短編集
其の2
酒盛りは、リゼルがいない場所でしないといけない。そうしなければ、再びあのようなことが起こってしまう。レスタが再びへこんでしまったら、精霊達に示しが付かない。そして、物語のはじまりは数時間前であった。森に暮らす精霊達が作った果実酒が、物語の重要なアイテムだ。「是非、飲んで下さい」と、持って来た。一度は断るも、酒豪の集まりに“断る”という言葉は無い。
結局はそれを受け取り、宴会を開始した。
そう、その後に起こる悲劇を知らずに――
◇◆◇◆◇◆
「これって、果実酒ですよね?」
酒瓶を手に取り、ストルが質問をした。通常果実酒は、水に割ることなく普通に飲むことができるが、彼等は水で割って美味しそうに飲んでいた。しかし、きついアルコールの香りが漂う。
「それが、どうしたの?」
「水を割って飲むことが、不思議に思って」
「このお酒は、度数がかなり高いのよ。水で割らずに飲んでしまったら、喉と胃が焼けるわ」
シルリアから聞かされた度数に、ストルの表情が変わってしまう。何と“アルコール度数85%”人間が飲んだら倒れるどころか、昇天してしまう。いくら水に割ったとしても、飲める度数ではない。それを普通の顔で飲んでいる、ザルと言われる彼等。ストルは、唖然となってしまう。
「ねえ、どうしてオレンジシュースなの」
その時、不満の声を上げたのはファリス。宴会と聞いて駆けつけたものの、飲んでいるのは果汁100%のオレンジシュース。仕方なくチビチビと飲むも、お酒を飲めないことに不満爆発だ。
「未成年者に、出す酒はない」
「未成年者じゃない!」
「未成年者だろ?」
「どこがよ」
「外見が」
「でも、年齢は高いわ」
その言葉に更に機嫌を悪くしたファリスは、酒瓶を奪い取ろうとストルに襲い掛かった。しかし、寸前で未遂に終わってしまう。それは、後頭部をレスタに殴られたからだ。“ボコ”という鈍い音と共に、ファリスは床に崩れ落ちてしまう。そして更に、レスタから厳しい言葉が浴びせられた。
「何百年生きていようが、外見が未成年の者に飲ませる酒はない。オレンジシュースで、我慢しろ」
「そういうことです。ファリス、わかったかしら?」
「わかりません」
痛む箇所を撫でつつ、珍しくシルリアの言葉に反論を述べていた。しかしファリスが、シルリアに勝てるわけがない。シルリアは困ったような表情を見せると、小首を傾げ溜息をつく。
「あら、いけない子ね」
次の瞬間、シルリアは満面の表情を浮かべる。その表情を見た途端、ファリスの顔から血の気が引く。何かが起こる前、必ずといっていいほどシルリアは穏やかな表情をする。つまり、この表情は危険信号だ。
「年長者の言うことは、聞くべきよ」
「は、はい……」
「そう、偉いわね」
ファリスは、素直に謝ることにした。毎回、シルリアに勝つことができない。これも年期の差によるものだと思われるが、誕生した時期は同じ。故に、水という属性が影響している。
水は普段は穏やかで静か、これといって誰かに迷惑を掛けるわけではない。しかし時として、全てを押し流してしまう。それは誰かの命を奪い、在るべき物の姿を変形させてしまうほどだ。
「シルリアには、勝てないらしいな」
「そ、そんなことはないもん。やってみないと、わからないじゃない。ちょっと、怖いけど」
「では、勝負をしてみるか? 我等は、加勢しないぞ。無論、他の者達も加勢はしないだろう」
「……遠慮しておきます」
「賢明な判断だ」
ファリスは、瞬時に「挑んではいけない」と、判断する。それに負ける勝負を受けるのは、馬鹿であった。それ以前に、ファリスは危険な勝負は挑まない。このように見えて、平和主義だ。
「あっ! 私、キッチンに行ってきます。食べ物の準備に手間が掛かっているようですから」
気まずい雰囲気にストルは立ち上がると、つまみを用意しにキッチンに向かうことにした。酒豪と同時に大食漢がいるので、酒と食べ物を追加しないとすぐになくなってしまう。大食漢とは、ファリスのこと。細い身体に似合わず、食べる量は半端ではない。シルリアやストルの二倍は食べる。
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