小説
Mの悲劇
夕飯を食べた後の過ごし方は様々。
一緒にくつろいでいたり次の日の宿題をしていたり早々に家に引き上げたり。その日の様子によって寝るまでの時間を過ごす。
夜が更ければ、休みの日はともかく学校のある日はちゃんとそれぞれの部屋に帰って眠っている。


その日は元就は分厚い本を読み、俺は借りたビデオを見ていた。
政宗から借りたアクション系の映画はなかなか面白くついつい見入ってしまった。スタッフロールが流れ始めて息をついていると、後ろに体重がかかってきた。
首だけ振り向くと、静かに本を読んでいた元就がもたれかかってきていた。顔を覗き込めばすでに眠りの世界に入りつつあるようだ。
「おーい、眠るんなら部屋で寝ろよ」
とりあえず声をかけてみる。
すると元就は何事かをむにゃむにゃと言ったが呂律が回ってなくてなんて言ったのかわからない。
「起きれるか?」
元就の頭が落ちないよう手で支えてそっと身体を動かし倒れこみそうになる身体を正面から抱きとめる。
「元就、おーい」
軽く揺さぶるがそうとう眠気が強いらしく何度か瞬きするだけで一向に意識が戻ってくる気配がない。
無理やり起こすのも可愛そうに思え、仕方ないと脱力しきっている身体を抱き起こした。


ベッドの上に意識のない身体を横たえ、少しでも寝苦しくないようにとブラウスのボタンを上から三つほど外す。
上から毛布を被せ、栗色の髪を数回撫でて額に口付ける。
「お休み」
元就は熟睡しているらしく何の反応も示さない。そうとう疲れていたのか。


テレビを消して部屋の電気を薄暗くしてから風呂場に行きシャワーを浴びる。
夏場は下半身だけしか着ないが、冬場になればさすがに寒く上下を着込む。髪をがしがし拭いてタオルケットを取り出す。
ソファの上に寝転んでタオルケットに包まる。ちょっと寒いが我慢できないほどじゃない。そう思って眠りに付こうと思った時。
「ちか……」
小さな声が聞こえた。
ベッドを見ると、眠そうに目を擦りながら元就がこちらを見ていた。
「おう、お休み」
よく眠れよ、と手を振るが元就はもぞもぞと起き上がった。
「なにをしておる?」
「ん?」
「そこで…」
何をって、眠ろうと…。
思ったことが伝わったのか、元就が眉を寄せた。
「我は、帰る。ここで寝ろ」
言いながら立ち上がろうとしたが、まだ眠いらしくふらりとゆれた。慌てて起き上がりその身体を支える。
「おいおい無理すんな。ここで寝てろって」
「でも、ちかが」
「俺は大丈夫だから、な」
小さく抵抗する元就を再びベッドに押し込める。すぐに元就は眠りに引き込まれるように目を閉じる。だがもう一度目を開き袖を掴む。
「ちかも、ここで」
眠いのか声が小さくなっている。
元就の申し出はありがたいが、健全な青少年にとってそれは生殺しに近い。
「俺はそこで寝るから」
やんわりと断りを入れるが元就も引かない。
今にも眠りそうになってるくせにぎりぎりで意識を保ち袖をひっぱる。
「ちかも…」
「いや、だから」
「ちか…」
そうとう眠いらしい。ぐずり始めてしまった。
「元就ぃ〜」
我ながら情けない声を出してると思う。こんな風におねだりされて、別のもんが起き上がりそうだ。
「ちか、いっしょに」
凶悪だ。誰がその顔に逆らえるというんだ。
「ちか…」
「わ、わかった」
がっくりと俺は敗北宣言をした。





元就の体温でぬくもった布団に潜り込む。
ようやく布団に入った俺に安心したらしく、元就はすぐにすやすやと眠りに付いた。
この隙に、と一瞬思いかけたが元就の手はしっかりと寝間着の袖を握ったままで。逃げることも出来ず、ならばせめて早く眠ろうと目を閉じる。


なかなか来ない眠気を呼び込もうと必死になっていると隣の元就がもぞもぞ動き始めた。
温もりを求めるように擦り寄ってきて胸元に顔を寄せてくうくうと眠る。
待ってくれ。
そんな可愛らしいことを。更には腕の辺りに柔らかい感触が…。
ちょっと待ってくれ!
掴みかけていた眠気なんてあっさりと退散してしまった。


勘弁してくれ…!
心からの悲鳴は、しかし誰にも届かなかった。



END




そして元親は生殺しの夜を過ごしましたとさ。


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あきゅろす。
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