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版権(小説)
1-1

「ヒーラー!?」
いきなり男に無理矢理引っ張られ近くのマンションの部屋に押し込まれた。

「……で、なんで僕たちのそっちの名前の方を知ってるわけ」
「い、いや、ただの偶然で……ほら桜の花がヒーラーヒーラーと落ちていて」
「まだ桜は咲いていませんけど」
「いい加減はけ!今ならまだ半殺しぐらいで許してやるからよ」

いきなりピンチです。
目の前にはあの三人。
昔やってたアニメ番組の3人組スリーライツ、もといいセーラースターライツが殺気立てて私を見ている。
夜天はエメラルドの瞳がギラギラと光っているし、大気は冷静を装っているけど今にも変身して攻撃してきそう。
極めつけの星野は、握りこぶしをボキボキ鳴らして変身せずに私を絞め殺しそうなんですが。

かろうじて椅子に座らせてもらってはいますが、お客じゃないです。
シンプルなこのお部屋、完全に取調室になっています。

夢だと思いますが……これは夢、ですよね。

「いい加減全部いわないと……!」
「言います!言いますから、今にも殴りそうなその拳引っ込めて」

一応引っ込めてくれたけど、なんかすごく残念そうな顔をしてる。
か、仮にもアイドルでしょ?!

「で、なんで僕らのことを知ってるわけ?」


私の名前は岩崎恵利。
この春大学4年になったばかりの就職活動真っ最中の悩める乙女です。
実は明日は第一志望の会社の最終面接。
緊張していたから早く寝ようと思ってベットに入ったんだけど、それがなんでこんな夢を見ているのか……。

私の友達が携帯のメールでなぜかこの3人の変身シーンの動画を送って来てそれを見てしまったから?
ちなみに友達は別の友達に送ろうとしていたみたいなんだけど私に間違って送ってしまったんだって。
それとも緊張しすぎて子ども返りしたい願望がこの夢を見せているのか。

なににせよ、現実味ありすぎ!怖いんだけど!

「黙ってないでとっととはけよ!」

「昔やってたアニメのキャラクターとそっくりだったのよ!」

こうなったら妬けよ!
明日の最終面接の練習だと思えば怖くない。
この3人は40代や50代のおっさんよおっさん!

「アニメのキャラクターとそっくりなんてうまい言い訳を考えましたね」

このでこっぱげ、なんとでもいえ!
私の脳内変換ではあんたは嫌われ者営業部長なんだから。

「本当だもの。全員の名前当ててあげる。」
私は目の前の銀髪、脳内変換若社長白髪を指差した。
「夜天光、セーラースターヒーラー」
次に使えないうるさい役員黒毛を指して
「星野光、セーラースターファイター」
最後に営業部長はげを指差した。
「そして、あなたが大気光、セーラースターメイカー。どう?完璧でしょ」

ふっ。私をなめてもらったら困るの。
大学に入ってなぜかセーラームーンが好きな子が一番仲良くなっちゃってその子の家にとまるたびにyoutubeを見させられた、これが私の涙涙の成果よ!

「ねえ、こいつなんかむかつくんだけど」
「これだけのことをこんな誇らしげに言われてもな……」
「ますます怪しいですね」

ちょっとちょっと!勘弁して、私そんなにおかしいこと言ったかしら。
でも、このままじゃ夢の中で殺されそうなんだけど……。
私はずっと握っていた鞄をあさった。
夢の中なら私の思う通りに行くはずよ。
携帯電話さえあれば……

「何やってんだよ」
「あ、あった!3人とも、これが証拠よ!」

私は間違いメールを送った友人に心の底から感謝した。
流れてくる声と映像に3人は3様に驚いていた。考えてみればそれもそう。
セーラームーンって私が小学生のころ、今から10年以上前にやっていたアニメ番組だもの。
ちょうどドコモのPHSが普及したころの話だし、そもそも携帯電話ってものがこんなに小型化されていないし。
カラーでもないし動画再生だってできなかった時代だもんね。
それにその中で自分たちの変身シーンが再生されていたらいくら他の星の人とはいえびっくりするか。

「た、確かに私たちですね」
「動いてるんだけど」
「す、すげー!」

「これで分かった?私の世界のアニメ番組のキャラクターだったのよ、あなた達」

えっへん。これで私の勝ちね。


「私の?」
「世界って?」
「なんだよそりゃ」

私はこの後流星雨のごとく降ってくる質問の数々を次々返さなければいけなくなった。
どうにかこうにか頑張って大気と星野には納得してもらえた。
けど…一番警戒心の強い夜天には余計警戒させることばかりだったらしく、もういいと言ってソファーに寝転んでしまった。

「夜天のやつ自分で連れてきといて。とりあえず、他になんか持ち物は無いのかよ」
「そうですね、私たちの仕事柄こちらに長く居座ってもらうわけにもいきませんし」

「ちょっと待ってて」

私は鞄を開けて中を漁った。
漁ったと言っても小さな鞄の中身は携帯以外空っぽ。
ひっくり返してみるときらりと光る長方形の物が床にコンと落ちた。

「学生証?」

私はそれを手に取った。
プラスチックのそれは私の大学の学生証じゃなかった。
写真に写っているのは確かに私。だけど、少し幼い。
学校名を見ると私の出身とは全然違う高校の名前が明記されていた。

「お前嘘ついたの?」
星野が私のプラスチックの学生証を取り上げた。
「さっきも言ったじゃん、私はこの世界の人間じゃないの」
「でも、これ明らかにお前じゃん」
「私だって聞きたいわよ」
冗談じゃない、私は大学の単位も取り終わった花の、花の!女子大生よ。就職先も決めて有終の美を飾ろうとしているの。
「待ちなさい、二人とも。とりあえず今日は寝て、明日この住所に行ってみましょう。夜天も、それでいいですね。」
「……勝手にすれば」

私は空いているゲストルームに案内された。
セミダブルのベッド以外何も無かった。
全くホコリもないしベッドはいつも整えてあるのかふかふかに見えた。

「プリンセスがいつ来てもいいようにいつもこうしてるの?」
「あなた、どこまで私たちのことを知っているんですか」
怪訝そうに私を見た。
「さあ、私もあんまり覚えていないから。ただ、プリンセスを捜してたんだよなって今思いだしただけ」
そんな私の回答にため息をはいて、大気は答えた。
「いつ現れてくださるか分からないお方ですから。明日再会できるかもしれないでしょう」

では、また明日。といって大気は部屋の戸を閉めた。
このベッドで寝ればきっとこの夢も覚める。その期待を込めて目を閉じた。

「恵利、ねえ、恵利ってば!」
「もう何よ!気持ちよくねてたのに」
私は背中揺すられ起きるとホッベをぷくっと膨らませたあやがいた。
「もう、講義終わったよ」
周りを見渡すと席を立って教室を出て行く男の子たちの団体や電話をかけている女の子もいた。
「あれ、私、今日は最終面接の日で……」
「何寝ぼけたこと言ってんの。昨日やっと内定貰えたって言って大喜びしてたじゃない」
「そ、そうだったっけ」

思い出せない。
ってかさっきまでの3人が印象強すぎて寝ぼけてんのかな。

なんにせよ、受かったんだ。私。

「さっきまでうんうん唸ってたけど、何の夢見てたの?」
あやが興味深げに私を見た。
「それがね……あんたが好きなスリーライツが出てくる夢」
「ふうん。……じゃあ、こんなのも出てきた?」
そういうとあやの体がまっぷたつに割れて中から黒い物体が姿を現した。
「あ、あや!?」
物体は銀色の目を大きく開け、私を飲み込もうと口を大きく開けた。
「あや、あや!!」

「あや!」
見慣れない白い天井が見える。
私は体を起こした。そこにはベッドしか無い。
起き上がって髪や身なりを整えて扉を開けると星野が立っていた。
「おはよ。まだねてんのかと思ったぜ」
「お、おはよ」
「大気がご飯作って待ってるから。早く来いよ」
そういってから私に背を向けて右手を上げた。
まだ、この夢が続いている。
ここまできたら悪夢としか思えない。
私がリビングまで行くとエプロンを取ろうとする大気がこっちを向いた。夜天はこっちを向かずに席について小さく「いただきます」というのが聞こえた。

ここからどう時間が流れたのか自分でも覚えていない。
口の中に広がるスクランブルエックの味と頭の中で戦いながら、これは夢なんだと何度も何度も言い聞かせていた。
3人と学生証に書いてある住所に向かうため外に出たけどまるで覚えていない。
私の目の前にはおんぼろアパートがぽつんと建っていた。
「ついたな」
「……ここのはずでしょ」
「とにかく入ってみましょうか」
私は3人に連れられるまま住所に明記された最後の数字が示す扉の前についた。
ベルも何もついてない。
銀色で鉄製の冷たいドアが私の前にある。
星野がノックをしたが、何も返事は無い。
「誰もいないんかな」
私は恐る恐るドアのノブに左手を乗せてゆっくり回した。ガチャッと音がした。

「開いてるみたいですね」
「……入ってみれば分かるんじゃない」

言われるがまま扉を開くとそこから無機質なコンクリートの冷たい風が私の頬へ向かって吹いた。
一歩ずつ中へ進む。
短い廊下の向こうには、机、丸テーブル、シングルベッドがあった。横には小さいキッチンがついている。
「こっちに一応トイレと風呂もあるぜ」
星野の声が反響して聞こえてきた。
丸テーブルの上には小さな鍵と紙が置いてある。
私はその紙を手に取った。「戸籍」と書いてあるその紙には私の名前しか書いていない。

「……で、どうするわけ」
振り返ると夜天が私の顔を見ていった。
「ま、一応この場所が分かったしな」
星野が机に手を乗せた。
「生活するスペースはありますけど……」
大気が左手であごを掴んで腕を組んだ。

言いたいことは分かっている。
夢が覚めるまでだもの。これは夢なの。だから大丈夫。
すぐに覚めるから。
「あ、ありがとね」
3人が私を見た。
「ここまで送ってくれて。すぐに戻れるだろうし、これ以上迷惑かけるわけに行かないわ」
「でも」
大気が心配そうに私を見た。
「大丈夫よ、戸籍もなんかちゃっかりあるみたいだし、アルバイトもできるし、なんとかやっていけるわ。これでもあなた達より年上なのよ。年下に迷惑かけるわけにいかないわ」

3人が帰宅して見慣れない部屋に一人きりになった。
フローリングの床は座るととても冷たい。
私は持っていた鞄から学生証を取り出した。
「東京都立麻布十番高等学校2-3」と書かれた横の私の顔。
そして私の名前。
頼みの携帯電話は圏外。
そして机の中にあった鏡には高校時代の写真にそっくりな幼い私の顔が写っていた。




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あきゅろす。
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