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小説
戻らない恋。「声が枯れる位に」の続編
「声が枯れる位に」の続き。
沖田and神楽ちゃんが他の人と結婚してるのがOKな方のみどうぞ。










神楽が宇宙に行った。と聞かされたのは、
沖田が見合いをして縁談が纏まった数ヶ月後の事。

顔も知らなかった女性との縁談が着々と進む中で
どれが良い?どの色が好き?
と、婚礼衣装を嬉々として選んでいる目の前の存在より桃色の髪が心の隅でちらついて、
真っ白なドレスに身を包んだ妻となる女性といる時間より真っ赤なチャイナ服と横にいる時間が大切だと気付いたのは、彼女が姿を消してから1年以上も後だった。

それでも沖田は妻となった女性と口喧嘩すら一切せず、穏やかな日々を過ごしていた。

「貴方より私を愛してくれる人を見つけたの」

妻からそんな言葉を聞くまでは。

***


無理矢理見合いさせられ言われるがままに結婚した結末は妻の浮気で幕を閉じた。

世間体が悪いからなのか
沖田からの暴力から娘を連れ出した、と町に
噂を流したのは向こうの親だろうか、それとも妻だった女自身の保身の為か。

散々人を巻き込んで最後は全部こちらの所為にしやがって、と近藤が怒り土方も無言で同意を示していて実際抗議もしてくれたらしいが、
散々人を斬ってきた自分に今更戸籍にバツがついたところで気にならない、と沖田はそんな二人に伝えた。

なんとも気まずい空気を切り裂いたのは土方な煙草の煙と一緒に吐き出した一言だった。


「そういや、チャイナ娘帰ってきてるらしいぞ」



***




沖田が久々に訪れたのは
まだ神楽がいた時によくサボりに使っていた公園だった。

あの時はよくここで桃色頭を見つけてはちょっかいをかけてそれで公園の遊具を何度も破壊しまくった。

最後に会った時に座ったベンチは塗料が剥がれかけていて無機質な青色から所々木が剥き出しになっている。

きし、と座れば木が歪んだ音がし沖田の体を受け止めた。
他のベンチはピカピカのプラスチック製のに変えられて、きっと一番需要のない一番奥のこのベンチだけが時代に取り残されたようだ。

あの時から人があまりこない木陰で少し冷えるこの場所を気に入っていたのはサボって少し寝転ぶ事が多かった自分と陽の光に弱い傘と一緒に現れる少女だけだった、と思い返し以前のように寝転んでみた。

あの時より成長していたのか少し窮屈に感じるのが時が流れた証拠だと思い、久々に取り出したアイマスクをして目を閉じる。

まるで過去に戻ったみたいだな、とぼんやりと思いながらしばらくそのままにしていると


「相変わらずその趣味悪いモンつけてるアルか」

過去と同じ台詞を呆れた様に言う
この場所を気に入っていたもう一人があらわれた。


***

「チャイナ…か…?」
「あん?お前、会わない間にボケが進行したのか?この神楽様を忘れるとかありえないアル」

アイマスクを外してまじまじと見つめてしまう。
前よりも少し伸びたが桃色の髪の毛も
相変わらずのアルアル口調も
そして気の強そうな眼差しも
何もかもが当時のままで一瞬夢を見ているのかと思ったが、口の悪さも変わってないのでどうやら現実だと認識する。

「おら、そこどけアル。そこは神楽様のモンだって決まってるんだヨ」
「あ?ここは俺の縄張りだっつってんだろ。
座りたかったら土下座しろィクソチャイナ」
「するわけないだろどSヤロー」

挨拶がわりに口喧嘩はするものの、お互いが武器を構えず立ち去ることもない。
しばらくして、無言で起き上がり半分開けて座った沖田の隣に神楽も無言で座る。
夕暮れに近づく空はゆらゆらと赤と青が混ざってまるで今の二人の瞳のようにゆっくりと彷徨う。

「なぁ、お前別れたんだってナ。」
「あぁ家帰ったら他の男とソファでイチャついてやがった」
「昼ドラ一直線や光景アルな。お前の事だからどうせ浮気相手も奥さんもドM調教でもしてズタボロにしたんだロ」
「いんや、何も」
「ハ?」

まじまじと沖田を神楽を見つめる。
ドSで時間をかけずに絶対服従させれると言われた男が何もしないなんて考えれない、と思っていると顔に出たのか沖田が呆れたように
「どうでも良かったんでィ」

と呟いた。

「でもお前結婚したんだろ?奥さんアルよ?」
「半強制的だったけどな、」
「…それでも、お前は旦那さんアル」

ぽつりと呟いたのは今度は神楽の方。

「オメェも結婚したんだろィ」
「…そうアル。」

神楽が宇宙に呼び出された理由は
沖田と同じく見合いの話が持ち上がったからだ。
江戸と違い静かな和室であとは若いお二人で、と段階すらなく
静かな雨の中で会えばイコール結婚と決められていた。

顔を見ないで結婚するのは私も一緒だったネ、と自嘲気味に笑う神楽の相手は少し年上で神威とは違い夜兎の癖に争いを好まぬ人だった。
神楽の髪の色と同じ桃色の傘を差して
「君が一緒に入ってくれたらやっと女みたいな色だと仲間に笑われなくて済む」と笑う優しい人だった。

夜兎の血を絶やさぬよう、という理由だけで
一緒になった二人だが神楽は自分の中に段々穏やかな感情が芽生えた事に驚きそして、
いつしか横にいる事に慣れていた。


父とともにエイリアンハンターの仕事中に自分を庇って彼が死んでしまうまで、自分の隣にいるのが当たり前ではないのだという事を忘れてしまう位に。


***


黙ってしまった神楽の表情を見た瞬間に
沖田の中にざわりと何かが動いた。
夕暮れに空から闇が降りてくるようにじわじわと脳から心臓に降りていく影。

過去からの亡霊のように纏わり付く影を振り切るようにゆるりと頭を降ればどうしたアルか?と問いかける声がする。

「いや、何でもねぇ」
「私がお前の結婚がダメになった話を聞いた位だもん、聞いたんだろ、私の…」
「聞いたぜ」

だろうネ、と少し笑う神楽は先程と同じで見た事もない顔をしている。
もうお互い別の人と一度は人生を歩いていた
のに、道は違えた筈なのに何故こんなにも身を焦がすような感情が湧き出るのか。


「懐しいアルな。このベンチ、いつも場所を取り合ってお前と喧嘩してたアル。最初からこうやって半分こしていれば、喧嘩なんかしなかったんだナ」
「何言ってんでェ、お前らしくもない」
「そうアルか…じゃあ変わってしまったんだな、私は」

寂しげに笑う神楽の奥に見たこともない男がちらつくのが、

「あの時はお前が好きだったアル」
「…そうかよ、」
「今は遠い所まで置いてきてしまった終わった恋の思い出ネ」

熱に浮かされるような恋だった。
好かれることがないならば、いっそ一番嫌われたいとすら思える程。
恋の終着地点で神楽が再び失ってしまったのは優しい陽だまりのような、与えられる愛だった。

「一人で完結してんじゃねぇや」
「サド?」

沖田の方を見ると、神楽が見たこともない表情をしていた。
無表情と言われている沖田にもからかいや怒りや幾らかの感情は見て取れた。
でも今の沖田は、何もない。
あるいは神楽の前では見せたことのない感情か。

「いつか、」
「?」
「お前言ってたよなァ?そのオンナの事好きになったら、言えって。」
「そ、うアル」
「じゃあ今言ってやらァ。俺はきっと結婚した女を好きになんて一度もなってなかった。あの女がソファでイチャついてるのも見たときも、他に愛してくれる男を見つけたと別れを切り出された時も、俺に暴力をふるわれて実家に逃げたとかいうくだらねぇ噂流されても何一つ思いもしなかった」

沖田の中の時はきっと
神楽が目の前から消えた時から
最低限の感情だけ残して心の奥底で燻っていたのだ。

「だがな、テメェが死んだ旦那について考えてる時や俺が見たこともない女の表情を浮かべてるのを見た今は腹が立って仕方ねぇ。チャイナ、お前があの時言いたかった台詞今、俺が言ってやらァ」

「や、めろヨ、やめて…」

かつてのように沖田を見つめる事が出来ずに神楽は手で顔を覆って俯いてしまう。

優しい陽だまりが崩れてしまう。
じんわりと心が暖まるように育ててきた愛が、嵐のような激しい感情に呑まれてしまう。

この男に宿るものは危険だ、
神楽の全てを焼き尽くしてしまう緋色の瞳。
まだ恋しか知らなかった頃は
あんなにも焦がれていた、のに。

「好きだ、気が狂いそうな位にな。」

恋とは奪われるものと気づいた時に
痛みが走ったのは


神楽の恋か
沖田の執着か。




































***


ミミ様リクエストの
声が枯れる位にの続編
「亡き夫を想い続ける神楽に嫉妬心が芽生える沖田」でした。

満足できる内容か不安ですがどうぞ受け取って下さいませ。

2015.3.20


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