短編集
其の1
平穏な毎日が過ぎていく精霊界。特に、これといってやることはない。結界の力によって人間が来ることができないので、安心して暮らすことができる。それにより個々の趣味を満喫し、有り余る時間を潰す。
そんな暇な一日。リゼルに仕える精霊達は、お茶会を開くことにした。「提案者は誰か?」と聞かれても、特に決まってはいない。流れ的にお茶会が開かれるようになり、黙々と準備を進めていく。
広い裏庭にテーブルが置かれ、飲み物とお菓子がセッティングされていく。干し果物のクッキーに、生クリームたっぷりのケーキ。それに、スコーンにバラジャム。どれも手作りだ。
カップに注がれるのはハーブティー。ほのかに香る甘みに、ファリス達年少組みは大喜び。一同が同じテーブルにつくのは珍しい。重大な事件が発生した時に集まったりするが、普段はそれぞれ独立して何かを行っている。
「準備も整いました。皆様、楽しみましょう」
シルリアの一言で、厳粛な雰囲気を放つお茶会が開始した。しかし、徐々におかしな方向に進んでいく。はじめは真面目な会話が続いていたが、いつの間にか話の議題が摩り替わる。
――リゼルについて。
誰が、このような話を開始したのか……普段考えたことのない内容に、話が盛り上がっていく。
そしてお茶会は、暴露大会へと変わっていった。
◇◆◇◆◇◆
「やっぱり、怒らせたら怖いということかな。これは皆もわかっていると思うけど、怖いものは怖いし」
ハーブティーを啜りつつ、呟いたのはジェド。今まで一回もリゼルを怒らせたことのないジェドであったが、怖いというイメージが強いらしい。それに滅多に怒らない人ほど、怒らせると怖いという。
「爽やかな笑みで……」
「怒られたね、つい最近」
「う、うん」
この中で、説教の回数が一番多いのはファリスであった。これは性格上の問題でもあったりするが、何十回も怒られて懲りないのは凄い。普通の性格の持ち主であったら、同じことは繰り返さない。しかし、ファリスは違う。立て続けに、二度三度。それに、学習能力が低い。
「何か言ってくれればいいけど、何も言ってくれない」
「無言の圧力。あれは厳しいね」
「それなら、私も……」
「……ご勘弁を」
シルリアの攻撃に、ファリスは平謝りするしかない。シルリアはリゼルほど恐ろしくはないが、説教に関しては精霊界一。一回の説教の時間は二時間を越え、着実に記録を伸ばしている。新記録を更新しつつあるシルリアが無言のプレッシャーによる説教タイムを開こうものなら、ファリスは泡を吹いて気絶をしてしまう。これにより、図太い神経のファリスの意外な弱点が判明した。
「でも、優しいよ」
「それは、ストルだから」
「私だから?」
「そう、妹を欲しがっていたし。同じ女として悲しい……」
「お前は、女として見えん」
レスタの言葉に、ファリスを抜かした全員が一斉に頷く。外見は少女であっても、中身が伴わない。故に「少年だ」と言われ続けて数百年。故に“少年”という認識は精霊界の隅々に広がった。
「やっぱり……」
「うむ、正解だな」
「いやー!」
その答えに、ファリスは頭を抱えて叫ぶ。質問の意図は「リゼルもそう思っているのか」という内容。流石に創造の対象の性別を間違えることは有り得ないが、ファリスのショックは大きい。
「ねえねえ、リゼル様って嫌いなモノってあるのかな?」
ジャムを塗ったスコーンを頬張りつつ、ストルが質問してきた。食べながらの質問であったので、口の周りはベトベト。見かねたシルリアが口元を拭いてあげる姿は、何とも微笑ましい。
「あるぞ。禁断の言葉に近いモノが」
「うっ! 一種のダブーってやつだね」
「そうだ。あれを主の前で口にしたら、地獄へ突き落とされる。絶対零度を体験したいのなら、お勧めしよう」
「……お断りします」
次の瞬間、全員が同じ言葉を発した。絶対零度――これは、好きで体験するものではない。リゼルの側近中の側近ともいえるレスタが怖がるのだから、相当なもの。過去に誤って口を滑らせた精霊が絶対零度を体験し、泣きながら逃げていったという逸話が残っている。
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