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小説(R指定なし)




高校の友人とお茶でもしようと馬場先通りを歩いていたら新伊に会った。
最近会っていなかった所に偶然会えた。
しかも今日は久しぶりに化粧をしてオシャレもしている。
私は嬉しくて、電話中な事にも気にせず友人を待たせて新伊に近づいて行った。

遠目でも目を惹くその長身。
今日は会社では見る事のないスーツ以外の姿。
グレーのピーコートにウォッシュドシルクの黒いパンツ。
ごつめのレザーバックルの黒いブーツが格好良い。
話口調からどうやらクライアントらしく、休日なのに仕事をしてるのだろうかと思うとおかしかった。
1人笑っていると、私に気付き、笑みを返しながら軽く会釈してきた。

通話が終わった新伊がこちらを向いたので、今日も仕事かと声をかけた。
「まさか。お客様との電話ですけど、これは私用ですよ。」
ちょっと困ったように笑い、内緒ですよと口元に人差し指を持っていく姿すら絵になる。
そこから数分、友人を待たせている事も忘れ話し込んでいたら、すぐ横のカフェから新伊を呼ぶ声がした。
「ちょっと〜、ゆぅ〜。いつまで待たせるのよぉ。」
甘ったるい声。
ゆうって由弥の事だろうか。
声を辿れば、綺麗な女性が居た。
美容院でセットしているのかと思う程、毛先で緩くカールしている髪をネイルの施された指で弄りながら不満気にこちらを見ている女性。
その仕草が、いかにも男性が好きそうで、女の私から見るとやり過ぎではないかと思うが、彼女がする分には可愛いと思った。
肌理の細かい透き通る肌にはピンクのチークと艶やかな口紅。
大きく、くりりとした瞳は黒目がちで、瞳をしばたたかせる度に、長い睫毛がパシパシと音を立てそうだ。
ツイードのグレーのコートは首回りの柔らかそうな黒いファーがゴージャスで、足下のブーツもよく磨かれ、一部の隙もなく着飾っている。

視線の先の女性を目にした後、新伊の隣りに居る自分が恥ずかしくなった。
今迄こんな事なかったのに。
スッピンで会社に出社しても、ここまで気にした事はなかった。
今日はオシャレもしている、化粧だってしてるのに。
平凡な30女が頑張った所で痛いだけだと言われた気分だった。

あぁ、彼女が新伊の噂の女性だ。
それは確信に近かった。
どう考えても新伊が今まで避けていた人種だと言うのに、もう1週間以上彼女と居るという事は本気なのだろうか。
その証拠に新伊は私の目の前で手を合わせると、謝罪の言葉を口にして彼女の元へと行ってしまった。

あぁ、見なければ良かった。

再び聞こえきた甘ったるい声に、やっぱり新伊もああいう若くて可愛い女性が好きだったのかと勝手に失望する。
それなのに、困ったように女性に笑いかける新伊の隣りが羨ましくて、ご機嫌取りをしている新伊を見ていたくなくて、友人たちの腕を引き、足早にその場を後にした。



「ねぇねぇ、文(ふみ)、今の人すっごく格好良かったね。誰。」
興味津々な友人の質問に覇気のない声で答えていく。
「会社の後輩。」
そう言うと、キャーと年甲斐もなく叫ぶ彼女たちに苦笑が漏れる。
「あんなイケメンが同じ職場に居るの?すっごく羨ましい!一緒に居た女の人もレベル相当高かったよね。彼女かな。美男美女って居るんだね。私初めて見ちゃった。」
まるで芸能人でも見たかのようにはしゃぐ友人。
「あそこまでカッコイイと目の保養だよね。でも文、気を付けなよ、惚れても不毛なんだから、いい加減彼氏作りなよ。うちらの中でまだ結婚してないの文だけだよ。」
彼女たちの言葉に胸が苦しい。
分かっている。社内では私は別に行き遅れでもなんでもないけれど、世の中的にはもう十分遅い方なのだ。
実家に帰れば両親や親戚すら二言目には結婚の話をされる。
分かっているのに、新伊が優しいから。
新伊が一緒に居てくれる間はこのままで良いと思っていた。
「あぁ〜。もしかしてもう手遅れ?駄目だからね。いい加減、現実見なよ。」
よしっ、旦那の知り合いを紹介してあげる。
そう言う友人の言葉を上の空で聞きながら、そろそろ潮時かもしれないと頷いていた。


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