小説
仔狐育成日記9
今日はサークルで飲み会が行われている。
一次会で飲み食いし、二次会で更に飲む。周りには出来上がってる奴らが大騒ぎだ。
本当は一次会で切り上げるつもりがサークルの連中に引き止められて二次会まで連れ込まれた。
「元親ー、飲んでるかー!」
同期の酌は断れても先輩の酌は断れない。
残り僅かとなっていたジョッキになみなみと注がれていく。
もともと酒は嫌いじゃない…というか好きなほうだし、強いほうなので呑まれることはないから良いのだが。


それにしても、と嘆息する。
未だに素面なのはどういうことか。
酒に飲まれはしないものの、それなりに酔いはする。いつもは良い具合にテンションが上がるのに、今日は周りの酔い具合についていけない。
「元親、お前飲んでるか?」
後輩のくせにタメ口の政宗が絡んできて引っ付いてきた身体を引き剥がす。
「飲んでるよ。つか敬語使えや後輩」
「元親相手に? Ha!冗談よせよ」
かわいくねぇ。
「つーかマジでノリ悪くね?」
何かあったのかよ、と突っ込まれて口ごもる。
いくら酒を飲んでも酔えない理由。心当たりは、ある。


ちらりと時計を見ると、すでに夜中の1時を回っている。
きっとこれ以上飲んでも結局酔えないままだろう。それどころか下手したら酔っ払いどもの面倒を見る羽目になるかもしれない。
しばし考え、ここは逃げとくかと結論付ける。
「政宗、俺ここで抜けるわ」
後頼む、と適当なお金を渡すとかわいくない後輩は「Ha!?」と素っ頓狂な声を上げた。
「抜けるって、オイ!」
文句を垂れている政宗に悪い、と手でジェスチャーを送り、酔っ払いたちに絡まれないようにこっそり店を出た。
酒臭い空気から解放され、夜風に当たる。
しばらく歩いて大通りにでるとタクシーを止めて乗り込む。
急いで帰らなければ。



うちには居候の仔狐がいる。
偉そうで我が儘で高飛車で、でもとても可愛い仔狐。
今日は遅くなると伝えたし夕飯の準備もしておいたし食べたら遅くならないうちに寝ておけとも言った。
しかしどうにも気になる。気になって酒にも酔えなかったくらいだ。
さてどうしているか、とそっと鍵を開けて玄関の扉を開く。
そこには毛布に包まって泣きべそをかいている仔狐の姿があった。
「元就、寝てろって…」
「もと…ちかぁ…」
最後まで言えなかった。ふええっと泣き出した仔狐が縋りついてきたからだ。
寝てろって言ったのに、寝れなかったのか。玄関で待ってるほど寂しかったのか。
「ばか者、おそいでは、ないか」
「ああ、ごめんな。悪かった」
ひっついて離れようとしない仔狐を抱き上げて背をぽんぽんと叩いてあやす。
「ごめんな、元就」


こんなに可愛い奴を待たせていて、酔えるはずがないよな。





(H20.7.22〜8.13)


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あきゅろす。
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