短編集
其の6
「我々を信頼なさっている。だからこそ、遊びに行かれる。それは、我等にとっては嬉しいことだ」
「それに、レスタが一番シッカリしているわ」
「我は、そのように思ってはいない」
「そうかしら? 貴方が一番マスターの心を理解しているわ。私達は、時々わからない時があるもの」
しかしレスタは、シルリアの言葉を否定していく。リゼルの心を理解したのは、最近のこと。それ以前は、全く理解できなかったという。何を考え、何を思っているのか。側にいて、歯痒かったという。
リゼルは、自身のことを語らない。故に、内面を知ることができない。そのことにレスタは腹立たしい感情が湧いたこともあったが、後で聞かされた内容に愕然としたという。そして、自身を恥じた。
「理解は、していない」
「でも、この中では一番理解しているわ。だからマスターは、レスタが側にいても何も言わないのよ。私達がベタベタ側にいたら、怒られるでしょうね。煩いのは、好まないと聞くわ」
「そうそう。特に、この人物よりは」
ケーキを頬張りつつ、ジェドは気絶しているファリスを指差す。このような性格の持ち主がリゼルの近くにいたら、煩くて堪らない。一日で追い出され、半径数メートル立ち入りが禁止になってしまう。
「それにリゼル様に一番に呼ばれたのは、レスタだったよ。それって、信頼されているってことだよ」
「ええ、確かそうね」
「覚えていない」
「うん。それだけ、当たり前ってことなんだよ」
過去を思い出すと、レスタを呼ぶことが多かった。闇の属性は、常に一定の感情を見せる。故に、側にいて気にならない。そのような理由によって選ばれたと思っていたが、それは違っていた。唯一、心の底を理解してくれる。そう判断したからだと、後々聞かされた。他の精霊を信じていないわけではないが、ファリスのような性格の持ち主を見ていると疑ってしまう。
「で、一番信頼されているのがレスタ。それで、一番信頼されていないのがファリス。そんな感じかな?」
「その見解にひとつ加えるとしたら、マスターに迷惑を掛けていない回数といえるでしょうね。レスタがマスターに迷惑を掛けているところは、見たことはないわ。もしそのようなことがあったら、精霊界がおかしくなってしまうもの。それに一番悪いのは、ファリスよ」
「結論! リゼル様は、怒らせると怖い。それと、人間界に遊びに行くのが好き。後は、レスタが心配性」
「我は、関係ないだろう。ところでこのハーブティーは、誰が手に入れた? この香り、どこかで……」
「それ、僕が持ってきました」
元気よく手を上げ主張するのはジェド。何でもキッチンに置いてあった瓶を、そのまま持ってきたという。ラベルが貼られていなかったので持ち主はわからなかったが、大丈夫だと適当に判断したらしい。
「こ、これは……」
「どうしたの?」
「まさか!」
レスタは徐に立ち上がると、ジェドが持ってきた瓶を手に取る。念入りに瓶の周囲を確認し、中に入っている茶葉を見詰める。次の瞬間、何か不都合な点を発見したらしく身体が震えた。
「予想が正しければ、これは主がブレンドされた物だ」
レスタの証言に、裏庭に他の精霊達の悲鳴がこだまする。一方、何も知らずに持ってきてしまったジェドは、頭から魂が抜けていた。そして何度も「怒られる」と呟く姿は、見ていて切なすぎる。
「わーい! ジェドもお仲間」
それに合わせて復活を遂げていたファリスが、小躍りしながらジェドをいびっていく。いつもなら間髪をいれずに反論するジェドだったが、相当ショックが大きいらしく頷くしかできない。
「このようなことで、怒ることはないだろう」
「でも、趣味ですよね」
「うむ、確かに」
「やっぱり、怒られる」
ジェドは、頭を抱え絶叫した。こうなると、本当に初めての説教体験をすることになってしまう。その横で踊るのは、ファリス。余程、ジェドが怒られるのが面白くて仕方がないようだ。
「人の不幸を喜ぶな」
「だって、面白いじゃない」
「大丈夫よ。マスターはお優しい」
そのように言われたところで、慰めになっていない。根が真面目なジェドにとって、これは最大の失敗。勝手に飲んでしまったことに対しての詫びということで精霊界から立ち去るべきではないかと、悩み苦しんでしまう。この点は、ファリスも少しは見習うべきであろう。
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