小説
仔狐育成日記4
2月14日といえばバレンタインデー。
幸いに、と言うべきか。それなりに容姿に恵まれている俺は毎年もらうチョコレートには事欠かない。
最も、あまり甘いものが得意ではないという面から見れば素直に喜べないのだが。


今年も大学やらバイト先やらで次々と可愛らしくラッピングされたそれを渡された。
なかに野郎どもが混じっていたのがなんだが…。
ともあれ、義理と友情と本気半分乗り半分のものを受け取り、本命チョコは丁寧に断って家路に着く。


「元就、ただいま」
こたつでぬくぬくうとうとしていた仔狐がぴんと耳を立てて振り返った。
「遅いではないか、もとちか」
「悪い。呼び止められててな」
コートを脱いでこたつに入る。身体が温まる。
「なんだ、それは?」
こたつのそばに置いた紙袋を元就は興味津々と覗き込む。
「甘い匂いがする」
「チョコレートだからな」
紙袋の中からひとつチョコの箱を取り出し可愛らしいラッピングを取って中をお披露目する。
自分では絶対に買わないだろう高級そうなチョコだ。
甘いもの好きの元就は耳をぴくぴくさせてチョコを覗き込んでいる。
「バレンタインでもらったんだ」
「ばれんたいん?」
「ああ。ほら、これだ」
バレンタインを知らないらしい元就に、丁度テレビでバレンタイン特集をしているチャンネルがあったので見るように促す。
レポーターが様々なチョコレートを紹介していたり、カップルにインタビューしたりと忙しい。ついでに丁寧にバレンタインについて解説してくれる。
曰く、好きな男性に女性がチョコレートを贈り告白する日であると。


「…もとちかは、これを全部もらったのか?」
解説を聞いていた元就がやたら真剣に問いかけてきた。
「ん、ああ。でも…」
「もとちかのあほー―――!!!」
義理がほとんどだぞ、と続けるより先に元就が怒鳴った。
「な、なんだ? どうした??」
目の前で元就が尻尾を逆立てている。
「どうした、元就?」
「き…きさまは……くっ…」
手をぶるぶるさせて睨んでくる。また怒鳴るのかと身構えたが、元就はぎっと視線を紙袋のほうへ向けた。
そして勢い良く手を突っ込み片っ端から包みを破り箱を開ける。
「このようなもの! 我が全部食してくれるわー――っ!!!」


がつがつと元就はチョコレートを貪り始めた。
まあ、最初から元就にやるつもりいたで食べるのは構わないのだが。
勢い良く食べている元就を呆然と見つめた。




(H20.2.19〜H20.3.10)

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