求むと拒む 6
ザァァ…………──────
雨が降る……………
傷が痛むのは雨のせい?
それとも、
前回の雨の日にやってきた、あの訪問者を連想したせい────?
どうせ雨の日の午前中は客が来ない。
店を開けなくてもいいだろう。
けれど……………
きっとあの男は来る…………
組から、男から、逃げたのだから会うべきではない。
しかし、伝えなければならないことがあるし、
会いたいと願ってしまう…………
これは未練だろうか────
カラン───
店のドアが開く音がした。
「………今日はブレンド1つ」
政宗は客の方を見ることなくコーヒーの準備をした。
「今日は驚かないんだ?」
「………何となくそんな気がしたから………」
「正解………天気予報見て、雨の日狙ったから」
「……何で………」
ダメだと思っていても男の話術に引っ掛かる。
「………雨の日の午前中はほぼ客足ゼロだから、お前とゆっくり話せると思ってな」
「ッ───………いつから……知って………」
「………やっと目を見たな………」
驚く政宗と対称的に、佐助は静かに笑った。
「ここに辿り着くまでに3年かかった………ここを突き止めたのは2年前だ………ここへ来たのは………こないだが初めてだけどね」
「…………」
「なかなか勇気が出なくてな………大将が撃たれたりしなかったら、俺は来ることがなかったかもな………」
佐助はカウンターに肘をついて、政宗から視線を逸らした。
コトン────
政宗はコーヒーをカウンターに置き、先日佐助が渡した封筒も横に並べた。
「これは返すよ…………」
「何で?………金は必要になるだろ」
「………いや…………」
政宗は目を閉じて、しっかり息を吸い込んだ。
ゆっくり瞳を開く時、
覚悟の言葉を口にする。
「俺は戻らない…………」
佐助は微動だにせず、目の前に置かれたコーヒーを見つめていた。
「…………俺を憎んでいるのか?」
「………違う………」
「撃たれて怖くなったからか?」
「…………違うと言えば嘘になるけど、そうじゃない」
「じゃあ…………俺を………もう何とも思ってないからなのか…………?」
「……………」
ザァァ…………──────
長い沈黙が続いた。
「………そう………だ………」
緊張で震えると思った声は、意外にも冷静なトーンだった。
「そうか……………」
佐助は肘をついたまま、手で顔を隠している。
政宗は佐助を見ないように窓の外を眺めた。
雨の止む気配はまだない…………
酷く泣きたい気分になったのは
雨のせい…………─────?
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