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ご指名は?1.5 47

「行ってらっしゃーーい!」

私と華夜さんは一緒に歩き出す。眼球が凝固して蝋燭の光以外見れない私の隣で華夜さんが隼人さんに笑顔で軽く手を振っていた。

「くく、足元には気をつけて。稀にすごい大怪我負うから」

イエーースッッッ!!!とはーい!みたいに両手をピンッと伸ばして元気よく返事をするくくさんに、お母さんみたいな事を忠告する菜太郎。

「Oぅぅッッッ、この暗さグェイトッッッ!!!」

くくさんが【謎な部分で鼻息を荒くして私たちを映してない】フリをしている間(謎な部分でハァハァしてるのはホント!)に、華夜さんと私は第1お化けポイントを最終確認。

「ふ..」

くくがほぼ何も見えない暗闇を長々とリポートしている様子を見て、菜太郎は小さく微笑む。

鈴を最後まで見送って第1演技悲鳴を聞いた後、隼人が菜太郎の方を向く。

「ホントにくくのこと好きなんだね〜!」

急に話しかけられても、菜太郎は隼人の方を見ることはしなかった。話しかけられた後、緩んだ口元と目元はスッと戻り、すぐにまた眉と目尻がつり上がる。

「関係ないだろ。」

菜太郎の冷たい態度に慣れていたつもりだったが、料理仲間だと思っていた隼人の手は、少し引っ込んだ。

が、隼人は若干下がった眉をグンッと上げ、表情を元通りにし、物腰柔らかに喋り始めた。


「Oぉぅぅうッッッ!!!」

くくさんは、第1お化けに驚いているのではなく、逆に興奮して私と華夜さんを撮り続ける。

「ぎゃわゅぁあああああああああああ゛あ゛あ゛」

1分くらい歩いた先に、髪の長くて白いワンピースで血の涙を流すイカニモな女の人が!!ってのは事前に知ってたけど本当に怖い演技してる暇はないッ!!!

「きゃっ!随分メイクがリアルね..」

私とは違い、可愛く怯えた後、シュッと姿を消すお化けを華夜さんは冷静に見ていた。

「わっ私が守ります!!」

と自分の方が怖がってるくせに、そう出しゃばりたくなる程の超絶気絶級美人なのだ。真っ暗で姿はあまり見えないけど、声で分かる。

でも、華夜さんはとても身長が高くて安心感がある!だからそう言える程の余裕が私にはまだ残っていた。私はなるべく固まってキョロキョロと目を動かす。

「どうしたの?」

と心配して華夜さんは歩みを止めてくれた。

「リタイア口どこかなって、、」

「冷や汗すごいわよ!!これで拭いて!」

あ、ホントだ、こんなに冷や汗が出てたとは..ハンカチに申し訳ない!!!と思いつつ、ピチャン、と私達はまた歩き出す。

クォおおおおおおおおおおおおああ........。

「ッぎゃぎゅがぁあああああああッッッッッッッ」

ぬるぅ..という後ろからの空気に反応し、私達は振り向いた。くくさんもその瞬間カメラに収めようとササッと私達の前に。

「...」

後ろを振り向くと、今度はショートカットの茶髪で、天井からぬぁが〜い首が生えてる女の人のお化け..。さっきからいたのになんで気づかないんだよ、という血走った眼。

「....................!!!!!鈴ちゃんっ!?」

絶句した後、気絶寸前の、最後の力を振り絞りスタート地点に戻ろうと駆け出してしまった。

「むむむむむむむむむむむむむむ無理」

その時私は華夜さんの腕をグイグイと引っ張っていたらしい。最悪な行為をした事にも気づかず、私は逃げ出すのに夢中で、泣いてんのか泣いてないのかももう分かんなくて、とにかく顔はもうぐちゃぐちゃ。

はは..こんな顔見られないんだったら、暗闇でもいいかもな..。

「鈴ちゃんっ!!」

「ばっ!?」

その時、華夜さんが止まってくれなきゃ、我を失い続けてただろう。怖い..!

「そっちはだめッッ!!」

暗闇で、顔はよく見えなかったけど、華夜さんがすごい形相してたのに気付いた。

「ご..ごめんなさ..」

膝はガクガク震えるし、バカみたいに歯がガチガチしてるし、私は震え続けることしか出来なかった。

わ..私..


だめだ..


皆さんに、協力してもらっている、そうなのに..

逃げ出して、怒らせて、..

今、どれだけ、幼稚で自己中心的な行動をしてしま

ったのだろう。

「ごめんなさい!わたし、今なんてことを..」

華夜さんは私をギュッと抱きしめてくれた。感覚は無かったけど、暖かい事だけは、ハッキリと分かった。

くくさんの姿はなかった。私は、まっすぐ走ってたつもりだったけど、スタート地点とは違うところに突っ走ってしまったらしい。

「あ..」

その時気付いた。


壁の、ここから立ち入り禁止と書かれた消えそうな文字に。


そして、立ち入り禁止の、鎖で繋がれた中に、私は強引に入ってしまったことに。

「ごめんなさ..」

錆びて凸凹に尖っている鎖が何本もあって、私はその鎖と鎖の狭い間から無意識に出たらしい。

ーーでも、

そのまま私が強引に引っ張って、華夜さんの手が、血だらけーー..。

華夜さんは私を安心させようと鎖の上からギュッと抱きしめてくれてるから、さらに、あちこちから血がーー..。

私、私..

「ほ、本当にごめんなさい..すぐ出ま..」

その瞬間、


〈 ははは 〉


!!!

咄嗟に華夜さんが私の頭を隠すようにギュッ..と抱きしめてくれたけど、何かが、もう遅かったようだ。

空気が、さっきとは全然違う。呑まれそうーー..

〈 久し振りだなぁ!〉

目の前も、頭の中も、真っ白になっていた。鎖の外で、華夜さんの、必死に私の名前を叫ぶ声がした。

〈 ーーさぁ、捕まえてしまって。 〉

その声が響いて聞こえる前に、私はフッと意識が途切れてしまった。

お化け屋敷で出るはずのお化け達が、一斉に私に襲いかかってきたのが、一瞬、見えてしまったーー。



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