小説
学生の本分、な日(一万打企画)
1万hit フリリク作品です。
リクはサンデーな日々で大学での2人、でした。
ありがとうございました!






今日受けるべき講義を全て終えたので、鞄を持って図書館へ向かう。
休日の時間は全て趣味に費やしたい。だから課題などは平日に図書館で行うようにしている。
来週機嫌のものを終わらせ、時間が余れば今日出た課題を進めよう。そう考えて見えてきた建物へ足を進める。
「あ、毛利さんだ」
突如声が掛けられた。聞きなれない男の声。
立ち止まり姿を確認すると、派手な装いの男が2人近づいてきた。
顔を見てもやはり見覚えはない。



「図書館行くの? マジメだなぁ」
「あそこって眠くなるよな。ネット使えるところはいいけど」
勝手に喋り始める2人に居心地の悪さを覚え、じりじりと身体を後ろにずらすと、それに気づいたのかいきなり腕をとられた。
「ね、せっかくだからさ。遊びにいかね」
やたら馴れ馴れしく近づかれ、身体が強張る。どうすればいいのかわからず冷や汗が流れる。
「我は、これから課題を…」
「うわー、マジメー」
「毛利さんなら課題くらいすぐ出来そうじゃん。今日くらい遊んでもへいきへいき」
何を根拠にそんなことを言うのかもわからないし、どうして面識のないこの男たちが自分にこんな風に話をしてくるのかもわからない。
「長曾我部とは遊んでるんだろ。俺たちとも遊ぼうよ」
男が口にした名前にどきっとする。
どうしてここで長曾我部の名が出るのだ。
「毛利さんいつからあいつと仲良しになったの?」
「あいつ怖くない? 舎弟引き連れててさ」
「女には優しいんだろ。手広く遊んでるみたいだし」
「毛利さん騙されてるんじゃねぇ、俺心配だなー」
勝手なことを言いながら更に馴れ馴れしく肩に手を置いてくる。
見知らぬ男に触れられる不快さと、何より長曾我部のことを悪く言い立てることへ怒りを感じ手を乱暴に払いのける。
払いのけられた手に男は一瞬顔を醜く歪めるが、次の瞬間にはこちらを宥めるような笑顔と声で話を続けてきた。
「あれ、怒った? ちょうそかべのこと悪く言われて?」
「かーわいそー。毛利さん絶対騙されてるって。あいつ悪い奴だからさぁ」
これ以上関わりたくないのに、腕は捕まれたままで手を引いても離れない。
触られるのが嫌、近づかれるのも嫌、話しを聞くのももう嫌だ。


「誰が悪い奴だって?」


人目を憚らず叫びだしそうになった瞬間、聞き覚えのある声が耳朶に響いた。
はっと顔を上げると、男達の後ろに見慣れた男が立っていた。
今まさに話題の中心となっていた男、長曾我部が。
「げっ…」
「長曾我部っ」
目の前の男達が顔を引きつらせて逃げ腰になる。まさか当人が現れると思っていなかったようだ。
「なーんか色々言ってたみてえだけど? 言いたいことあるなら俺の前で言えば」
顔は愉しそうに笑っているのに目が笑っていない。
長身をわざと屈めて男達を見ているのが、威圧感を与える。
「ああ? どうしたよ。言ってみろ」
声が一段と低くなる。
こんな長曾我部は初めてだ。
睨まれているのは目の前の男達なのに、自分まで射竦められてしまう。
「な、何でもねえよっ」
「行こうぜ」
男達は、半歩下がると負け惜しみのように言い捨てて颯爽とその場から駆け出した。
その姿を見送り立ち尽くしていると、側から舌打ちが聞こえた。
不機嫌な顔を隠そうともしない長曾我部の姿に、再び身体が凍りつく。
長曾我部は、いつも穏やかで優しく笑っていた。
それがこんな表情を…。目の前にいるのは自分の知らない長曾我部だった。



呆然としていると、長曾我部がこちらを向いた。
思わずびくりと肩が揺れる。
「毛利さん、大丈夫か?」
心配そうに声が掛けられる。
こちらを見つめる目は穏やかで、表情も声も自分の知る長曾我部のものに戻っていた。
いつもの、長曾我部に。
そう思った瞬間、恐怖、不安、安堵、色々な思いが込み上げていて立っていられなくなった。
へたりと座り込んでしまった自分に長曾我部が慌てて、自分の前にしゃがみ込む。
「大丈夫か?」
「…っ、……」
平気だ、と言わないといけないのに、声が出ない。
「ちょっと我慢してくれな」
そう断ってから長曾我部はそっと腰に手を触れ自分を立たせた。
「移動するから。ちょっとだけ頑張ってくれ」
そうだ。ここは往来だ。人が少ないといっても全くいないわけではない。
力の入らない身体を長曾我部に委ねて、ゆっくり歩き出す。





[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!