ぷれ☆★いす
其の三
門は地響きを起こしながら大介の言う通り、ゆっくりと開いていった。
「大介……」
烈子はゴクンと、唾を飲み込み少し不安そうな様子で大介に目を合わせた。
「……ギシギシギシ、ガン」
完全に門が開ききり、黒い霧の様な何かで包まれた庭が現われる。普段見慣れているはずの「手入れの行き届いた一本松」に「石灯籠」、「鯉の泳ぐ池」等のある、日本庭園を絵に描いた様な庭が異質な物に大介には感じられた。
普段あるはずの華やかで奥ゆかしい雰囲気がそこには漂っておらず、代りに陰気で暗い絶望が庭を支配していた。
「大介くん、遅かったのね」
庭の奥には人影があり、鈴の鳴る様なその声はそこから発せられていた。
「美耶か。 悪い遅くなった」
大介もその人影から聞こえる様な声に答えた。
「いいの。 大介くんが着てくれたらそれだけで」
美耶と思われる声も穏やかにそう応じる。
「でも、その後ろにいる娘は誰? 凄い……眩しい。 光の……娘?……恐い……恐い!」
「ギュ、キュチュキュチュキュチュ」
「ぃや!」
異様な音を立ててその闇の巨大な手は大介がこっちに来ると認識した頃には既に烈子を掴み上げ、力の限りに握りつぶそうとしていた。
烈子もそのあまりの速さに成す術が無い。
「ぃや。 やめて……」
今まで聞いた事も無い弱々しい声が烈子の口から漏れる。
「美耶! 止めろ!」
「だって、この娘。 光の娘。 嫌。 恐い……恐い!」
「ギシギシ……」
烈子を鷲掴みする手にさらに力が込められる。
「たすけ……て、こんなの嫌……」
「美耶ぁ!止めろって言ってるだろぉ」
大介の怒号が飛んだと同時に時の長の力が解放される。
時空間の刃が烈子を握りつぶそうとする闇の手を叩き切った。
大きな力同士がぶつかりあい、激しい音を立てる。
「キャ!」
闇の手が切られたと同時に美耶であろう人影はその場から弾かれる様に後ろへ倒れ尻餅を付いていた。
闇の手は掻き消えて烈子の身体を手放した。自ずと烈子の身体は引力により下へと落とされた。
「烈子」
大介は落ちて来る烈子をスライディングキャッチする。
「大介ぇぇ」
烈子は大介の胸に思わず、しがみつきすすり泣いた。
「大丈夫か? 烈子?」
烈子の着ていたお姫様ドレスはいたる所が綻んでいた。
「うん、全身はズキズキするけど、何とか大丈夫」
それを聞いた大介は少し、ホッとしてまた美耶であろう人影と対峙した。
「な、何。 あの娘。 私の大介くんを盗らないで!」
再び、闇の手が現れ烈子に襲いかかる。が、先程よりスピードはスローでゆっくりと伸びていった。
大介は自分の前まで来た闇の手を冷静に時空間の剣で切り払った。
「なんで。 スピードがさっきよりずっと遅い」
襲われた烈子だから分かる先程の闇の手の恐ろしい程の速さ。人の脳反射よりも速かっただろうそれが、今はスローモーションの様に見える。
「ちょっと、あの闇の手の時間を遅くした。 疲れるけどな」
そう言ったのは大介だった。
大介は少しずつ時の力を使いこなせる様になってきていた。
闇の手は段々と数を増やしていったが、大介の時の力でスピードを押さえられ、ことごとく叩き切られていった。その度に美耶であろう人影は身体を弾かれる。
「美耶、もう止めろ。 学校に行くんじゃなかったのか」
そう大介が伝えると美耶であろう人影は立ち上がり、闇の手を伸ばすのを止めた。
「学校?」
「そうだ。 今日は学校に行くって行ってただろ。 こんな馬鹿な事はやめて、時間を元に戻すんだ」
「そうだ。 私は学校に行かなきゃ。 早く、早く行かなきゃ」
美耶であろう人影はそう呟くとゆっくりと闇に溶けていった。
「おい、美耶?! おい」
既に人影は消え去り、大介の声だけが虚しく響く。
「大介、美耶は学校に行ったみたいだな。 あの闇への溶け方、あれは闇の物の移動手段だ」
烈子は痛む身体を起こして、大介にそう助言した。
「学校か。 行くとは約束してたが、何か違う目的がある感じだったな」
既に誰の気配もしない黒い霧の様な何かに包まれた庭を見ながら二人は話していた。
「……ぃちゃ〜ん」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「大ちゃ〜ん」
「母さん」
それは手を振って走り寄る大介の母親、良子だった。
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