小説
仔狐育成日記13
目の前の紙と数分くらい睨めっこを続けている。
紙には「電気使用量のお知らせ」とあり、今月の請求金額が記載されている。ついでに横には口座振替領収証がくっついていて、引き落とされた先月分の金額も載っている。
さて、何故睨めっこをしているかというと、その記載金額の違いにある。
9月にくらべて10月の料金はぐっと安くなっている。
理由は分かっている。クーラーだ。
まだ残暑の残る9月は冷房を使用していたが、10月ともなれば必要なくなる。
その結果がこの料金だ。


「暖房、どうすっかな」
10月はよしとして、11月ともなれば寒さもそれなりだ。部屋も冷えて温かさが恋しくなる。
しかしこの明細が示すように、冷暖房機器は電気料金を跳ね上げる。
生活に切羽詰っているわけではないが、締めれるところは締めておいたほうがゆとりができる。
暖房機器にお世話になるか、もうしばらく毛布で我慢するか。
紙を睨みながら考えていると、膝の上に仔狐が乗ってきた。



「先ほどから何をしているのだ?」
テーブルと俺の身体の間に器用に入り込み、膝に座り込む。居心地が良いのか尻尾がぱたぱたと触れている。
「それは何だ?」
「電気料金の明細」
「……なんだ、それは」
首をかしげて問いかけてくる。上目遣いっていいなぁと思わず思ってしまった。
「電気あるだろ。部屋に明かりつけたりテレビを見たりするために必要なもの」
「うむ」
「それはただじゃなくてな。ちゃんと金を払わないといけないんだ」
「ほう。金が必要なのか」
「そう。で、これは先月まで使った電気はこれだけの金額ですよっていう知らせだ」
「先月までの…。どうやって調べているのだ?」
「外にあるメーターで使用量を調べて…わりぃ、俺もあんまり詳しくねえ」
これ以上突っ込まれると応えられないと先に謝っておく。
居候当初こそ、いろいろ質問をしては答えられない俺に、自分のことなのに何故わからぬとか不甲斐ないとか言っていた元就だが、これまでに人間の暮らし方が複雑なことを学んだらしく分からないと言えば仕方ないと諦めてくれるようになった。


ふと、目の前で触れている尻尾が温かそうだと思った。生の毛皮だし。
触りたいという欲求に逆らわず尻尾を軽く掴み、上下に摩る。
「な、なんだ?」
「いや、暖かいなと」
実際暖かい。ふかふかとさわり心地の良い尻尾を楽しむ。
そういえば膝の上の元就の身体も温かい。子供体温だからだろうか。
ぎゅっと抱き込むと、暖かさが伝わってくる。
「な、何をする!」
「あったけー」
顔を真っ赤にして元就はじたばたするが、小さいから簡単に抱きこめてしまう。しかも暖かい。
暖房はもうしばらくなくて良いか、と思った。



しかしその数日後。
他ならぬ仔狐の強い嘆願により、コタツが今年の冬のデビューを果たした。





(H20.11.17〜12.23)


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あきゅろす。
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