小説 《1日目》沖田目線 俺の意見も聞かずにどんどん話は進んで警護役に任命された。 しかも女中頭にじろりと値踏みされるように見られ、 お強いのですか?の問いに 俺が答える前に近藤さんが総悟なら強いので安心して下さい、なあ総悟? と聞かれ剣には自信はなくはないのでプライド的にいや、弱いですとも言えず 結果1人で警護することになってしまった。 「くれぐれも、宜しくお願いしますよ。さくら様にかすり傷でも付けたらこの町は終わりと思って下さいませ」 と、何度もいわれ宇宙規模の会社の社長ともなると召使いでもこんなに偉そうなのか。 と少しイラっとしたのだが土方の野郎が手を出すなよ、と視線だけで牽制してくるので 「心配しなくても大事なお嬢さんをキズモノにはしないでさァ」 出すのは口だけにしたにも関わらず目の前の女の顔がみるみる般若のようなっていくのをあえて無視すると、向こうも察したのか さくら様お気をつけて下さいませ。と言いムカつく女は横にいた唯一の男と召使いを数人残して宇宙船に乗り込んでいって帰っていった。 「なんでェあいつ帰るのかよ」 「総悟テメー!俺がやめろって睨んでたの分かってて喧嘩売るんじゃねぇよ!!」 「あれれ?睨んでました?全然気づかなかったなー、それは。ひょっとしてもう死んでるんじゃないですか、土方さん」 「死んでねーよ!!お前は今からコロス!」 「…それは困りますわ」 いままで黙ってたお嬢サマが制止すると舌打ちしながら刀をしまう土方に近藤さんがまぁまぁと宥めているのを横目にあれだけ嫌味たっぷりに護れと言われた相手を正面に見据える。 艶めいた黒髪がさらりと流れて 黒曜石のような瞳に俺の姿が映る。 腰までその髪よく伸ばしたもんだ。 「本当に1人で良いのでしょうか?もっと人数がいた方が御身をお守りできるかと思いますが」 改まって近藤さんが問いかけると ぱっと視線を逸らしてしまった目の前の人物の代わりに召使いの一人が 「さくら様はあまり男性と会う機会がありませんでしたので…」 と申し訳なさそうに答えてようやく納得する。 身分もありしかも一人娘、余程頑丈な箱で育った生粋のお嬢様ってところか。 ぞろぞろと男連中に囲まれるなんて顔面蒼白ものって事なのか そりゃゴリラみたいな見た目と三白眼のヤニくせぇ男と俺をみて一番マシと思ったのだろう。 「とりあえず屯所に向かいます。警護の話もそこでしましょう」 そう言って皆で一旦屯所に戻ることにした。 *** 「じゃあ、総悟後は頼んだぞ」 「絶対サボんじゃねぇぞ。江戸の町がかかってんだからな」 そう言い残すとさっさと客間を出て行った二人を見やり上座に座るお嬢サマの向かいに腰を下ろす。 「あの、先ほどは失礼を…」 「いや、いいでさァ。大事なお嬢様を田舎侍に任せたくないって仕事熱心な人って事にしときやす」 「ありがとうございます。」 ほっとした様子になった所で本題を切り出す。どうせ、高級な店巡りとかだろう。それならセキュリティはしっかりしてるだろうし適当に護衛をしてれば楽に終わるだろう。 「ところで、本当に俺一人でいいんです? 近づいて欲しくないなら地味目な奴を遠くに配置し…」 「いえ、失礼ながら事前にお調べさせていただきまして、貴方様の実力は拝見しております」 すっと白い手が差し出した一枚の写真には いつの間に撮ったのか、俺が刀を抜いている横顔と遠くに写っているのは俺に向かって飛びかかってきている喧嘩相手の桃色頭。 「この方をお呼びしていただけないですか?」 「コイツを?」 冗談じゃねぇと思ったがにっこり笑ってはい、と答えられたら従うしかないので ザキに呼びに行くように言う。 しばらく待っているとどすどすとうるせー音が近づいてきたと思ったら襖が勢い良く開けられる。 「サド野郎、この神楽様をむさ苦しい場所に呼び出すとはいい度胸じゃねーカ。とりあえず何かよこせコラ」 「あん?ゴリラ女にやるもんなんざねーよ。あ、餌のバナナか?バナナが欲しいのか?」 んだとコラァ!と人の襟元掴んできた怒り心頭のバカ女に経緯を説明しようかこのまま帰らせるか迷っていると。 「お、お姫様アル…」 やっともう一人に目が行ったらしくさっきの睨みはどこへ行ったのかでかい目をまんまるにしている。 「サドに無理矢理連れてこられたアルか?コイツは最低ね、王子は王子でもサド王子アル。一刻も早く逃げるヨロシ」 「テメェ人を極悪人のようにいうんじゃねぇよ。こちとらお姫さんからご指名もらったんでィ」 「だ、騙されちゃ駄目アル!毒牙にかかるまえに王国へ帰るアル!!」 人を押しのけお姫様とやらを守るように立ち塞がるチャイナ。 やっぱり、こいつバカだ。 「騙されてないですわ」 ふわりと笑ってバカ女に説明してくれるようなので待っていると。 「一緒にご飯でも食べませんこと?私行きたいお店があるんです。」 *** 「名前なんていうアル?なんて呼べばいいアルか?」 「さくら、と呼んでくれると嬉しいわ」 「じゃあさくらちゃんアルね!!私神楽アル」 「ふふ、神楽ちゃんよろしくね」 「蛇腹さん、もうすぐでさァ」 「沖田さんもさくらと呼んでいただけませんか?一応父に内緒で来てしまっているのであまり大事にはしたくないの。」 そよ姫といい身分の高いのはお忍びが好きなのか、どうやら苗字を出されたくないらしい。 そのわりにど派手な登場だった気もするが、 あれは良いのだろうか。 街中を歩くのに流石に天女みたいな格好では目立ちすぎるので着物に着替えてもらったが。 新選組の悪目立ちしている真っ黒の隊服に身を包んだ俺と 真っ赤なチャイナ服の黙ってれば美少女ともいえなくもないクソチャイナに 明らかに高級品分かる淡い桃色に金色の刺繍が施されている着物を着ている整った顔立ちのどうみても良いところのお嬢サマ。 この時点で俺はお忍びという言葉を放棄した。 …絶対目立たない方が無理だろコレ。 だから俺は悪くない。 思った通り色んな意味で街行く人に見られながら希望の店に向かえば、 ドレスコードはないもののそこそこの値段の中級クラスのレストランだった。 店に入るとレジ担当が俺の隊服を見て驚いた表情を浮かべたが、後ろにいたお嬢サマを見て何か悟ったのか こちらへどうぞと通されたのは客同士が見える目の前の席ではなく個室に案内された。 これなら入り口の扉だけに気を配れば良いし、 何よりじろじろと見られながら食事しなくて済むと安心する。 「ここからここまで全部もってくるヨロシ!」 「どんだけ食うんだ、テメェ」 静かな落ち着いた店にでかいソプラノが響く。メニューを開いて勢い良く上半分を指でなぞって言うチャイナに呆れてくる。 「え、本当に宜しいのですか?」 「まだまだ序の口ネ!夜兎の食欲舐めんじゃネーヨ」 信じられないといった顔で 店員が再度ききなおしてくるのにも平然と言う様子に 自分で金出さねーとなると思ってるんだろうが支払い別にしてやろーか。 ここの食事代はお嬢サマが払うのかこちらがもつのか気になったが まぁこちらもちなら土方宛に請求してもらうから俺の財布は痛まないのでどうでも良いとか思ってると先程まで堂々としていたチャイナがハッとした様子でみていたメニューをたてて顔を隠したので不思議に思っていると 横から少し見えた奴の頬がみるみる赤く染まっている。 メニューで隠れて本人には見えてないだろうがその視線の先には驚いた表情のチャイナ曰くお姫様。 どうやらチャイナにも俺だけなら何も恥じないだろうが(俺の財布の紙幣が全滅するのでコイツと食事なんてゴメンだが。)初対面の人に対して自分の尋常じゃない食欲を恥じるような女らしい気持ちを少しは持ち合わせていたらしい。 「遠慮するなんてテメェらしくもねぇ、いつもはもっと食うんだろ?ほら、頼みなせェ」 「う、うるさいアル!お前の奢りだからってわざと言ったんだヨ!さくらちゃん、違うアルよ!いつもはこんなんじゃ…!」 おーおー、焦ってやがる。 気づくのおせーよと思いつつ しどろもどろになりながらどのメニューを減らすか考えているであろうチャイナが面白くてあえて頼ませようとすると。 「そうよ、神楽ちゃん。それじゃ少ないでしょう?」 今度は俺が驚く番だった。 「え、」 「それでは少なすぎると驚いたわ、でも女の子だから食べないのかしらと思っていたの」 「でも、」 「お金は私が誘ったんだもの、会社の経費として落とすから全然遠慮することないのよ?」 にこにこと笑っていう言葉に嘘偽りはなさそうだ。実は同じくらい凄く食べるとかなのだろうか。 「実は、私と一緒に来たのも夜兎の人がいるの。篁というのだけれど、仲良くしてくれると嬉しいわ」 「たかむら?」 きっとあのオッドアイの男が夜兎なのだろう。 さらっと言ったが夜兎は戦闘民族だ。 女ばかりの船で防衛策も何もないのか、と思っていたがそういうことか。 「だから遠慮なんしないで、ね?」 「 め、女神様アル…」 姫から女神にランク上がってやがる。 メニューを机の上に置ききらきらとした表情で見つめるアホチャイナを無視して 「あ、とりあえずそのままでいいみたいなんで」と呆然としている店員に告げれば慌てて厨房にオーダーを通す為去っていった。 もうすぐ厨房が戦場になるだろう。 「あ、でもここでお腹一杯にならなくても大丈夫」 と、女神サマがごそごそといつの間にな袂から取り出したのは文庫本のようなもの。 「私あと6日江戸にいるの。神楽ちゃん良かったら一緒に回ってくれないかしら?」 そう言いつつ開けた本には 《今時の江戸女子に人気のスイーツ!》やら《デートにいくなら人気のグルメ!》などと店の紹介とともに書いてある所謂旅行のガイドブック。 それを見てきらきらとした表情が増すチャイナに嫌な予感がしてくる。 「い、行くアル!!!」 行きたいところ一杯あるの、とガイドブックの他にメモが出てくるのを見て嫌な予感が確信に変わった。 「当然アル!かぶき町の女王にお任せアル!!」 思っていた以上に面倒な事になりそうだ、 と次々にくる料理に早くもうんざりした気分になった。 [*前へ][次へ#] |