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宝物(小説)
2






燕青と体を重ねて数刻。
性交の際に感じる高揚感を満足に感じることなく、真っ黒なものが胸を渦巻いている。
燕青の呼びかけが遠く、自分もどこか遠かった。
それでも突き上げられれば体は正直に喜んだ。



「あんっ、や、」

「静蘭、分かるか?」



耳たぶにかじりつかれて、その刺激にまた体が跳ねる。
二度ほど吐きだした自身のものはそれでも硬度を失わずに、いやらしく濡れていた。
今までにないほどに感じて乱れているのに、紙を一枚はさんでの行為のような違和感があった。
見えない膜が燕青との直接の触れ合いを阻止しているような感覚。

”ソレ”が何なのか、本当はとっくに分かっているのかもしれなかった。

快感を追い求める頭によぎる一人の顔。
昼間に見た、全身を舐めまわすような視線の男。
そして、過去にあったその男との不本意な行為の数々。
胸の奥のずっと深くに埋めていたモノが、男との接触で顔を出していた。



「もっと…」

「、名前、呼べよ…っ」



もっと激しく。この膜を破るくらいに。
そんな思い出絞り出した懇願は、呻くような燕青の声で返された。



「俺は、誰だ?」



朦朧とした意識に、はっきりと届く声。
ぼやける視界に映る十字の傷痕。立ての傷をすっと指でなぞった。



「えん、せ……」



呼びたくても呼べなかった名前がようやく発せられた。
ピシリと膜に亀裂が入った気がする。

瞑祥の顔に重なるように浮かび上がるのは”小棍王”の顔。声。

『そろそろ正気に戻ろうぜ。俺が手伝ってやる』『お前の願い叶えてやるよ』『…お前をもらったから』『お前の名前、セイな』『――――。』

走馬灯のように”小棍王”の言葉が流れてくる。
すべてを壊す、爆薬のような強烈な言葉の数々。
あの頃に引き上げてくれたように、お前はまた引き上げてくれるのか…?


『一緒に行こう。お前が笑える場所に。』


あの時取れなかった手を、今なら取れるだろうか。




「燕青…」



目の前の燕青が一気に明瞭に映った。
満面の笑みで、静蘭のからだを力任せに抱きしめてくる。
小さく呟くおかえりという言葉は、距離が距離だけに静蘭にもしっかり届いている。




「燕青、やっぱりお前は…」




言いかけた言葉を途中で飲み込む。
感謝はしている。好意も感じている。
だがそれを燕青に伝えるのはどこどなく癪だと思った。




「ふはっ、お前らしい」




まるで静蘭の気持ちを読んだかのように、燕青は噴出した。
頬に残る涙の跡に唇を落とす燕青




「それでこそ静蘭だな」




そう言って、また笑った。
















済し崩しに続行された性交の終わりは静蘭の気絶で、目が覚めた静蘭は清められたわが身にほっと息を吐いた。
しかしこの男まだそんな余力があったのか。
相変わらずの体力馬鹿だと静蘭はふわりと笑った。



「これでも、感謝しているんだ」



大の字になり眠る燕青の頬、十字傷の部分にそっと指を這わす。
爆睡中の燕青は起きる気配すらない。



ありがとう



そう言うのは今更な気がして、静蘭は今度は燕青の頬に唇を落とした。
燕青の口元が少し緩んだのは、きっと見間違いだろう。

そう自分に言い聞かせて、静蘭は燕青の隣でもう一度瞼を閉じた。







END




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