短編集
其の3

 見上げた風景は、先程とは異なっていた。青い色彩は更に濃さを増し、煌びやかに光る鱗を動かしながら泳ぐ魚達の動きが見て取れた。これは、魚だけではない。底をゆっくりとした動作で動く生き物に、溶け出すマグニ鉱石の流れ。それらが良い感じに混じり合い、ひとつの絵画を見ているようだ。

 無意識にマグニ鉱石を手に取ると、目の前に持ってくる。すると力が入れていないというのに、鉱石が砕け散った。その途端、青という色が周囲に広がっていく。そして瞬く間の内に、水の中に溶け込んでいった。再び、マグニ鉱石を手に取る――だが同じように砕け、手には何も残らなかった。

(ああ、そうか)

 砕け散ったマグニ鉱石を見た瞬間、竜の涙と書かれた文献の意味を理解した。あの文献を書いた者は、これを見たのだろう。流れる色彩は、涙のように見える。まるで、泣いているようだ。

(なるほど、人間も――)

 自分が生み出した存在が成長していることに、喜びを感じる。しかし同時に、悲しみがないわけどもない。

 眠るように目を閉じたリゼルは、微かな水流に身を預ける。そして、これからのことを考えはじめた。

 ――ゆっくりしていこう。

 だが、途中で考えるのを止めてしまう。

 それは、ひと時の安らぎを満喫したいからだ。

 ただ青い色彩に抱かれ、悠久の平穏を夢見る。


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