ぷれ☆★いす 其の四 「そうそう。 母さんが服貸してあげるから下に来てっていってたぞ」 「大介のお母さんが」 「そう」 何かを疑っているかの様に丸く大きな黒色の目を細めて烈子は大介を見やった。 「何だよ。 その目は。 母さんもおんなじ様な経験あるんだってさ。 俺は別に何も言っちゃいない」 口をタコの様にとんがらせて大介はブーブー言った。 「まあ、下に行けば分かる事か。 その口止めろよ。 タコみたいだぞ」 タコ口を戻さない大介をしっしと手で払い、烈子は一階へと降りていった。 同じ経験か。いったいどちらのだろう。あたしだとしたら光雄には…、光の長には前にもあたしの様な弟子がいたのか。あたしの様な光の長が亡くなった時に力を継ぐための弟子が……。でも、以前の弟子はどうしたのだろう。 自分の知らない光の長の過去。 まぁ、光の長もかなりの高齢、あたしの知らない過去があるのは当たり前の事で。そんな過去が気にならないと言えば嘘になるが、まぁあたしに言う必要がないから言わないのだろう。 あたしには光の長は厳しくも暖かみのある爺さん、とだけ分かっていればそれだけで良い。 烈子は光の長への認識を改め、一階のリビングへと歩いて行った。 「おはようございます」 初めて訪れる家なのだからか、いつになく緊張した面持ちで挨拶し、青色の暖簾を潜って烈子はリビングの中へ入る。 「あら、れっちゃん。 来てくれたのね」 烈子の緊張を研ぎほぐすかの様に良子は台所から顔を出し、優しい声色で烈子を迎えた。 「あ、何か服を貸してくれるとかで。 大介君から聞いたんですけど」 「そうそう。 だって、パジャマ姿で大ちゃんを守るのは嫌でしょ。 れっちゃんも女の娘だもん」 三日月型で微笑んだまま、良子は当たり前の事の様に言った。 ……この人、本当に光の弟子のシステムを知っている。弟子にしか知り得ない情報なのに。ただ、服とかは光の魔力でどうにでもなる事。そこら辺を知らない所を考えると、どうやら、前に経験したっていうのは大介側の経験の様だ。 その経験がどんな事だったのかという考えまでには到らず、まだ若い烈子はそれで全てを納得させた。 「でね、れっちゃんってちょっと人より小柄でしょ」 笑顔を崩さず、良子は烈子へと歩み寄る。 「あのそれって……」 「これがれっちゃんにぴったり合うのよね」 「えっ、いや」 良子の手に持たれたパジャマの代わりを目にして、烈子は戸惑いの声をあげる。 「パジャマよりは良いと思うんだけど」 困った顔をして良子は自分の用意した服を烈子に勧める。 「……分かりました」 烈子は執拗な良子の勧めに根負けした。 あたしのために用意してくれたんだ。受け取らないのは失礼に当たる。とはいえ、あれを着るのはかなり恥かしい。でも、わざわざ用意してくれたんだし、でも……。 「さ、れっちゃん」 まだ、ためらう気持ちを燻らせる烈子に良子はパジャマの代わりを渡した。 「有り難うございます」 「断られたらどうしようかと思っちゃった」 「あ、ハハ。 か、可愛いですよね」 頼まれると断れない烈子は嫌々ながらもパジャマの代わりを受け取った。 「ほんと、あのお弟子さんの時の事、思い出しちゃうわね」 良子は烈子を眺めたまま、感慨深げにそう呟いた。 「あのお弟子さんって」 「え、いえ何でも無いわよ。 と、そんな事よりも。 ほら、れっちゃん御飯用意したから食べていきなさい」 話しを誤魔化す様に御飯を勧める良子だったが、烈子は追求する様な事はしなかった。 光の長が話さない過去、良子も逸す話し、烈子は話したくない事を追求する娘ではなかった。 良子に促される様にテーブルの椅子へと烈子は腰掛けた。 「はい、食べてね」 目の前にはおいしそうに湯気をあげる味噌汁、御飯、目玉焼きにキャベツを主にしたサラダが用意された。 「じゃ、いただきます」 手を合わせて行儀良く烈子は食事の前の礼を取った。 その時、階段からドタバタと足音が聞こえて来た。 「ちょ、母さん。 俺もまだ食べてないから」 烈子のいただきますの声が聞こえたのか、大介が2階から降りて来たのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |