、それでネオニート生活に突入しようよ」

『ヤスフミ、幾ら何でもお金にこだわり過ぎじゃない!? ここ最近暴れ回ってたのも、オークションへの金策だったんだよね!
あ……まさか、借金!? ねぇ、そうなのかな! 借金があるのかな! クレジットカードの使いすぎとか!』

「僕はいつでもニコニコ現金払いよ? 単に貯金通帳の桁を増やしたいだけ」

『何それー!』

「そう。だったら……はい、振り返ってみようか。例えば一年前」

『ごめんなさい』


フェイトは崩れ落ちて、軽く涙を流しながら敗北を認める。……茶化(ちゃか)してはいるけど、やっぱり不安なんだ。

フェイトは優しい分、人の痛みなどに引きずられやすい。そして馬鹿……そして天然。

特にスカリエッティは自分の生まれに関係しているし、多分追っているのも……そういう理由からだろうし。


そして馬鹿……そして天然。ヤバい、不安過ぎる。フェイトは間違いなくドジをやらかす。

少しでもそういう気持ちが伝わればいいなと思って、僕は画面内のフェイトをそっと撫(な)でた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


七月も末日に近づきつつある、今日この頃――。

自宅で夕飯を頂きながら、テレビを見ていると。


『――続いて政治経済。先日、ミッドチルダ管理局・地上中央本部において、来年度の予算会議が行われました』


キャスターのお姉さんがフェードアウトして、とある会場が映し出される。


『当日は、首都防衛隊の代表・レジアス・ゲイズ中将による、管理局の防衛思想に関して表明が行われました』


壇上で威厳をまき散らすのは、ミッド地上本部の実質的トップ。

くり色の髪と立派な口ひげを生やして、青い将校服を堂々と着こなす。この人がレジアス・ゲイズ中将だよ。


『魔法と技術の進歩と進化、すばらしいものではあるが……しかし!
それが故に我々を襲う危機や災害も、以前とは比べ物にならないほどに危険度を増している!
兵器運用の強化は、進化する世界の平和を守るためである!』


会場の中からあがった歓声。なぜだろう、それに心が躍る。この人の言葉に引きつけられるものがある。

強い意志と平和を守りたいという願いに満ちあふれた力が、この人の言葉にはある。だからかもしれない。


『思い出してほしい! 例えば一年前――ヴェートルでのテロ事件!
あのとき悲しいかな管理局は本局・ヴェートル中央本部ともに役立たずであった!
にも拘(かか)わらず我々の組織は、世界は、何も省みようとしなかった! 何も変えようとしなかった!
それこそが時空管理局の現体制が時代遅れのものとなりつつある証拠である!』

「また大胆発言だなぁ」

≪えぇ≫


管理局全体にケンカ売ってると取られてもいいのに……でもそれに比例して、会場の興奮度が上がる。

会場にいる人達も真実だと知っているからそうなるのよ。知らない振りしてるのは、一部の局員だけ。


『そんな現実を見ようともせずに臆病風に吹かれ! 組織を守ることだけにかまけて逃げた連中になどもう任せておけん!
組織は、警備組織は何のためにある!? 市民を守るためだ! その意義を見失った組織など、存在意義はない!』


レジアス中将は右手を挙げて、力強く握り締める。


『そして悲しいかな、去年の一件で本局と局上層部は、自分達がそんな組織であると世界中に公言してしまった!
思い出してほしい! あのとき感じた憤りとやるせなさを! その感情は私も感じたものだ!
だからこそ許せん! ただ期待するだけで何が変わる! 変わるわけがない!』


怒り心頭と言いたげな表情が、その言葉に力を持たせる。そしてこの瞬間、レジアス中将と観客達は確かに繋(つな)がった。

うーん、やっぱり上手(うま)い。理屈は分かっていても、つい乗せられちゃうよ。


『組織もそうだが、我々自身も変えなくてはいけない! 皆で新しい形を探さなければならない!
だからこそ我々ミッドチルダ地上本部が、新しき時代に沿った警備組織の姿勢を今ここから示す!
愚者と呼ばれても構わん! ただそれでもこの世界で暮らす人々のために……あえてこの身を捨て石としよう!』


問題発言も言い方と解釈を変えれば一気に爆弾となる。それも現状を打破する起死回生の一手と取られてもいいくらいの爆弾だ。

覚悟を示した――そう煽(あお)られた参加者が歓声と拍手。それが静まるのを待ってから、厳しい言葉は続く。


『そのための一歩がアインヘリアルであり、その後に続く計画の数々もそのためであることは御理解いただきたい!
時代は変わり、世界は未(いま)だ変わりつつある! ならば今こそ組織は……我々管理局は変わらなければならないのだ!』


レジアス中将の切り替えは非常にうまくいった。だってまた歓声が響いたんだから。

ヴェートルの一件のことをツツいて、薄れていた憤りとやるせなさを呼び起こしす。そうして共感をってところかな。

あのときのことは市民よりも、局員連中の方がずっとイライラしてたもの。そうじゃないのは上層部だけ。


だからこそここでヴェートルのことを持ち出すのは、非常に効率の良い手段だったりするわけだよ。

やっぱりレジアス中将の演説は普通に見てて面白い。こういう人を引っ張っていく力に満ちてるもの。


『……まず現状、首都防衛の手は未(いま)だ足りん。だからこそ変革の必要がある。
地上戦略に置いても我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪発生率も二十パーセントまで減少。
検挙率に置いては三十五パーセント以上の増加を、初年度から見込むことができる!』

「……あいかわらずハッタリかますおっちゃんだなぁ」

≪ですねぇ。さすがにそれはいかないでしょ≫


ただこういうのも勢いだしなぁ。ここまでノリにノッたギャラリーが冷めるようなこと、言っても無意味だしさ。

カレーをまた一口食べながら、胸の中に感じているワクワクを抱きしめつつ……ずっとテレビを見ていた。

正直ね、ヴェートルの一件……管理局のあれこれにはかなりウンザリはしてるんだ。状況を間近で見たから。


でもこうやって……それでも何かを『変えていきたい』と声をあげる人を見ると、この組織も捨てたもんじゃないかなって思う。

ただ信じるんじゃなくて、自分から動いていく姿勢はとても好感が持てる。うん、僕はこの人が好きかな。


――では、食事も終えたところで、さっと立ち上がり。


≪行きますか、パーティに≫

「うん」


白のスーツを着こなし、サングラスをかけ、自宅を出た。

目指すはミッド北部の再開発地域――その一角にあるハイドランド港だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クラナガンなどの都市部を新都とするなら、再開発地域は下町と言われている。

サーチャーなどの防犯設備がアップデートされていないため、その空気も大きく変わる。

ただ建物が壊れているとか、治安が極端に悪いということもない。人の営み、それを示すネオンの輝きは変わらない。


まぁ、悲しいかなそんな生活の裏で、悪巧みをする奴らもいて……今日、ここにきている奴らもそうだ。

車で近づくと、金網のフェンスを守るガードマン二人……ゆっくり停車した上で、窓を開ける。

厳(いか)つい顔でこちらをのぞき込んでくる二人には、まず笑みを返した。


「……朝焼けには」

「ソルティードッグがよく似合う」

「どうぞ」


事前調査で聞き出した暗号を伝えると、フェンスが開かれる。

なのでそのままティアナのアクセルを踏み、楽しいパーティ会場へ入っていく。


……そこに並ぶのは、雑多な銃器や違法デバイス。さらには薬物までも混在。

老若男女はお目当ての品を探し、人によってはうつろな目で異性にしなだれかかる。


”アルト”

”監視網へのアクセスは順調……どうします?”

”突っ込むに決まってるでしょ”


なのでティアナを手近なところで停車。その上で車から下りて、人混みの中へと歩いていく。


「お、姉ちゃん……どうだい。俺とコイツで楽しまないか? ぶっ飛ぶぜー」


そんなナンパも軽くかわし。


「ほれほれ! このデバイスを見ておくれ! 高町なのはが扱うレイジングハートのコピーモデルさ! 性能はもちろん折り紙付き!」

「こっちはバルディッシュのコピーモデルだよ! カートリッジ性能も弄(いじ)ってるから、本物より強いって評判さぁ!」


大人気なエース達には苦笑を送り、マーケットの一角へと忍び寄る。

そこも違法デバイスの露天で……ただ、雰囲気は他のと少し違っていた。

傷持ちな店主はぶ然としながら、コート姿の男に指輪を渡していた。


サーチャーから得られたデータを使い、認証プログラムを走らせる。


”間違いありません。あの二人ですよ”


ゼスト・グランガイツ……そして、奴から贔屓にされているらしい情報屋。狙い通りで嬉しいねー。


”ユニゾンデバイスや召喚師はいないっぽいね”

”どうします”

”今回はここ(ブラックマーケット)が目的じゃない”


サーチャーから参加客、運営側の顔は記録しているし、随時更新中な記録データもバッチリ。

そっちは局に送れば問題ないでしょ。……今ここでアイツらを襲っても、大混戦で取り逃がす公算が高い。

なので適当な店で銃器を見ながら、様子を窺(うかが)う。マーケットから出たところを狙い……ズドンだ。


なおちらちら見る必要はない。魔力反応も限界まで抑えてるし、既にシステムは掌握済み。


”音声、拾えますかね”

”大丈夫……マイクの集音率を弄(いじ)って”


サーチャーの一つをゼスト・グランガイツ達に注目させる。そうするとほらー、喧噪(けんそう)混じりだけど声が聞こえてくるよー。


『……レジアス中将だが、ラプターの件はまだ諦めていないようだ』

『カレドヴルフ・テクニクス社とのパイプもそのままか』

『あぁ。アインへリアルはあるが、あれは小回りが利かない。地上の意志を象徴するだけのお飾りさ』


カレドヴルフ・テクニクス社? ……オートマ銃の一つを手に取り、吟味。いや、そうしないとほら、疑われるから。


「これ、口径は」

「五十さ」

「デカいねぇ。反動も凄(すご)そうだ」

「ところがそうでもない。重量バランスは考え抜かれているから、嬢ちゃんでも楽々撃てるぜ。
それにこれくらいないと、魔導師のシールドはぶち抜けないだろ」

「だろうねぇ」


弾が入っていないのを確認した上で、在らぬ方向に構えてみる。

おぉ……このオートマ、僕の手にしっくりくる。いいねいいね。


『それで今年の公開意見陳述会に肩入れしている。
アインへリアルはさっき言った通りお飾りだが、あれで前提もできる』

『そうしてラプターのような、管理局の理念に反するものを導入するわけか』

『デバイス扱いさ。反してはいない』

『反している。……非殺傷設定による、犯罪者をも救う戦い――それが局の掲げた正義だったはずだ。
ただプログラムに従って動く人形に、正義が貫けるものか』

『ブーメランだな。こんなところに出入りする男が言う台詞(せりふ)じゃない』


全く同感だ。しかしラプターってのは……兵器だよね。デバイス扱いにできる新装備。

それでCW(カレドヴルフ・テクニクス)社、だよね。確かあそこは。


”ヴァイゼンを拠点とする、魔導端末メーカーですね。本局教導隊とも技術協力していたはずですが”

”でも、一般には公表されてないよね。レジアス中将とのパイプなんて”

”えぇ。つまりゼスト・グランガイツは、レジアス中将のことを調べている”

”サリさんの話では友人同士だそうだから、そのせい? にしても”


このおっちゃん、相当偏った局信仰者だね。いや、理念を信仰していると言うべきか。

ブーメランと言われても、平然としているし。


『俺はもう、それを貫く道から外れてしまった。だが』

『はいはい、機動六課だろ。若い世代の、優秀なエースが引き継いでくれる』

『俺はあの部隊にいるエース達こそ、これからの局を背負ってくれるだろう。そうして俺達では貫けなかった、輝かしい未来を形とする』

『やっぱりブーメランだよ、アンタ。……そうして期待ばかり押しつけるから、大事なものをなくしていく』


よく言うわー。ただツッコまれて恥を感じる心はあるのか、ぶ然として黙ってしまった。


「これ、使用弾薬は手に入りやすいのかな」

「あぁ。ヴェートルでもよく使われるタイプだからな」

「銃の精度もかなりいいね。素材の特殊樹脂も良質だ……よくある粗悪品とは違う」

「おぉ、お目が高いね!」


どうしよう、欲しくなってきたんだけど。ここでしか手に入らないよね……ハンドメイドだしさ。

でも……違法銃だしなぁ。購入したら僕もおたずねものだし……いや、証拠品確保だ。

そうだよ、必要経費だよ。潜入を怪しまれないため、あくまでも客の振りをするためだ。


ちゃんとコイツらはしょっ引いた上で、データだけもらって、後でサリさん達にも手伝ってもらい再構築。

ちゃんとハンドメイドの銃として、使用許可ももらって……お、完璧じゃん!


『そうそう、その機動六課だが……ちょっと怪しいぞ』

『どういうことだ』

『アンタは金払いもいいし、警告さ。……どうも設立に、伝説の三提督が絡んでいるらしい』


伝説の三提督――ミゼットさん達が? それは聞き捨てならなくて、意識を集中させる。……でも銃の見立ては忘れないようにー。


『ミゼット提督達だと』

『八神はやて部隊長や後見人達は設立前後、非公式に三提督と会談している。
それでこれまた非公式にだが、三提督からの訴えかけもあったらしい』

『彼女達がそれほどに優秀という話だろう。実際レジアスも、最高評議会の眼鏡に適(かな)っている』

『普通ならな。だがよ……そもそもの話だ』

『あぁ』

『アンタのスポンサーは、何でそれを止めなかったんだ』


スポンサー……そう口に出した途端、ゼスト・グランガイツの表情が切り替わった。

スポンサーって、スカリエッティ達? そっか、やっぱりそこが疑問だよね。

……でももしかしたら、もっと大きな意味で……それはそうと。


「よし、これもらうわ。幾ら?」

「毎度あり! じゃあ対応する50×36メグロック弾も百発つけて」


証拠品確保……そう、証拠品確保です。とにかく電卓を叩(たた)き、おじちゃんは人なつっこい笑顔でそれを見せてくる。


「え、二十でいいの? これだけの質なら、三十くらいは覚悟してたのに」

「いいよいいよ。今日は出血大サービスだ!」

「ありがと」

「ただ現金払いだが」

「こういう場所での基本でしょ。分かってるって」


そのため、お金もキッチリ用意している。なので財布を取り出し……ん?

今、サーチャーの映像にノイズが走ったような。


”ねぇ……システムに誰か、干渉してない?”

”そう言えば……あれ、嫌な予感が”


僕もだよ……掌握したネットワーク上に、異物感を覚える。なのでそれを逆探知しかけたところ――。


突如ブラックマーケット中のライトが強制点灯。上空からもJF704式が三機強襲をかける。


『全員、動かないでください! こちらは陸士108部隊――あなた方全員を、違法取り引きの疑いで連行します!』


この声、ギンガさん……やってくれやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うちの管轄で、大規模なブラックマーケットが開催される――前々から調査していた結果、目にしたのは信じられない光景だった。

前時代的な銃器や違法デバイス、薬物が堂々と売り買いされる場。ヘリの中で卒倒しかけたよ。

というか……こういうことがあるから、防犯装置のアップデートは急務だって言うのに!


『やっぱり逃げ始めたか……ギンガ!』

「回り込んでください! 逃走集団の先頭を押さえます!」

「了解!」


いら立ちながらも指示を飛ばし、デバイスをセットアップ。

最近六課から送られた、新しい相棒のブリッツキャリバーを装着。

これはスバルが使っている、マッハキャリバーの予備パーツで組まれた機体。


私達は資質も、扱う魔法もほぼ同じだから、六課の御厚意で提供された。


「初陣だね、ブリッツキャリバー」

≪Yes Sir≫

”ギンガさん……聞こえる!? ギンガさん!”


あれ、この声……なぎ君!? え、どうして念話が!


”なぎ君、こちらギンガ・ナカジマ! え、どうしたの! まさか……駄目だよ! 幾ら銃器が欲しいからって、違法物は”

”違う! ゼスト・グランガイツ達を追ってたの!”


……そこで嫌な動悸(どうき)が響く。ゼスト・グランガイツ――最近、六課と遭遇したらしい男。

母さんの元同僚で、八年前に死んだはずの……しかも、召喚魔導師まで連れていた。


そうか、実際に接触したのはなぎ君だ。だから独自に追っていて……。


あれ、それってマズくない!?


なぎ君のことだから、この場で取り押さえるとは思えないし……つまり。


”じゃ、じゃあ私達って”

”最悪のタイミングだよ!”


やっぱりー! なぎ君達も視認したところで、私達が襲撃をかけたんだ!

マ、マズいマズいマズい……とにかくなぎ君の位置! それにゼスト・グランガイツの位置!


”場所は!”

”逃走集団の先頭!”

”分かった……こちらで先を押さえるから、なぎ君は退避して!”

”どこへ!?”


どこへって、それは……どこにだろう。あぁ、とにかくカルタスさん達に連絡! なぎ君は撃たないようお願いしないと!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


当然それで納得するわけがない参加者達は、雪崩のように会場入り口へと押しかける。

しかしそこで装甲車が突入し、中から陸士部隊の隊員達が襲撃。結果逃げ場を失い、逆方向へ……。

人波によって露天もなぎ倒され、商品達は派手に錯乱。場は一気に混乱する。


なので銃器ショップの中を突っ切り、人波から退避。……奴らは入り口と反対方向へと走る。

それを即座に追跡――なお後ろからは、非殺傷設定の魔力弾が派手に飛んでくる。


『動くな! 抵抗すれば攻撃させてもらう!』


抵抗しなくても攻撃してません!? カルタスさん達も無茶(むちゃ)だなぁ! とにかく念話……このままだと、僕も参加者にされかねない!


「くそが……! というか」


どうしよう、銃を持ってきちゃった! 弾も持ってきちゃった! おっちゃんに返そうにも、すたこらさっさと逃げちゃったし!


「……ぐふ!」


いや、非殺傷設定の魔力弾に頭を撃ち抜かれ、遥(はる)か後方でこん倒した。おっちゃん、安らかに眠れ……!


「えぇい、こうなったら破れかぶれ!」


銃と弾薬は一旦仕舞(しま)い……盗んだんじゃない。借りただけだ……永遠に。

あと、追跡に使えそうなものを数々物色・押収。これも火事場泥棒じゃない――正義のために活用するだけだ!


≪私達の活躍、取り返しましょうか≫

「もちろん! It's――」


右手で虚空を切り裂き。


≪「Show time!」≫

≪The song today is ”Must Be”≫


おぉ、シリアスだけどかかった! よーし、それなら強化魔法も全力で……走ってやるからね!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なじみのマイスターに所用を頼み、情報ももらっていたところでこれだ。

108……ゲンヤ・ナカジマ三佐の部隊か。クイントの夫は、相変わらず優秀らしい。

ルーテシアとアギトは置いてきて正解だったな。とにかく一旦目を眩(くら)ませて……そこで、音楽が響く。


更に四時方向から殺気。慌てて振り返ると、スーツ姿の女が……いや、少年が走り込んでくる。

そうして小型の質量兵器を取り出し、平然とこちらに連射。

先頭を走り、我先にと逃げていたのが運の尽きだった。ヘリからのライトアップも受け、悪目立ちしている。


咄嗟(とっさ)にグレイブをセットアップし、オートバリアで弾丸を防ぐ。

予備として調達したものだが、既に魔法は登録済み。更に親父(おやじ)もいい仕事をしてくれた。

予備とは思えないほど、違和感なく術式は展開。質量兵器などたやすくはじき返す。


だが、弾丸はバリアに衝突した瞬間、蒼い魔力光に包まれた。

……嫌な予感がしながら身を逸(そ)らす。

魔力光はバリアと相殺し合い、実体弾のみが突破。


それが背中や頭、脇腹を掠(かす)めるが、何とか回避する。

そうして体勢を崩されるが、走り込む奴へグレイブを向け……魔力弾連続発射。

すると足を止め、即座に左へ走り回避。そうして近くのコンテナに隠れながら、またあの多重弾殻射撃が跳ぶ。


もう回避するしかないと、魔力強化で弾丸を何とか避ける。

だが奴は懲りることなく追撃。躊躇(ためら)いなく銃声を響かせ、接近してくる。

それをグレイブの射撃で牽制(けんせい)しつつ、他の客達にわざと追いつかれ、その中へ紛れる。


実体弾を核とした多重弾殻射撃……それ自体はよくあるものだが、質量兵器と組み合わせるなど……!

間違いない、アレは蒼凪恭文。魔導師の、そしてヘイハチ・トウゴウの面汚し。

なるほど……面汚しゆえに、こんな場へ訪れていたわけか。愚かな、機動六課という手本がありながら……。


だが今は逃げるしかない。奴に誅伐を加えるタイミングでもない。

逃げ惑う客達を盾にしつつ、倉庫の方へ走る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ギンガさんの乗ってるヘリ……アレか。

先頭集団も意識してか、ヘリの先回りをう回しつつある。

なお飛ばないのは簡単。この状況で跳ぶのは目立ちすぎる。


倉庫街の一角ではあるし、地上の建造物を隠れみのにした方が楽だ。

なので僕もあっちこっちで爆発や破砕音が響く中、全力疾走。


転送魔法を発動し、一団を抜けた奴へと急接近。そこを狙い放たれた衝撃波は、左に転がりつつ回避。

倉庫の陰に隠れつつ、路地から飛び出す風は見送っておく。


≪さすがにオーバーSだねぇ。こちらの最適解を即座に読んでくるか≫

「僕の台詞(せりふ)を取るな……!」


なのでそのまま影から体を出し、FN Five-seveNで連続射撃。

奴が左に走って避ける中、僕も追撃――。


「動くなよ、弾が外れるだろうが!」


ち、こちらの限界距離ギリギリを保ってるね。でもどうして?

さすがにこの維持は不思議なレベルだった。


倉庫の合間を走り、射撃と回避を続けながら、アルトと首を傾(かし)げる。


≪おかしくないですか?≫

「うん」


転送の限界距離ギリギリに位置し、こちらの動きを読みつつカウンター……それは正しい。

問題は限界距離についての読みが、余りに正確なこと。夜闇を走りながら、疑問は強くなるばかり。

しかもこう入り組んだ道だと、音楽の流れも阻まれる。ガリューのときみたいな音響爆弾も難しい。


……たださっきの情報を鑑みると、答えは出てくる。まぁスカリエッティって時点で予測はしていたけど。


「僕達のスキル、詳細からバレてるね」

≪でも、あなたはその辺りをかなり隠している≫

「スカリエッティの読みが的確か……それとも」


このまま追いかけっこも埒(らち)が明かないので、奴と平行に走りながらギンガさんに指示だし。


”ギンガさん、あと一分でポイントB-4に入る! 先回りはできる!?”

”もうやってる! そのまま追い込んで!”

”OK!”


なので倉庫の影から射撃しつつ、奴の弾丸は身を隠して避け……笑いながらその距離を、追いかけっこを楽しむ。


「何が楽しい……悪魔の能力者」


奴の弾丸や衝撃波が壁を、地面を抉(えぐ)る中、笑いながら術式発動。

衝撃波は音響爆弾で相殺し、その中へと飛び込み射撃。強引にでも距離を詰め、獲物を網へと追い込む。


「それはお前もだ、英雄のデバイスよ」


衝撃波は音響爆弾で生成――放たれる魔力弾も、FN Five-seveNの射撃で逐一相殺。

舞い散る衝撃と魔力光、その残滓(ざんし)を払いながら更に走る。


「相棒(ヘイハチ・トウゴウ)の名を汚したくなければ、今すぐにその男の魔導を封印しろ」

≪……は?≫

「その男は、お前を持つにふさわしくない」


御託は気にせず、また衝撃波を相殺……しつつ、左の通路へ隠れる。


≪この人が、私を持つ? ……勘違いですね≫


二発目の突風を回避しながら、グレネード三個を高く投てき――。


≪私がこの人を選んだんですよ。達人<マスター>だと≫


そう……アルトが僕をマスターと呼ぶのは、実は『主人』という意味じゃない。

達人<マスター>――先生やファーン先生が獲得している、絶対無敵の称号。

先生は最初から、僕に世界のルールに合わせろとは、能力を完全封印しろとは言わなかった。


合わせて狭いなら、突き抜けろ――。

そうして世界で一番強くなればいい。そう言って手本を示した。

アルトはそんな、ワクワクする夢に付き合っているだけ。実のところ上下関係なんてない。


……今更だけど、その言葉が突き刺さっている。

なので突き抜けようか――もっとさぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


外道なりに鍛えてはいるようで、なかなか引き離せない。

だがその戦いには誇りがない――魔導師として、騎士としての誇りが。

それが許せず、真言を浴びせる。……世界には理がある。


その理を超える者は、世界を壊しかねない猛毒だ。ヴェートルが、そして奴がそうだ。

英雄のデバイスならば分かるはずだ。だが奴から返ってきた言葉は。


≪私がこの人を選んだんですよ。主人<マスター>だと≫


……やはり、デバイスはデバイスか。英雄の志を、その功績をたやすく踏みにじる。

いら立ちながらも、頭上から小さな影が生まれたのに気づく。

それは歪(いびつ)な形状のグレネード……慌てて右に走ると、それらは連続爆発。


外見と不釣り合いすぎる火力を持って、俺を焼き払う。

まるで俺が、間違っているかのように……。


――それに……人間一人の正しさで律することができるのは、結局自分だけですよ――


……クイント、メガーヌ……仲間達よ。俺は、そこまで愚かなのか。

ただあの日夢見た、平穏な未来が訪れてほしい。そう願うだけでも……それすらも、押しつけなのか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


グレネードは衝撃波を飛び越えながら、ゼスト・グランガイツの頭上にて爆発。

派手に炎と衝撃が生まれ、倉庫の合間をなぎ払う中、別の通路を取って回り込む。


「違法品パワーは凄(すご)いねー」

≪どこで使うつもりなんでしょうね、これ≫


まぁ普通なら決着なんだけど、腐ってもオーバーS。あの程度じゃ死なないでしょ。

さて、今のでギンガさんにも、現時点でのポイントは分かった。細かく習性した上で、奴の先を取ってくれるはず。

実力では格上でも、ギンガさんなら不意打ちでも……あれ、ギンガさん?


≪どうしました?≫

「ギンガさんは、クイントさんの娘。シューティングアーツもクイントさん譲り」

≪えぇ≫

「で、アイツはクイントさんの同僚……」

≪えぇ≫


戦闘部隊だから、当然模擬戦とかもしてるよね。それでクイントさんの実力は……。


≪「あ……」≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なぎ君でも不用意に飛び込めない……父さんが言うように、オーバーSの騎士だっただけはある。

ただね……何してるの!? もう、大火事みたいな爆発が起きたんだけど!

驚きながらもブリッツキャリバーで走り、角を右・左・右・右・左と曲がり……。


『ギンガ、聞こえるか! 大丈夫か!』

「はい! もうすぐターゲットとエンゲージします!」

『分かった!』


サーチャーから送られてくるデータ、さっきの爆発も現在地と捉えた上で、予想進行ルートも微修正。

その結果、あの人を路地の一つで挟み撃ち。


グレイブ型のデバイスを構える、その姿――顔立ちには見覚えがあった。

小さい頃うちにきた、とても無骨な人。スバルが怯(おび)えて泣いたっけ。でも……今は……!


「ブリッツキャリバー!」

≪Yes Sir≫


地面を踏み砕きながら加速――。

左のリボルバーナックルからカートリッジ三つをロード。なぎ君もFN Five-seveN……だっけ。

銃を構えながら威嚇する。あとは上に逃げるしかないけど、あの人は足を止めて疾駆。


そのままこちらと距離を詰めてきた。なので全力で拳を撃ち込み。


「はぁ!」


胸元を強打――その意識を奪う。


「……が……!?」


そう、奪う……そのつもりだった。

なのに拳はたやすくすり抜けられ、ボディアーマーに刺突を受ける。


「いい拳だ。だが」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱこうなったか……! でもミスを後悔する暇はない。

……周囲の環境から、反射角を即座に計算。その上でFN Five-seveNを五発連射。

スライドカバーが忙(せわ)しなく動き、マズルフラッシュが閃(ひらめ)く中、放たれた弾丸は――ギンガさんへと迫る。


奴は刺突から突撃――。

踏み込みながらギンガさんを吹き飛ばし、こちらの盾とした。

そうして射線を防いだ上で、僕との距離も稼ぐ。


その対応は実に正解だ。だからこそ弾丸はギンガさんの脇を掠(かす)め、壁や地面に激突。

そこからそれぞれに反射を繰り返し、離れゆく奴の体へと迫る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そのままカートリッジがロードされ、衝撃波が放たれる。同時にあの人も突撃。

銃声のような音が響く中、ジャケットを引き裂かれながら、宙を舞う。

そのまま遠ざかるあの人を見送りながら、地面に落下。


なぎ君はFN Five-seveNで射撃したものの、咄嗟(とっさ)に私を避けたらしい。

弾は逸(そ)れて、あちらこちらへぶつかって消えるだけ。


「クイントはお前の五倍……速かっ……ぐ」


でもあの人も膝を突いた。血を吐き出し、脇腹と両足から、右腕から血を流している。

……砕けたボディアーマー……露(あら)わになった胸の谷間を隠しながら、体を起こす。

そうか、跳弾――! なぎ君はFN Five-seveNのマガジンを入れ替え、転送魔法を発動。


あの人に近づきながら、デバイスを回収。左手でキャッチ……一回転させながらしまい込む。


「外道が……」

「どの口が言ってんだ」


こういうところが、なぎ君の悪質なところ。

なぎ君がなぜ銃器類を、フィジカルな技能をよく使うのか。


それは魔導師ならば、別の魔導師が行う魔法詠唱・発動を察知できるから。まぁ、ある程度って条件がつくけど。

魔力反応とかで察知し、回避や防御に繋(つな)げる。魔導師戦闘における基本テクニックだよ。

でも銃器や単純な打撃・斬撃は違う。だからこの人は、外道と罵る。


魔導師戦の大原則を――その読み合いを放棄するから。……ううん、それだけじゃない。

この人の瞳には、悲しみも宿っていた。一方的かもしれないけど、深い悲しみが。


「それは貴様もだ、英雄のデバイス」

≪は?≫

「なぜこの悪を正さない……魔法社会の根底を壊す、悪魔の能力は封じられるべきだ」


瞬間・詠唱処理能力のことだ……! そう言えば父さん、言ってたよね。

この人はかなり生真面目で、堅物だって。だからなぎ君のことも認めてないんだ。

なぎ君の能力が魔法の前提を崩す、バグとまで言われる力だから。


「答えろ、貴様らはなぜ『英雄』の」


なぎ君は更にバインドを発動。空間固定型のそれで、ゼスト・グランガイツを捕縛。

一気に縛り上げつつ、無言のままもう一発――。


動けないあの人の頭を撃ち抜き、その意識を奪う。

まさか殺し……ううん、血は出ていない。でも、話も聞かずに発砲ってー!


≪面倒くさいので、牢屋(ろうや)で一生悩んでなさい≫

「そういうこと」

「な、なぎ君……あの」

「スタン弾だよ」


それにホッとして、バリアジャケットを再構築――。

群青の光に包まれながら、乙女としては最低限の体裁を整える。

さ、さすがに谷間を見られるのは、恥ずかしい。


なぎ君は大きい胸の女性が好きだから、喜んでくれるとは思うの。思うけど……その、友達だから。


「というわけで……CUT」


なぎ君は右手で空間を切り、音楽停止……で、いいんだよね! 魔法だよね、これ! 魔力反応はなかったけどね、うん!


「ギンガさん、ごめん」

「あ、謝るのはなしで。私も……そうだよね、この人がゼスト・グランガイツなら」

「だから謝ってるの」


だから、やめて……五倍とか、情けなくなるので。

……あの人が私の拳を避けたのは、必然だった。

私の五倍は強いという、母さんの実力を知っているから。


当然シューティングアーツも、その完成度から負けている。

しかも母さんの場合、リボルバーナックルは両手だもの。私は言うなら……劣化版だよ!

あの人は模擬戦もしているだろうし、経験則が通用するなら相性最悪! 絶対勝てないんだよ、私!


で、なぎ君はそれが分かった上で謝ってるの! 『勝てないのは当然なのに、カバーさせてごめんね』って……うぅ……うぅー!


「まぁ一応助かったよ。これで捜査も大きく進展するだろうし」

「うん。あ、それはそうと」


左手を出して、笑顔でなぎ君にお願い。逃げようとするけど、狭い路地だから無理です。


「……その手は、なんでしょうかぁ」

「何を買ったのかな。ほら、出して」

「いや、買ってないよ?」

「じゃあ、何を取ったのかな」


なぎ君の悪いクセ……それはどんなものでも、『いいものはいい』と評価するところ。

うん、普通なら美点だよ。でも犯罪にまつわる美術品や銃器、刀剣にまで……だから。


なので笑顔で威圧すると、なぎ君は……涙目で、懐からオートマチック拳銃と弾薬を出しました。

もう一回小首を傾(かし)げると、今度は近接用ブレード……これも奇麗な造形だね。

引きつった笑顔を浮かべながら、更に二つ、三つと出していく。中にはレイジングハートのレプリカまであった。


うん、お説教だね……どれだけぶんどってたの!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、状況は終了――全員とはいかなかったけど、大多数の人間は拘束。

その中にはマーケットの開催者やスポンサーもいて……それになぎ君が入手<ハッキング>したデータもある。

瞬間・詠唱処理能力、こういうときはすっごく助けられています。それで現在。


「――この大馬鹿もの!」


部隊長室にてなぎ君は、お説教を……うん、違法デバイスとかガメてたしね!

ただ本人、新聞を広げてゆったりしてるけど! 何、反省なし!?


「お前、好き勝手やりすぎだろ! せめて俺達に連絡くらいはなぁ……管轄だぞ!」

「だから通報する予定でしたって」

「予定じゃ駄目だろ、予定じゃ! てーかくつろぐな! しかも違法デバイスまでガメやがって!」

「証拠品として提出予定だって言ってるでしょ。ゲンヤさん、耳掃除しました?」

「昨日したばかりだから言ってんだよ! デカいの取れたぞ……もうな、饅頭くらいのがどーんと!」

「父さん!? ……なぎ君、逃がさないためにも、私達と連携するべきだったんじゃ。それに八神部隊長も知らないご様子だし」


なぎ君はそのまま次のページをめくり。


「あ、ふたば軒の株価がまた上がってる」

≪新しく出たレバニラ定食、当たりでしたからね≫


……やっぱり聞いてない! ちょ、ヒドくないかな!

それには通信画面越しになるけど、お話に参加している八神部隊長も頭を抱えるばかりで。


『話を聞けぇ! アンタ一人で潜入なんて、マジ危険やろ! ……こういうときはうちらに頼ってよ。人員も動かすし』

「部隊員から顰蹙(ひんしゅく)を買って、『利用だけはしてやる』と言われた奴らが偉そうに」

『何でそれを!』

「おいおい八神、何をしたんだよ」

「ティアナ・ランスターだったっけ? アグスタの件で暴走して、大げんかになったとか」

「ティアが!?」


それは聞き捨てならない! というかティアやスバルから……あ、待って。


「そういえばスバル、ちょっとした事件があったってメールで」

「まぁそこは後で詳しく聞かせてもらおうか。それで恭文、デバイスの中身は」


あぁ、父さんが諦めた。そうだよね、こういうときのなぎ君は全く譲らないもの。


「空っぽですよ。知ってるでしょ?」

「やっぱそうか」

「父さん」

「ついさっき、解析班から同じ結果が出た。使用頻度も少ないし、恐らく予備か何かだと考えられる」

「それ以外の所持はなし、ですよね」

「用心深いことだ」


つまりデバイスから情報を得るのは無理。となれば本人くらいしかいないけど。


『なら本人はどうですか。お話してたって言うデバイスマイスターは』

「本人は駄目だ。カルタスが厳しく問い詰めているが、うんともすんとも言わん。あと……これはまだ検査段階だが」

『はい』

「アイツ、体にレリックを埋め込んでやがる」

『は……!?』

「うちの医務官が言うには、レリックのエネルギーを心臓代わりにしていると。そのためか通常の生体反応もかなり薄いんです」

『ちょ、待って。それならその人……ゾンビか何か!? 一度死んでるとか!』

「検査段階っつったろ」


それでも、そう思えるほどの状態なのは確か。部隊長がなぎ君を見ると、その通りと頷(うなず)きが返る。


確かにレリックは、特化した使い方が見えない。ジュエルシードなら、願いを叶(かな)えるためでしょ?

でも動力源にもなるし、爆発物にもなる――だからこそ、人を生き返らせることも可能? 理屈は分かるけど。


「それとデバイスマイスターですが」

『う、うん』

「なぎ君からの情報提供も確認した上で、今回拘束したバイヤー・客と照会しました。ですが該当する人物はどこにも。
ただ顔はサーチャーでも確認されているので、各所に通達。違法デバイス販売の疑いで指名手配に」

『そっか。なら』


そこで八神部隊長は、なぎ君をチラ見。更に私達にアイサインを送る。……あ、なるほど。


『恭文、まぁ……お疲れ様。あとは私らで何とかするから』

「ねぇゲンヤさん、ゼスト・グランガイツの尋問、僕達にやらせてくださいよ」

『無視するなぁ! ……アンタももうちょっと落ち着いてよ。うちらが信頼を損ねてるのは、重々承知しとる。
でも……なぁ、フェイトちゃん達が言うみたいに、一度六課に入ってみてよ。中から見れば』

≪それで私達を取り込んで、機動課の課長さん達の人気取りですか? 馬鹿馬鹿しい≫


アルトアイゼンがあざ笑いながら、その提案を一蹴。……部隊長は顔を真っ青にして、視線を泳がせ始めた。


「な、なぎ君……あの、突拍子がなさ過ぎるよ。人気取りって一体」

「ホテル・アグスタの件で、上役や機動課の人達から叩かれたんでしょ。
それで機動六課より、僕一人の方が役に立つと事実を突きつけられた」

「おいおい……八神」

『なんで……アンタ、どこで』

「まぁそういうわけで、僕にやらせてください」


そう言って立ち上がり、父さんのデスクに詰め寄るなぎ君。


「ナカさんから教わった落としのテクニック、効果的なのは知ってるでしょ」


新聞をサラッと所定位置に戻すのが、丁寧というか。


「こつは根気よくやることですよ。そう、納豆を混ぜるように」

「いいから帰れ。お前が賞金をもらえる手はずも、ちゃんと整えておくから」

「……吐け」


逃げることも許さず、鋭い眼光を父さんにぶつけ始めた。


「吐け」

「なぎ君!? ちょ、またそれなんだ!」

「吐けぇ」

「だから断ってるって察しろよ、馬鹿! お前、それで前に朝から晩まで尋問」

「吐けぇ――」


駄目だ、聞いてない! ……どうも地球で知り合った刑事さんから、教わった落としのテクニックらしい。

でもね、テクニックじゃないの……ただそう言い続けるだけなの! それも取り調べの最中、ずっと!

まぁ効果的だよ!? 時間がかかることを除けば、被疑者の方が参るから! でもこれは駄目ー!


――とにかくなぎ君には『吐くことはない』とお帰り頂く。

そう、吐くことはないよ。だって……これからできるんだもの。


「それで、話はなんだ」

『申し訳ないですがゼスト・グランガイツ、一度本局で預かっても』


本局……それってうちで確保した被疑者を、引き渡せってことだよね。

みんなの手柄も絡むから、私も視線が厳しくなる。


「分かった」

「部隊長!?」

「八神とクロノ提督から、話はされてたんだよ。……ほれ、召喚師がいるだろ。しかも奴ら、ミッド地上を拠点に動いてる」

「つまりその、転送魔法で救出」

『うん。ただ恭文のおかげで、ある程度の顔と身元は割れてるやろ?
本局やったら簡単には乗り込めんし、セキュリティも全域でしっかりしとるから』

「……納得しました」


なるほど、だからなぎ君を追い出したのか。もしその話を知ったら、絶対首を突っ込んでくるもの。


「なら明日の朝一番でやるか。うちの中でも、口の堅い奴に護送を任せる」

「まずは中央本部、それから本局ですね。私もついた方が」

『それやったら、私らも護衛に』

「馬鹿。スカリエッティに目を付けられているお前らが、がん首揃(そろ)えて動いたら目立つだろ」


う……それを言われると、弱い。スカリエッティは私達家族にとっても、因縁深い相手。

もしかすると私やスバルも、モルモットとして注目されている可能性も……でも。


『確かに……分かりました。ほな隊長達に話は通した上で、いざというときは出動できるよう準備を』

「頼む。ギンガ、お前もそのつもりでいろ」

「はい」


私達は日常を演出し、その上でゼスト・グランガイツは、『ありふれた犯罪者』として護送。

そう手はずが決まり、この日のお仕事は終わりとなった。……でもなぎ君、どうしたんだろう。

信頼を損ねているって何? 何か軋轢(あつれき)があって、だよね。だから……私のことも、頼ってくれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


体よく追い出されたものの、ティアナ(車)へ乗り込み隊舎を出る……と見せかけ、こっそり脇道にて待機。

さて……ここからは張り込みかな。準備していた鮭(さけ)ハラスのおにぎりを、お茶でかき込みつつノンビリ。


≪ゲンヤさんとはやてさん達の行動パターン、そして召喚師の存在から考えると≫

「ゼスト・グランガイツは内密に護送。本局預かりとなって取り調べ」

≪ただ、それは危険手かもしれませんね。既に召喚師も、スカリエッティも、ゼスト・グランガイツの逮捕は知っているはず≫

「わざわざ予備のデバイスだけで、あの場に向かうくらいだしね。それに情報も流れている可能性が」


そこで引っかかるのが、ゼスト・グランガイツがやたらとレジアス中将にこだわっていたこと。

そこは管理局の情勢や、機動六課も同じく。……サーチャーでの傍聴記録は、ゲンヤさん達には伝えていない。

下手をすると、危ない橋を渡らせるかもだし……ミゼット提督達、かぁ。


≪もし襲撃が起きた場合、どう読みます?≫

「じゃあ答えは一つでしょ」


この流れは予測して然(しか)るべきだった。だから即座に答えられる。


「スパイがいるんだよ」

≪どこにですか。108? それとも六課?≫

「自覚なく、情報を漏らしているかも。例えば」


右手で天井を指差すと、アルトが『正解です』と言わんばかりに瞬く。


≪まぁ、それしかありませんね。スカリエッティの状況も理解できますし≫

「誰かが……それも局高官が匿(かくま)っている。
もちろんゼスト隊の全滅理由が、ここまで隠匿されているのも」

≪そうなるとかなりの権力者ですね。ペーペーの不正どころじゃない……だからゼスト隊は消された≫


ゼスト隊が追っていた戦闘機人絡みの事件――それはスカリエッティに迫っていたとも言えるわけで。


だから、こういうことじゃないかな。


ゼスト隊の情報が局高官から、スカリエッティに流されていた。

それで待ち伏せされて、結果全滅――なら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


深夜――ルーテシアとアギトに、悲しいお知らせをしなければならない。

潜入任務中の、次女のドゥーエから伝わってきた情報だ。


『おい……ふざけんなよ! 旦那がどうして!』

「お出かけ中、108のガサ入れに巻き込まれたそうだ。直接捕まえたのはサンプルH-1だが」

『あの野郎が……!』

『……アギト、本当みたい。ゼストと連絡が取れない』

『絶対許さねぇ! 旦那は犯罪者じゃない……お前達とは違うんだぞ!』


ウーノの視線が厳しくなるが、左手で制しておく。


「それは否定しないよ。彼の人生を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にしたのは、他でもない我々だしね。
……が、君達はそんな我々の手を借りなければ、彼を救出できない」

『け! お前達の手なんざ必要ねぇよ! この烈火の剣精アギト様が、旦那のことはぱぱーっと助けて』

「君達の情報は、既に管理局のデータベースに登録されている。街を歩くだけでも通報ものだよ」

「だからこそ今日も騎士ゼストは、お一人で行動されていた。そうでしたよね」

『ぐ……!』

『アギト、ドクターの言う通り……冷静に行動しようってお話したよね』

『くそ、全部アイツのせいだ!』


アギトはゼスト・グランガイツに肩入れしているから、冷静な判断ができないようだね。

このままでは二の舞……しかし、それは我々も避けたいところだ。……手が必要かな。


『ドクター、ガジェットを貸して。百体もあればいい』

「自動制御で哨戒している機体なら、手間はかからないかな」

『ありがと。あとは隊舎から護送されるタイミング……このままずっと、108ではないよね』

「そのようだ。既に本局・中央本部は、六課と108からの要請を受け、朝一番での護送を予定している。……ルート情報も取得済みだよ」

『それもちょうだい』

『ルールー、無茶(むちゃ)だ! 六課の奴らがいたらどうする! それにあの、悪魔みたいな能力者も!
……アイツには騎士道も、戦場での理も通用しねぇ。ただ命をゴミみたいに蹂躙する……とんでもねぇクソ野郎だ!』

「心配には及びません。こちらの察知を避けるため、六課と108の主要メンバーは待機扱いとなっています」


そう、つまり手薄なわけだ。だからアギトも、ルーテシアも、それならばと決意する。

彼らの読みは正しい。我々が極々普通の、犯罪組織であればね。


『なら、あの人は』

「彼には伏せられている。……民間協力者の辛(つら)いところだよ」

『馬鹿だね。あの人なら私にも……ドクターにも勝てるかもしれないのに』

「突き抜けられない、凡人の嫉妬と言うべきかな。とにかく気をつけたまえ、ルーテシア」

『そのつもり』


騎士ゼストの身柄は、我々ならば本局からだろうと連れ戻せる。しかし今それをやるのは危険だしね。

今はまだ、凶悪犯罪者のそしりを受けるときだ。あとは……よし、増援の準備もしておこう。


私の勘では、彼はこの動きを読み、独自に行動するはず。


……そう考え、笑みが零(こぼ)れてしまった。


『てめぇ……何笑ってやがる! 旦那のピンチが面白いってか!』

「面白いね」

『てめぇ!』

「金魚のフンがガタガタ抜かすな」

『な……!』


君は一体、どこまで読んでいるかな。もしかして我々の正体についても、おおよその察しがついている……あり得るな。

君は師匠と同じく、理を突き抜ける達人だ。


「なぜ楽しまない。なぜ笑わない……なぜ興奮しない。それは君や騎士ゼストの世界が狭く、つまらないからだ。
自分の都合ばかりを唱(とな)え、それに殉じることを正義と嘯(うそぶ)く。今君達や我々を縛り付ける、世界の理に毒されているからだ」

『ふざけんな……アタシはともかく、旦那への暴言は許せねぇ! 元はと言えばてめぇらの』

「サンプルH-1への言いぐさにしてもそうだ……違うだろう。
単純に、君達が彼らや『我々』より弱い……力で圧倒できない。
それを認めたくないから、自分を慰め逃げ続けている」


そう、彼らとは違う。もちろん六課とも……。


『てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『アギト、落ち着いて。……それに、事実だよね。私達だけじゃ、あの人どころかドクターにも勝てない』

『そんなことねぇ! そんな、こと……!』

「違うというなら笑いたまえ、喜びたまえ……そして抗(あらが)いたまえ。この難局を乗り切れば」


あぁ、そうであってほしい……。


「我々はもっと進化できるじゃないか――!」


そうしてまた見せてくれ、君の可能性を。

そして私もまた見せつけよう、その進化を。


たとえ悪徳を通して表す、歪(ゆが)んだものだとしても――。


(ミッション08へ続く)





あとがき

恭文「というわけで、アニメで言うと第十話辺り……ティアナ暴走編はやっぱ別枠になりました」


(下書きしたら、いろいろテンポが)


恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪次回はまたまたドンパチ……どうも、私です≫


(また銃弾が飛び、物が派手にぶっ壊れ、死体が積み重なる。やっぱドンパチはいいねー)


恭文「そういうわけでゼスト・グランガイツ、捕まりました」

古鉄≪残念ながら、私の方が強いので≫

恭文「僕は!?」

桜セイバー「マスター、雑談してる場合じゃありません! 指示だしー!」

恭文「おぉそうだ。それより僕達は……現在、京都にいます」

古鉄≪悪い酒の匂いが充満する中、鬼退治の真っ最中です≫


(FGOのイベントです)


孔明(フレ)「NP……NPNPNP! NP!」

ドレイク「ほらほら……ぶっ飛びなぁ!」(宝具発動)

桜セイバー「弓? ボスキャラはバーサーカーなので関係なし! というわけで無明三段突き!」(宝具発動)

茨城童子(やらい級)「またお前らかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(ちゅどーん)


ドレイク「さー、終わったから帰るよ」

桜セイバー「フレ孔明さんも、ありがとうございました」

孔明(フレ)「あぁ」

恭文「……礼装も揃ったし、やらい級ならドレイクと桜セイバーの宝具チェインで何とかなるね」

古鉄≪全体強化もありますしね。あとはNPが溜まれば腕ごとワンターンキルですよ≫


(雑魚でのNP稼ぎがなかなか難しいので、孔明にはよくお世話になっております……。
え、ジャック? スカサハ様? うちには実装されていません)


恭文「……記念小説で縁は作ったのに……ナーサリーもさ」


(『でも私、名前が出てない……それじゃあ召喚されないわ、お兄ちゃん!』)


ジャンヌ(Fate)「……その前に私です! Fate/EXTELLAでも登場確定なんですから!」

恭文「あれでしょ? ジャンヌだけRTAになるんだよね。旗を振って扇動」

ジャンヌ(Fate)「それでもいいです! ……ソフトがあれば、私を召喚する触媒になりますよね?」


(フランスの聖女、今日はヤキモチモードです)


ジャンヌ(Fate)「また……また期間限定で星5なキャラに先を越されて……!」

酒呑童子「はぁ……種火をいっぱい注がれて、もうすぐ最終再臨……旦那はん、元気やわぁ」

恭文「うん、それはね! 月初めでオール種火もマナプリ交換したから!」

古鉄≪しかも今回のイベント、独自ポイントでプレイしますから、通常ポイントが余りがちに……おかげで種火集めも同時進行という忙しさ≫

ジャンヌ(Fate)「そそ、がれ……そう、ですかぁ」


(そうして蒼い古き鉄の左側から、思いっきり抱きつく)


ジャンヌ(Fate)「駄目です、あなたには譲りません! マスターは私のものなんです! マスターに注がれるのは……まず私からです!」

恭文「ジャンヌ、落ち着いて! なんか発言が危ない!」

タマモキャット「……御主人、何だかんだであたしも引いてないぞ。タマモはちょっと寂しい」

恭文「それについてはほんとゴメンー!」

タマモキャット「なので昼寝だ。一緒に寝てくれると、タマモは更に幸せだ」


(そして右側から抱きつくタマモキャット)


恭文「あ、あの……二人とも、当たって」

タマモキャット「御主人の喜びが、私の喜びだ」

ジャンヌ(Fate)「私も、お昼寝します。せめてこうして、寄り添うくらいは」

恭文「落ち着けー!」


(というわけで、シェスタシェスタ……おや、あそこにお昼寝大好きなドラが……。
本日のED:玉置成実『Result』)



恭文「二週間後には、HGCE フォースインパルスガンダムの出荷日か」

あむ「あ、そっか。もう出荷予定表が出てるんだっけ」

恭文(1990年生まれ)「あとは商品解説画像もね。やっぱりSEED世代だから、ワクワクが半端ない」

はやて(1988年生まれ)「うちらにとってSEEDは青春そのもの。リアルタイムでは初めて触れたTVのガンダムやしなぁ」

なのは(1988年生まれ)「うんうん。なのは、SEEDの一話が凄くて、何回も見返したよ。もちろんSEED DESTINYも」


(なお生まれた年齢については、とまと設定となっておりますのでご了承ください)


はやて「今やと普通な見逃し配信とか、SEEDで初めて知ったもん」

なのは「だよねぇ。あの頃から一気に、インターネットの規模が拡大していって」

はやて「テレホーダイからADSLに移り変わる中やった。
いつの間にか光回線で常時接続。たった四〜五年でスマホまで出て」

なのは「時の流れは速いよねぇ」(しみじみ)

あむ(1998年生まれ)「そ、そう……なんだ」

ラン「あれ、ターンエーは?」

ダイヤ「時期としては前よね。はやてさんなら」

はやて「……海鳴は放送地域とちゃうかった」(血涙)

なのは「地方だから……」(白目)


(おしまい)






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あきゅろす。
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