小説
仔狐育成日記7
正直元就の趣味が分からない。
テレビに夢中の元就を眺め、心底思った。


「ミナサーン!アイハ セカイヲ スクウノデース!」
天辺だけ禿げた頭。縦も横もある大柄な体系。恍惚とした表情。
テレビの中で派手なリアクションをしながらハイテンションに叫んでいるのは最近何故かブームになっているザビー教とかいう怪しげな宗教の教祖、ザビー。
最初はお笑い芸人の間違いじゃないのかと思いつつ眺めていたのだが、いつの間にか同居している仔狐が奴にはまってしまっていたのだ。
一体この大男のどこの何に心の琴線が触れたのか。さっぱりわからない。
だが目の前で元就は尻尾をふりふりしながら嬉しげにザビーを見ている。


「デハ イツモノコトバ、イクヨーッ!」
テレビの中でザビーが両手を天へ向ける。同時に元就も両手を挙げた。
「アイユエニー!!」
「愛ゆえにー!」
ザビーの声に合わせて目の前で仔狐が同じセリフを唱える。
ああ、一体何なのだ、この光景は。
くらくらする頭を手で押さえ、ソファに倒れ込んだ。
それでも視線を元就から外すことも出来ず、横目で様子を伺う。
あのセリフを最後に番組も終わるので、流れるテロップにほっとしていると、最後のおまけのようなシーンが流れ出した。

「ザビーノ トクセイ ニンギョウ デタヨー」

にこやかにザビーが手に持っているのはザビーを模した人形。
一体誰があんな人形に一万も出すんだと冷めた気持ちで見ていると、くるりと元就が振り返った。


目が、きらきらしている…。


「もとちか」
期待するような声。
元就、お前。
欲しいのか、あれが欲しいのか!!?
「もとちか」
反応しない俺に焦れたのかソファににじり寄って顔を摺り寄せてくる。
「ザビー様ぞ。ザビー様の人形なのだ」
きらきらと輝くばかりの笑顔でねだってくる。
ザビーの人形だからなんだと言うのだ。
一万だぞ、あんなものに一万。払いたくもないし、あんなものを家に置きたくもない。
「もとちか」
逃げ腰の俺に気付いたのか、元就の声が焦り始める。
立ち上がろうとすると元就が服の裾をしっかりと掴んだ。

「ザビー様の人形ぞっ!」
だからどうしたっ!

ダメだ、こればかりはダメだ。
すでに泣き声になりつつある元就だが、今度ばかりは折れることが出来ない。
必死に首を横に振り拒絶を示す。元就は必死に強請る。
でもこれは本当にダメなんだ!!!




結局、断固拒否を貫ききった俺に元就が無理と悟ったのか泣きべそをかきながらも諦めた。
けれどいつまでも部屋の隅でしょんぼりとして声を掛けても応えようとしないので、その日の夕飯は元就の好物ばかりを作り機嫌を取る羽目になった。


本当に、元就の趣味がわからない。
仔狐の感覚に一抹の不安を覚えた日だった。





(H20.5.18〜H20.6.18)



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