小説
仔狐育成日記12
バイトから帰ると、居候の仔狐はタオルケットに包まってうとうとしていた。
そのまま寝せてやりたい気もしたが、片手に持った、せっかくかって帰った紙袋の中身を思うとそれは出来ない。
「元就」
肩を揺すって元就を起こす。
「う…みゅ…」
意識が浮上したのか、目をこすって顔を上げた。俺を認識した途端、元就の眉間に皺が寄った。
気持ちよく転寝していたのを邪魔されたので機嫌が急降下したのだろう。しかし可愛い顔に皺は似合わない。
「起こして悪かったよ。でももう起きろよ?」
よしよしと頭を撫でてやる。耳も摩ってやる。そうするとくすぐったそうに身を捩った。



「元就、お土産だぞ」
元就の意識がはっきりした頃を見計らって、紙袋を差し出した。
不思議そうに首をかしげ、元就は紙袋の中を漁る。出てきたのは黒いマントととんがり帽子、オプションに先端に星のついた杖。
「なんだ、これは?」
「ハロウィンと言えば魔女だろ」
最近はいたるところにかぼちゃの玩具などが置かれている。これもその一つ。子供向けの魔女グッズ。
幾度か見ているうちに元就に着せてみたくなって思わず買ってしまったのだ。
「はろ…? まじょ…?」
しかしやはりというかなんというか。元就はハロウィンのことを知らないようだ。
「これを着て、俺に向かって Ttic or treat! って言うんだ。そしたらたくさん菓子をやるよ」
「お菓子!?」
面倒な説明は全部省いてするべきことだけ伝えると、案の定 元就はお菓子に食いついた。
甘いもの好きだからな…。
「どうだ、やるか?」
「これを着れば良いのだな!」



はりきって返事をしていたものの、元就は何をどう着ていいのかやはりわからず、結局全部俺が着せた。
といってもマントを羽織らせて帽子を被らせ、手に杖を持たせただけだが。
出来上がった小さな魔女はやはり可愛かった。思わず携帯を取り出して写真を取り巻くってしまった。
「元親、お菓子は?」
「菓子をもらうためには呪文を唱えないと」
「呪文…なんと唱えればよいのだ?」
「Tric or treat!」
お菓子をくれなきゃ悪戯するよ。訳は教えなかったから元就は不可思議な呪文だと本気で悩んでいる。
「と…鳥食う鳥っ!」
………何の共食いだ?
争いあう二羽の鳥を連想してしまい、力が抜けてしまった。
「元親、お菓子は?」
「…元就、間違ってる」
「なんとっ!?」
正しく唱えないと菓子はあげれないぞ、と言うと元就は顔を歪めた。
「トリック、オア、トリート」
「と、鳥…く、おあ、鳥と」
「……鳥から離れようぜ」


こうなったらこっちも意地だ、と元就がちゃんと言えるようになるまでお菓子はお預けにした。
ようやく拙い声で「とりっくおあとりーと」と唱えた頃には、元就は泣きそうになっていた。
慌てて買い込んでいたお菓子を与えるも、元就の機嫌はなかなか直らず、お菓子をもそもそ食べる元就を膝の上に乗せて必死に機嫌を取る嵌めになってしまった。





(H20.10.27〜11.16)


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!