短編集
其の4

 そして、誰も止められない。


◇◆◇◆◇◆


 その頃、精霊界から人間界に訪れたリゼルとレスタは、ファリスの姿を捜していた。発せられる力を辿ればすぐに見つけることができるが、今は全くその力を感じることができない。

「世話が焼ける」

 聖都ルシールの象徴である巨大な塔の頂上部分に腰を掛けるリゼルが、溜息混じりにそう呟く。

 遠くの地平線まで見渡せるほど、眺めが良い場所。吹き抜ける風も心地よく、下を歩く人間は豆粒のようだ。誰も、リゼルの姿には気付いていない。気配を消し、姿を見えないように空間を歪めていたからだ。

「いかがいたしましょう」

「此処で待っていてもファリスは私の力に気付き、逃げてしまうだろう。彼女は、妙に勘がいい」

「そうかもしれません。ここは一度、お戻りになった方が」

 その言葉リゼルは無言で頷くと、立ち上がり人の波に視線を落とす。精霊信仰の中心都市だけあって、人の数が多い。出店も開かれており、賑やかだ。ふとその時、人間として世界を旅した時のことを思い出す。

「親心、子知らずか……」

「それは?」

「人間であった時、覚えた言葉だ」

 親というのは、リゼルのこと。この世界を創ったのはリゼルであり、精霊や人間その他多くの生き物はリゼルにとって子供のようなもの。子供を心配する親心。いまだに誰もわかってもらえない。

「できの悪い子供ですが」

「そうだね……かなり、できの悪い子供だと思う。しかし、できが悪いほど可愛いものだよ」

「このことは、ファリスには言わない方がいいでしょう。図に乗ります。そして、今以上に暴れます」

「そうだね」

 流石、精霊界組織ナンバー2。各精霊の性格を完璧に熟知しているようだ。レスタの言うことは正しい。ファリスの性格を考えると、とても言えたものではない。今でも迷惑を掛けているというのに、更にその上に行ってしまったら――リゼルの怒りが、爆発してしまう。

「―――!?」

 その時、ファリスらしき力を感じ取る。しかし、一瞬にして消えてしまった。どうやらリゼルがいることに気付き、逃げたらしい。

「逃がしたか」

「一筋縄では、いかないようですね」

 この場で力を使いファリスを捕まえることも可能だが、リゼルが力を使うとなるとかなりの被害が予想される。無論、手加減はする。しかし、聖都ルシールの半分を破壊しかねない。

「仕方ない。帰るぞ」

「御意」

 リゼルは、一先ず精霊界に戻ることにする。だが、監視の目は万全。次にファリスが帰ってきた時が、彼女の最後だろう。そして、ファリスは知らない。笑顔を作るリゼルの心の中を。気付いているのはレスタのみ。

 無意識に発せられる、リゼルの冷たいオーラ。並みの精霊だったら、とっくに逃げ出している。まだ、表情は笑っている。これが変化した時、レスタをはじめ全ての生き物が彼に近付けなくなってしまう。

 ――今なら、圧力を耐えれば終わりだというのに。

 それを理解しているのかしていないのか。いや、ファリスは理解していないだろう。理解していないからこそ、人間界へ遊びに行く。そして、本当の地獄を味わうことになるとは――

 誰も同情はできない。


◇◆◇◆◇◆


「……ということになります」

 レナとセリスは見習いの巫女という女性に建物の内部を案内してもらいつつ、精霊について説明をしてもらっていた。周囲に広がるのは、石造りの重厚な建物。レブラーナにも同様の神殿は存在するが、どこか雰囲気が異なっていた。歴史と文化――それは、土地によって特徴が生まれる。

「精霊という生き物には、会えないのかしら?」

「残念ながら、彼等は滅多に人前には現しません。高位の神官になれば、それは可能かと思います」

 その言葉に、レナは機嫌を悪くしてしまう。どうやら精霊に会えないとわかった途端「詰まらない」という感情が芽生えてしまったのか。彼女の目的はただひとつ。精霊と勝負をしてみたい。そして、徹底的に戦う。無論、勝負の結果は勝利。彼女の辞書に「負け」という言葉は無い。


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あきゅろす。
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