版権(小説) 閑話 物語が進んでいる。何となくそれを感じる。 つい最近もあの黒猫のルナが私たちの家に来たりしててんわやんわになっていた。 思い出そうにも思い出せない『セーラームーン』の物語にあくせくしながら、どうにか3人と私の問題の解決の糸口を見いだそうと始めた日記のページがもう半分ぐらいまできている。 とか言って、最初のころのページはかなり悩んでた時期から書いていたけど、今はペンがスムーズに動く。書きたいことがたくさんあって大変なぐらい。 「恵利、夕食できたって」 扉の向こうで夜天が私を呼んでいる。 「ありがとう。今行くね」 私はノートを机にしまって部屋を出た。 「な、何これ?」 「なにって、ナポリタンだよ」 どうだとばかり胸を張る星野。私は笑顔が引きつった。 そう、今日はOFF。私用のため出かけている大気とお昼から夕方にかけてバイトだった私に変わって、星野が今日の料理を作る!と、手を挙げたのはよかったんだけど……。 どんなに疲れていようが私がやるべきだったかもしれない。キッチンはフライパンの中に収まってるはずのソースが飛び散っているし、自称ナポリタンは完全に焦げている。 「だから、僕がやるって言ったのに」 「お前がやったらレンジでチンしておわりじゃねえかよ」 「だってめんどくさいし」 「俺様はな、ちゃんと丹誠込めてディナーにふさわしい料理を作ろうとこんなに努力したんだぜ」 た、確かに。でも、この有様じゃね。 星野は一生懸命夜天を説得している。その顔にはナポリタン。 「ふはは」 「何笑ってんだよ」 星野がこっちを向いた。 「だって顔にナポリタンがいっぱいついてるんだもん。男台無し」 「本当だ!」 夜天も気がついてお腹を抱えた。 「わ、笑うなよ!」 私は笑いながら席に着いてナポリタンを口に含んだ。 「見た目と違って中身は大丈夫みたいよ」 それを見た夜天もナポリタンを口に放り込んだ。 「まずますだね」 「ま、これが俺の実力ってやつだよ」 「じゃ、今度のときはもう少しスマートによろしく」 ナポリタンの後処理が終わって二人が疲れて眠ってしまった頃ようやく大気が帰ってきた。気持ち表情が晴れやかに見える。 「何かいいことあった?」 コーヒーを入れながら大気に聞いた。 「あなたのクラスの担任の天野川先生の家にお邪魔して。いろいろと教えてもらいました」 大気が椅子をひく音が聞こえる。私は二人分のコーヒーを持ってテーブルに向かった。 「なにを教えてもらったの」 大気の前にコーヒーを置いて私は自分の席の前にコーヒーを置いてから席に着く。 「星の話を」 大気がコーヒーを一口含んだ。 「不思議です。私たちにとって辛い話であるのにあの人が話すととても美しい神秘的な話に聞こえるんです」 いつもポーカーフェイスと言われている彼がこんなに生き生きと話すのを私は初めて見た気がする。 「そうなんだ」 「恵利さんも今度一緒に行きませんか?」 「私も?」 「ええ、ぜひ」 「今度大気が行くときに教えて。予定空けとく」 大気が無邪気に笑った。私も顔が緩んだのが分かった。 「どうしたんですか?」 「なんか大気、少年みたいなんだもの。前より笑顔が素敵になった」 「そう、ですか?」 「いつもは大人びて見えるのに、年相応に見える」 「それは私がふけ顔と言いたいんですか?」 「そんなこと言ってないよ。ただ、前より生き生きとしてるから嬉しかっただけ」 コーヒーを一口飲んだ。口の中にカフェインの苦みとミルクの甘みが残る。 「あなたも最近笑う顔が穏やかになりましたね」 「そうかな?」 「何か吹っ切れた感じに見えます」 「うん、吹っ切った」 もう一口飲んだ。 「みんなに感謝してる。ようやくやるべきことが分かったから」 「やるべきこと?」 「みんなのマネージャーとしてみんながプリンセスと再会して故郷に戻れるようにサポートすること」 「恵利さん」 「それに、あなた達のことが解決したら私だって戻れるかもしれないじゃない。物語によくあるパターンで」 私はコーヒーを一気に飲み干した。 「あなたらしい考えですね」 そういって笑う大気を見て席を立った。 「お休み」 「おやすみなさい」 こんな静かな私たちのつかの間の時間。 あとがき [*前へ][次へ#] [戻る] |