小説 《3日目》 沖田目線 「さんごってなにアルか?」 俺が護衛を任されてからはや3日目。 さくらが行きたいと決めたメモに書いてある店ももう最後の方になってきていて順調に巡っている最中にチャイナが聞いてくる。 「あん?」 「昨日オマエさくらちゃんの事《さんごのきみ》って言ってたダロ?」 あー、あれか。 「詳しくは知らねぇ。なんか言われてたから言ってみただけでィ」 正直にそう返すとふーん、と言いつつ さくらに何でアル?と聞き出したチャイナ。 「実は父が付けたかった名前が珊瑚みたいなの。でも母がこの江戸の美しい桜が忘れられなくて、どうしても『さくら』って名前が良いと言って譲らなかったらしくて名前はさくらになったんだけど、 父が珊瑚、珊瑚って呼ぶから父の部下は皆『珊瑚の君』って呼ぶようになってしまって…」 名前が2つあるみたいで可笑しいでしょう?と笑うさくら。 「珊瑚って海にある植物みたいなやつダロ?ゴツゴツしてるし可愛くないアル。さくらの方が似合うアル」 「色気のねぇテメェには縁のない話だろうが珊瑚ってのは宝石にもなんだよ。モノによってはすげぇ価値があるらしいぜ」 ここ3日護衛してきたが、 このお嬢サマは美人で気立てが良いというのが印象だし恐らく父親も自慢の娘と紹介しているのだろう。 いつも微笑んでいるがべたべたとくっついてきたり、甘えた声で俺に媚を売ってくるような下品な事もないから 『いいか、絶対雌豚調教すんなよ!ンなことしたらマジで近藤さんヤベェからな!!』と鬱陶しい位土方の野郎に言われたので もしべたべたされてもいつものように 払い退けて足で踏み付ける事もできなかっただろうし正直ウザくなくて助かっている。 色んな店を回ってはいるが 行列を嫌がり権力で押しのけようともせず、むしろ普段こんな経験はないからと嬉々として並ぼうとしてるし 行列に並んでる後ろでどこの姫だ、お嬢様だと喧しい女共にも、 店に入った後も明らかに身分の高い客だと従業員に言われたのかオーナーやら店主やらが飛んできてこの料理の効能だの産地だの拘りとやらを聞いてもいないのにベラベラ喋ってくるのにも 自分から正体を明かす事はしてないが 愛想よく対応している。 チャイナに馬鹿みたいに食わせて会社の経費で落とす所は世間知らずな感じをしないでもないが 親から言われてるか、金持ちなら当たり前の神経なのかもしれない。 チャイナの口に次から次へと料理が消えていくのを楽しそうに見てるし なんていうかロー◯の休日江戸版みたいなモンでお姫様にとっては庶民の生活が逆に新鮮なのだろう。 「へーあんなんが宝石にもなるアルか!凄いアル!きっとさくらちゃんのパピーはさくらちゃんが宝物アルな」 俺がそんな事をつらつら考えててる間に宝石を想像したのか ごっさ綺麗なんだろうな、と一丁前に目を輝かせるチャイナ。 中身がコレでもそういや年頃の娘だったな。念のためもう一回言うが普段がアレだが。 とはいえ、会えば五分もせずに刀と傘がぶつかり合う俺とチャイナが予定外の訪問者の依頼により物を壊さず奇跡的に3日も一緒に居るのだから普段見えない部分が見えてきているのも事実。 飯か酢昆布ばっかり食ってんのかと思っていたが甘い物も幸せそうに食ってるし 簪や紅や俺には違いがよく分からねぇ化粧品についてさくらと二人で盛り上がっている。 毒舌とすぐ手が出る事を除いたら 意外に考えはその辺の娘と変わらないもんなんだなというのが正直な感想だったが、 何故か口に出ることはなかった。 「宝石屋さんに行けば見れるアルか?」 「興味ねーし、行きたくね…「多分あると思うわ。沖田さんご存知かしら?」…ここからならそこの角曲がってすぐでさァ」 正直気が向かない事この上ないが、連れてけ!と駄々こねるガキとガキに甘いお嬢サマに渋々もうすぐ夕方だが、 恐らくまだやっているだろう店を目指して歩いた。 *** 「とっても素敵アル!」 普段立ち寄ることのないやたらキラキラした店内で同じ初めてなのかチャイナが豪華なシャンデリアやガラスケースに並べられた色とりどりの宝石にデケェ蒼い瞳を輝かせる。 店に入るなりカウンターに一人駆け込むように向かったチャイナに恐らく珊瑚はどれかと尋ねられて対応している店員とのやり取りを遠目で見ていると いらっしゃいませ。と他の女性店員が寄ってきてチャイナに置き去りにされた俺とさくらを見て婚約指輪ですか?それとも結婚指輪ですか?とにこやかに聞いてくる。 …だから来たくなかったんだ、俺は! 「美男美女でお似合いですわ。黒髪に蜂蜜色の金色に近い髪の色なんて御伽話のお姫様と王子様そのものですもの〜〜!!」 「いや、」 「もしかしてまだプロポーズされてないとかですか?もう彼氏さんたら彼女さんこんなに美人だから早くしないと他の方に取られちゃいますよ!」 さくらと二人して誤解を解こうと口を挟もうにも興奮して全然聞く耳を持たない店員にイラっとするがいつも通り顔に出ていない俺が、照れてぶっきらぼうになる男性と勘違いしているのかますますヒートアップしてくる女を黙らせるべく口を開こうとすると。 「そこのくそドSにさくらちゃんは勿体無いネ。豚に珍獣アル」 宝石が見終わったのかチャイナがこちらを見ながら心底嫌そうな顔で言いやがる。 「それを言うなら豚に真珠でィ。 豚に珍獣なら豚が良い方になるだろ、バーカ。あと珍獣はテメェだクソチャイナ。飯食うだけじゃなくてちったァ働いて世間に貢献しやがれ」 「普段サボりまくって税金の無駄遣いの代名詞のオマエに言われる筋合いねーヨ!」 「この3日さくらさんの護衛という立派な仕事してんだろうが。頭だけじゃなくて目も悪いのかテメェは。頭ん中今日食った飯しか入ってないのかィ?」 「キィィィ!!ごっさムカつく!死ねヨ」 「テメェが死ね」 突然始まった俺とチャイナの険悪な会話にオロオロするカウンターの店員に微笑みを崩さないさくら。 大企業の娘は肝も座っているのか最早慣れてきたのか。 「あ、あの申し訳ありませんでした。私勘違いしてまして……そちらの方が彼女さんだっんですか??」 「「いや、それだけはない」」 この店員は喧しいだけじゃなく耳も悪いのかよ。 忌々しいがチャイナと俺がハモった時入り口のドアが開いた。 *** 長くなったので一旦切ります。 2015.4.6 [*前へ][次へ#] |