小説 声が枯れる位に【悲愛気味】 沖←神。すこし未来。 「俺、正直好きとか分かんないんでさァ」 隣でぼそりと呟いた沖田の表情はいつもの無表情ながら少しの戸惑いが見える。 少し年月が経ってお互いの身体も成長して (もう貧乳とか言わせねーぞザマーミロ) いるのに合えば変わらず喧嘩三昧。 遊具がぶっ壊れた公園でなぎ倒されたベンチを直して腰掛けて。 前までは喧嘩したらその場で捨て台詞はいて去っていったのに最近は終わった後に2人で何となく会話することが多くなった。 「お前サディスティック星のおーじだロ? 言いよる可哀想なオンナいっぱいいるじゃねーカ」 目の前の男は立場も顔立ちも良いので影でキャーキャー黄色い声が聞こえてくるのを知ってる。コイツは無視してるけど。 なんで気になるかと言うとわたしが非常に不愉快だが、彼女達の気持ちがわかるからだ。 そう、恋をしている。このサドやろーに。 自分でも驚いた最近気付いたこの感情は ときめきと後悔が混じり合ってこの胸に纏わりつく。 「あんな奴等キョーミねェよ」 はん、と吐き捨てるように口にした台詞に少し嬉しくなる。 きっと私なんかは大嫌いのトップにいるのだろうから、なんとも思われていないよりはマシだとおもってしまう。 私だって、コイツは大嫌いのトップを守り続けていた存在だったのに。 いつの間にか反対の感情のトップも掻っ攫っていった。 「そうか、あいつらもサドの犠牲にならずにすんで良かったアル」 「うるせー」 瓦礫が転がる公園に一つだけ直したベンチに座ってふたりで話してる内容は、なんて普通なんだろう。 「チャイナ」 「あん?」 「……俺、見合いするんでさァ、明日」 ばっと思いっきりサドやろーの顔を見ればまるで他人事のような表情。 「…そ、うアルか」 「どっかの偉いおじょーさまでこっちから断るのは不可って遠回しに近藤さんに言われたんでィ。どーしても嫌なら断るぞ、って言われたけど断ったら近藤さんの首が飛ぶってわざわざ向こうさんが直接連絡してきやがった」 だから、結婚までするかもしんねェ。 「好きがわからず結婚するアルか?」 「テメェと違ってお巡りさんは色々あるみたいだねェ。ま、俺は幸いあんまり表情でねぇし、何とかやってけるんじゃねーか、そのお嬢さんとも」 頭が真っ白に、なる。 何でこんなに冷静なんだろうコイツは。 あぁそうか。見たこともないオンナと結婚よりゴリの命が大切だからか。 「いつか、」 「チャイナ?」 「いつか、そのオンナの事好きになったら、私に言うヨロシ。そいつにお前がどんだけ嫌がっていたか伝えてやるヨ」 「なに言ってやがる」 話は終わりネ、と何かいいたげな沖田を置いて公園を後にする。 じわりと胸の奥から溢れた感情が目から溶け出して流れる。 「ふ、」 一番嫌われてるのが何もないよりマシなんてどうやら嘘だったようだ。 時は流れるものだと言うのを私はマミーを亡くしてるから痛いほど知っていたのに、 また失うのが怖くて立ち止まってしまっていたらしい。 「好き、ヨ」 君に好きと言えば良かった。 *** 珍しくぐらちゃんを すきじゃない沖田が書きたくて。 2015.3.8 [*前へ][次へ#] |