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宝物(小説)
1
ドロリと太ももを伝う白濁。
体内に吐き出された他人の精液に最初こそ吐き気を覚えていたが、今では事務的にそれを掻きだす。
そのたびに漏れる吐息は甘やかで、扇情的だった。


ガサッ


川の水を浴びていると、近くの茂みが不自然に揺れて音をたてた。



「あ…」



静かに首をそちらへ向けると驚いた顔の燕青が言葉を失ったように佇んでいた。
セイの肢体に目をやり、その白さに驚き、凌辱の跡の残る箇所を見て、狼狽した。



「覗き見か?」



冷え冷えとしたセイの言葉に燕青ははっと顔を上げる、セイは相変わらず無表情だったがどことなく傷ついているように見えた。
燕青は慌てて首を振る。



「ちがっ!…俺…夜は嫌いで…」



夢を見るから眠れないのだと、燕青は小さく項垂れた。
夢を恐れて眠れない自分が酷く弱く思え、その弱さをセイに見せるのが嫌だった。
セイの前では頼れる男でありたい。セイの脆さを支えてやりたい。
庇護欲をそそる少年を前に、燕青は弱みを見せたくはなかった。



「…そうか」



セイがぽつりと頷き、二人の間には静寂が流れた。
沈黙を破ろうと燕青が口を開くが、そこから言葉が紡がれることはなかった、ただ無言で口を開閉させる。
大人だったらこんな時もっとうまく何か言えるのだろうか。
気付かぬうちに強く噛みしめた唇から細く血が滴っていた。



「寝ないのか?」



沈黙を破ったのはセイだった。



「え…」

「お前朝は早いんだろう?」



確かに朝食を作るため、燕青は他の連中よりは早く起きる。
だがなぜ、セイがそれを知っているのだろうか。
そんな疑問をくみ取ったのか、セイはふいっと視線を川に映して小さく呟いた。



「お前が起きる時間…水浴びしてるから…」

「…っ」




その言葉の意味に燕青は驚き、息をのむ。
それはつまり『このようなこと』が毎晩行われていたということだ。自分の知らないところで。




「お前も、災難だな」

「な…にが?」



冷え冷えとしたセイの言葉に、どういうことだと聞き返そうとした声はかすれて、小さかった。





「私のようなものを拾ってしまって。お前のように料理が出来る訳でもない。剣を持たせれば殺すだけ…男に体を凌辱される以外はすることがない」




生きることを諦めたようなセイの言葉。それでもセイの瞳から光は失われていなかった。
強くて、哀しい、美しい少年。
自嘲気味にゆがんだ唇から、次々と言葉が産み落とされていく。




「そして昼になれば何もないような顔をしてお前の隣へ戻り、惰眠をむさぼり、食事だけはする。やっかい以外のなんでもない。お前に得なんてない」



何の言葉も返せずにいた燕青に、何を思ったのかセイは妖艶に微笑みかけてきた。
その笑顔はそれまでのどの表情よりも痛々しい。



「お前も私とやってみるか?」

「…は?」



言っている意味が分からなくて。
否、分かりたくなくて間抜けな顔で聞き返す。
ばしゃばしゃと音を立てて水から上がった静蘭は、冷えた手を燕青の頬へのばしてきた。
瞳はしっかりと燕青を捕えたまま、セイは艶然と微笑んだ。



「だから、私を抱くかと聞いている」




月明かりに照らされる白く美しい肢体。
水滴がつたう様は妙にいやらしく、情事の跡が浮いた肌は色香だっていた。
こくりと遠征の喉が上下する。
額を伝った汗は生温かかった。




「おれ、は…」




欲情していないといったら嘘になる。
汚れた精液をかけられた姿でも、セイは何よりも綺麗に見えた。
だが、こんなのは違う。絶対違う。




「抱かない」

「こんな体、抱く気にもならない、か…」

「違う!」




昼に見るセイとの大きな違いを見た気がした。
昼に燕青と軽口をたたき合う彼は、決して自分を蔑んだりしない。
自分を安売りしたりしない。




「俺は、そんな風にお前を抱きたくない!」

「…」

「お前が、セイも望んでやらなきゃ意味ねーよ」




抱くことを前提に言ってしまっていることに燕青は気付かないまま、ただ必死に言葉を紡いだ。
くすりとセイの口角が上がった。




「その言い方だと、私が望めば抱けるのか?」

「え?」

「もう、何回凌辱されたか分からない、こんな身体でも、お前は――」




聞きたくなかった。
セイが自分を責めるような言葉を口にするのを、聞きたくなかった。

とっさに抱きしめた燕青の腕にセイの言葉が止まる。
水浴びをしていたからだけじゃない冷たさが、セイの体から燕青の体にしみわたった。



「もう、それ以上言うな…!」

「えんせ…」



2人の視線が絡み合って、焦点がぼやけ、唇の暑さとともに暗闇に覆われた。

そこから先は無我夢中だった。
勝手も知らない性行為。しかも同性との、となればなおさら。
それでも燕青はなんとなく、自分のすべきことが分かっている気がしていた。



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あきゅろす。
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