小説
仔狐育成日記16
目の前に毛玉が転がっている。

否、そこにいつのは丸まった仔狐であった。


「も、元就?」
「………」
呼びかけても返ってくるのは沈黙。
そっと手を伸ばし触れようとすると、それに気付いた仔狐が素早く飛び跳ね遠ざかり、再度丸まった。
「元就…」

我が家の仔狐、元就は只今たいそうむくれていた。



「悪かったって、な」
「………」
怒鳴ったり騒いだりするならばまだ対処のしようがある。
とにかく抱きしめて頭を撫でて宥めるのだ。
しかし今回はいつもと違う。ひたすらに無言で丸まっているのだ。
全く口も利いてくれない。

こうなった原因は、自分にある。
しばらく忙しくて元就に構ってやれなかったのだ。
いつものように我が儘を聞いてやることも、だんだん寂しくなって甘えてきても、おざなりにしか相手をしてやれなかった。
そしてやっと忙しさから解放されようやく元就、と仔狐に意識を向けたとき…元就は丸まってこちらを見ようともしなかった。


「ごめんな。本当に、寂しい思いさせて悪かった」
これはひたすら謝るしかない、と謝り続ける。
元就の好きなケーキも用意した。夕食も好きなオムライスを作った。けれど元就はそっぽをむいたまま。
これは重症だ。

「元就〜〜〜」
どうすれば良いのかと頭を抱える。だが自業自得というのもわかっている。
そして、反応のない元就に、自分が元就にしてきたことも嫌というほど思い知らされた
寂しい、のだ。
相手から反応が返ってこないというのは。


「元就…悪かった、本当に。もう放っといたりしないから。だからこっち向いてくれないか」
宥めるような声から自然 懇願するような声に変わった。我ながら情けないと思うが、これ以上無視されるのは寂しすぎる。
「元就…」
こちらの意識の変化が伝わったのだろうか。そろりと毛玉が動いて元就の小さい頭がこちらを向いた。
口をへの字にしてむくれた顔して…でも目が潤んでいて、怒っているのではなく寂しくて拗ねていたのだと伝えてきた。
「元就、こっちに来てくれないか」
頼むから、と手を差し出す。元就はこちらを睨んだまま、そろそろと近づいてきた。そして腕の中に飛び込んできた。


「我は怒っているのだぞ」
「ああ、そうだよな」
「許さぬからな」
「うん。ごめんな。ほんとにごめんな」
「……元親のばかぁ」
うわぁ、とついに元就は泣き出した。
寂しかったんだな。本当にごめんな。ぎゅっと元就の小さい身体を抱きしめて、泣き止むまで頭を撫で続けた。




(H21.5.11〜6.15)


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