小説
仔狐育成日記15
朝目を覚ますと、仔狐が身体にしがみ付いていた。
ああ、これで変な夢を見て魘されたのかと納得した。


それはともかく、何故か仔狐は泣いていた。
べたりと抱きついてきて肩を震わせえぐえぐと泣いていた。
あまり泣くことのない元就がこんな風に泣いてるもんだから、慌ててしまった。
「どうしたんだ?」
「う…もとちかぁ…うぅ…」
ひっく、ひっくと肩を揺らし、何かを訴えようとするが声が詰まって言葉にならない様子だ。
「落ち着け、な。どうした?」
元就の身体を抱き上げぎゅっと抱きしめ、背中をさすってやる。
「もと、ちか…ちか…ひっっく…」
ぎゅううっと元就も抱きついて泣き続ける。


嫌な夢でも見たのだろうか。
こんなに泣くほどだ。そうとう悲しい夢だろう。
縋りつく仔狐を、ただ抱きしめてあやすしかなかった。




しばらくして、ようやく元就は泣き止んだ。
抱き上げたまま台所へ移動し、ココアを作ってやる。
コタツに潜り込み元就を隣に座らせ、ココアを渡す。元就は目を赤くしたままこくこくと飲んでいる。
「それで、どうしたんだ?」
なるべく優しい声で問いかける。
ココアから口を離し、こちらを見上げながら元就は口を開いた。
「大福が逃げたのだ…」
「…………はい?」
何を言われたのか理解できず変な声が出てしまった。
こちらの様子などお構いなしに元就は続ける。
「大きな大福があったのだ。我は大喜びで近づいた。ところが大福がぴょんぴょん飛んで逃げるのだ」
つまり、夢に元就と同じ大きさくらいの大きな大福が出てきたが、逃げ出し、全速力で追いかけたが結局逃げられてしまった、と。
あんまりな内容にため息が出そうになる。
そんなことで朝から気を使わされたのか…。
文句の一言でも言ってやろうかと元就を見たが、元就はいまだ悲しそうに俯いている。


「大福は…我が嫌いなのだろうか」


内容はともかくとして、そのときの元就の表情も声音もとても悲しそうだった。




だからと言って、その日の夜 大福を買って帰ってやる自分はやはり甘いのだろうか…。



(H21.1.19〜5.10)


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あきゅろす。
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