短編集
其の5

「レスタは、飲んだことはあるのかしら」

「感想を聞きたいということで、飲ませてもらっている」

「私も、お邪魔しましょうかな」

「そうするといい。かなり美味い」

 リゼルは人間界に茶葉を買いに行く度に、店の主人とブレンド方法について語っていることは、流石のレスタも知らない。主人と共に店の奥に篭り、日々の研究をお互いに発表する。

 その中から店で売り出すブレンド方法を決め、店頭に並べるという。リゼルの茶に対しての拘りは、人間界では有名らしい。中には、リゼルが気に入ったとされる茶葉に高値がつくこともある。また独自のブレンド方法にも定評があり、貴族の間でも飲まれているとか。

 大量の茶葉を購入し、意気揚々と帰ってくるだろう。そんな数多くの茶葉が置かれている部屋が館の中に存在する。別に鍵などは掛けられてはいないが、誰一人として入るものはいない。皆、気配でわかっているのだ。この部屋に置かれている物に、触ってはいけないと――

 運悪く触れてしまい、それを落としてしまったら……想像は、簡単に付く。故に誰の所有物かわからなくても、触れようとする愚か者は存在しない。いや、鈍感な精霊は別として。

「多趣味なんだ」

「我等より長く生きておられるのだから、趣味も多いのだろう。どもれも、素晴らしい趣味ばかりだ」

「でも、爺ちゃんの趣味だね」

「ほう! そう言うか」

 その瞬間、ファリス以外の精霊の視線が集まった。睨み付けるような視線もあれば「馬鹿だ」という哀れんだ視線もあった。口は災いの門というべきか。しかし、ファリスはこの言葉を知らない。

「趣味が無い、お前よりはいい」

「貴女も趣味を作りなさいと、あれほど言っているでしょ? どうして、趣味を作らないの」

「いらないわよ。それに、作りたくもないわ。それに、リゼル様のようなお爺ちゃんのような趣味は……」

「まだ言うか!」

 次の瞬間、レスタの手刀が降ってきた。その一撃に、ファリスは完全にノックアウトされてしまう。完璧に意識が飛んでしまい、そのままテーブルに倒れ込んだ。しかし、誰一人として看病しようとは思わない。これは、自業自得。救いの手を差し伸べるには、値しない。

「話が、横に逸れてしまったわ」

「元の話は、何だっけ?」

「リゼル様についてだ」

「そうだった!」

 ジェドは気絶しているファリスを一瞥すると、咳払いをした。そして、話を正しい方向へ戻していくことにした。しかし途中で、再びおかしな方向へと突き進むことになってしまった。




「一番の趣味らしい趣味といえば、人間界を放浪だろう。あれは、かなり楽しんでおられる」

「レスタの悩みの種よね」

 シルリアの鋭い突っ込みに、レスタは渋い表情を浮かべる。今このようにしている間も、心配で仕方ない。早い帰宅だけを考え、もし何かがあったら直ぐに飛んでいける体勢を取る。

「ねえ、反乱って考えたことないの?」

 リゼルが人間界に行っている時は、レスタが精霊界の管理や監視を行う。いや、特定のモノに執着できないリゼルよりは影響力は大きい。よって、反乱を起こそうと思えば起こせる。

「何故、しないといけない」

「えーっと、何となく」

「そのようなことで、起こすものではない」

「レスタならできそうだから」

 そのように言われても、レスタは反乱など起こす気はない。そもそも、起こす理由がない。精霊界の平和は保たれ、大勢の精霊は安心して暮らしている。その均衡を破るような反乱は、寧ろ起こした方に責任が行く。

「この安定した世界を壊したいというのなら、好きにやるがいい。ただし、その時は容赦しない」

「……遠慮しておきます」

「うむ。良い心がけだ」

 精霊界はリゼルとレスタの二人がいれば、安心であった。何かが起ころうとも、この二人で対処してしまう。

 人間界と違い、個々に指導者がいないというのが平穏な時間が過ごせる理由だろう。リゼルに仕えし六耀の精霊もある意味指導者的役割を担うが、独自の理論を持って動いている訳ではないので統率しやすい。人間の間にもリゼルのように絶対的な立場を有する存在がいるのなら、争いも起きない。


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あきゅろす。
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