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Perfect Doll

 「何の為生きているか」

  …考えた事すら無い。


 生まれた意味さえ分からないのだから。


 生み出された「理由」。

 それはくだらない利己主義。


 だから。


 だから、生きていく意味なんて。


 無い。




 一日が終わり、そしてまた日が昇る。

 いつか死ぬ、その時まで。





「まるで野良犬だな」

 邑哉(ゆうや)は足元の“生き物”にそう吐き捨てた。

 人のカタチをした、生き物。

 それにエサをやるのが、彼の日課。

 “野良犬”は、睨むだけで反論しない。

 差し出されたパンに喰らい付いている。

「喋れんだろ、なんか言えよ」

「…“うるさい”」

 棒読みの暴言。

「餓え死にたいのか」

 今にも崩れそうな建物の中。

 立ち入りの制限されたこの廃屋は、“野良犬の小屋”に絶好の場所。

「…別に。アンタが見殺しにするなら、それで構わない」

「そーゆー言い方するか」

「放っておくだけの事だろ。直接手を下してきたアンタには何ともない筈だ」

「おま…!!」

 胸倉を掴めば、小さな体はいとも簡単に浮く。

「そんなに死にたいなら好きにしろ!」

 突き飛ばせば、簡単に倒れる。

「…古傷抉られて不快なんだろ」

 倒れたまま、淡々と言葉を発する。

「誰に対して怒ってんだか」

「…じゃあな」

 邑哉は聞く耳を持たず、その場を離れる。

「腹減っても家に押しかけるなよ」

「…誰が行くか」

 去って行く背に、呟く。

「お前ら人間に生かされるくらいなら、死んでやるよ」




 殺さなければ、殺された。



 平和ボケした社会の裏の、ビジネス。その道具として。

 幼少の頃から“生かされて”きた。

 数年前、その生活に自ら幕を引いて、今ようやく自由の身になれた。

 但し、犠牲は大きかったが。

「…古傷…か」

 以前の“相棒”を久しぶりに手に取る。

 暗い、闇い世界で、唯一頼れたモノ。

 銃。

「何であんなガキ助けたんだ、俺は…」

 重ねてしまったのだ。

 手を伸ばさずには居られなかった。

 以前の、自分に。





 雨の夜。

 濁った雨水が流れていた。

 鉄のような匂い。

 ――血の混じった、雨。



 肩を撃ち抜かれて、既に体温が薄くなっている子供がいた。

 手には、小さな身体に不釣り合いな銃を掴んで。

 片方しか無い目は、虚ろだった。


 それでも、生きていた。




 自分以外、誰も出入りする事の無いアパートに連れて帰り、一応治療らしき事をしてやると、意外に生き返ってしまった。

 飼う気も無かったので先日追い出したのだが。

「なんでまだ気にしてんだろうな、俺は…」

 居場所を知ってしまってから、何故か毎日のように見に行っている。




 そこから居なくなるまで。

 そう自分に言い聞かせて。



 そこから消えた時は、もう自分の手を離れた時――


 この世界から、消えた時。





 生きる目的なんか無いと言った。

 ただ、死ぬ理由も無いから生きている、と。


 存在してはいけないモノだから、本当は無くなった方がいいのかも知れない。


 名前すら無い子供はそう呟いていた――



「…また来たのか」

「腹減らして待ってたくせに」

「待ってない」

「じゃあ、なんでまだ生きてんだよ?」

「お前こそ、生きてるとも思ってねぇ奴に食い物持って来てるのか?」

「…一応、な」





 知っている。

 一人でも、自分の存在を認めてくれれば。


 それだけで、十分生きる理由になる、と――





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